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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1152523
審判番号 不服2002-15362  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-12 
確定日 2007-02-15 
事件の表示 平成5年特許願第512124号「造影剤に関する改良」拒絶査定不服審判事件〔平成5年7月22日国際公開、WO93/13808、平成7年6月8日国内公表、特表平7-505136〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成5年(1993年)1月8日(パリ条約による優先権主張 1992年1月9日 英国)を国際出願日とする出願であって、その請求項に係る発明は、平成18年5月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりのものであって、請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「【請求項1】微小気泡発生性微粒子からなる造影剤であって、該微粒子は
(i)水溶性ペントース、ヘキソース、二糖類、多糖類または糖アルコールである炭水化物および
(ii)該炭水化物と共にその微粒子構造内で混合される界面活性剤であって、該界面活性剤は直鎖状脂肪族カルボン酸およびその塩、ソルビタンエステル、そのモノ-およびジ-グリセリド、アラルカン酸およびその塩、ステロイド酸、ステロール、直鎖状脂肪族アルコール、リン脂質、アルカリ金属アルキル硫酸およびスルホン化エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、ポリオキシエチル化ソルビタンエステル、親脂性に変成された炭水化物から選択される界面活性剤またはその混合物からなり、
上記微粒子が発生する微小気泡が六弗化硫黄および37℃で気体状である弗素化された炭化水素から選択される気体からなる、上記造影剤(但し、微粒子状炭水化物がガラクトースである場合は、界面活性剤はC10?C20飽和脂肪酸ではない)。」(以下、本願発明という。)

2.引用例の記載事項
当審が平成17年11月21日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)国際公開第91/15244号パンフレット
(1991年10月17日国際公開。以下、引用例1という。)

(1-1)「本発明は、例えば超音波検査の目的で、生体内への注入に適した媒体、より詳しくは、水性液体担体中の安定な分散液または懸濁液として空気または生理学的に許容される気体の微小泡を含んで成る注入可能な組成物に関する。それらの組成物は、生物体、例えばヒト患者および動物の血管および他の体腔の内側を画像診断するための超音波検査における造影剤として主に用いることができる。」(1頁、本文1?9行)

(1-2)「本発明において好都合である界面活性剤は、水および気体の存在下で安定な薄膜を形成することができる全ての両親媒性化合物から選択することができる。積層することができる好ましい界面活性剤としては、レシチン(ホスファチジルコリン)および他のリン脂質、特にホスファチジル酸(PE)、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、カルジオリピン(CL)、スフィンゴミエリン、原形質、セレブロシド等が挙げられる。」(10頁5?13行)

(1-3)「本発明の組成物は、一般に増粘剤または安定剤の名のもとに定義される、親水性化合物およびポリマーをその中に溶解または懸濁された状態で含んでもよい。……しかしながら、他の増粘剤、例えば糖、例えばラクトース、シュクロース、マルトース、ガラクトース、グルコース等、または親水性ポリマー、例えばデンプン、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キサンチンまたは部分的に加水分解されたセルロースオリゴマー、並びにタンパク質およびポリペプチドでは、濃度は約1?40重量%が最良であり、約5?20重量%が好ましい。」
(11頁下6行?12頁11行)

(1-4)「本発明は、水または水性担体相と単純に混合すると本発明の微小泡含有分散液を生じることができる乾燥貯蔵可能な微粉状ブレンドも包含する。好ましくは、そのような乾燥ブレンドまたは配合物は、水の単純な添加により所望の微小泡懸濁液を提供するのに必要な全ての固体成分、即ち、理論上は、微小泡を生成せしめるのに必要な中に閉じ込められたまたは吸着された空気または気体を含むラメラ形の界面活性剤、および補助的に他の非皮膜形成界面活性剤、増粘剤および安定剤並びに場合により他の任意の添加剤を含むだろう。」(12頁15?25行)

(1-5)「本発明の微小泡中のガスは、現在生理学的に許容される無害のガス、例えばCO2、窒素、N2O、メタン、ブタン、フレオンおよびそれらの混合物に加えて、放射性ガス、例えば133Xeまたは81Krが血液循環測定、肺シンチグラフィー等のための核医学において特に着目される。」
(15頁22?27行)

(1-6)「実施例4
水中の水素化大豆レシチン/ジセチルホスフェート懸濁液を、実施例1に記載したREV法を使って積層化した。2mlのリポソーム調製物を蒸留水中の15%マルトース溶液8mlに添加した。生じた溶液を-30℃で凍結させ、次いで0.1Torr下で凍結乾燥した。氷の完全な昇華は数時間で得られた。その後凍結乾燥粉末が2?3分で空気で飽和されるようにして排気容器中の空気圧を元に戻した。
次に穏やかに混合しながら乾燥粉末を10mlの無菌蒸留水に溶解することによって微小泡懸濁液(108?109気泡/ml、動的粘度<20mPa.s)を得た。ほとんど1?5μmの範囲の気泡を含むこの懸濁液は、2カ月間静置後にまだ多数の気泡が検出できたので、非常に長期間安定であった。この微小泡懸濁液は、超音波検査において強い応答を与えた。この実施例において、-30?-70℃の空気中に噴霧することにより溶液を凍結させて、一体式ブロックの代わりに凍結した雪を得、次いでこの雪を真空下で蒸発させたならば、優れた結果が得られる。」(17頁17行?18頁2行)

(1-7)「実施例9
実施例4に記載したようにしてリン脂質/マルトース凍結乾燥粉末を調製した。ただし、凍結乾燥段階の終わりに、133Xe含有ガス混合物を空気の代わりに排気容器に導入した。数分後、無菌水を導入し、そして穏やかに混合した後、気相に133Xeを含む微小泡懸濁液を調製した。この微小泡懸濁液を生体内に注入し、トレーサーとして133Xeの使用を必要とする研究を行った。優れた結果が得られた。」(19頁下10?末行)

(2)欧州特許出願公開第441468号明細書
(1991年8月14日公開。以下、引用例2という。)

(2-1)「微粒子中に遊離の形又は結合された形で含有されたガス及び易揮発性液体(この場合好ましくは60℃未満の沸点を有する液体である)としては、特に以下のものが適当である:
アンモニア、空気、稀ガス及び稀ガス混合物(ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン)、硫黄ハロゲン化物、例えば六弗化硫黄、窒素、……ハロゲン化炭化水素又はそれらの混合物、例えば塩化メチレン、……、ジブロムジフルオルメタン、ブロムメタン……フランのような化合物。
特に空気、アルゴン、キセノン、六弗化硫黄、プロパン、ブタン及びフランが好ましい。」(3頁3欄48行?4欄40行)

(2-2)「造影剤の製造方法
1.反応段階
A)界面活性剤を含有する(0.01?5% w/v)水溶液を撹拌下に0℃に冷却する。この際同溶液にガスを導入する。溶液のpH値をNaOHで所望のpH値(好ましくは9?13)に調節する。この溶液にモノマー及びモノマー混合物を加える。30分後に撹拌速度を減じる。1時間後に反応混合物を上記の界面活性剤含有水溶液で希釈する。撹拌速度をさらに下げる。4時間後に沈殿したガス不含微粒子から残りの懸濁液をデカントして除去する。デカントした懸濁液を透析して、造影剤から残余モノマーを洗浄する。収率:80?90%」(11頁19欄9?41行)

(2-3)「例 5
0.5%界面活性剤溶液91mlをフラスコ中に入れる。溶液のpH値を0.2N NaOH溶液を加えて12に調節する。この溶液を0℃に冷却する。溶液中にアルゴンを導入する。この溶液に、5%ブチルシアノアクリレートを含有する蒸留直後のアクロレイン9mlを滴下する。1時間後にさらに0.5%界面活性剤溶液100mlを加える。懸濁液を、沈殿物を除いて精製する。」
(11頁20欄39?50行)

(2-4)「例15
例5からのポリアクロレイン-微粒子100mgを水2.5ml中に再懸濁する。この懸濁液に水2.5ml中に溶かしたヒト血清アルブミン250mgを加え、室温で8時間撹拌する。次いで同懸濁液を蒸留水に対して透析する(カットオフ100,000)。」(13頁23欄25?33行)

(2-5)「生体内試験
体重約10kgの犬(ビーグル種)でエコーカルジオグラフィー検査を行なうために、本発明による造影剤を次のようにして用いる:使用準備のできた懸濁液を含有するガラスビンから、アルブミンに結合された粒子(例15)40μg/mlを5%グルコース溶液中に含有する溶液1mlを取出す。この造影剤を、全方開放三方コックにより注射速度少なくとも1ml/s、有利には3ml/sで伏在静脈尾状枝中に注射し、次に生理学的食塩水(0.9%)5mlを注射する。この後注射は、できるだけ長く持続している丸塊状造影剤を得るために行なう。注射前(図5)に実験動物において“apikaler Vierkammerblick”を、市販のエコーカルジオグラフィー用音響ヘッドを用いて胸廓壁で(胸廓経由誘導)調節し、クリップで固定する。音響誘導は、注射前、注射の間及び注射後に超音波試験装置の映像面に表示され、場合によってはビデオテープ又はビデオプリンターに記録される。」(13頁24欄44行?14頁25欄12行)

3.対比判断

引用例1には、超音波診断用造影剤として使用される(上記1-1)、水または水性担体に溶解することによって微小気泡を生ずる組成物であって、界面活性剤、および補助的に他の非皮膜形成界面活性剤、増粘剤等を含む微粉末ブレンドであって(上記1-4)、界面活性剤としてレシチン等のリン脂質が(上記1-2)、増粘剤としてラクトース、シュクロース、マルトース、ガラクトース、グルコース等が(上記1-3)、微小気泡に含まれる気体として生理学的に許容される無害のガス、例えばCO2、窒素、N2O、メタン、ブタン、フレオン等が用いられること(上記1-5)、及び、マルトースとリン脂質を使用する実施例(上記1-6、1-7)が記載されている。

本願発明と引用例1記載の発明とを比較すると、両者は「微小気泡発生性微粒子からなる造影剤であって、該微粒子は、水溶性ペントース、ヘキソース、二糖類、多糖類または糖アルコールである炭水化物、および、リン脂質、親脂性に変成された炭水化物から選択される界面活性剤またはその混合物からなる造影剤」である点で一致する一方、該微粒子が発生する微小気泡が、前者では六弗化硫黄および37℃で気体状である弗素化された炭化水素から選択される気体であるのに対し、後者では空気、CO2、窒素、N2O、メタン、ブタン、フレオンやそれらの混合物や133Xeまたは81Krである点で相違する。

そこで、上記相違点について検討する。
生体内で超音波診断の造影剤として使用されるものである以上、気泡に含まれる気体は生理学的に許容される無害で不活性なガスであり37℃で気体である必要があることは明らかであり、引用例1には、そのような気体として、空気等と並んでフレオンが例示されている。
フレオンはDu Pont社製のフッ化炭化水素類に対する商品名であり、その多くが37℃で気体であり、フッ素の外に塩素を含むものがよく知られている。(共立出版株式会社、昭和39年発行「化学大辞典」縮刷版の「フレオン」の項参照)
しかし、塩素を含むものはオゾン層を破壊するおそれがあるとして、1987年のモントリオール議定書の締結以後、塩素を含まないいわゆる代替フロンへの転換が推進されていたことは周知の事項である。
そうすると、引用例1におけるフレオンとしては、本願出願前に商品化されていたフレオン14(四弗化炭素)等の37℃で気体である塩素を含まないフレオン類の使用を試みることは当業者が容易に推考できたものといえる。

また、引用例2には、内部に気体を含むポリマー微粒子を用いた超音波造影剤において(上記2-2?2-5)、微粒子中に含有される気体としては、空気、稀ガス、六弗化硫黄等が用いられることが(上記2-1)記載されている。
引用例2のものは、気体が気泡としてポリマー微粒子中に含有されるものであり、引用例1のものは気泡が界面活性剤によるラメラ構造に含有されるものであるが、気体による超音波の反射や屈折によって造影効果を得る点において両者は軌を一にするものである。
そうすると、引用例2に例示の気体が引用例1における気体としても使用できることは当業者が容易に理解するところであるから、六弗化硫黄を引用例1における微小気泡を生成する気体として使用することは当業者が容易に推考できたものといえる。

そして、本願明細書の記載をみても、六弗化硫黄あるいは37℃で気体状である弗素化された炭化水素を使用することによって得られる効果は、各引用例から当業者が予測する範囲を超えるものということはできない。

したがって、本願発明は、その優先日前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-05 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-26 
出願番号 特願平5-512124
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八原 由美子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 吉住 和之
横尾 俊一
発明の名称 造影剤に関する改良  
代理人 西村 公佑  
代理人 高木 千嘉  

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