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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680187 審決 特許
無効200680238 審決 特許
無効200680110 審決 特許
無効200680130 審決 特許
無効200680070 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01K
管理番号 1152672
審判番号 無効2006-80009  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-01-25 
確定日 2007-02-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第3723111号発明「アルミ製浮子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3723111号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3723111号に係る発明は、平成13年9月28日に特許出願したものであって、平成17年9月22日にその特許の登録がなされたものであり、その後の平成18年1月25日に三協立山アルミ株式会社より本件特許の請求項1?3に係る発明につき特許無効の審判が請求され、平成18年4月18日に被請求人より答弁書が提出され、平成18年7月20日に請求人より弁駁書が提出され、その後の平成18年11月10日に第1回口頭審理が行われ、平成18年11月17日及び平成18年12月5日に請求人よりそれぞれ上申書が提出され、平成18年11月29日に被請求人より上申書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下順に、「本件発明1」等という。)は、願書に添付された明細書及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

(本件発明1)
「円筒状のアルミニウム合金押出形材からなる支持部材挿入部を中央に有し、当該支持部材挿入部を貫通した中央の芯部とするように当該円筒状の支持部材挿入部の周囲を囲むアルミニウム合金の圧延材からなる外形部材にて中空部を形成したことを特徴とするアルミニウム合金製浮子。」
(本件発明2)
「浮子の中空部を形成する複数の外形部材及び当該外形部材と円筒状の支持部材挿入部を圧接手段にて接合したことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製浮子。」
(本件発明3)
「浮子の中空部を形成する複数の外形部材を接合する際に、接合部裏側に補強部材を設けて溶接接合したことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製浮子。」

3.請求人の主張
審判請求人は、本件発明1?3の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、次の理由及び証拠から特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は無効とされるべきであると主張する。
(無効理由)
1)本件発明1は、甲第1号証?甲第5号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2)本件発明2?3は、甲第1号証?甲第6号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(証拠)
甲第1号証:特開2001-69873号公報
甲第2号証:特開平8-9836号公報
甲第3号証:実願昭56-79700号(実開昭57-189997号)のマイクロフィルム
甲第4号証:「アルミニウムハンドブック(第3版)」、(社)軽金属協会、昭和60年4月20日発行、P.64?65,P.95?96,P.247?251
甲第5号証:特開平6-234029号公報
甲第6号証:実願昭55-16251号(実開昭56-117679号)のマイクロフィルム

なお、請求人は、平成18年11月17日付け上申書により、次の証拠を提出している。
甲第7号証:「アルミニウムハンドブック(第4版)」(社)軽金属協会、平成2年1月15日発行、P.1?3,P.23
甲第8号証:三協アルミニウム工業株式会社(旧称)社員櫻井克之が作成した報告書
甲第9号証:三協アルミニウム工業株式会社(旧称)社員一宮が作成した回答書(「技GM902」)
甲第10号証:特開平8-116840号公報
甲第11号証:「アルミニウム構造学入門」、株式会社東洋書店発行、2006年3月25日初版発行、P.32?33
甲第12号証:特開2003-102335号公報(本件特許の公開公報)
甲第13号証:特開平5-202511号公報
甲第14号証:特開2001-233279号公報
甲第15号証:実開平6-27488号公報
甲第16号証:日本工業規格 H4080 アルミニウム及びアルミニウム合金継目無管 P.602?623
甲第17号証:日本工業規格 H4090 アルミニウム及びアルミニウム合金溶接管 P.624?633
甲第18号証:日本工業規格 H4100 アルミニウム及びアルミニウム合金の押出形材 P.634?657

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め」(答弁の趣旨)、次のように主張する。
本件発明1?3は、「支持部材挿入部」と「外形部材」とは異なる製造によるアルミニウム合金としたことにより実用可能な耐久性を実現したものであって、甲第1号証?甲第6号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、被請求人は、証拠として、答弁書により乙第1号証?乙第9号証を、また、陳述要領書により乙第11号証?乙第17号証を、それぞれ提出している。
(証拠)
乙第1号証:「研究開発等事業計画の認定について」の写し
乙第2号証:「伏木富山港船舶航行安全対策調査(アルミ製浮子性能試験)報告書」、富山県漁業協同連合会、平成14年3月
乙第3号証:平成14年3月19日付け「建設工業新聞」
乙第4号証:「平成14年度富山県地域産業技術振興費補助金交付申請書」の写し
乙第5号証:「平成14年度富山県地域産業技術振興費補助金の交付について」の写し
乙第6号証:「平成14年度富山県地域産業技術振興費補助金に係る事業実績報告書」の写し
乙第7号証:日本機械学会編「機械工学便覧 応用編 B2加工学・加工機器」、B2-114?B2-115頁
乙第8号証:2003年1月29日付け「北日本新聞」
乙第9号証:2003年3月19日付け「朝日新聞 富山版」
乙第10号証:特開2004-65010号公報
乙第11号証:創造法認定組合「協同組合マリンフロート」の概要を示す右ウェブサイトからの出力資料
乙第12号証:「アルミニウム構造学入門」、2006年3月25日発行、P.33?34,P.72?73
乙第13号証:「改訂6版 金属便覧」、平成12年5月30日発行、P.1089?1097
乙第14号証:「塑性加工便覧」2006年5月26日発行、P.148?150
乙第15号証:特開平11-172387号公報
乙第16号証:特開2004-149907号公報
乙第17号証:「アルミ製浮子の開発」調査記録の写し

4.甲第1号証?甲第6号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証(以下、「刊行物1」という。)には、「フロートおよびその製造方法」の発明に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「【請求項1】 熱可塑性樹脂をブロー成形した中空体をフロート本体とするフロートであって、中空体を貫通する綱挿通管体を有していて、綱挿通管体の両端部と中空体とは互いに溶着されているとともに、その溶着部分は綱挿通管体の長手方向に拡がる圧縮部を形成していることを特徴とするフロート。」(公報第2頁第1欄の【特許請求の範囲】)
(ロ)「【発明の属する技術分野】本発明は、熱可塑性樹脂の中空体をフロート本体とするフロートおよびその製造方法に関するものである。
【従来の技術】海水面や湖水面等の浮上標識、水中に張った仕切網や安全網、あるいは水中に仕掛けた漁網などには、それにフロートを取り付けて水面上の標識としたり、水面に浮上保持することが行われている。そして、そのためのフロートは、中空体のフロート本体にフックを設けて綱を結びつけたり、またフロート本体に綱挿通部を一体に形成して綱を通すようにした構造のものである。」(公報第2頁第1欄の【0001】?【0002】)
(ハ)「【発明の実施の形態】図1は本発明に係るフロートの一例を示す全体斜視図、図2は図1のX-X線矢視方向の断面図、図3は図1に示すフロートのブロー成形態様を示し、型閉め前の状態を示す断面図、図4は図3の態様から型閉めしてパリソン内に圧力流体を導入した直後の状態を示す断面図、図5は図4の波線円Y内部分の拡大断面図である。図1および図2において、1はフロートである。このフロート1は、熱可塑性樹脂をブロー成形した略球状の中空体2をフロート本体とするものである。フロート本体をなす中空体2には、その中心を通る綱挿通管体3が貫通しており、綱挿通管体3の一端部と中空体2とは互いに溶着されている。その溶着部分4は、綱挿通管体3の長手方向に拡がる圧縮部5を形成しており、図示の実施の形態では、圧縮部5は段階状をなしている。綱挿通管体3は、その両端部が開口方向に滑らかな拡径状となっており、以下その部分をチューリップ部6と称することとする。中空体2の圧縮部5に連なる部分は平坦部7として、圧縮部5において綱挿通管体3と中空体2との溶着強度を向上させている。なお、綱挿通管体3の他端部側も上記一端部の構成と対称となるだけで同構成であるから、その説明を省略する。」(公報第3頁第3欄の【0012】?【0013】)
(ニ)「また、綱挿通管体3は、中空体2と別体の成形品である。その構成材料は、中空体2と同質のものまたは異質のものの何れであってもよいが、綱挿通管体3と中空体2との溶着強度を向上させるためには同質のものが好適である。…」(公報第3頁第3?4欄の【0016】)

上記記載事項並びに図面に示された内容を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「熱可塑性樹脂から成る中空体をフロート本体とするフロートであって、中空体を貫通する綱挿通管体を有していて、綱挿通管体の両端部と中空体とは互いに溶着されている、水中に仕掛けた漁網などを水面に浮上保持するためのフロート。」

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証(以下、「刊行物2」という。)には、「フロート」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 チタンまたはチタン合金により、内部が中空(3)のフロート本体(4)を形成したことを特徴とするフロート。」(公報第2頁の特許請求の範囲)
(ロ)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、例えば養殖漁業いけすの網を海上または海中に浮かせたり、游泳区域を示したり、あるいはブイ等に用いる水に浮くフロートに関するものである。」
(ハ)「【0009】【実施例】本発明のフロートは図1,図2に示すように、チタンまたはチタン合金を材料とするもので、上体1と下体2を重ね合わせて結合し、内部が中空3のフロート本体4を形成したものである。
【0010】上体1は下向きに開口する椀形状をしており、その上部が平らで、中間部は対向する位置に開放口5,5を設け、これら開放口5,5を円筒状をした同一材料のチタンまたはチタン合金による筒体6により連結すると共に、両開放口5,5の口縁と筒体6の両端とを溶接し、さらに下端縁の全周に外向きのツバ7aを設けたものである。下体2は上体1とは逆に、上向きに開口し、且つ上体1と同一の開口径をした椀形状をしており、その上端縁の全周にわたって外向きのツバ7bを設け、底面にはバランサー8を溶接したものである。…(中略)…
【0011】上体1と下体2の結合はツバ7aの下側とツバ7bの上側とで重ね合わせた状態で、ツバ7a,7bを溶接し、ツバ7a,7bの縁を切り取って体裁を整えるものである。なおツバ7a,7bの溶接は、溶接部分の気密度、強靱度からシーム溶接が最も好ましい溶接方法である。なおシーム溶接は周知のように、円板状電極で金属板を挟み、電動機を用いて電極を回転させながら、連続的に溶接を行う技術である。
【0012】上記実施例のフロートは図3に示すように、筒体6に漁網の縄9を通して使用するものである。」
(ニ)「【0015】フロートに海洋生物等が付着しにくいので、付着物の除去作業が容易になり、除去作業に伴う重労働が従来に比べ大幅に改善される。しかも除去作業の回数が従来に比べて著しく減少するので、人件費が削減でき、経済的な効果も非常に大きい。またフロートは長期にわたって使用できるので、煩わしい交換作業をする必要性がほぼなくなり、そのうえ経済的でもある。さらにフロートは浮きとして使用している期間、これら金属の酸化皮膜により海を汚染しないだけでなく、海を清浄化し、しかも不要になったフロートは回収して、チタン材料として再利用できるので、自然環境との調和を図った非常に優れたものである。また従来のABS樹脂成形品と異なり、本発明のフロートは金属製品なので船からレーダーでフロートの位置を確認できるという付随的な効果もある。なおチタンは密度が4.5g/cm3 と金属として軽く、且つ強度にも優れているので、浮力と強靱性の必要なフロートとして最適なものである。」

(3)甲第3号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証(以下、「刊行物3」という。)には、「深海用浮子」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「本考案は主として深海に用いられる中空球状浮子に関する。…(中略)…中空球状浮子は、従来は第1図に示しように、2個の中空半球状浮子素体(3)(3’)を直接突き合わせて、また、その突き合わせ部の内側面に裏当金(4)をあてて溶接し、もって、1体の中空球状浮子を構成していた。」(明細書第1頁第11行?第2頁第2行)
(ロ)「第2図は本考案にかかる中空球状浮子の一部切断正面図、第3図はその平面図を示す。図示するように本考案の浮子は対称的に作られた耐食アルミニウム合金製の中空半球状浮子素体(1)(1’)の開口端…を1枚の円環状板(2)…の表面(2’)と裏面(2”)に夫々対称的にあてがい、それぞれの素体の開口端部を円環状板(2)の面に隅肉溶接する。…(中略)…中空半球状浮子素体(1)(1’)および円環状板(2)はプレス加工等により量産が可能で、また、作業性も良いので従来より品質の安定した、しかも、安価なものを提供することができる。」(明細書第2頁第19行?第3頁第19行)

(4)甲第4号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、アルミニウムに関して、アルミニウム及びアルミニウム合金の製品の形状とその製作範囲に関する記載がある。

(5)甲第5号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、「溶接継目のない液化ガス容器の製造方法及び溶接継目のない液化ガス容器」の発明が記載されている。

(6)甲第6号証の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証(以下、「刊行物4」という。)には、「漁業用浮子」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「本考案は主として定置漁業や養殖漁業に用いる浮子に関し、更に詳しくは軽量で高浮力、高耐圧性に優れた漁業用浮子に係るものである。…(中略)…該施設懸下のための浮子類は急速な勢いで海中深く引き込まれる結果浮子類には急変する水圧附加力がかかることとなるため、かかる水圧変化に十分耐えうる耐圧性能をも要求される。然るに現在定置漁業や養殖漁業に使用されている浮子類は、主としてポリエチレン、ABS等の合成樹脂若しくは鉄板材、アルミ板材等の金属板材を用いて単に中空構造となした球型或いは枕型のもの並びに…のものであって、これら浮子類のうち中空構造のものは耐圧性能を高める対策として素材の成型肉厚を厚くすることに終始している結果、高浮力高耐圧性の浮子には成型肉厚を極めて厚くすることになり、…等問題がある。」(明細書第1頁第16行?第3頁第10行)
(ロ)「本考案はかかる現状に鑑みなされたもであって、本考案は金属性板材を用いて円筒形となし、…(中略)…金属性板材好ましくは強靱で軽量なアルミ板材を用いて円筒形になすとともに、…螺形筒体(1)が作成される。而して螺形筒体(1)の端部(11A)及び(11B)には該螺形筒体(1)と同様な素材を用いてなる側蓋(2)がそれぞれ圧着嵌合されてなるものであるが、該側蓋(2)はそれぞれ外側に向かって球面状に湾曲形成された球面隆起部(21A)、(21B)を有するとともに、その基部には螺形筒体(1)の端部(11A)、(11B)とを互に折合させるうえ圧着嵌合させるための嵌合縁部(22A)、(22B)が形成されているものである。螺形筒体(1)と側蓋(1)との圧着嵌合の方法は、螺形筒体(1)の端部(11A)、(11B)をそれぞれ外側に折曲げて折合縁部(12A)、(12B)となすとともに、一方側の端部(11A)並びにその折合縁部(12A)の間に側蓋(2)の嵌合縁部(22A)を内側に折曲げてなる嵌合折合縁部(23A)を挟持させるようにしつつ加圧装置等を用いて、端部(11A)、嵌合折合縁部(23A)並びに折合縁部(12A)を圧着嵌合させるもので、他方側においても同様になされる。」(明細書第4頁第4行?第5頁第15行)

5.当審の判断
(5-1)本件発明1について
(イ)対比
そこで、本件発明1と引用発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、引用発明における「水中に仕掛けた漁網などを水面に浮上保持するためのフロート」は本件発明1における「浮子」に、引用発明における「綱挿通管体」は、「管体」が円筒形状を有するものであることが自明であるから本件発明1における「円筒状の支持部材挿入部」に、引用発明における「中空体」を成す「フロート本体」は本件発明1における「中空部を形成した」「外形部材」に、それぞれ相当するといえる。
また同様に、引用発明における「綱挿通管体」が「中空体を貫通する」とともに、その「両端部」が「中空体とは互いに溶着されている」点は、本件発明1における「支持部材挿入部を中央に有し、当該支持部材挿入部を貫通した中央の芯部とするように当該円筒状の支持部材挿入部の周囲を囲む」「外形部材にて中空部を形成した」点に、相当するといえる。

してみると、両者は、
「円筒状の支持部材挿入部を中央に有し、当該支持部材挿入部を貫通した中央の芯部とするように当該円筒状の支持部材挿入部の周囲を囲む外形部材にて中空部を形成した浮子。」(以下、「一致点」という。)である点で一致し、次の点で相違するということができる。

(相違点1)
「浮子」の「支持部材挿入部」及び「外形部材」を形成する素材に関して、本件発明1が「アルミニウム合金製」としたのに対して、引用発明が、「熱可塑性樹脂」を用いている点。
(相違点2)
「外形部材」に関して、本件発明1が「アルミニウム合金の圧延材からなる」ものであるのに対して、引用発明が、そのような圧延材からなるものではない点。
(相違点3)
「支持部材挿入部」に関して、本件発明1が「アルミニウム合金押出形材からなる」ものであるのに対して、引用発明が、そのような押出形材からなるものではない点。

そこで、上記の各相違点1?3について、以下検討する。

(ロ)各相違点の検討
(相違点1について)
ところで、本件の特許明細書の段落【0005】に、従来技術に関して、「また、上記のような樹脂製浮子の欠点を解消し、海洋生物の付着がしにくく、海水に対する耐久性が期待できるチタン製の浮子が提案されている(特開平8-9836号)。しかし、チタンの比重が4.5と比較的重く、所定の浮力を得るには中空部を形成するための板厚を薄くせざるを得ず、しかも、しぼり加工等の成形性が悪く、比較的簡単な形状にしか成形できないため、海水中に網等に引っ張られて一時的に沈んだ際の耐水圧に劣り、しかも、材料費が高く、未だに実用化されていないのが現状である。」との記載がある。
そして、上記例示された「特開平8-9836号」である刊行物2を見ると、「フロートは図1,図2に示すように、チタンまたはチタン合金を材料とするもので、上体1と下体2を重ね合わせて結合し、内部が中空3のフロート本体4を形成したものである。」との記載が、また、「上体1は下向きに開口する椀形状をしており、その上部が平らで、中間部は対向する位置に開放口5,5を設け、これら開放口5,5を円筒状をした同一材料のチタンまたはチタン合金による筒体6により連結すると共に、両開放口5,5の口縁と筒体6の両端とを溶接し、」との記載がある(上記「4.」(2)の(ニ)参照)。
そうすると、浮子の中空部を形成する外形部材とこれを貫通する支持部材挿入部とを、チタンまたはチタン合金等の比較的比重の軽い金属であるところの同一の金属素材で形成することは、当業者において、従来より周知の形成手法であったということができる。
また、刊行物3には、「深海用浮子」ではあるものの、中空球状浮子を耐食アルミニウム合金製のもので構成することが示されており、同様に、刊行物4には「漁業用浮子」を、アルミ板材等の金属板材を用いて中空構造となした球型のものを用いることが示されていることからして、海中に沈めた態様で使用される浮子や漁業用に使用される浮子等を(比較的比重の軽い金属である)アルミニウムないしアルミニウム合金製のものとすることは、従来より周知の技術であったということができる。
してみると、相違点1に係る本件発明1の構成は、引用発明のフロートが備える「フロート本体」及び「綱挿通管体」を形成する素材を、熱可塑性樹脂のものに代えて、より耐圧性等に優れている同一の(比較的比重の軽い)金属素材のものと変更することとし、その(比較的比重の軽い)金属素材として、従来より浮子を形成する素材として用いられていたところの刊行物3に示されたような「アルミニウム合金製」のものを選択することにより、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(相違点2について)
上記相違点1において、「深海用浮子」ではあるものの、中空球状浮子を耐食アルミニウム合金製のもので構成することが示されていると説示したところの刊行物3には、その「中空半球状浮子素体(1)(1’)…はプレス加工等により量産が可能で」あることが併せて記載されており、また、上記したように、刊行物4には「漁業用浮子」を、アルミ板材等の金属板材を用いて中空構造となした球型のものを用いることが示されている。
そして、半球状等の中空構造にプレス加工等されるところの(アルミ板材等の)金属板材としては、通常、圧延機等によって所定の厚さの板状に圧延加工された素材、すなわち、圧延材が一般的に使用されていることも、当業者にとって良く知られている事項である。
(ちなみに、甲第7号証(第2頁右欄の第28?49行参照)に、「アルミニウム合金は板、…などの展伸材、…などの鋳物材に大別される」こと、「展伸材…は、非熱処理型合金と熱処理型合金に大別される」こと、並びに「非熱処理型合金は、…圧延…などの冷間加工によって、…所定の強度を得うるものである。」ことが記載されているように、アルミニウム合金の板材として「圧延」加工されたもの(圧延材)は、従来より一般的に使用されている素材である。)
してみると、相違点2に係る本件発明1の構成は、上記相違点1において説示したところの引用発明が備える中空体である「フロート本体」(中空部を形成する「外形部材」)の形成素材として「アルミニウム合金製」のものを選択した際に、(半球状等の中空構造に加工される)金属板材として従来より一般的に使用されている「圧延材」を採用することにより、当業者が容易に採用し得たものといえる。

(相違点3について)
同様に、乙第13号証(第1096頁の左欄参照)にも示されるように、押出し加工という加工手法を用いて形成されたアルミニウムないしアルミニウム合金を用いた管材は、従来より一般的に知られていたものであり、他方、当該押出し加工としてホローダイ方式を採用すると、「被加工材の再接合に伴ってポート孔数に対応する溶着線(weld line)が存在する」こととなることも、一般的に知られていた技術事項であるといえる。
ところで、被請求人は、口頭審理陳述要領書(例えば、第4?5頁)において、乙第15号証等を提示し、上記押出し加工により形成されたところの押出形材が備える溶着線部分が優先腐食し易いものとして(当業者により)認識されていたことから、当業者が、これを海中に沈むことがある浮子の素材として採用することを想起することが困難な実情にあった旨を主張している。
そこで、乙第15号証(特開平11-172387号公報)を見ると、確かに、その段落【0008】に、「Al-Mn系合金は比較的耐食性に優れ、強度も有するので、JIS3003(Mn量1.0?1.5wt%)、JIS3203(Mn量1.0?1.5wt%)、JIS7N01(Mn量0.2?0.7wt%)等の合金が工業的に広く使用されている。しかしポートホール押出中空材は、前記優先腐食の問題がある為、耐食性が重視される用途には、その適用が差し控えられる場合が多かった。」との記載がある。
しかしながら、同上乙第15号証には、その段落【0009】に、「ポートホール押出法で複数の押出ビレットを連続して押出す場合、溶着部の優先腐食は押出材の長手方向に一様に発生するのではなく、1押出ビレットの押出材の頭側で腐食傾向が強く、尻側で弱まる傾向がある。この傾向は合金成分や押出材の形状等に左右され、前記優先腐食は尻側に向けて徐々に緩和され、尻側では殆ど生じない場合もある。」との記載が、また、段落【0010】に、「本発明者は、前記優先腐食について詳細に調査した。その結果、押出過程でMn含有化合物が多量に析出し、このときの析出量は溶着部と非溶着部とで差があり、この為溶着部が優先腐食することを知見した。そしてこの析出量の差が押出前の鋳塊の均質化処理でMn含有化合物を予め析出させておくことにより低減できることを見いだし、更に研究を進めて本発明を完成させるに至った。本発明は、ポートホール押出法を用いて製造され、溶着部の優先腐食が改善されたAl-Mn系合金中空材及びその製造方法の提供を目的とする。」との記載がある。
そうすると、本件特許の出願日前には、溶着部の優先腐食が改善されたところのアルミニウム合金を用いた押出形材やその製造方法等が当業者により知られていたといえるのであるから、押出形材が備える溶着線部分が優先腐食し易いものとして、海水に浸る製品等に当該溶着線を有する押出形材が一般的に不向きであるという認識が、仮に、当業者間に存在したといえるとしても、このような押出形材の全てが海水に浸る製品等を構成する素材として全く使用できないとか、或いは使用してはならないというまでの認識が、当業者間に存在していたということはできない。
してみると、相違点3に係る本件発明1の構成は、上記相違点1において説示したところの引用発明が備える「綱挿通管体」(「円筒状の支持部材挿入部」)の形成素材として「アルミニウム合金製」のものを選択した際に、アルミニウムないしアルミニウム合金を用いた管材として従来より一般的に知られている(押出し加工という加工手法を用いて形成された)押出形材を採用することにより、当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。

(5-2)本件発明2について
(イ)対比
同様に、本件発明1を引用する発明であるところの本件発明2と引用発明1とを対比すると、その機能ないし構造から見て、両者は、上記「(5-1)」の一致点で一致し、上記「(5-1)」の相違点1?3に加えて、次の相違点4で相違するといえる。

(相違点4)
「外形部材」と「円筒状支持部材挿入部」との接合構造に関して、本件発明2が「浮子の中空部を形成する複数の外形部材及び当該外形部材と円筒状の支持部材挿入部を圧接手段にて接合した」ものであるのに対して、引用発明が、そのような接合構造を備えていない点。

(ロ)各相違点の検討
(相違点1?3について)
相違点1?3については、上記「(5-1)」の「(ロ)各相違点の検討」において説示したとおりである。

(相違点4について)
ところで、刊行物4には「漁業用浮子」を、アルミ板材等の金属板材を用いて円筒形の中空構造を形成することが示されているとともに、このような円筒形の中空構造を形成するに際して、「一方側の端部(11A)並びにその折合縁部(12A)の間に側蓋(2)の嵌合縁部(22A)を内側に折曲げてなる嵌合折合縁部(23A)を挟持させるようにしつつ加圧装置等を用いて、端部(11A)、嵌合折合縁部(23A)並びに折合縁部(12A)を圧着嵌合させる」という接合構造を採用したこと、言い換えれば、円筒状の筒体と当該筒体の両端を塞ぐ蓋部材との接合を加圧装置等の圧着手段(本件発明3の「圧接手段」に相当する。)を用いて形成することが、併せて記載されている。
(ちなみに、アルミニウムないしアルミニウム合金を用いて中空構造を形成する際に、それらの構成要素間の接合に圧接手段や溶接手段を用いることは、例を示すまでもなく、従来より一般的な接合手法であるといえる。)
してみると、相違点4に係る本件発明2の構成は、上記相違点1において説示したところの引用発明が備える「フロート本体」(中空部を形成する「外形部材」)及び「綱挿通管体」(「円筒状の支持部材挿入部」)の形成素材として「アルミニウム合金製」のものを選択した際に、これらの接合手段として、刊行物4に示されたような圧着手段(「圧接手段」)を採用することにより、当業者が適宜採用し得たものといえる。

(5-3)本件発明3について
(イ)対比
また同様に、本件発明1を引用する発明であるところの本件発明3と引用発明1とを対比すると、その機能ないし構造から見て、両者は、上記「(5-1)」の一致点で一致し、上記「(5-1)」の相違点1?3に加えて、次の相違点5で相違するといえる。

(相違点5)
浮子の中空部を形成する複数の外形部材の接合構造に関して、本件発明3が「浮子の中空部を形成する複数の外形部材を接合する際に、接合部裏側に補強部材を設けて溶接接合した」ものであるのに対して、引用発明が、そのような接合構造を備えていない点。

(ロ)各相違点の検討
(相違点1?3について)
相違点1?3については、上記「(5-1)」の「(ロ)各相違点の検討」において説示したとおりである。

(相違点5について)
同様に、刊行物3には、中空球状浮子を形成する際に、「2個の中空半球状浮子素体(3)(3’)を直接突き合わせて、また、その突き合わせ部の内側面に裏当金(4)をあてて溶接し、もって、1体の中空球状浮子を構成していた。」ことや「耐食アルミニウム合金製の中空半球状浮子素体(1)(1’)の開口端…を1枚の円環状板(2)…の表面(2’)と裏面(2”)に夫々対称的にあてがい、それぞれの素体の開口端部を円環状板(2)の面に隅肉溶接する。」ことが記載されている。
してみると、相違点5に係る本件発明3の構成は、上記相違点1において説示したところの引用発明が備える「フロート本体」(中空部を形成する「外形部材」)の形成素材として「アルミニウム合金製」のものを選択した際に、その外形部材の形成方法として、刊行物3に示された浮子の外形部材の形成方法を採用することにより、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(5-4)まとめ
そして、本件発明1?3の奏する効果も、引用発明及び刊行物2?4の記載事項並びに従来より周知の技術から当業者が予測し得るものであって、格別なものということができない。

なお、被請求人は、答弁書(第4頁)において、本件発明につき「アルミニウム合金の圧延材及び押出形材の特徴を最大限に生かしつつ、浮子の中央部に芯部として円筒状の支持部材挿入部を形成する新規構造としたことにより、高い耐水圧性と優れた耐久性が実現できた」との格別の効果を奏する旨を主張している。
しかしながら、浮子の中央部に芯部として円筒状の支持部材挿入部を形成する構造は引用発明も備えるものであり、また、当該構造を備えた引用発明の形成素材として、アルミニウム合金の圧延材や押出形材を用いる構成が当業者により容易に想到し得るものであることも上記説示したとおりである。
そして、刊行物4に「浮子類は急速な勢いで海中深く引き込まれる結果浮子類には急変する水圧附加力がかかることとなるため、かかる水圧変化に十分耐えうる耐圧性能をも要求される。」との記載があるように、浮子には、従来より、このような水圧変化に十分耐えうる耐圧性能が要求されるということが当業者により認識されていたということができ、また、被請求人が、口頭審理陳述要領書(例えば、第5頁)において、「本件特許の出願時においては、…海水中等の腐食環境下では優先腐食の恐れが高く、当業者においては、浮子の材料として少なくともアルミニウム合金の押出材を採用するという技術的思想は存在し得なかった。」と主張するように、本件特許の出願前に、当業者において、浮子は海水中等の腐食環境下で使用されるものであるから、当該腐食環境下に耐え得る性能が要求されるという認識も存在していたということができる。
そうすると、浮子に上述の性能ないし特性が要求されることを認識していた当業者は、上記容易に得られた構成を備える浮子が、高い耐水圧性と優れた耐久性を実現できることも、普通に予測し得たというべきである。

以上のことから、本件発明1?3は、引用発明及び刊行物2?4の記載事項並びに従来より周知の技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものといえる。

6.むすび
以上のとおり、他の証拠について検討するまでもなく、本件発明1?3の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-20 
結審通知日 2006-12-25 
審決日 2007-01-05 
出願番号 特願2001-299075(P2001-299075)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 宮川 哲伸
西田 秀彦
登録日 2005-09-22 
登録番号 特許第3723111号(P3723111)
発明の名称 アルミ製浮子  
代理人 大谷 嘉一  
代理人 西 孝雄  
代理人 大谷 嘉一  
代理人 湯田 浩一  
代理人 西 孝雄  

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