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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1154347
審判番号 無効2005-80228  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-25 
確定日 2006-07-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3187086号発明「半導体装置および半導体装置の作製方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3187086号は、平成3年8月26日に出願され、平成13年5月11日に特許請求の範囲の請求項1ないし28に係る発明について特許権の設定登録がなされた。
その後、平成17年7月25日付けで請求人トッポリー オプトエレクトロニクス コーポレイション(以下、「請求人」という。)から本件特許第3187086号の特許請求の範囲の請求項1ないし28に係る発明に対して無効審判が請求され、平成17年10月14日付けで被請求人株式会社 半導体エネルギー研究所(以下、「被請求人」という。)から答弁書が提出され、平成18年1月13日付けで被請求人から口頭審理陳述要領書が提出され、平成18年1月17日付けで請求人から口頭審理陳述要領書が提出され、平成18年1月25日付けで被請求人から上申書が提出され、平成18年1月27日付けで請求人から上申書が提出されるとともに、同日に第1回口頭審理が行われた。
なお、第1回口頭審理において、請求人は、平成18年1月17日付け口頭審理陳述要領書における甲第16号証ないし甲第20号証の新たな追加と、甲第16号証ないし甲第20号証を根拠証拠とする特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項についての主張を撤回するとともに、平成18年1月27日付けの上申書に添付された参考資料に基づく特許法第29条第1項第3号についての主張を撤回し、被請求人は、請求人の上記撤回を認めた。(第1回口頭審理調書の請求人の2及び3、並びに被請求人の2及び3を参照。)

2.請求人の主張
請求人は、本件特許第3187086号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件請求項1ないし19に係る発明は、甲第1号証ないし甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件請求項20に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件請求項20ないし28に係る発明は、甲第1号証ないし甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって、本件請求項1ないし28に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として以下の甲第1号証ないし甲第15号証を提出している。
甲第1号証:特開昭58-164268号公報
甲第2号証:特開平1-268064号公報
甲第3号証:“The Effect of Fluorine in Silicon Dioxide Gate Dielectrics”, IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, Vol. 36, No. 5, May 1989, pp. 879-889
甲第4号証:“Control of Silicon Dioxide Properties by RF Sputtering”, J. Electrochem. Soc.: SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY, Vol. 130, No. 3, March 1983, pp. 658-659
甲第5号証:“Dual HCl Thin Gate Oxidation Process”, J. Electrochem. Soc.: SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY, Vol. 129, No. 8, August 1982, pp. 1778-1782
甲第6号証:“Chlorine Levels in SiO2 Formed Using TCA and LPCVD at Low Temperatures”, J. Electrochem. Soc.: SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY, Vol. 134, No. 2, February 1987, pp. 415-419
甲第7号証:特開昭64-47076号公報
甲第8号証:特開昭64-35959号公報
甲第9号証:特開平3-9531号公報
甲第10号証:特開昭58-93273号公報
甲第11号証:特開平3-185735号公報
甲第12号証:特開平3-154383号公報
甲第13号証:特開平2-130836号公報
甲第14号証:特開平2-79027号公報
甲第15号証:特開昭61-183970号公報

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件特許第3187086号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項1ないし19に係る発明は、甲第1号証ないし甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、また、本件請求項20に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件請求項20ないし28に係る発明は、甲第1号証ないし甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、したがって、本件請求項1ないし28に係る発明についての特許は、特許法123条第1項第2号の規定により無効とすべきものではない旨主張し、証拠方法として以下の乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
乙第1号証:電子通信学会編,「LSIハンドブック」,第1版,株式会社オーム社,昭和59年11月30日,第61-62頁
乙第2号証:半導体用語大辞典編集委員会編,「半導体用語大辞典」,第1版,株式会社日刊工業新聞社,1999年3月20日,第104,106,107頁

4.本件特許発明
本件特許第3187086号の特許請求の範囲の請求項1ないし28に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明28」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項6における「前記薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極は前記第層間絶縁膜上に設けられ」という記載は、「前記薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極は前記層間絶縁膜上に設けられ」の誤記と認定した上で(第1回口頭審理調書の請求人の1及び被請求人の1を参照。)、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし28にそれぞれ記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 絶縁性基板上に形成された前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜と、
前記第1のブロッキング膜上に形成されたハロゲン元素を含有する絶縁性被膜と、
前記絶縁性被膜上に形成された薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタのチャネル領域が設けられた半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆う前記半導体膜の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜と、
を有し、
前記第2のブロッキング膜上方に前記薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極が設けられ、前記第2のブロッキング膜に設けられたコンタクトホールを介して、前記ソース電極はソース領域に、前記ドレイン電極はドレイン領域に電気的に接続されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】 絶縁性基板上に形成された前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜と、
前記第1のブロッキング膜上に形成されたハロゲン元素を含有する絶縁性被膜と、
前記絶縁性被膜上に形成された薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタのチャネル領域が設けられた半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆う前記半導体膜の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜と、
を有し、
前記第2のブロッキング膜上方に前記薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極が設けられ、前記第2のブロッキング膜に設けられたコンタクトホールを介して、前記ソース電極はソース領域に、前記ドレイン電極はドレイン領域に電気的に接続され、
前記チャネル領域はハロゲンを含むことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】 請求項2において、前記チャネル領域は1×1018個/cm3以上5×1020個/cm3以下の濃度でハロゲン元素を含有することを特徴とする半導体装置。
【請求項4】 絶縁性基板上に形成された前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜と、
前記第1のブロッキング膜上に形成されたハロゲン元素を含有する絶縁性被膜と、
前記絶縁性被膜上に形成された薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタのチャネル領域が設けられた半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆う前記半導体膜の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜と、
を有し、
前記第2のブロッキング膜上方に前記薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極が設けられ、前記第2のブロッキング膜に設けられたコンタクトホールを介して、前記ソース電極はソース領域に、前記ドレイン電極はドレイン領域に電気的に接続され、
前記ゲイト絶縁膜はハロゲンを含むことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】 請求項4において、前記ゲイト絶縁膜は1×1018個/cm3以上5×1020個/cm3以下の濃度でハロゲン元素を含有することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか一において、さらに前記第2のブロッキング層上に層間絶縁膜を有し、
前記薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極は前記層間絶縁膜上に設けられ、前記第2のブロッキング膜および前記層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを介して、前記ソース電極はソース領域に、前記ドレイン電極はドレイン領域に電気的に接続されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】 請求項1乃至6のいずれか一において、前記絶縁性被膜は酸化珪素でなることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】 請求項1乃至7のいずれか一において、前記第1のブロッキング膜は窒化珪素でなることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】 請求項8において、前記窒化珪素は化学式SiNx(1.0≦x≦1.7)で示されることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】 請求項8又は9において、前記第1のブロッキング膜の厚さは、50?1000nmの範囲にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項11】 請求項1乃至10のいずれか一において、前記第1のブロッキング膜は酸化アルミニウム又は酸化タンタルでなることを特徴とする半導体装置。
【請求項12】 請求項1乃至11のいずれか一において、前記第2のブロッキング膜は窒化珪素でなることを特徴とする半導体装置。
【請求項13】 請求項12において、前記窒化珪素は化学式SiNx(1.0≦x≦1.7)で示されることを特徴とする半導体装置。
【請求項14】 請求項12又は13において、前記第2のブロッキング膜の厚さは、50?1000nmの範囲にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項15】 請求項1乃至11のいずれか一において、前記第2のブロッキング膜は酸化アルミニウム又は酸化タンタルでなることを特徴とする半導体装置。
【請求項16】 請求項1乃至15のいずれか一において、前記薄膜トランジスタは、コプラナ型の薄膜トランジスタであることを特徴とする半導体装置。
【請求項17】 請求項1乃至15のいずれか一において、前記薄膜トランジスタは、逆スタガ型の薄膜トランジスタであることを特徴とする半導体装置。
【請求項18】 請求項1乃至17のいずれか一において、前記半導体膜のチャネル形成領域は、アモルファス、多結晶、または微結晶のシリコンを有することを特徴とする半導体装置。
【請求項19】 請求項1乃至18のいずれか一において、前記絶縁性基板はガラス基板であることを特徴とする半導体装置。
【請求項20】 チャネル形成領域、ソース領域、ドレイン領域、ゲイト絶縁膜、ゲイト電極、ソース電極、およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタが絶縁性基板上方に設けられている半導体装置の作製方法であって、
前記基板上に前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜を形成し、
前記第1のブロッキング膜上にハロゲン原子を含む絶縁性被膜を形成し、
前記絶縁性被膜上に、前記チャネル形成領域を含む半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を形成し、
前記半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆って、前記半導体の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜を形成し、
前記第2のブロッキング膜にコンタクトホールを形成し、
前記コンタクトホールを介して前記ソース領域に接続された前記ソース電極、および前記ドレイン領域に接続された前記ドレイン電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項21】 チャネル形成領域、ソース領域、ドレイン領域、ゲイト絶縁膜、ゲイト電極、ソース電極、およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタが絶縁性基板上方に設けられている半導体装置の作製方法であって、
前記基板上に前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜を形成し、
前記第1のブロッキング膜上にハロゲン原子を含む絶縁性被膜を形成し、
前記絶縁性被膜上に前記チャネル形成領域を有する半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を形成し、
前記半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆って、前記半導体の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜を形成し、
前記第2のブロッキング膜上に層間絶縁膜を形成し、
前記層間絶縁膜および前記第2のブロッキング膜にコンタクトホールを形成し、
前記コンタクトホールを介して前記ソース領域に接続された前記ソース電極および前記ドレイン領域に接続された前記ドレイン電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項22】 請求項20又は21において、前記薄膜トランジスタは、コプラナ型の薄膜トランジスタであることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項23】 請求項20又は21において、前記薄膜トランジスタは、逆スタガ型の薄膜トランジスタであることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項24】 チャネル形成領域、ソース領域、ドレイン領域、ゲイト絶縁膜、ゲイト電極、ソース電極、およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタが絶縁性基板上方に設けられている半導体装置の作製方法であって、
前記基板上に接して前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜を形成し
前記基板を大気にさらさずに、前記第1のブロッキング膜に接してハロゲンを含む絶縁性被膜を、さらに前記絶縁性被膜に接して前記チャネル形成領域が設けられる半導体膜を形成し、
前記半導体膜上にゲイト絶縁膜を形成し、
前記ゲイト絶縁膜上に前記ゲイト電極を形成し、
前記半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆って、前記半導体膜の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜を形成し、
前記第2のブロッキング膜にコンタクトホールを形成し、
前記コンタクトホールを介して、前記ソース領域に接続された前記ソース電極および前記ドレイン領域に接続された前記ドレイン電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項25】 請求項20乃至24のいずれか一において、前記第2のブロッキング膜を形成した後に前記半導体膜をアニールすることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項26】 請求項20乃至25のいずれか一において、前記絶縁性被膜は酸化珪素でなることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項27】 請求項20乃至26のいずれか一において、前記第1のブロッキング膜は窒化珪素、酸化アルミニウム又は酸化タンタルのいずれかでなることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項28】 請求項20乃至27のいずれか一において、前記第2のブロッキング膜は窒化珪素、酸化アルミニウム又は酸化タンタルのいずれかでなることを特徴とする半導体装置の作製方法。」

5.当審の判断

(1)請求人が提出した証拠方法及びその記載事項

(1-1)刊行物1:特開昭58-164268号公報(請求人が提出した甲第1号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物1である特開昭58-164268号公報には、第2図とともに、以下の事項が記載されている。
「本発明は石英板あるいはソーダガラス,ホウケイ酸ガラス等の透明基板上に形成される多結晶シリコンあるいはアモルファスシリコンの薄膜シリコントランジスターに関するものである。」(第1頁右欄第2?5行)
「従来の一般的な薄膜シリコントランジスターの製法は透明基板が石英板あるいはガラス等の絶縁基板を用いることからトランジスター形成用の薄膜シリコンを基板表面に直接形成していた。
しかしながらこれら透明基板表面は表面研磨に使用されるアルミナ粉末あるいは酸化セリウム等の研磨材が研磨キズ等の表面凹凸部に付着しておりしかも石英板は別としてその他のガラス製基板はナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオンが含有されているため、透明基板表面を一般的な洗浄をほどこしても前記汚染物等を完全に除去せしめることは不可能である。このため透明基板上に薄膜トランジスタを形成する際に加わる幾多の熱処理過程においてこれら不純物が薄膜シリコン内に侵入しTFT特性に悪影響を及ぼしON電流の低下あるいはOFF電流の異状な増加等初期歩留りの低下は勿論長期信頼性の面でも問題となる。
しかも純度の悪い透明基板においては不純物による基板の表面リークも問題視される。
そこで本発明はかかる従来の欠点を除去し信頼性の高い薄膜トランジスタの製造を可能ならしむるものであり以下本発明を実施例にもとずき説明する。」(第2頁左上欄最下行?同左下欄第4行)
「 実施例1
第2図は本発明による透明基板上に薄膜シリコントランジスタを絶縁膜6を介して形成したものである。
先ず透明基板(ソーダガラスを使用)7を充分洗浄した後CVD法にて酸化膜6を5000Å形成する。そしてこのCVD酸化膜6上に多結晶シリコン膜8を3000Å形成しホトエッチングにより該多結晶シリコン膜をトランジスタ形成部を残し他を除去する。
次に前記多結晶シリコン膜上にCVD法にてゲート酸化膜9を2000Å堆積し、つづいてゲート電極用のリンドープ多結晶シリコンを堆積し、ホトエッチングにてゲート電極を形成する。
次に前記ゲート電極をマスクにリンを高濃度にてイオン打込みする。
ソースドレインの形成されたトランジスタ部を含む透明基板主面上にCVD法にて酸化膜を5000Å堆積したのちホトエッチングによりソースドレイン部のコンタクトを開孔する。
次に金属配線材としてアルミシリコン合金を基板主面にスパッタリングしたのちホトエッチングにて金属配線10を形成する。
以上説明の如く本発明は透明基板上に薄膜シリコントランジスタを形成するに際し先ず透明基板上に純度の高いしかも透明基板とは組成の異なるCVD酸化膜を形成後薄膜シリコントランジスタを作り込むため基板中の汚染物の侵入を防ぐとともに基板表面の不純物による表面リークの防止とも合わせ特に初期TFT特性の安定化に大きな効果が得られている。
なお上記ソーダガラス基板の他ホウケイ酸ガラスあるいは他の透明ガラス基板上についても実施例1と同様の方法にて薄膜シリコントランジスタ(多結晶シリコン及びアモルファスシリコントランジスタ)を形成した場合でもやはり同様の特性安定化の確認が得られている。」(第2頁左下欄第5行?第3頁左上欄第1行)
「 実施例2
透明基板7’を充分洗浄した後基板主面上にホスヒンガスを用いて約8モルのリンシリケートガラスをCVD法にて5000Å堆積した後多結晶シリコン膜8’を3000Å形成する。以下の工程は実施例1と同様である。
絶縁膜としてリンシリケートガラスを用いることにより、リンのゲッタ作用により実施例1に増してパシベーション膜としての効果が大きく初期TFT特性の安定化は勿論のこと長期安定性でも大きな効果を得た。」(第3頁左上欄第2?12行)
「 実施例3
透明基板7”を先ず充分に洗浄した後プラズマチッカ膜形成炉にてアルゴンベース1%モノシランガスとN2ガスを用いて約350℃温度にてチッカ膜を2000Å堆積した後多結晶シリコン膜8”を形成し以下実施例1と同一工程にて薄膜トランジスタを形成した。
本チッカ膜はプラズマ中においてモノシランガスを用いて形成されるものであり低温にてしかもチッカ膜特有のち密な膜の形成が可能なことから汚染物の侵入を防止する目的として非常に有効な手段であり実施例1,2と同様又はそれ以上の効果が得られている。」(第3頁左上欄第13行?同右上欄第5行)
「なお実施例において透明基板上に形成する絶縁膜はすべて単層にて用いているが例えばCVD法による酸化膜を単層で用いるより先ずリンシリケートガラスを形成後連続してノンドープの酸化膜を形成した2層絶縁膜の方が不純物のパッシベーション効果はより効果が得られることは云うまでもなく、さらにノンドープ酸化膜にてリンシリケートガラスを両面からはさみ込み3層方式ではさらにその効果をあげることも確認されている。」(第3頁左下欄第16行?同右下欄第4行)
「以上の方法にて形成した薄膜シリコントランジスタを用いてなるアクティブマトリクス基板において薄膜シリコントランジスターのTFT特性は安定しており信号電流のON/OFF比は104以上と良好であった。」(第3頁右下欄第5?9行)

よって、刊行物1には、以下の発明がそれぞれ記載されている。

「薄膜シリコントランジスタであって、
透明基板上に形成されたリンシリケートガラスと、
前記リンシリケートガラス上に連続して形成されたノンドープの酸化膜と、
前記ノンドープの酸化膜上に形成された、前記薄膜シリコントランジスタのリンを高濃度に含むソースドレイン部が設けられた多結晶シリコン膜、ゲート酸化膜、及びゲート電極と、
前記薄膜シリコントランジスタのリンを高濃度に含むソースドレイン部が設けられた多結晶シリコン膜、ゲート酸化膜、及びゲート電極を覆うCVD法で堆積された酸化膜と、
を有し、
前記酸化膜に開孔されたコンタクトと、前記コンタクトを介して前記ソースドレイン部と電気的に接続された金属配線とを有する薄膜シリコントランジスタ。」(以下、「刊行物1発明」という。)

「薄膜シリコントランジスタの作製方法であって、
前記透明基板上にリンシリケートガラスを形成する工程と、
前記リンシリケートガラス上に連続してノンドープの酸化膜を形成する工程と、
前記ノンドープの酸化膜上に前記多結晶シリコン膜、ゲート酸化膜、及びゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極をマスクにして前記多結晶シリコン膜にリンを高濃度にイオン打込みしてソースドレイン部を形成する工程と、
前記多結晶シリコン膜、ゲート酸化膜、及びゲート電極を覆う酸化膜をCVD法で堆積する工程と、
前記酸化膜に前記ソースドレイン部のコンタクトを開孔する工程と、
前記コンタクトを介して前記ソースドレイン部と電気的に接続された金属配線を形成する工程とを有する薄膜シリコントランジスタの作製方法。」(以下、「刊行物1方法発明」という。)

(1-2)刊行物2:特開平1-268064号公報(請求人が提出した甲第2号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物2である特開平1-268064号公報には、第1図とともに、以下の事項が記載されている。
「実施例1
p型Si基板11を用意し、熱酸化し100nmのSiO2膜12を形成する。その上に低圧化学気相蒸着法(以下LPCVD法と略記)により、反応ガスに10%Si2H6ガス(Heベース)を用い温度520℃で非晶質Si膜13を50nm堆積する。ホトレジストパターンをマスクとしてCCl4ガスを用いたドライエツチング法でSiを島状にパターン形成する。SiH4ガスとN2Oガスの熱分解を用いたLPCVD法によりSiO2膜14を25nm堆積し、続いてO2ガス雰囲気中で900℃、10分の熱処理を行いゲート酸化膜とする。続いて、多結晶Si13中に、Pを50KeVでドーズ量1×1012cm-2イオン打ち込みする(第1図A)。
次に反応ガスにSiH4を用い620℃でLPCVD法により多結晶Si膜を300nm堆積し、レジストパターンマスクでCCl4ガスを用いたドライエツチング法でゲート電極15を形成する。続いて900℃のO2ガス雰囲気中で30分間熱処理を行い10nmのSiO2膜を形成し、BF2を25KeVでドーズ量2×1014cm-2イオン打ち込みしソース・ドレインおよびゲートのP型高濃度領域を形成する(第1図B)。」(第2頁左下欄第4行?同右下欄第7行)(なお、下線部については単位の明らかな誤記を当審にて修正した。)

(1-3)刊行物3:“The Effect of Fluorine in Silicon Dioxide Gate Dielectrics”, IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, Vol. 36, No. 5, May 1989, pp. 879-889(請求人が提出した甲第3号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物3には、Fig. 1(a)?(d)とともに以下の事項が記載されている。
「ゲート誘電体における酸化膜成長後のフッ素含有の影響が報告されている。フッ素はイオン注入により多結晶シリコンに導入され、SIMS計測に示されるようにゲート酸化膜中に拡散される。」(第879頁左欄第1?4行の日本語訳)
「二酸化ケイ素はIGFET構造の最も一般的なゲート誘電体となっている。特性を向上させるためにデバイスの幾何学的形状が縮小するのに伴い、より微細な幾何学的形状と、より低い抵抗を有する相互接続を得るための新しい処理技術及び新しい材料が導入された。WF6の分解によるCVD W及びWSi2[1]、フッ素系のプラズマによるコンタクトホールのエッチング及びBF2のソースドレイン注入[2],[3]のような多くの工程によって、ゲート酸化膜近傍に意図せずにフッ素が導入される。」(第879頁左欄第13?21行の日本語訳)
「Willams及びWoods[13]はフッ素イオンが室温で酸化膜中を移動するという証拠を得た。
彼らは100nmの湿式熱酸化膜を有するシリコンウエハ上にフッ化カリウムを堆積した。ウエハは空気中において12MV/cmで負のコロナ帯電にさらされた。フラットバンド電圧の測定は負イオンが汚染酸化膜を通して拡散したことを示し、SIMS測定はフッ素がゲート酸化膜中に拡散したことを示した。」(第879頁右欄第45行?第881頁左欄第7行の日本語訳)
「図1.フッ素分布のSIMSプロファイル。(a)イオン注入後、(b)800℃30分間の熱処理後。酸化膜中へのフッ素の急速な拡散に注目。(c)900℃で30分間の熱処理後。(d)1,000℃で30分間の熱処理後。フッ素は酸化膜中にほぼ完全に隔離される。多結晶シリコンと酸化膜の厚さはそれぞれ250nm及び41nmである。注入エネルギは90keVである。」(第880頁の第1図の説明文の日本語訳)
「塩素は酸化物中のナトリウムイオンを中性化する点で効果的であることが見出されている。」(第885頁右欄第34?35行の日本語訳)

(1-4)刊行物4:“Control of Silicon Dioxide Properties by RF Sputtering”, J. Electrochem. Soc.: SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY, Vol. 130, No. 3, March 1983, pp. 658-659(請求人が提出した甲第4号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物4には、以下の事項が記載されている。
「シリコン酸化膜は半導体デバイス技術において広範囲に使用されている。シリコン酸化膜は表面安定化、不純物の遮蔽、能動デバイスにおける誘電体のような多くの機能を果たす。スパッタリングにより堆積されたSiO2薄膜は熱酸化膜に比べて多くの利点を有する。例えば、前者は相対的に低温で形成できる。しかしながら、得られる薄膜はイオン汚染のために不安定性を呈する。正電荷がSiO2薄膜を劣化させる。正電荷の低減は半導体デバイスの品質を決める重要な要因である。この報告書では、SiO2薄膜中にスパッタされたフッ素イオンによる正電荷の補償効果について研究した。」(第658頁左欄第1?13行の日本語訳)
「MRC SEM-8620スパッタリングシステムがSiO2薄膜の堆積に用いられた。・・・直径6インチで厚さ3/16インチのICグレードのSiO2ターゲットがMRCから供給された。・・・MRC 8620スパッタリングシステムでは、陰極の頭部はパイレックスガラスによって台座と絶縁されている。しかしながら、我々の実験では比較のために、典型的な堆積工程ではパイレックスガラスはテフロン(CF2=CF2)と置き換えられた。」(第658頁左欄第15?28行の日本語訳)
「負電荷はテフロンに関係があると推測される。負電荷はテフロン中のF-イオンに起因し、捕獲されたF-イオンは正電荷の影響を補償し得るものと推測される。」(第659頁右欄第5?9行の日本語訳)
「我々の結論では、もしテフロンがSiO2ターゲットと同時にスパッタリングされるならばMOSデバイスにおける正電荷を減少させることができる。」(第659頁右欄第25?27行の日本語訳)

(1-5)刊行物5:“Dual HCl Thin Gate Oxidation Process”, J. Electrochem. Soc.: SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY, Vol. 129, No. 8, August 1982, pp. 1778-1782(請求人が提出した甲第5号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物5には、以下の事項が記載されている。
「アルカリイオンは表面電位不安定化の主な原因であることがわかり、これらの移動イオン種を除去することが強いシリコン酸化絶縁膜を形成するのに非常に重要である。HClは特に熱酸化工程で少量使用されるとき効果的な捕獲物質となることが発見された。」(第1778頁ABSTRACT第3?5行の日本語訳)
「高温熱酸化工程における塩素及び塩素化合物の添加は、揮発性の塩化物形成によるナトリウムイオンの除去に十分に効果的であることが観察された。」(第1778頁左欄第22?25行の日本語訳)
「熱酸化膜のHCl処理の他の重要な利点は安定化が生じることである。安定化は、ナトリウムイオンが酸化膜-シリコン界面の近傍に移動し、凝縮相において塩素によって捕獲され中性化されるときに生じる。」(第1778頁左欄第38?43行の日本語訳)

(1-6)刊行物6:“Chlorine Levels in SiO2 Formed Using TCA and LPCVD at Low Temperatures”, J. Electrochem. Soc.: SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY, Vol. 134, No. 2, February 1987, pp. 415-419(請求人が提出した甲第6号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物6には、以下の事項が記載されている。
「SiO2-Si系における塩素の分布を、ともに900℃で形成された以下の2通りのClドープ酸化膜に対して研究した:(i)1.0,2.5,及び4.0%のHClと等価なトリクロロエタン(TCA)を添加して形成した熱酸化膜並びに(ii)SiH2Cl2とN2Oの低圧での反応による低圧気相堆積(LPCVD)酸化膜。」(第415頁ABSTRACT第1?3行の日本語訳)
「塩素は酸化膜の特性を改良するためにSiO2層に通常どおり取り込まれる(1-5)。特に金属酸化物型半導体(MOS)装置においては、塩素は、電気的不安定化の主要な原因となるアルカリ金属の汚染を中性化する(6-11)。」(第415頁左欄第1?5行の日本語訳)

(1-7)刊行物7:特開昭64-47076号公報(請求人が提出した甲第7号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物7である特開昭64-47076号公報には、第1?3図とともに以下の事項が記載されている。
「従来技術
MOS型薄膜トランジスターは一般に第1図に示すような方法で製造されている。・・・引続き熱酸化工程(O2+HClガス雰囲気中、1000℃以上)を行なってゲート酸化膜3を形成する〔第1図(b)〕。・・・
以上のような製造方法においてゲート酸化膜の形成工程、即ちSi半導体活性層の熱酸化工程は、酸化膜中及び界面に存在するアルカリイオン、外部から侵入するアルカリイオン等の好ましくない不純物をゲッタリングしてトランジスターの信頼性を向上するために、通常O2ガス中にCl2等のハロゲン単体又はハロゲン化水素を例えば2%程度添加した雰囲気中で行われている。しかしこのような熱拡散法ではハロゲンは活性層中に僅かしか入らないためゲッタリング効果が低い」(第1頁左欄第17行?第2頁左上欄第13行)
「本発明方法を図面によって説明すると、第2?3図においてまず絶縁基板1上に第1図(a)工程と同様にしてp-Si、a-Si等のSi半導体活性層1を形成する〔第2?3図(a)〕。次にこの活性層表面を熱酸化するのであるが、この熱酸化工程は常法とは異なり、ハロゲンを含有しないドライO2雰囲気又はO2-水蒸気雰囲気中で行なう。その他の条件は従来と同じでよい。こうしてゲート酸化膜3が形成される〔第2?3図(b)〕。次に第2図の場合は本発明の特徴であるハロゲンイオン12の打込みを行なう。この工程はCl+、F+等のハロゲンイオンがゲート酸化膜、ゲート酸化膜-活性層界面及び更に活性層中に充分に入るような条件で行なう。・・・次に活性化を1000℃、30分間でN2雰囲気中で行なう。こうしてハロゲンイオン注入層13が形成される〔第2図(c)〕。・・・一方、第3図の場合は第2図とは逆にゲート酸化膜3上にゲート用Si半導体膜4を形成した後〔第3図(c)〕、その上からハロゲンイオン12の打込みを行なってハロゲンイオン注入層13を形成する〔第3図(d)〕。・・・その後第2図の場合と同様に活性化を行なう。」(第2頁右上欄第16行?同右下欄第8行)
「実施例1
石英基板上に・・・p-Si活性層を形成した後、これをドライO2雰囲気中、1100℃で3時間熱処理して1500Å厚のゲート酸化膜を形成した。次に50KeV、引続き100KeVの条件でCl+イオンの打込みを行なった。・・・その後、N2雰囲気中、1000℃で30分間熱処理し、活性化を行なった。」(第2頁右下欄第12行?第3頁左上欄第2行)
「実施例2
実施例1と同様にして石英基板上にp-Si活性層及びゲート酸化膜を形成した後、更に減圧CVD法により3000Å厚のゲート用p-Si膜を形成した。次に150KeV、引続き200KeVの条件でCl+イオンの打込みを行なった。・・・その後、N2雰囲気中、1000℃で30分間熱処理し、活性化を行なった。」(第3頁左上欄第16行?同右上欄第4行)
「効 果 以上の如く本発明方法はゲート酸化膜側からハロゲンイオンの打込み工程を加えたので、充分なゲッタリング効果が得られ、トランジスターの信頼性が向上する上、ハロゲン注入量の制御も容易となる。」(第3頁右上欄第14?19行)

(1-8)刊行物8:特開昭64-35959号公報(請求人が提出した甲第8号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物8である特開昭64-35959号公報には、第2図及び第3図とともに以下の事項が記載されている。
「以下に本発明の一実施例を示す第2図を参照してさらに詳しく説明する。
第2図において、本発明に係る薄膜トランジスタは石英、パイレックス等の絶縁基板1上に・・・。
ここで本発明における堆積法により形成したSiO2膜をハロゲン原子を含む酸素雰囲気中でアニールして得たゲート酸化膜について説明する。堆積酸化膜の作製方法にはプラズマCVD法、減圧CVD法、スパッタリング法等がある。いずれの方法も十分に清浄化された活性層の上にSiO2を堆積するのではあるが、基板温度が低い等の理由により、活性層とSiO2膜間の界面およびその近傍に発生する電荷は非常に多い。この電荷を減らすのに、適当な温度でハロゲン原子を含む酸素雰囲気中でアニールすることは、大きな効果がある。
・・・
ここでアニールの適当な条件としては、温度が800?900℃であり、アニール時間は1?10時間であり、ハロゲン原子を含む酸素雰囲気とは1?10%ハロゲンガス/O2であり、圧力は一般に1気圧である。」(第2頁右下欄第13行?第3頁右上欄第5行)
「次に、本発明のTFTの作製例を第3図を参照して説明する。
例 1
(1)表面を十分に研磨した透明石英ガラス1を十分に洗浄した後、・・・。
・・・
(3)減圧CVD法により低温酸化膜17を1200Åの厚さで堆積する(第3図(b)参照)。
・・・
(4),(3)で製膜した堆積酸化膜17をハロゲン原子を含む酸素雰囲気中で約2時間アニールする。
アニール条件は以下の通りである。
基板温度 850℃」(第3頁右上欄第17行?同左下欄第17行)

(1-9)刊行物9:特開平3-9531号公報(請求人が提出した甲第9号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物9である特開平3-9531号公報には、以下の事項が記載されている。
「(従来の技術)
・・・
アルカリイオンを組成としてもつガラスを基板に用いた薄膜半導体装置を形成する際、不純物イオンの拡散を抑える為にガラス基板にシリコン酸化膜を形成し、コーティング層を基板に設けることが常套手段となっている。この種の装置としては例えば特開昭61-128225号公報が知られている。しかしシリコン酸化膜のコーティングではガラス基板からのナトリウム等の不純物イオンの拡散を十分に抑えることができず、信頼性のある液晶表示装置を得ることができなかった。
またシリコン酸化膜の代わりにシリコン窒化膜を用いた例もある。ここで不純物の拡散を防ぐという面ではシリコン窒化膜の方がシリコン酸化膜よりも優れている。」(第1頁右欄第2行?第2頁左上欄第16行)
「(課題を解決する為の手段)
上記目的を達成する為に本発明は、ガラスを基板に用い、その上に金属薄膜電極,ゲート絶縁膜を有する薄膜半導体装置において、ガラス基板側から基板全面にシリコン窒化膜,シリコン酸化膜の順で薄膜層を構成されており、前記このシリコン窒化膜,シリコン酸化膜の積層膜若しくはこの積層膜の内のシリコン酸化膜が前記ゲート膜絶縁膜を兼ねた構成となっている。またこの構成にさらにガラス基板と金属薄膜電極との間にシリコン窒化膜を設けた構成をとってもよい。
(作 用)
ナトリウム等の不純物イオンを含む安価なガラスを基板に用いた薄膜半導体装置であっても、基板側からシリコン窒化膜,シリコン酸化膜の順で二層薄膜層を設けることでガラス基板からの不純物の拡散を充分に抑えることができる。」(第2頁左下欄第18行?同右下欄第14行)

(1-10)刊行物10:特開昭58-93273号公報(請求人が提出した甲第10号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物10である特開昭58-93273号公報には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「(2)従来技術とその問題点
最近ガラス等の非晶質基板上にシリコンやCdSe等の半導体薄膜を堆積し、そこに表示デバイス用の電界効果トランジスタ(FET)を形成することが試みられている。しかし例えば非晶質基板として硼珪酸ガラス(商品名コーニング7059)を使用した場合、その上に半導体薄膜を堆積するとき、或いは堆積した半導体薄膜を熱処理するとき、基板温度を400℃以上にすると基板からNa,B等の不純物が半導体薄膜中に侵入、拡散し、素子の電気的特性を著しく劣化させることがわかった。
・・・
(4)発明の概要
即ち本発明は、非晶質基板と半導体薄膜との間に無機絶縁性薄膜を介在させたことを特徴とするものである。
第1図にその構造の基本構成を示す。1は非晶質基板、2は不純物の浸透を防止する無機絶縁膜で、3は素子を形成する半導体薄膜である。このようにして得られた基板は、単に基板中の不純物の浸透を防ぐだけでなく、強酸や強アルカリの処理にも耐性があり、この薬品処理が不可能な硼珪酸ガラス等の表面の保護もすることがわかった。」(第1頁左欄第14行?同右欄第20行)
「(5)発明の実施例
・・・硼珪酸ガラス(商品名コーニング7059)を基板(1)とし、この上にスパッタでTa2O5(2)を2000Å堆積した。・・・この・・・素子(FET)はTa2O5薄膜(2)を堆積しない基板上に形成した素子よりも相互コンダクタンスが約5倍になった。これは単にTa2O5薄膜(2)が硼珪酸ガラス中のNa,Bが半導体薄膜(3)中に侵入するのを防ぐだけでなく、Ta2O5薄膜(2)がガラス(1)表面を保護し、強酸、強アルカリの液による処理が可能になったことにもよることがわかった。」(第2頁左欄第1?18行)
「絶縁性薄膜(2)としてはTa2O5だけでなく、SiO2,Si3N4、アルミナ、それにそれを主成分とする無機絶縁物に対しても有効である。」(第2頁右欄第4?7行)

(1-11)刊行物11:特開平3-185735号公報(請求人が提出した甲第11号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物11である特開平3-185735号公報には、以下の事項が記載されている。
「[発明が解決しようとする課題]
・・・
また、基板にアルカリイオン含有量の多いガラスなどの安価な材料を用いると、基板材料中に含まれるNa+などのアルカリイオン38が、製造プロセス中の熱処理によって半導体薄膜の方へ移動し、基板との界面やシリコン薄膜中に可動イオンとして存在し、素子特性の劣化や、信頼性に問題を生じさせていた。」(第2頁左上欄第11行?同右上欄第15行)
「本発明では、結晶性半導体薄膜の上下両側に、水素の拡散にたいしてバリアとなる第1、第2の絶縁膜をそれぞれ形成する。
・・・
ここで、前記水素の拡散にたいしてバリアとなる第1の絶縁膜、第2の絶縁膜としては、例えば減圧CVD法、あるいは、プラズマCVD法で形成した窒化シリコン膜あるいは窒化酸化シリコン膜を用いればよい。
また、基体と結晶性半導体薄膜との間に絶縁膜として窒化シリコン膜を形成することで、ガラス等の基体からのNa+等のアルカリイオンに対してブロッキングの効果を持たせることができ、素子特性の信頼性を向上させることができる。」(第2頁右下欄第12行?第3頁左上欄第9行)

(1-12)刊行物12:特開平3-154383号公報(請求人が提出した甲第12号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物12である特開平3-154383号公報には、第5図とともに以下の事項が記載されている。
「第5図は従来の半導体装置の模式側断面図である。51はp-型シリコン(Si)基板、52は絶縁膜(酸化膜)、53は再結晶シリコン基板、54はp型チャネル領域、55はn+型ソースドレイン領域、56はゲート酸化膜、57はゲート電極、58はブロック用酸化膜、59は燐珪酸ガラス(PSG)膜、60はAl配線を示している。」(第2頁右上欄第15行?同左下欄第2行)

(1-13)刊行物13:特開平2-130836号公報(請求人が提出した甲第13号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物13である特開平2-130836号公報には、第1図(i)?(m)とともに以下の事項が記載されている。
「更にゲート電極4上のドープ層を除去した後の全面に、同図(i)に示すようにキャップ材7としてSiOxを形成させる。」(第3頁右下欄第3?5行)
「このようにして形成されるゲート電極4、ソースドレイン領域9上に、同図(k)に示すように(キャップ材、ドープ層は図示せず)層間絶縁膜8をポリイミドを塗膜することにより形成し、次いで同図(l)に示すようにコンタクト部をパターニングにより開口し、更にアルミニウムをスパッタリング法により着膜させ、同図(m)に示すようにパターニングしてアルミニウム配線部10を形成し本発明のpoly-Si TFTを作製することができる。」(第4頁左上欄第1?10行)

(1-14)刊行物14:特開平2-79027号公報(請求人が提出した甲第14号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物14である特開平2-79027号公報には、第1図とともに以下の事項が記載されている。
「次に第1図(c)の様に活性水素を含む窒化シリコン膜106をプラズマCVD法で全面に形成後、・・・。次に第1図(e)のように、層間絶縁膜としてCVD法により形成したPSG膜108を全面に形成する。次に第1図(f)のようにホト・エツチングによりソース・ドレイン領域105上にコンタクトのためのスルーホールを形成し、Al電極109を形成する。」(第3頁右上欄第10行?同左下欄第2行)

(1-15)刊行物15:特開昭61-183970号公報(請求人が提出した甲第15号証)
本件特許の出願前に頒布された刊行物15である特開昭61-183970号公報には、第1図及び第2図とともに以下の事項が記載されている。
「本発明の絶縁膜として、窒化シリコン薄膜を用いると絶縁性基板からのナトリウムなどの可動性アルカリイオンがゲート絶縁膜や半導体薄膜中に拡散してTFT特性を劣化させる現像を防ぐことができるという様な基板からの汚染防止膜としての作用も生じることとなる。」(第2頁右上欄第18行?同左下欄第3行)
「第1図は本発明の実施例におけるTFTの断面図を示すものである。第1図において1から7までは第2図の従来例と同様のものである。8はゲート絶縁膜と同種の絶縁膜である。本実施例においては、ガラス基板上にプラズマCVD法により窒化シリコン薄膜を形成させ、その上にクロムよりなるゲート電極を形成し、さらにその上にプラズマCVD法により窒化シリコン薄膜,アモルファス半導体薄膜,窒化シリコン薄膜を順次形成して、各々ゲート絶縁膜,半導体薄膜,保護絶縁膜とする。さらに保護絶縁膜に開口部を設けn+アモルファスシリコン,アルミニウム薄膜を順次形成し、ソース・ドレイン電極を構成させた。」(第2頁左下欄第7?19行)

(2)本件特許発明1及び20が特許法第29条第1項第3号に該当するか否かの判断

(2-1)本件特許発明1についての判断

[対比]
本件特許発明1と刊行物1発明とを対比する。
(a)刊行物1発明の「透明基板」、「ゲート酸化膜」、及び「ゲート電極」は、本件特許発明1の「絶縁性基板」、「ゲイト絶縁膜」、及び「ゲイト電極」にそれぞれ相当し、刊行物1発明の「ソースドレイン部」は、本件特許発明1の「ソース領域」及び「ドレイン領域」に相当する。
また、刊行物発明1の「薄膜シリコントランジスタ」は、半導体材料で形成された「ソースドレイン部が設けられた多結晶シリコン膜」を有しているから、本件特許発明1の「半導体装置」に相当する。
(b)刊行物1発明の「ソースドレイン部」は、「多結晶シリコン膜上にCVD法にてゲート酸化膜を9を2000Å堆積し、つづいてゲート電極用のリンドープ多結晶シリコンを堆積し、ホトエッチングにてゲート電極を形成する。次にゲート電極をマスクにリンを高濃度にてイオン打込」(刊行物1第2頁左下欄第15?20行)みすることによって形成されるから、刊行物1発明の「ソースドレイン部が設けられた多結晶シリコン膜」のゲート電極下でソースドレイン部に挟まれた領域は、本件特許発明1の「チャネル領域」に相当し、したがって、刊行物1発明の「ソースドレイン部が設けられた多結晶シリコン膜」は、本件特許発明1の「チャネル領域が設けられた半導体膜」に相当する。
(c)刊行物1発明の「リンシリケートガラス」の機能に関しては、「絶縁膜としてリンシリケートガラスを用いることにより、リンのゲッタ作用により実施例1に増してパシベーション膜としての効果が大き」(刊行物1第3頁左上欄第8?10行)いと記載されており、この記載から刊行物1発明の「リンシリケートガラス」は、「透明基板」からの汚染を防ぐ機能を備えていると判断できるから、本件特許発明1の「第1のブロッキング膜」に相当する。
(d)刊行物1発明の「CVD法で堆積された酸化膜」は「ソースドレイン部が設けられた多結晶シリコン膜」を覆って堆積されている以上、「ソースドレイン部が設けられた多結晶シリコン膜」への外部からの汚染を防ぐ機能を備えることは明らかであるから、本件特許発明1の「第2のブロッキング膜」に相当し、刊行物1発明の「前記酸化膜に開孔されたコンタクト」は、本件特許発明1の「前記第2のブロッキング膜に設けられたコンタクトホール」に相当する。
(e)「次に金属配線材としてアルミシリコン合金を基板主面にスパッタリングしたのちホトエッチングにて金属配線10を形成する。」(刊行物1第2頁右下欄第5?7行)という記載及び刊行物1第2図の「10」を参照すれば、刊行物1発明における「金属配線」が、本件特許発明1における「ソース電極」及び「ドレイン電極」に相当することは明らかである。
(f)また、本件特許発明1の「薄膜トランジスタ」も「ソース領域」及び「ドレイン領域」を備えており、本件特許明細書には「ソースおよびドレイン領域の形成にあたって、ゲイト電極をマスクとするセルフアラインプロセスを採用する場合には、この例では図1の例と同様に、ゲイト絶縁膜を通して、アクセプターあるいはドナー元素を注入」(0016段落)すると記載されているから、本件特許発明1の「ソース領域」及び「ドレイン領域」が、アクセプターあるいはドナー元素を高濃度に含むことは実質的に記載されている。

よって、本件特許発明1と刊行物1発明は、
「絶縁性基板上に形成された前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜と、
前記第1のブロッキング膜上に形成された被膜と、
前記被膜上に形成された薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタのチャネル領域が設けられた半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆う前記半導体膜の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜と、
を有し、
前記第2のブロッキング膜上方に前記薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極が設けられ、前記第2のブロッキング膜に設けられたコンタクトホールを介して、前記ソース電極はソース領域に、前記ドレイン電極はドレイン領域に電気的に接続されていることを特徴とする半導体装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明1は「第1のブロッキング膜上に形成されたハロゲン元素を含有する絶縁性被膜」を有しているのに対して、刊行物1発明は「リンシリケートガラス上に連続して形成されたノンドープの酸化膜」を有している点。

[判断]
上記相違点が実質的なものであるか否かについて検討する。
刊行物1発明における「薄膜シリコントランジスタ」のソースドレイン部がリンを高濃度に含む点については、刊行物1に「多結晶シリコン膜上にCVD法にてゲート酸化膜を9を2000Å堆積し、つづいてゲート電極用のリンドープ多結晶シリコンを堆積し、ホトエッチングにてゲート電極を形成する。次にゲート電極をマスクにリンを高濃度にてイオン打込みする。」(第2頁左下欄第15?20行)と記載されているものの、刊行物1発明における「透明基板」、「リンシリケートガラス」、「ノンドープの酸化膜」、「薄膜シリコントランジスタ」、「CVD法で堆積された酸化膜」及び「金属配線」のいずれかがハロゲン元素を含有する点については、刊行物1には記載も示唆もされていない。
また、仮に、刊行物1発明における「薄膜シリコントランジスタ」をPチャネル型にするためにソースドレイン部にP型不純物を高濃度に含有させることが本件特許出願時における当業者の技術常識(当業者に一般的に知られている技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項)であるとしても、不純物の導入方法としてイオン注入法を選択するとともに注入種としてBF2を選択することまでが技術常識であるとする理由はないから、刊行物1発明における「薄膜シリコントランジスタ」をPチャネル型にするに際して「ノンドープの酸化膜」がBF2のイオン注入によるソースドレイン部の形成に伴って不可避的にフッ素を含み得るとする点は、刊行物1に記載されているに等しい事項(記載されている事項から本件特許出願時における技術常識を参酌することにより導き出せるもの)とはいえない。
したがって、上記相違点は実質的なものであり、本件特許発明1は刊行物1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。

(2-2)本件特許発明20についての判断

[対比]
本件特許発明20と刊行物1方法発明とを対比する。
(a)刊行物1方法発明の「透明基板」、「ゲート酸化膜」、及び「ゲート電極」は、本件特許発明20の「絶縁性基板」、「ゲイト絶縁膜」、及び「ゲイト電極」にそれぞれ相当し、刊行物1方法発明の「ソースドレイン部」は、本件特許発明20の「ソース領域」及び「ドレイン領域」に相当し、する。
また、刊行物1方法発明の「薄膜シリコントランジスタ」は、半導体材料で形成された「多結晶シリコン膜」を有しているから、本件特許発明20の「半導体装置」に相当する。
(b)刊行物1方法発明の「ソースドレイン部」は、「多結晶シリコン膜上にCVD法にてゲート酸化膜を9を2000Å堆積し、つづいてゲート電極用のリンドープ多結晶シリコンを堆積し、ホトエッチングにてゲート電極を形成する。次にゲート電極をマスクにリンを高濃度にてイオン打込」(刊行物1第2頁左下欄第15?20行)みすることによって形成されるから、刊行物1方法発明における「多結晶シリコン膜」のゲート電極下でソースドレイン部に挟まれた領域は、本件特許発明20の「チャネル形成領域」に相当し、したがって、刊行物1方法発明の「多結晶シリコン膜」は、本件特許発明20の「チャネル形成領域」に相当する領域を含んでいる。
(c)刊行物1方法発明の「リンシリケートガラス」の機能に関しては、「絶縁膜としてリンシリケートガラスを用いることにより、リンのゲッタ作用により実施例1に増してパシベーション膜としての効果が大き」(刊行物1第3頁左上欄第8?10行)いと記載されており、この記載から刊行物1方法発明の「リンシリケートガラス」は、「透明基板」からの汚染を防ぐ機能を備えていると判断できるから、本件特許発明20の「第1のブロッキング膜」に相当する。
(d)刊行物1方法発明の「CVD法で堆積」された「酸化膜」は、「多結晶シリコン膜」を覆って堆積されている以上、「多結晶シリコン膜」への外部からの汚染を防ぐ機能を備えることは明らかであるから、本件特許発明20の「第2のブロッキング膜」に相当し、刊行物1方法発明において「前記酸化膜に前記ソースドレイン部のコンタクトを開孔する」ことは、本件特許発明20の「前記第2のブロッキング層にコンタクトホールを形成」することに相当する。
(e)「次に金属配線材としてアルミシリコン合金を基板主面にスパッタリングしたのちホトエッチングにて金属配線10を形成する。」(刊行物1第2頁右下欄第5?7行)という記載及び刊行物1第2図の「10」を参照すれば、刊行物1方法発明の「金属配線」が、本件特許発明20の「ソース電極」及び「ドレイン電極」に相当することは明らかであるから、刊行物1方法発明における「前記コンタクトを介して前記ソースドレイン部と電気的に接続された金属配線を形成する」ことは、本件特許発明1における「前記コンタクトホールを介して前記ソース領域に接続された前記ソース電極、および前記ドレイン領域に接続された前記ドレイン電極を形成する」ことに相当する。
(f)また、本件特許発明20も「ソース領域」及び「ドレイン領域」を備えており、本件特許明細書には「ソースおよびドレイン領域の形成にあたって、ゲイト電極をマスクとするセルフアラインプロセスを採用する場合には、この例では図1の例と同様に、ゲイト絶縁膜を通して、アクセプターあるいはドナー元素を注入」(0016段落)すると記載されているから、本件特許発明20が「ソース領域」及び「ドレイン領域」にアクセプターあるいはドナー元素を高濃度に導入する工程を実質的に備えていることは明らかである。

よって、本件特許発明20と刊行物1方法発明は、
「チャネル形成領域、ソース領域、ドレイン領域、ゲイト絶縁膜、ゲイト電極、ソース電極、およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタが絶縁性基板上方に設けられている半導体装置の作製方法であって、
前記基板上に前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜を形成し、
前記第1のブロッキング膜上に被膜を形成し、
前記被膜上に、前記チャネル形成領域を含む半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を形成し、
前記半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆って、前記半導体の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜を形成し、
前記第2のブロッキング膜にコンタクトホールを形成し、
前記コンタクトホールを介して前記ソース領域に接続された前記ソース電極、および前記ドレイン領域に接続された前記ドレイン電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明20は「第1のブロッキング膜上にハロゲン元素を含む絶縁性被膜を形成し」ているのに対して、刊行物1方法発明は「リンシリケートガラス上に連続してノンドープの酸化膜を形成」している点。

[判断]
上記相違点が実質的なものであるか否かについて検討する。
刊行物1方法発明における「薄膜シリコントランジスタ」のソースドレイン部がリンを高濃度に含む点については、刊行物1に「多結晶シリコン膜上にCVD法にてゲート酸化膜を9を2000Å堆積し、つづいてゲート電極用のリンドープ多結晶シリコンを堆積し、ホトエッチングにてゲート電極を形成する。次にゲート電極をマスクにリンを高濃度にてイオン打込みする。」(第2頁左下欄第15?20行)と記載されているものの、刊行物1方法発明における「透明基板」、「リンシリケートガラス」、「ノンドープの酸化膜」、「薄膜シリコントランジスタ」、「CVD法で堆積された酸化膜」及び「金属配線」のいずれかがハロゲン元素を含有する点については、刊行物1には記載も示唆もされていない。
また、仮に、刊行物1方法発明における「薄膜シリコントランジスタ」をPチャネル型にするためにソースドレイン部にP型不純物を高濃度に含有させることが本件特許出願時における当業者の技術常識(当業者に一般的に知られている技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項)であるとしても、不純物の導入方法としてイオン注入法を選択するとともに注入種としてBF2を選択することまでが技術常識であるとする理由はないから、刊行物1方法発明における「薄膜シリコントランジスタ」をPチャネル型にするに際して「ノンドープの酸化膜」がBF2のイオン注入によるソースドレイン部の形成に伴って不可避的にフッ素を含み得るとする点は、刊行物1に記載されているに等しい事項(記載されている事項から本件特許出願時における技術常識を参酌することにより導き出せるもの)とはいえない。
したがって、上記相違点は実質的なものであり、本件特許発明20は刊行物1方法発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当しない。

(3)本件特許発明1ないし28が特許法第29条第2項の規定に該当するか否かの判断

(3-1)本件特許発明1についての判断

[対比]
本件特許発明1と刊行物1発明を対比すると、「(2)本件特許発明1、20が特許法第29条第1項第3号に該当するか否かの判断」「(2-1)本件特許発明1についての判断」「[対比]」において検討したとおり、両者は、
「絶縁性基板上に形成された前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜と、
前記第1のブロッキング膜上に形成された被膜と、
前記被膜上に形成された薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタのチャネル領域が設けられた半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆う前記半導体膜の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜と、
を有し、
前記第2のブロッキング膜上方に前記薄膜トランジスタのソース電極およびドレイン電極が設けられ、前記第2のブロッキング膜に設けられたコンタクトホールを介して、前記ソース電極はソース領域に、前記ドレイン電極はドレイン領域に電気的に接続されていることを特徴とする半導体装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明1は「第1のブロッキング膜上に形成されたハロゲン元素を含有する絶縁性被膜」を有しているのに対して、刊行物1発明は「リンシリケートガラス上に連続して形成されたノンドープの酸化膜」を有している点。

[判断]
上記相違点について検討する。
(a)刊行物1発明における「透明基板」は、刊行物1に「本発明は石英板あるいはソーダガラス,ホウケイ酸ガラス等の透明基板上に形成される多結晶シリコンあるいはアモルファスシリコンの薄膜シリコントランジスターに関するものである。」(第1頁右欄第2?5行)と記載されているように「石英板」も含む。
しかし、刊行物1に「従来の一般的な薄膜シリコントランジスターの製法は透明基板が石英板あるいはガラス等の絶縁基板を用いることからトランジスター形成用の薄膜シリコンを基板表面に直接形成していた。しかしながらこれら透明基板表面は表面研磨に使用されるアルミナ粉末あるいは酸化セリウム等の研磨材が研磨キズ等の表面凹凸部に付着しておりしかも石英板は別としてその他のガラス製基板はナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオンが含有されているため、透明基板表面を一般的な洗浄をほどこしても前記汚染物等を完全に除去せしめることは不可能である。このため透明基板上に薄膜トランジスタを形成する際に加わる幾多の熱処理過程においてこれら不純物が薄膜シリコン内に侵入しTFT特性に悪影響を及ぼしON電流の低下あるいはOFF電流の異状な増加等初期歩留りの低下は勿論長期信頼性の面でも問題となる。」(第2頁右上欄第5?18行)と記載されているように、刊行物1発明において「表面研磨に使用されるアルミナ粉末あるいは酸化セリウム等の研磨材が研磨キズ等の表面凹凸部に付着」することは、「石英板」及び「ガラス製基板」に共通の問題である一方で、「石英板は別としてその他のガラス製基板は」という記載から「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」による悪影響は「ガラス製基板」に限られる問題であることは明らかである。
(b)一方、刊行物5には、高温熱酸化工程でシリコン酸化膜を形成する際に塩素及び塩素化合物を雰囲気中に添加するとナトリウムイオンの除去に効果的であることが記載されているが、熱酸化は900℃以上の加熱を要する。
刊行物6には、シリコン酸化膜の特性を改良するために塩素を取り込むことにより、電気的不安定化の主要な原因となるアルカリ金属の汚染を中性化することが記載されているが、トリクロロエタンを添加した熱酸化及びSiH2Cl2とN2Oの低圧での反応による低圧気相堆積はともに900℃の加熱を要する。
刊行物7には、外部から侵入するアルカリイオン等の好ましくない不純物をゲッタリングするために、ゲート酸化膜の熱酸化工程中にハロゲン単体又はハロゲン化水素を添加する従来技術や、ゲート酸化膜にハロゲンをイオン注入して活性化する技術が記載されているが、熱酸化工程では1000℃以上の加熱を要し、イオン注入後の活性化には1000℃の加熱を要する。
刊行物8には、堆積法により作製したSiO2膜からなるゲート絶縁膜をハロゲン原子を含む酸素雰囲気中でアニールすることにより活性層とSiO2膜間の界面及びその近傍に発生する電荷を減らす技術が記載されているが、どのような原子に関連した電荷であるか具体的な内容についての記載はなく、また、アニールには800?900℃の加熱を要する。
以上のとおり、刊行物5ないし8には、シリコン酸化膜中にハロゲン元素を添加することによりナトリウムイオン等をゲッタリングする技術が記載されているものの、いずれの技術も刊行物1発明において「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」による悪影響が問題となる「ガラス製基板」の耐熱温度を超える温度での加熱を要するから、刊行物1発明において「透明基板」が「ガラス製基板」に限られる場合の問題点である「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」による悪影響を解決するための手段として刊行物5ないし8に記載された技術を適用することはできない。
また、仮に「ガラス製基板」の耐熱温度内の工程でハロゲン原子をシリコン酸化膜中に添加することが可能であるとした場合においても、このような工程で添加されたハロゲン原子が「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」に対するゲッタリング機能を有するとは、技術常識を考慮してもいえない。
(c)また、刊行物3には、室温でフッ素イオンが酸化膜中を移動することが記載されているものの、移動は室温であれば無条件に起きるのではなく、「100nmの湿式熱酸化膜を有するシリコンウエハ上にフッ化カリウムを堆積した。ウエハは空気中において12MV/cmで負のコロナ帯電にさらされ」(第881頁左欄第1?4行の日本語訳)る場合に限られ、刊行物3には、このような特殊な条件で酸化膜中に添加されたフッ素イオンが「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」に対するゲッタリング機能を有することについては、記載も示唆もなく、技術常識を考慮しても明らかとはいえず、また、このような特殊な条件以外の場合においても酸化膜中に添加されたフッ素イオンが「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」に対するゲッタリング機能を有することについては、記載も示唆もなく、技術常識を考慮しても明らかとはいえないから、刊行物1発明に対して刊行物3に記載された技術を適用する動機付けは存在しない。
刊行物4には、テフロン(CF2=CF2)をSiO2ターゲットと同時にスパッタリングすることによりMOSデバイスにおける正電荷を減少させる技術が記載されており、テフロン中のF-イオンに起因する負電荷が正電荷を補償するとの推測がされているが、どのような原子に関連した正電荷であるか具体的な内容については何ら記載はなく、技術常識を考慮してもその具体的な内容は明らかでない。さらに、テフロンのスパッタリングを行う以上、半導体素子にとって汚染源となる炭素(C)がSiO2へ混入することが避けられないことは技術的に明らかであるから、刊行物1発明に対して刊行物4に記載された技術を適用する際の阻害要因はあっても適用する動機付けは存在しない。
その他の刊行物である刊行物2及び9ないし15にはシリコン酸化膜中にハロゲン元素を導入することについて記載も示唆もされていない。

また、本件特許発明1は「第1のブロッキング膜上に形成されたハロゲン元素を含有する絶縁性被膜」を構成として備えることにより、「ナトリウム等の可動イオンの影響の少ないTFT等の薄膜状半導体素子を作製することができる。従来、可動イオンが存在するため素子が形成できなかった基板においても、TFTを形成することが可能となった。」(本件特許明細書0046段落)という顕著な効果を奏する。

以上のとおり、刊行物2ないし15には、いずれも刊行物1発明に適用する際の動機付けが存在しないから、本件特許発明1は、刊行物1ないし15に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(3-2)本件特許発明2ないし19についての判断
本件特許発明2ないし19は、いずれも本件特許発明1と同一カテゴリーの「半導体装置」の発明であり、本件特許発明1の構成に欠くことができない事項(以下、「構成要件」という。)を全て含んだ上で、本件特許発明1の構成要件に限定を加えたり(請求項2ないし5及び7ないし19)、本件特許発明1に新たな構成要件を付加するとともに限定を加えたもの(請求項6ないし19)である。
したがって、本件特許発明1が、刊行物1ないし15に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2ないし19についても、刊行物1ないし15に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(3-3)本件特許発明20についての判断

[対比]
本件特許発明20と刊行物1方法発明を対比すると、「(2)本件特許発明1、20が特許法第29条第1項第3号に該当するか否かの判断」「(2-2)本件特許発明1についての判断」「[対比]」において検討したとおり、両者は、
「チャネル形成領域、ソース領域、ドレイン領域、ゲイト絶縁膜、ゲイト電極、ソース電極、およびドレイン電極を有する薄膜トランジスタが絶縁性基板上方に設けられている半導体装置の作製方法であって、
前記基板上に前記基板からの汚染を防ぐ第1のブロッキング膜を形成し、
前記第1のブロッキング膜上に被膜を形成し、
前記被膜上に、前記チャネル形成領域を含む半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を形成し、
前記半導体膜、ゲイト絶縁膜、およびゲイト電極を覆って、前記半導体の汚染を防ぐ第2のブロッキング膜を形成し、
前記第2のブロッキング膜にコンタクトホールを形成し、
前記コンタクトホールを介して前記ソース領域に接続された前記ソース電極、および前記ドレイン領域に接続された前記ドレイン電極を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明20は「第1のブロッキング膜上にハロゲン元素を含む絶縁性被膜を形成し」ているのに対して、刊行物1方法発明は「リンシリケートガラス上に連続してノンドープの酸化膜を形成」している点。

[判断]
上記相違点について検討する。
(a)刊行物1方法発明における「透明基板」は、刊行物1に「本発明は石英板あるいはソーダガラス,ホウケイ酸ガラス等の透明基板上に形成される多結晶シリコンあるいはアモルファスシリコンの薄膜シリコントランジスターに関するものである。」(第1頁右欄第2?5行)と記載されているように「石英板」も含む。
しかし、刊行物1に「従来の一般的な薄膜シリコントランジスターの製法は透明基板が石英板あるいはガラス等の絶縁基板を用いることからトランジスター形成用の薄膜シリコンを基板表面に直接形成していた。しかしながらこれら透明基板表面は表面研磨に使用されるアルミナ粉末あるいは酸化セリウム等の研磨材が研磨キズ等の表面凹凸部に付着しておりしかも石英板は別としてその他のガラス製基板はナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオンが含有されているため、透明基板表面を一般的な洗浄をほどこしても前記汚染物等を完全に除去せしめることは不可能である。このため透明基板上に薄膜トランジスタを形成する際に加わる幾多の熱処理過程においてこれら不純物が薄膜シリコン内に侵入しTFT特性に悪影響を及ぼしON電流の低下あるいはOFF電流の異状な増加等初期歩留りの低下は勿論長期信頼性の面でも問題となる。」(第2頁右上欄第5?18行)と記載されているように、刊行物1方法発明において「表面研磨に使用されるアルミナ粉末あるいは酸化セリウム等の研磨材が研磨キズ等の表面凹凸部に付着」することは、「石英板」及び「ガラス製基板」に共通の問題である一方で、「石英板は別としてその他のガラス製基板は」という記載から「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」による悪影響は「ガラス製基板」に限られる問題であることは明らかである。
(b)一方、刊行物5には、高温熱酸化工程でシリコン酸化膜を形成する際に塩素及び塩素化合物を雰囲気中に添加するとナトリウムイオンの除去に効果的であることが記載されているが、熱酸化は900℃以上の加熱を要する。
刊行物6には、シリコン酸化膜の特性を改良するために塩素を取り込むことにより、電気的不安定化の主要な原因となるアルカリ金属の汚染を中性化することが記載されているが、トリクロロエタンを添加した熱酸化及びSiH2Cl2とN2Oの低圧での反応による低圧気相堆積はともに900℃の加熱を要する。
刊行物7には、外部から侵入するアルカリイオン等の好ましくない不純物をゲッタリングするために、ゲート酸化膜の熱酸化工程中にハロゲン単体又はハロゲン化水素を添加する従来技術や、ゲート酸化膜にハロゲンをイオン注入して活性化する技術が記載されているが、熱酸化工程では1000℃以上の加熱を要し、イオン注入後の活性化には1000℃の加熱を要する。
刊行物8には、堆積法により作製したSiO2膜からなるゲート絶縁膜をハロゲン原子を含む酸素雰囲気中でアニールすることにより活性層とSiO2膜間の界面及びその近傍に発生する電荷を減らす技術が記載されているが、どのような原子に関連した電荷であるか具体的な内容についての記載はなく、また、アニールには800?900℃の加熱を要する。
以上のとおり、刊行物5ないし8には、シリコン酸化膜中にハロゲン元素を添加することによりナトリウムイオン等をゲッタリングする技術が記載されているものの、いずれの技術も刊行物1方法発明において「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」による悪影響が問題となる「ガラス製基板」の耐熱温度を超える温度での加熱を要するから、刊行物1方法発明において「透明基板」が「ガラス製基板」に限られる場合の問題点である「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」による悪影響を解決するための手段として刊行物5ないし8に記載された技術を適用することはできない。
また、仮に「ガラス製基板」の耐熱温度内の工程でハロゲン原子をシリコン酸化膜中に添加することが可能であるとした場合においても、このような工程で添加されたハロゲン原子が「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」に対するゲッタリング機能を有するとは、技術常識を考慮してもいえない。
(c)また、刊行物3には、室温でフッ素イオンが酸化膜中を移動することが記載されているものの、移動は室温であれば無条件に起きるのではなく、「100nmの湿式熱酸化膜を有するシリコンウエハ上にフッ化カリウムを堆積した。ウエハは空気中において12MV/cmで負のコロナ帯電にさらされ」(第881頁左欄第1?4行の日本語訳)る場合に限られ、刊行物3には、このような特殊な条件で酸化膜中に添加されたフッ素イオンが「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」に対するゲッタリング機能を有することについては、記載も示唆もなく、技術常識を考慮しても明らかとはいえず、また、このような特殊な条件以外の場合においても酸化膜中に添加されたフッ素イオンが「ナトリウムイオンを始めとする種々の可動イオン及び鉄イオン,銅イオン等の金属イオン」に対するゲッタリング機能を有することについては、記載も示唆もなく、技術常識を考慮しても明らかとはいえないから、刊行物1方法発明に対して刊行物3に記載された技術を適用する動機付けは存在しない。
刊行物4には、テフロン(CF2=CF2)をSiO2ターゲットと同時にスパッタリングすることによりMOSデバイスにおける正電荷を減少させる技術が記載されており、テフロン中のF-イオンに起因する負電荷が正電荷を補償するとの推測がされているが、どのような原子に関連した正電荷であるか具体的な内容については何ら記載はなく、技術常識を考慮してもその具体的な内容は明らかでない。さらに、テフロンのスパッタリングを行う以上、半導体素子にとって汚染源となる炭素(C)がSiO2へ混入することが避けられないことは技術的に明らかであるから、刊行物1方法発明に対して刊行物4に記載された技術を適用する際の阻害要因はあっても適用する動機付けは存在しない。
その他の刊行物である刊行物2及び9ないし15にはシリコン酸化膜中にハロゲン元素を導入することについて記載も示唆もされていない。

また、本件特許発明20は「第1のブロッキング膜上にハロゲン原子を含む絶縁性被膜を形成し」という構成を備えることにより、「ナトリウム等の可動イオンの影響の少ないTFT等の薄膜状半導体素子を作製することができる。従来、可動イオンが存在するため素子が形成できなかった基板においても、TFTを形成することが可能となった。」(本件特許明細書0046段落)という顕著な効果を奏する。

以上のとおり、刊行物2ないし15には、いずれも刊行物1方法発明に適用する際の動機付けが存在しないから、本件特許発明20は、刊行物1ないし15に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(3-4)本件特許発明21ないし28についての判断
本件特許発明21ないし28は、いずれも本件特許発明20と同一カテゴリーの「半導体装置の作製方法」の発明であり、本件特許発明20の構成要件を全て含んだ上で、本件特許発明20の構成要件に限定を加えたり(請求項22ないし28)、本件特許発明20に新たな構成要件を付加するとともに限定を加えたもの(請求項21ないし23及び25ないし28)である。
したがって、本件特許発明20が、刊行物1ないし15に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明21ないし28についても、刊行物1ないし15に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許の請求項1ないし28に係る発明についての特許を無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-03-10 
出願番号 特願平3-238709
審決分類 P 1 113・ 113- Y (H01L)
P 1 113・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河本 充雄  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 河合 章
長谷山 健
登録日 2001-05-11 
登録番号 特許第3187086号(P3187086)
発明の名称 半導体装置および半導体装置の作製方法  
代理人 内田 公志  
代理人 後藤 正邦  
代理人 大野 聖二  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 市橋 智峰  
代理人 山田 勇毅  

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