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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1151571
審判番号 不服2006-13700  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-03-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-29 
確定日 2007-02-08 
事件の表示 平成 9年特許願第239609号「エアバッグカバーの成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月23日出願公開、特開平11- 78753〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成9年9月4日の出願であって、原審において、平成18年5月25日付けで拒絶査定がなされたが、これを不服として、同年6月29日に本件審判請求がなされるとともに、同年7月31日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成18年7月31日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年7月31日付けの手続補正を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1.手続補正後の請求項1に係る発明
本件手続補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正するものである。
「【請求項1】 破断予定線を設けたエアバッグカバーの射出成形方法であって、キャビティ内に前記破断予定線部位となる薄肉部を形成する堰を設けた金型内に、前記堰を越えてキャビティ内を満たすように溶融樹脂を注入する成形方法において、溶融樹脂を注入開始後、射出圧力が700?900kg/cm2(ゲージ圧)にて1.0?2.0秒以内に製品重量の90?95重量%注入し、次いで残部を3?20秒間かけて注入・保圧することを特徴とするエアバッグカバーの射出成形方法。」(以下、「本願補正発明」という。)
上記補正は、請求項1に係る射出成形方法における射出圧力範囲及び注入時間の構成を更に限定するものであって、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、上記の本願補正発明が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する独立特許要件を備えているかどうかについて、以下に検討する。

2.引用例とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平4-52117号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「[産業上の利用分野]
本発明はエアバッグ装置のモジュールカバーの成形方法に係り、特に開裂開始用のテアラインを有したエアバッグ装置の合成樹脂製モジュールカバーを射出成形法により成形する方法の改良に関する。」(第1頁左下欄第15?20行)
(ロ)「このモジュールカバー1には、エアバッグ2の展開時にカバーを開裂させるための凹溝状の開裂開始線、即ち、テアライン1Aが設けられている。このテアライン1Aは、周囲部分よりも強度が低い部分であって、所定形状の薄肉部(一般には、厚さ0.5?1.0mm程度)として設けられており、エアバッグ2の展開時には該テアライン1Aの部分に沿ってモジュールカバー1が開裂する。」(第1頁右下欄第11?19行)
(ハ)「従来、このようなエアバッグのモジュールカバー材料としては、一般に発泡ウレタンインテグラルスキンフォーム又は熱可塑性プラスチックが使用され、所定形状の金型内にこれらの樹脂材料を注入して成形されている。第4図は金型の一例を示す模式的な平面図である。図示の如く、金型8にはテアライン形成用の凸条7が設けられている。この凸条は、テアラインに対応して、即ち、金型8の短手方向中心線に沿って長手方向に、また、長手方向の端部に沿って短手方向に設けられている。樹脂は、通常、このような金型の一箇所に設けたゲート(注入口)9より射出注入される。」(第2頁左上欄第6?18行)
(ニ)「従来のエアバッグのモジュールカバーの製造方法においては、凹溝状のテアラインの薄肉部を形成するために、金型として、第4図に示す如く、テアライン相当部にテアライン形成のための凸条7を有する金型8を用いる。この金型内の凸条部分は、金型間隔が狭いため、注入された樹脂材料の流れが阻害され、成形不良の原因となっていた。
即ち、樹脂材料として発泡ウレタンを用いる場合には、凸条部で原液の乱流が発生し、空気の巻き込みによるボイド、ピンホール等が製品両面に発生する。また、金型のゲートより遠い部分では欠肉、ウレタン密度の低下等の不具合が生じる。
一方、熱可塑性プラスチックを用いた場合においては、該凸条部でのブローマークの発生、欠肉が発生する。このような欠陥を防止するためには、注入圧力を高める必要があり、また、樹脂材料も高流動性のものに限定される。
エアバッグのモジュールカバーのテアラインは、エアバッグ展開時には速やかにモジュールカバーが開裂するべく十分に肉薄であると共に、平常時においては外力により容易に開裂することがないような強度を有することが必要とされることから、このような肉薄でかつ十分な強度を備えるテアラインを有するエアバッグのモジュールカバーを成形不良等を引き起こすことなく、高い歩留りにて製造する方法の出現が強く望まれている。」(第2頁左上欄第20行?左下欄第7行)
上記記載事項から、引用例1には、「テアラインを設けたエアバッグのモジュールカバーの射出成形方法であって、キャビティ内に前記テアライン形成用の凸条を設けた金型内に、前記凸条を越えてキャビティ内を満たすように溶融樹脂を注入する成形方法」の周知技術(以下、「周知技術1」という。)、及び該周知技術が有する「凸条部分は、金型間隔が狭いため、注入された樹脂材料の流れが阻害され、欠肉、密度低下、ブローマークなどの成形不良の原因となっていた」という周知の課題が開示されていると認めることができる。

(2)同じく引用された、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平8-281743号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ホ)「【産業上の利用分野】本発明は射出成形機の制御方式に関し、特にバリ、ヒケ、ソリ等の不良発生防止に有効で、しかもオペレータの操作性を向上させることのできる制御方式に関する。」(段落【0001】)
(ヘ)「【従来の技術】一般に、樹脂製品の射出成形は、樹脂の可塑化→充填→保圧→冷却という工程で行われる。良品質の成形品を得るためには、固定金型と可動金型とから成る金型の温度や金型内樹脂温度、射出成形機の射出速度、射出圧力等の制御に加えて、金型に対する型締力や型開量、すなわち金型パーティング面間の制御や、充填工程から保圧工程への切換え、すなわちV-P切換えのタイミング設定が重要である。」(段落【0002】)
(ト)「【発明が解決しようとする課題】一方、充填工程から保圧工程への切換えについて言えば、切換えの判断はオペレータの設定する加熱シリンダ内のスクリュ位置、樹脂充填時間、スクリュを駆動する射出シリンダの圧力等にもとづいて行っている。」(段落【0004】)
(チ)「【0006】次に、保圧工程におけるバリ発生防止対策について説明する。通常、充填工程から保圧工程に切り換わった直後から、金型内への樹脂充填はほぼ完了しているため、固定金型と可動金型のパーティング面間を開かせようとする力が発生し、微小の型開量が発生する。」(段落【0006】)
(リ)「【0009】本発明の他の課題は、特に、充填工程から保圧工程への切換えの前後における制御動作を改善してバリやヒケ、ソリ等の不良発生防止に有効な射出成形機の制御方式を提供することにある。」(段落【0009】)
(ヌ)「【0013】油圧シリンダ24には油圧を型締力として検出するための圧力センサ27が設けられており、金型を閉とした状態で流出入部24-1側の油圧シリンダ内の油圧力を、圧力センサ27の検出値にもとづいて調整することにより型締力を制御できる。また、固定プラテン21と可動プラテン26には、プラテン間距離Lを検出するための距離センサ28が設けられ、固定金型17と可動金型18の各パーティング面間の微妙な開き量を測定できるようにしている。」(段落【0013】)
(ル)「【0025】ステップS6では、マイクロプロセッシングユニット43はスクリュ位置センサからの検出信号を監視し、スクリュが前記第1の位置よりも進んだ所定位置(第2の位置)まで移動したかどうかの判定動作を行う。そして、スクリュが所定位置に到達すると、ステップS7に移行して、V-P切換え、すなわち充填工程から保圧工程への切り換えを行う。…
【0027】なお、V-P切換え動作は、マイクロプロセッシングユニット43において前述した樹脂圧センサあるいは射出圧センサの検出信号を監視することにより行うこともできる。すなわち、充填を開始してからノズル16内あるいは金型内の樹脂圧が所定値に達したかどうかをマイクロプロセッシングユニット43で判定して、所定値に達した時にV-P切換えを行う。あるいは、射出シリンダ14内の油圧が所定油圧まで上昇したかどうかを監視して、所定油圧に達した時にV-P切換えを行うようにしても良い。更に、マイクロプロセッシングユニット43の持つタイマによる時間監視機能により、充填開始からあらかじめ定められた時間が経過したことをもってV-P切換えを行うようにしても良い。」(段落【0025】?【0027】)
(ヲ)図7には、充填工程から保圧工程に切り換える「S7」の直前まで、充填工程では一定の射出圧力で高い射出速度により溶融樹脂を充填していること、保圧工程は充填工程より長時間高い射出圧力を維持していることが示されている。

(3)同じく引用された、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平5-193434号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ワ)「【請求項1】エアバッグを収納したエアバッグ用カバーにおいて、
単層の熱可塑性合成樹脂弾性体により作られ、前記エアバッグの膨脹による一定の応力により引き裂かれる引き裂き線を有する前記エアバッグ用カバーの上部と、
硬質熱可塑性合成樹脂より作られ、他部材に取付けるための固着具を挿入する取付孔を有する前記エアバッグ用カバーの取付部と、
前記上部と前記取付部とは一体に熱高圧融着されている熱融着部とを有することを特徴とするエアバッグ用カバー。」(特許請求の範囲請求項1)
(カ)「【0043】前記実施例では、あらかじめ射出成形金型10の第1キャビティ40及び第2キャビティ46の体積の量、言い換えると開口部4、取付部5の体積の量に等しい量だけ射出する方法が採られている。…
【0044】なお、射出成形条件は、樹脂の種類によって異なるが概略次の条件内で選定する。ノズル温度130?240℃、シリンダー温度130?220℃、ダイ温度140?230℃、金型温度30?50℃、射出圧力400?1000kg/cm2 である。」(段落【0043】?【0044】)

3.本願補正発明と周知技術1の対比・判断
(1)本願補正発明と周知技術1とを対比すると、周知技術1における「テアライン」、「エアバッグのモジュールカバー」、「凸条」は、本願補正発明におけるそれぞれ、「破断予定線」、「エアバッグカバー」、「堰」に相当するから、本願補正発明と周知技術1との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「破断予定線を設けたエアバッグカバーの射出成形方法であって、キャビティ内に前記破断予定線部位となる薄肉部を形成する堰を設けた金型内に、前記堰を越えてキャビティ内を満たすように溶融樹脂を注入する射出成形方法」
<相違点>
本願補正発明は、「溶融樹脂を注入開始後、射出圧力が700?900kg/cm2(ゲージ圧)にて1.0?2.0秒以内に製品重量の90?95重量%注入し、次いで残部を3?20秒間かけて注入・保圧する」のに対して、周知技術1には、そのような構成がない点。

(2)そこで、上記相違点について以下に検討する。
引用例2の上記記載事項(ホ)?(ヲ)には、ヒケ等を防止するために、溶融樹脂を注入後、一定の射出圧力で高い射出速度により速やかに金型内をほぼ充填し、その充填工程の後、さらに高い射出圧力で長時間保圧し残部を注入する保圧工程を有する射出成型方法が示され、同記載事項(ル)には、当該充填工程から保圧工程への切換を、充填開始からのあらかじめ定められた時間が経過したことをもって行っても良い旨が示されている。
そして、引用例3の上記記載事項(ワ)、(カ)には、エアバッグカバーの射出成形における射出圧力を、「樹脂の種類によって異なる」としつつ、概略「400?1000kg/cm2」の範囲から選定する旨が示されており、本願補正発明における射出圧力の範囲「700?900kg/cm2」は、エアバッグカバーの射出成形における射出圧力として特別なものではなく、通常のものであることが示されている。
そうすると、引用例2の上記記載事項には、射出圧力や溶融樹脂の充填度合いを示す重量%、射出時間などについての明確な数値範囲については示されていないものの、ヒケ(欠肉)等を防止するために引用例2の上記記載事項に示された構成を周知技術1に適用するに当たって、引用例3記載の上記周知の技術を勘案して、射出圧力の範囲を「700?900kg/cm2」としたことは当業者なら適宜設計しえた事項であり、充填工程の時間を「1.0?2.0秒以内」、保圧工程を「3?20秒間」としたことも、製品の大きさや樹脂の種類などを勘案して当業者が適宜設計しえた事項であり、充填工程から保圧工程への切換時の溶融樹脂の充填度合いをほぼ充填完了直前の「製品重量の90?95重量%」としたことも、当業者なら適宜設計しえた事項と認められるから、結局、上記相違点に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明が奏する作用効果も、上記周知技術1及び引用例2,3記載の発明ないしは周知の技術から予測される程度以上のものでもない。

したがって、本願補正発明は、上記周知技術1及び引用例2,3記載の発明ないしは周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、その特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
したがって、本件手続補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】本願発明について
1.本願発明
平成18年7月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の各請求項に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】 破断予定線を設けたエアバッグカバーの射出成形方法であって、キャビティ内に前記破断予定線部位となる薄肉部を形成する堰を設けた金型内に、前記堰を越えてキャビティ内を満たすように溶融樹脂を注入する成形方法において、溶融樹脂を注入開始後、射出圧力が600?900kg/cm2(ゲージ圧)にて1.0?3.0秒以内に製品重量の90?95重量%注入し、次いで残部を3?20秒間かけて注入・保圧することを特徴とするエアバッグカバーの射出成形方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、その構成事項の一部である射出圧力の範囲における「600kg/cm2ないし700kg/cm2未満」の範囲、及び当該圧力による注入時間における「2.0秒を超え3.0秒以内」の範囲の構成を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、更に構成を限定している本願補正発明が、上記【2】3.に記載したとおり、上記周知技術1及び引用例2,3記載の発明ないしは周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、上記周知技術1及び引用例2,3記載の発明ないしは周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【4】むすび
したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、上記周知技術1及び引用例2,3記載の発明ないしは周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-04 
結審通知日 2006-12-05 
審決日 2006-12-19 
出願番号 特願平9-239609
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60R)
P 1 8・ 121- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 信也西本 浩司大谷 謙仁  
特許庁審判長 鈴木 久雄
特許庁審判官 柴沼 雅樹
山内 康明
発明の名称 エアバッグカバーの成形方法  
代理人 小松 秀岳  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  

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