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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1150835
審判番号 不服2002-13340  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-07-17 
確定日 2007-01-17 
事件の表示 平成 9年特許願第224963号「ホルモン受容体組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月28日出願公開、特開平10-108684〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯及び本願発明
本願は,昭和62年10月23日(パリ条約による優先権主張,1986年10月24日 米国,1987年10月20日 米国)に出願された特願昭62-507128号の一部を,平成9年8月21日に分割出願したものであって,その発明の要旨は,平成18年7月18日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲に必須構成要件項として記載された請求項1,5,8,9及び14に記載されたとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「【請求項1】 次の(a)?(d)のいずれかの蛋白質:
(a) 配列番号1に規定されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b) 配列番号1に規定されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失,置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり,かつ甲状腺ホルモン受容体に特有のホルモン結合特性および/または転写活性化特性を有する蛋白質;
(c) 配列番号2に規定されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(d) 配列番号2に規定されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失,置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり,かつ甲状腺ホルモン受容体に特有のホルモン結合特性および/または転写活性化特性を有する蛋白質;
をコードする核酸。」(以下,「本願発明1」という。)

第2 当審の示した拒絶理由について
これに対し,当審の拒絶理由の概要は,以下のとおりのものである。

「この出願は,米国出願922585号(優先日1986年10月24日)及び米国出願108471号(優先日1987年10月20日)(以下,「第2優先権出願」という。)を優先権主張の基礎としているが,本願の優先権の主張が認められるのは,第2優先権出願に基づくもののみであり,この出願に係る発明は,第2優先権出願前に頒布された刊行物であるNature, Dec 1986, Vol. 324, p.641-6(以下,「引用例1」という。),Nature, Dec 1986, Vol.324, p.635-40(以下,「引用例2」という。),或いは,Science, Sep 1987, Vol. 237, p.1610-4(以下,「引用例3」という。)に記載された発明であるか,又は,引用例1,2或いは3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により,特許を受けることができない。」

第3 優先権主張の効果について
1.優先権主張の基礎となる出願について
本願は,米国出願922585号(優先日1986年10月24日(以下,「第1優先日」という。))及び米国出願108471号(優先日1987年10月20日)を優先権主張の基礎としている。
第1優先権出願の出願書類(明細書,特許請求の範囲及び図面)(以下,「明細書等」ともいう。)には,次の事項が記載されている。
ア.「本発明はホルモン受容体及びそれらをコードする遺伝子,組換えDNA及びその他の遺伝子工学技術によるこれらの受容体及び遺伝子の修飾,並びに,これらの受容体及び遺伝子(修飾されていないもの及び修飾されたもの)の利用に関する。より詳細には,本発明はヒトグルココルチコイド,ミネラルコルチコイド及び甲状腺ホルモン受容体及びそれらの遺伝子に関する。」(第1頁第2行?第10行)
イ.「ステロイド及び甲状腺ホルモン受容体とそれらの遺伝子の理解及び実用に対する障害は,十分な量及び十分な程度に純粋な形で受容体を入手できないことと,in vitro の操作のために必要な受容体をコードするDNAセグメントがなかったことである。」(第2頁第23行?第29行)
ウ.「図3は,プラスミドpeA101のセグメントの配列を示し,該プラスミドはヒト甲状腺受容体をコードするセグメントからなる。該受容体の一次配列が示されている。」(第3頁第16行?第19行)
エ.「ここでの,すなわち,外部の付録A以外での図1,図2又は図3に対する参照は,上述の図に対するものであり,付録Aの部分に対するものではない。」(第3頁第20行?第22行)
オ.「プラスミドpRShGR-α,pRShMR及びpeA101(これらはすべて大腸菌HB101の中)は,アメリカン タイプ カルチャー コレクション,米国,メリーランド州ロックビル(ATCC)に,特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約及びこの条約に基づく規則の条件下に寄託されている。
・・・
3つの寄託物のATCC寄託番号は,以下のとおり。
pRShGR-α 67200
pRShMR 67201
peA101 」(第3頁第24行?第4頁第11行)
カ.「peA101の構築については,添付の付録Aの一部であるWeinberger et al.による原稿に詳述されている。」(第8頁第1行?第3行)
キ.「さらに,それらの蛋白質は,Weinberger et al.の原稿(付録Aに添付)に詳述されたようなT3とpeA101でコードされた受容体との結合のための結合アッセイを用いて,受容体-アゴニスト及び受容体-アンタゴニストのスクリーニングに用いられる。或いは,スクリーニングされた化合物を用いて,Giguere et al.の原稿(付録Aに添付)に詳述されたような転写活性アッセイに使用できる。」(第8頁下から第12行?下から第5行)
ク.「甲状腺ホルモンは,チロキシン(T4)及びトリヨードチロキシン(T3)を含む。」(第9頁第1行?第2行)
ケ.「添付された付録Aは3つの文献を含む。 Hollenberg et al.による文献, Nature, 318, 635-641 (1985),
Giguere et al.による「ヒトグルココルチコイド受容体の機能的ドメイン」というタイトルの原稿。この原稿はCell, 46, 645-652 (1986)において発行されている。
Weinberger et al.による「ヒトC-Erb-Aプロトオンコジーン産物は,機能的に甲状腺ホルモン受容体に関係する」というタイトルの原稿。付録A全体は,参照により本願明細書に援用される。上記付録は本発明を説明するために追加の記述を提供する。」(第9頁第13行?第23行)
コ.peA101によりコードされたヒト甲状腺ホルモン受容体の一次配列。(図3)

そこで,第1優先権出願の明細書等に,プラスミドpeA101によりコードされた蛋白質が甲状腺ホルモン受容体であることが,どの程度開示されているかについて検討する。
第1優先権出願の明細書等には,プラスミドpeA101の塩基配列及びその予測されるアミノ酸配列が記載され,該プラスミドpeA101が甲状腺ホルモン受容体をコードするとの記載はあるものの,該プラスミドpeA101がどのような出発材料から,どのような手法により構築されたものであるのか自体不明確であり,しかもそれがコードしている蛋白質が,甲状腺ホルモン受容体としての機能を有することの具体的な裏付けについても何ら記載されていない。
ところで,いわゆる化学物質発明は,新規で,有用,すなわち,産業上利用できる化学物質を提供することにその本質が存するから,その成立性が肯定されるためには,化学物質そのものが確認され,製造できるだけでは足りず,その有用性が明細書に開示されていることを必要というべきである。そして,化学物質発明の成立のために必要な有用性が認められるためには,一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところである。そして,このことは,特定の塩基配列からなる構造遺伝子(核酸)や,当該遺伝子によってコードされた蛋白質といった生物関連の化学物質発明についても同様であり,たとえば,遺伝子の塩基配列又は蛋白質のアミノ酸配列からの類推によって,当該遺伝子又は蛋白質の有用性が高い蓋然性をもって推定される場合を除き,これらの発明の有用性は,その化学構造だけから予測することは困難である。したがって,化学物質発明の有用性を知るには,実際に試験することによりその有用性を証明するか,その試験結果から当業者にその有用性が認識できることを必要とする。
しかしながら,本願の第1優先権出願の明細書等には,化学物質としての核酸であるプラスミドpeA101がコードする蛋白質が,甲状性ホルモン受容体として機能することについて確認したという試験結果はなく,プラスミドpeA101の機能を裏付ける具体的な記載がないことは上述のとおりであり,また,甲状腺ホルモン受容体であると考えられる根拠についての記載も全くない。さらに,第1優先権出願の出願時の技術常識を参酌しても,peA101の塩基配列又はそのコードする蛋白質のアミノ酸配列から,その機能を類推すること等により,該蛋白質が甲状腺ホルモン受容体であると推認することもできない。
そうしてみると,第1優先権出願の出願時点では,その明細書等においては,プラスミドpeA101によりコードされた蛋白質が甲状腺ホルモン受容体であることが十分な裏付けをもって示されていないから,本願発明1が,化学物質発明として完成していたとは認められない。また,第1優先権出願の明細書等には,該プラスミドpeA101によりコードされた蛋白質が甲状腺ホルモン受容体として使用できたとも認められないから,第1優先権出願の出願時点では,本願発明1が,実施可能であったとは認められない。
したがって,本願発明1は,第2優先権出願の明細書によって,その発明が完成されたことが実証され,実施可能であることが示されたと認められるから,本願の優先権の主張が認められるのは,第2優先権出願に基づくものである。

2.請求人の主張について
これに対し,審判請求人は,平成18年7月18日付け意見書において,以下のように述べ,本願第1優先権の主張は有効である旨,主張している。
「審査官が御指摘の,付録A(Appendix A)は,総計76頁にわたる3種類の書類ですが,第1優先権出願の出願時に出願書類の一部として,明細書とともに「一体として」米国特許庁に提出され,そして,適切な出願書類として米国特許庁により受領されている点を御理解ください。さらに,これらの書類は,第1優先権明細書中において,明細書中にその全内容が援用されることが繰り返し明記されております。例えば,第1優先権明細書の第5頁第1行-第15行,第9頁第13行-第23行等を御高覧ください。
さらに,付録Aの内容は,各々実験の部I,II及びIIIとして全体が,後に本願明細書中に取り込まれています。特に,添付文献3及び本願明細書の実験の部IIIは,本願の甲状腺ホルモン受容体ベータの遺伝子の単離,発現,甲状腺ホルモンへの結合活性等について具体的な実験データを開示しております。
このように,添付Aは,本願発明の甲状腺ホルモン受容体ベータをサポートする具体的な実験データを開示しております。そして,添付Aは第1優先権出願の出願時に明細書とともに米国特許庁に提出されており,さらに,後に本願明細書中に取り込まれて公開されています。よって,付録Aの内容は,第一優先日に出願書類の一部として第1国に提出され,そして,適切な出願書類として第1か国に受領され公開までされている,という点を御理解ください。即ち,第一優先日にその内容の全部が適切に特許庁に開示されております。よって,適切な優先権書類として第1優先日を判断いただくのが,本願発明の適切な保護及び利用を図る,という観点からも妥当であると思料致します。そして,第一国で適切な出願書類として受領,公開されていることから,このように解することにより何ら第三者に不利益を与えるものではありません。本願の優先権の有効性につきましては,何卒上記点御考慮の上,再検討いただきたくお願い申し上げます。」
ところで,パリ条約4条Hにおいて,「優先権は,発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては,否認することができない。ただし,最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。」と規定されており,我が国に出願された第2国出願について,最初の出願(以下,「第1国出願」ともいう。)による優先権が主張することができるためには,第2国出願に係る発明が「最初の出願に係る出願書類の全体により・・・明らかにされている場合」であることが必要であると解される。ここで,「出願書類の全体」が何を意味するかは各国の解釈に委ねられているところ,パリ条約4条D(3)には,「同盟国は,優先権の申立てをする者に対し,最初の出願に係る出願書類(明細書,図面等を含む。)の謄本の提出を要求することができる。」と規定され,これは,優先権の判断とするための書類が,第1国出願の出願書類(明細書,図面等を含む。)であると解されること,並びに,この規定を受けて,我が国においては,特許法第43条において,パリ条約による優先権を主張しようとする者は,「最初に出願をし若しくはパリ条約第4条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし若しくは同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面,発明の明細書及び図面の謄本又はこれらと同様な内容を有する公報若しくは証明書であってその同盟国の政府が発行したものを,特許庁長官に提出しなければならない」ことが規定されていることを考えれば,我が国においては,優先権の主張を認めるかどうかの判断は,第1国出願の明細書(及び特許請求の範囲)及び図面の記載に基づき行うことを前提としているといえる。
また,そもそも,優先権の本来の趣旨は,第1国出願の出願書類をそのまま翻訳して第2国出願をした場合,新規性,進歩性等の判断においては,第2国出願についても,第1国出願日に出願したものと同様の効果を与えようというものであるが,第2国出願について,発明の成立性,実施可能要件等の判断において,第1国出願と同様に判断されることを保証するものではなく,第2国出願が第2国の特許法の下で,発明の成立性,実施可能要件等の特許要件を満たさない場合には,当然,拒絶の理由が存在することになる。そして,優先権の主張が認められるためには,我が国に出願された第2国出願に係る発明と実質的に同一と認められる発明が,第1国出願の明細書(及び特許請求の範囲)及び図面に記載されていることが必要であるのだから,第1国出願の明細書(及び特許請求の範囲)及び図面に発明が十分開示されているかどうか,或いは,発明の成立性,実施可能要件等の特許要件を満たしているかどうかの判断についても,我が国の特許法に基づいて判断すべきであり(仮に,第2国出願の時点で,加えられた記載により,第2国での発明の成立性,実施可能要件等の特許要件が認められるようになるのであれば,それは,第1国出願の時点とは,発明が変容し,同一のものではなくなったというべきであり,優先権は認められない。),我が国の特許法においては,明細書(及び特許請求の範囲)及び図面に記載されておらず,明細書に引用された未公知文献にのみ記載された事項を,明細書(及び特許請求の範囲)及び図面に記載されたものとは認めていない。
そうしてみると,本願発明1について,パリ条約による優先権主張の効果は,第1国出願の出願書類の全体(明細書(及び特許請求の範囲)及び図面)に基づいて判断されるところ,請求人が第1国出願書類として主張する「付録A(Appendix A)」は,明細書(及び特許請求の範囲)及び図面とは別のものであり,我が国において,パリ条約による優先権の主張についての判断をする上で,参酌すべきものとは認められない(なお,未公知文献を引用した本願に係る第1優先権出願の出願書類の場合と同様に,たとえ,明細書中に,公知文献を引用していた場合であっても,該公知文献に記載された事項が周知なものでない限り,該公知文献に記載された事項は,明細書に記載された事項とは認められないとすることについては,東京高裁 平成2年1月25日 「特許と企業255」(1990年3月),第12?15頁,平成1年(行ケ)第9号の判例を参照。)。
よって,請求人の主張は採用できない。

第4 特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定違反について
1.引用例について
本願の第2優先権出願前に頒布された引用例1?3には,次の事項が記載されている。
(1)引用例1
サ.ヒトc-erb-AのcDNAを,v-erb-A遺伝子をプローブとして,ヒト胎盤cDNAライブラリーから単離したこと。また,該ヒトc-erb-A cDNAの塩基配列及びその予測されるアミノ酸配列。(Fig. 1)
シ.サ.のヒトc-erb-A遺伝子は,従来から知られていた染色体17に位置するヒトerb-A遺伝子とは異なるものであり,染色体3に位置すること。v-erb-A遺伝子との相同性から,サ.のヒトc-erb-A遺伝子をhc-erb-Aβと呼び,従来から知られていたヒトerb-A遺伝子hc-erb-Aαと呼ぶこと。
また,ヒトゲノム中には,サ.のヒトc-erb-A遺伝子と密接に関連する複数の遺伝子が存在すること。(第641頁右欄第4段落,第642頁?643頁の”Multiple erb-A genes”)
ス.上記サ.のヒトc-erb-A遺伝子を含むプラスミドpeA101を用いて,ヒトc-erb-Aを発現させたこと。(第643頁の”Expression of c-erb-A genes”)
セ.上記ス.で発現したヒトc-erb-Aが甲状腺ホルモン(T3)と結合し,上記サ.のヒトc-erb-Aは,甲状腺ホルモン受容体であると考えられること。(第643頁?644頁の”Thyroid hormone binding”)
ソ.上記サ.のヒトc-erb-Aのアミノ酸配列は,ヒトグルココルチコイド受容体(hGR)と47%,ヒトエストロゲン受容体(hER)と52%の相同性があること。(第632頁左欄第2段落)

(2)引用例2
タ.ニワトリ胚のcDNAライブラリーから,v-erb-A遺伝子をプローブとして,ニワトリc-erb-A蛋白質をコードするcDNAをクローニングしたこと。また,該ニワトリc-erb-A cDNAの塩基配列及びその予測されるアミノ酸配列。(Fig. 1)
チ.上記タ.のニワトリc-erb-A遺伝子を用いて発現させたニワトリc-erb-A蛋白質は,甲状腺ホルモン(T3,T4)に結合し,タ.のニワトリc-erb-Aは,甲状腺ホルモン受容体であると考えられること。(第637頁?第638頁の”The c-erb-A protein binds thyroid hormone”)
ツ.上記(1)等の文献により,トリc-erb-A遺伝子と類似したヒト遺伝子が染色体17及び3に位置することが知られていること。(第640頁左欄第2段落)

(3)引用例3
テ.ラット甲状腺ホルモン受容体のcDNAを,ヒト甲状腺ホルモン受容体cDNA(上記サ.のcDNA)をプローブとして,ラット脳cDNAライブラリーから単離したこと。また,該ラット甲状腺ホルモン受容体のcDNAの塩基配列及びその予測されるアミノ酸配列。(Fig. 1)
ト.ラット甲状腺ホルモン受容体のcDNAを含むプラスミドrbeA12。(Fig. 1)
ナ.上記(2),(3)等の文献により,ヒト甲状腺ホルモン受容体の遺伝子は,複数存在し,染色体17及び3に位置することが知られていること。(第237頁右欄)
ニ.上記テ.のラット甲状腺ホルモン受容体は,上記サ.のヒト甲状腺ホルモン受容体及び上記タ.のニワトリ甲状腺ホルモン受容体と類似しており,ニワトリ甲状腺ホルモン受容体により類似していること。また,従来から同定されていたerbA遺伝子との相同性により,上記サ.のヒト甲状腺ホルモン受容体をβ(hTRβ)とし,上記テ.のラット甲状腺ホルモン受容体及び上記タ.のニワトリ甲状腺ホルモン受容体はα(それぞれrTRα,cTRα)とすること。(第1611頁中欄第2段落?右欄第1段落,Fig.2)
ヌ.ラット甲状腺ホルモン受容体(rTRα)のcDNAをプローブとしてヒトリンパ球細胞の染色体をハイブリダイゼーションすると,染色体17に対応する遺伝子が観察され,ラット甲状腺ホルモン受容体(rTRα)は,染色体3に位置する上記サ.のヒト甲状腺ホルモン受容体をβ(hTRβ)とは区別されること。(第1611頁右欄第3段落)
ネ.上記テ.のラット甲状腺ホルモン受容体(rTRα)の遺伝子を用いて発現させたラット甲状腺ホルモン受容体(rTRα)蛋白質は,甲状腺ホルモン(T3,T4)に結合すること。

2.本願発明1について(1)
引用例1に係るヒト甲状腺ホルモン受容体であるヒトc-erb-Aのアミノ酸配列は,本願発明1における(a)の蛋白質,すなわち,配列番号1に規定されるアミノ酸配列からなる蛋白質(ヒト甲状腺ホルモン受容体β)のアミノ酸配列と一致する。そして,引用例1には,ヒトc-erb-A遺伝子の塩基配列が記載されているから(サ.参照),本願発明1における(a)の蛋白質をコードする核酸は,引用例1に記載されている。
また,本願発明1における(b)の蛋白質は,(a)の蛋白質のアミノ酸が欠失,置換若しくは付加された変異体であり,且つ,(a)の蛋白質と同様のホルモン結合特性及び/又は転写活性化特性作用を有する蛋白質であるが,第2優先権出願の出願時の技術常識を勘案すれば,引用例1に記載のヒト甲状腺ホルモン受容体(ヒトc-erb-A)のアミノ酸配列又はそれをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて,そのような変異体を得ることは,当業者が適宜成し得たことと認められるから,該(b)の蛋白質をコードする核酸を得ることは,引用例1及び第2優先権出願の出願時の技術常識から当業者が容易に成し得たことと認められるし,その効果は顕著なものとは認められない。
本願発明1における(c)の蛋白質,すなわち,配列番号2に規定されるアミノ酸配列からなる蛋白質(ヒト甲状腺ホルモン受容体α)は,(a)の蛋白質とアミノ酸配列が極めて類似したものである(平成10年9月10日付け意見書の(3)を参照)。一方,上記シ.のごとく,(a)の蛋白質をコードする遺伝子に類似した遺伝子が別に存在することが知られていたことを考えれば,そのような遺伝子を取得し,塩基配列を決定することは,当業者が容易に成し得たことと認められるし,その効果は顕著なものとは認められない。
さらに,本願発明1における(d)の蛋白質は,(c)の蛋白質のアミノ酸が欠失,置換若しくは付加された変異体であり,且つ,(c)の蛋白質と同様のホルモン結合特性及び/又は転写活性化特性作用を有する蛋白質であるが,(c)の蛋白質が(a)の蛋白質と極めて類似したアミノ酸配列を有することを考えれば,(d)の蛋白質は,引用例1に記載のヒト甲状腺ホルモン受容体(ヒトc-erb-A)を包含するものであり,引用例1に記載されたものであるし,また,引用例1に記載のヒト甲状腺ホルモン受容体(ヒトc-erb-A)のアミノ酸配列又はそれをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて,そのような変異体を得ることは当業者が容易に成し得たことと認められるし,その効果は顕著なものとは認められない。
したがって,本願発明1は,引用例1に記載された発明であるか,又は,引用例1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により,特許を受けることができない。

3.本願発明1について(2)
引用例2には,ニワトリ甲状腺ホルモン受容体(cTRα)であるニワトリc-erb-Aをコードする遺伝子が記載されている。また,引用例3には,ラット甲状腺ホルモン受容体(rTRα)をコードする遺伝子が記載されている。また,ヒトの染色体17には,cTRα及びrTRαと類似するヒト甲状腺ホルモン受容体の存在が示唆されている(上記ニ.参照)。
一方,本願発明1における(c)の蛋白質は,ヒトの染色体17から取得されたcTRα及びrTRαと類似するヒト甲状腺ホルモン受容体であるが(本願明細書中【0093】参照),ヒト以外の生物種から得られた遺伝子の類似遺伝子を,ヒトから得ようとすることは,当業者が容易に想到し得ることであり,また,ヒトの染色体17には,cTRα及びrTRαと類似するヒト甲状腺ホルモン受容体の存在が示唆されていることを考えれば,その取得に困難性は認められない。また,引用例2又は3に記載のcTRα又はrTRαが甲状腺ホルモン受容体であることを考えれば,本願発明1における(c)の蛋白質が甲状腺ホルモン受容体として機能することは,当業者の予測の範囲内であると認められる。よって,本願発明1における(c)の蛋白質をコードする核酸は,引用例2又は3に記載された発明に基いて,当業者が容易に成し得たものと認められ,その効果は顕著なものとは認められない。
また,本願発明1における(b)及び(d)の蛋白質は,(c)の蛋白質と極めて類似したアミノ酸配列を有することを考えれば,(b)及び(d)の蛋白質は,引用例2又は3に記載のcTRα又はrTRαを包含するものであるし,また,引用例2又は3に記載のcTRα又はrTRαのアミノ酸配列又はそれをコードする遺伝子の塩基配列に基づいて,(b)及び(d)の蛋白質のような変異体を得ることは当業者が容易に成し得たことと認められるし,その効果は顕著なものとは認められない。
したがって,本願発明1は,引用例2又は3に記載された発明であるか,又は,引用例2又は3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により,特許を受けることができない。

第5 むすび
したがって,本願発明1は,特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の本願の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本特許出願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-24 
結審通知日 2006-08-25 
審決日 2006-09-07 
出願番号 特願平9-224963
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
P 1 8・ 113- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新見 浩一  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 阪野 誠司
鈴木 恵理子
発明の名称 ホルモン受容体組成物および方法  
代理人 野▲崎▼ 久子  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 増井 忠弐  
代理人 社本 一夫  

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