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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680020 審決 特許
無効200580340 審決 特許
無効200680135 審決 特許
無効200680027 審決 特許
無効2007800234 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E21D
管理番号 1155882
審判番号 無効2006-80024  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-02-20 
確定日 2007-03-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3682760号発明「トンネル内壁の形成方法およびその形成装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3682760号の請求項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3682760号の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、平成11年8月6日(優先権主張平成10年8月25日)に出願され、平成17年6月3日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後の平成18年2月20日に清水建設株式会社より本件特許明細書の請求項1?5に係る発明について特許無効の審判が請求され、これに対して被請求人より平成18年5月11日付で答弁書及び訂正請求書が提出され、さらに、請求人より平成18年7月7日に弁駁書が提出されたものである。

2.当事者の主張
2-1 請求人の主張の概要
審判請求書によれば、審判請求人は、次の理由(ア)及び証拠から、本件の請求項1?5に係る発明の特許が特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであると主張している。また、弁駁書によれば、審判請求人は、次の理由(イ)から、本件の訂正後の請求項1に係る発明の特許が特許法第123条第1項第1号及び第4号に該当し、また理由(イ)がないとしても、次の理由(ウ)及び証拠から、本件の訂正後の請求項1?5に係る発明の特許が特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであると主張している。
(理由)
(ア)本件の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(イ)本件の請求項1に係る訂正事項は新規事項に相当するので、特許法第17条の2第3項の要件を満たしておらず、特許法第36条第6項第1号に違反している。
(ウ)本件の訂正後の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証または甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(証拠)
甲第1号証:特開平6-73997号公報
甲第2号証:特開昭61-237799号公報
甲第3号証:特開昭63-186744号公報
甲第4号証:特開平8-170493号公報

なお、審判請求人は、弁駁書を提出する際に以下の証拠を提出している。
甲第5号証:特開平4-330199号公報
甲第6号証:特開平10-96396号公報
甲第7号証:「REFORM」1995年10月号:第55?62頁「日石・ボンド カーボンシート補強工法」
2-2 被請求人の主張の概要
答弁書によれば、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めて、訂正後の請求項1?5に係る発明は甲第1号証?甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものではない旨、主張している。

3.訂正請求について
3-1 訂正事項
本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、平成18年5月11日付け訂正請求書に添付された訂正明細書によると、次の事項をその訂正内容とするものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を
「トンネルの一次覆工壁内面に所定幅の繊維強化プラスティックシートを押し当てて押圧し、前記一次覆工壁内面の円周方向に複数の繊維強化プラスティックシートを隣接して配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に押圧ローラを押し当てて移動し、薄圧(注:「薄厚」とすべきところの誤記と認める。)の繊維強化プラスティック壁をトンネルの軸方向に沿って形成するトンネル内壁の形成方法において、前記一次覆工壁内面に配置した複数の繊維強化プラスティックシートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動することを特徴とするトンネル内壁の形成方法。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を
「前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動する請求項1記載のトンネル内壁の形成方法。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の第3項を
「前記剥離シ-トは透明で、表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動後、該表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トに紫外線または太陽光を照射して硬化させる請求項2記載のトンネル内壁の形成方法。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の第5項を
「前記複数の繊維強化プラスティックシ-トを、一次覆工壁内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置し、前記各繊維強化プラスティックシートの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動する請求項1記載のトンネル内壁の形成方法。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0009】を
「【課題を解決するための手段】
このため、請求項1の発明は、トンネルの一次覆工壁内面に所定幅の繊維強化プラスティックシートを押し当てて押圧し、前記一次覆工壁内面の円周方向に複数の繊維強化プラスティックシートを隣接して配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に押圧ローラを押し当てて移動し、薄厚の繊維強化プラスティック壁をトンネルの軸方向に沿って形成するトンネル内壁の形成方法において、前記一次覆工壁内面に配置した複数の繊維強化プラスティックシートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動し、施工が容易で設備費を低減でき、工期の短縮化と工費の低減を図るとともに、例えば水路トンネルの場合、流体摩擦や剥離作用が低下し、前記繊維強化プラスティック壁の耐久性ないし寿命を向上するようにしている。」
と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0010】を
「請求項2の発明は、前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動するようにして、繊維強化プラスティックシ-トの取り扱いの容易化と、接着時の繊維強化プラスティックシ-トの表面側粘着面の保護を図れ、繊維強化プラスティックシ-トを容易かつ安全に一次覆工壁内面に接着するとともに、表面側の剥離シ-ト上に押圧ロ-ラを転動可能にして、一次覆工壁と繊維強化プラスティックシ-トとの間に混入した気泡を排除し、平滑な繊維強化プラスティック壁を形成するようにしている。
請求項3の発明は、前記剥離シ-トは透明で、表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動後、表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トに紫外線または太陽光を照射して硬化させ、繊維強化プラスティックシ-トの表面側の粘着面を保護し、一次覆工壁内面に容易かつ安全に接着するとともに、一次覆工壁と繊維強化プラスティックシートとの間に混入した気泡を押し出し、前記繊維強化プラスティックシートを密着させて、繊維強化プラスティックシ-トの粘着面の硬化時におけるスチレンガスの放出や樹脂の飛散を防止して、作業環境の劣化を未然に防止し得るようにしている。」
と訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0011】中の請求項5に関する記載を、
「請求項5の発明は、前記複数の繊維強化プラスティックシ-トを、一次覆工壁内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置し、前記各繊維強化プラスティックシートの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動するようにして、円形断面のトンネル内壁の形成に好適にするとともに、例えば水路トンネルの場合、トンネル内壁全域での流体摩擦と剥離作用の低下を図り、前記繊維強化プラスティックシート壁の耐久性ないし寿命の向上を図るようにしている。」
と訂正する

(8)訂正事項8
明細書の段落【0096】を
「【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明は、前記一次覆工壁内面に配置した複数の繊維強化プラスティックシートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動するから、施工が容易で設備費を低減でき、工期の短縮化と工費の低減を図れるとともに、例えば水路トンネルの場合、流体摩擦や剥離作用が低下し、前記繊維強化プラスティック壁の耐久性ないし寿命を向上することができる。」
と訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0097】を
「請求項2の発明は、前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動するから、繊維強化プラスティックシ-トの取り扱いの容易化と、接着時の繊維強化プラスティックシ-トの表面側粘着面の保護を図れ、繊維強化プラスティックシ-トを容易かつ安全に一次覆工壁内面に接着できるとともに、表面側の剥離シ-ト上に押圧ロ-ラを転動可能にして、一次覆工壁と繊維強化プラスティックシ-トとの間に混入した気泡を排除し、平滑な繊維強化プラスティック壁を形成することができる。
請求項3の発明は、前記剥離シ-トは透明で、表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動後、該表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トに紫外線または太陽光を照射して硬化させるから、繊維強化プラスティックシ-トの表面側の粘着面を保護し、一次覆工壁内面に容易かつ安全に接着できるとともに、一次覆工壁と繊維強化プラスティックシートとの間に混入した気泡を押し出し、前記繊維強化プラスティックシートを密着させて、繊維強化プラスティックシ-トの粘着面の硬化時におけるスチレンガスの放出や樹脂の飛散を防止して、作業環境の劣化を未然に防止することができる。」
と訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0098】中の請求項5に関する記載を
「請求項5の発明は、前記複数の繊維強化プラスティックシ-トを、一次覆工壁内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動するようにして、円形断面のトンネル内壁の形成に好適にするとともに、例えば水路トンネルの場合、トンネル内壁全域での流体摩擦と剥離作用の低下を図り、前記繊維強化プラスティックシート壁の耐久性ないし寿命の向上を図ることができる。」
と訂正する。

3-2 訂正の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1のうち、「一次覆工壁内面の円周方向に複数の繊維強化プラスティックシートを隣接して配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に押圧ローラを押し当てて移動し」と訂正した点は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0078】に「・・・繊維強化プラスティックシート62を用意し、これをトンネル1の天端部に軸方向に沿って保持し・・・」、「・・・押圧ローラ66を別の剥離シート63上に押し当てて移動し、前記シート62と下地処理剤65との間に混入した気泡を押し出し、前記シート62を密着させるとともに、隣接の紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62と平行かつ近接して貼り付ける。・・・図11および図12のようである。」との記載があり、訂正前の請求項1に記載された繊維強化プラスティックシートの配置及び押し当てについて上記記載のものに限定を付加するものであるといえる。
また、同じく「前記一次覆工壁内面に配置した複数の繊維強化プラスティックシートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、」(注:下線は当審が付記した。)と訂正した点は、同上段落【0078】の「・・・押圧ローラ66を別の剥離シート63上に押し当てて移動し、前記シート62と下地処理剤65との間に混入した気泡を押し出し、前記シート62を密着させるとともに、隣接の紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62と平行かつ近接して貼り付ける。・・・図11および図12のようである。」、段落【0086】の「・・・繊維強化プラスティックシート62を前述と同じ要領で貼り付ける。」、【0087】の「・・・繊維強化プラスティックシート62の間に帯状の・・・繊維強化プラスティックシート62を重合して貼り付け、・・・一様な二次覆工壁面を形成する。」等の記載をみれば、隣接する繊維強化プラスチックシート62同士は互いに重合するような配置態様でも貼り付けられるものであるから「互いに近接して対向配置」は、当該プラスチックシートの端面同士が接触する程度に近くにあって向き合うような配置を意味するものと理解することができる。そうすると、上記訂正した点は、配置した複数の繊維強化プラスティックシートの端面が、円周方向で互いに接触する程度に近接して対向配置されていることを意味するものと解されるから、訂正前の請求項1に記載された繊維強化プラスティックシートの配置について、特許明細書に記載された事項の範囲内で限定を付加するものであるといえる。
さらに、同じく「前記繊維強化プラスティックシートの表面に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動する」と訂正した点は、上記段落【0078】の同個所等の記載をみれば、訂正前の請求項1に記載された繊維強化プラスティックシートの押し当てについて、特許明細書に記載された事項の範囲内で限定を付加するものであるといえる。

以上のことから、上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
また、上記訂正事項1は、上述したように本件特許明細書の記載事項から自明な事項であるといえるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものである。
そして、上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではないといえる。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された「剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着」することについて、「表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動する」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
また、上記訂正事項2は、本件特許明細書の記載及び図面から自明な事項であるといえるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものである。
そして、上記訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではないといえる。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載された「繊維強化プラスティックシートに紫外線または太陽光を照射して硬化させる」ことについて、「表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動後」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
また、上記訂正事項3は、本件特許明細書の記載及び図面から自明な事項であるといえるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものである。
そして、上記訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではないといえる。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項5に記載された「複数の繊維強化プラスティックシートを、一次覆工壁内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置」することについて、「各繊維強化プラスティックシートの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動する」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。なお、上記「全域に亘って隣接して配置し」とは、上記段落【0078】、【0086】や【0087】の記載からみて、繊維強化プラスティックシートを繰り返し配置して最終的には全域に配置することと解され、また同時に、上記「表面の略全域に前記押圧ローラを押し当てて」とある点は、ローラによる押圧を繰り返し行うことで、略全域を押し当てられるようにすることも含まれると解される。
そうすると、上記訂正事項4は、本件特許明細書の記載及び図面から自明な事項であるといえるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものである。
そして、上記訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではないといえる。

(5)訂正事項5?10について
訂正事項5?10は、上記訂正事項1?4の特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであることが明らかである。
そして、訂正事項5?10は、上述したように本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。

3-3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き各号並びに同条第5項の規定において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.本件発明について
上記「3.」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下順に、「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりの次のものと認める。

(本件発明1)
「トンネルの一次覆工壁内面に所定幅の繊維強化プラスティックシートを押し当てて押圧し、前記一次覆工壁内面の円周方向に複数の繊維強化プラスティックシートを隣接して配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に押圧ローラを押し当てて移動し、薄圧(注:「薄厚」とすべきところの誤記と認める。)の繊維強化プラスティック壁をトンネルの軸方向に沿って形成するトンネル内壁の形成方法において、前記一次覆工壁内面に配置した複数の繊維強化プラスティックシートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動することを特徴とするトンネル内壁の形成方法。」
(本件発明2)
「前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動する請求項1記載のトンネル内壁の形成方法。」
(本件発明3)
「前記剥離シ-トは透明で、表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動後、該表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トに紫外線または太陽光を照射して硬化させる請求項2記載のトンネル内壁の形成方法。」
(本件発明4)
「前記繊維強化プラスティックシートの硬化後、前記表面の剥離シートを剥離する請求項3記載のトンネル内壁の形成方法。」
(本件発明5)
「前記複数の繊維強化プラスティックシ-トを、一次覆工壁内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置し、前記各繊維強化プラスティックシートの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動する請求項1記載のトンネル内壁の形成方法。」

5.刊行物記載事項
(1)本件発明の優先日前に頒布されたところの甲第1号証の刊行物(以下、「刊行物1」という。)には、「導水路トンネルの施工方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「【特許請求の範囲】【請求項1】 導水路トンネルを掘削する工程と、トンネル内壁面に覆工コンクリート層を打設する工程と、この打設された覆工コンクリート層表面に樹脂接着剤を介して強化繊維シートを貼り付ける工程とを有することを特徴とする導水路トンネルの施工方法。」
(ロ)「【0006】このため、本発明は、断層破砕帯、土被りの浅い所、透水性の高い地盤など、種々の条件の下で採用することができ、かつ、作用内水圧による覆工コンクリート層の変位および応力を抑制し、覆工コンクリート層のクラックの発生を抑え、高い止水性を有する導水路トンネル構造を得ることができるとともに、低コスト、短期間で施工することができる導水路トンネルの施工方法を提供することを目的とする。」
(ハ)「【0022】【実施例】・・・図1は・・・。また、この覆工コンクリート層13の円形断面トンネル坑の内表面には、エポキシ樹脂等の樹脂接着剤15を介して、強化繊維シート14が貼り付けられている。
【0023】図2は覆工コンクリート部および強化繊維シート部の拡大断面図である。図2に示されているように、覆工コンクリート層13の内表面にエポキシ樹脂等の樹脂接着剤15を介して貼り付けられた強化繊維シート14は、ガラス等の繊維からなる基盤クロス21aの表面に強化繊維22aを一方向に配列して樹脂粘着剤23により固着したものであって、さらにその上に、同じガラス等の繊維からなる基盤クロス21bの表面に強化繊維22bを一方向に配列して樹脂粘着剤23により固着して一体とした強化繊維シートを、トンネルの周方向あるいは断層などの補強方向にあわせて樹脂接着剤15により貼り合わせたものであり、一層の厚みを0.2?1.0mm程度としたものである。この基盤21a,21bを形成する強化繊維としては同一種類のものでも異なる種類のものでもかまわないが、たとえばガラス繊維などが用いられ、その単位面積当たりの重量は5?100g/m2 程度であることが好ましい。また、基盤クロス21a,21bの表面に固着される強化繊維22a,22bとしては、高弾性炭素繊維、高強度炭素繊維、ガラス繊維等の無機強化繊維材料、もしくは、アラミッド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエチレン繊維等の有機強化繊維材料等の各種高強度繊維が用いられる。」
(ニ)「【0025】上記強化繊維シート14は、図3に示されているように、強化繊維22が覆工コンクリート層13側となる状態で、かつ、強化繊維22の方向が導水路トンネルの周方向に合致した状態で、樹脂接着剤15により前記覆工コンクリート層13に貼り付けられている。これら強化繊維シート14を、導水路トンネルの周方向および必要に応じて長手方向に所定のラップ長を確保して重ね合わせ、順次張り合わせることにより、トンネル全体がこれらシート14により隙間なく覆われている。」
(ホ)「【0035】なお、場合によっては、1層の強化繊維シート材のみで、作用内水圧による覆工コンクリート層あるいは掘削内壁面の変位および発生応力を減少させる効果が得られることもある・・・」
(へ)「【0040】・・・覆工コンクリート層13内面に強化繊維シート14を設けているため、普通コンクリートに比べて高い耐摩耗性が得られる。また、その表面粗度も比較的小さく、打設コンクリート表面とほぼ同じであり、通水量を小さくするということもない。・・・」
(ト)「【0043】・・・この測定結果によると、強化繊維シートを貼り付ける前には、約4.6トンの荷重でひび割れが発生したが、その後、このヒューム管に上記強化繊維シートを貼り付けた場合には、約10トンの荷重で強化繊維シートがはがれた。この結果から、覆工コンクリート層内面に強化繊維シートを有する本発明の導水路トンネル構造によれば、従来の導水路トンネル構造の2倍以上の外圧に耐えられることが推測される。・・・」

上記記載事項及び図面に示された内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「覆工コンクリート層13内面に、基盤クロスに強化繊維を樹脂粘着材23により固着して一体とした所定幅の強化繊維シート14を接着し、前記覆工コンクリート層13内面の周方向に複数の強化繊維シート14を隣接して配置し、薄厚の強化繊維シート14の層をトンネルの長手方向に沿って形成するトンネル内壁の形成方法において、前記覆工コンクリート層13内面に配置した複数の強化繊維シート14の端面を円周方向で重ね合わせ、前記複数の強化繊維シート14をトンネルの内周の円周方向の全域に亘って隣接して配置したトンネル内壁の形成方法」

(2)本件発明の優先日前に頒布されたところの甲第2号証の刊行物(以下、「刊行物2」という。)には、「構築物のライニング方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「本発明は、軌道用或いは通行用のトンネル等の構築物に生じた漏水箇所やひび割れ箇所等の補修に利用される構築物のライニング方法に関する。」(公報左下欄第18-20行)
(ロ)「シート1は紫外線硬化性の未硬化の合成樹脂よりなり、柔軟性に富む。例えば、未硬化のFRPシートをPVA等の剥離性に優れたフィルムでオーバーラップしたものが使用される。」(公報右下欄第13-16行)
(ハ)「・・・シート1とこのシート1で覆われた壁面2との間の空間Sを排気パイプ3を通して排気すると、シート1の内外間に生じる圧力差によってシート1が上方へ引き上げられて壁面2に沿うように伸展し、該シート1が第2図及び第3図のように壁面2及び排気パイプ3に密着する。なお、上記した排気の代わりにトンネル内へ給気することによってシート1の内外間に圧力差を生じさせ、この圧力差によってシート1をトンネルの壁面2及び排気パイプ3に密着させてもよい。このようにして壁面2に密着させたシート1は紫外線照射装置Uによって硬化させられる。」(公報第3頁右上欄第1-12行)
(ニ)「・・・上記したライニング方法は、構築物を部分的にライニングする場合でも、構築物の全体、例えばトンネル壁面を全長及び全幅に亘ってライニングする場合でも同時に実施できる。」(公報第3頁左下欄第13-17行)

上記記載事項及び図面に示された内容を総合すると、刊行物2には、次の事項が記載されていると認められる。
「トンネル等の構築物に用いるライニング用シートとして、繊維強化プラスチックシート(FRPシート)を用いたものであり、当該シートは紫外線硬化性の合成樹脂よりなるものであって、剥離性に優れたフィルムでオーバーラップされた点、及び紫外線照射装置で前記シートを硬化させた点」

(3)本件発明の優先日前に頒布されたところの甲第3号証の刊行物(以下、「刊行物3」という。)には、「光硬化性繊維強化プラスチックプリプレグシート」に関して、次の事項が記載されている。
(イ)「本発明は片面に透光性のシートを積層した光硬化性繊維強化プラスチックプリプレグシート(以下光硬化性プリプレグシートという)に関し、その取扱いの容易さと硬化した成形体層の優れた性能の故に、各種の鋼製、コンクリート製およびプラスチック製の配管物、各種構築用部材の補修、補強、あるいは防食用ライニング材として、自動車、船舶の補修や屋根、タンクの防水用として、またサーフボード、ボート等の補修用として、さらに紫外線ランプ等人工光照射装置の改良によって、地下、トンネルあるいは建物内の配管類の補修・補強用に、さらに家庭や学校等の諸施設の備品修理という民生用途に大きな市場が見込まれている。
〔従来の技術〕
上述の如く、光硬化性プリプレグシートは応用範囲が広く、このうちで、建築、土木用のいわゆるライニング施工用には、従来法によるFRPライニング層と同程度の機械的強度、耐食性、電気特性等の性能が出ることをもって十分期待に応えるものである・・・」(公報第1頁左下欄第12行-右下欄第12行)
(ロ)「・・・本発明者らは、あらかじめ透光性のシート材料を光硬化性プリプレグシートに積層しておけば、施工にあたって透光性材料を外側にしてプリプレグを基材に張りつけたままで光硬化を行なえると考えて本発明にいたった。」(公報第2頁左上欄第16-20行)
(ハ)「本発明の光硬化性プリプレグシートは、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の光硬化性樹脂に光開始剤を配合してなる光硬化性樹脂組成物をガラス繊維のごときプラスチック補強用繊維質基材に含浸して得られる光硬化性プリプレグのシートの片面に飽和ポリエステルシートのごとき透明な透光性のシートを積層した新規なプリプレグシートである。
本発明で使用可能な光硬化性樹脂としては、光硬化性であればいずれでもよいが、・・・不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂(エポキシアクリレート)、・・・が好適である。・・・」(公報第2頁右上欄第18行-左下欄第13行)
(ニ)「本発明の光硬化性プリプレグシートは自然光または人工光を照射して硬化されるが、自然光とは一般に太陽光をさすので屋外の日射場所での使用が該当し、また人工光とは特に紫外部から可視部にわたる領域で特性波長の光を発する装置から照射される光である。一般に光化学用高圧水銀灯と総称される装置が有効に利用できる。
本発明の光硬化性プリプレグシートは、金属、コンクリート、木材、プラスチック・ゴム等あらゆる材料の表面に密着させ、または適当な下地処理剤を介して密着させ、自然光あるいは人工光を表面の透光性シートの上から照射することにより、プリプレグを硬化させ、強固で、かつ表面が平滑なるFRP層を容易に形成させることが可能になった。すなわち本発明はプリプレグの本来もつ補強、補修、防食の迅速かつ簡易施工性に加え、美観修復性を提供することが可能になった。」(公報第3頁第3-19行)
(ホ)「本発明は光硬化性繊維強化プラスチックのシート状プリプレグの使用について特定するものであって、具体例として記したプリプレグの製造法およびその使用にあたっての被覆法や硬化法の個個の手法に限定されるものではない。
〈実施例1〉
ビニルエステル樹脂(エピビス型エポキシアクリレート樹脂:リポキシ(○にR)R802、昭和高分子製)100部に対して無水フタル酸7.2部を混合し、100?110℃で90分反応させた。この変性ビニルエステル樹脂(約45%のスチレンとの混合液体)100部に光開始剤、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン(ダロキュア(○にR)1173.メルク製)を1部、増粘剤として酸化マグネシウム(マグミック(○にR)、協和化学工業製)1部を添加し、この配合物をインテンシブミキサーで減圧攪拌混合して、粘度(B-型粘度計)15ポアズの液状樹脂混合物を得た。
小型の含浸機上を移動する幅500mmの剥離シート(バイナシート(○にR)80XT、藤森工業製)上にナイフコーターで幅450mmに上記液状樹脂混合物を均一厚さに塗布し、この層の上にガラスチョップドストランドマット(旭ファイバーグラス製CM305)をのせ、含浸ロールによる含浸を行なった後、含浸機の下流で積層物の上にポリエステルフィルム(ルミラー(○にR)S-10 、25μ厚、東レ製)をのせて巻取機により剥離シートを外側、ポリエステルフィルムを内側にして紙管に巻き取った。
紙管ごとアルミラミネートクラフト紙で密封包装して、熟成、増粘し、スライサーで幅10cmのテープ状に裁断してブリキ製の缶に収納した。プリプレグ正味の厚さは約0.6mmで柔軟で適度の粘着性を有するものであった。(これをテープ1と呼ぶ)。
〈実施例2〉
実施例1のガラスチョツプドストランドマットをガラスクロス(グラスロンクロス(○にR)MS180.旭フアイバーグラス製)に代えた以外はすべて実施例1と同様の方法でビニルエステル樹脂の複合プリプレグシートを作成した。このプリプレグ正味の厚さは約0.4mmあった。(これをテープ2と呼ぶ)。」(公報第3頁左下欄第3行-第4頁左上欄第4行)
(ヘ)「〈応用例1〉
約20cm角の鋼板表面を紙ヤスリで研磨した後光硬化性のプライマー(リポキシVS(○にR)200.昭和高分子製)を塗布した上に、5cm角に切り取ったテープ1,2.および3をそれぞれ剥離シートを剥ぎ取ってプリプレグ面を接し、表面にポリエステルフィルムをつけたままの手の平で圧着した。そのままの状態で屋外で直射日光に曝した(10月下旬、正午、場所群馬県)。いずれも約10分で硬化した。ポリエステルフィルムを剥ぎ取った後のグリプレグの表面は平滑であった。」(公報左上欄第4頁第17行-右上欄第7行)

上記記載事項を総合すると、刊行物3には、次の事項が記載されていると認められる。
「トンネル等の補修・補強等をしようとする施工面に接着する光硬化性繊維強化プラスチックシートの接着方法において、当該光硬化性繊維強化プラスチックシートは表と裏に剥離シート(剥ぎ取り可能な剥離シートと透明な透光性のポリエステルフィルム)が接着され、一方の面の剥離シートを剥離し、他方の面の剥離シート(透明な透光性のポリエステルフィルム)を接着したままで、光硬化性繊維強化プラスチックシートを施工面に押し当てて接着し(圧着し)、自然光(太陽光)または人工光(紫外部から可視部にわたる領域で特性波長の光)を照射して硬化させ、硬化後に剥離シート(透明な透光性のポリエステルフィルム)を剥ぎ取るようにした点」

(4)本件発明の優先日前に頒布されたところの甲第4号証の刊行物(以下、「刊行物4」という。)には、「地中コンクリート壁及びその施工方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「【0016】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づき説明する。図4に示すようにトンネル50には、覆工10が施されており、覆工10は、地盤表面1aに設けられた、コンクリート壁体である覆工コンクリート2を有している。覆工コンクリート2の表面2a、即ち、内周面の天井部には、炭素繊維、ケブラー等よりなる高張力繊維シート3が貼着されている。また、高張力繊維シート3及び覆工コンクリート2には、その高張力繊維シート3及び覆工コンクリート2を貫通して地盤1に至るロックボルト5が、複数本、高張力繊維シート3と覆工コンクリート2を地盤1側に密着させるように設けられている。」
(ロ)「【0019】高張力繊維シート3の一般部23は、図3に示すように、帯状に形成された複数のシートよりなり、その縁部を隣り合うシートに重ね合わせるようにして貼着されており、また、高張力繊維シート3のボルト装着部13に隣接するものについては、その余白部に重ねて貼着されている。」
(ハ)「【0025】そして、ロックボルト本体5の頭部5bに座金5c、ナット5dを再び螺着して、高張力シート3のボルト装着部13及び覆工コンクリート2を地盤1側に密着させるように締着する。そのようにして地盤表面1aの図3に示す各ロックボルト5に当たる位置に高張力繊維シート3のボルト装着部13をそれぞれ貼着する。そして、最後に、高張力繊維シート3のボルト装着部13の間に高張力繊維シート3の一般部23を貼着する。高張力繊維シート3の一般部23は、帯状に形成された複数のシートよりなり、その縁部を隣り合うシートに重ね合わせるようにして貼着する。また、高張力繊維シート3のボルト装着部13に隣接するものについては、その余白部に重ねて貼着される。この一般部23の帯状のシートは、ボルト装着部13に比して面積が大きいが、ボルト装着部13のように、ロックボルト5を貫通させることがないので、比較的容易に貼着することが出来る。」

上記記載事項及び図面に示された内容を総合すると、刊行物4には、次の事項が記載されていると認められる。
「地盤表面に設けられたコンクリート壁体である覆工コンクリートに高張力繊維シートが同一方向に配列されている点」

(5)本件発明の優先日前に頒布されたところの甲第5号証の刊行物(以下、「刊行物5」という。)には、「防水シート取付装置および防水シート取付方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「【特許請求の範囲】【請求項1】トンネルの円周方向又は縦方向に移動する移動手段と、回転によって引出し可能にしたロール状防水シートと、該防水シートを引出し、前記移動手段によりトンネル下地面に沿って移動しつつ防水シートを圧接する展張手段とからなり、該展張手段で前記下地面に対して接着剤により前記防水シートの一部又は全部を貼着することを特徴とする防水シート取付装置。」
(ロ)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、トンネルの縦断方向および横断方向の適当な範囲の下地面に、防水工としての防水シートを設置するための防水シート取付装置および防水シート取付方法に関する。」
(ハ)「【0011】図1において、1は一次覆工のトンネル、2はこのトンネルのアーチ部、3はインバート部、4はトンネル1内を例えばキャタピラ走行する塗布装置で、この塗布装置4にはブーム5により伸縮自在に支承された接着剤塗布機6が設けられている。・・・」
(ニ)「【0014】図2はこの発明の別の防水シート取付装置を示す。これはトンネル1内を走行する走行装置21上に油圧ジャッキ式の伸縮自在なブーム22を仰角変位自在に取り付けて、このブーム22上端に、ロール状の防水シート11を引出し可能に支持する軸部材23と、引出された防水シート11を接着剤を介して下地面に接着させるシート展張手段24と、下地面に接着剤を塗布する接着剤塗布ローラ25とを取り付けたもである。このうち軸部材23はロール状の防水シート11の中心を貫通して、軸受26に回転自在に取付けられ、一方シート展張手段24は、ブーム22上に伸縮自在に設けたアーム27と、このアーム27の先端に回転自在に取り付けた押圧ローラ28とにより構成される。また、接着剤塗布ローラ25は、ブーム22上に連設した固定アーム29の端部に取付けた接着剤容器30内に設けられ、この接着剤容器30内には、チューブ31を通じて走行装置21の接着剤供給装置から接着剤が適量ずつ供給されるようになっている。」
(ホ)「【0016】・・・、防水シート11に予め接着剤が塗布されているものを使用すれば、・・・走行装置を移動しつつ軸方向に防水シート11を展張してゆくこともできる。」

(6)本件発明の優先日前に頒布されたところの甲第6号証の刊行物(以下、「刊行物6」という。)には、「トンネル用止水シートの取付構造および取付方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「【0018】そして、以下のような施工を行う。即ち、図1ないし図5(A)に示すように、シート展張・取付台車12をトンネル内に走行させながら、先ず、ロール巻きした止水シート3を繰り出しながら、ガイドローラ9を経由して、トンネルの吹き付けコンクリート面2に導く。この際、弧状配列のガイドローラ9によって、止水シート3は、少なくともで、互いに側縁部3aを重合するように、各領域トンネル1の長手方向に向けて、吹き付けコンクリート面2の湾曲に沿うように、展張される。各止水シート3は、この実施の形態において3枚の止水シートをシート展張・取付台車12の一度の走行で展張・固定させるようにしてもよく、1枚づつ順次トンネルの長手方向に展張・固定させるようにしてもよい。」
(ロ)「【0026】従って、トンネルの長手方向に向けて止水シートを展張するために、展張作業が中断されることがなく、その展張作業の過程で、順次、吹き付けコンクリート面2への、止水シート3の取付け、固定が実現でき、大幅に作業性が向上する。」

(7)本件発明の優先日前に頒布されたところの甲第7号証の刊行物(以下、「刊行物7」という。)には、「日石・ボンド カーボンシート補強方法」に関して、次の事項が記載されている。
(イ)「脱泡ローラーによりコンクリート面とTUクロスの間に残った空気を完全に追い出し平滑に仕上げる。」(第57頁左欄下から第1行ー右欄第2行)

6.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「周方向に複数の」、「トンネルの長手方向に沿って」及び「端面を円周方向で重ね合わせて配置した」は、本件発明1の「円周方向に複数の」、「トンネルの軸方向に沿って」及び「円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し」にそれぞれ相当し、また本件発明1の「トンネルの一次覆工壁内面」と引用発明の「覆工コンクリート層13内面」とはトンネルの内面で共通し、本件発明1の「繊維強化プラスティックシート」と引用発明の「強化繊維を樹脂粘着材23により固着して一体とした強化繊維シート」とはライニング用シートである点で共通する。
してみると、両者は、
「トンネルの内面に所定幅のライニング用シートを接着し、前記トンネルの内面の円周方向に複数のライニング用シートを隣接して配置し、薄厚のライニング用シートの層をトンネルの軸方向に沿って形成するトンネル内壁の形成方法において、前記トンネルの内面に配置した複数のライニング用シートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置したトンネル内壁の形成方法」である点で一致し(以下、「一致点A」という。)、次の点で相違するということができる。

[相違点1]
トンネルの内面が、本件発明1では、トンネルの一次覆工壁内面であるのに対して、引用発明では、覆工コンクリート層の内面である点。
[相違点2-1]
ライニング用シートを接着する場合に、本件補正発明1では、ライニング用シートを繊維強化プラスティックシートとし、ライニング用シートである繊維強化プラスティックシートの表面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させているのに対して、引用発明では、ライニング用シートを強化繊維を樹脂粘着材23により固着して一体とした強化繊維シートとしている点、及び押圧ローラを押し当ててているかどうか明らかでない点

(相違点の検討)
[相違点1]について
トンネルの内壁を形成する方法において、適用するトンネル内面を、トンネルの一次覆工壁内面としたものは、刊行物4、刊行物5及び本件特許明細書段落【0005】に従来技術として提示された特開平8-21194号公報等にも記載されているように従来周知であるから、引用発明のトンネル内壁の形成方法をトンネルの一次覆工壁内面に適用することは、当業者であれば容易に想到しうることである。
[相違点2-1]について
トンネル等の補修・補強等に用いられるライニング用シートを、繊維強化プラスチックシートとしたものは、刊行物2及び刊行物3のほか、上記特開平8-21194号公報(段落【0006】には「繊維強化プラスチックシートの厚さは、経済性及び作業性より通常0.5-10mmのものが用いられ、好ましくは2?5mmが望ましい。寸法は各種サイズのものが用いられ、通常幅1?3m×長さ3?10mが最も経済的で、トンネルの寸法に合わせて切断加工が可能であり自由度が高い。」等と記載されている。)等に記載されているように従来周知のものであるから、引用発明のライニング用シートとして、前記周知の繊維強化プラスチックシートを採用することは当業者であれば容易になしうることであり、またライニング用シートの表面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させているものは、刊行物5、刊行物6等に記載されているように従来周知であるから、ライニング用シートである上記繊維強化プラスチックシートを用いて内壁を構築する際に、表面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させることは格別困難なことではない。

そして、本件発明1の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2と引用発明とを対比すると、上記一致点Aで一致し、相違点1で相違するとともに、以下の点で相違する。
[相違点2-2]
ライニング用シートを接着する場合に、本件発明2では、ライニング用シートを繊維強化プラスティックシートとし、ライニング用シートである前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させているのに対して、引用発明では、ライニング用シートを強化繊維を樹脂粘着材23により固着して一体とした強化繊維シートとしている点、及び押圧ローラを押し当ててているかどうか明らかでない点
(相違点の検討)
[相違点1]について
上記(1)の[相違点1]で説示したとおりである。
[相違点2-2]について
刊行物3には、トンネル等の補修・補強等をしようとする施工面に接着する光硬化性繊維強化プラスチックシートの接着方法において、当該光硬化性繊維強化プラスチックシートは表と裏に剥離シート(剥ぎ取り可能な剥離シートと透明な透光性のポリエステルフィルム)が接着され、一方の面の剥離シートを剥離し、他方の面の剥離シート(透明な透光性のポリエステルフィルム)を接着したままで、光硬化性繊維強化プラスチックシートを施工面に押し当てて接着した点が記載されている。そして、引用発明のライニング用シートとして、前記刊行物3に記載された繊維強化プラスチックシートを採用して、本件発明2のように一次覆工壁内面に押し当てて接着することは当業者であれば容易になし得ることであり、またライニング用シートの表面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させているものは、刊行物5、刊行物6等に記載されているように従来周知であるから、ライニング用シートである上記繊維強化プラスチックシートを用いて内壁を構築する際に、剥離シートが剥離されていない側の面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させることは格別困難なことではない。

そして、本件発明2の作用効果も、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本件発明2は、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
本件発明3と引用発明とを対比すると、上記一致点Aで一致し、相違点1で相違するとともに、以下の点で相違する。
[相違点2-3]
ライニング用シートを接着する場合に、本件発明3では、ライニング用シートを繊維強化プラスティックシートとし、ライニング用シートである前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、剥離シートは透明で、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動させた後、該表面の剥離シートを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシートに紫外線または太陽光を照射して硬化させているのに対して、引用発明では、ライニング用シートを強化繊維を樹脂粘着材23により固着して一体とした強化繊維シートとしている点、及び押圧ローラを押し当ててているかどうか明らかでない点

(相違点の検討)
[相違点1]について
上記(1)の[相違点1]で説示したとおりである。
[相違点2-3]について
刊行物3には、トンネル等の補修・補強等をしようとする施工面に接着する光硬化性繊維強化プラスチックシートの接着方法において、当該光硬化性繊維強化プラスチックシートは表と裏に剥離シート(剥ぎ取り可能な剥離シートと透明な透光性のポリエステルフィルム)が接着され、一方の面の剥離シートを剥離し、他方の面の剥離シート(透明な透光性のポリエステルフィルム)を接着したままで、光硬化性繊維強化プラスチックシートを施工面に押し当てて接着し(圧着し)、自然光(太陽光)または人工光(紫外部から可視部にわたる領域で特性波長の光)を照射して硬化させた点が記載されている。そして、引用発明のライニング用シートとして、前記刊行物3に記載された繊維強化プラスチックシートを採用して、本件発明3のように一次覆工壁内面に押し当てて接着し、他方の面の剥離シートを接着したまま紫外線または太陽光を照射することは当業者であれば容易になし得ることであり、またライニング用シートの表面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させているものは、刊行物5、刊行物6等に記載されているように従来周知であるから、ライニング用シートである上記繊維強化プラスチックシートを用いて内壁を構築する際に、剥離シートが剥離されていない側の面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させることは格別困難なく、またこのような押圧ローラを軸方向に移動させた後に、剥離シートを接着したまま繊維強化プラスチックシートに紫外線または太陽光を照射して硬化させることも適宜なし得ることである。

そして、本件発明3の作用効果も、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本件発明3は、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
本件発明4と引用発明とを対比すると、上記一致点Aで一致し、相違点1で相違するとともに、以下の点で相違する。
[相違点2-4]
ライニング用シートを接着する場合に、本件発明3では、ライニング用シートを繊維強化プラスティックシートとし、ライニング用シートたる前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、剥離シートは透明で、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動させた後、該表面の剥離シートを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシートに紫外線または太陽光を照射して硬化させ、硬化後、前記表面の剥離シートを剥離しているのに対して、引用発明では、ライニング用シートを強化繊維を樹脂粘着材23により固着して一体とした強化繊維シートとしている点、及び押圧ローラを押し当ててているかどうか明らかでない点

(相違点の検討)
[相違点1]について
上記(1)の[相違点1]で説示したとおりである。
[相違点2-4]について
刊行物3には、トンネル等の補修・補強等をしようとする施工面に接着する光硬化性繊維強化プラスチックシートの接着方法において、当該光硬化性繊維強化プラスチックシートは表と裏に剥離シート(剥ぎ取り可能な剥離シートと透明な透光性のポリエステルフィルム)が接着され、一方の面の剥離シートを剥離し、他方の面の剥離シート(透明な透光性のポリエステルフィルム)を接着したままで、光硬化性繊維強化プラスチックシートを施工面に押し当てて接着し(圧着し)、自然光(太陽光)または人工光(紫外部から可視部にわたる領域で特性波長の光)を照射して硬化させ、硬化後に剥離シート(透明な透光性のポリエステルフィルム)を剥ぎ取るようにした点が記載されている。そして、引用発明のライニング用シートとして、前記刊行物3に記載された繊維強化プラスチックシートを採用して、本件発明3のように一次覆工壁内面に押し当てて接着し、他方の面の剥離シートを接着したまま紫外線または太陽光を照射し、硬化後に表面の剥離シートを剥離することは当業者であれば容易になし得ることであり、またライニング用シートの表面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させているものは、刊行物5、刊行物6等に記載されているように従来周知であるから、ライニング用シートである上記繊維強化プラスチックシートを用いて内壁を構築する際に、剥離シートが剥離されていない側の面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させることは格別困難なく、またこのような押圧ローラを軸方向に移動させた後に、繊維強化プラスチックシートに紫外線または太陽光を照射して硬化させ、硬化後に表面の剥離シートを剥離することも適宜なし得ることである。

そして、本件発明4の作用効果も、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本件発明4は、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明5について
本件発明5と引用発明とを対比すると、以下の点で一致し(以下、「一致点B」という。)、相違点1で相違するとともに、以下の点で相違する。
[一致点B]
トンネルの内面に所定幅のライニング用シートを接着し、前記トンネルの内面の円周方向に複数のライニング用シートを隣接して配置し、薄厚のライニング用シートの層をトンネルの軸方向に沿って形成するトンネル内壁の形成方法において、前記トンネルの内面に配置した複数のライニング用シートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、前記複数のライニング用シートを、トンネルの内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置したトンネル内壁の形成方法」
[相違点1]
トンネルの内面が、本件発明1では、トンネルの一次覆工壁内面であるのに対して、引用発明では、覆工コンクリート層の内面である点。
[相違点2-5]
ライニング用シートを接着する場合に、本件発明1では、ライニング用シートを繊維強化プラスティックシートとし、ライニング用シートである各繊維強化プラスティックシートの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させているのに対して、引用発明では、ライニング用シートを強化繊維を樹脂粘着材23により固着して一体とした強化繊維シートとしている点、及び押圧ローラを押し当ててているかどうか明らかでない点

(相違点の検討)
[相違点1]について
上記(1)の[相違点1]で説示したとおりである。
[相違点2-5]について
トンネル等の補修・補強等に用いられるライニング用シートとして、繊維強化プラスチックシートとしたものは、刊行物2及び刊行物3のほか、上記特開平8-21194号公報(段落【0006】には「繊維強化プラスチックシートの厚さは、・・・通常0.5-10mmのものが用いられ、好ましくは2?5mmが望ましい。寸法は各種サイズのものが用いられ、通常幅1?3m×長さ3?10mが最も経済的で、トンネルの寸法に合わせて切断加工が可能であり自由度が高い。」等と記載されている。)等に記載されているように従来周知のものであるから、引用発明の強化繊維シートに換えて、前記周知の繊維強化プラスチックシートを採用することは当業者であれば容易になしうることであり、またライニング用シートの表面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させているものは、刊行物5、刊行物6等に記載されているように従来周知であるから、ライニング用シートである上記繊維強化プラスチックシートを用いて内壁を構築する際に、表面に押圧ローラを押し当てて押圧し、押圧ローラをトンネルの軸方向に移動させることは格別困難なことではなく、また押圧する部分を広くすれば接着状況が良好となることは当然のことであるから、押圧ローラによる押圧を部位をずらせて繰り返し行ったり、押圧ローラの幅や個数や取付位置などを適宜設定して繊維強化プラスティックシートの表面の略全域に押圧ローラを押し当てることは、適宜なし得る事項であるといえる。

そして、本件発明5の作用効果も、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本件発明5は、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

以上のことから、本件発明1?5は、引用発明、刊行物3に記載の技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
したがって、本件発明1?5の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、他の理由を検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
トンネル内壁の形成方法およびその形成装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】トンネルの一次覆工壁内面に所定幅の繊維強化プラスティックシ-トを押し当てて押圧し、前記一次覆工壁内面の円周方向に複数の繊維強化プラスティックシ-トを隣接して配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に押圧ローラを押し当てて移動し、薄厚の繊維強化プラスティック壁をトンネルの軸方向に沿って形成するトンネル内壁の形成方法において、前記一次覆工壁内面に配置した複数の繊維強化プラスティックシートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動することを特徴とするトンネル内壁の形成方法。
【請求項2】前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動する請求項1記載のトンネル内壁の形成方法。
【請求項3】前記剥離シ-トは透明で、表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動後、該表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トに紫外線または太陽光を照射して硬化させる請求項2記載のトンネル内壁の形成方法。
【請求項4】前記繊維強化プラスティックシ-トの硬化後、前記表面の剥離シ-トを剥離する請求項3記載のトンネル内壁の形成方法。
【請求項5】前記複数の繊維強化プラスティックシ-トを、一次覆工壁内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置し、前記各繊維強化プラスティックシ-トの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動する請求項1記載のトンネル内壁の形成方法。
【請求項6】所定幅の繊維強化プラスティックシ-トを捲回したシ-トロ-ルと、前記シ-トロ-ルから繰り出した前記繊維強化プラスティックシ-トをトンネルの一次覆工壁内面の軸方向に押し当てて押圧する押圧ロ-ラ-とを備え、前記シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-とを水平軸周りに旋回可能にし、前記一次覆工壁内面の円周方向の定位置に配置可能に設け、前記一次覆工壁内面に薄厚の繊維強化プラスティック壁を形成可能にしたトンネル内壁の形成装置において、前記シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-の各回転軸心をトンネルの軸方向と直交方向に設け、該シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-をトンネルの軸方向に沿って移動可能にするとともに、前記押圧ロ-ラ-を前記一次覆工壁内面の円周方向に沿って所定角度旋回可能にしたことを特徴とするトンネル内壁の形成装置。
【請求項7】前記シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-とを垂直軸周りに旋回可能にした請求項6記載のトンネル内壁の形成装置。
【請求項8】前記押圧ロ-ラ-を、その回転軸方向と直交方向へ揺動可能で原位置に復帰回動可能に付勢した揺動ア-ムに設けた請求項6記載のトンネル内壁の形成装置。
【請求項9】前記押圧ロ-ラ-を複数設け、該ロ-ラ-の各回転軸を前記一次覆工壁内面の円周方向に沿って直列に設置し、各押圧ロ-ラ-を前記繊維強化プラスティックシ-トの幅方向に配置して押し当て可能にした請求項6記載のトンネル内壁の形成装置。
【請求項10】接着用樹脂とその硬化剤を吐出し、前記一次覆工壁内面に配置した繊維強化プラスティックシ-トの表面を転動可能な塗布ロ-ラ-を前記押圧ロ-ラ-の後方に設けた請求項6記載のトンネル内壁の形成装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は水路トンネルの繊維強化プラスティックシ-トによる二次覆工に好適で、前記プラスティックライニングによる流体摩擦と剥離作用を低下して、流量損失の低下を抑制し、耐久性を向上するとともに、従来の接着用樹脂の吹き付け法を廃し、作業環境と作業性を改善し、平滑で一様な厚さの二次覆工面を容易かつ速やかに得られるとともに、工期の短縮化と工費の低減ないし合理化を図れ、しかも簡単な構造で簡便に使用でき、設備の小規模化と低廉化を図れ、内空面積の小さなトンネルや急曲線施工にも対応できるようにした、トンネル内壁の形成方法およびその形成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にシールドトンネルは、シールド掘進後に一次覆工としてセグメントを組み立て、該セグメントの内面に一次覆工の補強や防水、内装を目的として、二次覆工に場所打ちコンクリートを巻き立てていた。
【0003】
しかし、この従来のシールドトンネルは施工および機能上、二次覆工のコンクリートを所定厚以上に施工しなければならず、そのため所定のトンネル内空を確保する必要上、上記厚さ分掘削断面が拡大して、シールド掘進が大掛かりになり、シールド掘進機の大形化や掘削土量の増大、セグメントの大口径化等を招いて、工期の長期化と工費の増大を助長するという問題があった。
【0004】
特に、上記問題は下水用トンネルの場合、汚水に含まれる硫化水素等に起因して、二次覆工コンクリートが腐食し、耐久性が低下するという問題があり、予ねてよりその改善が望まれていた。
【0005】
従来、このような問題を解決するものとして、例えば特開平8-21194号公報では、一次覆工用のセグメントの内面に接着剤を介して、二次覆工用のFRP板を接着しており、また特開平10-37690号公報では、一次覆工用のセグメントの内面に、FRPを形成する合成樹脂とその硬化剤を吹き付けて、薄厚のFRP層を形成していた。
【0006】
しかし、この従来の二次覆工法は、前者の場合、FRP板の製作とその接着作業を要して、型製作や成形機等に多大の設備費を要する上に、FRP板の貼り付けが煩雑で工期の長期化と工費の上昇を助長する問題があった。
【0007】
また、後者の場合、合成樹脂とその硬化剤を吹き付けているため、液剤の飛散によって作業環境が劣化するとともに、平滑な仕上り面が得難く、しかもFRP層をトンネルの円周方向に形成しているため、FRP層の接合部が流体摩擦を形成する上に、FRP層の剥離を助長して該層の耐久性が低下し、更に二次覆工設備として、ビームを有するクローラーと、ビームを移動可能な覆工装置とを要して大規模かつ高価になり、内空面積が小さいトンネルや曲率半径の小さなトンネルに対応できない等の問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような問題を解決し、水路トンネルの繊維強化プラスティックシ-トによる二次覆工に好適で、前記プラスティックライニングによる流体摩擦と剥離作用を低下して、流量損失の低下を抑制し、耐久性を向上するとともに、従来の接着用樹脂の吹き付け法を廃し、作業環境と作業性を改善し、平滑で一様な厚さの二次覆工面を容易かつ速やかに得られるとともに、工期の短縮化と工費の低減ないし合理化を図れ、しかも簡単な構造で簡便に使用でき、設備の小規模化と低廉化を図れ、内空面積の小さなトンネルや急曲線施工にも対応できるようにした、トンネル内壁の形成方法およびその形成装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1の発明は、トンネルの一次覆工壁内面に所定幅の繊維強化プラスティックシ-トを押し当てて押圧し、前記一次覆工壁内面の円周方向に複数の繊維強化プラスティックシ-トを隣接して配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に押圧ローラを押し当てて移動し、薄厚の繊維強化プラスティック壁をトンネルの軸方向に沿って形成するトンネル内壁の形成方法において、前記一次覆工壁内面に配置した複数の繊維強化プラスティックシートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動し、施工が容易で設備費を低減でき、工期の短縮化と工費の低減を図るとともに、例えば水路トンネルの場合、流体摩擦や剥離作用が低下し、前記繊維強化プラスティック壁の耐久性ないし寿命を向上するようにしている。
【0010】
請求項2の発明は、前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動するようにして、繊維強化プラスティックシ-トの取り扱いの容易化と、接着時の繊維強化プラスティックシ-トの表面側粘着面の保護を図れ、繊維強化プラスティックシ-トを容易かつ安全に一次覆工壁内面に接着するとともに、表面側の剥離シ-ト上に押圧ロ-ラを転動可能にして、一次覆工壁と繊維強化プラスティックシ-トとの間に混入した気泡を排除し、平滑な繊維強化プラスティック壁を形成するようにしている。
請求項3の発明は、前記剥離シ-トは透明で、表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動後、該表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トに紫外線または太陽光を照射して硬化させ、繊維強化プラスティックシ-トの表面側の粘着面を保護し、一次覆工壁内面に容易かつ安全に接着するとともに、一次覆工壁と繊維強化プラスティックシートとの間に混入した気泡を押し出し、前記繊維強化プラスティックシートを密着させて、繊維強化プラスティックシ-トの粘着面の硬化時におけるスチレンガスの放出や樹脂の飛散を防止して、作業環境の劣化を未然に防止し得るようにしている。
【0011】
請求項4の発明は、前記繊維強化プラスティックシ-トの硬化後、前記表面の剥離シ-トを剥離するようにして、繊維強化プラスティックシ-トの表面側の粘着面を保護し、一次覆工壁内面に容易かつ安全に接着するとともに、繊維強化プラスティックシ-トの粘着面の硬化時におけるスチレンガスの放出や樹脂の飛散を防止して、作業環境の劣化を未然に防止し得るようにしている。
請求項5の発明は、前記複数の繊維強化プラスティックシ-トを、一次覆工壁内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置し、前記各繊維強化プラスティックシ-トの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動するようにして、円形断面のトンネル内壁の形成に好適にするとともに、例えば水路トンネルの場合、トンネル内壁全域での流体摩擦と剥離作用の低下を図り、前記繊維強化プラスティックシート壁の耐久性ないし寿命の向上を図るようにしている。
【0012】
請求項6の発明は、所定幅の繊維強化プラスティックシ-トを捲回したシ-トロ-ルと、前記シ-トロ-ルから繰り出した前記繊維強化プラスティックシ-トをトンネルの一次覆工壁内面の軸方向に押し当てて押圧する押圧ロ-ラ-とを備え、前記シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-とを水平軸周りに旋回可能にし、前記一次覆工壁内面の円周方向の定位置に配置可能に設け、前記一次覆工壁内面に薄厚の繊維強化プラスティック壁を形成可能にしたトンネル内壁の形成装置において、前記シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-の各回転軸心をトンネルの軸方向と直交方向に設け、該シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-をトンネルの軸方向に沿って移動可能にするとともに、前記押圧ロ-ラ-を前記一次覆工壁内面の円周方向に沿って所定角度旋回可能にして、複数の繊維強化プラスティックシ-トをトンネルの軸方向に沿って確実に接着するとともに、これを円周方向に沿って隣接して配置し得るようにしている。
請求項7の発明は、前記シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-とを垂直軸周りに旋回可能にし、一次覆工壁の状況および作業条件に容易に応じられるようにしている。
【0013】
請求項8の発明は、前記押圧ロ-ラ-を、その回転軸方向と直交方向へ揺動可能で原位置に復帰回動可能に付勢した揺動ア-ムに設け、前記押圧ロ-ラ-によって繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁に密着させ、前記繊維強化プラスティックシ-トの接着を円滑かつ確実に行なえるようにしている。
請求項9の発明は、前記押圧ロ-ラ-を複数設け、該ロ-ラ-の各回転軸を前記一次覆工壁内面の円周方向に沿って直列に設置し、各押圧ロ-ラ-を前記繊維強化プラスティックシ-トの幅方向に配置して押し当て可能にし、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁の内面に円滑かつ確実に定着可能にしている。
請求項10の発明は、接着用樹脂とその硬化剤を吐出し、前記一次覆工壁内面に配置した繊維強化プラスティックシ-トの表面を転動可能な塗布ロ-ラ-を前記押圧ロ-ラ-の後方に設け、接着用樹脂とその硬化剤を別々に供給して吹き付ける従来の装置に比べ、構成が簡単で、液剤の飛散による作業環境の劣化を防止し得るようにしている。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を下水用の水路トンネルに適用した図示の実施形態について説明すると、図1乃至図7において1は円形断面のシールドトンネルで、掘削穴2の内面にセグメント3?7が一次覆工され、該セグメント3?7の内面に繊維強化プラスティックからなる極薄の二次覆工壁、実施形態では2?3mm厚の極薄のFRP(繊維強化プラスティック)層8が覆工されている。
【0019】
前記繊維強化プラスティック層8は、ガラス繊維製の不織布からなる繊維強化プラスティックシート9をセグメント3?7の内面に接着して形成され、この状況は図2のようである。
すなわち、セグメント3?7の内面を清掃し下地を処理後、当該表面に後述する不織布の定着を促すプライマ剤を塗布し、この後二次覆工資材供給装置10と塗布装置11とを前後してトンネル1内に搬入する。
【0020】
このうち、二次覆工資材供給装置10は図2,3のように、トンネル1内を移動可能な機台12と各一対の走行車輪13,14とを有し、その駆動側走行車輪13の車軸15にスプロケット16が固定されている。
一方、機台12上の一端部に軸受17を介して回動軸18が回転自在に支持され、該軸18の一端部に手漕ハンドル19の基端部が回動可能に連結されている。
【0021】
前記回動軸18にスプロケット20が固定され、該スプロケット20と前記スプロケット16との間にチェーン21が巻き掛けられ、前記ハンドル19の動力をスプロケット20,16およびチェーン21を介して、車軸15に伝達可能にしている。図中、22はブレーキレバーで、その起倒操作を介して前記動力の断続を可能にしている。
【0022】
機台12上の中央に支柱23が立設され、該支柱23の上端部にラックピニオン機構を駆使したロータリーブラケット24が設置されている。
前記ブラケット24は、操作ハンドル25を介して支柱23の円周上を所望角度回動可能に設けられ、該ブラケット24上にラックピニオン機構を駆使した軸継手26が設けられている。
【0023】
軸継手26は、旋回ハンドル27に連係する出力軸28を備え、該出力軸28は旋回ハンドル27の回動軸と直交配置されていて、該軸28に基枠29の中央部を固定している。
基枠29の両端部に一対のブラケット30が設けられ、該ブラケット30の先端部にシートロール31の管状の芯軸32が回転自在に支持されている。
【0024】
前記シートロール31は長尺の繊維強化プラスティックシート9を捲回してロール状に形成され、その表面から上記シート9を繰り出し可能にしている。
前記基枠29の両端部に主枠33,33の一端が固定され、該枠33の他端部に張出枠34が突設されている。
【0025】
張出枠34,34の先端部に、軸受35を介して支軸36が回動自在に支持され、該軸36に揺動アーム37が固定されている。
揺動アーム37の一側にスライドガイド38が設けられ、該ガイド38にスクリュシャフト39が摺動可能に嵌合している。
【0026】
スクリュシャフト39の先端部の螺軸部は、主枠33に固定したナット40にねじ込まれ、そのねじ込み量を調整ハンドル41で調整可能にしている。
調整ハンドル41は、その回動操作を介して揺動アーム37の起立角度を調整可能にされ、トンネル断面の大小および内面の曲率の変化に対応可能にしている。
【0027】
図中、42は揺動アーム37の一側と主枠33との間に掛け渡したリターンスプリングで、その弾性によって揺動アーム37を上向きに回動可能に付勢している。43,44は主枠33および揺動アーム37の先端部間に掛け渡した補強枠である。
【0028】
前記揺動アーム37の他側端部間にローラー取付枠45が掛け渡され、該枠45に複数組の支持脚46?48が取付けられている。
支持脚46?48の長さは、前記取付枠45の中央に向かって漸増し、その各一対の先端部間に同様な押圧ローラー49?51が回転自在に支持されている。
【0029】
押圧ローラー49?51は、各一対の支持脚46?48間に斜状または直角に配置され、それらの転動面をセグメント3?7の円周方向の内面に接触可能にしている。
【0030】
前記主枠33,33の中間部に架枠52が突設され、これらの先端部に一対のテンションローラー53が近接して配置され、該ローラ53の間に前記繊維強化プラスティックシート9を導き入れている。
図中、54はブラケット30の先端部に着脱可能に設けた支軸で、前記芯軸32に係合可能にされ、55は略コ字形状に枠組したウェイトで、その両端部を前記基枠29に固定している。
【0031】
一方、塗布装置11は走行車輪56を備えた架台57に、二次覆工用資材である液状の接着用樹脂、実施形態ではエポキシアクリレート樹脂収納タンク58と、上記樹脂の硬化を促す液状の硬化剤収納タンク(図示略)と、これらの圧送ポンプ(図示略)と、ミキサー59とが設けられ、これらの混合液を単一の圧送ホース60を介して、塗布ローラ61へ圧送可能にしている。
【0032】
上記圧送ホース60は少なくとも施工距離分、実施形態では10m以上の長さを有し、また塗布ローラ61は、上記ホース60に連通する芯軸周面に多数の噴口を備え、該噴口から前記混合液を吐出可能にしている。
【0033】
このように構成した本発明のトンネル内壁の形成装置は、二次覆工資材供給装置10と塗布装置11とを別々に構成したから、これらの装置を一体に構成した従来の装置に比べ構成が簡単で小形軽量であり、特別な駆動源を要せず手押し移動可能であり、その持ち運びや使用を容易に行なえ、水路用トンネルのような小形のトンネルや、急曲線トンネルの施工に対応できる。
【0034】
しかも、塗布装置11は、後述のように装置本体側で接着用樹脂とその硬化剤の二液を混合し、これを単一の圧送ホース60で塗布ローラ61へ圧送しているから、それぞれのホースで二液をローラーへ圧送し、これらを吹き付ける従来の装置に比べて、ホースや圧送ポンプを節減でき、構成の簡潔化と製作の低廉化を促せるとともに、接着用樹脂およびその硬化剤の飛散を防止し、良好な作業環境と平滑な二次覆工壁8を得られる。
【0035】
次に上記装置を用いてトンネル1を築造する場合、シールド掘削機を介して掘削穴2を掘削し、該穴2の内壁にセグメント3?7を組み立て、該セグメント3?7の表面を清掃し、凹凸部を補修する等して平滑に下地処理する。
この後、セグメント3?7の内面の一施工区間に亘ってプライマ剤を塗布し、その乾燥後に塗布装置11を搬入し、これを手押し操作で所定位置へ移動する。
【0036】
この場合、本発明は二次覆工をトンネル1の縦断方向、つまり軸方向に施工するから、一定の施工距離分セグメント3?7を軸方向へ巻き立てたところで、前記塗布装置11を搬入し、これをセグメント施工側の定位置に移動する。
【0037】
次に二次覆工資材供給装置10をトンネル1内に搬入する。
その際、上記装置10は、前述のように小形軽量であるから手押し移動でき、また他の移動手段として、例えば前記装置10に作業者が乗り込み、手漕ハンドル19を操作して、該ハンドル19を基端部を支点に上下方向へ往復角運動する。
【0038】
このようにすると、回動軸18が駆動回動し、これにスプロケット20が同動して、その回動力がチェーン21を介しスプロケット16に伝達され、スプロケット16と一体の車軸15が駆動し、車輪13が駆動して、二次覆工資材供給装置10が走行する。
【0039】
そして、二次覆工資材供給装置10を所定位置へ移動後、そのマット貼付け姿勢を調整する。
すなわち、操作ハンドル25を回動操作し、基枠29およびローラー取付枠45等を支柱23を中心に水平に旋回し、例えばブラケット30をトンネル1の軸方向と平行で、かつ機台12の端面と平行に正対させる。
【0040】
次に旋回ハンドル27を回動操作し、基枠29およびローラー取付枠45等を出力軸28を中心にトンネル1の円周方向に旋回し、その第1施工時はローラー取付枠45を略水平に設定し、押圧ローラー49?51をトンネル1の天端部に位置付ける。
この状況は図3,4のようで、押圧ローラー49?51がトンネル1の天端部の円周方向に沿って位置する。
【0041】
このような状況の下で支軸54,54間にシートロール31を取付け、該ロール31から繊維強化プラスティックシート9を繰り出し、その一端をテンションローラー53,53の間に導き、これを押圧ローラー49?51上に掛け渡すとともに、その所定長さを前記ローラー49?51の後方、つまり施工方向と反対方向へ引き出して置く。
【0042】
その際、揺動アーム37の上端部を支軸36を支点に、スプリング42の弾性に抗してシートロール31側へ押し倒し、押圧ローラー49?51と天端部との間に隙間を形成し、この隙間に前記補強繊維シート9を導き入れる。
【0043】
この場合、調整ハンドル41を回動操作し、ナット40に対しスクリューシャフト39のねじ込み量を加減すると、揺動アーム37の起立角度が変化し、押圧ローラー49?51の高さを調整できるから、繊維強化プラスティックシート9に対する押圧力や、トンネル1の断面形状の変化に多少の融通性を得られる。
【0044】
そして、この後揺動アーム37をスプリング42の弾性によって原状に復帰させ、繊維強化プラスティックシート9を押圧ローラー49?51を介して天端部に押し付ける。
この状況は図5のようで、前記繊維強化プラスティックシート9がその幅方向に亘って複数の押圧ローラー49?51で押し付けられ、かつ該ローラー49?51の外端面が、トンネル1の内面と略同形状に配置されているから、前記シート9を精密かつ均一に押圧し、その皺の発生を防止して平滑かつ良好な仕上がりを得られることになる。
【0045】
この後、押圧ローラー49?51から引き出した繊維強化プラスティックシート9を保持して天端部に沿わせ、その先端部を天端部の施工開始位置に押し当てる。
一方、前記搬入した塗布装置11の圧送ホース60を施工開始側へ引き伸ばし、塗布ローラ61を施工開始部の補強繊維シート9へ軽く押し付ける。
【0046】
このような状況の下で塗布装置11に装備した圧送ポンプ(図示略)を駆動し、積載した接着用樹脂とその硬化剤を混合して圧送ホース60へ圧送する。
このようにすると、接着用樹脂と硬化剤の混合液が塗布ローラー61から吐出し、これが前記繊維強化プラスティックシート9を浸透してセグメント3,4の内面に到達し、その後急速に硬化して乾燥し上記シート9を接着する。
【0047】
こうして、繊維強化プラスティックシート9の一端部を接着後、該シート9から手を放し、塗布ローラー61を前記接着位置から図2の矢視方向へ転動し、また二次覆工資材供給装置10を同方向へ手押しで移動して、上記シート9をセグメント3,4の内面に連続的に接着する。
【0048】
この場合、塗布ローラー61を可及的に二次覆工資材供給装置10と近接移動し、それらの間に位置する前記繊維強化プラスティックシート9の天端部からの撓みを防止することが望ましい。
また、本発明は混合液を塗布ローラー61から低速で吐出し、従来のように勢い良く吹き出していないから、それらの飛散による作業環境の劣化を防止し、作業環境を改善して二次覆工壁8を平滑に形成する。
【0049】
一方、上記のように二次覆工資材供給装置10を移動すると、押圧ローラー49?51が前記繊維強化プラスティックシート9の上端部を天端側に押し付けて転動し、これにより前記シート9が緊張してシートロール31が引き回され、該ロール31から前記移動分のシート9が繰り出される。
【0050】
そして、二次覆工資材供給装置10が施工距離移動したところで、前記繊維強化プラスティックシート9を切断し、その切断端部を塗布ローラ61を介して天端部の施工終端部に接着する。
こうして、天端部の施工区間の全域に前記繊維強化プラスティックシート9を接着後、圧送ポンプ(図示略)の駆動を停止し、塗布ローラ61を塗布装置11の原位置に戻し、二次覆工資材供給装置10を施工開始位置へ移動する。
【0051】
その際、調整ハンドル41を回動操作し、スクリューシャフト39のねじ込み量を減退し、揺動アーム37を前傾させ、押圧ローラー49?51を天端部から離間させて、前記ローラー49?51と二次覆工壁8との擦過を阻止する。
【0052】
そして、二次覆工資材供給装置10の移動後、前述と同じ要領で前記装置10のマット貼付け姿勢を調整する。
すなわち、操作ハンドル25を回動操作し、ローラー取付枠45および機枠29等を支柱23を中心に旋回し、二次覆工資材供給装置10を正対させる。
【0053】
また、操作ハンドル27を回動操作し、ローラー取付枠45および機枠29等を出力軸28を中心にトンネル1の円周方向に旋回し、ローラー取付枠45を略垂直に位置付け、各押圧ローラー49?51を天端部に形成した二次覆工壁8の一端に隣接するセグメント4?6に位置付ける。この状況は図6のようである。
【0054】
このような状況の下で前述と同様に、シートロール31から繊維強化プラスティックシート9を繰り出し、その一端をテンションローラ53,53の間に導き、これを押圧ローラー49?51上に掛け渡すとともに、その所定長さを前記ローラー49?51の後方、つまり施工方向と反対方向へ引き出し、これを側壁部に沿わせて、その先端部を側壁部の施工開始位置に押し当てる。
【0055】
次に塗布装置11の圧送ホース60を施工開始側へ引き伸ばし、塗布ローラー61を前記繊維強化プラスティックシート9の端部に軽く押し付ける。
このような状況の下で塗布装置11に装備した圧送ポンプ(図示略)を駆動し、積載した接着用樹脂と硬化剤を混合して圧送ホース60へ圧送し、これらを塗布ローラー61から吐出し、前記シート9をセグメント4?6の内面に接着する。
【0056】
こうして、繊維強化プラスティックシート9の一端部を接着後、該シート9から手を放し、塗布ローラー61を前記接着位置から図2の矢視方向へ転動し、また二次覆工資材供給装置10を塗布ローラー61と同方向へ略同速度で手押し移動し、前記シート9をセグメント4?6の内面に連続的に接着する。
【0057】
一方、上記のように二次覆工資材供給装置10を移動すると、押圧ローラー49?51が前記繊維強化プラスティックシート9の先端部を側壁側に押し付けて転動し、これにより前記シート9が緊張してシートロール31が引き回され、該ロール31から前記移動分の前記シート9が繰り出される。
【0058】
そして、二次覆工資材供給装置10が施工距離移動したところで、前記繊維強化プラスティックシート9を切断し、その切断端部を塗布ローラ61を介して側壁部の施工終端部に接着する。
こうして、側壁部の施工区間の全域に繊維強化プラスティックシート9を接着後、圧送ポンプ(図示略)の駆動を停止し、塗布ローラ61を塗布装置11の原位置に戻し、二次覆工資材供給装置10を施工開始位置へ移動する。
【0059】
前記装置10の移動後、前述と同じ要領で操作ハンドル25と旋回ハンドル27を回動操作し、上記装置10のマット貼付け姿勢を調整する。
【0060】
このうち、旋回ハンドル27を回動操作し、ローラー取付枠45および機枠29等を出力軸28を中心にトンネル1の円周方向に旋回し、ローラー取付枠45を略垂直に位置付け、各ローラー49?51を天端部に形成した二次覆工壁8の他端に隣接するセグメント4?6に位置付ける。この状況は図7のようである。
【0061】
このような状況の下で前述と同様に、シートロール31から繰り出した前記シート9をテンションローラ53を介して押圧ローラー49?51上に掛け渡し、その所定長さを前記ローラー49?51から引き出して側壁部に沿わせ、その先端部を側壁部の施工開始位置に押し当て、当該部に塗布ローラ61を軽く押し付ける。
【0062】
このような状況の下で塗布装置11に装備した圧送ポンプ(図示略)を駆動し、搭載した接着用樹脂と硬化剤を介し、前記シート9の先端部をセグメント4?6の内面に接着する。
この後、塗布ローラ61を矢視方向へ転動し、また二次覆工資材供給装置10を塗布ローラ61と同方向へ略同速度で手押し移動して、前記シート9をセグメント4?6の内面に連続的に接着する。
【0063】
そして、二次覆工資材供給装置10を施工距離移動し、側壁部の施工区間の全域に繊維強化プラスティックシート9を接着後、圧送ポンプ(図示略)の駆動を停止する。
【0064】
こうして、トンネル1の天端部と両側壁に二次覆工壁8を形成後、未覆工の底部を二次覆工する場合は、二次覆工資材供給装置10を施工区間外に搬出し、塗布ローラ61を塗布装置11の原位置に戻す。
【0065】
この場合、前述の覆工法では二次覆工壁8の形成毎に二次覆工資材供給装置10を施工開始側へ移動しているが、施工終端部で次期覆工を準備し、当該部を起点に前記装置10を施工開始側へ折り返し移動すれば、前記移動の煩雑や手間がなくなり、その分この種の覆工を迅速に行なえる。
【0066】
この後、シートロール31を用意し、これをトンネル1の底部の施工開始位置に位置付け、かつ施工方向へ転がして、上記ロール31から繊維強化プラスティックシート9を施工長分繰り出し、このシート9を切断後、その一端部を施工開始位置に押し当て、当該部に塗布ローラ61を軽く押し付ける。
【0067】
このような状況の下で塗布装置11に装備した圧送ポンプ(図示略)を駆動し、積載した接着用樹脂と硬化剤を塗布ローラ61へ供給し、繊維強化プラスティックシート9の先端部をセグメント6,7の内面に接着する。この後、塗布ローラ61を施工方向へ転動し、前記シート9をセグメント6,7の内面に連続的に接着する。
【0068】
こうして、トンネル1の底部の全域に繊維強化プラスティックシート9を接着し、トンネル1の施工区間全域の内面に二次覆工壁8を形成後、該覆工壁8の表面を平滑に仕上げれば、一連の二次覆工作業が終了する。
【0069】
この場合、二次覆工資材供給装置10の出力軸28を長尺に形成し、押圧ローラー49?51の旋回域を機台12の外側に配置し、前記ローラー49?51を出力軸28を中心に360°回動可能にすれば、前述のようにトンネル1の底部を二次覆工する場合の特別な工程を要せず、作業が単純化し合理化を図れる。
【0070】
こうして築造したトンネル1は、繊維強化プラスティックからなる極薄の二次覆工壁8を形成したから、所要のトンネル内空を得るに当たって、掘削穴2の小径化と掘削作業の簡易化、掘削設備の小能力化とセグメントの小径化、更に工期の短縮と工費の低減を図れる。
【0071】
また、本発明は二次覆工壁8を形成する繊維強化プラスティック層をトンネル1の縦断方向、つまり軸方向に形成しているから、これを円周方向に形成したものに比べて、流体摩擦係数ないし流体摩擦が小さく、流体の流量損失を低減できるとともに、二次覆工壁8における流体の剥離作用を防止し、トンネル1の耐久性を向上することができる。
しかも、本発明は液剤を塗布し、従来のように吹き付けていないから、平滑な二次覆工壁8が得られ、前記流体摩擦係数ないし流体摩擦の低下を促す。
【0072】
図8乃至図14は本発明の他の実施形態を示し、前述の実施形態と対応する構成部分に同一の符号を用いている。
これらの実施形態は前記繊維強化プラスティックシ-ト9として、ガラス繊維に紫外線硬化型の樹脂、例えば不飽和ポリエステル樹脂若しくはエポキシアクリレート樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂等を含浸した粘着性を有する、いわゆる紫外線硬化型繊維強化プラスティックプリプレグシート(以下、紫外線硬化型繊維強化プラスティックシートと呼ぶ)62を用い、これを施工条件に応じて巻き立て後または巻き立て前のセグメント3?7の内面に接着し、該繊維強化プラスティックシート62に紫外線を照射して硬化させている。
【0073】
前記紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62は施工条件に応じて適宜寸法のものを用い、その内外面に透明なフィルム状の剥離シ-ト63,64を接着して粘着面を密封し、常時はこれを暗室等に保管している。
【0074】
このうち、図8乃至図14は本発明の第2の実施形態を示し、この実施形態では掘削穴2の内面にセグメント3?7を巻きたて、このセグメント3?7の内面に紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を貼り付け、かつこれを硬化させている。
【0075】
図中、65はセグメント3?7の内面に塗布したプライマー等の下地処理剤、66は紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62の接着時に使用する押圧ローラ、67,68はセグメント3?7の内面に形成した凹部であるボルトボックスと注入孔で、これらにモルタル等の充填部材69を填充している。
【0076】
70はセグメント3?7の内面の周囲に形成した凹部である継手溝で、該溝70にコーキング材(図示略)が充填される。71はエアーガン、72はトンネル1内に搬入した紫外線照射装置で、キャスタ73を備えた架台74に略半円形断面のロータリー枠75を回転自在に支持し、該枠75に複数の直管状の紫外線ランプ76をトンネル1の軸方向に配置している。
【0077】
すなわち、この実施形態は図8のように掘削穴2内の一定区間にセグメント3?7を巻き立て、セグメント3?7の表面、ボルトボックス67、注入孔68、継手溝70にエアーガン71を吹き付け、それらを清浄する。この状況は図9のようである。
この後、図10のようにボルトボックス67、注入孔68にモルタル69を充填し、継手溝70にコーキング部材(図示略)を装着して、それらを穴埋め後、セグメント3?7の表面に下地処理剤65を塗布し、密着性の良い平滑な下地を形成する。
【0078】
次に所定長さの紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を用意し、これをトンネル1の天端部に軸方向に沿って保持し、その一方の剥離シート64を引き剥がし、露出した前記シート62の粘着面をセグメント3?7の表面に押し当てて貼り付ける。
その際、押圧ローラ66を別の剥離シート63上に押し当てて移動し、前記シート62と下地処理剤65との間に混入した気泡を押し出し、前記シート62を密着させるとともに、隣接の紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62と平行かつ近接して貼り付ける。この状況は図11および図12のようである。
【0079】
このように紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62の貼付けは、剥離シート64を引き剥がし、下地処理剤65へ貼り付ける簡単な作業で、特別な設備や工具を要せず、前述のように補強繊維シートをセグメントに押し当て、その表面を塗布ローラで接着剤等を塗布する煩雑な作業から解消され、これを迅速に行なえる。
【0080】
また、紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62は、保有する粘着力で略瞬時にセグメントに接着されるから、硬化剤に促進剤を添加して接着剤を作成し、かつ接着剤の接着効果に一定の時間を要する従来の施工法に比べて、合理的で作業能率が良く、従来のように一定の接着強度を得る間、前記シートを支え持つ不合理やその労力の負担を解消し、しかもその際の不自然な作業姿勢を強いられることが無い。
【0081】
こうして、トンネル1の略上半部周面に紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を貼付けたところで、当該施工現場に紫外線照射装置72を搬入し、そのロータリー枠75を上向きに設定して、紫外線ランプ76をONする。
【0082】
このようにすると、各ランプ76から紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62に向けて紫外線が照射され、これが透明な剥離シート63を透過して前記シート62に進入し、その内部に添加した光硬化開始剤の反応を促して、前記シート62が表面から急速に硬化し始め、トンネル1の略上半部周面に前記繊維強化プラスティック層8と同質の極薄(2.5mm)の二次覆工壁が形成される。剥離シート63は紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62の硬化後、引き剥がされる。
【0083】
その際、紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62が非常に速く硬化し、またその表面を剥離シート63が被覆しているため、前記硬化時にスチレンが殆ど放出されず、樹脂の飛散もないから、作業環境が良好に保たれる。
【0084】
また、紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62は温度の高低に関係なく硬化するため、施工場所の温度管理が容易で作業条件を容易に設定でき、前記シート62の保管も容易になる。
更に、前記紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62は、前述の紫外線硬化型繊維強化プラスティック単体で組成され、いわゆる一液性であるから、余った樹脂を再び使用でき、材料の無駄がなく経済的である。
【0085】
こうして形成した二次覆工壁は、紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62によって一様な厚さを得られるから、繊維強化プラスティックシートに接着剤を塗布して形成する前述の二次覆工壁に比べて、壁厚の管理が容易で合理的に行なえるとともに、平滑な仕上り面を得られ、流水抵抗の低減を図れる。
【0086】
そして、前記二次覆工壁形成後、紫外線照射装置72を施工現場から移動し、トンネル1の下部周面に紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を前述と同じ要領で貼り付ける。
この後、当該施工現場に紫外線照射装置72を移動し、そのロータリー枠75を下向きに設定し、紫外線ランプ76をONして、紫外線を前記シート62に照射する。この結果、前記シート62が硬化し、トンネル1の略下半部周面に前記繊維強化プラスティック層8と同質の極薄の二次覆工壁が形成される。この状況は図12のようである。
【0087】
この後、隣接する紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62の間に帯状の紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を重合して貼り付け、これに紫外線照射装置72を介して紫外線を照射し、前記シート62を硬化して一様な二次覆工壁面を形成する。
【0088】
このように、この実施形態はセグメント3?7を組み立て後、該セグメント3?7の凹部を充填して平坦面に形成し、紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を施工現場で一括して貼り付けるようにしたから、前記貼付け作業を合理的かつ速やかに行なえ、前記シート62を無駄なく使用できるとともに、平滑な二次覆工壁面を得られる。
【0089】
図15乃至図19は本発明を応用した別の形態を示し、この応用形態ではセグメント3?7の組み立て前に予め紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を接着し、これを施工現場に搬入して巻き立てている。
すなわち、工場等でセグメント3?7の内面を図16のようにエアーガン71を介して掃除し、その表面に下地処理剤65を塗布し、この処理剤65上に前述の要領で紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を貼り付ける。この状況は図17のようである。
【0090】
その際、前記紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を剥離シート63,64と一緒に各セグメント3?7の形状寸法に裁断し、かつボルトボックス67、注入孔68の対応位置を剥離シート63,64と一緒に刳り貫いて置くことが望ましい。
この後、前記紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62に紫外線ランプ(図示略)または太陽光を介して紫外線を照射し、該シート62を硬化させる。
前記硬化後、剥離シート63を接着して置き、セグメント3?7の運搬や組み立て時に前記シート62の硬化面が損傷する事態を未然に防止することが望ましい。
【0091】
次に前記セグメント3?7を施工現場へ運搬し、これらを巻き立てる。
この場合、前述のように紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62や剥離シート63のボルトボックス67および注入孔68の対応位置が刳り貫かれているから、セグメント3?7の組み立て作業が可能になる。
【0092】
この後、図18のようにボルトボックス67、注入孔68にモルタル69を充填し、継手溝70にコーキング部材(図示略)を装着し、それらを穴埋めしたところで、モルタル69の表面に下地処理剤65を塗布し、当該部に例えば前記刳り貫いた各紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を貼り付ける。
そして、これらのシート62に前記紫外線照射装置72を介して紫外線を照射し、前記シート62を硬化させて二次覆工壁面を形成する。
【0093】
この後、隣接する紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62間に、適宜形状の紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を重合して貼り付け、これに紫外線照射装置72を介して紫外線を照射し、前記シート62を硬化して一様な二次覆工壁面を形成する。
【0094】
このように、応用形態はセグメント3?7の組み立て前に、紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62を貼り付け、二次覆工壁を形成するようにしたから、前記シート62の取り付けの生産性の向上と、二次覆工壁作製の合理化を図れ、ボルトボックス67削減タイプのセグメント3?7に適用すれば、前述の効果が一層増進し好適である。
また、この応用形態は施工現場での紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート62の貼り付け作業を大幅に割愛できるから、十分な作業スペースを得られない狭小なトンネル1の施工条件に好適である。
【0095】
なお、以上の実施形態および応用形態は新設のトンネルの施工に適用しているが、これに限らず例えば既設トンネルの補修ないしトンネル内コンクリ-ト壁の剥落防止、トンネルの耐震補強、スチールセグメントの防食、防錆に適用することも可能である。
【0096】
【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明は、前記一次覆工壁内面に配置した複数の繊維強化プラスティックシートの円周方向に沿う端面を互いに近接して対向配置し、前記繊維強化プラスティックシートの表面に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動するから、施工が容易で設備費を低減でき、工期の短縮化と工費の低減を図れるとともに、例えば水路トンネルの場合、流体摩擦や剥離作用が低下し、前記繊維強化プラスティック壁の耐久性ないし寿命を向上することができる。
【0097】
請求項2の発明は、前記繊維強化プラスティックシ-トは、表裏両面に粘着面を有し、該粘着面に剥離シ-トを接着した紫外線硬化型繊維強化プラスティックシ-トであって、前記裏面の剥離シ-トを剥離し、かつ表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁内面に押し当てて接着し、前記表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動するから、繊維強化プラスティックシ-トの取り扱いの容易化と、接着時の繊維強化プラスティックシ-トの表面側粘着面の保護を図れ、繊維強化プラスティックシ-トを容易かつ安全に一次覆工壁内面に接着できるとともに、表面側の剥離シ-ト上に押圧ロ-ラを転動可能にして、一次覆工壁と繊維強化プラスティックシ-トとの間に混入した気泡を排除し、平滑な繊維強化プラスティック壁を形成することができる。
請求項3の発明は、前記剥離シ-トは透明で、表面の剥離シート上に押圧ローラを押し当てて移動後、該表面の剥離シ-トを接着したまま、前記繊維強化プラスティックシ-トに紫外線または太陽光を照射して硬化させるから、繊維強化プラスティックシ-トの表面側の粘着面を保護し、一次覆工壁内面に容易かつ安全に接着できるとともに、一次覆工壁と繊維強化プラスティックシートとの間に混入した気泡を押し出し、前記繊維強化プラスティックシートを密着させて、繊維強化プラスティックシ-トの粘着面の硬化時におけるスチレンガスの放出や樹脂の飛散を防止して、作業環境の劣化を未然に防止することができる。
【0098】
請求項4の発明は、前記繊維強化プラスティックシ-トの硬化後、前記表面の剥離シ-トを剥離するようにしたから、繊維強化プラスティックシ-トの表面側の粘着面を保護し、一次覆工壁内面に容易かつ安全に接着するとともに、繊維強化プラスティックシ-トの粘着面の硬化時におけるスチレンガスの放出や樹脂の飛散を防止して、作業環境の劣化を未然に防止することができる。
請求項5の発明は、前記複数の繊維強化プラスティックシ-トを、一次覆工壁内面の円周方向の全域に亘って隣接して配置し、前記各繊維強化プラスティックシ-トの表面の略全域に前記押圧ローラを押し当ててトンネルの軸方向に移動するようにして、円形断面のトンネル内壁の形成に好適にするとともに、例えば水路トンネルの場合、トンネル内壁全域での流体摩擦と剥離作用の低下を図り、前記繊維強化プラスティックシート壁の耐久性ないし寿命の向上を図ることができる。
【0099】
請求項6の発明は、シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-の各回転軸心をトンネルの軸方向と直交方向に設け、該シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-をトンネルの軸方向に沿って移動可能にするとともに、前記押圧ロ-ラ-を前記一次覆工壁内面の円周方向に沿って所定角度旋回可能にしたから、複数の繊維強化プラスティックシ-トをトンネルの軸方向に沿って確実に接着できるとともに、これを円周方向に隣接して配置することができる。
請求項7の発明は、前記シ-トロ-ルと押圧ロ-ラ-とを垂直軸周りに旋回可能にしたから、一次覆工壁の状況および作業条件に容易に応じられる効果がある。
【0100】
請求項8の発明は、前記押圧ロ-ラ-を、その回転軸方向と直交方向へ揺動可能で原位置に復帰回動可能に付勢した揺動ア-ムに設けたから、前記押圧ロ-ラ-によって繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁に密着させ、前記繊維強化プラスティックシ-トの接着を円滑かつ確実に行なうことができる。
請求項9の発明は、前記押圧ロ-ラ-を複数設け、該ロ-ラ-の各回転軸を前記一次覆工壁内面の円周方向に沿って直列に設置し、各押圧ロ-ラ-を前記繊維強化プラスティックシ-トの幅方向に配置して押し当て可能にしたから、前記繊維強化プラスティックシ-トを一次覆工壁の内面に円滑かつ確実に定着することができる。
請求項10の発明は、接着用樹脂とその硬化剤を吐出し、前記一次覆工壁内面に配置した繊維強化プラスティックシ-トの表面を転動可能な塗布ロ-ラ-を前記押圧ロ-ラ-の後方に設けたから、接着用樹脂とその硬化剤を別々に供給して吹き付ける従来の装置に比べ、構成が簡単で、液剤の飛散による作業環境の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明により築造したトンネルの実施形態を示す断面図である。
【図2】
本発明による二次覆工壁の覆工状況を示す正面図である。
【図3】
本発明に適用した二次覆工資材供給装置の一例を示す正面図である。
【図4】
図3の側面図である。
【図5】
本発明による二次覆工壁の覆工状況を示す断面図で、その初期の施工状態を示している。
【図6】
本発明による二次覆工壁の覆工状況を示す断面図で、図5の後の施工状態を示している。
【図7】
本発明による二次覆工壁の覆工状況を示す断面図で、図6の後の施工状態を示している。
【図8】
本発明の第2の実施形態を示す断面図で、一次覆工壁の内面に紫外線硬化型繊維強化プラスティックシートによる二次覆工壁を施工した状況を示している。
【図9】
前記第2の実施形態の施工途中の状況を示す斜視図で、巻き立てたセグメントの内面をエアーガンで掃除している。
【図10】
前記第2の実施形態の施工途中の状況を示す斜視図で、巻き立てたセグメントの内面の各凹部に充填部材を填充している。
【図11】
前記第2の実施形態の施工途中の状況を示す斜視図で、セグメントの内面に塗布した下地処理剤に紫外線硬化型繊維強化プラスティックプリプレグシートを貼り付けている。
【図12】
前記第2の実施形態の施工途中の状況を示す断面図で、セグメントの内面に塗布した下地処理剤に紫外線硬化型繊維強化プラスティックプリプレグシートを貼り付けている。
【図13】
前記第2の実施形態の施工途中の状況を示す断面図で、セグメントの内面上半部周面に貼り付けた紫外線硬化型繊維強化プラスティックプリプレグシートに、紫外線照射装置を介して紫外線を照射している。
【図14】
前記第2の実施形態の施工途中の状況を示す断面図で、セグメントの内面下半部周面に貼り付けた紫外線硬化型繊維強化プラスティックプリプレグシートに、紫外線照射装置を介して紫外線を照射している。
【図15】
本発明の応用形態を示す断面図で、一次覆工壁の内面に紫外線硬化型繊維強化プラスティックプリプレグシートによる二次覆工壁を施工した状況を示している。
【図16】
前記応用形態の施工途中の状況を示す斜視図で、巻き立て前のセグメントの内面をエアーガンで掃除している。
【図17】
前記応用形態の施工途中の状況を示す斜視図で、巻き立て前のセグメントの内面に各凹部の対応位置を刳り貫いて、紫外線硬化型繊維強化プラスティックプリプレグシートを貼り付けている。
【図18】
前記応用形態の施工途中の状況を示す斜視図で、巻き立てたセグメントの内面の各凹部に充填部材を填充している。
【図19】
前記応用形態の施工途中の状況を示す斜視図で、前記充填部材の填充後、当該部に紫外線硬化型繊維強化プラスティックプリプレグシートを貼り付けている。
【符号の説明】
1 トンネル
3?7 一次覆工壁(セグメント)
8 二次覆工壁
9 繊維強化プラスティックシ-ト
31 シートロール
49?51,66 押圧ローラー
61 塗布ローラー
62 紫外線硬化型繊維強化プラスティックシート(二次覆工壁)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-12-28 
結審通知日 2007-01-11 
審決日 2007-01-25 
出願番号 特願平11-223193
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (E21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 峰 祐治  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 西田 秀彦
柴田 和雄
登録日 2005-06-03 
登録番号 特許第3682760号(P3682760)
発明の名称 トンネル内壁の形成方法およびその形成装置  
代理人 志賀 正武  
代理人 青山 正和  
代理人 千明 武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 高橋 詔男  

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