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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1157789
審判番号 不服2005-16155  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-24 
確定日 2007-05-17 
事件の表示 平成10年特許願第175218号「柱脚用ベースプレート」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月11日出願公開、特開2000- 8494〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年6月22日の出願であって、平成17年7月21日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月13日付で手続補正がなされたものである。

2.平成17年9月13日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年9月13日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「角形等の閉鎖断面を有する鉄骨柱の下端部に溶接され、周辺部に形成
された挿通孔を介して基礎コンクリートに定着されたアンカーボルトを挿通して締付固定することにより前記鉄骨柱を基礎コンクリートに対して固定する鋳造製の柱脚用ベースプレートにおいて、そのベースプレートの前記鉄骨柱との結合部を全面が平坦面に形成された周囲の面と同じ高さに設定するとともに、同結合部の内側に開口部を形成して溶接に伴う熱を内側から放熱するように構成して、ベースプレートの板厚を鉄骨柱の中間材として強度的に必要とされる板厚にしたことを特徴とする鋳造製の柱脚用ベースプレート。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「ベースプレート」について、「鋳造製の柱脚用」との限定を付加するとともに、結合部の高さを周囲の面と「ほぼ同じ高さ」から「同じ高さ」と限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-146409号公報(以下、「引用例1」という。)には、「柱脚部構造」に関して、図面とともに、以下の記載がある。
(イ)「【0006】
【実施例】本発明の実施例を図面によって説明する。図1、2は本発明の第1実施例を示し、本実施例は鉄骨造の建物の柱脚部の構造であり、鉄骨柱としてはBOX形の閉鎖断面柱を立設する場合を示す。柱脚金物1には、その4隅にアンカーボルト7が貫通するボルト穴1aが設けられており、中央部に作業穴1bが設けられている。柱脚金物1は鋳鋼又は鍛鋼によって形成することができる。柱脚金物1上には、鉄骨柱3と実質的に同一の断面形状を有する接合部材2が溶接Wによって接合されている。接合部材2の内側には溶接用の裏当金1cをあらかじめ配置しておく。接合部材2としては、例えば鉄骨柱3を一部切断することによって製造することができる。接合部材2の側面から鉄骨柱3の下部側面にかけての内外面には、内外一対のプレート4が接合部材2と鉄骨柱3とを挟着するように掛け渡されており、プレート4と接合部材2及びプレート4と鉄骨柱3の下部とは、ボルト5及びナット6によって締結されている。この締結作業は、柱脚金物1の作業穴1bを利用して行う。なおこの作業穴1bは、柱脚金物1の内部に雨水が溜まった場合の雨水を抜くための穴にも利用できる。
【0007】本実施例は以上のように構成されており、この柱脚部構造は以下の手順で組み立てられる。まず工場内で柱脚金物1と接合部材2とを機械溶接によって溶接Wし、溶接された柱脚金物1と接合部材2のほか、鉄骨柱3をも建築現場に搬送し、現場において両者をプレート4を介してボルト締結し、しかる後柱脚金物1及び接合部材2と締結した鉄骨柱3を立設し、アンカーボルト7とボルト締結して基礎コンクリート8に固定する。したがってこの柱脚部構造によれば、現場で人間によって溶接するときに比べて溶接作業が軽減され、溶接の品質は安定し、鉄骨柱の搬送は積み荷がかさばらないので運搬回数が減り、接合部材と鉄骨柱との締結作業には補助板等の隙間調整板が不要となる。したがってプレートと接合部材及び鉄骨柱の下部とのボルト締めが容易になり、且つ隙間調整板がない分ボルト締結が確実となる。」

これらの記載及び図面の内容を総合すると、引用例1には、
「角形等の閉鎖断面柱を有する鉄骨柱3を一部切断することによって製造された接合部材2の下端部に溶接され、周辺部に形成されたボルト孔1aを介して基礎コンクリート8に定着されたアンカーボルト7を挿通して締付固定することにより前記接合部材2及び鉄骨柱3を基礎コンクリート8に対して固定する鋳鋼によって形成する柱脚金物において、その柱脚金物の接合部材2との結合部を設けるとともに、同結合部の内側に雨水を抜くため、あるいは作業のための作業穴1bを形成した鋳鋼によって形成する柱脚金物。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認めるられる。

(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「ボルト孔1a」、「基礎コンクリート8」、「アンカーボルト7」及び「鋳鋼によって形成する柱脚金物」は、本願補正発明の「挿通孔」、「基礎コンクリート」、「アンカーボルト」及び「鋳造製の柱脚用ベースプレート」にそれぞれ相当する。また、引用例1発明の「鉄骨柱3を一部切断することによって製造された接合部材2」及び「鉄骨柱3」は、図面を参酌すると接合部材2と鉄骨柱3が一体となって鉄骨柱を構成することから、本願補正発明の「鉄骨柱」に相当するといえる。また、本願補正発明の「開口部」と引用例1発明の「雨水を抜くため、あるいは作業のための作業穴1b」とは、結合部の「内側に形成された開口部」である点で共通する。
そうすると、両者は、
「角形等の閉鎖断面柱を有する鉄骨柱の下端部に溶接され、周辺部に形成された挿通孔を介して基礎コンクリートに定着されたアンカーボルトを挿通して締付固定することにより、前記鉄骨柱を基礎コンクリートに対して固定する鋳造製の柱脚用ベースプレートにおいて、そのベースプレートの前記鉄骨柱との結合部を設けるとともに同結合部の内側に開口部を形成した柱脚用ベースプレート」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
相違点1
鋳造製の柱脚用ベースプレートの鉄骨柱との結合部を、本願補正発明では、全面が平坦面に形成された周囲の面と同じ高さに設定しているのに対して、引用例1発明では、周囲の面が平坦面ではなく、本願補正発明のような位置に設定していない点。
相違点2
結合部の内側に形成した開口部が、本願補正発明では、溶接に伴う熱を内側から放熱するように構成しているのに対して、引用例1発明では作業用あるいは雨水を抜くためという目的は読み取れるものの、溶接に伴う熱を内側から放熱するようなものなのかどうか明らかでない点
相違点3
ベースプレートの板厚を、本願補正発明では、鉄骨柱の中間材として強度的に必要とされる板厚にしたのに対して、引用例1発明では、中間材として用いられているものの、どのような板厚にしたのか明示されていない点。

(4)判断
相違点1について
ベースプレートと鉄骨柱とを溶接により結合する場合に、その結合部を全面が平坦面に形成された周囲の面と同じ高さに設定することは、実願平2-65055号(実開平4-23716号)のマイクロフィルム(第2頁第9-12行、第6?8図)、特開平7-229210号公報、特開平6-306943号公報等に記載されているように従来から周知である。
そして、引用例1発明のベースプレートの鉄骨柱との結合部を、上記周知の結合部のように構成し、本願補正発明のようにすることは当業者であれば容易になし得ることである。

ところで、審判請求人は、審判請求書の中でベースプレートの形状とその効果に関して、「「ベースプレートの鉄骨柱との結合部の周囲全面を平坦面に形成した」場合には、結合部の周囲がアンカーボルトの挿通孔を除いて均一断面となるので、溶接時のべ-スプレートを通じた外側への熱伝導、延いては放熱冷却がより平均化される結果、引用文献1のように結合部の周囲が偏断面の板厚が不均一なものに比べて溶接熱による熱変形を減少させることができる。」旨主張している。
ここでは、本願補正発明のベースプレートが「結合部の周囲がアンカーボルトの挿通孔を除いて均一断面」となっていることを理由に上記効果があることを述べているが、本願補正発明に係る請求項1には、「全面が平坦面に形成された周囲の面」という限定はあるものの「結合部の周囲がアンカーボルトの挿通孔を除いて均一断面」とする限定はなく、また「全面が平坦面に形成された周囲の面」との限定により、ベースプレートが「結合部の周囲がアンカーボルトの挿通孔を除いて均一断面」となるとは必ずしもいえるものではない。
ちなみに、本願補正発明の実施例として示した図1ないし7をみると、結合部の周囲の面が平坦面に形成されてはいるが、ベースプレートの周辺部位に至るにしたがって断面が小さくなるように形成されたものが記載されており、更に、開口部の周囲がベースプレートの一部であると解するならば、図5ないし7には、ベースプレートが結合部の内側の中心に近づくにしたがって断面が小さくなるように形成されたものが記載されているのであって、これらの部位が、上記「結合部の周囲がアンカーボルトの挿通孔を除いて均一断面」であるとはいえない。
よって、上記主張は、請求項の記載に基づくものではなく、また本願補正発明の実施例の記載とも整合するものではないので、採用することができない。

相違点2について
引用例1発明には、結合部の内側に開口部が形成されているのであるから、その機能として溶接熱の関連性が明示されていなくとも、結合部と開口部の位置関係を考慮すれば、本願補正発明と同様に開口部において溶接に伴う熱を内側から放熱するものであることは自明の事項であるといえる。

相違点3について
ベースプレートの板厚を決定する場合に、ベースプレートの材質や形状、鉄骨柱にかかる力等を考慮して、強度的に必要とされる板厚を確保して設計するのが通常であるから、本願補正発明のように全面が平坦面に形成されたり、結合部の内側に開口部を形成する場合においても、このような事項を考慮して、鉄骨柱の中間材として強度的に必要とされる板厚とすることは、適宜なし得ることである。

ところで、審判請求書において、「請求項1に係る本願発明によれば、ベースプレートの中央部に開口部を形成した点と結合部の周囲を平坦面とした点との組合わせにより、一方で、上面が平坦面のベースプレートの鋳造時における中央部に集中する熱に基づく熱変形の問題を解消できるとともに、他方で、溶接時における熱変形を、中央開口部からの放熱と、周囲が均一断面のベースプレートを通じた均一的な放熱によって効果的に抑制することが可能となり両者相俟って上面を平坦面に形成した鋳造製の柱脚用ベースプレートの実用化を可能なものとしている。」旨主張している。
しかしながら、鋳造時における中央部に集中する熱に基づく熱変形の問題は、引用例1発明の鋳造製ベースプレートも鋳造時に開口部を形成させているのであるから、本願補正発明と同様に解消しているものといえ、また溶接の際の中央開口部からの放熱については、上記「相違点2について」でも説示したように、このような効果を奏していることは自明の事項といえる。また、「周囲が均一断面のベースプレートを通じた均一的な放熱」という効果は、上記「相違点1について」で説示したように、本願補正発明に係る請求項1には、ベースプレートに「均一断面」との限定がないのであるから、このような構成に基づく効果の主張は採用することができない。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1発明の記載及び周知事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年9月13日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年6月3日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「角形等の閉鎖断面を有する鉄骨柱の下端部に溶接され、周辺部に形成された挿通孔を介して基礎コンクリートに定着されたアンカーボルトを挿通して締付固定することにより前記鉄骨柱を基礎コンクリートに対して固定する柱脚用のベースプレートにおいて、そのベースプレートの前記鉄骨柱との結合部を全面が平坦面に形成された周囲の面とほぼ同じ高さに設定するとともに、同結合部の内側に開口部を形成して溶接に伴う熱を内側から放熱するように構成して、ベースプレートの板厚を鉄骨柱の中間材として強度的に必要とされる板厚にしたことを特徴とする柱脚用ベースプレート。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、「ベースプレート」の限定事項である「鋳造製の柱脚用」との構成を省くと共に、結合部の高さを周囲の面と「同じ高さ」から「ほぼ同じ高さ」としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-16 
結審通知日 2007-03-20 
審決日 2007-04-02 
出願番号 特願平10-175218
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
P 1 8・ 575- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 家田 政明  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 西田 秀彦
宮川 哲伸
発明の名称 柱脚用ベースプレート  
代理人 福島 英一  
代理人 福島 英一  
代理人 福島 英一  

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