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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1156470
審判番号 不服2005-21575  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-09 
確定日 2007-04-27 
事件の表示 平成 7年特許願第 63561号「3相永久磁石式回転電機」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 9月17日出願公開、特開平 8-242572〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成7年2月28日の出願であって、平成17年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年11月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成17年12月8日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成17年12月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年12月8日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「円板部とこの円板部の外周に一体に形成され直角方向に等ピッチで折り曲げた3n本の磁極とを磁性体で形成した固定子鉄心、及び前記磁極の1個おきに嵌合した所定幅に形成した3n/2本の励磁用巻線を備え、前記励磁用巻線が嵌合した固定子磁極と、励磁用巻線を嵌合せずに隣接する磁極に嵌合した励磁用巻線によって励磁される固定子磁極とが交互に配置された固定子と、
前記磁極の励磁用巻線より先端部で対向し所定間隙を設けて回転方向に所定対数のN極とS極を交互に配置した永久磁石により形成した回転子とを備えたことを特徴とする3相永久磁石式回転電機(但し、nは2以上の偶数とする)。」
と補正された。

2.本件請求項1についての補正事項
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「励磁用巻線」について、磁極の1個おきに「嵌合した」及び「3n/2本の」との限定、並びに「固定子」について、「交互に配置された」との限定を付加するとともに、「固定鉄心において、」との記載を「固定鉄心、及び」と、「励磁用巻線を嵌合した」との記載を「励磁用巻線を備え、前記励磁用巻線が嵌合した」と、「前記磁極の1個おきに励磁用巻線」との記載を「励磁用巻線」と、「嵌合しないで前記隣接する」との記載を「嵌合せずに隣接する」と、「励磁されるようにした」との記載が「励磁される」と補正するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮及び第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、即ち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて、以下検討する。

3.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開昭49-46112号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、「小径小型モータ」と題して、図面とともに次の事項が記載されている。
・ 「1は永久磁石から成るロータ、2は永久磁石1に対向しロータ軸6に平行な磁極部、3は磁極部2の延長上にあつて巻線4を有する第1継鉄部、5は複数の第1継鉄部を磁気的に結合する第2継鉄部を示す。巻線4による起電力は、磁極→空隙→ロータ→空隙→他磁極→第1継鉄部→第2継鉄部→第1継鉄部を経て磁路7を形成する。磁路7は磁性材にてロータ軸6に平行な部分と垂直部分にて構成され、しかも最短になる様に考慮されている。ロータ軸6に同期して回転する検出手段(図示されていない)によって検出された信号は、予め定められた順序に従つて巻線4に増巾された電力が印加される。巻線4による磁路7とロータ1の磁束が作用し合つてロータは設定方向に回転し、検出手段の信号の順序に従つた巻線Aの通電により回転を持続する。」(2頁左上欄3ないし16行)
・ 「巻線4はロータ1の対向部外にある第1継鉄部に挿入されている為、巻線の占積は大きく、起磁力の増大によりロータの立ち上り特性を良好にしている。」(2頁右上欄5ないし7行)
・ また、第1図及び第2図には、第2継鉄部と、該第2継鉄部に直角方向に等ピッチで接続された3本の第1継鉄部と、所定幅に形成された3本の巻線とからなるステータ、及び磁極部と所定空隙を設けて配置された永久磁石からなるロータが示されている。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「第2継鉄部とこの第2継鉄部に直角方向に等ピッチで接続された3本の延長上に磁極部がある第1継鉄部とを磁性材で形成した継鉄部、及び前記第1継鉄部のすべてに挿入された所定幅に形成した3本の巻線を備え、前記巻線が挿入された前記第1継鉄部が等ピッチに配置されたステータと、
前記巻線が挿入された前記第1継鉄部の延長上にある磁極部で対向し所定空隙を設けて配置した永久磁石からなるロータとを備えた小径小型モータ。」

(2) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-200259号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、「吸引・反発型電動機」と題して、図面とともに次の事項が記載されている。
・ 「本発明は、従来のステッピングモーター、同期型サーボモーター、リニヤモーター等をブラシ化することで、価格低減・小型化が可能であって、且つ極微速から高速まで小さい電磁石で多数の電極片を形成可能であって、各種速度・精度の電動機を得る吸引・反発型電動機に間するものである。」(1頁右下欄9ないし14行)
・ 「第1実施例について第1図及び第2図を参考に説明すると、第1図において、・・・5はコイル、6,7はそのコイル5によって励磁されるところの互いに極性の異なる磁極片であって、固定子を構成する。11は永久磁石よりなる回転子である。」(2頁左下欄13ないし16行)
・ 「・・・第11図は3相の磁石片例を示し、・・・」(3頁左上欄10ないし11行。なお、「磁石片」は「磁極片」の誤記と認める。)
・ また、第1、2及び11図には、板部材の外周に一体に形成され直角方向に折り曲げた磁極片により固定子を構成する点が示されている。

(3) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願平4-52566号(実開平6-17378号)のCD-ROM(以下「引用刊行物3」という。)には、「PM型ステップモータ」と題して、図面とともに次の事項が記載されている。
・ 「【0044】
図5は本考案に係るPM型ステップモータの第2実施例を示すものであり、本実施例においては、回転子3に8つの磁極5が形成され、固定子4に6つの誘導磁極6が形成されている。そして、6つの誘導磁極6の1極おき(ひとつおき)に巻線10a,10b,10cが施されており、AA,BB,CCの3相が形成されたている。」
・ また、図5には、回転方向に4対のN極とS極とを交互に配置した永久磁石により形成した回転子が示されている。

4. 対比
(1) 本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下の事項が明らかである。
(ア) 後者の「第2継鉄部」は、その機能・作用からみて、前者の「円板部」に相当し、以下同様に、「延長上に磁極部がある第1継鉄部」は「磁極」に、「磁性材」は「磁性体」に、「継鉄部」は「固定子鉄心」に、それぞれ相当する。すると、後者の「第2継鉄部に直角方向に等ピッチで接続された3本の延長上に磁極部がある第1継鉄部」と、前者の「円板部の外周に一体に形成され直角方向に等ピッチで折り曲げた3n本の磁極」とは、「円板部に直角方向に等ピッチで設けられた複数本の磁極」との概念で共通する。
(イ) 後者の「巻線」は、その機能・作用からみて、前者の「励磁用巻線」に相当する。すると、後者の「第1継鉄部のすべてに挿入された所定幅に形成した3本の巻線」と、前者の「磁極の1個おきに嵌合した所定幅に形成した3n/2本の励磁用巻線」とは、少なくとも「磁極に嵌合した所定幅に形成した複数本の励磁用巻線」との概念で共通する。
(ウ) 後者の「巻線が挿入された第1継鉄部が等ピッチに配置された」態様と、前者の「励磁用巻線が嵌合した固定子磁極と、励磁用巻線を嵌合せずに隣接する磁極に嵌合した励磁用巻線によって励磁される固定子磁極とが交互に配置された」態様とは、少なくとも「励磁用巻線が嵌合した固定子磁極が等ピッチに配置された」との概念で共通する。
(エ) 後者の「巻線が挿入された第1継鉄部の延長上にある磁極部で対向し」は、前者の「磁極の励磁用巻線より先端部で対向し」に相当し、以下同様に、「空隙」は「間隙」に、「永久磁石からなる」は「永久磁石により形成した」に、「ロータ」は「回転子」に、それぞれ相当する。
(オ) 後者の「小径小型モータ」は、永久磁石を回転子とする回転電機であることから、前者の「3相永久磁石式回転電機」と、「永久磁石式回転電機」との概念で共通する。

すると、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。

(2) 一致点
「円板部とこの円板部に直角方向に等ピッチで設けられた複数本の磁極とを磁性体で形成した固定子鉄心、及び前記磁極に嵌合した所定幅に形成した複数本の励磁用巻線を備え、前記励磁用巻線が嵌合した固定子磁極が等ピッチに配置された固定子と、
前記磁極の励磁用巻線より先端部で対向し所定間隙を設けて配置した永久磁石により形成した回転子とを備えた永久磁石式回転電機。」

(3) 相違点
(ア) 固定子鉄心の磁極に関して、本願補正発明のものは、円板部の「外周に一体に形成され」ており、そして「折り曲げ」ることにより構成されるものであるのに対し、引用発明のものは第2継鉄部と第1継鉄部とは別体であり、それらが接続されることにより構成されている点。
(イ) 固定子磁極及び励磁巻線に関して、本願補正発明が「3n本」「(但し、nは2以上の偶数とする。)」の磁極を有し、磁極の「1個おきに」「3n/2本」の励磁巻線を備え、「励磁用巻線が嵌合した固定子磁極と、励磁用巻線を嵌合せずに隣接する磁極に嵌合した励磁用巻線によって励磁される固定子磁極とが交互に配置され」て「3相」を構成しているのに対し、引用発明のものは、第1継鉄部及び巻線の数は3本であり、第1継鉄部に巻線が嵌合された3本の磁極が等ピッチに配置されている点。
(ウ) 回転子を形成する永久磁石に関して、本願補正発明が「回転方向に所定対数のN極とS極を交互に配置」しているものであるのに対し、引用発明のものは、永久磁石のN極とS極の配置関係が明確ではない点。

5.上記相違点についての判断
(1) 相違点(ア)について
引用刊行物2には、永久磁石からなる回転子を有する電動機において、板部材の外周に一体に形成され直角方向に折り曲げた磁極片により固定子を構成することが開示されている。そして、引用発明と引用刊行物2に記載された発明とは、いずれも永久磁石を回転子として有するモータに関する技術である点で共通する。
すると、引用発明のものに、引用刊行物2に記載された発明を適用することにより、上記相違点(ア)に係る本願補正発明の構成を想到することは、当業者であれば容易になし得たことといえる。

(2) 相違点(イ)及び(ウ)について
引用刊行物3には、永久磁石からなる回転子を有するステップモータにおいて、回転方向に4対のN極とS極とを交互に配置した永久磁石により形成された回転子と、6つの誘導磁極により形成された固定子とを有し、この6つの誘導磁極の1極おきに3本の巻線を施すことにより3相を形成することが開示されている。そして、引用発明と引用刊行物3に記載された発明とは、いずれも永久磁石を回転子として有するモータに関する技術である点で共通する。
すると、引用発明において、引用刊行物3に記載された発明に基づき、回転子、固定子及び巻線の数及び配置・構造を変更し、上記相違点(イ)及び(ウ)に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易想到の範囲内のことというべきである。

(3) そして、本願補正発明の全体構成により奏される効果も、引用刊行物1ないし3に記載された発明から当業者であれば予測し得る範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において準用する特許法第53条第1項の規定により却下を免れない。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成17年12月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年7月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「円板部とこの円板部の外周に一体に形成され直角方向に等ピッチで折り曲げた3n本の磁極とを磁性体で形成した固定子鉄心において、
前記磁極の1個おきに所定幅に形成した励磁用巻線を嵌合した固定子磁極と、前記磁極の1個おきに励磁用巻線を嵌合しないで前記隣接する磁極に嵌合した励磁用巻線によって励磁されるようにした固定子磁極とにより構成した固定子と、
前記磁極の励磁用巻線より先端部で対向し所定間隙を設けて回転方向に所定対数のN極とS極を交互に配置した永久磁石により形成した回転子とを備えたことを特徴とする3相永久磁石式回転電機(但し、nは2以上の偶数とする)。」

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物及びその開示事項は、前記「第2.3」に記載されたとおりである。

3.対比
本願発明は、前記「第2」において検討した本願補正発明から、実質的に、「励磁用巻線」について、磁極の1個おきに「嵌合した」及び「3n/2本の」との限定、並びに「固定子」について、「交互に配置された」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.4及び5」に記載したとおり、引用刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-13 
結審通知日 2007-02-20 
審決日 2007-03-05 
出願番号 特願平7-63561
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾家 英樹  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 渋谷 善弘
高木 進
発明の名称 3相永久磁石式回転電機  
代理人 斎藤 春弥  
代理人 高橋 陽介  

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