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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1154910
審判番号 不服2005-3091  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-22 
確定日 2007-03-30 
事件の表示 平成8年特許願第290258号「鉄骨被覆用耐火積層体及び耐火鉄骨構造」拒絶査定不服審判事件〔平成10年5月19日出願公開、特開平10-131340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成8年10月31日の出願であって、平成17年1月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月24日付けで手続補正がなされたものである。


【2】平成17年3月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成17年3月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
[1]補正事項
本件手続補正は、特許法第17条の2第1項第4号の規定により、願書に添付した明細書を補正するものであって、その補正事項は、特許請求の範囲の請求項1を、以下のように補正することを含むものである。
「【請求項1】厚み0.5?40mmの耐火膨張シート(a)と、前記耐火膨張シート(a)の膨張を妨げずに前記耐火膨張シート(a)の形状を保持することができ、かつ、炎を遮断することができるシート(b)とを積層してなる鉄骨被覆用耐火積層体であって、
前記耐火膨張シート(a)は、
600℃に加熱した場合において、加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=1.1?20であり、
熱可塑性樹脂に、粘着付与樹脂、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛及び無機充填剤を含有する樹脂組成物からなり、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記リン化合物と前記中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20?200重量部、前記無機充填剤が50?500重量部、前記リン化合物と前記中和処理された熱膨張性黒鉛との重量比が、1:9?9:1であり、
前記粘着付与樹脂が、ロジン、ロジン誘導体、ダンマル、コーパル、クマロン、インデン樹脂、ポリテルペン、石油系炭化水素樹脂、キシレン樹脂からなる群から選ばれることを特徴とする鉄骨被覆用耐火積層体。」


[2]検討
上記補正事項における、「600℃に加熱した場合において」という事項に関して、請求人は、審判請求書の「[2]補正の根拠の明示」の項において、
「本願発明の実施例の段落〔0044〕の『評価方法・・・』の記載に基づき、以下の実験を行いました。
厚さ6.0mmのセラミックシート・・・を評価サンプルとし、・・・照射熱量50kW/m2(水平方向)・・・を30分間与え、熱電対にてセラミックシートの裏面温度を測定しました。その結果裏面温度は602°Cとなりました。セラミックシートの裏面と耐火膨張シートの表面の温度は同一であることから、本願実施例において耐火膨張シートは(300°Cではなく)600°Cに加熱されていることは明白であります。」と主張している。
しかしながら、願書に最初に添付した明細書においては、「300℃に加熱した場合において」、「加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)と」の関係が、「D′/D=1.1?20」である旨の記載(請求項1の記載及び段落【0007】、【0009】、【0034】の記載を参照。)のみしかなく、「600℃に加熱した場合において、加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=1.1?20」である旨の記載は一切ないし、また、上記主張における実験の結果に関しての証明も何らなされていないことからも、「本願実施例において耐火膨張シートは(300°Cではなく)600°Cに加熱されていることは明白であり」とはいえないから、「600℃に加熱した場合において、加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=1.1?20であり」という事項が、自明のこととは認められない。
よって、本件手続補正は、新規事項を追加するものといわねばならない。


[3]まとめ
したがって、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。


【3】本願発明について
平成17年3月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成16年10月15日付けの手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】厚み0.5?40mmの耐火膨張シート(a)と、前記耐火膨張シート(a)の膨張を妨げずに前記耐火膨張シート(a)の形状を保持することができ、かつ、炎を遮断することができるシート(b)とを積層してなる鉄骨被覆用耐火積層体であって、
前記耐火膨張シート(a)は、
300℃に加熱した場合において、加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=1.1?20であり、
熱可塑性樹脂に、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛及び無機充填剤を含有する樹脂組成物からなり、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記リン化合物と前記中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20?200重量部、前記無機充填剤が50?500重量部、前記リン化合物と前記中和処理された熱膨張性黒鉛との重量比が、1:9?9:1であることを特徴とする鉄骨被覆用耐火積層体。
【請求項2】(記載を省略する。)
【請求項3】(記載を省略する。)」(請求項1に係る発明を、以下、「本願発明」という。)


[1]引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平3-235号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(イ)「1)熱がかかると発泡または膨張する膨張性材料が、耐熱性表面シートと裏面シートの間に不燃性糸、または可燃性糸と不燃性糸によって両側より縫い合わされ、積層固定されたことを特徴とする防耐火被覆マット。・・・」(特許請求の範囲)
(ロ)「ここで本発明の耐火被覆マットにおいて、耐熱性表面シート材として伸長性を有するものを用いるのがより好ましい。すなわち、ストッキングのごとく伸縮するものを用いることにより、膨張性材料が発泡または膨張するとともに追従して厚み方向に伸長する物である。」(3頁左上欄13?18行)
(ハ)「本発明において耐熱性表面シート材としては、・・・、セラミックペーパー、・・・、耐熱金属薄膜、・・・等があげられる。」(3頁左下欄16行?同頁右下欄3行)
(ニ)「膨張性材料としては、膨張性黒鉛、・・・等があげられ、・・・あらかじめシート状に成形しておいても良い。」(3頁右下欄11?19行)
(ホ)「(実施例1)
まず、耐熱性表面シートとして、・・・セラミックペーパー・・・を用い同様に耐熱性裏面シートとして・・・セラミックペーパー・・・を用い、これら耐熱性表面シートと耐熱性裏面シートの間に膨張性材料として、・・・膨張黒鉛・・と硼砂を・・・混合し厚さ約2ミリ程度となるように挟み、」(4頁右下欄9?18行)
(ヘ)「(実施例2)
まず、耐熱性表面シートとして、・・・セラミックペーパー・・・を用い・・・次に、耐熱性裏面シートとして・・・セラミックペーパー・・・を用い、これら耐熱性表面シートと耐熱性裏面シートの間に膨張性材料として、・・・膨張黒鉛・・と硼砂を・・・混合し厚さ約2ミリ程度となるように挟み、」(5頁左上欄10行?同頁右上欄1行)
(ト)「防火・耐火被覆マットを、鉄骨に無機系耐熱接着剤をもって第9図のように貼りつけ」(5頁右下欄3?4行)
上記(ロ)の記載を参照すると、耐熱性表面シートは、膨張性材料の膨張を妨げずに膨張性材料の形状を保持することができ、かつ、炎を遮断することができるものといえるから、上記(イ)?(ト)の記載事項等および特に第9図の記載を含む引用文献1全体の記載並びに当業者の技術常識によれば、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「厚さ2ミリ程度の膨張性材料と、前記膨張性材料の膨張を妨げずに前記膨張性材料の形状を保持することができ、かつ、炎を遮断することができる耐熱性表面シートとを積層してなる鉄骨被覆用防火・耐火被覆マット。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)


[2]対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを比較すると、その機能ないし構造等からみて、引用文献1記載の発明の「膨張性材料」、「耐熱性表面シート」、「鉄骨被覆用防火・耐火被覆マット」は、それぞれ、本願発明の「耐火膨張シート(a)」、「シート(b)」、「鉄骨被覆用耐火積層体」に相当し、厚さ2ミリ程度は、0.5?40mmに含まれるから、両者は、
「厚み2mm程度の耐火膨張シートと、前記耐火膨張シートの膨張を妨げずに前記耐火膨張シートの形状を保持することができ、かつ、炎を遮断することができるシートとを積層してなる鉄骨被覆用耐火積層体。」の点で一致し、次の点で相違している。
<相違点>
耐火膨張シートについて、本願発明では、「300℃に加熱した場合において、加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=1.1?20であり、熱可塑性樹脂に、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛及び無機充填剤を含有する樹脂組成物からなり、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記リン化合物と前記中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20?200重量部、前記無機充填剤が50?500重量部、前記リン化合物と前記中和処理された熱膨張性黒鉛との重量比が、1:9?9:1である」のに対して、引用文献1記載の発明では、そのように限定されていない点。


[3]判断
鉄骨等の被覆用に用いられる樹脂組成物として、熱可塑性樹脂にリン化合物、(中和処理された)熱膨張性黒鉛及び無機充填剤を含有するものとすることは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-55680号公報(以下、「周知例1」という。)や、査定時に周知例として提示された特開平8-217910号公報(以下、「周知例2」という。)、及び、特開平7-259212号公報(以下、「周知例3」という。)等に示されているように従来から周知の技術にすぎないもの(尚、周知例2には中和処理された熱膨張性黒鉛が開示されており、周知例3には中和処理効果を有するアルカリ金属化合物等を選択しうることが記載されている。)である。
ところで、上記周知例1の段落【0037】に記載されている実施例1、上記周知例2の段落【0028】の【表1】に記載されている実施例6、上記周知例3の段落【0060】の【表3】に記載されている実施例1は、何れも、本願発明の限定事項である「熱可塑性樹脂100重量部に対して、リン化合物と(中和処理された)熱膨張性黒鉛との合計量が20?200重量部、無機充填剤が50?500重量部、前記リン化合物と前記(中和処理された)熱膨張性黒鉛との重量比が、1:9?9:1」に含まれる樹脂組成物の例であり、
これらについて、300℃に加熱した場合における、加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係は明記されていないが、引用文献1記載の発明に上記限定事項が含まれるといえる樹脂組成物についての周知の技術を採用すれば、本願発明と同様の関係となるであろうことは明らかである。
そして、本願発明全体の効果も引用文献1記載の発明及び周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものということができないから、本願発明は、引用文献1記載の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


[4]むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2007-01-25 
結審通知日 2007-01-31 
審決日 2007-02-14 
出願番号 特願平8-290258
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
P 1 8・ 561- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 西田 秀彦
宮川 哲伸
発明の名称 鉄骨被覆用耐火積層体及び耐火鉄骨構造  

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