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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1154740
審判番号 不服2004-10526  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-20 
確定日 2007-03-29 
事件の表示 平成 6年特許願第239809号「カラー受像管」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月23日出願公開、特開平 8-106860〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成6年10月4日を出願日とする出願であって、願書に添付した明細書又は図面について平成15年10月24日付けで補正がなされ、その後、平成16年4月13日付け(発送日:同年4月20日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月20日に審判請求がなされるとともに、同年6月21日付けで手続補正書が提出されたものである。

【2】平成16年6月21日付けの手続補正についての補正却下
の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年6月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
[1]本件補正について
[1-1]本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲は、平成15年10月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものである。

「【請求項1】同一平面上を通るセンタービームおよび一対のサイドビームからなる一列配置の3電子ビームを発生する電子ビーム発生部と、この電子ビーム発生部から得られる3電子ビームを予備集束する複数の補助レンズと、この補助レンズにより予備集束された3電子ビームを最終的に蛍光体スクリーン上に集束かつ集中する主レンズとを有する電子銃を備えるカラー受像管において、
上記電子銃は、上記複数の補助レンズのうち少なくとも2個の補助レンズに前記補助レンズを形成するために対向配置される電極のサイドビーム通過孔を偏心させて対向配置することで上記一対のサイドビームを上記センタービーム側に偏向する偏心レンズを形成することを特徴とするカラー受像管。
【請求項2】2個の偏心レンズは一方の偏心レンズのレンズ作用が強まるとき、この一方の偏心レンズのレンズ作用に同期して他方の偏心レンズのレンズ作用が弱まることを特徴とする請求項1記載のカラー受像管。」

[1-2] 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲は、平成16年6月21日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものである。

「【請求項1】同一平面上を通るセンタービームおよび一対のサイドビームからなる一列配置の3電子ビームを発生する電子ビーム発生部と、この電子ビーム発生部から得られる3電子ビームを予備集束する複数の補助レンズと、この補助レンズにより予備集束された3電子ビームを最終的に蛍光体スクリーン上に集束かつ集中する主レンズとを有し、前記主レンズは集束電極と最終加速電極の間に陽極電圧を抵抗器によって分圧した電圧が印加される少なくとも1つの中間電極とで構成される電子銃を備えるカラー受像管において、
上記電子銃は、上記複数の補助レンズのうち少なくとも2個の補助レンズに前記補助レンズを形成するために対向配置される電極のサイドビーム通過孔を偏心させて対向配置することで上記一対のサイドビームを上記センタービーム側に偏向する偏心レンズを形成することを特徴とするカラー受像管。
【請求項2】2個の偏心レンズは一方の偏心レンズのレンズ作用が強まるとき、この一方の偏心レンズのレンズ作用に同期して他方の偏心レンズのレンズ作用が弱まることを特徴とする請求項1記載のカラー受像管。」
(なお、下線は、補正箇所を示すために付したものである。)

[1-3]本件補正の内容
補正前の請求項1の発明の構成に欠くことのできない事項である「主レンズ」について、「主レンズとを有し、前記主レンズは集束電極と最終加速電極の間に陽極電圧を抵抗器によって分圧した電圧が印加される少なくとも1つの中間電極とで構成される」と補正し、補正後の請求項1としている。

[2]本件補正の適否についての判断
[2-1]新規事項の有無
前記補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載事項の範囲内のもの、すなわち、段落0022の「第6電極G6 と中間電極Gm1とは管内で接続され、これら電極G6 ,Gm1には、陽極端子20から内面導電膜21などを介して抵抗器18に供給される約30 kVの陽極高電圧を抵抗分割して、その約40%の電圧(約12 kV)が、また中間電極Gm2には、同じく抵抗器18により抵抗分割された陽極高電圧の約65%の電圧(約20 kV)が印加される。さらに第8電極G8 には上記約30 kVの陽極高電圧が印加される。」及び図面の図1の記載に基づくものであることは明らかである。

[2-2]補正の目的の適否
前記補正の目的の適否について検討する。
前記補正は、「主レンズ」の構成として「集束電極と最終加速電極の間に陽極電圧を抵抗器によって分圧した電圧が印加される少なくとも1つの中間電極」を直列的に付加するものであって、この付加によって「主レンズ」の構成が限定されていることが明らかである。そうすると、前記補正は、特許請求の範囲の限定的減縮にあたり、特許法17条の2第3項第2号に該当する補正である。

[3]独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

[3-1]引用刊行物
[3-1-1]引用刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前の平成3年3月22日に頒布された刊行物である特開平3-67442号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1a)「2.特許請求の範囲
陰極側から集束電極、1個または複数個の中間電極および最終加速電極が上記集束電極、中間電極、最終加速電極の順に配設され、かつ上記最終加速電極に印加される高電圧を抵抗分割して上記中間電極に一定電圧を印加する抵抗器が近接して配置された電子銃を有し、この電子銃から放出される電子ビームを偏向装置の形成する偏向磁界により偏向するカラー受像管装置において、上記集束電極を分割して複数個の分割集束電極とし、この分割集束電極の少なくとも1個に上記電子銃から放出される電子ビームの偏向に同期して可変するダイナミック電圧を印加し、水平方向よりも垂直方向に強い集束作用をもつ第1の非対称性集束電界を形成するとともに、このダイナミック電圧の印加される分割集束電極以外の分割集束電極に上記抵抗器を介して一定電圧を印加し、上記分割集束電極間に水平方向よりも垂直方向に強い集束作用をもつ第2の非対称性集束電界を形成し、かつ上記最終加速電極近傍に水平方向よりも垂直方向に強い発散作用をもつ非対称性発散電界を形成し、上記第1および第2の非対称性集束電界と上記非対称性発散電界とを平衡させるようにしたことを特徴とするカラー受像管装置。」(公報第1頁左下欄4行?同右下欄7行)

(1b)「現在、カラー受像管は、3電子銃方式といわれるものが主流となっており、なかでも、同一水平面上を通る3電子ビームを放出するインライン型電子銃を使用し、この電子銃から放出される電子ビームを第11図(a)に示すピンクッション状の水平偏向磁界(1)および同図(b)に示すバレル状の垂直偏向磁界(2)からなる非斉一磁界により偏向することにより、3電子ビーム(3B),(3G),(3R)を自己集中(セルフコンバーゼンス)させる方式のものが普及している。このような自己集中方式のカラー受像管装置は、消費電力を少なくすることができ、カラー受像管の品質、性能を良好にすることができる特徴がある。」(公報第1頁右下欄15行?同第2頁左上欄7行)

(1c)「第6図にその一実施例であるカラー受像管装置を示す。このカラー受像管装置は、パネル(10)およびこのパネル(10)に一体に接合されたファンネル(11)からなる外囲器(12)を有し、そのパネル(10)内面に、青、緑、赤に発光する3色蛍光体層からなる蛍光体スクリーン(13)が形成され、この蛍光体スクリーン(13)に対向して、その内側に多数の電子ビーム通過孔の形成されたシャドウマスク(14)が装着されている。また、ファンネル(11)のネック(15)内に、同一水平面上に並列する3電子ビームを放出する下記電子銃(16)が配設されている。・・・この偏向装置(18)は、電子ビームを水平方向に偏向するピンクッション状の水平偏向磁界を形成する水平偏向コイルと、垂直方向に偏向するバレル状の垂直偏向磁界を形成する垂直偏向コイルとを備え、その水平および垂直偏向磁界により上記電子銃(16)から放出される3電子ビームを偏向して、この3電子ビームにより蛍光体スクリーン(13)を走査することにより、カラー画像を表示する構造となっている。」(公報第4頁左上欄6行?同右上欄7行)

(1d)「上記電子銃(16)は、第1図に示すように、ヒーター(図示せず)を内挿し、水平方向に一列に配置された3個の陰極(20)を有し、この陰極(20)から蛍光体スクリーン方向に順次第1ないし第6電極(21)?(26)が配置されている。特にこの例の電子銃(16)では、第5電極(25)は、分割されて互いに隣接する3個の分割集束電極(251)?(253)からなる。また、蛍光体スクリーン側に位置する分割集束電極(253)と第6電極(26)との間に2個の中間電極(27),(28)が配置されている。これら陰極(20)、第1ないし第6電極(21)?(26)および中間電極(27),(28)は、一対の絶縁支持体(図示せず)により一体に固定され、その一体に固定された第6電極(26)の蛍光体スクリーン側端面にコンバーゼンス・カップ(29)が取付けられている。また、この電子銃(16)には、一体に固定された各電極に接近して抵抗器(30)が配置されている。この抵抗器(30)は、電子銃(16)とともにネック内に配置されている。
上記電極のうち、第1および第2電極(21),(22)は、薄い板状の電極からなり、これら電極(21),(22)には、一列配置の3個の陰極(20)に対応して、径小の3個の円形開孔が形成されている。第3電極(23)は、2個のカップ状電極の解放端を突合わせた構造に形成され、その第2電極(22)側の端面には、第2電極(22)の開孔よりもやや径大の3個の円形開孔が形成され、第4電極(24)側の端面には、この第2電極(22)側端面の開孔よりも径大の3個の円形開孔が形成されている。第4電極(24)も2個のカップ状電極の解放端を突合わせた構造に形成されている。第5電極(25)の3個の分割集束電極(251)?(253)のうち、分割集束電極(251),(252)は2個のカップ状電極を解放端で突合わせた構造に、また分割集束電極(253)は解放端を突合わせた2個のカップ状電極を2個組合わせた構造に形成されている。中間電極(27),(28)はともに板厚の厚い板状の電極からなる。また第6電極(26)は2個のカップ状電極の解放端を突合わせた構造に形成されている。そして、これら第4電極(24)、分割集束電極(251)?(253)、第6電極(26)の各端面および板状の中間電極(27),(28)には、第3電極(23)の第4電極(24)側端面の開孔と同一径の3個の円形開孔が形成されている。さらにコンバーゼンス・カップ(29)の底面にも同一径の3個の円形開孔が形成されている。」(公報第4頁右上欄8行?同右下欄12行)

(1e)「抵抗器(30)は、一端が第6電極(26)に接続され、他端が接地されている。そして、中間点(31)が分割集束電極(251)およびこの分割集束電極(251)を介して中間電極(27)に接続され、ファンネルの側壁に設けられた陽極端子に供給される陽極電圧(最終加速電圧)を抵抗分割して、分割集束電極(251)および中間電極(27)に一定の電圧を、また中間電極(28)には、中間点(32)からそれとは異なる一定の電圧を印加するようになっている。
各電極に印加される電圧は、たとえば陰極(20)に150V程度の直流電圧と画像変調信号が印加され、第1電極(21)は接地される。第2電極(22)は、管内で第4電極(24)と接続され、約600Vの電圧が、第3電極(23)は、管内で分割集束電極(251),(253)と接続され、電子ビームの偏向に同期して可変する基準電圧7kV程度のダイナミック集束電圧が印加される。第6電極(26)には25?30kV程度の高圧の最終加速電圧が印加され、分割集束電極(252)および中間電極(27)には、この第6電極(26)に印加される最終加速電圧の約40%の電圧が、また中間電極(28)には最終加速電圧の約65%の電圧が印加される。
上記電圧の印加により陰極(20)と第1、第2電極(21),(22)とにより三極部が形成され、陰極(20)から電子ビームを放射させるとともにクロスオーバーが形成される。また、第2、第3電極(22),(23)により、三極部から出射する電子ビームを予備集束するプリフォーカス・レンズが、さらに分割集束電極(251),(252),(253)により、上記プリフォーカス・レンズにより予備集束された電子ビームをさらに予備集束する補助レンズが、そして、分割集束電極(253)、中間電極(27),(28)および第6電極(26)により、電子ビームを蛍光体スクリーン上に集束する主レンズが形成される。なお、この主レンズは、中間電極(27),(28)によりレンズ領域が拡張されるので、拡張電界レンズといわれ、長焦点レンズを構成している。」(公報第4頁右下欄13行?同第5頁右上欄9行)

(1f)「第2図(a)および(b)に示すように、分割集束電極(253)、中間電極(27),(28)および第6電極(26)により形成される主レンズ部では、分割集束電極(253)の中間電極(27)側に浸透する水平方向の集束性電界は、中央開孔(34a)および両サイド開孔(34b),(34c)に対応する等電位線が共通となる。」(公報第5頁右上欄11行?17行)

(1g)図面の第1図及び第2図(a)から、主レンズを構成する中間電極(28)の両サイドの円形開孔は、中間電極(27)の両サイドの円形開孔に対して、中央の円形開孔から離れる方向に偏心しており、中間電極(27)と(28)とは、対向配置しており、第2図の等電位線(当審注:破線によって図示されている。)から、この対向配置によって、上記両サイドの円形開孔を通過する電子ビームを中央の円形開孔側に偏向する偏心レンズを形成することが読み取れる。

したがって、上記摘記事項(1a)ないし(1g)および図面の記載からみて、引用刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「同一水平面上に並列する3電子ビームを放出する電子銃(16)において、上記電子銃(16)は、水平方向に一列に配置された3個の陰極(20)を有し、この陰極(20)から蛍光体スクリーン方向に順次第1ないし第6電極(21)?(26)が配置されており、これらの電極はそれぞれ、上記陰極(20)に対応して、3個の円形開孔が形成され、
陰極(20)と第1、第2電極(21),(22)とにより三極部が形成され、陰極(20)から電子ビームを放射させるとともにクロスオーバーを形成し、
第2、第3電極(22),(23)により、上記三極部から出射する電子ビームを予備集束するプリフォーカス・レンズが形成され、
さらに第5電極(25)は、分割されて互いに隣接する3個の分割集束電極(251)?(253)からなり、上記分割集束電極(251)?(253)により、上記プリフォーカス・レンズにより予備集束された電子ビームをさらに予備集束する補助レンズが形成され、
そして、蛍光体スクリーン側に位置する分割集束電極(253)と最終加速電極である第6電極(26)と、それらの間に配置される2個の中間電極(27),(28)によって電子ビームを蛍光体スクリーン上に集束する主レンズが形成され、
上記最終加速電極に印加される高電圧を抵抗分割して上記中間電極に一定電圧を印加する抵抗器(30)を備えるカラー受像管装置において、
上記主レンズを構成する中間電極(28)の両サイドの円形開孔は、中間電極(27)の両サイドの円形開孔に対して、中央の円形開孔から離れる方向に偏心しており、中間電極(27)と(28)とが、対向配置することによって、上記両サイドの円形開孔を通過する電子ビームを上記中央の円形開孔側に偏向する偏心レンズが形成されるカラー受像管装置。」

[3-1-2]引用刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前の平成元年9月11日に頒布された刊行物である特公平1-42109号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(2a)「1中央及び両側の電子ビームを放出する一列配設された3個の陰極、それぞれ一体形成され前記中央及び両側の電子ビーム通過用の開口部が穿設された第1グリツド、第2グリツド、第3グリツド、第4グリツド、第5グリツド及び第6グリツドからなり、前記第4グリツドには低電圧が印加され、前記第3グリツドと第5グリツドには略同電位の中電圧が印加され、前記第6グリツドには高電圧が印加されてなる電子銃構体において、前記第4グリツドの開口部と、これに対向する第5グリツドの開口部を相対的に偏心させることによる非対称電界によつて形成される第1の電子レンズと、第5グリツドとこれに対向する前記第6グリツドの間に非対称電界によつて形成される第2の電子レンズを有することを特徴とする電子銃構体。」(公報第1頁第1欄2行?17行)

(2b)「前記一体化構造電子銃構体は、各電極の構成が機械的に簡単であり、しかも3本の電子銃の各電子レンズの相対位置が正確に決定されるためコスト及び精度の点で好ましいが、一方改良すべき欠点も指適されている。即ち、3本の電子ビームをスクリーン上に集中するために離心した開口部を利用していることである。この離心した開口部による電子ビームの偏向量は、近似的にその離心量と、電子レンズを形成する電極間の電位差に比例するため、少なくともこの電子レンズを形成する電極間の電位差が正確でないと所期の目的が達せられない。
即ち、非対称電子レンズによる偏向角(量)は、近似的に次式で与えられる。
θ=k・p・q …(1)
ここでθは偏向角、kは定数、pは離心量で電子レンズ径を規格化したもの、qは電子レンズの電圧比である。」(公報第2頁第3欄5行?22行)

(2c)「次に、本発明の電子銃構体の第1の実施例を第2図によつて説明する。
即ち、電子銃構体20は、図示しない絶縁支持棒に植設部を介して植設されたヒータ11、陰極12、第1グリツド13、第2グリツド14、第3グリツド15、第4グリツド16、第5グリツド17及び第6グリツド18からなり、それぞれ前記陰極12、即ち、それぞれの電子銃の銃軸ZG,ZB,ZRに対応した位置に電子ビーム通過用の開口部を有している。第1グリツド13、第2グリツド14、第4グリツド16は、板状をなし、前記第4グリツド16は、例えば第2グリツド14に導線21にて接続され低電位に保持されている。また、前記第3グリツド15及び第5グリツド17は、それぞれ底部に前記電子ビーム通過用開口部を有する有底筒体151,152及び171,172より形成され、導線22にて接続され約7KVの電位が与えられている。更に、第6グリツド18は、底部に電子ビーム通過用開口部を有する有底筒体からなり、コンバーゼンス電極19を介してカラー受像管の陽極電圧である約25KVの電位が与えられている。
前述した構造の電子銃構体20に於ては、前記第3グリツド15、第4グリツド16及び第5グリツド17間に第1の電子レンズが形成され、前記第5グリツド17と第6グリツド18間には第2の電子レンズ(主電子レンズ)が形成されることになる。」(公報第2頁第4欄12行?39行)

(2d)「両側の電子ビーム21B,21Rは、両側の開口部171B,171Rをそれぞれの銃軸ZB,ZRより中央の電子銃の銃軸ZGと逆方向に所定距離遠ざけた軸ZB1,ZR1を中心とするよう、即ち離心するように設けることにより形成される非対称電界からなる第1の電子レンズを通過するため、中央の電子ビーム21Gに近ずくように偏向される。この偏向の量は、第4グリツド16と第5グリツド17の有底筒体の開口部171Bと171Rの離心量に比例する。次に、両側の電子ビーム21B,21Rは前記第5グリツド17の有底筒体172の開口部172B,172Rと、それぞれの銃軸ZB,ZRより中央の電子銃の銃軸ZGと逆方向に所定距離遠ざけた軸ZB2,ZR2を中心とするよう、即ち離心するように設けるとともに、第5グリツド17と対向する面を傾斜させることにより、第6グリツド18の開口部18B,18Rとの間に形成される非対称電界からなる第2の電子レンズを通過する、そのため、中央開口部172Bおよび18Gとの間に形成される対称電界からなる第2の電子レンズを直進する中央の電子ビーム21Gに更に接近し、図示しないスクリーン上の一点に3本の電子ビーム21B,21G,21Rが合致するように形成される。」(公報第3頁第5欄9行?32行)

(2e)「前述した第1の電子レンズと第2の電子レンズの作用は、前述したようにこれら電子レンズを形成する対向電極に印加される電圧差に左右されることが多い。従つて、第1の電子レンズに於ては、第2の電子レンズに於ける偏向より少なくなることは説明するまでもないが、両レンズの特性は、電子銃構体として最も電圧変動を受けやすい第5グリツド17の電位により互いに相殺するように働く。即ち、第5グリツド17の電圧が下がれば第1の電子レンズの偏向度が小となり、第2の電子レンズの偏向度が大となる。この逆の場合、即ち第5グリツド17の電圧が上がれば第1の電子レンズの偏向度がより大となり、第2の電子レンズの偏向度がより小となる。」(公報第3頁第5欄33行?同第6欄2行)

(2f)「第3図は、第2図をモデル化したものであり、第4グリツドG4,16、第5グリツドG5,17及び第6グリツドG6,18で形成される第1及び第2の電子レンズG4/G5及びG5/G6により両側電子ビームがどの様に偏向されるかを図示したものである。
即ち、第5グリツド17の印加電圧が任意の値Vfのとき第3図aにおいて、電子ビーム21Bは、第4グリツドG4と第5グリツドG5によつて形成される第1の電子レンズのA点、第5グリツドG5と第6グリツドG6によつて形成される第2の電子レンズのB点に於てそれぞれ偏向されて蛍光面24のO点に射突する。次に、第5グリツドG5の印加電圧が(ΔVf)だけ下がつた時、第1の電子レンズのA点、第2の電子レンズのC点に於て、それぞれ偏向されて電子ビーム23Bの経路を通り蛍光面24上のO点に射突したとすると、電子ビーム21Bが電子ビーム23Bの軌道をとるように設計すれば第5グリツドG5の印加電圧に対する裕度が増加することになる。
ここで第3図bは、第2図の離軸電子ビーム21Bに対応する電子銃の一部をモデル化したものであり、そのまま第3図aにも対応している。
前述した第3図aに於ける裕度を得るためには、下記の2式を満足するように離心量Sgを求めればよい。
Sg=θ1l+(θ1+θ2)lsg …(2)
Sg=(θ1+Δθ2)・l
+(θ1+θ2-Δθ1+Δθ2)lsg …(3)
ここで角度θ1、θ2は、電子ビーム21Bの偏向角、角度Δθ1、Δθ2は第5グリツドG5の印加電圧がΔVfだけ下がつたときの偏向角の変化量、lは第1と第2の電子レンズ間距離、lsgは第2の電子レンズと蛍光面24の距離であり、第3図に於てZB,ZB1,ZB2はそれぞれの電極の銃軸、P1,P2は偏心量である。
前記式(2)(3)は、前記式(1)、即ち、離心量と偏向量の関係式及びレンズの光学的特性を加味して解けば離心量は求められるし、さらにより最高値は実験的に容易に求めることができる。」(公報第3頁第6欄11行?同第4頁第7欄6行)

(2g)「また、上記実施例のように第2の電子レンズは傾斜及び偏心に限られず、例えば傾斜または偏心としても良いことはいうまでもない。」(公報第4頁第8欄1行?3行)

[3-2]対比
本願補正発明(以下、「前者」という。)と引用発明(以下、「後者」という。)とを比較する。
(1)後者の「陰極(20)と第1、第2電極(21),(22)とにより三極部が形成され、陰極(20)から電子ビームを放射させるとともにクロスオーバーを形成し、第2、第3電極(22),(23)により、上記三極部から出射する電子ビームを予備集束するプリフォーカス・レンズが形成され、さらに第5電極(25)は、分割されて互いに隣接する3個の分割集束電極(251)?(253)からなり、上記分割集束電極(251)?(253)により、上記プリフォーカス・レンズにより予備集束された電子ビームをさらに予備集束する補助レンズが形成され」る点の構成は、「水平方向に一列に配置された3個の陰極(20)を有し、この陰極(20)から蛍光体スクリーン方向に順次第1ないし第6電極(21)?(26)が配置されており、これらの電極はそれぞれ、上記陰極(20)に対応して、3個の円形開孔が形成され」、この3個の円形開孔をそれぞれ電子ビームが通過するので、前者の「同一平面上を通るセンタービームおよび一対のサイドビームからなる一列配置の3電子ビームを発生する電子ビーム発生部と、この電子ビーム発生部から得られる3電子ビームを予備集束する複数の補助レンズ」に相当する。
(2)後者の「蛍光体スクリーン側に位置する分割集束電極(253)と最終加速電極である第6電極(26)と、それらの間に配置される2個の中間電極(27),(28)によって電子ビームを蛍光体スクリーン上に集束する主レンズが形成され」る点の構成は、後者の主レンズが、「上記主レンズを構成する中間電極(28)の両サイドの円形開孔は、中間電極(27)の両サイドの円形開孔に対して、中央の円形開孔から離れる方向に偏心しており、中間電極(27)と(28)とが、対向配置することによって、上記両サイドの円形開孔を通過する電子ビームを上記中央の円形開孔側に偏向する偏心レンズが形成され」る点の構成を有することにより、予備集束された3電子ビームを最終的に蛍光体スクリーンに集束かつ集中することができ、また、後者の中間電極が、「抵抗器(30)」によって「最終加速電極に印加される高電圧を抵抗分割して」、「一定電圧を印加」されているので、前者の「予備集束された3電子ビームを最終的に蛍光体スクリーン上に集束かつ集中する主レンズとを有し、前記主レンズは集束電極と最終加速電極の間に陽極電圧を抵抗器によって分圧した電圧が印加される少なくとも1つの中間電極とで構成される」点の構成に相当する。
(3)後者の「同一水平面上に並列する3電子ビームを放出する電子銃(16)」、「カラー受像管装置」は、それぞれ、前者の「電子銃」、「カラー受像管」に相当する。

そうすると、両者は、
[一致点]
「同一平面上を通るセンタービームおよび一対のサイドビームからなる一列配置の3電子ビームを発生する電子ビーム発生部と、この電子ビーム発生部から得られる3電子ビームを予備集束する複数の補助レンズと、この補助レンズにより予備集束された3電子ビームを最終的に蛍光体スクリーン上に集束かつ集中する主レンズとを有し、前記主レンズは集束電極と最終加速電極の間に陽極電圧を抵抗器によって分圧した電圧が印加される少なくとも1つの中間電極とで構成される電子銃を備えるカラー受像管」の点の構成で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
前者は、複数の補助レンズのうち少なくとも2個の補助レンズに前記補助レンズを形成するために対向配置される電極のサイドビーム通過孔を偏心させて対向配置することで一対のサイドビームを上記センタービーム側に偏向する偏心レンズを形成しているのに対し、後者は、補助レンズに偏心レンズが形成されているか明らかでない点。

[3-3]判断
上記相違点について検討する。
引用刊行物2には、対向配置される電極のサイドビーム通過孔を偏心させて対向配置した偏心レンズを2個設けた電子銃を有するカラー受像管について記載され、式(2)Sg=θ1l+(θ1+θ2)lsgより、2個の偏心レンズからなるレンズ系に関して、第1偏心レンズの偏向角θ1 が所定の値のときに、所定の離心量Sgを得るのに、偏心レンズ間の距離lを拡げると、第2偏心レンズの偏向角θ2 を減少させることができること、及び、射出ビームについて所定の偏向角を得るのに1個の偏心レンズからなるレンズ系に比べ、2個の偏心レンズからなるレンズ系ではそれぞれの偏心レンズの担う偏向角を小さくとれること、が理解できる。
そして、主レンズ部での偏心量を小さくして偏向角を小さくすることは、例えば、特公平5-61742号公報の第4頁第7欄5行?10行に「軸の偏心が二段になつているため、主電子レンズ部の電子ビーム集中のための偏心は従来より小さくすることが可能となり、その主電子レンズの非軸対称性による収差は従来より小さくなり、その電子レンズの集束特性が向上し、電子レンズの解像度が改善出来る。」と記載されているところからみて、周知の課題と認められ、また、引用刊行物2の上記摘記事項(2c)から、第1の電子レンズは補助レンズ部に置かれているものと解されるから、偏心レンズを補助レンズ部に設けることは引用刊行物2に示唆されているものと認められる。
そうすると、主レンズの偏心量を小さくして射出ビームについて所定の偏向角を得るために、複数の偏心レンズを組み合わせつつ、主レンズの偏心レンズと補助レンズの偏心レンズとの相対距離を拡げる上記引用刊行物2記載の技術を引用発明に適用して、引用発明の補助レンズ領域に複数の偏心レンズを設けることは当業者が容易になし得ることといえる。

なお、請求人は、請求の理由(平成16年7月28日付け手続補正書)において、大要以下のように主張している。
(1)引用刊行物2には、主レンズの偏心レンズを変化させることなく複数の補助レンズの複数のレンズの動作のみでサイドビームのコンバーゼンスを相殺させる構成については記載されていない。
(2)補助レンズ段階でサイドビームを偏向させるための偏心量は、仮に主レンズにおいて同量だけ偏向させる場合の偏心量と比較すると遥かに少なくて済み、偏心レンズによるビームスポットの歪を軽減させることを可能にしている。

しかしながら、
(1)については、本願補正発明では、「主レンズの偏心レンズを変化させることなく」、複数の補助レンズの複数のレンズの動作「のみ」でサイドビームのコンバーゼンスを相殺させることは特定されておらず、請求項1の記載に基づかない主張であり、(2)については、偏心量を小さくすると収差も小さくできることは上記特公平5-61742号公報に記載されているようによく知られたことであり、上述したように引用発明の補助レンズ領域に複数の偏心レンズを設けることは当業者が容易になし得ることである以上、収差も小さくする、すなわち、ビームスポットの歪を軽減させることも当業者の予測の範囲内であり、上記請求人の主張は採用できない。

以上のことから、引用発明に引用刊行物2記載の技術を採用して、本願補正発明のように構成することは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願補正発明の奏する作用効果も、引用刊行物1及び2から当業者が予測できる範囲内のものであり、格別のものではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用刊行物2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[3-4]むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明
平成16年6月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成15年10月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について以下検討する。

【4】引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載事項については、前記【2】[3-1]のとおりである。

【5】対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「主レンズ」の構成から、「集束電極と最終加速電極の間に陽極電圧を抵抗器によって分圧した電圧が印加される少なくとも1つの中間電極」の限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明と上記引用発明とを比較すると、その一致点、相違点は上記[3-2]のとおりであり、本願発明も、上記【2】[3-3]と同様の理由により、引用発明及び引用刊行物2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【6】むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用刊行物2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そして、本願発明が特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-24 
結審通知日 2007-01-30 
審決日 2007-02-13 
出願番号 特願平6-239809
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 波多江 進  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 小川 浩史
山口 敦司
発明の名称 カラー受像管  
代理人 菊池 治  
代理人 大胡 典夫  

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