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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C25B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C25B
管理番号 1151544
審判番号 不服2004-24124  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-09-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-25 
確定日 2007-02-08 
事件の表示 特願2004-13143「溶融塩電解装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年9月2日出願公開、特開2004-244724〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成16年1月21日(優先権主張平成15年1月22日)に出願されたものであって、平成16年10月21日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年11月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年12月27日付で手続補正がなされたものである。

II.平成16年12月27日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年12月27日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のとおりとなった。
「【請求項1】混合溶融塩からなる電解浴を電気分解するための電解槽が設けられた溶融塩電解装置であって、
金属からなる前記電解槽の本体を加熱及び/又は冷却するための第1熱交換手段と、
前記第1熱交換手段に対して更に空間を隔てた外周に、前記第1熱交換手段を密閉して配置された外枠と、
前記外枠内に形成された減圧乃至真空の断熱層と、を備え、
前記第1熱交換手段が、前記電解槽の本体の外周を取り巻くように配設され、かつ、前記電解槽の本体からの漏電を抑止する電気絶縁性の高い流体である熱交換媒体が流れるパイプを有してなる溶融塩電解装置。」(以下、「本願補正発明1」という。)

上記補正は、請求項1において「前記電解槽」を「金属からなる前記電解槽」と補正し、「熱交換媒体」を「前記電解槽の本体からの漏電を抑止する電気絶縁性の高い流体である熱交換媒体」と補正するものであって、「前記電解槽」及び「熱交換媒体」を、その材質又は性質について限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

次に、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日前頒布された刊行物である特開平8-176872号公報(以下、「引用例1」という。)、特開昭63-303089号公報(以下、「引用例2」という。)、及び国際公開第01/77412号パンフレット(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)引用例1:特開平8-176872号公報
(1a)「即ち本発明は、ニッケル陽極を用いて溶融塩電解により三フッ化窒素を製造する方法において、電解液を強制的に対流させることによりニッケル陽極の溶解により生成するニッケル錯塩スラッジの発生を抑制することを特徴とする三フッ化窒素の製造方法を提供するものである。
以下、本発明を詳細に開示する。・・・・・
本発明の電解液を強制的に対流させる方法、手段としては、工業的に用いられる公知の混合方式の全て方法が問題なく使用出来る。強制対流を発生させる方法としては、ポンプやサーモサイホン式等の一般的な方法により電解液を抜き出し、循環させる方法が好適に使用される。また、電解槽内に撹拌機、混合機を設置し対流を発生させる方法を使用しても良い。
・・・・・・
また、温度差による密度差により発生する自然対流を利用した対流促進方式も全く問題無く使用できる。即ち、従来から行われている、電解液の温度調節を目的とした、電解槽内部、または外部からの冷却、加熱ではなく、電解液の一部を間接的に冷却、加熱し、電解液平均温度との温度差により電解液を対流させるものである。」(段落【0016】?【0020】)
(1b)「本発明を実施するのに好適な装置の具体例を図1?3に示す。図1は電解液を循環する場合の電解槽の一例であり、外部に冷却用の熱交換器9を取り付け、循環液戻り部8には、ガスとの混合を防止するため邪魔板4を取り付けてある。図2は電解槽内に撹拌機を設置した場合の電解槽の一例で、撹拌機10近傍にはガスの混合を防止するため邪魔板4を取り付けてある。図3は電解槽外部に冷却、加熱用のジャケット11を設け冷媒13、及び加熱媒体12を交互に流せるようにした場合の電解槽の一例である。」(段落【0024】)と記載され、図3には、電解液を電気分解するための電解槽が設けられた電解装置であって、電解槽外部に冷却、加熱用のジャケットを設けたものが記載されている。
(1c)「実施例1
図1に示す電解槽によりNF3の製造を行った。NH4F・HF系(HF/NH4Fモル比=1.8)の溶融塩を0.05m3調合し、これを図1に示す電極材質が純度98.5wt%のニッケル電極で、容積0.07m3の電解槽に入れて電解した。・・・」(段落【0030】)
(1d)「実施例2
図3に示す電解槽により原料、及び運転条件は実施例1と同様にしてNF3の製造を行った。電解槽外部のジャケットには50℃の冷却水を20分流した後、通液を10分間停止した。続いて130℃の蒸気を20分流した後、通液を10分間停止した。この操作を交互に行った。この条件で3カ月の長期連続電解を行った。電解液温度は60分サイクルで±5℃の範囲で上昇、下降を繰り返すが平均値はほぼ一定で推移し、安定的に電解が行えた。また、実施例1の場合と同様に電圧の上昇は発生せず、もちろんガスの混合による爆発や、ニッケル錯塩スラッジによる電極の短絡を生ずることなく長期にわたって安全にNF3ガスを製造することができた。・・・」(段落【0031】)

(2)引用例2:特開昭63-303089号公報
(2a)「装置本体内に装填された複数の固体電解質セルを用いて水蒸気の分解を行なう多管式水蒸気電解装置において、前記個々の固体電解質セルに均熱管又は均熱管と絶縁材の組合わせを設置するか、もしくは前記装置本体の中央部にヒータを設置したことを特徴とする多管式水蒸気電解装置。」(特許請求の範囲)
(2b)「ところで、固体電解質セルを使用した水蒸気電解装置としては、従来、第10図に示す構造のものが知られている。即ち、図中の1は上部にフランジ2を有する装置本体としての容器であり、この容器1のフランジ2には蓋体3がボルト・ナット等により固定されている。前記容器1の側壁外周には、真空断熱槽4が設けられている。また、前記蓋体3から前記容器1内には固体電解質セル5が吊架されている。前記固体電解質セル5内には、水蒸気導入管6が挿入されており、かつ該導入管6は前記蓋体3に設けられたコ字形のフランジ部7により固定されている。このフランジ部7には、水素同位体ガスの排気管8が連結されている。また、前記固体電解質セル5の外周には筒状のヒータブロック9及び有底円筒状の熱シールド体10が順次所定の間隔をあけて同心円状に配置されている。この熱シールド体10の上部には環状の熱シールド板11が配置されている。更に、前記蓋体3には酸素排気管12が連結されており、また前記真空断熱槽4には真空引き管13が連結されている。」(第2頁右上欄1行?左下欄1行)

(3)引用例3:国際公開第01/77412号パンフレット
(3a)「1.フッ化水素を含む混合溶融塩を電気分解して高純度のフッ素ガスを生成するためのフッ素ガス発生装置であって、隔壁によって陽極室と陰極室に分離された電解槽と、前記陽極室と前記陰極室にそれぞれガスを供給し、前記陽極室及び前記陰極室内を所定の圧力に維持する圧力維持手段を備えたフッ素ガス発生装置。」(請求の範囲1)
(3b)「通常、フッ素ガスは第9図に示すような電解槽によって生成されている。電解槽本体201の材質は通常、Ni、モネル、炭素鋼等が使用されている。・・・。電解槽本体201の中には、フッ化カリウム-フッ化水素系(以下、KF-HF系という。)の混合溶融塩が電解浴202として満たされている。」(第2頁3?9行)
(3c)第7図を参照して、「電解槽72は、電解槽72と同一樹脂からなる隔壁76によって、陽極室5及び陰極室7とに分離され、それぞれにNiからなる電極が陽極4及び陰極6として配置されている。電解槽72の上面は、陽極室5及び陰極室7内を加圧する圧力維持手段50からのパージガス出入口15,17と、陽極室5から発生するフッ素ガスの発生口16と、陰極室7から発生する水素ガスの発生口14とが設けられている。また、電解槽72は、電解槽72内を加熱する温度調整手段が設けられている。温度調整手段は、電解槽72本体の周囲に密着して設けられているヒーター12と、そのヒーター12に接続され、一般的なPID制御が可能な温度制御器(図示省略)と、陰極室7に設けられている熱電対10と、から構成され、電解槽72内の温度制御をしている。また、ヒーター12の周りには断熱材77が設けられている。」(第18頁13?24行)が記載されている。

3.当審の判断
3-1.引用例1に記載の発明
引用例1には、上記摘記(1b)によれば、電解液を電気分解するための電解槽が設けられた電解装置であって、電解槽外部に冷却、加熱用のジャケットを設けたものが記載され、同(1c)によれば、該電解装置は、NH4F・HF系の混合溶融塩からなる電解浴を電気分解するためのものであることが記載されている。
また、引用例1には、電解槽の材質は特に記載されていないが、通常、混合溶融塩からなる電解浴を電気分解するための電解槽の材質としては、引用例3にその電解槽の材質として、通常Ni、モネル、炭素鋼等金属が使用されること(上記摘記(3b))が記載されているから、引用例1の電解槽の材質もこのような金属からなるものといえ、また、熱交換手段は、一般に、電気分解用反応槽の円筒部の外周に配設されるものであって(必要ならば、拒絶査定時に示した特開平4-110486号公報(特許請求の範囲、第1図、第2図)を参照されたい。)、引用例1の冷却、加熱用のジャケットもその熱交換効率からすれば、電解槽外部の外周を取り巻くように配設されているといえる。
更に、摘記(1d)には、電解槽外部のジャケットには130℃の蒸気を20分流すことが記載されており、この130℃の蒸気は、通常、水に溶解されている不純物成分、イオンなどを含まないものであるから、電気絶縁性の高い流体であるといえ、又それゆえ電解槽と蒸気とは電気的に絶縁状態となり電解槽からの漏電を抑止できるものと認められる。
そこで、上記摘記(1a)?(1d)の記載を総合すれば、引用例1には、「混合溶融塩からなる電解浴を電気分解するための電解槽が設けられた溶融塩電解装置であって、金属からなる電解槽外部に冷却、加熱用のジャケットを設け、該冷却、加熱用ジャケットが電解槽の外周を取り巻くように配設され、かつ、前記電解槽からの漏電を抑止する電気絶縁性の高い流体である熱交換媒体が流れる溶融塩電解装置。」(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。

3-2.対比・判断
本願補正発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「冷却、加熱用ジャケット」は、本願補正発明1の「第1熱交換手段」に相当し、引用例1発明の電解槽は、摘記(1b)の記載からみて本願補正発明1の「電解槽の本体」に他ならないから、
両者は、「混合溶融塩からなる電解浴を電気分解するための電解槽が設けられた溶融塩電解装置であって、
金属からなる前記電解槽の本体を加熱及び/又は冷却するための第1熱交換手段を備え、前記第1熱交換手段が、前記電解槽の本体の外周を取り巻くように配設され、かつ、前記電解槽の本体からの漏電を抑止する電気絶縁性の高い流体である熱交換媒体が流れる溶融塩電解装置。」で一致し、次の点で相違する。

相違点:
(イ)本願補正発明1は、「第1熱交換手段に対して更に空間を隔てた外周に、前記第1熱交換手段を密閉して配置された外枠と、前記外枠内に形成された減圧乃至真空の断熱層」を備えているのに対し、引用例1発明は、このような外枠、断熱層を備えていない点。
(ロ)第1熱交換手段について、本願補正発明1は、「熱交換媒体が流れるパイプを有して」いるのに対し、引用例1発明は、この点が記載されていない点。

次に、上記相違点(イ)、(ロ)について検討する。
相違点(イ)について
本願補正発明1において、「外枠」は、本願明細書段落【0030】の記載からみて電解槽本体の外部に設けられ、第1熱交換手段と断熱層とをその内部に密閉して配置されるものと解せられる。しかし、溶融塩電解装置において、電解槽本体を加熱及び/又は冷却するための手段及び断熱材からなる外枠で覆うように構成することは、例えば、引用例3の上記摘記(3c)に記載されるように本出願前よく知られたことである。また、加熱及び/又は冷却するための手段の外周に真空断熱槽を設けることも、例えば、引用例2の上記(2b)に記載されているように従来周知の技術であって、この真空断熱槽は、ヒータブロックを密閉して配置された外枠と、該外枠内に形成された真空断熱層を備えるものである。
そうすると、引用例1発明の溶融塩電解装置における電解槽も外部に冷却、加熱用のジャケットを設けて温度調整するものである以上、熱交換効率をよりよくすることは当然のことであって、第1熱交換手段に対して更に空間を隔てた外周に、前記第1熱交換手段を密閉して配置された外枠と、前記外枠内に形成された減圧乃至真空の断熱層を備えることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。

相違点(ロ)について
熱交換手段として、電解槽の周囲に熱交換媒体を流すパイプを電解槽の周囲に取付けて電解槽の温度調整を行うことは、例えば、拒絶査定時に示した特開平4-110486号公報(特許請求の範囲、第1図、第2図)、又は実願昭62-132640号(実開昭64-37474号)のマイクロフィルム(第5頁末行?第6頁1行、第1図、第3図)に示されるように周知の技術である。
そうすると、引用例1発明においても、電解槽の周囲に熱交換媒体を流す熱交換手段を設け電解槽の温度調整を行っているのであるから、当該熱交換手段を周知であるパイプとすることは当業者ならば適宜なし得ることである。

そして、本願補正発明1の奏する効果も、引用例1?引用例3の記載、及び上記周知技術から予測することができる程度のものであって、格別顕著であるとは認められない。

したがって、本願補正発明1は、引用例1?引用例3に記載された発明、及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定によって読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成16年12月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成16年8月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】混合溶融塩からなる電解浴を電気分解するための電解槽が設けられた溶融塩電解装置であって、
前記電解槽の本体を加熱及び/又は冷却するための第1熱交換手段と、
前記第1熱交換手段に対して更に空間を隔てた外周に、前記第1熱交換手段を密閉して配置された外枠と、
前記外枠内に形成された減圧乃至真空の断熱層と、を備え、
前記第1熱交換手段が、前記電解槽の本体の外周を取り巻くように配設され、かつ、熱交換媒体が流れるパイプを有してなる溶融塩電解装置。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶理由に引用された引用例1?引用例3とその主な記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。

3.当審の判断
本願発明1を特定するに必要な事項を全て含み、さらに具体的に限定したものに相当する本願補正発明1が、前記「II.3.」に記載したとおり、引用例1?引用例3に記載された発明、及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様な理由で、引用例1?引用例3に記載された発明、及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-01 
結審通知日 2006-12-05 
審決日 2006-12-19 
出願番号 特願2004-13143(P2004-13143)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C25B)
P 1 8・ 575- Z (C25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 市川 裕司
前田 仁志
発明の名称 溶融塩電解装置  
代理人 須原 誠  
代理人 奈良 泰宏  
代理人 梶 良之  

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