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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680255 審決 特許
無効200680136 審決 特許
無効200680154 審決 特許
無効2007800007 審決 特許
無効2007800062 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02D
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  E02D
管理番号 1157716
審判番号 無効2006-80126  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-07-07 
確定日 2007-05-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3746508号発明「鋼矢板用圧入機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3746508号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件の特許第3746508号に係る出願は、平成16年10月4日に特許出願され、その後の平成17年12月2日に、その請求項1?3に係る発明につき、特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、審判請求人より平成18年7月7日に本件無効審判の請求がなされ、その後、被請求人より平成18年10月2日に答弁書と共に訂正請求書が提出され、請求人より平成18年12月21日に弁駁書が提出された。

2.訂正の適否
(2-1)訂正の内容
平成18年10月2日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、特許第3746508号の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を同上訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである。

(訂正事項a)
特許請求の範囲における、
「【請求項1】
鋼矢板を挿通する挿通孔が設けられ、挿通された鋼矢板を把持して回転するリング状のチャックを備え、把持した鋼矢板を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機であって、
前記チャックは、前記鋼矢板の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構を備えていることを特徴とする鋼矢板用圧入機。
【請求項2】
前記挿通孔は、前記鋼矢板を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能であることを特徴とする請求項1に記載の鋼矢板用圧入機。
【請求項3】
前記鋼矢板は、両端部の継手部分にフランジに平行な腕部を有したハット形状であり、
前記把持機構が、前記腕部をそれぞれ個別に掴んで把持することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼矢板用圧入機。」とあるのを、
「【請求項1】
鋼矢板を挿通する挿通孔が設けられ、挿通された鋼矢板を把持して回転するリング状のチャックを備え、把持した鋼矢板を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機であって、
前記チャックは、前記鋼矢板の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構を備え、
前記鋼矢板は、両端部の継手部分にフランジに平行な腕部を有したハット形状であり、 前記把持機構が、前記腕部をそれぞれ個別に挟んで把持し、 前記挿通孔は、前記鋼矢板を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能で、且つ、前記腕部が前記鋼矢板の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板を左右対称に挿通可能であることを特徴とする鋼矢板用圧入機。」と訂正する。

(訂正事項b)
明細書の段落【0008】(特許公報2頁40?45行)における、
「以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、例えば図1、2に示すように、鋼矢板13を挿通する挿通孔(中間部挿通孔4a、端部挿通孔4b)が設けられ、挿通された鋼矢板13を把持して回転するリング状のチャック4を備え、把持した鋼矢板13を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機1であって、前記チャック4は、前記鋼矢板13の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構(固定爪5、可動爪6)を備えていることを特徴とする。」とあるのを、
「以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、例えば図1、2に示すように、鋼矢板13を挿通する挿通孔(中間部挿通孔4a、端部挿通孔4b)が設けられ、挿通された鋼矢板13を把持して回転するリング状のチャック4を備え、把持した鋼矢板13を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機1であって、前記チャック4は、前記鋼矢板13の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構(固定爪5、可動爪6)を備え、前記鋼矢板13は、両端部の継手13d部分にフランジ13aに平行な腕部13cを有したハット形状であり、前記把持機構(固定爪5、可動爪6)が、前記腕部13cをそれぞれ個別に挟んで把持し、前記挿通孔(中間部挿通孔4a、端部挿通孔4b)は、前記鋼矢板13を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能で、且つ、前記腕部13cが前記鋼矢板13の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板13を左右対称に挿通可能であることを特徴とする。」と訂正する。

(訂正事項c)
明細書の段落【0009】(特許公報2頁47?49行)における、
「ここで、鋼矢板としては、断面が直線形状又は部分的に折れ曲がった形状に形成され、その両端部に継手を有するもの、例えば、U型鋼矢板、Z形鋼矢板、ハット型鋼矢板、直線型鋼矢板、軽量鋼矢板などが挙げられる。」とあるのを、削除する。

(訂正事項d)
明細書の段落【0011】(特許公報3頁9?11行)における、
「請求項2に記載の発明は、例えば図2に示すように、請求項1に記載の鋼矢板用圧入機1において、前記挿通孔(中間部挿通孔4a、端部挿通孔4b)は、前記鋼矢板13を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能であることを特徴とする。」とあるのを、削除する。

(訂正事項e)
明細書の段落【0014】(特許公報3頁22?25行)における、
「請求項3に記載の発明は、例えば図2に示すように、請求項1または2に記載の鋼矢板用圧入機1において、前記鋼矢板13は、両端部の継手13d部分にフランジ13aに平行な腕部13cを有したハット形状であり、前記把持機構(固定爪5、可動爪6)が、前記腕部13cをそれぞれ個別に掴んで把持することを特徴とする。」とあるのを、削除する。

(訂正事項f)
明細書の段落【0036】(特許公報6頁16?25行)における、
「なお、以上の実施の形態においては、ハット型鋼矢板を圧入する対象としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の銅矢板、例えば、U型鋼矢板、Z形鋼矢板、直線型鋼矢板、軽量鋼矢板などでも良い。
また、本実施の形態では、把持機構として、固定爪、可動爪及び油圧シリンダから構成していたが、例えば、鋼矢板の両端部を掴む一対の油圧シリンダ2組からなる構成としても構わない。
さらに、固定爪、可動爪もハット型鋼矢板の腕部を挟持可能であればその形状等は任意である。また、ハット型鋼矢板以外の鋼矢板であっても、その形状に応じて固定爪、可動爪の形状、数等を変更して対応することができる。その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。」とあるのを、
「なお、以上の実施の形態においては、把持機構として、固定爪、可動爪及び油圧シリンダから構成していたが、例えば、鋼矢板の両端部を掴む一対の油圧シリンダ2組からなる構成としても構わない。
さらに、固定爪、可動爪もハット型鋼矢板の腕部を挟持可能であればその形状等は任意である。その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。」と訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(訂正事項aについて)
要するに、訂正事項aは、訂正前の請求項1?3の内の請求項2及び3を削除し、訂正前の請求項1に、同上訂正前の請求項2及び3に記載されていた事項に更なる限定事項を加えた限定をするものであって、次の訂正事項a1?a3の事項を加えるものである。
a1:前記鋼矢板は、両端部の継手部分にフランジに平行な腕部を有したハット形状であり、
a2:前記把持機構が、前記腕部をそれぞれ個別に挟んで把持し、
a3:前記挿通孔は、前記鋼矢板を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能で、且つ、前記腕部が前記鋼矢板の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板を左右対称に挿通可能である

そして、訂正事項a1は、特許明細書の段落【0018】に「本実施の形態において、圧入機1によって圧入される鋼矢板13として、図2に示すように、断面ほぼU字形状としつつ両端部の継手13d部分にフランジ13aに平行な腕部13cを有するハット型鋼矢板を用いている。具体的には、鋼矢板13は、フランジ13aと、このフランジ13aに接続される外側に傾斜した二つのウェブ13bと、各ウェブ13bに接続されフランジ13aに平行な腕部13cと、各腕部13cの外端部に設けられた継手13dとを備えている。」との記載があるとともに、図面の【図2】及び【図3】に「ハット型鋼矢板」が図示されていることから、特許明細書及び図面に記載されている事項であるということができ、また、当該事項を訂正前の請求項1に付加することは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
同様に、訂正事項a2は、特許明細書の段落【0002】に「…鋼矢板の上部を挟持する…」との記載が、段落【0004】に「…鋼矢板13を着脱自在に挟持する…鋼矢板13を挟持するものである。…」との記載が、段落【0030】に「…可動爪6及び固定爪5が鋼矢板13の腕部13cの各面に当接し両側から押圧して挟持する。」との記載が、段落【0036】に「…さらに、固定爪、可動爪もハット型鋼矢板の腕部を挟持可能であればその形状等は任意である。…」との記載があるとともに、図面の【図2】に可動爪6及び固定爪5が鋼矢板13の両腕部13cの各(表裏)面に当接して、これを両側から押圧して挟持する態様が図示されている。
そして、特許明細書に記載の上記「挟持する」と訂正後の特許請求の範囲の【請求項1】の「挟んで把持し」とが、いずれも挟んで持つ点で実質的な相違がないといえるから、訂正事項a2は、特許明細書及び図面に記載されている事項であるということができるし、また、訂正後の請求項1に記載された「それぞれ個別に挟んで把持し」は、訂正前の請求項1に記載された「それぞれ個別に掴む」を「掴む」の具体的形態の一つである「挟んで把持」する形態のものと限定したものといえるから、当該事項を訂正前の請求項1に付加することは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また同様に、訂正事項a3は、特許明細書の段落【0025】に「…各挿通孔は、鋼矢板13を圧入する際に、鋼矢板13の連結方向の中心線に対して対称となるようにほぼ楕円形状に形成されている。」との記載が、段落【0026】に「このように、各挿通孔が、圧入機の進行方向に対して、すなわち鋼矢板13の連結方向の中心線に対して、対称的に形成されているので、鋼矢板13を左右どちらの向きでも挿通可能となり、…」との記載があるとともに、図面の【図2】には、挿通孔4aが、実線で示した鋼矢板と二点鎖線で示した鋼矢板とを用いて、鋼矢板が進行方向に対して左右どちらの向きであっても挿通可能なものとして形成されている態様が図示されていることから、特許明細書及び図面に記載されている事項であるということができ、また、当該事項を訂正前の請求項1に付加することは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

したがって、上記訂正事項aは、訂正前の請求項2及び3を削除し、訂正前の請求項1に、訂正前の請求項2及び3に記載された事項を加えるとともに、特許明細書及び図面に記載されていた事項をさらに付加するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

(訂正事項b?fについて)
訂正事項b?fは、上記訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2-3)むすび
上記したとおり、上記訂正事項a?fは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正事項a?fは、特許法第134条の2第1項ただし書きに適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであるから、本件訂正を認める。

3.当事者の主張
(3-1)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、下記の証拠を提出するとともに、本件の請求項1?3に係る発明の特許を無効とする理由として、「本件の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。また、本件の請求項1?3に係る発明は本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである」旨主張する。
また、平成18年12月21日付け弁駁書において、下記の参考資料1?4を提出して、本件訂正により訂正後の請求項1に付加された構成は、特許明細書、特許請求の範囲及び図面のいずれにも記載がない事項であるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものであるから本件訂正は認められるべきものではなく、また、仮に訂正が認められたとしても、訂正後の請求項1に係る発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張する。

(証拠等)
審判請求書添付の証拠
甲第1号証:特開平11-350482号公報
甲第2号証:特開平6-240673号公報
甲第3号証:早期審査に関する事情説明書
弁駁書添付の資料
参考資料1:JIS「熱間圧延鋼矢板」 JIS A 5528
参考資料2:特許第2689794号公報
参考資料3:特開2004-162458号公報
参考資料4:カタログ「ハット形鋼矢板 900」鋼管杭協会発行

(3-2)被請求人の主張
被請求人は、平成18年10月2日付け訂正請求書を提出するとともに、同日付け答弁書において、訂正後の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明でもないし、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない旨主張する。

4.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記したとおり本件訂正が認められることから、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
(本件発明)
「鋼矢板を挿通する挿通孔が設けられ、挿通された鋼矢板を把持して回転するリング状のチャックを備え、把持した鋼矢板を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機であって、
前記チャックは、前記鋼矢板の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構を備え、
前記鋼矢板は、両端部の継手部分にフランジに平行な腕部を有したハット形状であり、 前記把持機構が、前記腕部をそれぞれ個別に挟んで把持し、 前記挿通孔は、前記鋼矢板を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能で、且つ、前記腕部が前記鋼矢板の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板を左右対称に挿通可能であることを特徴とする鋼矢板用圧入機。」

5.甲第1号証及び甲第2号証の記載事項
(5-1)甲第1号証(特開平11-350482号公報)
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シートパイルを地中に圧入するパイル圧入装置に関するものである。」
(ロ)「【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ケーシングの大きさに関係なく、単体でシートパイルをチャッキング可能で、且つ硬質地盤においてもゼロパイルを圧入可能なパイル圧入装置を提供することを目的としている。」(注;下線は当審が付記した。)
(ハ)「【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明のパイル圧入装置の実施の形態の一例について説明する。
[第1の実施の形態]図1は、本発明に係る第1の実施の形態のパイル圧入装置の要部であるチャック装置を示す底面図であり、図2は同正面図である。
【0012】前記パイル圧入装置1aは、チャック装置1を備え、該チャック装置1は、パイル圧入装置1aに設けられた油圧シリンダ装置(図示省略)によって昇降されるようになっている。また、前記チャック装置1内には、シートパイルPを単独で掴むパイルチャック部2と、オーガケーシングKを単独で掴むオーガケーシングチャック部3とが設けられている。前記シートパイルPは、長尺なU形パイルであって、幅方向の両端部にほぼ平らな掴み部P1を備えている。
【0013】前記パイルチャック部2は、前記オーガケーシングKを挟んで左右に2対設けられている。そして、前記パイルチャック部2は、前記チャック装置1の下部に設けられた油圧シリンダ装置4と、この油圧シリンダ装置4と対向する位置に設けられたパイル固定爪5とで構成されており、前記シートパイルPの前記掴み部P1を油圧シリンダ装置4のシリンダ4aとパイル固定爪5で挾持して固定するようになっている。…」(注;下線は当審が付記した。)
(ハ)「【0016】次に、上記構成のチャック装置1をパイル圧入装置1aに装着して、シートパイルPを地盤に圧入していく方法について説明する。まず、図1および図2に示すように、シートパイルPをチャック装置1内に挿通するとともに、オーガケーシングKをオーガケーシングチャック部3に挿通して前記オーガケーシングチャック部3の油圧シリンダ装置9…によって掴み、さらに、前記シートパイルPを前記パイルチャック部2によって掴んでおく。次に、前記チャック装置1を油圧シリンダ装置(図示省略)によって下降させることで、シートパイルPをオーガケーシングKとともに地盤に圧入していく。そして、シートパイルPとオーガケーシングKとを圧入していく途中、シートパイル圧入の困難な硬い地盤があれば、前記チャック装置1の下降を一時停止することによって、シートパイルPの圧入を停止し、次いで、前記オーガケーシングチャック部3を油圧シリンダ装置8によって上下に往復させながらオーガスクリュー(図示省略)の掘削に従って所定量だけ下降させていき、オーガケーシングKをシートパイルPに先行させて圧入する。
【0017】次いで、前記オーガケーシングKを油圧シリンダ装置8によって上昇させたうえで、シートパイルPとオーガケーシングKとを一緒に圧入していく。」
(ニ)「【0020】また、本例のチャック装置1では、オーガケーシングチャック部3を油圧シリンダ装置8によって上昇させることで、オーガケーシングKを引き上げると、このオーガケーシングKには、その周面抵抗によって下方に向かう反力が作用する。すると、この反力はオーガケーシングチャック部3を介してチャック装置1に伝達され、チャック装置1を下方に押し込むように作用する。一方、前記オーガケーシングKを引き上げると同時かあるいは一定時間をおいて、前記シートパイルPを掴んでいるチャック装置1を下降させると、該チャック装置1には、圧入力に、前記反力が加算された力が作用する。したがって、シートパイルPを圧入するために必要な圧入力を前記反力の分だけ軽減することができる。」

以上の記載事項並びに図面の図示内容を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「そのチャック装置内に挿通されたシートパイルPとオーガケーシングKとをそれぞれ単独で掴めるチャック装置1を備え、当該掴んだシートパイルPとオーガケーシングKを下降させて地盤に圧入するパイル圧入装置であって、
前記チャック装置1は、長尺なU形パイルであるシートパイルPの幅方向の両端部に備えられたほぼ平らな掴み部P1を、油圧シリンダ装置4と対向する位置に設けられたパイル固定爪5とで挾持して固定することにより当該シートパイルPを単独で掴むことができるパイルチャック部2と、オーガケーシングKを単独で掴むことができるオーガケーシングチャック部3とを備えたパイル圧入装置。」

(5-2)甲第2号証(特開平6-240673号公報)
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、地中に圧入した既設杭を杭圧入引抜機のクランプで挟持しつつ、この既設杭に連結して新たな杭を地中に圧入していく杭圧入引抜機のチャック機構に関する。
【0002】
【従来の技術】チャック機構は、一般に、杭圧引抜機の基台上部のマスト前端に昇降可能に設けられ、略円筒形状の本体と、この本体内に旋回可能に取付けた旋回体とから構成される。旋回体には、上下に連通する杭挿入孔を形成し、杭挿入孔内に固定爪を設け、この固定爪に対向する位置に移動爪を進退可能に設けている。固定爪及び移動爪は、杭挿入孔内に装填された杭を挟持するためのものである。従って、杭の挟持時に滑り現象が発生するのを少なくするべく、固定爪及び移動爪の挟持面には凹凸の滑止めを形成している。」
(ロ)「【0008】
【実施例】図1は本発明の第1実施例である杭圧入引抜機のチャック機構の縦断面側面図、図2は図1のII-II線横断面図及び図3は図1のIII-III線横断面図である。このチャック機構1は、重防食鋼矢板等の被覆杭用と普通杭(重防食被覆されていない杭)用の別々のチャック機構を一体に備えたもので、一般的なチャック機構と同様に略円筒形状の本体2と、この本体2内に旋回可能に取付けた旋回体3とから構成する。
【0009】旋回体3には、平面形状が略Ω字形状の杭挿入孔4を形成し、この杭挿入孔4内に重防食杭用の可動爪5と固定爪7とを対向して設ける。」
(ハ)「【0017】図7は、本発明の第3実施例である杭圧入引抜機のチャック機構の縦断面側面図、図8は図7のVIII-VIII線横断面図及び図9は図7のIX-IX線横断面図である。本実施例は重防食杭専用のチャック機構32である。このチャック機構32は杭挿入孔4内に重防食杭Pの被覆面Pf側を挟持するための可動爪33を設け、この可動爪33と対向する位置に重防食杭Pの非被覆面Pn側を挟持するための固定爪35を設けている。」
(ニ)「【0021】図10は本発明の第4実施例である杭圧入引抜機のチャック機構の平面図、図11は重防食杭の腹面側を本実施例の可動爪側に向けて挟持した状態を示す平面図及び図12は本実施例によって構築した重防食杭列の平面図である。
【0022】このチャック機構41も第3実施例と同様に重防食杭P専用のものである。本実施例は旋回体3の杭挿入孔44内に重防食杭Pの非被覆面Pn側を挟持するための可動爪45を流体圧シリンダ46を介して設け、この可動爪45と対向する位置に重防食杭Pの被覆面Pf側を挟持するための固定爪47を設けている。さらに、前述の杭挿入孔44の可動爪45側と固定爪47側のいずれの側にも重防食杭Pのフランジ挿入部44a、44bを形成して全体を構成している。なお、固定爪47の挟持面47aは平滑に仕上げ、可動爪45には凹凸の挟持面45aを形成する。
【0023】本実施例の重防食杭Pの挟持は、流体圧シリンダ46を作動させて可動爪45と固定爪47により行い、上述の各実施例と略同様の作用及び効果を奏する。しかも、本実施例はフランジ挿入部44a、44bを可動爪45側と固定爪47側の両側に形成したので、図10に示すように、可動爪45で重防食杭Pの背側の非被覆面Pnを挟持でき、また、図11に示すように、可動爪45で腹側の非被覆面Pnを挟持できる。そのため、重防食杭Pを1枚圧入する毎に旋回体3を回転させる必要がない。従って、上述の各実施例よりも一層迅速に片面重防食杭Pを連続して地中に圧入していくことができ、図12に示すような重防食杭Pを構築することができるという効果を奏する。」。

6.対比・判断
(6-1)対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、甲1発明の「シートパイルP」、「挿通されたシートパイルP」を「単独で掴めるチャック装置1」及び「掴んだシートパイルP」を「下降させて地盤に圧入するパイル圧入装置」は、本件発明の「鋼矢板」、「挿通された鋼矢板を把持」する「チャック」及び「把持した鋼矢板を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「シートパイルP」(鋼矢板)がその幅方向の両端部に継手部分を備えることは自明な事項である(甲第1号証の、例えば、図1、3及び5に示された両端部形状参照)から、甲1発明の「長尺なU形パイルで」幅方向の両端部に「ほぼ平らな掴み部P1」を備えた「シートパイルP」は、本件発明の「両端部の継手部分にフランジに平行な腕部を有したハット形状で」ある「鋼矢板」に相当するといえる。
同様に、甲1発明の「前記チャック装置1は、」「長尺なU形パイルであるシートパイルPの幅方向の両端部に備えられたほぼ平らな掴み部P1を、油圧シリンダ装置4と対向する位置に設けられたパイル固定爪5とで挾持して固定することにより当該シートパイルPを単独で掴むことができるパイルチャック部2」を備えた点は、本件発明の「前記チャックは、前記鋼矢板の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構を備え」、当該「把持機構が、前記腕部をそれぞれ個別に挟んで把持」する点に相当するということができる。
さらに、甲1発明の「チャック装置1」は、「シートパイルP」を「そのチャック装置内に挿通」するものであるので、当該「シートパイルP」を挿通するための孔を備えていることが明らかである。

そうすると、両者は、
「鋼矢板を挿通する挿通孔が設けられ、挿通された鋼矢板を把持してチャックを備え、把持した鋼矢板を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機であって、
前記チャックは、前記鋼矢板の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構を備え、
前記鋼矢板は、両端部の継手部分にフランジに平行な腕部を有したハット形状であり、
前記把持機構が、前記腕部をそれぞれ個別に挟んで把持する鋼矢板用圧入機。」の点で一致し、次の点で相違するといえる(なお、以下の記載中の[ ]内には、対応する各甲号証の用語を表記した)。

(相違点1)
本件発明は、挿通された鋼矢板を把持するチャックが「回転するリング状」のものであるのに対し、甲1発明は、このような回転するリング状のものではない点。
(相違点2)
チャックの挿通孔に関して、本件発明は、鋼矢板を挿通する「挿通孔」が、「前記鋼矢板を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能で、且つ、前記腕部が前記鋼矢板の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板を左右対称に挿通可能である」のに対し、甲1発明は、チャック[チャック装置1]が、鋼矢板[シートパイルP]を単独で掴む把持機構[パイルチャック部2]とオーガケーシングKを単独で掴むオーガケーシングチャック部3とからなるものであって、その挿通孔がこのような鋼矢板を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能や左右対称に挿通可能なものではない点。

そこで、上記相違点につき、以下検討する。

(6-2)相違点の検討
(相違点1について)
ところで、本件の特許明細書の段落【0003】?【0004】には、
「従来、チャック機構としては、リーダーマスト前端に昇降可能に設けられ、ほぼ円筒形状のチャックフレームと、このチャックフレームに旋回可能に取り付けたチャックとから構成されるものがある。
図4に示すように、このチャック104は、鋼矢板13を内部に装填するために、上下に連通するほぼU字形状の挿通孔104aが形成され、全体形状がリング状となっている。そして、挿通孔104aに挿通された鋼矢板13を着脱自在に挟持するために、把持機構を有している。すなわち、鋼矢板13の凸面側に当接する固定爪105と、この固定爪105に対向して凹面側に当接する可動爪106とが設けられており、油圧シリンダ(図示せず)により可動爪106が固定爪105に向かう方向に移動して、鋼矢板13のフランジ13aを可動爪106で押圧することにより鋼矢板13を挟持するものである。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平6-240673号公報」との記載がある。
また、上記「【特許文献1】特開平6-240673号公報」である甲第2号証には、その段落【0002】に「【従来の技術】チャック機構は、一般に、杭圧引抜機の基台上部のマスト前端に昇降可能に設けられ、略円筒形状の本体と、この本体内に旋回可能に取付けた旋回体とから構成される。旋回体には、上下に連通する杭挿入孔を形成し、杭挿入孔内に固定爪を設け、この固定爪に対向する位置に移動爪を進退可能に設けている。固定爪及び移動爪は、杭挿入孔内に装填された杭を挟持するためのものである。」との記載がある(上記「(5-2)」の(イ)参照)。
これらの記載によれば、鋼矢板用圧入機に使用されるチャック装置を、挿通された鋼矢板を把持して回転することができるリング状ないし円筒状の形態のものと構成することは、従来より周知の技術であったということができる。
してみると、相違点1に係る本件発明の構成は、甲1発明のチャック装置に上記周知の形態のものを適用することにより、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(相違点2について)
甲第2号証には、その「第4実施例」に関する記載を見ると、甲1発明と同様の鋼矢板用圧入機[杭圧入引抜機]のチャック機構において、挿通孔[杭挿通孔44]内に可動爪45側と固定爪47側のいずれの側にも、鋼矢板[重防食杭P]のフランジ挿入部44a,44bを形成することにより、「図10に示すように、可動爪45で重防食杭Pの背側の非被覆面Pnを挟持でき、また、図11に示すように、可動爪45で腹側の非被覆面Pnを挟持できる」ようにしたこと、すなわち、その挿通孔の形態を、可動爪45と固定爪47とによる挟持部分を共有するように鋼矢板を左右対称に挿通可能ないし進行方向に対して左右どちらの向きにでも挿通可能であるように形成したことが記載されている(上記「(5-2)」の(ニ)参照)。
そうすると、甲1発明のチャック装置の挿通孔を、甲第2号証に示されたような鋼矢板を左右対称に挿通可能ないし進行方向に対して左右どちらの向きにでも挿通可能であるような形態のものと変更することは、当業者が容易に想起し得た設計上の変更であるといえる。
ところで、甲1発明のチャック装置は、鋼矢板[シートパイルP]の把持機構[パイルチャック部2]に加えてオーガケーシングKを掴むオーガケーシングチャック部をも備えるものであるから、上述の鋼矢板を左右対称に挿通可能な形態のものとその挿通孔を変更する際には、オーガケーシングチャック部の存在が阻害事由になるということもできる。
しかしながら、甲1発明のチャック装置における鋼矢板[シートパイルP]の把持機構[パイルチャック部2]とオーガケーシングKを掴むオーガケーシングチャック部とは、それぞれ単独で作動させることが可能なものとして構成されており、すなわち、その鋼矢板[シートパイルP]の把持機構[パイルチャック部2]が、オーガケーシングKやオーガケーシングチャック部が存在しなければ鋼矢板[シートパイルP]を把持することができないものと認めることができないし、また上記説示したように、鋼矢板用圧入機に使用されるチャック装置を、挿通された鋼矢板を把持して回転することができるリング状ないし円筒状のものと構成することは従来より周知の技術であった、言い換えれば、鋼矢板用圧入機における挿通された鋼矢板を把持するチャック装置を、甲第2号証に示されるようなオーガケーシングを掴むオーガケーシングチャック部を有しない形態のものと構成することも、従来より周知の技術であったということができる。
してみると、上記相違点1で説示したところの甲1発明のチャック装置に従来より周知の形態のものを適用し、当該適用に際して、その挿通孔を、甲第2号証に示されたような挟持部分を共有するように鋼矢板を左右対称に挿通可能ないし進行方向に対して左右どちらの向きにでも挿通可能であるような形態のものと変更することに格別の阻害事由があるとはいえないから、相違点2に係る本件発明の構成は、甲1発明のチャック装置に当該変更を行うことにより当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。

なお、被請求人は、答弁書(6頁14?30行)において、
「甲第2号証に記載の杭挿入孔44を備えたチャック機構41により重防食杭Pを進行方向に対して左右交互に向きを変えて圧入する場合、例えば、図10と図11に示すように、重防食杭Pの端部の位置が、可動爪45で重防食杭Pの背側の非被覆面Pnを挟持した場合と可動爪45で腹側の非被覆面Pnを挟持した場合とで連結方向と直交する方向に大きくずれるため、連結方向だけでなく連結方向と直交する方向にもチャック機構41を移動させる必要があります(参考図面:第1図参照)。
これに対し、本件発明の場合、発明特定事項H(注;相違点2に係る本件発明の構成)を備えることにより、「前記腕部が前記鋼矢板の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板を左右対称に挿通可能である」ので、鋼矢板を進行方向に対して左右に向きを変えて圧入しても連結方向にだけチャック機構2を移動しさえすればよく、鋼矢板を把持する把持機構の掴み位置を連結方向と直交する方向に移動したり、変更する必要がないため、甲第2号証のチャック機構41に比べて作業効率が向上致します(参考図面:第2図参照)。
また、本件発明の場合、特許公報の図3に示すように、2枚の鋼矢板13をそれらの凹部が向き合うように組み合わせて、組み合わされた鋼矢板13の重なった腕部13cを掴んで圧入することも可能であります。」と主張する。

確かに、被請求人が主張のように、本件発明は、甲第2号証記載の発明に比して、鋼矢板を把持する把持機構の掴み位置を連結方向と直交する方向に移動したり、変更する必要がないし、本件特許公報の図3に示すように、2枚の鋼矢板13をそれらの凹部が向き合うように組み合わせて、組み合わされた鋼矢板13の重なった腕部13cを掴んで圧入するという作用・効果を奏するものといえる。
しかしながら、甲1発明のチャック装置に上記相違点2につき説示したところの変更を行えば、必然的に、その腕部が前記鋼矢板の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板を左右対称に挿通可能である構成が得られるし、また、当該得られた構成によれば、その腕部が鋼矢板の連結方向の中心線と略直線上に重なるように鋼矢板を左右対称に挿通可能であることも当業者にとって自明な事項であるから、上記の作用効果が奏されるものとなることも当業者が普通に予測し得ることといわざるを得ない。

(6-3)まとめ
以上検討したとおり、本件発明の奏する効果も、甲第1号証及び甲第2号証の記載事項から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものということができない。

したがって、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

7.むすび
以上のとおり、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鋼矢板用圧入機
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に圧入した既設の鋼矢板から反力を取ることによって新たな鋼矢板を順次圧入する鋼矢板用圧入機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、既に打ち込まれた鋼矢板から反力を取って新たな鋼矢板を圧入することが可能な鋼矢板用圧入機が知られている。この圧入機は、地盤に一列に打ち込んだ鋼矢板の上部を挟持する複数のクランプを有するサドルと、サドルに前後にスライド移動可能に設けられたスライドフレームと、このスライドフレーム上に左右に旋回可能に設けられたリーダーマストと、リーダーマストの前面部に上下にスライド移動可能に設けられ、かつ、圧入すべき鋼矢板を把持可能なチャック機構とを備えている。
【0003】
従来、チャック機構としては、リーダーマスト前端に昇降可能に設けられ、ほぼ円筒形状のチャックフレームと、このチャックフレームに旋回可能に取り付けたチャックとから構成されるものがある。
【0004】
図4に示すように、このチャック104は、鋼矢板13を内部に装填するために、上下に連通するほぼU字形状の挿通孔104aが形成され、全体形状がリング状となっている。そして、挿通孔104aに挿通された鋼矢板13を着脱自在に挟持するために、把持機構を有している。すなわち、鋼矢板13の凸面側に当接する固定爪105と、この固定爪105に対向して凹面側に当接する可動爪106とが設けられており、油圧シリンダ(図示せず)により可動爪106が固定爪105に向かう方向に移動して、鋼矢板13のフランジ13aを可動爪106で押圧することにより鋼矢板13を挟持するものである。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平6-240673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、可動爪106の押圧による反作用力により、リング状のチャック104にはその周方向に曲げモーメントが生じる。しかし、従来のように、鋼矢板13のフランジ13aの両面を挟持する場合には、固定爪105と可動爪106による鋼矢板13の掴み位置と、リング状のチャック104の円周上における掴み位置から最も離れた位置(図4における×印)との距離L´が長く、チャック104に生じる曲げモーメントが大きくなっていた。その結果、この曲げモーメントに抵抗するために、チャック104の強度を大きくする必要から、その肉厚を大きくせざるを得なかった。
【0006】
また、鋼矢板13の向きを進行方向に対して左右に変えながら圧入する際に、チャック104を交互に180度回転させる動作が必要となり、作業時間が長くなるという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、鋼矢板用圧入機において、そのチャックの小型化、軽量化を図り、またチャックの回転量を少なくして作業効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、例えば図1、2に示すように、鋼矢板13を挿通する挿通孔(中間部挿通孔4a、端部挿通孔4b)が設けられ、挿通された鋼矢板13を把持して回転するリング状のチャック4を備え、把持した鋼矢板13を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機1であって、前記チャック4は、前記鋼矢板13の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構(固定爪5、可動爪6)を備え、前記鋼矢板13は、両端部の継手13d部分にフランジ13aに平行な腕部13cを有したハット形状であり、前記把持機構(固定爪5、可動爪6)が、前記腕部13cをそれぞれ個別に挟んで把持し、前記挿通孔(中間部挿通孔4a、端部挿通孔4b)は、前記鋼矢板13を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能で、且つ、前記腕部13cが前記鋼矢板13の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板13を左右対称に挿通可能であることを特徴とする。
【0009】
【0010】
このように、チャック4の把持機構が、鋼矢板13の両端部付近をそれぞれ個別に掴むことにより、把持機構による掴み位置と、リング状のチャック4の円周上における掴み位置からその外方(チャック4の中心側とは反対側)に最も離れた位置(図2における×印)との距離Lが短くなり、チャック4に生じる周方向の曲げモーメントを減少させ、チャック4を小型化、軽量化できる。また、チャック4を小型化することで、その高さ寸法も小さくでき、すなわち鋼矢板13の投入高さを低くすることができ、鋼矢板13をチャック4の挿通孔へ容易に投入することができる。
【0011】
【0012】
このように、挿通孔を鋼矢板13が進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能に形成することにより、鋼矢板13を交互に圧入するのにチャック4を180度回転させる動作が必要でなくなり、作業時間を短縮することができる。
【0013】
なお、挿通孔が鋼矢板13を左右どちら向きにも挿通できるように形成されているので、チャック4において、鋼矢板13の両端部付近それぞれに、鋼矢板13の形状に応じて、両向き併用の把持機構、又は右向き用と左向き用とを有する把持機構を備えていれば良い。
【0014】
【0015】
このように、鋼矢板13として両端部の継手13d部分にフランジ13aに平行な腕部13cを有したハット形状のものを用いれば、両腕部13cをそれぞれ個別に掴む把持機構を配して、把持機構による掴み位置と、リング状のチャック4の円周上における掴み位置からその外方に最も離れた位置(図2における×印)との距離Lを短くし、チャック4に生じる周方向の曲げモーメントを減少させ、チャック4を小型化、軽量化できる。また、鋼矢板13を左右交互に圧入する際に、把持機構の掴み位置を移動させたり変更させたりすることがないため、作業時間をさらに短縮することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鋼矢板を挿通する挿通孔が設けられ、挿通された鋼矢板を把持して回転するリング状のチャックを備え、把持した鋼矢板を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機において、チャックが鋼矢板の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構を備えているため、把持機構による掴み位置と、リング状のチャックの円周上における掴み位置からその外方に最も離れた位置との距離が短くなり、チャックに生じる周方向の曲げモーメントが小さくなり、チャックの小型化、軽量化が図れる。
また、チャックを小型化することで、その高さ寸法も小さくでき、すなわち鋼矢板の投入高さを低くできるため、チャックの挿通孔への鋼矢板の投入作業が容易となる。
また、挿通孔を、鋼矢板を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能とすれば、鋼矢板を交互に圧入するのにチャックを180度回転させる動作が不要となり、作業効率の向上が図れる。
また、鋼矢板が、両端部の継手部分にフランジに平行な腕部を有するハット形状のものであれば、両腕部をそれぞれ個別に掴む把持機構による掴み位置と、リング状のチャックの円周上における掴み位置からその外方に最も離れた位置との距離を短くし、チャックに生じる周方向の曲げモーメントを減少させ、チャックの小型化、軽量化が図れる。また、鋼矢板を左右交互に圧入する際に、把持機構の掴み位置の移動、変更がないため、作業効率の向上がさらに図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
本実施の形態では、鋼矢板用圧入機1(以下、単に圧入機1という。)として、既設の鋼矢板13から反力を取って、この既設鋼矢板13に連結して新たな鋼矢板13を圧入して埋設するとともに、埋設された鋼矢板13上を移動して新たに鋼矢板13を地盤に圧入し、これらの動作を順次繰り返す圧入機1を例に挙げて説明する。
【0018】
本実施の形態において、圧入機1によって圧入される鋼矢板13として、図2に示すように、断面ほぼU字形状としつつ両端部の継手13d部分にフランジ13aに平行な腕部13cを有するハット型鋼矢板を用いている。具体的には、鋼矢板13は、フランジ13aと、このフランジ13aに接続される外側に傾斜した二つのウェブ13bと、各ウェブ13bに接続されフランジ13aに平行な腕部13cと、各腕部13cの外端部に設けられた継手13dとを備えている。
【0019】
まず、この鋼矢板13を圧入する圧入機1の構成について説明する。
図1に示すように、圧入機1は、機械本体部8と、機械本体部8の前面側で昇降自在に支持されるチャック機構2とを有している。
【0020】
機械本体部8は、既設の鋼矢板13を掴む四つのクランプ10を有するサドル9と、サドル9に対して前後に移動可能に設けられ、かつ、サドル9上で旋回するリーダーマスト11とを備えている。
【0021】
クランプ10は、サドル9から垂下して前後に四つ取り付けられている。そして、クランプ10を駆動することで、クランプ10は既設の鋼矢板13を掴む動作及び既設の鋼矢板13を放す動作を行うことができる。
【0022】
リーダーマスト11は、サドル9に対して前後に移動自在であるスライドフレーム上に立設されて、鉛直方向の軸心を中心にして旋回可能となっている。また、リーダーマスト11の前面側には、上下に延在する一対のレール11aが左右に離間して設けられ、このレール11aにチャックフレーム3に設けられた摺動部材3aが摺動自在に係合することでチャック機構2が機械本体部8に対し昇降自在に支持されている。
【0023】
さらに、リーダーマスト11には、チャック機構2側に延出された左右一対の上下油圧シリンダ装置12が上下に向けてかつ左右に離間して取り付けられている。そして、上下油圧シリンダ装置12の下端部は、アーム11bの先端に連結されており、上下油圧シリンダ装置12の駆動によりシリンダロッドが伸縮することでチャック機構2はレール11aに沿って上下動する。
【0024】
図2に示すように、チャック機構2は、ほぼ円筒形状のチャックフレーム3と、このチャックフレーム3に対してその中心を通る鉛直軸回りに旋回可能に設けられたチャック4とを備えている。
【0025】
チャック4は、新たに圧入する鋼矢板13を掴むリング状のものである。チャック4内には、鋼矢板13が挿通される挿通孔が形成されている。挿通孔は、鋼矢板13のフランジ13a及びウェブ13bが挿通する中間部挿通孔4aと、鋼矢板13の両継手13dが挿通する二つの端部挿通孔4bとが形成され、鋼矢板13の腕部13cを挿通するために、中間部挿通孔4aと端部挿通孔4bが連通されている。各挿通孔は、鋼矢板13を圧入する際に、鋼矢板13の連結方向の中心線に対して対称となるようにほぼ楕円形状に形成されている。
【0026】
このように、各挿通孔が、圧入機の進行方向に対して、すなわち鋼矢板13の連結方向の中心線に対して、対称的に形成されているので、鋼矢板13を左右どちらの向きでも挿通可能となり、鋼矢板13を交互に圧入する場合にチャック4を180度回転させる動作が不要となり、作業時間の短縮が可能である。
【0027】
また、チャック4には、挿通孔に挿通された鋼矢板13の両腕部13cをそれぞれ個別に着脱自在に掴んで圧入するための固定爪5(把持機構)と、可動爪6(把持機構)とが二つづつ設けられている。そして、可動爪6を油圧シリンダ7によって駆動することで、鋼矢板13の各腕部13cを掴む動作及び放す動作を行うことができる。
【0028】
ここで、従来のチャック104は、図4に示すように、鋼矢板13のフランジ13aを掴むことで、固定爪105と可動爪106とによる掴み位置と、リング状のチャック104の円周上における掴み位置から最も離れた位置(図4中、×印)との距離L´が長く、固定爪105と可動爪106との円弧状の距離が長くなっていたため、チャック104に強度を持たせるためにその厚みが大きくなっていた。しかし、本実施の形態のチャック4によれば、図2に示すように、その固定爪5及び可動爪6が鋼矢板13の両端部の腕部13cをそれぞれ個別に掴むことにより、それぞれの固定爪5及び可動爪6とによる掴み位置と、リング状のチャック4の円周上における掴み位置(図2中、×印)との距離Lが従来に比べ短くなる(L<L´)。よって、チャック4が鋼矢板13を押圧した際に生じる周方向の曲げモーメントが小さくなり、チャック4を小さく、軽くすることができる。
【0029】
また、固定爪5と可動爪6とが、鋼矢板13の両側の各腕部13cを掴むように構成されているので、進行方向の先端部近くを掴むことになり、コントロールが容易で、精度の良い圧入が可能となる。
【0030】
次に、上述した鋼矢板用圧入機1の動作について図1に基づいて説明する。
まず、クランプ10が既設の鋼矢板13を掴んで既設の鋼矢板13から反力を取った状態で、新たな鋼矢板13をチャック4の挿通孔に挿通して、チャック4が鋼矢板13の両腕部13cを把持する。すなわち、油圧シリンダ7の駆動により可動爪6が固定爪5に向かう方向に移動することによって、可動爪6及び固定爪5が鋼矢板13の腕部13cの各面に当接し両側から押圧して挟持する。
【0031】
本実施の形態の圧入機1によれば、チャック4の高さ寸法が小さくなり、鋼矢板13の投入高さを低くすることができるため、鋼矢板13をチャック4の挿通孔へ容易に投入することができる。
【0032】
この状態で、上下油圧シリンダ装置12がチャック機構2を下降させることによって、鋼矢板13を圧入し、チャック4の下方への移動量が所定量に達して鋼矢板13を埋設すると、チャック4が鋼矢板13を放す。すなわち、油圧シリンダ7の駆動により可動爪6が固定爪5から離れる方向に移動することによって鋼矢板13の各腕部13cを放す。そして、上下油圧シリンダ装置12がチャック機構2を上昇させることによって、鋼矢板13をチャック機構2から外す。
【0033】
次いで、サドル9に対してスライドフレームが前方に移動して、チャック4はそのまま旋回することなく、上記したのと同様に、次に圧入する鋼矢板13を掴み、上下油圧シリンダ装置12によってチャック機構2が所定量下降することで、次の鋼矢板13を途中まで圧入する。
【0034】
次いで、クランプ10が既設の鋼矢板13を放し、上下油圧シリンダ装置12が機械本体部8を上昇させ、サドル9がスライドフレームに対して前方にスライド移動する。その後、上下油圧シリンダ装置12が機械本体部8を下降させる。そして、クランプ10部が前方の既設の鋼矢板13を掴んで反力を取り、チャック機構2で前記鋼矢板13を掴んで同時に圧入する。すなわち、再び、チャック4が前記鋼矢板13を掴み、チャック機構2が所定量下降することで、鋼矢板13が最後まで圧入されて埋設される。このように、上記工程を繰り返すことで、新たな鋼矢板13が順次圧入されていく。
【0035】
また、鋼矢板13を進行方向に対して左右交互に圧入する際にも、把持機構の掴み位置を移動したり、変更したりすることがないため、作業時間をさらに短縮することができる。さらに、図3に示すように、2枚の鋼矢板13をそれらの凹部が向き合うように組み合わせて、組み合わされた鋼矢板13の重なった腕部13cを掴んで圧入することも可能である。
【0036】
なお、以上の実施の形態においては、把持機構として、固定爪、可動爪及び油圧シリンダから構成していたが、例えば、鋼矢板の両端部を掴む一対の油圧シリンダ2組からなる構成としても構わない。
さらに、固定爪、可動爪もハット型鋼矢板の腕部を挟持可能であればその形状等は任意である。その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態の鋼矢板用圧入機の概ほぼ側面図である。
【図2】本発明の実施の形態の鋼矢板用圧入機におけるチャックを示す平面図である。
【図3】鋼矢板を組み合わせた状態を説明する図である。
【図4】従来の鋼矢板用圧入機におけるチャックを示す平面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 鋼矢板用圧入機
2 チャック機構
3 チャックフレーム
3a 摺動部材
4 チャック
4a 中間部挿通孔
4b 端部挿通孔
5 固定爪(把持機構)
6 可動爪(把持機構)
7 油圧シリンダ
8 機械本体部
9 サドル
10 クランプ
11 リーダーマスト
11a レール
11b アーム
12 上下油圧シリンダ装置
13 鋼矢板
13a フランジ
13b ウェブ
13c 腕部
13d 継手
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板を挿通する挿通孔が設けられ、挿通された鋼矢板を把持して回転するリング状のチャックを備え、把持した鋼矢板を下降させて圧入する鋼矢板用圧入機であって、
前記チャックは、前記鋼矢板の両端部付近をそれぞれ個別に掴む把持機構を備え、
前記鋼矢板は、両端部の継手部分にフランジに平行な腕部を有したハット形状であり、
前記把持機構が、前記腕部をそれぞれ個別に挟んで把持し、
前記挿通孔は、前記鋼矢板を進行方向に対して左右どちらの向きでも挿通可能で、且つ、前記腕部が前記鋼矢板の連結方向の中心線と略直線上に重なるように前記鋼矢板を左右対称に挿通可能であることを特徴とする鋼矢板用圧入機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-03-01 
結審通知日 2007-03-05 
審決日 2007-03-19 
出願番号 特願2004-291407(P2004-291407)
審決分類 P 1 113・ 832- ZA (E02D)
P 1 113・ 121- ZA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 小山 清二
柴田 和雄
登録日 2005-12-02 
登録番号 特許第3746508号(P3746508)
発明の名称 鋼矢板用圧入機  
代理人 田中 幹人  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 博司  

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