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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議199971488 審決 特許
異議199876214 審決 特許
審判19984525 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1151190
審判番号 不服2001-13778  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-10-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-06 
確定日 2007-01-18 
事件の表示 平成 3年特許願第510382号「新規な化学的生成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 3年12月12日国際公開、WO91/18923、平成 5年10月21日国内公表、特表平 5-507201〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成3年5月30日(パリ条約による優先権主張1990年6月1日、スウェーデン)の出願であって、その出願に係る発明は、平成13年3月2日付けで補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「図7に示した1?722位の組換え蛋白質またはその機能的に同等な変異体を配合することからなる、膵外分泌不全に関連する病的状態の治療用の医薬の製造方法」

第2 原審における拒絶の理由
原審における平成12年11月24日付けの拒絶理由通知の理由1乃至3は、以下のようなものである。
(理由1)本願発明は、出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない
(理由2)本願発明は、出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
(理由3)本願発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない

第3 理由1及び2について
1 引用刊行物記載の発明
原審の拒絶の理由に刊行物1として引用された、本願の優先日前に頒布された特開平1-231848号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)「本発明は食品組成物一般に関し、更に詳しくは胆汁酸塩活性化リパーゼ(Bile salt-Activated Lipase;以下BALという)を用いた食品組成物と方法に関するものである。」(2頁右下欄19行?3頁左上欄2行)
(2)「BALは2つの形で存在している。その内の一つは膵臓で生産され、膵臓BAL(pancreatic bile salt-activated lipase)又は膵臓カルボキシルエステラーゼ(pancreatic carboxylesterase)と呼ばれている。もう一方は乳中に見い出され、乳BAL(milk bile salt-activated lipase)と呼ばれている。」(3頁右上欄15行?左下欄1行)
(3)「したがって、本発明は、育児用配合物などの食品組成物に、乳BAL又は膵臓カルボキシルエステラーゼを補充することに関する。また本発明は、嚢胞性腺維症(cystic fibrosis)などの膵臓不全を伴う症病状態の患者に対して、脂質との関連でこれらの酵素を投与して処置する方法も包含している。」(3頁左下欄20行?右下欄6行)
(4)「BALは本発明に従って乳より単離され使用のために精製されうる。乳からのBALの単離方法は、好ましくはWangとJohnsonの記載した方法(Anal.Biochem.、133:457-461(1983))によるのがよい。この方法ではキレートセファロースを支持体とするアフィニティクロマトグラフィーを使用して集められる。次いでヘパリンセファロースによりラクトフェリン(lactoferrin)を除去する。本方法を用いることにより、450mlのヒト脱脂乳から約30mgの精製酵素が得られる。」(4頁右下欄4?13行)
(5)「BALは上記の(乳から生産する)方法とは別に、今や確立した技術である組換DNA技術によって生産することが出来、そしてこの方法の方が好ましい。この人工的にBALを合成する手法は、天然ソースから精製するよりもコストが低く、しかも効率的である。これにはいくつかのやり方が取り得る。例えば、ヒトBALの相補性DNAを分離し、発現ベクターに組み込んで、微生物や哺乳類その他のセルラインにてその酵素を合成させうる。ヒトBALのmRNAの採取源としては、ヒト乳腺セルライン株ATCC No.HBL-100を、メアリーラング州ロックビル(Rockville)にあるATCC(American Type Culture Collection)から入手することが出来る。ヒトBALのmRNAの採取源をもう一つ挙げると、λファージ(λgt10およびλgt11)中に作成した授乳期ヒト乳房組織のcDNAライブラリーである。なおλファージは、カルフォルニア州パロアルト(Palo Alto)のクローンテック・ラボラトリーズ社(Clontech Laboratories,Inc.)から入手できる。
天然に存在するBALが既に単離されているので、これから抗BAL抗体を作成し、該抗体を用いて蛋白質発現系のライブラリー中でBALを発現しているクローンを捜し出すことが出来る。別の方法としては、精製BALの部分構造を決定し、その構造に基づいてヌクレオチドプローブを作成し、該プローブによりBALを発現しているクローンを見い出すことが出来よう。
E.coli,酵母、その他の微生物において機能する発現ベクターやプロモーターは適宜入手可能であり、これらによりBALを合成することができる。同様に、ウイルスプロモーターや哺乳動物プロモーターと哺乳動物セルラインなどの蛋白質発現系も市販されていて自由に入手でき、これによってBALの発現系を他のセルラインで構築することが出来る。
更にトランスジェニック(transgenic)動物技術を用いたもう一つのBALの合成方法を挙げることが出来る。まずゲノムDNAからヒトBAL遺伝子をクローニングし、次いで他の動物或いは哺乳動物セルラインに導入して酵素を合成させる。ヒトのゲノムDNAライブラリーは市販されているし、大抵の研究室で容易に調製できるものである。ヒトBALのcDNAを叙上の方法に従って分離し、ゲノムDNAライブラリー中のBAL遺伝子を見つけ出すのにこれをプローブとして使用する。遺伝子の導入は公知の方法で行うことが出来る。例えば、マウスやその他の動物への遺伝子の導入は、マイクロインジェクションにより外来遺伝子を受精卵に注入すればよい。」(4頁右下欄17行?5頁左下欄6行)
(6)「本発明は更に、膵臓のBAL、とりわけ膵臓カルボキシルエステラーゼの産生が不十分な患者(subject)を治療する方法を包含する。このような症状は膵臓病或いは外傷によって脂質の吸収が減少している患者に起こるものである。又、嚢胞性腺維症の様な遺伝病(genetic disorder)は膵臓による酵素産生、引いては脂質吸収に影響を与える。
本発明の方法はこれらの疾病に治療法を提供する。本発明の方法によれば、患者の脂質摂取と関連してBALが投与される。BALは膵臓カルボキシルエステラーゼでも乳BALでもよく、投与形態は粉末状でも液状でもよい。BALを患者の食物や飲物と混合してもよいし、腸溶性カプセル(enteric coated capsule)や錠剤にして与えてもよい。投与のタイミングは食事の直前、直後或いは食事と同時のいずれでもよい。
BALは患者が摂取した脂質の吸収や消化を改善するに十分な量投与する。この治療法が必要な患者の膵臓機能のレベルには幅があることに注意しなければならない。それゆえ、一人一人の患者の脂質吸収の試験をやっておくことが望ましく、それにより最適の脂脂吸収を得るのに必要なBALの量を更に正確に決めることが出来る。」(6頁右上欄9行?左下欄11行)

2 対比
本願発明と引用例に記載された発明(以下「引用例発明」という)を対比する。
本願発明の「図7に示した1?722位の…蛋白質」は、本願明細書の記載を参酌すれば、ヒト乳腺由来の胆汁酸塩刺激リパーゼ(BSSL)のことであると認められる(以下これを「ヒト乳腺由来BSSL」という)。そして、引用例には、ヒト乳腺由来の胆汁酸塩活性化リパーゼ(Bile salt-Activated Lipase;BAL)が記載されているが、これは、その由来、機能、名称等からみて、本願発明に係るヒト乳腺由来BSSLに相当するものであると認められる。
また、引用例には、前記記載事項(3)及び(6)からも明らかなように、嚢胞性線維症のような膵外分泌不全に関連する病気を治療するために、ヒト乳腺由来BSSLをカプセルや錠剤の形態で患者に投与することが記載されており、BSSLを治療用に患者に投与するためには、それを配合して治療用の医薬を製造することが必要であることは明らかである。
したがって、両者は、ヒト乳腺由来BSSLを配合することからなる、膵外分泌不全に関連する病的状態の治療用の医薬の製造方法である点で一致し、以下の点で相違する。
(1)ヒト乳腺由来BSSLが、本願発明では、「図7に示した1?722位の…蛋白質」とそのアミノ酸配列により特定されているのに対し、引用例発明では、そのような配列による特定はされていない点
(2)ヒト乳腺由来BSSLが、本願発明では、「組換え」によるものであるのに対し、引用例発明は、ヒト乳より単離精製されたものである点

3 相違点(1)についての判断
上記のように、引用例に記載されたヒト乳腺由来BSSLは、その由来、機能等からみて、本願発明のヒト乳腺由来BSSLに相当するものである。そしてリパーゼ等の蛋白質は、複数のアミノ酸が鎖状にペプチド結合をした物質であり、それぞれ固有のアミノ酸配列を当然に有するものである。したがって、蛋白質をその固有のアミノ酸配列で特定したところで、その特定により蛋白質という物質自体が特定のないものと区別されるということにはならないから、この点は、実質的な相違点であるとはいえない。

4 相違点(2)についての判断
本願発明の「組換え」という特定は、本願発明の物の製造方法を特定するものであり、その特定の有無により、物としての相違が生じる場合に限り、この点は、引用例発明との実質的な相違点と認められることになる。
これについて、請求人は、審判請求書において、本願発明の組換えBSSLは、引用例に記載された単離精製BSSLとは全く違うプロセッシングを受け、特にグリコシル化の位置及び度合いが全く相違するとし、Archives of Biochemistry and Biophysics, Vol.344, No.1, p.94-102 (1997)を参考資料として提出し、CHO細胞またはC-127細胞で製造した組換えBSSLは、グリコシル化のパターンが天然のものとは顕著に相違し、引用例のものとは糖蛋白として異なることは明らかであり、また、引用例はこのようなグリコシル化の相違を何ら示唆していないと主張している。
しかしながら、グリコシル化のプロセッシングは宿主細胞により異なるものであり、参考資料のようなハムスターやマウスの細胞を宿主とした場合の例から、各種宿主により発現させた組換え蛋白質一般について、単離精製BSSLとは全く異なるプロセッシングが同様に行われるということはできない(しかも、参考文献は、本願の優先日後7年後という、相当の期間経過後に得られた知見に関するものである。)。
そして、本願の明細書の記載によれば、発現宿主については特に限られるものではなく(対応する特表平5-507201号公報(以下「対応公報」という)5頁左上欄12行?右上欄4行)、また、「発現系の選択に応じて…天然に存在する蛋白質とはグリコシレーションに関して異なる場合があることを理解すべきである。」(対応公報5頁右上欄13?18行)と、グリコシレーションが異なる可能性について記載しているものの、実際にそのような相違が生じるのか、具体的にどのような相違が生じるのか、その相違がどのような技術的意義を有するのかについては何ら開示されておらず、その相違が不明であるから、この点は、実質的な相違点とは認められない。
さらには、組換え蛋白質の生産において、ヒト型糖鎖の付加を目的として、宿主細胞としてヒト細胞を用いることは周知技術であり(必要ならば、特開昭61-88875号公報、特開昭63-141582号公報を参照)、本願発明の組換えBSSLを発現させる宿主は特定されていないのであるから、ヒト細胞を使用する場合も含まれ、その場合には、なおさら引用例発明と区別することができない。
また、仮に、「組換え」という限定により、糖鎖が明確に異なるとした場合であっても、その場合の請求人がなした技術的貢献は、単に公知の糖蛋白について、その糖鎖の状態が異なるものを提供したというものに過ぎない。糖蛋白の糖鎖をN-グリコシダーゼやグリコペプチダーゼのような酵素で切断して、糖鎖の異なる物を提供することは周知技術であり、本願発明のポリヌクレオチドを特定の細胞で発現したものが、どのような異なる糖鎖を有するものであるのかを明らかにし、それによる格別顕著な効果を明らかにしていればともかく、本願明細書においては、実際に蛋白の発現も行っていないのであるから、本願発明の技術的貢献は、ヒト乳腺由来精製BSSLや、それを単に酵素により糖鎖を非特異的に変更したもののそれを超えるものではない。
したがって、この点に実質的な相違点があるとした場合であっても、その相違による従来技術に対する技術的貢献は、特許による保護に値する程のものとはいえず、本願発明が進歩性を有するということはできない。

5 総合的判断
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、あるいは、引用例に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 理由3について

1 引用先願
原審の拒絶の理由に引用された、本願の優先日である1990年6月1日より以前の、1990年4月4日を優先日とする特願平3-507651号(特表平5-508763号公報(以下「対応公報」という)参照)は、本願の出願人及び発明者とは異なる、オクラホマ メディカル リサーチ ファウンデーションを出願人、タン,ジョーダン ジェイ. エヌ.他1名を発明者とする出願であって、その願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願当初明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「ヒト乳汁は、乳汁タンパク質の0.5?1%の非常に高レベルで胆汁酸塩活性化リパーゼ(BAL)を含有している。これは、…に記載の通りである。BALの生理学的役割は、脂肪、特にトリグリセリドの消化を助けて、脂肪酸および脂肪酸塩を産生することである。」(対応公報2頁右上欄6?14行)
(2)「したがって、本発明の目的は、リパーゼの構造および機能の関係をさらに分析し、かつ特徴付けるために使用される、BALをコードする遺伝子配列を提供することである。 本発明の他の目的は、ヒト以外の乳汁の乳児用調合乳に含有させるべき大量のBALを調製するために使用される、BALをコードする遺伝子配列を提供することである。」(対応公報2頁左下欄15?20行)
(3)「ヒト乳汁BALのcDNAの完全な構造が開示されている。ヒト乳汁の胆汁酸塩活性化リパーゼ(BAL)の18個のcDNAクローンを、抗体および合成ヌクレオチドをプローブとして用いて、λgtllおよびλgtlo中の泌乳しているヒト乳房cDNAライブラリーから同定した。4個のクローンを、配列分析のために選択した。2個のクローンのcDNA挿入物のヌクレオチド配列は、重なっており、全体で3018個のBALcDNAの塩基対を含有し、開始コドンと終止コドンとの間の722個のアミノ酸残基のオープンリーディングフレームをコードする。20個の残基の推定シグナル配列が存在し、これに続いて成熟BALの722個の残基のアミノ末端配列が存在する。」(対応公報2頁右下欄2?13行)
(4)「図2は、ヒト乳汁の胆汁酸塩活性化リパーゼのcDNAおよびアミノ酸配列を示す。ヌクレオチド配列は、クローンG10-2およびGIO-3(図1)由来のものである。ヌクレオチド番号は、5′末端からのものであり、各行の右空白に示されている。推定アミノ酸配列は、成熟酵素の既知のアミノ末端位置から番号付けされている。1個の潜在的なN-結合グリコシル化部位がアスタリスクによって示されている。活性部位のセリンは菱形によって示されている。GIO-4A中の、欠失した198個のヌクレオチド(1966位から2163位)の領域(図1の”ギャップ”領域)、およびポリアデニル化シグナルには下線が引かれている。」(対応公報3頁右上欄4?14行)
(5)ヒト乳汁の胆汁酸塩活性化リパーゼのcDNAおよびアミノ酸配列(図2)
(6)「組換えヒトBALの発現。 多くの真核発現システムにおいてエキソンが正確に除去されるために、ヒトBALcDNAおよびヒトBALゲノムDNAは、単数(または複数)種類の組換えヒトBALタンパク質の合成を導くために使用され得る。単数(または複数)のヒトBAL遺伝子は、その非翻訳領域中に、酵素の発現を調節する配列を含有していると予想される。これらの調節配列をトランスジェニック動物発現に直接使用することさえ可能である。 組換えDNAおよび遺伝子工学技術を用いて、組換えBALタンパク質を、多くの異なる方法によりヒトBALcDNAまたは遺伝子から生産することができる。これらの方法には、E.coli、Bacillus、酵母、真菌、昆虫細胞、哺乳類細胞およびトランスジェニック動物などの宿主中におけるBALの発現が含まれる。原核宿主が哺乳類のイントロンを除去できないために、遺伝子よりも、cDNAを、適切な改変を行ってから原核システムで発現することが好ましい。しかし、原核生物がBALをグリコジル化することができないために、BALの発現には真核システムを使用することが好ましい。」(対応公報7頁右下欄23行?8頁左上欄17行)
(7)「組換えヒト乳汁BALには、種々の用途がある。この酵素は、米国特許第4.944.944号に記載のように、乳児用食物を補足するために使用され得る。この酵素は、疾病の治療に使用され得る。この酵素は、脂質消化に関する工業用、プロセスにおいて使用され得る。この酵素は、脂質消化に関する医学的または臨床的プロセスにおいて使用され得る。この酵素は、研究用試薬(化学的)もしくは研究用手段(脂質消化研究用)として使用され得る。」(対応公報9頁左下欄13?20行)
ここで、先願当初明細書に記載された「ヒト乳汁BAL」は、本願明細書に記載された「ヒト乳汁BSSL」に相当し、そのアミノ酸配列(1?722位)は、本願明細書の図7に記載されたヒト乳汁BSSLのアミノ酸配列(1?722位)と一致している。また、記載事項(7)のように疾病の治療に使用されるということは、その際には、ヒト乳汁BSSLを配合して病的状態の治療用の医薬を製造することになるのは当然のことである。
したがって、先願当初明細書には、「(本願の)図7に示した1?722位の組換え蛋白質を配合することからなる、病的状態の治療用の医薬の製造方法」の発明(以下「引用先願発明」という)が記載されているものと認められる。

2 先願の優先権について
上記「1」において認定した引用先願発明については、引用先願の優先権の基礎とされている、1990年4月4日に出願された米国出願504635号の明細書又は図面(以下「優先権基礎出願」及び「優先権基礎明細書」という)にも記載されている。
なお、引用先願当初明細書には、「図2は、その2821位から2886位までのヌクレオチド配列(695位から716位までのアミノ酸)に関して、1990年4月4日に最初に開示された図とは異なるものであり、1990年6月12日に最初に開示された配列に対応する。」(対応公報3頁右上欄14?17行)という記載があり、先願当初明細書の図2に記載されたヒト乳汁BSSLの配列は、塩基配列については、優先権基礎明細書の図2に記載されたものとは相違している。しかし、そのアミノ酸配列については、先願当初明細書の図2に記載された配列と、その優先権基礎明細書の図2に記載された配列とは一致しており、また、優先権基礎明細書の図3Bに記載された反復配列の記載などから、優先権基礎明細書の図2については、アミノ酸配列の方が正しいことが見て取れるから、引用先願発明は、上記のとおり優先権基礎明細書に記載されているものと認められる。
また、引用先願の優先権基礎出願は、一部継続出願(CIP出願)であるが、その原出願である1987年に出願された米国出願122410号(特願昭63-293447号において、優先権の基礎出願としてその優先権証明書が提出されている)には、アミノ酸配列で特定されたヒト乳汁BSSLについては記載されておらず、上記引用先願発明については、上記優先権基礎出願が、パリ条約C(2)の「最初の出願」であると認められる。
すると、上記引用先願発明については、パリ条約の優先権が認められ、特許法第29条の2の「当該特許出願の日前の他の特許出願」に該当するか否かについては、上記優先権基礎出願の出願日である1990年4月4日を基準とすべきことになる。したがって、引用先願は、本願に対して、「出願の日前の他の特許出願」に該当する。

3 対比
本願発明と引用先願発明とを対比すると、両者は、「(本願の)図7に示した1?722位の組換え蛋白質を配合することからなる、病的状態の治療用の医薬の製造方法」である点で一致し、治療の対象となる病的状態が、本願発明では、「膵外分泌不全に関連する病的状態」に特定されているのに対し、引用先願発明ではそのような特定がされていない点で相違する。

4 相違点の判断
先願当初明細書には、上記の通り、「この酵素は、疾病の治療に使用され得る。」との記載がある。そして、ヒト乳汁BSSLは、消化酵素リパーゼであり、リパーゼが、慢性膵炎等の膵外分泌不全に関連する病的状態の治療に用いられることは周知(前記引用例のほか、Therapeutic Research, Vol.5, No.2, 1986, p.222-226、胆と膵, Vol.6, No.5, 1985, p.609-613、胆と膵, Vol.7, No.4, 1986, p.367-369を参照)であるから、先願当初明細書の当該記載を見た当業者であれば、治療の対象となる具体的疾病として、慢性膵炎等の膵外分泌不全に関連する病的状態を想起することは極めて自然なことであって、ヒト乳汁BSSLをそのような疾病の治療に用いることは、先願当初明細書に記載されていたに等しい事項、又は、その記載から自明の事項であるというべきである。
したがって、この点は実質的相違とは認められない。

5 総合的判断
上記のように、本願発明は、先願当初明細書に記載された発明と同一である。また、本願発明の発明者が上記先願当初明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められない。
したがって、本願発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法29条1項第3号に該当し特許を受けることができないか、あるいは、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。また、本願発明は、先願当初明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願当初明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
以上の理由により、請求項1以外の請求項については判断するまでもなく、本願は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-07 
結審通知日 2006-08-15 
審決日 2006-08-29 
出願番号 特願平3-510382
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 161- Z (C12N)
P 1 8・ 113- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 和男  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
高堀 栄二
発明の名称 新規な化学的生成物  
代理人 西村 公佑  
代理人 高木 千嘉  

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