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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E02D
管理番号 1152987
審判番号 不服2005-5937  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-06 
確定日 2007-02-21 
事件の表示 平成11年特許願第121586号「擁壁施工方法及び擁壁装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月14日出願公開、特開2000-314143〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年4月28日の出願であって、平成17年3月1日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月28日に手続補正がなされたものである。

2.平成17年4月28日付手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年4月28日付手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正発明
本件補正は、請求項7を次のとおりに補正することを含むものである。
「積み上げ方向に貫通孔を備えたパネルと、
前記パネルの縦方向の長さより長く、前記パネルの貫通孔に一方の端部を下から上に向けて貫通して前記パネルから突出させ、前記パネルを緊張固定する固定用定着部材と、
前記固定用定着部材の他方の端部を保持し、法面の底盤に打設された基礎ブロックとを備え、
前記パネルと法面との間に軽量盛土材が打設されていることを特徴とする擁壁装置。」
(以下、「補正発明」という。)

上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、上記補正発明が、その特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

なお、ここで、上記「前記パネルの縦方向の長さより長く、…前記パネルから突出させ…る固定用定着部材」の意味を検討しておく、
請求人が審判請求書で、
「(2)補正の根拠の明示 平成17年4月28日付け手続補正書における補正事項は、出願当初の明細書の[0013]の記載及び[図13][図14][図15]に基づくものである。」
と述べている点、および出願当初の明細書に、
「【0013】そして、基礎ブロック1には、固定用定着部材3の端部が埋め込まれている。具体的には、基礎ブロック1に固定用定着部材(例えば、PC鋼棒)の一部が埋め込まれ、その他端が突出した構成とし、当該突出した端部にPC鋼棒等を取り付けて定着用部材3を形成している。この定着用部材3は、積み上げられてコンクリート外壁(単体パネル)2の縦方向の長さに応じて継ぎ足され、最終的には積み上げられた単体パネル2の縦方向の長さより長くなるものである。」、
「【0017】そして、単体パネル2の貫通孔2aに定着用部材3を貫通させ、プレートとナット(連結ナット)を用いて単体パネル2に対して定着用部材3を緊張して単体パネル2を基礎ブロック1に固定する。この緊張により、単体パネル2は鉛直方向に自立する。」、
「【0019】更に、単体パネル2上に次に単体パネル2を積み重ねる。この場合も、上記と同様に、積み重ねる次の単体パネル2に設けられた貫通孔2aに継ぎ足した固定用定着部材3を貫通させてプレートとナットで緊張して締め付け、下段の単体パネル2上に上段の単体パネル2を固定する。…」、
「【0021】…このようにして、本実施の形態に係る例では8段まで単体パネル2を積み上げて第1段目の擁壁を形成している。…」、
「【0032】…基礎ブロック1から突出した固定用定着部材3は、プレート3bと連結ナット3aを用いて緊張締結されると共に別の固定用定着部材3と連結している。固定用定着部材3は、同様にプレート3bと連結ナット3aを用いて継ぎ足され、積み上げられる単体パネル2の数に応じて、例えば、6?8m程度の長さとなるものである。」等とあることからして、

「基礎ブロックに埋め込まれた固定用定着部材も含めた、複数の固定用定着部材の連結された全長は、積み上げられたパネルの縦方向の全長よりも長くなること。及び、連結された固定用定着部材の上端部が最上段のパネルから突出している。」との主旨であるものと解する。

また、「基礎ブロック」及び「軽量盛土材」の定義は、本願明細書の「【0037】…基礎ブロック(台座)1を設置する。尚、台座は、現場打ちを行って製造するか、またはプレキャスト製を用いるものとする。…」及び「【0018】…法面と単体パネル2との間の空間には、コンクリート又はエアーモルタル等の軽量盛土材Bを打設する。…」によるものとする。

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布されている刊行物である、実願平2-125475号(実開平4-82044号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献」という。)には、「擁壁ブロックの接合構造」に関して、以下の技術事項が記載されている。
(ア)「上下の擁壁ブロック1,1の縦孔2,2に連結用鋼材3を貫通して挿入し、位置決め盤を中央孔5にて鋼材3に嵌合し、位置決め盤4を上側の擁壁ブロック1の縦孔2の上端拡大部6に嵌め入れて、位置決め盤4を上端拡大部6の内底面6aに当接させ、鋼材3の上端螺子部7に螺合したカプラー8を位置決め盤4の上面4aに当接させて、上下の擁壁ブロック1,1を締め付け連結し、上下の縦孔2,2にグラウト9を注入して鋼材3を上下の擁壁ブロック1,1に定着し、カプラー8に次段側の連結用鋼材3の下端螺子部10を螺合し、カプラー8を次段の擁壁ブロック1の縦孔2の下端拡大部11に収容した擁壁ブロックの接合構造」(明細書1頁5?18行)
(イ)「本考案は工場生産された擁壁ブロックを基礎コンクリート上に積み上げて擁壁を築造する時に用いられる接合構造に関するものである。」(明細書2頁1?3行)
(ウ)「図示の実施例では、擁壁ブロック1の背面に左右2個の控え壁12,12を突設してあり、連結用縦孔2は各控え壁12に前後2個設けてある。擁壁ブロック1は基礎コンクリート15上に順次積み上げられる。基礎コンクリート15には最も下側の連結用鋼材3の下端部が定着され、最も下側の擁壁ブロック1と基礎コンクリート15は、該鋼材3と注入グラウト9によって接合連結される。各縦孔2の上端拡大部6と下端拡大部11は、内底面に向かう程直径が減少したテーパー状凹部に形成されている。連結用鋼材3としては、グラウト9との付着性をよくするために、外周面に凹凸が形成された異形のPC鋼棒を使用している。」(明細書5頁1?14行)
(エ)「本実施例のように擁壁ブロック列が水平面に対して傾斜した法築では、擁壁ブロック列の背後空間に対する裏盛土16や裏込めコンクリートの施工は必要に応じて何回かに分けて段階的に実施される。擁壁ブロック列が水平面に対して直角となる直築では、全段の擁壁ブロックを積み上げて接合連結した後、裏盛土16の施工が一回でなされる。縦孔2に対するグラウト9の注入も全段を通して一回でなされるか、必要に応じて複数回に分けて実施される。本実施例では、一本の鋼材3は上下2段の擁壁ブロック1,1に通されているが、連結用鋼材3を挿入する擁壁ブロック1の単位数は1段または3段以上に設定することもできる。」(明細書6頁13行?7頁6行)
(オ)「また、本考案の接合構造では、上端拡大部6の内底面6aに位置決め盤4を当接させ、鋼材3の上端螺子部7に螺合したカプラー8を該位置決め盤4の上面4aに当接させて上下の擁壁ブロック1,1を締め付け連結し、該カプラー8に次段側の連結用鋼材3の下端螺子部10を螺合し、該カプラー8を次段の縦孔2の下端拡大部11に収容するので、上下の鋼材3,3の相互連結が目視下で堅固に行うことができる。そのため、擁壁ブロック列の上下方向の応力伝達が的確になされ、設計通りの連結強度を有する擁壁を確実に築造することができる」(明細書7頁19行?8頁10行)

ここで、上記(ウ)の「…基礎コンクリート15には最も下側の連結用鋼材3の下端部が定着され、最も下側の擁壁ブロック1と基礎コンクリート15は、該鋼材3と注入グラウト9によって接合連結される。…」によれば、連結用鋼材3の連結された全長が、積み上げられた擁壁ブロックの縦方向の長さよりも長くなることは、第2図とともに明らかであるので、これらの技術事項を含む明細書全体の記載及び図面によれば、引用文献には次の発明が記載されているものと認める。かっこ内は対応する引用文献における構成・用語である。

「積み上げ方向に貫通孔(連結用縦孔2)を備えたパネル(擁壁ブロック1が積み上げられたもの)と、
前記パネルの縦方向の長さより長く、前記パネルの貫通孔に一方の端部(上端部)を下から上に向けて貫通して、前記パネルを緊張固定する固定用定着部材(連結用鋼材3が連結されたもの)と、
前記固定用定着部材の他方の端部(下端部)を保持し、法面の底盤に打設された基礎ブロック(基礎コンクリート15)とを備え、
前記パネルと法面との間に軽量盛土材(裏込めコンクリート)が打設されている擁壁装置(擁壁)。」
(以下「引用発明」という。)


(3)対比・判断
補正発明と引用発明とを比較すると、両者は、
「積み上げ方向に貫通孔を備えたパネルと、
前記パネルの縦方向の長さより長く、前記パネルの貫通孔に一方の端部を下から上に向けて貫通して、前記パネルを緊張固定する固定用定着部材と、
前記固定用定着部材の他方の端部を保持し、法面の底盤に打設された基礎ブロックとを備え、
前記パネルと法面との間に軽量盛土材が打設されている擁壁装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:補正発明では、固定用定着部材の一方の端部をパネルから突出させているのに対し、引用発明では、そうしていない点。

相違点について検討するに、両者における、パネルを緊張固定する機能・作用・効果に格別な違いはなく、固定用定着部材の上端部をパネル上面より突出させることに特段の意義も認められず、引用発明における固定用定着部材を一方の端部をパネルから突出するものとして相違点に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得る設計変更に過ぎないものと認める。

したがって、補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年4月28日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項7に係る発明は、平成17年2月2日付手続補正書の請求項7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「積み上げ方向に貫通孔を備えたパネルと、
前記パネルの貫通孔に一方の端部を下から上に向けて貫通して前記パネルを緊張固定する固定用定着部材と、
前記固定用定着部材の他方の端部を保持し、法面の底盤に打設された基礎ブロックとを備え、
前記パネルと法面との間に軽量盛土材が打設されていることを特徴とする擁壁装置。」
(以下、「本願発明」という。)

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した補正発明から、固定用定着部材に関する限定事項である「前記パネルの縦方向の長さより長く、」と「前記パネルから突出させ、」という構成を省いたものである。
そうすると、本願発明は、補正発明が有していた引用発明との相違点を有しないものとなり、本願発明と引用発明との間に差異はないものとなる。

(4)むすび
したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-24 
結審通知日 2005-11-29 
審決日 2006-12-19 
出願番号 特願平11-121586
審決分類 P 1 8・ 113- Z (E02D)
P 1 8・ 575- Z (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 草野 顕子  
特許庁審判長 安藤 勝治
特許庁審判官 柴田 和雄
西田 秀彦
発明の名称 擁壁施工方法及び擁壁装置  
代理人 船津 暢宏  
代理人 阪本 清孝  
代理人 阪本 清孝  
代理人 船津 暢宏  

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