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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1152459
審判番号 不服2005-13435  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2007-02-15 
事件の表示 平成 7年特許願第241382号「植物の栄養素含有量の増加方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 3月25日出願公開、特開平 9- 74928〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成7年9月20日に出願であって、平成17年6月7日付で拒絶査定がなされ、これに対して同年7月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月12日付で手続き補正がなされたものである。

2.平成17年8月12日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の結論]
平成17年8月12日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「植物に、自然光を透過させたときの光合成有効光量子束(PPF)透過率が50%以上で、かつ、下記数式(1)で表されるA値が1.3以上である被覆材料を透過した光を当てることにより、植物に含まれる葉緑素を増加させることを特徴とする植物の葉緑素含有量の増加方法。
[数1]A=R/Fr・・・数式(1)
(式中、Rは600?700nmの赤色光の光量子束、Frは700?800nmの遠赤
色光の光量子束である。)」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1における「栄養素」を「葉緑素」と限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、即ち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平7-79649号公報(以下、「引用例1」という。)には、「植物伸長成長制御用被覆材料」に関して、図面の図1?図4とともに、次の記載がある。
(イ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】自然光を透過させた光のA値が0.9以下であることを特徴とする植物伸長成長制御用被覆材料。ただし、A値とは次式(1)(数1)
【数1】
A=R/Fr (1)
〔式中のRは600?700nmの赤色光の光量子束であり、Frは700?800nmの遠赤色光の光量子束である。〕で定義するものとする。
【請求項2】自然光を透過させた光のA値が1.3?3.0であることを特徴とする植物伸長成長制御用被覆材料。」
(ロ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、植物の伸長成長を促進または抑制する新規な被覆材料に関するものであり、施設園芸において極めて価値のあるものである。」
(ハ)「【0013】A値を0.9以下に調節するためには600?700nmに吸収極大を有する色素を使用し、A値を1.3?3.0に調節するためには700?800nmに吸収極大を有する色素を使用する。
【0014】被覆材料は上記色素を高分子樹脂中に分散溶解した樹脂板又は樹脂フィルムまたは色素をインク化し、塗布した樹脂板、ガラス板または樹脂フィルムであって自然光を透過させた時の透過光が式(1)(数2)のA値が0.9以下又は1.3?3.0を示すものであればよい。
【0015】A値が0.9以下を示すように調節した場合、植物の伸長成長を促進することができ、A値を1.3?3.0を示すように調節した場合、植物の伸長成長を抑制することができる。植物伸長成長促進用の被覆材料の好ましいA値は0.4?0.6であり、植物伸長成長抑制用の場合の好ましいA値は1.7?2.4である。また、いずれの場合もコントロール波長以外の光の透過率はできるだけ高いものが好ましい。」
(ニ)「【0021】A値が0.9以下の被覆材料を用いた場合にヒマワリやトマト、キュウリなどの苗を用いて茎伸長成長試験を行ったところ、自然光に比較して成長速度が驚くほど促進され、一方、A値が1.3?3.0の被覆材料を用いれば、顕著に矮化した頑丈な苗となる。」
(ホ)「【0028】実施例2
実施例1の色素の代わりに式(3)(化4)
【0029】
【化4】・・・
【0030】で示される色素4.5部を用いて、実施例1と同様にして着色樹脂板を得た。本樹脂板の自然光透過後の分光特性を第1図(図1)に合わせて示すが、これより求めたA値は1.72であった。本樹脂板を用いて実施例1と全く同様にしてヒマワリの栽培を行ったところ、植物高は13.2±0.6cm、茎長は9.8±0.4cmおよび第1節間長が6.3±0.3cmの矮化して頑丈な植物体となった。このことより、A値が1.72の被覆材料を用いた場合の伸長成長抑制効果は0.6?0.7倍であることを確認した。着色樹脂板を用いた場合(F)の結果を図2に示す。」
(ヘ)「【0035】実施例4
実施例3の色素の代わりに式(5)(化6)
【0036】
【化6】・・・
【0037】で示される色素3部を用いて実施例3と同様にして着色フィルムを得た。本フィルムのA値は2.1であった。本フィルムを用いて実施例3と同時に全く同様にしてヒマワリの栽培を行ったところ、植物高は12.5±0.5cm、茎長は9.2±0.4cmおよび第1節間長が6.0±0.3cmの矮化して頑丈な植物体となった。このことより、A値が2.1である被覆材料を用いた伸長成長抑制効果は0.6?0.7倍であることが確認できた。」
(ト)「【0040】実施例6
実施例2で用いた着色樹脂板製グロースキャビネット中で、実施例5と同時に全く同様にしてキュウリの栽培を行ったところ、植物高は14±1.1cm、茎長は7±0.5cmおよび第1節間長は1.5±0.3cmの矮化して頑丈な植物体となった。このことより、A値が1.72の被覆材料を用いた場合のキュウリの伸長成長抑制効果は0.5?0.6倍であることが判った。着色樹脂板を用いた場合(I)の結果を図3に示す。」
(チ)「【0043】実施例8
実施例2で用いた着色樹脂板製グロースキャビネット中で、実施例7と同時に全く同様にしてトマトの栽培を行ったところ、植物高は14±1.8cm、茎長は10±1cmおよび第1節間長は4.5±0.4cmであった。このことより、A値が1.72の被覆材料を用いた場合のトマトの伸長成長抑制効果は0.5?0.6倍であることが判明した。着色樹脂板を用いた場合(L)の結果を図4に示す。」
(リ)「【0044】
【発明の効果】近年、農業の合理化の観点から、栽培は種子からではなく健康な幼苗から栽培する場合が増加している。種苗生産においては、適切に苗を伸長させるよう制御することが商品価値を高めるので、本発明は種苗生産工場における伸長制御上、きわめて重要かつ価値のあるものである。また、日本ではハウス(一般にはビニールハウス)が多く、本発明の樹脂フィルムは、植物伸長調節の目的のためには安価で手間のかからない優れた材料である。特に従来のビニールハウスに、本発明の高分子被覆材料を可動式に重ね合わせてセットできるようにすれば、成長が早すぎたり、遅すぎたりした場合に、目的に合致した成長度合いに制御することが非常に簡単である。葉菜、果菜、根菜、種々の観賞植物および果樹の施設栽培等において高品質化、省力化の観点より本発明は非常に価値の高いものである。」
(ヌ)「【図面の簡単な説明】
【図1】自然光のサンプル品透過後の分光特性の実測図である。」
(ル)「【符号の説明】
(A)自然光直達光
(B)実施例1で用いた着色樹脂板の透過光
(C)実施例2で用いた着色樹脂板の透過光・・・」
(ヲ)「自然光のサンプル品透過後の分光特性の実測図である。」とする図1から、400nm?700nmの範囲の光合成有効光量子束(PPF)について、「実施例2で用いた着色樹脂板の透過光」である曲線「(C)」による積算値(分光光量子束=0、波長400nm、波長700nm、及び曲線(C)で囲まれた部分の面積)は、「自然光直達光」である曲線「(A)」による積算値(分光光量子束=0、波長400nm、波長700nm、及び曲線(A)で囲まれた部分の面積)に対して、明らかに50%以上であることが読み取れる。
これらの記載事項並びに図面に示された内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
(引用発明)
「植物に、自然光を透過させたときの光合成有効光量子束(PPF)透過率が50%以上で、かつ、下記数式(1)で表されるA値が1.3?3.0である被覆材料を透過した光を当てることにより、顕著に矮化した頑丈な植物体をえる植物伸長成長制御方法。
〔数1〕A=R/Fr ・・・数式(1)
(式中、Rは600?700nmの赤色光の光量子束、Frは700?800nmの遠赤色光の光量子束である。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
数式(1)で表されるA値について、本願補正発明が「1.3以上」としているのに対して、引用発明は「1.3?3.0」としていることから、両者は1.3?3.0の範囲で共通しているといえる。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「植物に、自然光を透過させたときの光合成有効光量子束(PPF)透過率が50%以上で、かつ、下記数式(1)で表されるA値が1.3?3.0である被覆材料を透過した光を当てる方法。
〔数1〕A=R/Fr ・・・数式(1)
(式中、Rは600?700nmの赤色光の光量子束、Frは700?800nmの遠赤色光の光量子束である。)」
点で共通して、以下の点で一応相違する。

[相違点1]
A値について、本願補正発明が、1.3以上としているのに対して、引用発明が1.3?3.0としている点。
[相違点2]
本願補正発明が、植物に含まれる葉緑素を増加させる植物の葉緑素含有量の増加方法であるのに対して、引用発明が顕著に矮化した頑丈な植物体をえる植物伸長成長制御方法であって、植物に含まれる葉緑素を増加させるものであるかどうか不明である点。

(4)判断
上記一応の相違点についてそれぞれ検討する。
[相違点1について]
ところで、本願補正発明が、A値について「1.3以上」と規定しているものの、本願の明細書中の実施例としては、A値を「1.72」(本願明細書、段落【0021】)、「1.49」(同【0023】)、「1.55」(同【0025】)としたものが記載されるに止まっている。そうすると、本件補正発明において、A値について、上記実施例として示された値の近傍の範囲については、簡便に植物の葉緑素含有量を増加させるといった本願補正発明による作用効果(同【0029】)を奏することを類推することができるものの、上記のような作用効果が、「A値を1.3以上」と規定されるような全範囲(特に、3.0以上の範囲)においても奏されるものであるかどうかについては充分に明細書に記載されてはいない。
したがって、相違点1に係るA値の範囲の違いについては、単なる表現上の差異にすぎず、実質的な相違点ではないといわざるを得ない。

[相違点2について]
上記「(3)対比」及び上記「(4)判断[相違点1について]」で説示したとおり、本願補正発明と引用発明とは、「植物に、自然光を透過させたときの光合成有効光量子束(PPF)透過率が50%以上で、かつ、A値が1.3以上である被覆材料を透過した光を当てる」といった方法としての工程が実質的に共通していることから、方法の工程としては両者の間に差異はないものとなっている。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、上記の通り、植物に対して同じ工程を実施する方法であるから、引用例1には直接的に明記はされてないものの、引用発明においても「葉緑素含有量を増加させる」といった本願補正発明と同様の作用効果を奏するものと認められる。
そして、引用例1には、「A値が1.3?3.0の被覆材料を用いれば、顕著に矮化した頑丈な苗となる。」(上記2.(2)(ニ)参照)、「矮化して頑丈な植物体となった。」(上記2.(2)(ニ)参照)ことが記載されており、引用発明の方法によって実際に「(矮化して)頑丈な植物体」となっているかどうかを検証するのに、植物体の葉緑素含有量の変化を検証することは、普通に行われている程度の事項であるといえる。
したがって、本件補正発明は、「葉緑素含有量を増加させる」といった引用発明において直接的には明記されてはいない作用効果を確認したにすぎす、この点が方法の工程としての相違点であるとはいえないことから、この点についても、単なる表現上の差異にすぎず、実質的な相違点ではないといわざるを得ない。

ところで、本件請求人は、審判請求の理由(平成17年9月21日付補正書参照)の中で、「引用文献1をそのまま実施しても必ずしも本願と同様効果を得られるとは限らない」旨主張しているので、以下この点について付記する。
既に説示したとおり、引用例1には本願補正発明と同様の被覆材料を用いて同じように植物の栽培を行う方法が開示されており、それによって「必ずしも本願と同様効果を得られるとは限らない」のであれば、本願補正発明もまた必ずしも「葉緑素を増加させる」ことができるとは限らないと解される。
したがって、出願人の上記主張は、本願明細書の記載に基づかないものであって採用できない。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年8月12日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成17年4月27日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項によりそれぞれ特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
植物に、自然光を透過させたときの光合成有効光量子束(PPF)透過率が50%以上で、かつ、下記数式(1)で表されるA値が1.3以上である被覆材料を透過した光を当てることにより、植物に含まれる栄養素を増加させることを特徴とする植物の栄養素含有量の増加方法。
〔数1〕A=R/Fr ・・・数式(1)
(式中、Rは600?700nmの赤色光の光量子束、Frは700?800nmの遠赤色光の光量子束である。)
【請求項2】
栄養素が葉緑素である請求項1記載の植物の栄養素含有量の増加方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明2は、本願発明1における「栄養素」が「葉緑素」であることから、前記2.で検討した本願補正発明と実質的に同一といえるものとなっている。
そうすると、本願発明2と実質的に同一であるといえる本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用発明と実質的に同一であるから、本願発明2も引用発明と同一であるということができる。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明2は、引用例1に記載された発明であるから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-29 
結審通知日 2006-12-05 
審決日 2006-12-19 
出願番号 特願平7-241382
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01G)
P 1 8・ 113- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 安藤 勝治
特許庁審判官 山口 由木
宮川 哲伸
発明の名称 植物の栄養素含有量の増加方法  

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