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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
管理番号 1156275
審判番号 不服2005-1755  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-02 
確定日 2007-04-19 
事件の表示 平成 7年特許願第 66275号「電力ケーブルの使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月11日出願公開、特開平 8-264044〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.本願発明
本願は、平成7年3月24日の出願であって、その発明は、当審における平成18年11月15日付け拒絶理由通知に対してされた平成19年1月22日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。
「金属シースが鉛又は鉛合金からなる電力ケーブルの使用方法において、前記金属シースは、ケーブルの長手方向に成分濃度を変化させて、陸揚げ部、マンホール内又はケーブルが埋設されていない海底に敷設される第1の部分が、Sn、Sb、Cd及びCuからなる群から選択された1種の金属が0.05乃至2.0質量%添加された鉛合金により形成され、陸揚げ部、マンホール内及びケーブルが埋設されていない海底以外の場所に敷設される第2の部分が、鉛、又は前記選択された1種の金属の含有量が前記第1の部分の金属シースよりも少ない鉛合金により形成されたものを使用することを特徴とする電力ケーブルの使用方法。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

II.当審の拒絶理由の概要
当審における拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された次の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
<引用刊行物>
1.実願昭54-93106号(実開昭56-12431号)のマイクロフィルム
2.「JIS使い方シリーズ 非鉄金属材料選択のポイント」日本規格協会(1984)第220,221頁
3.特開平5-277547号公報
4.特開昭61-124003号公報
(以下、それぞれ「刊行物1」?「刊行物4」という。)

III.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
「海底ケーブルの金属シースとしては耐海水性、接続可能なこと及び可撓性等の要求から通常鉛被が使用される。長尺海底ケーブルの場合はあらかじめ単位長毎に製造した鉛被ケーブルを工場内で接続する必要があり、又一度布設されたケーブルでもケーブルの修理が必要な際接続の必要が生ずる。」(明細書第2頁第12?17行)

(2)刊行物2
(2-ア)「(b)Cuを0.07%程度含有すると化学用Pbとして使用されるほか,クリープ限を改善し結晶粒は微細化する.
・・・
(d)SbはPbへの添加元素として使用され,硬さは改善されるが,伸びは添加量が多くなると低下する.・・・
(e)SnをPbへ添加すると機械的性質及び硬さは向上するが,耐食性は低下する.」(第220頁第14?21行)
(2-イ)「純鉛では機械的性質が劣るためAs,Ca及びSbを添加した合金が使用され,用途別から分類するとケーブル被覆・・・などがある.ケーブル被覆として,わが国では,1962年以降,耐疲れ性を考慮してE合金(Pb-0.4%Sn-0.2%Sb)が使用されてきた.」(第221頁第9?13行)

(3)刊行物3
「電力ケーブル用の合金鉛としては、例えばCu+Te合金、1/2C合金(Cd+Snを含むもの)及びE合金(Sb+Snを含むもの)等があり、それぞれの機械的強度により使い分けられている。」(【0002】)

(4)刊行物4
(4-ア)「ケーブルの布設、回収および使用の少なくともいずれか一つの工程において、ケーブルに作用する機械的な力に耐える外装の能力について多様な要求を有するケーブルルートに沿って布設するための外装を有する電力用海底ケーブルであって、ケーブルがルートの特定の部分において重量のある金属ワイヤ(10、20)からなる一層以上の重量外装を有し、ルートの他の部分において一層以上の軽量外装(11、21)を有し、かつ一つの型の外装から他の型の外装への渡りは、ケーブルのスチフネスおよび可撓性の変化を緩かにしかつ制御するように作ってあり、二つの異なる型の外装の間の結合部が物理的に相対的にコンパクトであることを特徴とする外装を有する電力用海底ケーブル。」(特許請求の範囲第1項)
(4-イ)「このような機械的衝撃がおきる区域でケーブルが被る損害を最小にするために、・・・経済的な解決方法としては、重量外装を施して、ケーブル自身を保護する。このケーブルは主として底引漁業とか投錨による損傷を防ぐ。経験によればこのような衝撃を防ぐには交差外装が極めて有効である。漁業が行なわれず、また投錨の恐れのない区域では外装を軽減して、ケーブルを軽量かつ安価にすることができる。」(第3頁左上欄第20行?同頁右上欄第10行)

IV.当審の判断
1.刊行物1発明の認定
刊行物1の上記摘示の記載によると、海底ケーブルは、通常、金属シースが鉛からなる鉛被ケーブルであるから、刊行物1には、「金属シースが鉛からなる海底ケーブルの使用方法において、前記金属シースは、鉛により形成されたものを使用する海底ケーブルの使用方法」の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「刊行物1発明」という。)。

2.対比
本願発明(前者)と、刊行物1発明(後者)とを対比すると、前者の金属シースの第1の部分を形成する「鉛合金」、第2の部分を形成する「鉛」又は「鉛合金」と、後者の金属シースを形成する「鉛」とは、上位概念で「鉛系金属」といえるから、両者は、「金属シースが鉛又は鉛合金からなるケーブルの使用方法において、前記金属シースは、鉛系金属により形成されたものを使用するケーブルの使用方法。」である点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:前者は、ケーブルが「電力ケーブル」として使用されるのに対して、後者は、電力ケーブルとして使用されるのかどうか不明である点
相違点2:前者は、金属シースが「ケーブルの長手方向に成分濃度を変化させて」なるものであり、「陸揚げ部、マンホール内又はケーブルが埋設されていない海底に敷設される第1の部分がSn、Sb、Cd及びCuからなる群から選択された1種の金属が0.05乃至2.0質量%添加された鉛合金により形成され、陸揚げ部、マンホール内及びケーブルが埋設されていない海底以外の場所に敷設される第2の部分が、鉛、又は前記選択された1種の金属の含有量が前記第1の部分の金属シースよりも少ない鉛合金により形成された」ものであるのに対して、後者は、金属シースがケーブルの長手方向に成分濃度を変化させてなるものではなく、鉛により形成されたものである点

3.判断
(1)相違点1について
刊行物4(4-ア)に記載されるように、「海底ケーブル」を「電力ケーブル」として使用することは周知・慣用の事項であるから、刊行物1発明の海底ケーブルを「電力ケーブル」として使用することは、当業者が容易に想到し得る事項である。

(2)相違点2について
刊行物4には、「ケーブルの布設、回収および使用の少なくともいずれか一つの工程において、ケーブルに作用する機械的な力に耐える外装の能力について多様な要求を有するケーブルルートに沿って布設するための外装を有する電力用海底ケーブル」(4-ア)であって、「底引漁業とか投錨」が行われる「機械的衝撃がおきる区域」では、ケーブルが被る損害を最小にするために「重量外装」を施してケーブルを保護し、「漁業が行われず、また投錨の恐れのない区域」では、「軽量外装」として軽量かつ安価にすることが記載されているから(4-イ)、上記の記載によると、海底ケーブルにおいて、「機械的衝撃が起きる区域」に敷設する部分を、それ以外の区域に敷設する部分よりも機械的強度の大きい構成とすることにより機械的衝撃からケーブルを保護することは、公知の事項であるといえる。
また、刊行物2には、鉛にCu(0.07%程度)、Sb、Snの1種の金属、又は0.4%Sn-0.2%Sbの2種の金属を添加することにより、純鉛より機械的強度の向上した鉛合金が得られ、ケーブル被覆に用いられることが記載されており、刊行物3には、電力ケーブル用の合金鉛が例示され、それぞれの機械的強度により使い分けられることが記載されているから、これらの記載から、鉛にCu、Sb、Sn等の金属の1種又は2種を0.07?0.4%程度添加した鉛合金をシース材料とすると、より機械的強度に優れるケーブルとなること、所望の機械的強度に応じてケーブルのシース材料を選択して用いることは、刊行物2,3に記載された公知の事項である。
一方、海底ケーブルは、陸揚げ部から海底を通って陸揚げ部まで敷設されるものであり、海底ケーブルは、外傷を防止するために通常は海底に埋設されるが(特開平6-17970号公報【0002】参照)、海底の状況によっては埋設できない場合もあることが周知であり(特開平5-144327号公報【0002】参照)、その場合、海底から角度を持って引き上げる陸揚げ部や、底引漁業や投錨の影響を直接に受ける海底に埋設できない部分は、それ以外の部分よりも「機械的衝撃が起きる区域」であることが明らかである。
そうすると、刊行物1発明に係る海底ケーブルにおいて、「陸揚げ部やケーブルが埋設されていない海底」に敷設される部分を、上記区域以外に敷設される部分よりも機械的強度の大きい構成として外傷から保護しようとすることは、刊行物4記載の公知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることであるし、ケーブルの機械的強度は、シース材料である鉛にCu、Sb、Sn等の金属の1種又は2種を0.07?0.4%程度添加することにより増強することができること、所望の機械的強度に応じてケーブルのシース材料を選択して用いることは刊行物2,3に記載された公知の事項であるから、上記海底ケーブルの「陸揚げ部やケーブルが埋設されていない海底」に敷設される部分の金属シースを、鉛より機械的強度の大きいCu、Sb、Snからなる群から選択された1種の金属を0.07?0.4%程度添加した鉛合金とし、結果として、この区域以外に敷設されるケーブル部分の金属シースである鉛とは長手方向に成分濃度を変化させたものとすることも、刊行物2,3に記載された公知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことといえる。

V.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2?4に記載された事項、及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-15 
結審通知日 2007-02-20 
審決日 2007-03-06 
出願番号 特願平7-66275
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 孔一冨士 美香  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 長者 義久
高木 康晴
発明の名称 電力ケーブルの使用方法  
代理人 藤巻 正憲  

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