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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1154418
審判番号 不服2005-19231  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-06 
確定日 2007-03-19 
事件の表示 特願2000- 83201「ファンモータ制御方法およびその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月28日出願公開、特開2001-268972〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成12年3月21日の出願であって、平成17年8月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年11月7日付けで手続補正がされたものである。

第2.平成17年11月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年11月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ファンを駆動するモータをインバータからの出力波形によって制御する方法であって、
空気調和機において冷媒制御を行うために必要な熱交換量が得られているか否かを判断することにより、モータの起動処理を開始する時に、インバータの直流電圧からファンの動作状態を検出し、検出された動作状態がインバータに異常を生じさせるものであることに応答して、波形出力を行わないようにインバータを制御することを特徴とするファンモータ制御方法。」
と補正された。

2.本件請求項1についての補正事項
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「モータの起動を開始する時に」について、「空気調和機において冷媒制御を行うために必要な熱交換量が得られているか否かを判断することにより、」との限定を付加するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、即ち、本件補正が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものでないかについて、以下検討する。

3.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-117490号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、「ブラシレスモータ」と題して、図面とともに次の事項が記載されている。

・ 「【請求項1】 モータ部(4)と、直流電圧を交流電圧に変換して、その変換された交流電圧を上記モータ部(4)に出力するインバータ部(3)と、上記モータ部(4)のロータの回転位置を検出して、その回転位置を表す位置信号を出力する位置検出手段(5)と、上記位置検出手段(5)の出力に基づいて上記インバータ部(3)のスイッチング素子(3a?3f)を制御するためのスイッチング信号を出力するインバータ制御手段(13)とを備えたブラシレスモータにおいて、
上記インバータ部(3)に入力される上記直流電圧を検出する直流電圧検出手段(11)と、
上記直流電圧検出手段(11)により検出された上記直流電圧が所定電圧以上か否かを判別する直流電圧判別手段(12)と、
上記直流電圧判別手段(12)が上記直流電圧が上記所定電圧以上である判別すると、上記インバータ部(3)の全てのスイッチング素子(3a?3f)をオフ状態にする手段とを備えたことを特徴とするブラシレスモータ。」
・ 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、空気調和機の室外機の室外ファン駆動用に使用されるブラシレスモータに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、ブラシレスモータとしては、空気調和機の室外機の室外ファン駆動用として用いられているものがある。このブラシレスモータが停止して、室外ファンが停止状態の場合、室外ファンが強風などにより強制的に逆回転させられると、ブラシレスモータの巻線に誘起電圧が発生して、インバータ部のスイッチング素子を介して短絡電流が流れ、インバータ部に入力される直流電圧が上昇するため、その直流電圧がスイッチング素子の耐圧を越えて、スイッチング素子が破損する場合がある。」
・ 「【0008】上記請求項1のブラシレスモータによれば、室外ファンが停止している場合、外部からの強風などによって、室外ファンが強制的に逆回転すると、モータ部の巻線に誘起電圧が発生すると同時に、上記位置検出手段により検出されるモータ部のロータの回転位置を表す位置信号が変化する。この位置信号の変化に従って、インバータ制御手段は、インバータ部のスイッチング素子をオンオフし、モータ部の巻線に発生した誘起電圧によって、オン状態のスイッチング素子に短絡電流が流れる。そうすると、上記インバータ部に直流電圧を入力する例えば直流電源の平滑用コンデンサが充電されて、平滑用コンデンサの両端電圧が徐々に上昇する。そして、上記判別手段の所定電圧をスイッチング素子の耐圧以下に設定することによって、電圧検出手段により検出された平滑用コンデンサの両端の直流電圧が上記所定電圧以上であると判別手段が判別すると、上記インバータ部の全てのスイッチング素子をオフ状態にする。例えば、上記位置検出手段からインバータ制御手段への位置信号を遮断したり、インバータ制御手段からインバータ部へのスイッチング信号を遮断したりするか、または、インバータ制御手段がオフ信号を直接受けて、スイッチング信号をオフするようにする。したがって、上記インバータ部の交流電圧出力を遮断する遮断手段を用いることなく、簡単な構成で低コストにインバータ部のスイッチング素子の破損を確実に防止できる。」
・ 「【0021】したがって、請求項1の発明のブラシレスモータによれば、空気調和機の室外機の室外ファン駆動用にこのブラシレスモータを使用する場合、室外ファンが停止しているときに外部からの強風等により室外ファンが逆回転し、モータ部の巻線に誘起電圧が発生することによって、インバータ部に直流電圧を入力する例えば直流電源の平滑用コンデンサの両端電圧が徐々に上昇しても、電圧検出手段により検出されたインバータ部に入力される直流電圧が所定電圧以上であると判別手段が判別すると、上記インバータ部の全てのスイッチング素子をオフ状態にする。したがって、上記判別手段の所定電圧をスイッチング素子の耐圧以下に設定することによって、簡単な構成で低コストにインバータ部のスイッチング素子の破損を確実に防止することができる。また、上記インバータ部に入力される直流電圧を直接検出するので、室外ファンの逆回転,正回転に係わらず、インバータ部のスイッチング素子を保護することができる。」

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用刊行物1には、インバータを保護するためにブラシレスモータを制御する方法が示されているということができ、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「空気調和機の室外ファン駆動用に使用されるブラシレスモータをインバータからのスイッチング信号によって制御する方法であって、
上記ブラシレスモータが停止して室外ファンが停止状態の場合に、インバータに入力される直流電圧から外部からの強風等による室外ファンの回転を検出し、上記回転がインバータ部のスイッチング素子を破損させるものであることを上記直流電圧が所定電圧以上か否かで判別し、判別すると、インバータ部の全てのスイッチング素子をオフ状態とする上記ブラシレスモータの制御方法。」

(2) 原審で通知された拒絶理由通知書で提示された特開2000-14183号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、「ファンモータ駆動装置」と題して、図面とともに次の事項が記載されている。

・ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ファンモータの駆動制御を行うファンモータ駆動装置に関し、特にエアコンの室外ファンモータ等の外風による回転を検知する検知回路を備えたファンモータ駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図9は、エアコンの室外ファンモータを駆動制御するファンモータ駆動装置の従来例を示した概略の回路図である。図9において、ファンモータ駆動装置100は、エアコンの室外ファンモータをなすファンモータ110を駆動する駆動回路102と、該駆動回路102の制御を行う制御回路103と、ファンモータ110の電源をなす直流電源回路111の出力の電圧を監視する電圧監視回路104とを備えている。駆動回路102は、6つのNチャネル形MOSトランジスタ(以下、MOSトランジスタと呼ぶ)を有しており、制御回路103は、該各MOSトランジスタに対してPWM制御を行ってファンモータ110の回転速度の制御を行うと共にインバータ制御を行って、ファンモータ110の駆動制御を行う。駆動回路102及び制御回路103は、いわゆるインバータを形成している。
【0003】このような構成において、ファンモータ110は、ファンモータ駆動装置100によって駆動されていないときは、外風によって逆回転する。該外風が強くなると、ファンモータ110の逆回転速度が速くなり、ファンモータ110を駆動しなくともエアコンの室外機における熱交換に必要な空気の流れを得ることができる。また、ファンモータ110が逆回転している状態でファンモータ110を正回転方向に駆動すると、ファンモータ駆動装置100やファンモータ110にダメージを与える場合があった。これらのことから、ファンモータ110が所定以上の速さで逆回転している場合は、ファンモータ駆動装置100は、ファンモータ110の駆動を行わないようにしていた。
【0004】ここで、ファンモータ110の回転状態を検出する従来の方法について説明する。ファンモータ110が外力によって回転させられるとファンモータ110に誘起電圧が発生し、該誘起電圧は駆動回路102のダイオードによって直流に変換され、制御回路103は、該変換された直流電圧を電圧監視回路104を用いて検出して監視を行っていた。制御回路103は、ファンモータ110を起動させる際、電圧監視回路104で検出された電圧が例えば所定値を超えている場合、駆動回路102に対してファンモータ110を起動させないように制御していた。」

4.対比
(1) 本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下の事項が明らかである。
(ア) 引用発明の「空気調和機の室外ファン駆動用に使用されるブラシレスモータ」は本願補正発明の「ファンを駆動するモータ」に相当し、以下同様に、「スイッチング信号」は「出力波形」に、「インバータに入力される直流電圧」は「インバータの直流電圧」に、「外部からの強風等による室外ファンの回転」は「ファンの動作状態」に、「ブラシレスモータの制御方法」は「ファンモータ制御方法」に、それぞれ相当している。
(イ) 引用発明の「インバータ部のスイッチング素子を破損させるものであることを上記直流電圧が所定電圧以上か否かで判別し、判別すると」は、その作用・機能からみて、本願補正発明の「インバータに異常を生じさせるものであることに応答して」に相当するといえる。
(ウ) 引用発明の「インバータ部の全てのスイッチング素子をオフ状態とする」は、その作用・機能からみて、本願補正発明の「波形出力を行わないようにインバータを制御する」に相当するといえる。
すると、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。

(2) 一致点
「ファンを駆動するモータをインバータからの出力波形によって制御する方法であって、
インバータの直流電圧からファンの動作状態を検出し、検出された動作状態がインバータに異常を生じさせるものであることに応答して、波形出力を行わないようにインバータを制御するファンモータ制御方法。」
(3) 相違点
ファン動作状態の検出に関して、本願補正発明は「空気調和機において冷媒制御を行うために必要な熱交換量が得られているか否かを判断することにより、モータの起動処理を開始する時に、」行うのに対し、引用発明のものは「ブラシレスモータが停止して、室外ファンが停止状態の場合に」行う点。

5.上記相違点についての判断
引用刊行物2には、当時の従来技術として、ファンモータの起動前に、エアコンの室外機において熱交換に必要な空気の流れが得られているか否かを判断し、得られている場合にはファンモータを起動しないようにするファンモータ駆動方法が開示されている。
引用発明と引用刊行物2に記載された発明は、いずれもファンモータ停止時に外部からの風を受けた場合のファンモータの制御に関する技術であることを踏まえると、引用発明において、引用刊行物2に記載された発明に基づき、上記相違点に係る本願補正発明の構成を想到することは、当業者であれば容易になし得たことというべきである。
そして、本願補正発明の全体構成により奏される効果も、引用刊行物1及び2に記載された発明から当業者であれば予測し得る範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において準用する特許法第53条第1項の規定により却下を免れない。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成17年11月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成16年11月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「ファンを駆動するモータをインバータからの出力波形によって制御する方法であって、
モータの起動処理を開始する時にインバータの直流電圧からファンの動作状態を検出し、検出された動作状態がインバータに異常を生じさせるものであることに応答して、波形出力を行わないようにインバータを制御することを特徴とするファンモータ制御方法。」

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物及びその開示事項は、前記「第2.3(1)」に記載されたとおりである。

3.対比
本願発明は、前記「第2」において検討した本願補正発明から、「モータの起動を開始する時に」について、「空気調和機において冷媒制御を行うために必要な熱交換量が得られているか否かを判断することにより、」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、前記「第2.4(2)」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
ファン動作状態の検出に関して、本願発明は「モータの起動処理を開始する時に」行うのに対し、引用発明のものは「ブラシレスモータが停止して、室外ファンが停止状態の場合に」行う点。

4.上記相違点についての判断
引用発明のファン動作状態の検出は「ブラシレスモータが停止して、室外ファンが停止状態の場合に」行っているが、ファンモータの起動処理を開始する時も、この状態に含まれることは明らかである。
一般に、機器の制御を開始する際に、機器等の状態をチェックし、起動するか否かを判断することは、周知の技術思想といえ、モータ制御の技術分野においても、例えば引用刊行物2(【0003】参照)にもあるように、適宜採用されている技術思想にすぎない。
すると、引用発明のファン動作状態の検出を「ブラシレスモータが停止して、室外ファンが停止状態の場合」のうち、モータの起動処理を開始する時にのみ行うこととし、上記相違点に係る本願発明の構成をなすことは、当業者であれば容易想到の範囲内のことというべきである。
そして、本願補正発明の全体構成により奏される効果も、引用刊行物1に記載された発明及び周知の技術から、当業者であれば予測し得る範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明については、特許法第29条第2項により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-25 
結審通知日 2007-01-26 
審決日 2007-02-06 
出願番号 特願2000-83201(P2000-83201)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02P)
P 1 8・ 121- Z (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾家 英樹  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 高木 進
渋谷 善弘
発明の名称 ファンモータ制御方法およびその装置  
代理人 津川 友士  

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