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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1152963
審判番号 不服2003-7314  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-28 
確定日 2007-02-21 
事件の表示 特願2000-579242「生薬を主成分とした安定化された抗ガン剤組成物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月11日国際公開、WO00/25802、平成14年 9月 3日国内公表、特表2002-528511〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成11年11月 3日(パリ条約による優先権主張1998年11月 3日、韓国、1998年11月11日、韓国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成14年10月 2日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「粉末化した白頭翁根(Pulsatillae Radix)0?100重量%及び粉末化した楡皮(Ulmaceae Cortex)0?100重量%(ただし、白頭翁根及び楡皮が共に0重量%であることはない)を60℃未満で溶媒に抽出し、抽出物を濾過し凍結乾燥させて得られる白頭翁根抽出物及び/又は楡皮抽出物を有効成分として含む抗ガン剤組成物。」

2.引用例の主な記載事項と引用発明

原査定の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平3-93725号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

2-a.「白頭翁…の抽出液又はそのエキスを含有する抗癌剤。」(特許請求の範囲の請求項2)

2-b.「本発明で使用する各々の生薬は、乾燥させた後、そのまま微細粉末化するか又は水、低級アルコール…又はその他有効成分を溶解することのできる溶剤で、0℃乃至使用される溶剤の沸点温度の範囲で、…浸出した後、溶剤を揮散させたエキスを使用する」(第2頁左下欄第1-7行)

2-c.「実施例5
粉末化した乾燥白頭翁62.6g、人参31.3g及び甘草10gを、精製水900mlに入れて蒸発した水の量だけ精製水を補充しながら約60℃で60分間抽出する。抽出液を濾過した後、濾液を濃縮してエキス約26.4gを得る。」(第3頁右上欄第19行-左下欄第5行)

2-d.「実施例7
実施例5で得たエキス 130mg

生理的食塩水を加えて 2mlとする
上記の溶液を、通常の方法で2mlのアンプルに充填した後滅菌する。」(第3頁左下欄第13-20行)

2-e.「実験例5(人体投与:志願者)
対象:乙(当時66歳)
病名:肺癌

投薬期間:1988.4.8?1988.11.23(7カ月15日間)
実施例7の注射剤を1日1回筋肉注射した。
1988.12.5日付、癌細胞消失判定(啓明大学校東山病院)。」(第5頁右上欄第12-19行)

「白頭翁の抽出液のエキスを含有する抗癌剤」(2-a)における「白頭翁の抽出液のエキス」として具体的に記載されているものが実施例5のエキス(2-c)であり、これは注射剤にして人体投与すると癌細胞を消失させるもの(2-d、2-e)である。
そうすると、引用例には、「粉末化した乾燥白頭翁62.6gを約60℃で精製水に抽出し、抽出液を濾過し、濾液を濃縮して得られるエキスを含有する抗癌剤」の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用発明」という。)

3.対比

引用発明の粉末化した乾燥白頭翁の重量%は約60重量%(2-c。62.6/(62.6+31.3+10)×100)であり、水は溶剤である(2-b)から、本願発明と引用発明とは、
「粉末化した白頭翁根(Pulsatillae Radix)約60重量%を溶媒に抽出し、抽出物を濾過した濾液から得られるものを有効成分として含む抗ガン剤組成物」
である点で一致し、両者は、
(a)本願発明の抽出温度が「60℃未満」であるのに対し、引用発明のそれが「約60℃」である点(相違点1)、
及び
(b)本願発明においては「濾液から得られるもの」が「凍結乾燥させて得られる白頭翁根抽出物」であるのに対し、引用発明のそれが「濃縮して得られるエキス」である点(相違点2)、
の二点で相違する。

4.判断

(1)相違点1について
抽出温度は「0℃乃至使用される溶剤の沸点温度の範囲」であってよく(2-b)、しかも、この温度の範囲は、エキス剤では当業者に普通の抽出温度範囲(冷浸:15-25℃、温浸:35-45℃)を含むものである。(例えば、第13改正「日本薬局方解説書」、1996年、第A67-70頁参照)
そして、高い抽出温度では、熱に不安定な生薬成分の分解に注意しなければならないのも当業者には当然の技術常識である。(例えば、津田恭介、野上寿編集代表「医薬品開発基礎講座XI 薬剤製造法(上)」株式会社地人書館、昭和46年7月10日、第16頁(c)参照)
してみれば、生薬成分の分解低減という観点から、引用発明の抽出温度「約60℃」が適当かどうかを調べ、必要に応じ、引用例に記載され、また当業者に普通の抽出温度を含む「0℃乃至使用される溶剤の沸点温度の範囲」内で好適な抽出温度を検討するのは当業者が適宜行いうる程度のことといえる。
さらに、そうして決定された抽出温度範囲「60℃未満」も、結局当業者にとって普通の抽出温度範囲を含み、何ら意外なものではない上、抽出温度範囲をそのように設定したことによる予測し得ない効果もない。

(2)相違点2について
引用発明の「濃縮して得られるエキス」は、「溶剤を揮散させたエキス」である(2-b、2-c)。
一方、生薬抽出液から溶剤を揮散させたエキス剤には乾燥エキス剤があり、それは液剤よりも安定性・保存性が優れること、及び、乾燥エキス剤を得るための乾燥方法の一つに、化学変化等が極めて少ない凍結乾燥(冷凍乾燥)があること、は、当業者に周知の事項である。(例えば、第13改正「日本薬局方解説書」、1996年、第A67-70頁、津田恭介、野上寿編集代表「医薬品開発基礎講座XI 薬剤製造法(上)」株式会社地人書館、昭和46年7月10日、第29頁1.3.1、第31頁(C)参照)
そして、乾燥エキス剤の安定性は製品化に際し当業者が通常考慮・検討する必要のあることであるから、安定な「溶剤を揮散させたエキス」を検討し、優れた乾燥方法として当業者に周知の凍結乾燥で溶剤を揮散させた乾燥エキスである「凍結乾燥させて得られる白頭翁根抽出物」を採用するのは、当業者が容易に着想することである。
また、そうしたことによる効果(安定で、長期間保存した後でも品質及び有効性に変化がない)も当業者が予測しうる範囲のものである。

5.むすび

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-19 
結審通知日 2006-09-26 
審決日 2006-10-10 
出願番号 特願2000-579242(P2000-579242)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 内田 俊生
特許庁審判官 横尾 俊一
吉住 和之
発明の名称 生薬を主成分とした安定化された抗ガン剤組成物及びその製造方法  
代理人 三品 岩男  

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