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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680092 審決 特許
無効200480231 審決 特許
無効200680280 審決 特許
審判199935072 審決 特許
無効200680032 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01M
管理番号 1156525
審判番号 無効2006-80144  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-04 
確定日 2007-04-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第3802196号発明「害虫防除装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3802196号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3802196号の請求項1?3に係る発明は、平成9年7月10日に特許出願され、平成18年5月12日にその発明について特許の設定登録がされたものであり、その後の平成18年8月7日に大日本除蟲菊株式会社より無効審判が請求され、これに対して平成18年10月24日に答弁書が提出されたものである。
なお、審判請求人は、この審判事件の審理の終結通知後に平成19年3月8日付け弁駁書を提出しているが、その内容から見ても審理を再開して検討すべき特段の事情は見あたらない。

本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件の特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
チャンバと、
該チャンバの両端に設けた吸気口と排気口と、
前記チャンバの内部に設けられ前記吸気口から吸気した外気を前記排気口から排気するファンと、
該ファンを、電圧3Vで、無負荷時の消費電流量が25mA以下で駆動する直流モータと、
該直流モータへ電源を供給する電池と、
前記ファンと前記排気口との間に設けられ難揮散性の害虫防除成分を保持した薬剤保持材と、を備え、
前記ファンは、ファン直径が74mm以下、且つファン重量が30gよりも軽量であり、
前記排気口から排気される風量は、0.2リットル/sec?6リットル/secであることを特徴とする害虫防除装置。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】
前記ファンは、回転中心軸を中心に複数の翼部を放射状に設けたものであることを特徴とする請求項1記載の害虫防除装置。」(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項3】
前記薬剤保持材は、前記チャンバ内の気流方向に開口した通気口を前記気流方向に直交する面方向に複数並設したハニカム形状、網形状、スリット形状、格子形状及び開孔を設けた紙の何れか一つであり且つ前記薬剤を保持することのできる無機質又は有機質の成型材料からなることを特徴とする請求項1記載の害虫防除装置。」(以下、「本件発明3」という。)

2.請求人の主張
審判請求人は、本件発明1?本件発明3は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1?本件発明3に係る特許は特許法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきである旨主張するとともに、次の証拠を提出している。

(証拠)
甲第1号証:国際公開第96/04786号の日本国による再公表公報
甲第2号証の1:特開平5-68459号公報
甲第2号証の2:「マブチモーター総合カタログ NO.11」
甲第3号証:特開平7-111850号公報

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、答弁書において、本件発明1?本件発明3は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができない旨主張するとともに、次の証拠を提出している。

(証拠)
乙第1号証:本件の特許出願の平成17年9月27日付け拒絶理由通知書
乙第2号証:同上特許出願の平成18年2月20日付け拒絶理由通知書
乙第3号証:アース試薬株式会社の2006年度製品カタログ「EARTH CATALOGUE 2006」、表紙及び第22?23頁

4.甲号各証の記載事項
(4-1)甲第1号証(国際公開第96/04786号の再公表公報)
本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、「害虫駆除方法」の発明に関して、図面と共に次のことが記載されている。
(イ)「技術分野 本発明は、害虫防除方法に関するもので、さらに詳しくは常温で難揮散性の害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持してなる薬剤保持材を非加熱条件下、送風手段による気体の流れを利用して薬剤保持材から害虫防除成分をリリースさせることにより、特に飛翔性の害虫を防除する方法、そのための装置および薬剤保持材を構成する担体に関するものである。」(5頁3?8行)
(ロ)「ここで、害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持した薬剤保持材に気体を送風する手段としては、電池で駆動させることができる簡単なファンのようなものでも良いが、送風を開始した直後から、30日後といった長期間にわたり、安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適する送風方法などを挙げることができる。」(11頁12?15行)
(ハ)「本発明の薬剤保持材を構成する担体としては、送風手段による気体の流れを遮断、外方に拡散することがないように通気性が良いものが望ましい。そして薬剤(害虫防除成分など)を十分に保持することができるものが望ましい。通気性が良く薬剤を十分に保持することができるものであれば特に限定されない。担体は、簡単な構造で通気性が大きいという点で、ハニカム状、すのこ状、格子状、網状等の構造のものが好ましい。この担体は、その通気性が、通気量で通常0.1リットル/sec以上のものであればよく、好ましくは0.1リットル/sec以上のものである。材質としては無機質および有機質の成型材料が挙げられ、それらから成型されたものとしては、例えば紙類…などが挙げられる。」(16頁1?15行)
(ニ)「本発明の装置は、図2に符号13で示す通気路及び通気口(図2では符号12で示す吸気口及び符号14で示す排気口である。)を有している。装置の通気路13に本発明の薬剤保持材を設置する場合、その通気路の少なくとも1ヶ所以上に固定される…。
…(中略)…
ここで通気手段、具体的には通気路とは、通気口にて発生する気体の流れが移動する通路、空間域である。しかし、あえて設ける必要はない。また、通気口とは、装置内に外部より気体を取り入れる吸気口と装置内に吸引された気体を装置外部に排出する排気口とからなる。
ここでの気体の流れを…図2で説明すると、例えば、装置内にモーターやぜんまい等の駆動手段とプロペラ(…図2の20で示される。)などの一般にファンとして認識されている形状、形態及び機能を有する通常送風器具と称されるものを設置し、該ファンを該駆動手段によって駆動させることで装置内に外部より吸気口を通じて気体を吸引する。そして吸引された気体はさらに通気路を経て排気口へと移動する。」(18頁20行?19頁6行)
(ホ)「実際の使用についてみてみると、通常の家屋の居室程度の空間に対しては小型の送風機を使用すれば十分に足りるものである。具体的には、ファンの回転数としては500から10000rpm程度であればよく、モーターやぜんまい等の駆動手段を用いることができる。…上記の居室程度の空間に対しては、…乾電池などで動く小型のモーターにより駆動する程度のファンを使用しても効果は十分に奏するものである。」(19頁19?25行)
(ヘ)「各種形態のファンの中で、図5に示したシロッコファン42と呼ばれるものを使用することが好ましい。該ファン42は電池からアダプターまで様々の電源により、種々の電圧により送風が調節できる。」(20頁11?13行)
(ト)「例えば、紙製のハニカム状の担体(70×70×15mm)をシロッコファン(直径5cm、厚さ2cm)を用いて送風した場合、該ファンを駆動させるための電源電圧を2.0vから4.0vまでの範囲で変化させた時は、担体とファンとの間隔は5mmから15mmが好ましい。…」(21頁18?21行)
(チ)「空間容積24m3の室内に、66×66×15mmのハニカム状の保持材にエンペントリン4.3g、イルガソックス1010を0.2g含浸させたものを取り付けたファン型害虫防除用装置を設け、3Vの定電圧運転で、1220?1250rpm、25℃の条件で揮散を行った。…」(22頁9?12行)
(リ)「[符号の説明]… 12 吸気口 13 通気路 14 排気口
15 電池 16 電池ボックス … 20 送気手段(プロペラ)
21 送気手段(電動モータ) 30 担体(保持材)
31 担体カバー 40 整流板 41 平板」(25頁20行?26頁11行)
(ヌ)図面の図2には、通気路13を構成する室の下端に設けた吸気口12と上端に設けた排気口14とを設け、吸気した外気を排気口14から排気するプロペラ20と排気口14との間に薬剤保持材30を設けた構成が示されている。

以上の記載事項並びに図面の図示内容を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(甲1発明)
「通気路13を構成する室と、
該通気路13を構成する室の下端に設けた吸気口12と上端に設けた排気口14と、
前記通気路13を構成する室の内部に設けられ前記吸気口12から吸気した外気を前記排気口14から排気するファン20と、
該ファン20を駆動する電動モータ21と、
該電動モータ21へ電源を供給する電池15と、
前記ファン20と前記排気口14との間に設けられた難揮散性の害虫防除成分を保持した薬剤保持材30と、を備えた、
害虫防除装置において、
前記ファンは、プロペラ20からなり、
前記薬剤保持材は、前記通気路13を構成する室内にあり、送風手段による気体の流れを遮断、外方に拡散することがない通気性が良いハニカム状、網状、すのこ状及び格子状の紙類の何れか一つであり且つ前記薬剤を保持する無機質又は有機質の成型材料からなる
害虫防除装置。」

(4-2)甲第2号証の1(特開平5-68459号公報)
本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証の1には、「揮散性薬剤の拡散方法及びそれに用いる薬剤拡散用材」の発明に関して、図面と共に次のことが記載されている。
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、揮散効率が高く、揮散量を多くしうる揮散性薬剤の拡散方法及びそれに用いる薬剤拡散用材に関するものである。」
(ロ)「【0025】ファンがブレードを有する形状のものである場合には、後述する揮散性薬剤の保持方式の関係でブレード自体が着脱自在の構造のものであってもよい。本発明で用いるファンの一形式であるロータリーファン型の1例を図1?3に示す。図1は、揮散性薬剤を薄い袋に収容した薬剤袋7を保持したロータリーファン型の薬剤拡散用ファン(拡散用材)1の斜視図であり、図2は前記ファンの平面図であり、図3は図1のファン本体の組立て前の斜視図である。
【0026】図1のファンの本体は、図3からわかるようにブレード部2と駆動装着部3とからなり、ブレード部2は多数の垂直なブレード5を有し、各ブレード5の間は開いていて開口部6を形成している。駆動装着部3は、図3に示すように中央に台部8を有し、また下部にはモーター(図示せず)に連結する軸部4を有しており、前記台部8はその直径がブレード部2の内径と僅かに小さいものとされ、それにブレード部2を嵌合して支持されるように構成されている。しかも、その両者の間隙は、図1に示すようにブレード部2の内周側に薄い薬剤袋7を添設して、そのブレード部2を台部8に嵌合したときに、薬剤袋7の下端が両者の間隙で挟持されることにより支持できるようにする。その支持された状態の薬剤拡散用ファンは、図2の平面図に示すとおりであって、薬剤袋7はブレード2の内周側に沿って設けられている。このため、薬剤袋7の大きさはブレード部2の内周の長さ及び高さとほぼ等しいものであることが好ましい。薬剤袋の材質は、内部の揮散性薬剤がその袋を通して容易に揮散するようなものとする。…
【0028】図1?2に示す薬剤拡散用ファン1を、モーターの回転を軸部4に伝えることにより回転させると、ブレード部2のブレード5によって風が生じ、薬剤袋7の表面に出てきた揮散性薬剤をよく拡散させる。…」
(ハ)「【0040】…実施例1
単2アルカリ乾電池で駆動するモーター…の回転軸に直径2.5cm4枚羽のファンを取付けた送風機を構成した。」
(ニ)「【0044】…実施例2
本発明のファンとして、ポリ塩化ビニル樹脂1.4g中にエムペンスリンを10wt%練り込んだものから成型した4枚羽(直径2.5cm)のものを用いて、昆虫に対する活性試験を行った。」
(ホ)「【0048】…実施例3
エチレン-メチルメタクリレート共重合体樹脂(以下「EMMA樹脂」という)は可塑材フタル酸ジメチル及びエムペンスリンを練合してシート状に成型し、このシートを切断してエムペンスリン含有EMMA樹脂プレートを製造する。この樹脂プレートのエムペンスリン当初含有率は9.6175w/w%であった。上記プレート4枚をファンの中心となる部材にブレード(羽根、厚み1mm)として取り付けて拡散用材であるファン(直径4.6cm)を作成した。このブレード部分の重量は合計で1.7973gであった。」
(ヘ)「【0050】…実施例4
本発明のファンとしてEMMA樹脂10g中にエムペンスリンを10wt%練り込んだものから成型した4枚羽根(厚さ2mm)、直径8.0cmのものを用いた。」
(ト)「【0052】実施例5
容積約0.15m3(50×55×55cm)のタンス内の底面中央部に綿布10×10cmを重ねて置き、その内にイガ3令幼虫10頭を放ち、その上部天面にNo.2ろ紙(アドバンテック東洋社製)に総量で約16.5mgのエムペンスリンを溶解したアセトン溶液を含浸し、8枚の羽根に貼着したファン(直径9cm)を有する送風機を下向きに装着し、それに連結するモーターにより約2000rpmで回転できるようにし、これを回転させて薬剤を拡散し、…」
(チ)「【0054】実施例6
表6及び表7に示す種類の供試フィルム(4×10cm)を2つ折りしたものの間に約1.0?2.0gの揮散性薬剤及び必要に応じ0.08?0.4gの吸油材(いずれも表6及び表7に示す)を入れ、周囲をヒートシールした揮散性薬剤封入体を作製し、これらの封入体をモーターに付設された図1記載の形状で内径3.3cm、外径4.7cm、高さ2.2cm、そして重量5.3gであるファン内部に沿って円柱状に装着し、表6及び表7に示す本発明の薬剤拡散用材を得た。…」
(リ)「表7 試料No.10…モーター RF330TK07800」(11頁)

(4-3)甲第2号証の2(「マブチモーター総合カタログ NO.11」)
(イ)カタログの第61頁には、「MABUCHI MOTOR」の「RF-330TK」に関して、その「代表的用途/家電機器」として「●芳香発生器」の表記があり、特性を示す表中には、「MODEL RF-330TK-07800」の「VOLTAGE」&「NOMINAL」欄に「3V CONSTANT」の表示が、また、「NO LOAD CURRENT」&「A」欄に「0.006」の表示がある。
(ロ)カタログ裏面の右下に「Printed in Japan October 1995」の表記がある。

(4-4)甲第3号証(特開平7-111850号公報)
本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、「ファン式殺虫・防虫方法」の発明に関して、図面と共に次のことが記載されている。
(イ)「【請求項1】ファン式殺虫・防虫方法において、気体の整流機能を持つ少なくとも1以上の穴を有し、かつ揮散性の殺虫・防虫剤を保持する含浸性材料からなる保持体をファンの吸込口側に設置することを特徴とするファン式殺虫・防虫方法。」
(ロ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ファン式殺虫・防虫方法に関するものであり、さらに詳しくは揮散性の殺虫・防虫剤を電池を用いた小型ファンを用いて室温で揮散させて殺虫・防虫作用を発現させる方法に関するものである。」
(ハ)「【0003】そして、さらに、乾電池を使用したもので携帯に便利で長時間使用が可能で、かつ安定して十分な揮散ができるファン式殺虫・防虫方法が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、薬剤に向けて送風し、薬剤を揮散する方法では薬剤面に対する均質な送風が難しいことを発見し、薬剤面に対する均質な送風がいかにしたらできるかを鋭意研究し、本発明を見出したもので、本発明は、均質な送風を達成すると共に均質な送風ができないため失われていた経済性を回復しようとするものであり、乾電池で長時間使用が可能で、かつ安定して十分な揮散ができるファン式殺虫・防虫方法を提供するものである。」
(ニ)「【0018】…また、保持体を通過する風量…Wq=786/0.1?2.0=393?7860cm3/秒の範囲が好ましく、…」
(ホ)「【0025】…実施例1
径6.0cm、巾2.7cm、羽根数18枚の水車翼のシロッコファンを装着した。…
【0027】…次いで起動中の保持体も通過する空気量(Wq)をアダプターを付けて測定したところ1470cm3 /秒であった。…」
(ヘ)「【0028】…実施例2
胴部径6.5cmに径6.0cm、羽根5枚のプロペラ翼の軸流ファンを装着した殺虫・防虫機器(単三電池2個でモーター起動、吸込口7.0×7.0cm、吹出口:φ6.5cm)の吸入口に次の保持体をセットする。…
【0030】…次いで起動中の保持体を通過する空気量を測定したところ1250cm3 /秒であった。…」

5.対比・判断
(5-1)本件発明1について
(イ)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、甲1発明の「通気路13を構成する室」が本件発明1の「チャンバ」に相当し、甲1発明の「電動モータ」は(乾電池等の)電池15により駆動されるものであるから、本件発明1の「直流モータ」に相当するということができる。
そうすると、両者は、
「チャンバと、
該チャンバの両端に設けた吸気口と排気口と、
前記チャンバの内部に設けられ前記吸気口から吸気した外気を前記排気口から排気するファンと、
該ファンを、駆動する直流モータと、
該直流モータへ電源を供給する電池と、
前記ファンと前記排気口との間に設けられ難揮散性の害虫防除成分を保持した薬剤保持材と、を備えた
害虫防除装置。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の各点で相違するということができる。

(相違点1)
ファンを駆動する直流モータに関して、本件発明1が「電圧3Vで、無負荷時の消費電流量が25mA以下」でファンを駆動するものであるのに対し、甲1発明は、「電動モータ21」がこのような特性値で駆動されるものであるのか否かが明らかでない点。
(相違点2)
ファンに関して、本件発明1が「ファン直径が74mm以下、且つファン重量が30gよりも軽量」なものであるのに対し、甲1発明は、ファンがこのような直径や重量を有しているものであるか否かが明らかでない点。
(相違点3)
排気口から排気される風量に関して、本件発明1が「0.2リットル/sec?6リットル/secである」のに対し、甲1発明はこのような風量に設定されているのかが明らかでない点。

そこで、上記相違点1?3につき、以下に検討する。

(ロ)相違点の検討
(相違点1について)
ところで、甲第1号証には、甲1発明の電動モータの駆動に関して、「ファンを駆動させるための電源電圧を2.0vから4.0vまでの範囲で変化させ」ること(上記「(4-1)」の(チ)参照)や「3Vの定電圧運転」を行うこと(上記「(4-1)」の(リ)参照)が記載されている。
また、甲第2号証の1には、揮散性薬剤の拡散方法に関して、その表7の「試料No.10」の単2アルカリ乾電池で駆動するモーターとして、「RF-330TK07800」を用いること(上記「(4-2)」(リ)参照)が記載されており、甲第2号証の2によれば、当該「RF-330TK07800」のモーターは、その型式番号が一致していることからマブチモーター株式会社製のものと推認できるとともに、3Vの定電圧で、無負荷時の消費電流量が「0.006A」で運転されるもの(上記「(4-3)」の(イ)参照)、すなわち「25mA以下」で運転されるものであることが理解できる。
そして、乾電池を電源とする直流モータの駆動電圧を、一般的な乾電池の定格電圧である1.5Vの整数倍と設定することも、例を示すまでもなく、従来より普通に採用されていることである。
そうすると、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明の直流モータとして、同様の薬剤拡散用ファンの駆動に使用されているところの甲第2号証の1に示されたモーターを採用し、これを所定の駆動方法に従って、「電圧3Vで、無負荷時の消費電流量が25mA以下」でファンを駆動するものと設定することにより、当業者が容易に想到し得たものといえる。
(ちなみに、本件の特許明細書の段落【0046】には、「直流モータは、型番RF-330-TK(マブチモーター株式会社製)を使用した。」との記載がある。)

(相違点2について)
甲第1号証には、ファンに関して、各種形態のファンの中で、シロッコファンと呼ばれるものを使用することが好ましい旨が記載されているとともに、そのシロッコファンとして「直径5cm、厚さ2cm」のものを使用することが、併せて記載されている(上記「(4-1)」の(ト)、(チ)参照)。
そうすると、甲1発明の「プロペラ」から成るファンを、上記シロッコファンの「直径5cm」と同程度の寸法値を有するものと設定することは、当業者が適宜選択し得た設計的事項であるといえる。
ところで、本件の特許明細書の段落【0024】には、「これらファン15の重量としては、電池駆動可能な負荷との関係から30グラムよりも軽量のものが適当であり、その例を示すと、プロペラファンでは3?17グラム程度、シロッコファンでは7?15グラム程度のものが挙げられる。さらに、ICを内蔵するブラシレス軸流ファンタイプのもの等を使用することができる。以下に上記条件を満たすファンの例を示す。」との記載があり、これに続く段落【0025】には、プロペラファンの直径が「56mm」、「48mm」、「74mm」の例が、また、シロッコファンの直径が「58mm」、「45mm」、「54mm」の例が、さらに、ブラシレス軸流ファンの直径が「56mm」の例が示されているとともに、段落【0046】には、「ファンは、ICファン0610用φ60mmプロペラ(株式会社シコー技研製)を用いた。」との記載がある。
これらの記載によれば、従来より市販されているファンは、ファンの直径が48mm?74mmの範囲にあるものの重量が大凡3?17グラム程度のものである、すなわち、「30gよりも軽量」であると理解することができる。
そして、上記「(相違点1について)」で説示したところの甲第2号証の1に示されたような小型のモーターを使用する場合には、これにより駆動されるファンの重量ができるだけ軽いものであるのが望ましいことも自明な事項である(ちなみに、甲第2号証の1の段落【0054】には、その「実施例6」に関して「図1記載の形状で内径3.3cm、外径4.7cm、高さ2.2cm、そして重量5.3gであるファン」との記載がある)。
そうすると、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明の「プロペラ」から成るファンを、甲第1号証に例示された程度の直径寸法を備えた軽量なものと選択することにより、当業者が容易に採用し得た設計的事項であるといわざるを得ない。

(相違点3について)
甲第1号証には、その「担体(薬剤保持材)」に関して、「この担体は、その通気性が、通気量で通常0.1リットル/sec以上のものであればよく、好ましくは0.1リットル/sec以上のものである。」ことが併せて記載されている(上記「(4-1)」の(ニ)参照)
また、甲第3号証には、揮散性の殺虫・防虫剤を電池を用いた小型ファンを用いて室温で揮散させて殺虫・防虫作用を発現させる方法のための薬剤面に対する送風に関して、その段落【0018】に「…保持体(薬剤保持材)を通過する風量は…393?7860cm3/秒の範囲が好まし」いこと、すなわち、約0.4リットル/sec?約8リットル/sec程度と設定するのが好ましいことが記載されている(上記「(4-4)」の(ニ)参照)。
そして、本件発明1の「排気口から排気される風量は、0.2リットル/sec?6リットル/sec」と規定した点につき、本件の特許明細書の記載を参酌して見ても、その段落【0015】に「排気口からの風量範囲は、0.1リットル/sec?10リットル/sec、望ましくは0.2リットル/sec?6リットル/secが示される。」と記載されているに止まり、本件発明1の上記数値範囲に限定した点に格別の技術的意義なしい臨界的意義があるものと解することもできない。
そうすると、相違点3に係る本件発明1の構成は、甲1発明の排気口から排気される風量を甲第3号証に示された風量程度のものと設定することにより、当業者が適宜採用し得た設計的事項であるといえる。

なお、被請求人は、答弁書において、乙第3号証の製品カタログを示して本件発明の効果の斬新さを強調するとともに、本件発明1は、「甲1発明の効果が得られた装置構成において、まず電池を用いることを前提としたうえで「モータの無負荷時の消費電流」、「ファンの大きさ及び重量」、「排気される風量」の3つの要素について、それぞれ所定の範囲に規制することで、甲1発明の効果が、設置場所の制約なしに、長時間維持できる。」ものであること(7頁下3行?8頁2行)や、「本件特許発明が意図する効果を得るためには、まず電池を用いるとする発想を基に、省電と風力との兼ね合いを調整する必要がどうしても生じるのであり、この微妙な調整を解決するために、特に本件特許発明で着目したのが、上記3要素である」こと(8頁18?21行)を主張している。

上記請求人の主張は、本件発明1の作用効果を、上記検討した相違点1?3に係る構成を組み合わせた全体につき評価すべきであるとの主張と解されるので、当該相違点1?3に係る構成を組み合わせた全体について以下検討する。
ところで、本件特許明細書の段落【0006】に記載されたように、本発明は「入手容易な電池を使用する電動モータ駆動方式とすることで、設置場所の制約を受けず、しかも、十分な薬剤の揮散量及び運転時間を確保することのできる害虫防除装置を提供し、利便性の向上、長時間運転による経済性の向上を図ることを目的とする。」ものである。
他方、甲第1号証には「害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持した薬剤保持材に気体を送風する手段としては、電池で駆動させることができる簡単なファンのようなものでも良いが、送風を開始した直後から、30日後といった長期間にわたり、安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適する送風方法などを挙げることができる。」(上記「(4-1)」の(ロ)参照)との記載があるように、「害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持した薬剤保持材に気体を送風する手段」として「電池で駆動させることができる簡単なファンのようなもの」を用いて「送風を開始した直後から、30日後といった長期間にわたり、安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適する送風方法」を用いることが示唆されている(なお、このことは、被請求人も答弁書(第4頁)において認めていると解される)。
また、甲第3号証には、その段落【0003】に「乾電池を使用したもので携帯に便利で長時間使用が可能で、かつ安定して十分な揮散ができるファン式殺虫・防虫方法が望まれていた。」ことや、段落【0004】に「本発明は、均質な送風を達成すると共に均質な送風ができないため失われていた経済性を回復しようとするものであり、乾電池で長時間使用が可能で、かつ安定して十分な揮散ができるファン式殺虫・防虫方法を提供するものである。」ことが記載されている(上記「(4-4)」の(ハ)参照)。
そうすると、甲1発明において、乾電池で駆動できる簡単なファンを用いて、乾電池による長時間使用、例えば30日間といった長期間にわたる使用において、安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適するという具体的な送風手段を検討すべきことは、これらの公知文献の記載に基づいて当業者が容易に想起し得た技術的課題であるということができ、当該技術的課題に基づいて、甲1発明の害虫防除装置を具体的に設計・製造する際には、当該害虫防除装置としての本来的な目的(想定される設置場所の空間に安定して一定濃度の薬剤をリリースできること)を達成するために、その害虫防除装置を構成するための主要な要素、例えば、ファンによる風量値やこのために必要なファンの具体的な形態(直径や重量)、これを駆動するためのモータの駆動電圧や消費電流量等をそれぞれ所望の値に設定することは、当業者が、当該製品市場の(使用形態等を含む)ニーズ等をも考慮しつつ、通常の創作能力を発揮して適宜採用し得た設計的事項であるといわざるを得ない。(ちなみに、上記の要素以外に、薬剤保持剤の構成(ハニカム、スリット、格子)、ファンの種類(プロペラ、シロッコ)と羽根の枚数や傾斜角度等の形態、さらに、吸気口や排気口を備えるチャンバの流路形態等も、「省電」や「風力」に対して影響を与える要素として考慮される事項であると考える。)
そして、相違点1?3に係る本件発明1の(数値限定に関する)構成全体が奏する作用・効果も、上述したところの公知文献の記載に基づいて当業者が容易に想起し得た(乾電池で駆動できる簡単なファンを用いて、乾電池による長時間使用、例えば30日間といった長期間にわたる使用において、安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適するという具体的な送風手段を検討すべきという)技術的課題に基づいて当業者が普通に予測し得たものであるといわざるを得ない。

(5-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であって、本件発明1に「前記ファンは、回転中心軸を中心に複数の翼部を放射状に設けたものである」という限定事項を加えた発明である。
そこで、本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明のファンである「プロペラ20」が、「回転中心軸を中心に複数の翼部を放射状に設けたもの」であることは明らかであるから、両者は、上記「(5-1)」に記載の一致点に加えて、「ファンは、回転中心軸を中心に複数の翼部を放射状に設けたものである」点で一致し、上記「(5-1)」に記載の相違点1?3で相違するといえる。

そして、相違点1?3については、上記「(5-1)」の「(ロ)相違点の検討」において説示したとおりである。

(5-3)本件発明3について
同様に、本件発明3は、本件発明1を引用する発明であって、本件発明1に「前記薬剤保持材は、前記チャンバ内の気流方向に開口した通気口を前記気流方向に直交する面方向に複数並設したハニカム形状、網形状、スリット形状、格子形状及び開孔を設けた紙の何れか一つであり且つ前記薬剤を保持することのできる無機質又は有機質の成型材料からなる」という限定事項を加えた発明である。
そこで、本件発明3と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「薬剤保持材は、前記通気路13を構成する室内にあり、送風手段による気体の流れを遮断、外方に拡散することがない通気性が良いハニカム状、網状、すのこ状及び格子状の紙類の何れか一つ」からなるものであるところ、それが害虫防除装置として機能するためには、例えば、そのハニカム状の「薬剤保持材」が、チャンバ内の気流方向に開口した通気口を前記気流方向に直交する面方向に複数並設したものでなければならないことは自明な事項であるといえる。
そうすると、両者は、上記「(5-1)」に記載の一致点に加えて、「前記薬剤保持材は、前記チャンバ内の気流方向に開口した通気口を前記気流方向に直交する面方向に複数並設したハニカム形状、網形状、スリット形状、格子形状及び開孔を設けた紙の何れか一つであり且つ前記薬剤を保持することのできる無機質又は有機質の成型材料からなる」ものである点でも実質的に一致し、上記「(5-1)」に記載の相違点1?3で相違するということができる。

そして、相違点1?3については、上記「(5-1)」の「(ロ)相違点の検討」において説示したとおりである。

(5-4)まとめ
そして、本件発明1?3の奏する効果も、甲第1号証?甲第3号証に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものであって、格別なものということができない。

したがって、本件発明1?3は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本件発明1?3は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-27 
結審通知日 2007-03-01 
審決日 2007-03-13 
出願番号 特願平9-185284
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大森 伸一  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 西田 秀彦
宮川 哲伸
登録日 2006-05-12 
登録番号 特許第3802196号(P3802196)
発明の名称 害虫防除装置  
代理人 赤尾 直人  
代理人 中澤 直樹  
代理人 桶川 美和  
代理人 吉原 省三  

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