ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
無効200680024 | 審決 | 特許 |
無効200580340 | 審決 | 特許 |
無効200680135 | 審決 | 特許 |
無効200680027 | 審決 | 特許 |
無効2007800234 | 審決 | 特許 |
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 E02D 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 E02D |
---|---|
管理番号 | 1155881 |
審判番号 | 無効2006-80020 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-02-15 |
確定日 | 2007-03-08 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3671338号発明「コンクリート打設方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3671338号の請求項1?4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3671338号に係る発明は、平成11年7月29日に出願され、平成17年4月28日に特許権の設定登録がされたものであって、その後の平成18年2月15日に株式会社大林組、鹿島建設株式会社及び大成建設株式会社より本件特許明細書の請求項1?4に係る発明の特許について特許無効の審判が請求され、これに対して被請求人より平成18年5月8日に答弁書及び訂正請求書が提出され、さらに、請求人より平成18年7月6日に弁駁書が提出されたものである。 2.当事者の主張 (1)請求人の主張の概要 審判請求書によれば、審判請求人は、次の理由(ア)(イ)及び証拠から、本件の請求項1?4に係る発明の特許が特許法123条第1項第2号および第4号に該当し、無効とすべきものであると主張している。また、弁駁書によれば、審判請求人は、次の理由(ウ)(エ)及び証拠から、本件の訂正後の請求項1?2に係る発明の特許が特許法123条第1項第2号および第4号に該当し、無効とすべきものであると主張している。 (理由) (ア)本件の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (イ)本件の請求項1及び3に記載の「所定期間経過後に」との記載は不明確であり、請求項1及び請求項3に係る発明は不明確であるから、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、特許を受けることができないものである。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、「所定期間」をいかに定めるかについて何ら記載されていないため、当業者が「所定期間」を定めることができず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が特許請求の範囲に記載された発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものである。 (ウ)本件の訂正後の請求項1?2に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (エ)本件の訂正後の請求項1に記載の「所定期間経過後に」との記載は不明確であり、訂正後の請求項1に係る発明は不明確であるから、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、特許を受けることができないものである。 (証拠) 甲第1号証:宮尾、鴨下、城戸、『21世紀に続く地下の川 首都圏外郭放水路大深度立坑工事』、「セメント・コンクリート」第623号、社団法人セメント協会、24?31頁、平成11年1月10日発行 甲第2号証:平岡成明、「図解・地中連続壁なんでも事典」、株式会社山海堂、51?54、213、214、248?252頁、1995年11月20日発行 甲第3号証:特開平3-25118号公報 甲第4号証:特開平4-59205号 甲第5号証:特開平6-26198号 甲第6号証:「平成8年制定 コンクリート標準示方書[施工編]」、社団法人土木学会、182,183頁、平成8年3月第1版第1刷発行 なお、審判請求人は、弁駁書を提出する際に上記甲第6号証を提出している。 (2)被請求人の主張の概要 一方、答弁書によれば、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めて、訂正後の請求項1?4に係る発明は甲第1乃至5号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものではなく、また、訂正後の特許明細書の記載に不備はない旨、主張している。 3.訂正請求について (1)訂正事項 本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、平成18年5月8日付け訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)によると、次の事項をその訂正内容とするものである。 (A)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1を 「【請求項1】 コンクリート構造物を施工するに際し、コンクリートを打設すべき領域を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用い、該低発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにしたことを特徴とするコンクリート打設方法。」 と訂正する。 (B)訂正事項b b1.本件特許明細書の段落【0007】の記載を「すなわち、請求項1の発明は、コンクリート構造物を施工するに際し、コンクリートを打設すべき領域を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用い、該低発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにしたものである。」と訂正する。 b2.本件特許明細書の段落【0022】の記載を「【発明の効果】 請求項1の発明は、後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用い、該低発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにしたので、全てを低発熱型コンクリートとする場合に比較してコスト削減を図ることができることはもとより、温度ひび割れをより有効に制御できる効果がある。」と訂正する。 (2)訂正の適否について (イ)特許請求の範囲の訂正の適否 訂正事項aにおける請求項1についての訂正内容は、訂正前の請求項1に記載された「コンクリート打設方法」について、「低発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにした」との限定を付加するものであるから、訂正前の請求項1に基づいて特許請求の範囲の減縮をしたものといえる。 また、上記訂正内容は、本件特許明細書の段落【0017】の記載及び図4(a)から自明な事項であるといえるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものである そして、上記訂正事項aの訂正内容は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。 (ロ)発明の詳細な説明の記載の訂正の適否 訂正事項bの訂正内容(b1,b2)は、上記の特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであることが明らかである。 そして、訂正事項bの訂正内容(b1,b2)は、上述したように本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。 したがって、上記訂正事項a、bは、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、いずれも、本件特許明細書に記載されている事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号並びに同条第5項の規定において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 4.本件発明について 上記「3.」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下順に、「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりの次のものと認める。 (本件発明1) 「コンクリート構造物を施工するに際し、コンクリートを打設すべき領域を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用い、該低発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにしたことを特徴とするコンクリート打設方法。」 (本件発明2) 「請求項1記載のコンクリート打設方法において、先行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いることを特徴とするコンクリート打設方法。」 (本件発明3) 「下部を止水壁とし上部を山留壁とする連続地中壁を施工するに際し、該連続地中壁を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部の山留壁に打設するコンクリートとして、後行部の止水壁および先行部全体のコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いることを特徴とするコンクリート打設方法。」 (本件発明4) 「請求項3記載のコンクリート打設方法において、先行部全体および後行部の止水壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部の山留壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いることを特徴とするコンクリート打設方法。」 5.刊行物記載事項 (1)本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第1号証の刊行物(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。 (イ)「3.外郭放水路におけるコンクリート工 首都圏外郭放水路の工事のうち,第4立坑地中連続壁工および立坑本体工のコンクリートの施工状況を紹介する。 … 地中連続壁は先行,後行エレメント各12エレメントで,接合方式は先行コンクリートを削り取るカッティング方式である。」(25頁左欄19行?右欄8行) (ロ)「(1)コンクリートの配合,材料の選定 地中連続壁は,深さ122mであり,トレミー管でのコンクリート打設をスムーズに行う上で,フレッシュ時の流動性と材料分離抵抗性に留意して配合を決定した。 … コンクリートの仕様を表1に,コンクリートの配合を表2に示す。 … 一方,壁厚が厚く,単位セメント量が多い地中連続壁ではコンクリート硬化時の発熱量が大きくなる。特に,後行エレメントのコンクリートは先行エレメントに拘束されるため,温度応力によるひび割れが発生しやすい。そこでセメントに着目して温度応力解析を事前に実施した。その結果,中庸熱ポルトランドセメントに高炉スラグおよびフライアイッシュを混入した三成分系低発熱セメントを使用すれば温度ひび割れを抑制できることが明らかとなった。そこで,後行エレメントには高炉セメントB種に替えて水和熱抑制効果がある三成分系の低発熱セメントを使用することとした。 … (2)コンクリート打設 地中連続壁のコンクリート打設にあたっては,コンクリート性状を十分に確認しながら,連続打設に留意した。」(25頁右欄13行?26頁右欄下から2行) (ハ)「さらに後行エレメントに三成分系の低発熱セメントを使用した結果,温度上昇値の大幅低減ができ…,温度ひびわれの発生を防止することが可能であった(…)。」(27頁右欄8?11行) (ニ)「本体コンクリートは壁厚が2.0?3.3mと厚く,温度応力低減を目的として低熱ポルトランドセメントを使用し,逆巻き工法の上部打継ぎ部には充填(当審注:刊行物1における実際の「填」の表記は、偏が「土」で旁が「眞」である。)性を重視して高流動コンクリートを採用した。 … ひび割れ発生抑制のため,低熱ポルトランドセメントを使用するとともに,単位セメント量を少なくする。」(27頁右欄13行?28頁左欄9行) (ホ)先行コンクリートのコンクリート配合を示す表2の表枠外には、〔高炉セメントB種使用〕と記載されている(26頁右欄)。 上記記載事項並びに図面・表に示された内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明) 「先行、後行エレメント各12エレメントで、接合方式は先行コンクリートを削り取るカッティング方式で地中連続壁のコンクリート打設を行うにあたって、先行エレメントに高炉セメントB種を使用し、後行エレメントには高炉セメントB種に替えて水和熱抑制効果がある三成分系の低発熱セメントを使用するようにしたコンクリート打設方法。」 (2)本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第2号証の刊行物(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。 (イ)「連続構造物を一度に施工することは安全上からも施工上からも不可能なので,施工できる範囲の大きさに分割するが,これをエレメントまたはパネル(英語,米語ではpanel)と呼んでいる. … 一般に先行エレメントと後行エレメントに分けて施工する.」(51頁14?18行) (ロ)「施工単位に分割する際,地中連続壁は一般に先行エレメントと後行エレメントの2形式に分割して施工する.」(53頁17?18行) (ハ)図24及び25には、地中連続壁の下部を止水壁として利用した例が示されている(250?252頁)。 (3)本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第3号証の刊行物(以下、「刊行物3」という。)には、「地中連続壁の構築方法」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。 (イ)「… 一般にコンクリートは硬化の際の発熱により応力を発生するので、先行エレメントの構築後に後行エレメントのコンクリート打設を行うと、先行エレメントの拘束により構築された地中連続壁に応力によるひびわれが発生するという不都合があった。 このような問題に対処するために、打設するコンクリートの配合面を考慮することにより、従来からこの温度ひびわれを低減する工法が用いられてきたが、地下タンク等の高度の止水効果を必要とする地中連続壁にあっては、特にこの温度ひびわれの発生を大幅に低減する必要があり、コンクリートの配合面のみの対策によっては十分な効果が得られないという問題があった。 この発明は上記課題を解決するためになされたものであって、後行エレメントを構築する際に発生する応力を低減させることにより、地中連続壁のひびわれ発生率を大幅に低減するような地中連続壁の構築方法を提供することを目的としている。」(1頁右下欄17行?2頁左上欄15行) (ロ)「…この発明の地中連続壁の構築方法は、後行エレメントを.プレクーリングを施したコンクリートによって打設するものであるので、予め構築された先行エレメントとの間に発生する応力を低減することができ、その結果として構築された地中連続壁のひびわれの発生確率を大幅に低減することができる。」(3頁右下欄下から3行?4頁左上欄4行) (4)本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第4号証の刊行物(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。 (イ)「このマスコンクリート部材のひび割れを防止する方法としては、このコンクリートの練り上がり温度を下げておくことでセメントの水和反応時の発熱に起因するコンクリート内部の温度上昇を抑え膨張・収縮の度合を低下させる、いわゆるプレクーリング工法と呼ばれる工法や、… 水和硬化の際の発熱量が小さい低発熱型セメントを使用する方法等が知られている。 …」(1頁右下欄16行?2頁左上欄5行) (5)本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第5号証(以下、「刊行物5」という。)には、次の事項が記載されている。 (イ)「【請求項1】 コンクリートを打設するに際して、形成しようとするマスコンクリートの一部分を形成するときに冷却コンクリートを打設し、他の部分を形成するときに非冷却コンクリートを打設するコンクリートの施工方法。」(2頁左欄2?6行) (6)本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第6号証(以下、「刊行物6」という。)には、次の事項が記載されている。 (イ)「… 温度ひび割れ指数は,その値が大きいほどひび割れが発生しにくく,小さいほど発生しやすいことを意味し,一般に温度ひび割れ指数が小さいほど発生するひび割れの数が多く,その幅も大きくなる傾向にある. … 一般的な配筋の構造物における標準的な温度ひび割れ指数の参考値を以下に示す. ひび割れを防止したい場合 1.5以上 ひび割れの発生をできるだけ制限したい場合 1.2以上 ひび割れの発生を許容するが、ひび割れ幅が過大とならないように制限したい場合 0.7以上」(183頁15行?下から2行) 6.対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「先行エレメント」及び「後行エレメント」は、本件発明1の「先行部」及び「後行部」に相当し、同様に、引用発明の「コンクリート打設」される「地中連続壁」は、本件発明1の「コンクリート構造物」に相当する。 また、引用発明では、「後行エレメントには(先行エレメントに使用される)高炉セメントB種に替えて水和熱抑制効果がある三成分系の低発熱セメントを使用する」とあり、このことは、本件発明1における「後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いる」ことに相当する。 さらに、引用発明は、「先行コンクリートを削り取るカッティング方式で」先行エレメントと後行エレメントとの接合がなされることから、先行部に対してコンクリートを打設した後、先行部のコンクリートが硬化して切削可能となるまでの所定期間が経過した後に後行部に対してコンクリートを打設することが明らかである。 してみると、両者は、 「コンクリート構造物を施工するに際し、コンクリートを打設すべき領域を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いるようにしたことを特徴とするコンクリート打設方法。」である点(以下、「一致点1」という。)で一致し、次の点で相違するということができる。 [相違点1] 本件発明1では、低発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにしたのに対して、引用発明では、ひび割れ指数がどの程度になるか明らかでない点。 (なお、答弁書(5頁8?29行)によれば、被請求人は、上記一致点及び相違点を認めている。) (相違点の検討) [相違点1]について ところで、弁駁書により提出された甲第6号証には、一般的な配筋の構造物における標準的な温度ひび割れ指数に関して、ひび割れの発生をできるだけ制限したい場合は、ひび割れ指数を1.2以上とすることが記載されており、かつまた、甲第6号証が社団法人土木学会により、平成8年3月に発行された「コンクリート標準示方書[施工編]」であることから、その記載内容は土木工事を行う技術者らが通常の知識として知り得ていた事項であるということができるから、ひび割れ指数としての1.2以上という値は、通常に期待される設定上の数値であると解することができる(ちなみに、上記のように理解した点は、本件特許明細書の段落【0017】における「ひび割れ指数は … 通常1.2以上で良好なひび割れ制御性能を有していると判断することができる。」との記載とも整合する)。 してみると、引用発明において、低発熱型のコンクリートのひび割れ指数をどの程度に設定するかということは、コンクリート構造物が施工される環境や求められる強度に応じて当業者が適宜に決定すべき設計事項であるから、相違点1に係る本件発明1の構成は、当該指数を1.2以上という通常程度の値に設定することにより、当業者が容易に想到し得たものというべきである。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用する発明であって、本件発明1に「先行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いる」との限定を付加したものといえるから、本件発明2と引用発明とを対比すると、次に示す点(以下、「一致点2」という)で一致し、上記「6.」(1)に記載した相違点1で相違するとともに、さらに、次の点(以下、「相違点2」という。)で相違する。 [一致点2] 本件発明2および引用発明の両者共に 「コンクリート構造物を施工するに際し、コンクリートを打設すべき領域を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、先行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして高炉セメントを用い、後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いるようにしたことを特徴とするコンクリート打設方法。」である点。 [相違点2] 本件発明2では、後行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いるのに対して、引用発明では、三成分系の低発熱セメントとされている点。 (相違点の検討) [相違点1]について 相違点1については、上記「6.」(1)で説示したとおりである。 [相違点2]について 相違点2に係る本件発明2の構成については、「低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメント」というように「等」を含む表現となっており、低発熱型セメントを何ら限定するものではないため、相違点2に係る本件発明2の構成は引用発明の「三成分系の低発熱セメント」を含むものである(仮に、相違点2に係る本件発明2の構成を低熱ポルトランドセメントに限定して解釈したとしても、甲第1号証には、ひび割れ発生抑制のため、低熱ポルトランドセメントを使用することが併せて開示されており、引用発明における低発熱型セメントとして、低熱ポルトランドセメントを採用することも、当業者であれば容易になし得ることである。)。 したがって、相違点2に係る本件発明2の構成については、実質的な相違点とはいえず、この点に関して、本件発明2と引用発明との間に差異はないと言わざるを得ない。 (3)本件発明3について 本件発明3と引用発明とを対比すると、引用発明の「先行エレメント」及び「後行エレメント」は、本件発明1の「先行部」及び「後行部」に相当し、同様に、引用発明の「地中連続壁」は、本件発明3の「連続地中壁」に相当する。 また、引用発明では、「後行エレメントには(先行エレメントに使用される)高炉セメントB種に替えて水和熱抑制効果がある三成分系の低発熱セメントを使用する」とあり、このことから、本件発明3と引用発明は、「後行部に打設するコンクリートの少なくとも一部に、それより前に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いる」点で共通する。 さらに、引用発明は、「先行コンクリートを削り取るカッティング方式で」先行エレメントと後行エレメントとの接合がなされることから、先行部に対してコンクリートを打設した後、先行部のコンクリートが硬化して切削可能となるまでの所定期間が経過した後に後行部に対してコンクリートを打設することが明らかである。 してみると、両者は、 「連続地中壁を施工するに際し、該連続地中壁を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部に打設するコンクリートの少なくとも一部に、それより前に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いることを特徴とするコンクリート打設方法。」である点(以下、「一致点3」という。)で一致し、次の点で相違するということができる。 [相違点3] 本件発明3が、連続地中壁の下部を止水壁とし上部を山留壁とすると共に、後行部の山留壁に打設するコンクリートとして、後行部の止水壁および先行部全体のコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いるのに対して、引用発明では、連続地中壁が止水壁の機能を果たしているか明らかでなく、また、後行部に低発熱型のコンクリートを用いるものの、地中連続壁のうちの先行部と後行部をどのように区分するか明らかでない点。 (相違点の検討) [相違点3]について ところで、刊行物2には、山留ないしは土留壁であるところの地中連続壁(本件発明3の「連続地中壁」に相当。)の下部を止水壁として利用する点が示されているが、そもそも、連続地中壁の下部を止水壁として利用する所謂、山留止水壁は、例えば、特開平11-117302号公報にみられるように、周知技術といえる(段落【0002】の【従来の技術】参照。)。そうすると、引用発明に係るコンクリート打設方法を、周知技術である山留止水壁に対して適用することに格別の困難性はない。 ところで、本件発明1や本件発明3等がコンクリートの少なくとも一部に低発熱型コンクリートを用いることとしたそもそもの課題について、本願明細書の記載を参酌すると、次のような記載がある。 (a)「…低発熱型のコンクリートは普通コンクリートに比較してかなり高価であるので、これを膨大な量のコンクリートの全てに使用することはコスト的な面から現実的でないばかりか、ひび割れ制御効果においても必ずしも十分ではなく、そのため、マスコンクリートの温度ひび割れを安価にかつ確実に制御し得る有効な方策が望まれていた。」(段落【0005】) (b)「以上の方法によれば、先行コンクリートとして普通コンクリートを用い、後行コンクリートのみに低発熱型コンクリートを用いることにより、全てを低発熱型コンクリートとする場合に比較してコスト削減を図ることができることはもとより、温度ひび割れをより有効に制御できる効果がある。」(段落【0018】) (c)「上記実施形態では、後行コンクリート全体を低発熱型コンクリートとしたが、それをさらに区分して後行コンクリートの一部にのみ低発熱型コンクリートを用い、他は普通コンクリートとすることも考えられる。たとえば、近年、図5に示すように下部を止水壁1とし上部を山留壁2とする連続地中壁3の施工が行われる場合があるが、そのような連続地中壁3を施工する際に、先行部全体(止水壁1と山留壁2)および後行部の止水壁1は普通コンクリートを用い、後行部の山留壁2のみを低発熱型コンクリートを用いることが考えられる。その場合、後行部の止水壁1の温度ひび割れ制御性能はやや低下するが山留壁2の温度ひび割れは十分に制御でき、かつより一層のコスト削減を図ることができる。」(段落【0020】) これらの記載によれば、本件発明3のそもそもの課題は、普通コンクリートに比較してかなり高価である低発熱型のコンクリートを膨大な量のコンクリートの全てに使用することがコスト的な面からみて現実的でないことから、一部にのみ低発熱型のコンクリートを用いてコスト削減を図ることにあるといえる。一方、高価な材料の使用量を可能な限り抑えてコスト削減を図ることは、一般的技術課題であるから、引用発明においても、ひび割れ制御性能の低下が問題とならない範囲で可及的に低発熱型のコンクリートの使用量をより少なくすることは当業者が普通になし得ることである。そして、引用発明に係るコンクリート打設方法を山留止水壁に適用する際に、低発熱型のコンクリートを用いる部分を後行部の山留壁と設定することは、コンクリート打設が最終的に行われる部分を対象としたにすぎず、自然な選択といえるから、当該設定を行うことは格別困難なことではない。 したがって、相違点3に係る本件発明3の構成は、引用発明に係るコンクリート打設方法を周知の山留止水壁に適用すると共に、その際、低発熱型のコンクリートの使用量をひび割れ制御性能の低下が問題とならない範囲でより少なくなるようにするべく、低発熱型のコンクリートを用いる対象を後行部の山留壁とすることによって、当業者が容易に想到し得たものというべきである。 なお、答弁書(第9頁第14?18行)によれば、被請求人は、「(一層のコスト削減に加えて)止水壁は温度ひびわれ制御性能が比較的低下しても両側からの地盤の土圧がかかることで高い耐久性を確保できると共に、後行部の山留壁は温度ひび割れ制御性能を十分に確保できるために片側から土圧がかかっても高い耐久性を確保できるという格別の効果をも奏する」と主張しているが、そのような効果については、訂正明細書に記載はなく、また、訂正明細書の記載から自明であるということもできないから、当該被請求人の主張は妥当ではなく、これを採用することはできない(仮に、そのような効果が自明であるならば、止水壁部分に低発熱型コンクリート用いない理由であるところの当該部分がひび割れ制御性能の低下が問題となならないという事項も自明であるということになる。そうすると、相違点3に係る本件発明3の構成は、低発熱型のコンクリートの使用量をひび割れ制御性能の低下が問題とならない範囲でより少なくする際の当該範囲を自明な事項に基づき設定したということにすぎないから、当業者が容易に想到し得たことになる。)。 (4)本件発明4について 本件発明4は、本件発明3を引用する発明であって、本件発明3に「先行部全体および後行部の止水壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部の山留壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いる」との限定を付加したものといえるから、本件発明4と引用発明とを対比すると、次に示す点(以下、「一致点4」という)で一致し、上記「6.」(3)に記載した相違点3で相違するとともに、さらに、次の点(以下、「相違点4」という。)で相違する。 [一致点4] 本件発明4および引用発明の両者共に 「下部を止水壁とし上部を山留壁とする連続地中壁を施工するに際し、該連続地中壁を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部に打設するコンクリートの少なくとも一部に、それより前に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用い、それより前に打設するコンクリートにおけるセメントとして高炉セメントを用いることを特徴とするコンクリート打設方法。」である点。 [相違点4] 本件発明4では、後行部に打設するコンクリートの少なくとも一部におけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いるのに対して、引用発明では、三成分系の低発熱セメントとされている点。 (相違点の検討) [相違点3]について 相違点3については、上記「6.」(3)で説示したとおりである。 [相違点4]について 相違点4に係る本件発明4の構成については、「低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメント」というように「等」を含む表現となっており、低発熱型セメントを何ら限定するものではないため、相違点4に係る本件発明4の構成は引用発明の「三成分系の低発熱セメント」を含むものである(仮に、相違点4に係る本件発明4の構成を低熱ポルトランドセメントに限定して解釈したとしても、甲第1号証には、ひび割れ発生抑制のため、低熱ポルトランドセメントを使用することが併せて開示されており、引用発明における低発熱型セメントとして、低熱ポルトランドセメントを採用することも、当業者であれば容易になし得ることである。)。 したがって、相違点4に係る本件発明4の構成については、実質的な相違点とはいえず、この点に関して、本件発明4と引用発明との間に差異はないと言わざるを得ない。 そして、本件発明1?4が奏する作用効果も、引用発明及び刊行物2に記載の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものということができない。 以上のことから、本件発明1及び2は、引用発明に基いて当業者が容易に発明できたものであり、本件発明3及び4は、引用発明及び刊行物2に記載の技術に基いて当業者が容易に発明できたものである 7.むすび したがって、本件発明1?4の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、他の理由を検討するまでもなく、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 コンクリート打設方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 コンクリート構造物を施工するに際し、コンクリートを打設すべき領域を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、 後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用い、該低発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにしたことを特徴とするコンクリート打設方法。 【請求項2】 請求項1記載のコンクリート打設方法において、 先行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いることを特徴とするコンクリート打設方法。 【請求項3】 下部を止水壁とし上部を山留壁とする連続地中壁を施工するに際し、該連続地中壁を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、 後行部の山留壁に打設するコンクリートとして、後行部の止水壁および先行部全体のコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いることを特徴とするコンクリート打設方法。 【請求項4】 請求項3記載のコンクリート打設方法において、 先行部全体および後行部の止水壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部の山留壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いることを特徴とするコンクリート打設方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、連続地中壁等の大規模なコンクリート構造物を施工する際に適用するコンクリート打設方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 ダムや連続地中壁のような大規模なコンクリート構造物を施工する際には、その全体に対するコンクリート打設を一括して行うことは当然に不可能であるため、コンクリート打設領域を適宜区分して順次打設して行かざるを得ない。たとえば連続地中壁を施工する際には、先行部(先行エレメント)と後行部(後行エレメント)とを設定し、先行部にコンクリートを打設した後、所定期間(通常30日程度である)経過後に、先行部に打ち継ぐ形態で後行部に対するコンクリート打設を行うようにしている。 【0003】 ところで、周知のようにコンクリートは硬化の過程で水和反応により発熱し、特にマスコンクリートの場合には内部温度が80°C程度にまでも上昇することがあり、したがって硬化の過程でかなりの熱膨張とその後の収縮が生じる。そして、上記のように先行部と後行部に区分してコンクリートを打設した場合、後行部のコンクリートの熱膨張と収縮は先行部のコンクリートにより拘束されてしまうことから温度ひび割れが生じてしまうことがあり、その対策が必要である。 【0004】 従来、上記のようなマスコンクリートの温度ひび割れ制御対策としては、コンクリート自体の発熱を抑制するべく低発熱型セメントを使った低発熱型コンクリートを用いる、フレッシュコンクリートを冷却するためのプレクーリングを行う、打設したコンクリート中に水循環パイプを仕込んで強制冷却を行う、といった方法が試みられている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、上記対策はいずれも多大なコストを要するものであって広く普及するに到っていない。特に、低発熱型のコンクリートは普通コンクリートに比較してかなり高価であるので、これを膨大な量のコンクリートの全てに使用することはコスト的な面から現実的でないばかりか、ひび割れ制御効果においても必ずしも十分ではなく、そのため、マスコンクリートの温度ひび割れを安価にかつ確実に制御し得る有効な方策が望まれていた。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明は、低発熱型のコンクリートを用いるものではあるが、従来のようにコンクリートの全てを低発熱型のコンクリートとするのではなく要所に限定的に用いるに留め、それによりコンクリート全体を低発熱型コンクリートとする場合に比較して大幅なコスト削減を実現し得ることはもとより、ひび割れ制御効果も高めることができるものである。 【0007】 すなわち、請求項1の発明は、コンクリート構造物を施工するに際し、コンクリートを打設すべき領域を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用い、該発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにしたものである。 【0008】 請求項2の発明は、請求項1の発明のコンクリート打設方法において、先行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いるものである。 【0009】 請求項3の発明は、下部を止水壁とし上部を山留壁とする連続地中壁を施工するに際し、該連続地中壁を互いに隣接する先行部と後行部に区分して、先行部に対してコンクリートを打設した後、所定期間経過後に後行部に対してコンクリートを打設するコンクリート打設方法において、後行部の山留壁に打設するコンクリートとして、後行部の止水壁および先行部全体のコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いるものである。 【0010】 請求項4の発明は、請求項3の発明のコンクリート打設方法において、先行部全体および後行部の止水壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部の山留壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いるものである。 【0011】 【発明の実施の形態】 以下、本発明を連続地中壁の施工に適用する場合の実施形態を説明する。本実施形態では、従来と同様に先行部に対するコンクリート打設を行った後、所定期間経過後に後行部に対するコンクリート打設を行うが、先行部と後行部とでは異なる種類のセメントを使ったコンクリートを用いることとして、後行部のコンクリート(後行コンクリート)として先行部のコンクリート(先行コンクリート)よりも低発熱型のコンクリートを用いる。具体的には、先行コンクリートに使うセメントとして普通ポルトランドセメントや高炉セメントB種などを用いた普通コンクリートを用い、後行コンクリートとして低熱ポルトランドセメントなどの低発熱型セメントを用いた低発熱型コンクリートを用いる。 【0012】 図1はそれら先行コンクリートと後行コンクリートの打設後の温度変化状態を示す。▲1▼は普通コンクリートからなる先行コンクリートであり、打設後約3日で80°C程度にまで温度が上昇した後、漸次温度降下していって最終的には常温になる。▲2▼は先行コンクリートよりも30日程度経過した後に打設された低発熱型コンクリートからなる後行コンクリートであり、打設後約5日で最大温度になるがその温度は60°c程度に留まる。そして、それら先行コンクリートと後行コンクリートとの間には、後行コンクリートが最高温度に達した時点で最大温度差ΔT1が生じる。 【0013】 上記の最大温度差ΔT1は、従来一般のように先行コンクリートと後行コンクリートの双方に普通コンクリートを用いる場合に比較すると大きく低減されるものであることは言うに及ばず、近年試みられているように先行コンクリートと後行コンクリートの双方に低発熱型コンクリートを用いる場合に比較しても改善されるものである。 【0014】 そのことについて図1を参照してさらに説明する。図中、破線で示す▲3▼は先行コンクリートとして後行コンクリートと同様の低発熱型コンクリートを用いた場合の温度変化状況を示すものである。この場合の先行コンクリートの温度変化は後行コンクリートの温度変化と同様となるので、その最大温度は▲1▼の普通コンクリートの場合に比較して低下するが、後行コンクリートの温度ひび割れに影響する後行コンクリートとの最大温度差ΔT2は逆に拡大する。つまり、先行コンクリートとして後行コンクリートと同様の低発熱型コンクリートを用いた場合には、普通コンクリートを用いる場合に比較してその温度上昇が抑制される分だけ、後行コンクリートとの温度差がΔTだけ拡大してしまうのであり、温度ひび割れ制御の観点からは不利となる。 【0015】 図2?図4により詳細な比較データを示す。図2は図1と同様にコンクリートの温度変化状態を示すものであり、図3はコンクリートの内部応力を示し、図4はひび割れ指数を示すものであり、いずれも(a)は本発明の実施形態(先行コンクリートとして普通コンクリートを用い、後行コンクリートとして低発熱型コンクリートを用いる)であり、(b)は従来法(双方ともに低発熱型コンクリートを用いる)によるものである。 【0016】 図2から、既に図1に示したように、本実施形態では従来法に比較して先行コンクリートと後行コンクリートとの最大温度差が改善されることが明らかである。また、図3から、従来法では最終的には内部応力が引張側(プラス側)となるのに対し本実施形態では圧縮側(マイナス側)に留まり、したがってひび割れが発生し難いものであることが分かる。 【0017】 さらに、図4から、本実施形態ではひび割れ指数が1.2程度以上を確保しているのに対し、従来法では0.7に留まっていることが分かる。なお、ひび割れ指数(I)はコンクリートの引張強度(f)を温度応力(σ:圧縮応力最大値からの増加応力分。図3参照)で除した値であり、通常1.2以上で良好なひび割れ制御性能を有していると判断することができる。図4に示したひび割れ指数は、各材齢の引張強度を実験により求めるとともに温度応力をFEMによる熱伝導解析と温度応力解析から求め、それらの値から演算により求めたものである。 【0018】 以上の方法によれば、先行コンクリートとして普通コンクリートを用い、後行コンクリートのみに低発熱型コンクリートを用いることにより、全てを低発熱型コンクリートとする場合に比較してコスト削減を図ることができることはもとより、温度ひび割れをより有効に制御できる効果がある。 【0019】 なお、先行コンクリートを打設してから後行コンクリートを打設するまでの期間が長いほどそれらの最大温度差は大きくなるので、ひび割れ制御の観点からは後行コンクリートは可及的に速やかに打設することが好ましい。 【0020】 また、上記実施形態では、後行コンクリート全体を低発熱型コンクリートとしたが、それをさらに区分して後行コンクリートの一部にのみ低発熱型コンクリートを用い、他は普通コンクリートとすることも考えられる。たとえば、近年、図5に示すように下部を止水壁1とし上部を山留壁2とする連続地中壁3の施工が行われる場合があるが、そのような連続地中壁3を施工する際に、先行部全体(止水壁1と山留壁2)および後行部の止水壁1は普通コンクリートを用い、後行部の山留壁2のみを低発熱型コンクリートを用いることが考えられる。その場合、後行部の止水壁1の温度ひび割れ制御性能はやや低下するが山留壁2の温度ひび割れは十分に制御でき、かつより一層のコスト削減を図ることができる。 【0021】 さらに、上記実施形態は本発明を連続地中壁の施工に適用したが、本発明は連続地中壁に限らず温度ひび割れが問題とされるようなコンクリート構造物を施工する場合全般に広く適用できることは当然であり、普通コンクリートや低発熱型コンクリートとしては上記で例示したものに限らず、同様の性質を有するものであれば使用可能であることは言うまでもない。 【0022】 【発明の効果】 請求項1の発明は、後行部に打設するコンクリートとして、先行部に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用い、該発熱型のコンクリートのひび割れ指数が1.2以上になるようにしたので、全てを低発熱型コンクリートとする場合に比較してコスト削減を図ることができることはもとより、温度ひび割れをより有効に制御できる効果がある。 【0023】 請求項2の発明は、先行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いるので、いずれも市販のコンクリート製品をそのまま使用して優れた温度ひび割れ制御効果を得ることができる。 【0024】 請求項3の発明は、下部を止水壁とし上部を山留壁とする連続地中壁を施工する際に、後行部の山留壁に打設するコンクリートとして、先行部全体および後行部の止水壁に打設するコンクリートよりも相対的に低発熱型のコンクリートを用いるので、特に後行部の山留壁の温度ひび割れを制御することができ、かつコスト削減を図ることもできる。 【0025】 請求項4の発明は、先行部全体および後行部の止水壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして普通ポルトランドセメントもしくは高炉セメントを用い、後行部の山留壁に打設するコンクリートにおけるセメントとして低熱ポルトランドセメント等の低発熱型セメントを用いるので、いずれも市販のコンクリート製品をそのまま使用して優れた温度ひび割れ制御効果を得ることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明方法により打設したコンクリートの温度変化状態を示す図である。 【図2】本発明方法と従来法のコンクリート温度変化状態を示す図である。 【図3】本発明方法と従来法のコンクリート応力を示す図である。 【図4】本発明方法と従来法のコンクリートひび割れ指数を示す図である。 【図5】本発明の適用対象である連続地中壁の構成例を示す図である。 【符号の説明】 1 止水壁 2 山留壁 3 連続地中壁 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2006-12-11 |
結審通知日 | 2006-12-19 |
審決日 | 2007-01-25 |
出願番号 | 特願平11-215998 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(E02D)
P 1 113・ 537- ZA (E02D) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 草野 顕子 |
特許庁審判長 |
大元 修二 |
特許庁審判官 |
柴田 和雄 西田 秀彦 |
登録日 | 2005-04-28 |
登録番号 | 特許第3671338号(P3671338) |
発明の名称 | コンクリート打設方法 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 一色国際特許業務法人 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 渡邊 隆 |