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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1154935
審判番号 不服2004-9947  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-13 
確定日 2007-03-28 
事件の表示 特願2000-167151号「止血用バルーンカテーテル」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月11日出願公開、特開2001-340463号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年6月5日の出願であって、平成16年4月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年5月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年6月4日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年6月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年6月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)手続補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1?4(平成15年12月10日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4)の記載、
「【請求項1】 可撓性樹脂チューブからなるシャフト部の先端にバルーン部を備えた止血用バルーンカテーテルにおいて、該シャフト部の長手方向に金属線または管体の芯材を貫設すると共に、該芯材は手元側が熱処理による可塑定形性形態にして、前記シャフト部は、先端側が直線性を維持する剛性形態にして、かつ手元側を可塑定形性形態に構成した構造を特徴とする止血用バルーンカテーテル。
【請求項2】 可撓性樹脂チューブからなるシャフト部の先端にバルーン部を備えた止血用バルーンカテーテルにおいて、該シャフト部の長手方向に灌流チューブを貫設すると共に、該灌流チューブの外周にスパイラル状の補正材を設け、該補正材は手元側が熱処理による可塑定形性形態にして、前記シャフト部は、先端側が直線性を有する剛性形態にして、かつ、手元側を可塑定形性形態に構成した構造を特徴とする止血用バルーンカテーテル。
【請求項3】 可撓性樹脂チューブからなるシャフト部の両端にバルーン部と活栓を備えたバルーンカテーテルにおいて、該活栓の頭部と下端に設けて対となる係止頭と該係止頭を着脱に受け入れる係止頭抱着部からなる相互連結部を備え、該相互連結部によって前記シャフト部を並列状態にして連鎖連結可能にした構造を特徴とする止血用バルーンカテーテル。
【請求項4】 係止頭抱着部が、スリットを介して対向する弾性抱着片からなる請求項3の止血用バルーンカテーテル。」を、
「【請求項1】 可撓性樹脂チューブからなるシャフト部の両端にバルーン部と活栓を備えたバルーンカテーテルにおいて、該活栓の頭部と下端に設けて対となる係止頭と該係止頭を着脱に受け入れる係止頭抱着部からなる相互連結部を備え、該相互連結部によって前記シャフト部を並列状態にして連鎖連結可能にした構造を特徴とする止血用バルーンカテーテル。
【請求項2】 係止頭抱着部が、スリットを介して対向する弾性抱着片からなる請求項1の止血用バルーンカテーテル。
【請求項3】 係止頭の球体両側部に凹面球または平面でカットしたカット部を設け、係止頭抱着部の弾性抱着片への着脱音を共鳴発生可能にした着脱音発生機能つき構造から成る請求項1または請求項2に記載の止血用バルーンカテーテル。」
(下線は補正箇所を示す。)と補正することを含むものである。

(2)補正の目的の適否について
上記補正は、平成16年4月2日付け拒絶査定において、(理由1)補正前の請求項1及び請求項2に係る発明と同請求項3及び請求項4に係る発明が特許法第37条に規定する要件を満たしておらず、(理由2)補正前の請求項1及び請求項2に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものであるとされたことに対して、この拒絶の理由を解消するため、まず、補正前の請求項1及び請求項2を削除した上で、補正前の請求項3及び請求項4をその項番を繰り上げてそれぞれ請求項1及び請求項2とし(以下、「補正1」という。)、さらに補正後の請求項1及び請求項2を引用する新たな請求項3を追加したものである(以下、「補正2」という。)。
そこで、上記補正について検討すると、補正1は、請求項の削除を目的とする補正に該当する。
一方、補正2は、補正前の請求項3又は請求項4に記載された発明特定事項を限定する趣旨でなされたものと解されることから、特許請求の範囲の減縮を目的としているかのように見える。しかしながら、補正後の請求項1に係る発明は補正前の請求項3に係る発明に対応し、補正後の請求項2に係る発明は補正前の請求項4に係る発明に対応し、補正後の請求項3に係る発明は補正前の請求項3又は請求項4に係る発明に対応するものであり、「特許請求の範囲の減縮」といえるための前提条件、即ち「補正前後の請求項に係る発明が一対一の対応関係にあること」を満たしていないことから、補正2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するということはできない(平成17年(行ケ)10192号審決取消請求事件参照)。
また、補正2は、請求項の削除、誤記の訂正、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成15年12月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「可撓性樹脂チューブからなるシャフト部の先端にバルーン部を備えた止血用バルーンカテーテルにおいて、該シャフト部の長手方向に金属線または管体の芯材を貫設すると共に、該芯材は手元側が熱処理による可塑定形性形態にして、前記シャフト部は、先端側が直線性を維持する剛性形態にして、かつ手元側を可塑定形性形態に構成した構造を特徴とする止血用バルーンカテーテル。」

4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-24113号公報(以下、「引用例」という。)には、「医療用チューブ装置」について、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「【従来の技術】患者の体内所定部位に対する血液等の体液や薬液等の補液の供給あるいは排出のために、患者の体内を体外に連通させる医療用チュ-ブ装置が用いられる。例えば、心臓手術の場合、患者への送血あるいは脱血のために医療用チュ-ブ装置としてのカニューレが用いられるが、体内所定部位へ向けてのスムーズな挿入や、患者組織を傷付けないように、医療用チュ-ブ装置は全体的に細長くかつ弾性変形によって容易に湾曲できるように形成されている。
【発明が解決しようとする課題】ところで、患者の体内所定部位への挿入が完了された医療用チュ-ブ装置は、容易に弾性変形し得ることから、その挿入角度や固定位置というものが不安定つまり変化し易いものとなる。このことは、胴体部が術野(手術者の視野)内に入って邪魔になったり、術領域を狭める原因となる。このため、胴体部をその弾性変形を利用して曲げ変形させて、この曲げ変形された状態で胴体部を患者体表面に縫合してその位置決めを行うことが行われているが、この縫合の際にも胴体部が弾性変形するため、例えば大きく湾曲させようとする外力を付与してもこの外力を解放すればほぼ真直な状態へと弾性復帰するため、位置決めのための縫合そのものも行いにくいものとなり、また縫合後も真直な状態へ復帰しようとする弾性変形によって、縫合状態から少なからずずれた位置へと変化されてしまうことにもなり、このことは体内臓器に不必要な力を与えてしまう原因ともなる。
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、医療用チュ-ブ装置の胴体部を、必要に応じて所望の湾曲状態へと容易に変更できかつこの所望の湾曲状態を確実に維持できるようにした医療用チュ-ブ装置を提供することにある。」(段落【0002】?【0004】)
(b)「【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち特許請求の範囲における請求項1に記載のように、先端部が患者の体内に挿入されて、患者の体内を体外に連通させる医療用チュ-ブ装置において、弾性変形によって容易に湾曲し得るようにされたチュ-ブ本体と、前記チュ-ブ本体のうち患者の体外に位置される胴体部に対してその軸線方向に伸びるように設けられ、手指によって容易に曲げ変形可能とされると共に、曲げ変形されたときに該チュ-ブ本体の弾性力に抗して該曲げ状態を維持させる芯部材と、を備えたものとしてある。
上記解決手法によれば、患者への体内挿入を従来通りスムーズに行いつつ、挿入後には、体外に位置する胴体部を手術の邪魔とならないように手術者が所望方向へ所望角度だけ湾曲させたとき、芯部材によってこの所望湾曲状態が維持されることになる。」(段落【0005】?【0006】)
(c)「【発明の実施の形態】図1において、1はチュ-ブ本体であり、全体的に細長く形成されて、曲げ方向において容易に弾性変形し得るようにされている。チュ-ブ本体1は、その先端から基端へ向けての所定長さ位置において、患者の体内への挿入深さの指標となる指標2が外部から目視できるように施されている。この指標2から先端側部分3が、患者の体内への挿入部分となり、指標2から基端側が胴体部4とされ、胴体部4の基端部が、各種機器類から伸びる接続用チュ-ブへの接続部5とされている。
チュ-ブ本体1は、図3に示すように、内筒11と、内筒11の外周に嵌合されたコイルスプリング12と、コイルスプリング(ステンレス製)12の外周に嵌合された外筒13とを有する。実施形態では、内筒11と外筒13とは互いに同一の軟質合成樹脂(例えばポリ塩化ビニール)により形成されていて、例えば、内筒11を成形後に、内筒11の外周にコイルスプリング12を嵌合させた状態で外筒13を押し出し成形(ディッピング成型でも可)することにより、これ等3者11?13が互いに一体化されたものとされている
チュ-ブ本体1における先端側部分3の側壁(管壁)には、その内外を連通するための連通開口15、16が形成されている。基端側に位置する連通開口16部分においては、外筒13の外周に薄い金属筒(ステンレス製)17が嵌合された状態とされて、この金属筒17に連通開口16が形成されている。なお、コイルスプリング12は、先端側部分3の先端部と金属筒14部分と接続部5とを除いた部分において存在されている。また、上記金属筒17の軸線方向端部において段差を有しないように、金属筒17と外筒13との外表面は面一とされている。」(段落【0011】?【0013】)
(d)「図1?図3に示すように、チュ-ブ本体1の胴体部4外周には、芯部材21が設けられている。この芯部材21は、1本の金属線、例えばステンレスワイヤを曲げ加工することにより形成されていて、曲げ変形されたときにそのまま曲げ変形状態を維持するようにされている(塑性変形)。」(段落【0014】)
(e)「胴体部4に芯部材21が設けられた医療用チュ-ブ装置は、患者への体内挿入前には、図1に示すようにほぼまっすぐな状態となるようにされている。先端側部分3が体内に位置した状態で、手術者(の手指)によって胴体部4が所望曲げ状態(所望方向へ所望角度だけ曲げられた状態-湾曲された状態)へと変形されると、芯部材21の塑性変形作用によって、チュ-ブ本体1の弾性変形力に抗してこの所望の曲げ状態が維持されることになる。」(段落【0019】)

これらの記載事項を総合すると、引用例には、
「軟質合成樹脂により形成された内筒11及び外筒13からなるチューブ本体1を備えたカニューレ等の医療用チューブ装置において、
チューブ本体1の先端側部分3及び胴体部4にコイルスプリング12を設けると共に、チューブ本体1の胴体部4に金属線の芯部材21を設けて胴体部4を塑性変形可能にして、前記チューブ本体1は、先端側部分3が弾性変形可能で患者への体内挿入前はまっすぐな状態になっており、かつ胴体部4を塑性変形可能に構成した構造を有するカニューレ等の医療用チューブ装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、後者における「軟質合成樹脂により形成された内筒11及び外筒13」は、その機能又は構造からみて、前者における「可撓性樹脂チューブ」に相当し、以下同様に、「チューブ本体1」が「シャフト部」に、「先端側部分3」が「先端側」に、「胴体部4」が「手元側」に、「塑性変形可能に構成した」ことが「可塑定形性形態に構成した」ことに、それぞれ相当する。
また、後者における「カニューレ等の医療用チューブ装置」と前者における「止血用バルーンカテーテル」とは、どちらも「医療用チューブ装置」である点で共通し、後者における「チューブ本体1の胴体部4に金属線の芯部材21を設けて胴体部4を塑性変形可能にして」いることと前者における「該芯材は手元側が熱処理による可塑定形性形態にして」いることとは、どちらも「手元側を可塑定形性形態にして」いる点で共通する。
さらに、後者における「先端側部分3」は、弾性変形し得るものの体内挿入前はまっすぐな状態となるように構成されており、しかも、患者の体内へスムーズに挿入することのできる部分であることからみて、「直線性を維持する剛性形態」であると解される。

してみると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、
「可撓性樹脂チューブからなるシャフト部を備えた医療用チューブ装置において、手元側を可塑定形性形態にして、前記シャフト部は、先端側が直線性を維持する剛性形態にして、かつ手元側を可塑定形性形態に構成した構造を有する医療用チューブ装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本願発明は、「可撓性樹脂チューブからなるシャフト部の先端にバルーン部を備え」「シャフト部の長手方向に金属線または管体の芯材を貫設」した「止血用バルーンカテーテル」であるのに対して、引用発明は、可撓性樹脂チューブからなるシャフト部を備え、チューブ本体1の先端側部分3及び胴体部4にコイルスプリング12を設けたカニューレ等の医療用チューブ装置である点。
相違点2:本願発明においては、芯材の手元側を熱処理によって可塑定形性形態にしているのに対して、引用発明においては、芯材(コイルスプリング12)とば別に手元側に塑性変形可能な芯部材21を設けている点。

6.判断
次に、各相違点について検討する。
(a)相違点1について
バルーンカテーテルが血管形成術だけでなく心臓等の外科手術において止血のために用いられることは、その使用形態として従来周知である(例えば米国特許第5735290号明細書、米国特許第5766151号明細書、米国特許第4785795号明細書を参照)。
そこで、引用発明の「医療用チューブ装置」について検討するに、外科手術で止血のためにバルーンカテーテルを患者の体内に挿入して使用する場合においても、該バルーンカテーテルがチューブ状のものである以上、引用発明と同様の技術的課題が存在することは当業者にとって明らかであり、特に、挿入状態を安定保持することは当然求められる課題であるということができるから、引用発明を従来周知の止血用バルーンカテーテルの構成として採用することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
また、バルーンカテーテルとして、可撓性樹脂チューブからなるシャフト部の先端にバルーン部を備え、該シャフト部の長手方向に金属線または管体の芯材を貫設したものも従来周知である(例えば特許第2632745号公報、特開平5-184680号公報、米国特許第4646719号明細書、米国特許第5277199号明細書、米国特許第4838268号明細書を参照)ことから、引用発明を止血用バルーンカテーテルの構成として採用する際に、芯材を貫設したものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
(b)相違点2について
引用発明と本願発明とは、どちらも手元側を可塑定形性形態にしている点では共通しているから、相違点2は、具体的にどのような手段を用いて可塑定形性形態とするかの違いにすぎないということができる。
ところで、金属線を可塑定形性形態にする手段として焼鈍等の熱処理による方法は、従来から広く一般に採用されている手段であり慣用技術にすぎないから、引用発明を上記止血用バルーンカテーテルの構成として採用するに当たり、手元側に可塑定形性を付与するために芯部材21に代えて上記慣用技術を採用することは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明及び上記慣用技術に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

そして、本願発明の効果は、引用発明及び上記周知・慣用技術から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知・慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-26 
結審通知日 2007-01-16 
審決日 2007-02-02 
出願番号 特願2000-167151(P2000-167151)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 川本 真裕
芦原 康裕
発明の名称 止血用バルーンカテーテル  
代理人 岡 賢美  

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