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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02H
管理番号 1156843
審判番号 不服2005-14391  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-28 
確定日 2007-05-07 
事件の表示 平成10年特許願第109167号「交流電動機の過負荷保護方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 5日出願公開、特開平11-308761〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成10年4月20日の出願であって、その請求項1ないし2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1には次のとおり記載されている。

「インバータで駆動される交流電動機であって、
このインバータには交流電動機の一次電流の定格値と、該定格値にK%(K>100)を乗じた電流値と、該電流値における前記電動機の運転継続可能時間値とを設定し、
この設定された前記定格値,電流値,運転継続可能時間値から導出される前記電動機の過負荷耐量に対する反限時特性に基づいて、前記インバータは前記電動機の一次電流を監視しつつ運転するようにしたことを特徴とする交流電動機の過負荷保護方法。」(以下「本願発明」という。)

2.刊行物
(1) 当審において拒絶の理由に引用した特開平3-27718号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、「過負荷検出装置」と題して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア) 「本発明はインバータやサイクロコンバータ等の周波数変換手段の出力で交流電動機を制御する装置の過負荷検出装置に関するものである。」(2頁左上欄20行ないし右上欄2行)
(イ) 「すなわち本発明では熱時限特性を任意に設定する設定手段とこの設定手段で設定した熱時限特性を記憶する書き替え可能な記憶手段を設けるかあるいは記憶手段の中には複数個の熱時限特性を用意しておき、選択手段に伝ってこのうちのいくつかを選択するようにする。」(2頁左下欄8ないし13行)
(ウ) 「この実施例は周波数変換手段としてインバータを用いている。そしてインバータ装置内部の直流回路部の直流平均電流からインバータ装置に接続した電動機に供給される一次電流に相当する値をインバータ装置内のインバータ装置演算部を利用して算出し、さらに記憶部に予め記憶させた電動機の熱時限特性と算出した一時電流の積算値とを比較演算し、過負荷または過電流による電動機の温度上昇を推定して、インバータ装置自身の出力を遮断することにより電動機の保護を行う。」(2頁左下欄20行ないし右下欄10行)
(エ) 「またHSCは熱時限特性を設定する設定手段、i/o 4はそのインターフェース回路である。熱時限特性設定手段HSCは第2図に一例を示すが一次電流Im対時間の関係kが任意に設定できるように構成してある。」(3頁右上欄3ないし7行)
(オ) 「さて、設定手段HSCを操作して任意の熱時限特性を書き替え可能な記憶手段RAMの中へ書き込む。この熱時限特性は第2図(a)に示すように一次電流Imに対して連続運転可能時間(熱許容時限)の関数kが反比例又は略反比例するものであっても(b)や(c)に示すように折れ線状に変化するものであっても良い。
このように構成したものにおける過負荷保護の基本的な動作原理を説明する。第2図(a)は誘導電動機を商用電源で駆動した時の熱特性の一例を示す図であり、横軸は誘導電動機に流入する一次電流の大きさIm、縦軸に連続運転可能時間(熱許容時限)の関数kを取ったものであり、線(a)を境にして領域A内では誘導電動機の安全運転が行なえ、領域Bでは誘導電動機が過負荷となり保護を必要とするものである。」(3頁左下欄10行ないし右下欄5行)

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

「インバータ装置の出力で制御される交流電動機であって、前記電動機の熱時限特性を任意に設定できる前記インバータ装置の設定手段により、前記電動機の一次電流に対する連続運転可能時間の関数が反比例の熱時限特性を設定し、この設定された前記電動機の反比例の熱時限特性に基づいて、前記インバータ装置内のインバータ装置演算部を利用して算出した前記電動機に供給される一次電流の積算値を比較演算し、過負荷または過電流による電動機の温度上昇を推定して、インバータ装置自身の出力を遮断するようにした過負荷検出装置。」

(2) 同じく、当審において拒絶の理由に引用した特開平2-231919号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、「電力機器の過熱保護装置」と題して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア) 「本発明は、温度センサを用いない方式の電力機器の過熱保護装置に係り、特にインバータ制御による電動機駆動システムに好適な過熱保護装置に関する。」(2欄11ないし14行)
(イ) 「交流電動機2は例えばロボットのサーボモータなどであり、これに供給される電流が電流検出器3で検出されるようになっている。・・・ A/D変換器5は電流検出値をデジタルデータに変換し、それを熱演算回路6に入力する・・・。
熱演算回路6はマイクロコンピュータなどからなる熱演算部6aと、定格電流値データ保持部6bとからなり、A/D変換器5から取り込んだ電流データを、まず定格電流値データ保持部6bから与えられている定格電流値と比較し、これを超えた部分について、それを熱演算部6aに入力し、交流電動機2、或いはインハータ1の特にインバータ部1b、もしくは、これらの双方で損失となっている電力量を演算し、さらに、予め設定してある、これらの部分での熱放散特性を用いて、それぞれの部分に現われているであろう温度上昇(等価熱情報)を計算する。
そして、この温度上昇の計算結果が、これも予め設定してある所定の保護設定値を超えたら、過熱トリップ状態になったものとして、図示してないインハータ制御部に所定の信号を供給し、インバータ部1bのスイッチング素子に対するオン信号の印加を止め、交流電動82の駆動を停止させるのである。
従って、この結果、得られるトリップ特性は第2図に示すようになり、定格負荷(負荷率100%)ではトリップせず、これ以上の負荷率では、負荷率とトリップするまでの時間は反比例の関係になる。」(6欄11行ないし8欄8行)
(ウ) 第2図には、上記(イ)の記載事項を踏まえると、交流電動機の定格電流(負荷率100%)を漸近線として、定格電流より大きい(負荷率100%超)とトリップ時間とが反比例の関数となることが示されている。

3.対比
(1) 本願発明と引用発明とを対比すると、以下の事項が明らかである。
(ア) 引用発明の「インバータ装置の出力で制御される」は、その作用・機能からみて、本願発明の「インバータで駆動される」に相当する。
(イ) 引用発明の「(交流)電動機の熱時限特性を任意に設定できるインバータ装置の設定手段により、前記電動機の一次電流に対する連続運転可能時間の関数が反比例の熱時限特性を設定し、この設定された前記電動機の反比例の熱時限特性に基づいて、」において、引用発明の「交流電動機の一次電流に対する連続運転可能時間の関数が反比例の熱時限特性」は本願発明の「電動機の過負荷耐量に対する反限時特性」に相当するから、上記引用発明の構成と、本願発明の「このインバータには交流電動機の一次電流の定格値と、該定格値にK%(K>100)を乗じた電流値と、該電流値における前記電動機の運転継続可能時間値とを設定し、この設定された前記定格値,電流値,運転継続可能時間値から導出される前記電動機の過負荷耐量に対する反限時特性に基づいて、」とは、少なくとも「このインバータに設定された電動機の過負荷耐量に対する反限時特性に基づいて、」の点で共通する概念を有する。
(ウ) 引用発明の「インバータ装置内のインバータ装置演算部を利用して算出した電動機に供給される一次電流の積算値を比較演算し、過負荷または過電流による電動機の温度上昇を推定して、インバータ装置自身の出力を遮断するようにした」は、その作用・機能をみると、本願発明の「インバータは電動機の一次電流を監視しつつ運転するようにした」に相当する。
(エ) 引用発明の「過負荷保護装置」が行う交流電動機の過負荷保護の方法は、これを「交流電動機の過負荷保護方法」ということができる。

すると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。

(2) 一致点
「インバータで駆動される交流電動機であって、このインバータに設定された電動機の過負荷耐量に対する反限時特性に基づいて、前記インバータは前記電動機の一次電流を監視しつつ運転するようにした交流電動機の過負荷保護方法。」

(3) 相違点
インバータに設定された電動機の過負荷耐量に対する反限時特性に関して、本願発明のものは「インバータには交流電動機の一次電流の定格値と、該定格値にK%(K>100)を乗じた電流値と、該電流値における前記電動機の運転継続可能時間値とを設定し、この設定された前記定格値,電流値,運転継続可能時間値から導出される」のに対し、引用発明のものは「インバータ装置の熱時限特性を任意に設定できる設定手段により」関数を適宜設定可能であるものの、具体的な設定項目が明確でない点 。

4.相違点についての判断
(1) 上記相違点について検討する。
引用刊行物2には、インバータで駆動される交流電動機において、過負荷耐量に対する特性が、定格電流値(負荷率100%)を漸近線として、定格電流値より大きな電流値(負荷率100%超)とトリップ時間、即ち運転継続可能時間値とが反比例の関係となることが開示されている。
また、一般に、関数の構造のみが既知である場合に、関数上の点の組が有限個与えられれば、その関数を一意に決めることができることは、数学上の常識というべきものであって、工学の分野においても、関数を設定する場合に、関数上の有限個の値を入力することにより設定することは、例えば、特開平7-222345号公報にもあるように、出願前に周知である。
そうすると、引用発明と引用刊行物2に記載された技術は共にインバータで駆動される交流電動機の過負荷保護に関するものであるから、引用発明における反比例の熱時限特性の設定を、引用刊行物2に記載された技術及び上記周知の技術を踏まえて、交流電動機の一次電流の定格値、定格値にK%(K>100)を乗じた電流値と、該電流値における電動機の運転継続可能時間とを設定することにより、熱時限特性を表す反比例関数を導出するようにして、上記相違点に係る本願発明の構成を想到することは、当業者であれば容易になし得た範囲のものというべきである。

(2) そして、本願発明の全体構成により奏される効果も、引用刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術から当業者であれば予測し得る範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-05 
結審通知日 2007-03-06 
審決日 2007-03-20 
出願番号 特願平10-109167
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 誠治  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 渋谷 善弘
丸山 英行
発明の名称 交流電動機の過負荷保護方法  
代理人 山本 浩  

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