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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1154230
審判番号 不服2004-12527  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-17 
確定日 2007-03-15 
事件の表示 特願2000-313033「III族窒化物膜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月26日出願公開、特開2002-124472〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年10月13日の出願であって、平成16年5月21日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年6月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされると共に、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成16年6月17日付手続補正について
(1) 補正却下の決定の結論
平成16年6月17日付の手続補正を却下する。

(2) 理由
(2-1)補正後の本願発明
本件補正により特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】MOCVD法により、膜中に含まれる全III族元素に対し、少なくともAlを70原子%以上含有するIII族窒化物膜を製造する方法であって、前記MOCVD法に用いる反応管内の露点の監視を通じて、前記反応管内の水分量を間接的に監視しながら、前記III族窒化物膜のX線ロッキングカーブ半値幅が90秒以下となるように前記III族窒化物膜を製造することを特徴とする、III族窒化物膜の製造方法。」(以下、「補正発明1」という)と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項であるAlを「70原子%以上」とし、「前記III族窒化物膜のX線ロッキングカーブ半値幅が90秒以下となるように」の構成を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
次に、補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(理由1)
補正発明1は、
「前記III族窒化物膜のX線ロッキングカーブ半値幅が90秒以下となるように」の構成を付加した発明であるが、単に達成すべき結果のみが記載されているにすぎず、補正発明1の製造方法において、どのように製造すればこの構成が実現されるのか、その具体的な製造方法が請求項1に記載されておらず、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

(理由2)
[1]進歩性について
補正発明1の進歩性について検討する。
[2]引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本出願前に頒布された刊行物である特開平10-144581号公報(以下、「引用文献1」という)には、図面とともに、以下に摘記した事項が記載されている。
(1a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来行われていなかった半導体製造装置の反応炉内の水分量を測定し、製造プロセスにおける反応ガス中の水分に起因する薄膜の膜質や、結晶性の変化を製造行程中に検知し、不良製品の発生を極力抑え、素子製造における品質ならびに歩留まりの向上をはかることができる半導体製造装置を提供することにある。」
(1b)「【0004】
【課題を解決するための手段】上記本発明の目的を達成するために、本発明は特許請求の範囲に記載のような構成とするものである。すなわち、本発明は請求項1に記載のように、半導体製造過程の各プロセスを実施する反応炉と、該反応炉に反応ガスを導入する手段と、上記反応炉を所定の圧力にするためのガス排気手段とを少なくとも備えた半導体製造装置において、上記反応炉もしくは反応炉に接続されている部分に、反応ガス中の水分量を測定する水分計を備えた半導体製造装置とするものである。本発明の半導体製造装置に設ける水分計は、反応炉の内部、反応ガスの導入部、反応ガスの排気部のうちの少なくとも1箇所に接続して配設るものである。本発明の半導体製造装置は、請求項1に記載のように、反応炉と、ガス導入手段と、ガス排気手段、および上記反応炉に接続されている部分の雰囲気中の水分量を測定することができる水分計を設けるものであって、このような構造とすることにより、例えば、ウエハを処理する反応炉内の水分量を、ウエハの処理前、またはウエハの処理中に測定することにより、水分に起因する膜質、結晶性の劣化による不良ウエハの発生を抑制し、半導体素子製造における品質、歩留まりを向上できる効果がある。」 なお、「 配設る」は、「配設する」の誤記と認める。
(1c)「【0005】
【発明の実施の形態】以下、図1は本発明の実施の形態の一例を示す模式図である。図に示すように、反応ガスは、ガス導入部2から薄膜などを形成する被処理基板であるウエハ6等が配置されている反応炉1に導入される。そして、上記ウエハ1上に所定の薄膜を形成するか、あるいは熱酸化して所定の酸化膜を形成した後、反応ガスはガス排気手段3により排気される。この際、反応炉1に連通して接続されている部分、例えばガス排気手段3の入口部に、水分計4を取り付け、ウエハ処理時の反応ガス中の水分量を測定する。なお、水分計4の取付け位置は、反応炉1に連通して接続されているガス導入部2の接続部、または反応炉1に直接的に連通して接続されている部分に水分計4を設けても良い。そして、水分計4による反応ガス中の水分量の測定は、ウエハの処理前あるいは処理中に測定することにより、反応ガス中の水分に起因する膜質、結晶性の変化をプロセス中に検知することで、不良ウエハ等が発生するのを未然に防止することが可能となり、品質、歩留まりの向上をはかることができる。」
(1d)「【0006】
【発明の効果】本発明の半導体製造装置によれば、プロセス中に反応ガスの水分を測定することで、薄膜の結晶性、膜質の均一性を保ち、また不適当な水分量を検知した場合は、製造プロセスを中止して不良ウエハの発生を防ぐことができ、これにより半導体素子製造プロセスにおける品質、歩留まりの向上をはかれる効果がある。」

原査定の拒絶の理由に引用された、本出願前に頒布された刊行物である特開2000-91235号公報(以下、「引用文献2」という)には、図面とともに、以下に摘記した事項が記載されている。
(2a)「【0002】
【従来の技術】従来、GaN系化合物半導体素子としては、例えば図3に示すものが知られている。ここに示すGaN系化合物半導体素子は、サファイア基板1上に、GaN系化合物であるGaxAl1-xN(ただし0≦x≦1)からなるバッファ層2、Siがドープされたn型のクラッド層であるSiドープn型GaxAl1-xN層(n型クラッド層)3、Znがドープされた発光する活性層であるZnドープGaxAl1-xN層(活性層)4、Mgがドープされたp型のクラッド層であるMgドープp型GaxAl1-xN層(p型クラッド層)5が順に積層され、n型クラッド層3およびp型クラッド層5に電極6、7が設けられて構成されている。ここに示すGaN系化合物半導体素子は、青色発光ダイオードとして用いることができる。」
(2b)「【0004】上記GaN系化合物半導体素子の製造に用いるエピタキシャルウェハは、上記製造装置を用いて、以下に示すようにMOCVD法により作製される。・・・」
(2c)「【0008】
【発明の実施の形態】・・・充填容器18内のアンモニアは、少なくとも一部が液体となるように充填され、該液相のアンモニア中の水分濃度が、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で測定して0.5volppm以下となるようにされている。上記液相のアンモニア中の水分濃度は、0.4volppm以下とするのが好ましく、0.2volppm以下とするのがさらに望ましい。上記水分濃度が0.5volppmを越える場合には、上記アンモニアを用いて製造されるGaN系化合物半導体の輝度等の発光特性が低下しやすくなる。」
(2d)「【0014】上記製造方法によって作製されたGaN系化合物半導体素子が発光特性に優れたものとなるのは、上記アンモニアの水分濃度を上記範囲とすることにより、このアンモニアを原料として形成されるn型およびp型クラッド層3、5、活性層4内に混入する酸素量を低く抑えることができ、これらGaN系化合物半導体からなる層の結晶性が劣化するのを防ぐことができるためであると考えられる。
【0015】なお、上記実施形態では、上記アンモニアを原料としてGaxAl1-xNを主成分とするn型およびp型クラッド層3、5、活性層4を形成する方法を例示したが、本発明はこれに限らず、上記アンモニアを、GaN、InGaN、InGaAlN、AlGaN等のGaN系化合物からなる層を基板上に形成するGaN系化合物半導体の製造に用いることができる。」
(2e)「【0026】なお、液相のアンモニア中の水分濃度は、充填容器内の液相アンモニアをサンプリングして気化させ、得られたガス中の水分量をFT-IR(NICOLET社製、MAGNA560)を用いて測定した。ここで、液相のアンモニア中の水分濃度は、液相アンモニアをサンプリングして気化させ、得られたガス中の水分量を体積百万分率(volppm)で表したものをもって示す。
・・・
【0028】表1より、液相アンモニア中の水分濃度が0.5volppm以下であるアンモニアを用いる方法によって作製された素子は、発光特性に優れたものとなったことがわかる。なかでも特に、上記水分濃度が0.4volppm以下であるアンモニアを用いる方法によって作製された素子では、2cd以上の高い輝度が得られ、さらに、上記水分濃度が0.2volppm以下であるアンモニアを用いることによって得られた素子は、より発光特性に優れたものとなったことがわかる。」

[3]対比・判断
引用文献1の(1a)から(1d)の摘記事項より、引用文献1には、次の発明が記載されている。
「ウエハ1上に所定の薄膜を形成するにあたって、反応炉の内部に接続する水分計を配設し、ウエハを処理する反応炉内の水分量を、ウエハの処理前、またはウエハの処理中に測定することにより、水分に起因する膜質、結晶性の劣化による不良ウエハの発生を抑制し、半導体素子製造における品質、歩留まりを向上できる半導体素子製造プロセス。」(以下、「引用文献1発明 」という)
引用文献2の(2a)から(2e)の摘記事項より、引用文献2には、次の事項が記載されている。
「結晶性が劣化するのを防止したGaN系化合物半導体からなる層の作成において、液相アンモニアをサンプリングして気化させ、得られたガス中の水分量を測定し、水分濃度が0.2volppm以下であるアンモニアを用いることにより、MOCVD法で、GaxAl1-xN(ただし0≦x≦1)層を作製するGaN系化合物半導体素子の製造方法」

[3-1]補正発明1と引用文献1発明との対比
補正発明1と引用文献1発明を対比すると、
引用文献1発明における「薄膜」、「反応炉」、「反応炉内の水分量」、「半導体素子製造プロセス」は、それぞれ、補正発明1における「膜」、「反応管」、「反応管内の水分量」、「製造方法」に相当する。
また、引用文献1発明における「反応炉の内部に接続する水分計を配設し、ウエハを処理する反応炉内の水分量を、ウエハの処理前、またはウエハの処理中に測定」することは、補正発明1の「反応管内の水分量を間接的に監視」することに相当する。
引用文献1発明は、半導体素子の製造プロセスであり、出来上がった膜の結晶性を問題にしていることから見て、膜は、半導体膜であり、反応ガスを用いているので、半導体膜気相成長法により形成していると認められる。
よって、両者は、
「半導体膜気相成長法により半導体膜を製造する方法であって、半導体膜成長法に用いる反応管内の水分量を監視しながら、前記半導体膜を製造する半導体膜の製造方法。」の点で一致するが、次の点で相違する。

相違点1:補正発明1では、気相成長法により形成される半導体膜が「膜中に含まれる全III族元素に対し、少なくともAlを70原子%以上含有するIII族窒化物膜」であり、そのための気相成長法が「MOCVD法」であるのに対し、引用文献1発明では、それらの事項が特定されていない点。

相違点2:反応管内の水分の計測において、補正発明1では、「露点の監視を通じて、前記反応管内の水分量を間接的に監視」するのに対し、引用文献1では「水分量を測定する」とのみ記載されて、具体的測定方法の記載のない点。

相違点3:補正発明1では、「前記III族窒化物膜のX線ロッキングカーブ半値幅が90秒以下となるように」製造するのに対し、引用文献1では、X線ロッキングカーブ半値幅について記載のない点。

[3-2]相違点についての判断
相違点1について
引用文献2には、MOCVD法によりGaxAl1-xN(ただし0≦x≦1)を形成することが記載されている。GaxAl1-xNは、III族窒化物膜であり、Alの組成割合1-xの範囲が、0≦1-x≦1であるから、70%以上の範囲も含まれている。そして、引用文献1発明と引用例2記載の発明とは半導体膜の気相成長において、水分の除去により半導体膜の結晶性を向上させる点において共通しているので、引用文献1発明において、気相成長により形成される半導体膜を「Alを70原子%以上含有するIII族窒化物膜」とし、そのための気相成長法を「MOCVD法」とすることにより当業者が容易に想到しうるものである。

相違点2について
補正発明1における、「露点の監視を通じて、前記反応管内の水分量を間接的に監視」するとは、明細書の記載から見て、露点計を用いて水分量を測定することであると認められる。しかし、水分量を測定する手段として露点計を用いて露点を監視することは周知である(必要ならば、特開昭60-42813号公報参照)から、引用文献1発明において、水分計として周知の露点計を用い、「露点の監視を通じて、水分量を測定」することは、当業者が容易に想到しうることである。

相違点3について
X線ロッキングカーブは、特開平8-40799号公報、特開平9-64477号公報に記載されているように半導体膜の結晶性評価方法として周知であり、X線ロッキングカーブ半値幅を測定することは、単に周知の結晶性評価方法を用いたにすぎない。半値幅の値を90秒以下とすることも上記周知例に記載されており、また、90秒以下とすることによる格別な臨界的効果も認められず、適宜決めうる値にすぎない。よって、相違点の構成は、周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものである。

そして、補正発明1の作用効果も、引用例1、引用例2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

[4]むすび
以上のとおりであるから、補正発明1は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年6月17日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成15年8月12日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】MOCVD法により、膜中に含まれる全III族元素に対し、少なくともAlを50原子%以上含有するIII族窒化物膜を製造する方法であって、前記MOCVD法に用いる反応管内の露点の監視を通じて、前記反応管内の水分量を間接的に監視しながら、前記III族窒化物膜を製造することを特徴とする、III族窒化物膜の製造方法。」(以下、「本願1発明」という)

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)(理由2)[2]」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願1発明は、補正発明1の「70原子%」を「50原子%」とし、「前記III族窒化物膜のX線ロッキングカーブ半値幅が90秒以下となるように」の構成を省いたものであるから、この発明は、補正発明1と同様に、上記(2-1)補正後の本願発明、(理由2)で検討した理由により、引用文献1、2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願1発明は、引用文献1、2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-10 
結審通知日 2007-01-16 
審決日 2007-01-29 
出願番号 特願2000-313033(P2000-313033)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 宮崎 園子
綿谷 晶廣
発明の名称 III族窒化物膜の製造方法  
代理人 杉村 興作  

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