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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M |
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管理番号 | 1154771 |
審判番号 | 不服2005-553 |
総通号数 | 89 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-01-11 |
確定日 | 2007-03-29 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第135309号「記録シート」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月 9日出願公開、特開平 9-314988〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯、本願発明 本願は、平成8年5月29日に出願したものであって、その請求項1ないし3に係る発明は、平成16年7月29日付け手続補正書で補正された明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。 「【請求項1】下記の一般式(1)で表される繰り返し単位から構成される高分子化合物を主成分とする記録層を備えていることを特徴とするインクジェット用記録シート。 【化1】 」 2.引用刊行物の記載内容 原審の拒絶の理由に引用された下記の刊行物には以下の事項が記載されている。 刊行物:特開平7-195826号公報 (1)「【請求項1】 下記の一般式(1)で表される繰り返し単位から構成される水溶性高分子化合物を主成分とする記録層を備えていることを特徴とする記録シート。 【化1】 」(特許請求の範囲) (2)「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、インクジェット方式用等の印字,複写に用いられる記録シートに関するものである。」 (3)「【0014】 【化3】 (一般式(1) 省略 【請求項1】の【化1】と同じ。) 【0015】上記式(1)中のR1において、特にメチル基,エチル基,フェニル基が好ましい。・・・このような特定の水溶性高分子化合物は、例えば下記に示す二成分、(A)および(B)を用いて得られる。 (A)活性水素基を2個有する有機化合物に、エチレンオキシドを主体とするアルキレンオキシドを付加重合させてなる重量平均分子量1000以上のポリオキシアルキレンポリオール。 (B)ジカルボン酸類化合物およびジイソシアネート化合物の少なくとも一方。 【0016】上記(A)の活性水素基を2個有する有機化合物としては、主として、エチレングリコール、ジエチレングリコール・・・等の脂環式ジオール、ブチルアミン・・・等のアミン類があげられる。これらは単独でもしくは併せて用いられる。 【0017】また、上記活性水素基を2個有する有機化合物に付加重合させるエチレンオキシドを含有するアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド単独、エチレンオキシドを主体とするプロピレンオキシド,ブチレンオキシド,スチレンオキシド等のアルキレンオキシド混合物があげられる。そして、上記エチレンオキシドの含有量は、アルキレンオキシド全体の50重量%(以下「%」と略す)以上に設定することが好ましい。すなわち、エチレンオキシドの含有量が50%未満では、得られる高分子化合物が水難溶性となり、また被膜形成性が劣りこの発明の製法において紙に含浸させたり、コーティング時において強度の低い被膜が形成され不都合となるからである。 【0018】・・・そして、上記(A)は、上記各成分を用いて、・・・活性水素基を2個有する有機化合物にエチレンオキシドを含有するアルキレンオキシドをブロックまたはランダムで付加重合させることにより得られる。」 (4)「【0020】上記(A)と反応させる(B)のなかのジカルボン酸類化合物としては、ジカルボン酸,ジカルボン酸無水物,ジカルボン酸の低級アルキルエステルがあげられる。・・・ 【0021】上記(B)のなかのジイソシアネート化合物としては、具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート・・・等があげられる。」 (5)「【0030】 【発明の効果】以上のように、この発明の記録シートには、前記一般式(1)で表される繰り返し単位から構成される水溶性高分子化合物を主成分とする記録層が設けられている。このため、上記特殊な記録層は、その層形成材料自身の有する特性から、インクの濡れ性に優れ、吸収性が向上した結果、異色インクの混色や飛散,流れ出しによる汚れが生じない。しかも、高湿度雰囲気下において、印刷画面が滲んだり、画面表面がべとつくことも無くなる。・・・」 (6)「【0032】 【実施例1】紙製基材として・・・コート原紙を作製した。一方、エチレングリコールにエチレンオキシドを単独で付加重合させてポリエチレングリコール(分子量12000)を作製した。ついで、このポリエチレングリコール100部に、ジメチルテレフタレートを1.86部加えエステル交換反応を行い分子量130000の水溶性高分子化合物を作製した〔前記一般式(1)で表される繰り返し単位において、A,X,R2 は下記のとおりである〕。この水溶性高分子化合物を用い水で20%水溶液とし、上記紙製基材表面に、厚み10μmとなるようエアーナイフコーターを用いて上記20%水溶液を塗布し乾燥させた(乾燥条件:100℃×2時間)。このようにして目的とする記録シートを得た。 【0033】・・・ 【0034】 【実施例2】上記実施例1と同様にしてコート原紙を作製した。一方、エチレングリコールにプロピレンオキシドおよびエチレンオキシドを付加重合させてポリエチレンポリプロピレングリコール(エチレンオキシド85%,プロピレンオキシド15%,分子量20000)を作製した。このポリエチレンポリプロピレングリコール100部に、ジフェニルメタンジイソシアネートを1.09部加え、85℃で90分間反応させて分子量110000の水溶性高分子化合物を作製した〔前記一般式(1)で表される繰り返し単位において、A,X,R2 は下記のとおりである〕。この水溶性高分子化合物を用い水で20%水溶液とし、上記紙製基材表面に、厚み10μmとなるようエアーナイフコーターを用いて上記20%水溶液を塗布し乾燥させた(乾燥条件:100℃×2時間)。このようにして目的とする記録シートを得た。」 (7)「【0038】 【実施例4】紙製基材に代えて厚み100μmのポリエステルフィルム〔HSグレード(無処理品)〕を用いた。一方、上記実施例1で作製した水溶性高分子化合物を用い、これを水に溶解して10%水溶液として、バーコーターを用いて、上記ポリエステルフィルムに100μmの厚みで塗工し乾燥させ被膜(記録層)を形成した(乾燥条件:100℃×2時間)。このようにして厚み10μmの記録層が形成された記録シートを製造した。 【0039】 【実施例5】実施例1で作製した水溶性高分子化合物に代えて上記実施例2で作製した水溶性高分子化合物を用いた。それ以外は実施例4と同様にして厚み10μmの被膜(記録層)を形成することにより目的とする記録シートを製造した。」 (8)「【0047】 【表1】 ┌───────┬───────────────────────┐ │ │ 実 施 例 │ │ ├───┬───┬───┬───┬───┬───┤ │ │ 1 │ 2 │ 3 │ 4 │ 5 │ 6 │ ├───────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤ │インク吸収性 │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ├───────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤ │鮮明度 │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ├───────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤ │流れ出しの有無│ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ├───────┼───┼───┼───┼───┼───┼───┤ │べとつきの有無│ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ ○ │ └───────┴───┴───┴───┴───┴───┴───┘ 」 3.対比・判断 刊行物には、「一般式(1)で表される繰り返し単位から構成される水溶性高分子化合物を主成分とする記録層を備えているインクジェット用記録シート」〔(1),(2)〕が記載されていものと認める。 そこで、本願発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、両者は「高分子化合物を主成分とする記録層を備えているインクジェット用記録シート」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点:記録層の主成分の高分子化合物が、いずれも一般式(1)のAXAR2で表され、X及びR2の定義に差異はないが、本願発明では、Aがエチレンオキシドとブチレンオキシドの繰り返し単位から構成されるブロック共重合体であるのに対して、刊行物に記載された発明では、エチレンオキシドとアルキレンオキシドの繰り返し単位から構成される共重合体であり、水溶性の高分子化合物である点。 上記相違点について検討すると、刊行物に記載された発明のエチレンオキシドとアルキレンオキシドの共重合体の水溶性高分子化合物において、アルキレンオキシドとしては、「上記式(1)中のR1において、特にメチル基,エチル基,フェニル基が好ましい。」〔(3)〕とエチル基が好ましいとしており、R1がエチル基であることはそのアルキレンオキシドがブチレンオキシドであるので、これはAがエチレンオキシドとブチレンオキシドの共重合体であることを示唆するものである。 そのような水溶性高分子化合物が水溶性であるのは、水溶性のエチレンオキシドの含有量がアルキレンオキシド全体の50重量%以上であることによるものであり、アルキレンオキシド自体はブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれでもよいもの〔(3)〕である。 そして、ブロック重合すると、エチレンオキシドブロックとブチレンオキシドブロックとが交互に並ぶことになるが、重合比率はエチレンオキシドの方がブチレンオキシドよりも数倍高いのであるから、エチレンオキシドブロックがブチレンオキシドブロックよりも多くなって、一般式(1)のAの定義のようにエチレンオキシドブロックがブチレンオキシドブロックを挟むような付加形態を採ることになる。 本願発明のエチレンオキシドとブチレンオキシドのブロック共重合体も、エチレンオキシドブロックであるエチレンオキシド鎖が80?90重量%存在し、ブチレンオキシドブロックであるブチレンオキシド鎖が10?20重量%存在する(本願明細書【0006】)もので、その水溶性のエチレンオキシドの含有量が80?90重量%であることは、刊行物に記載の共重合体の「エチレンオキシドの含有量がアルキレンオキシド全体の50重量%以上」であることであり、一般式(1)のAXAR2のX及びR2も刊行物に記載のものと同じ〔(3),(4)〕で、しかも、インクジェット記録用の水性インクをよく吸収するものであるから、水溶性でないといえるものではなく、両高分子化合物が水溶性であるか否かについては実質的な相違とならない。 また、審判請求書の請求理由における実験結果において、【実験例1】、【実験例2】の水溶性高分子化合物は、刊行物の実施例1、実施例2の水溶性高分子化合物とそれぞれ同じであり、ポリエチレンテレフタレートシート上の記録層の厚さ10μmでも共通し、評価の内容も刊行物の実施例と全く同じである。 その評価をみると、【実験例1】、【実験例2】は、インク吸収性、鮮明度ついては「○」であるが、流れ出しの有無、べとつきの有無については「×」である。 このことは、本願明細書の記載において、同じインク吸収性、鮮明度、流れ出しの有無、べとつきの有無においても本願発明の実施例はすべて「○」であることからみて、【実験例1】、【実験例2】は、本願発明の作用効果が、刊行物に記載された発明よりも優れることを説明しようとするものと考えられる。 しかしながら、刊行物の記載では、それぞれ紙製基材を用いた記録シートである実施例1、実施例2、及び実施例1、実施例2の水溶性高分子化合物をそれぞれ用い、紙製基材をポリエチレンテレフタレートシートに換えた実施例4、実施例5について、本願明細書のに記載の評価方法と同じ評価方法で行ったインク吸収性、鮮明度、流れ出しの有無、べとつきの有無の評価がすべて「○」〔(5)?(8)〕であり、審判請求書の請求理由における実験結果の評価は特に刊行物の実施例4、実施例5と同じ記録シートを評価していることになるのに、流れ出しの有無、べとつきの有無について「×」であるので、刊行物のすべて「○」とは一致していない。 そして、刊行物に記載されている以外の、具体的な実験者、日時、場所、実験手順等が何も示されていないのであるから、審判請求書の請求理由における実験結果からは、本願発明が刊行物に記載された発明に比較して優れた効果を奏するということができない。 そうすると、一般式(1)で表される繰り返し単位から構成されるような、エチレンオキシドとブチレンオキシドのブロック共重合体の高分子化合物を主成分として記録層に用いることは、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。 4.結論 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-01-25 |
結審通知日 | 2007-01-30 |
審決日 | 2007-02-14 |
出願番号 | 特願平8-135309 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤井 勲 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
阿久津 弘 秋月 美紀子 |
発明の名称 | 記録シート |