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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1157812
審判番号 不服2006-18951  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-30 
確定日 2007-05-17 
事件の表示 平成 9年特許願第321643号「水浄化法及び水浄化システム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月15日出願公開、特開平11-156383〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成9年11月21日の出願であって、平成17年12月16日付けで拒絶理由が通知されたが、応答がなく、平成18年6月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月28日に手続補正がなされたものである。

2.平成18年9月28日付け手続補正についての補正却下の決定

2-1.補正却下の決定の結論
平成18年9月28日付け手続補正を却下する。

2-2.理由
2-2-1.補正の内容
本件補正は、補正前の願書に最初に添付した明細書の【請求項1】を削除し、補正前の【請求項2】を次のとおり補正することを含むものである。
「【請求項1】 水中の藻などの水中生物を水中生物駆除剤を用いて駆除し、その駆除した水中生物を凝集剤で凝集し、その凝集した水中生物を微生物で分解させて水を浄化させることからなる水浄化法において、凝集した水中生物を沈降剤で沈降し、その沈降した水中生物を水流発生装置で表層水を底層部分に噴出させながら好気性微生物で分解させ、水中生物駆除剤を該凝集剤に対して10対1 から1 対1,000 までの範囲内の割合で使用し、また該微生物を凝集した水中生物1 kgに対して10gから2,000 gまでの範囲で使用することを特徴とする水浄化法。」

2-2-2.補正の適否
上記【請求項1】についての補正は、願書に最初に添付した明細書の範囲内でしたものといえ、補正前の【請求項2】に、「凝集した水中生物を沈降剤で沈降し、その沈降した水中生物を水流発生装置で表層水を底層部分に噴出させながら好気性微生物で分解させ」なる特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とした補正に該当する。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けられるものであるかについて検討する。

2-2-3.独立特許要件についての検討
(ア)引用文献及び引用文献の記載
(1)原審で引用した、特開平6-7768号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-ア)「【請求項1】 比較的浅い湖・沼・池又は河川などの適所の水中に、直立設置した揚水筒内に上昇水流を発生させ、この上昇水流を利用して固形物処理剤を付近の水中に拡散させることにより、前記揚水筒を中心とする水域の水を上下対流循環流動させる過程において、前記固形物処理剤を全水域に拡散させて固形物を処理することを特徴とした浅水域における淨水方法。
【請求項2】 固形物処理剤を凝集剤又は殺藻剤とした請求項1記載の浅水域における淨水方法。
【請求項3】 凝集剤又は殺藻剤は、単独又は同時に拡散させ、又は個別に順次供給して拡散させた請求項2記載の浅水域における淨水方法。
【請求項4】 凝集剤はポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム又はその他の高分子凝集剤とした請求項2記載の浅水域における淨水方法。
【請求項5】 殺藻剤は硫酸銅又は塩化銅とした請求項2記載の浅水域における淨水方法。」(【特許請求の範囲】)
(1-イ)「前記水深が大きい場合には、・・・斯る装置は、何れも表層の水と、深層の水とが対流することによって、表層に多生する藻類を水底側深層の暗所に送り込み、その繁殖を防ぎ、殺藻と酸素の供給との目的を達成することができた。・・・然るに浅水域に揚水筒を設置し、水を対流させても、水面の藻類が若干下方へ移るだけで、これを死滅させることは不可能である。また汚水の大部分は水中に微細固形物が浮遊している為であるが、これを効率よく沈殿させる手段がなく、かつ酸欠改善の手段もなかった。」(段落【0003】、【0004】)
(1-ウ)「そこでこの発明は、・・・揚水筒によって水を循環流動させる過程で凝集剤又は殺藻剤、或いは凝集剤と殺藻剤とを拡散させることにより、浮遊固形物を沈澱させ、又は固形物を沈澱させると共に、藻類を死滅させて、比較的容易に淨水目的を達成したものである。」(段落【0008】)
(1-エ)「尚、殺藻剤の濃度は0.22 ppm?1.0 ppmが適当である。この程度の濃度ならば、魚などを殺すことなく、殺藻目的を達成することが確認された。」(段落【0014】)
(1-オ)「即ちこの発明によれば、凝集剤又は殺藻剤を同時又は別々に広範囲、かつ均等に拡散させるので、水中の微細固形物が沈澱し、藻類が死滅し、かつ間欠的に発生する上昇水流による上下対流循環作用により、水中の溶存酸素量を増加させることができる。」(段落【0015】【作用】)
(1-カ)「前記複合筒2を構成する円筒1の薬注ホース32へ適量(例えば10?30 ppmの濃度)の凝集剤(例えば塩化アルミニウム)を凝集剤槽60から供給すれば、前記矢示48、48aのように水が拡散するのにつれて凝集剤も拡散し、水中の浮遊固形物を有効に団粒化して沈澱させることができる。前記凝集剤に代えて殺藻剤を供給すれば、同様の水流作用により均一に拡散させ、浮遊藻類を死滅させ、これを沈澱させることができる。図中61はコンプレッサーである。」(段落【0018】)
(1-キ)「即ちこの発明によれば、揚水筒による揚水の対流循環を利用した殺藻剤および凝集剤を拡散させるので、曝気と同時に薬剤を拡散し、溶存酸素量の増大と、微細固形物の沈澱および藻類の死滅によって容易に淨水し得る効果がある。」(段落【0026】【作用】)

(2)原審で引用した、特開平7-116642号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-ア)「この発明は、水質汚染により発生するアカ潮、アオコなどを分解消滅し、悪臭の発生を無くし水質を改善できる水質浄化液の製造方法。」(段落【0001】【産業上の利用分野】)
(2-イ)「事前に測定した水質汚濁度あいにより、糖蜜類にキトサン類をよく混合し、これと同量の好気性、嫌気性の有効微生物群を培養した液を混合して10?20回攪拌し、処理しようとする汚濁した水で希釈して2時間以上放置する。」(段落【0004】【課題を解決するための手段】)
(2-ウ)「水質汚濁により発生するアカ潮やアオコなどは、ほとんどが有機物質であるため、好気性と嫌気性の有効微生物群の働きとキトサン類の働きにより急速な醗酵分解が始まり水表面に浮上しているアカ潮やアオコは早ければ1?2時間で結合がきれてバラバラの状態になり水中に沈みさらに分解する。」(段落【0005】【作用】)
(2-エ)「また閉鎖水域で使用する場合は、人工的に緩やかな流れを作り、時間を掛けて滴下する方法をとれば経済的効果をも期待できる。魚介類の成育にも良い結果が出ており、養殖場などの水質改善にも効果が発揮できる。」(第2欄第30行?第33行、段落【0007】)

(3)特開昭62-83011号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(3-ア)「浮遊物の凝集剤である硫酸アルミニウム及び、凝集、沈降効果のある炭酸カルシウムと、更に沈降剤である珪素化合物(・・・)からなり、硫酸アルミニウムと炭酸カルシウムの重量配合比は3対1であり、その配合物が珪素化合物を含めた沈降剤重量の10重量%?80重量%であることを特徴とするアオコ及び赤潮の沈降剤。」(特許請求の範囲、第1項)
(3-イ)「植物性プランクトンを含む藻草を水面上から水面下に沈降させるためには、まず、微細な藻類を集合させ、さらに沈降させることが必要である。従って、本発明の目的に適合する沈降剤は、藻類の凝集効果と、凝集物の沈降効果を併せもつことが必要である。」(第2頁左上欄第16行?右上欄第1行)
(3-ウ)「硫酸アルミニウムからは水酸化アルミニウムを生じ、カルシウム塩からは水に難溶性の硫酸カルシウムが生成して、藻類を凝集させるとともに沈降させることが可能となる。この場合珪酸塩化合物が共存することにより沈降をより迅速かつ確実にすることができる。」(第2頁左下欄第2行?第7行)

(4)特開平8-103798号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(4-ア)「【請求項1】 池沼の表層水を池沼の低層域に注入するようにした水質浄化装置において、水面近傍の水を吸引加圧して、噴水ノズルから噴出する噴水曝気手段と、該噴出曝気手段から噴出された水を受ける受水手段と、池沼の低層域付近に導水板が設けられた吐出部と、前記受水手段と前記吐出部をつなぐとともに上方よりも下方の断面積が大きい導水管とからなることを特徴とする水質浄化装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(4-イ)「 本発明は、農業用水溜池のような小規模な湖沼池の水質浄化を図るに適した水質浄化装置に関する。さらに詳細には、本発明は、植物性プランクトンを多く含み、また溶存酸素量の多い表層水を低層域に供給することによって湖沼池の水質を浄化する装置に関する。」(段落【0001】【産業上の利用分野】)
(4-ウ)「従来から、水の溶存酸素量を増加させる方法として、曝気噴水や水中撹拌装置がある。・・・そのほとんどは、低層域の水を表層域へ移動する方向への水流を発生している。・・・底泥から溶出している栄養塩類および成長促進物を、直接表層域の植物性プランクトンに供給してしまう・・・恐れがある。」(段落【0010】、【0011】)
(4-エ)「そこで本発明では、上記問題点を解決するため、表層で取り込んだ水温の高い水が、水温の低い低層域からすぐに対流上昇してしまうことを防ぐことで、閉鎖水域の低層域の溶存酸素量を確保して底泥からの栄養塩類などの成長促進物の溶出を抑えるとともに、表層水を低層域で急激に放出しないようにすることによって過度の撹拌が引き起こされず、表層域の植物性プランクトンに低層域の栄養塩類および成長促進物が供給されることを抑え、十分な水質浄化を図る水質浄化装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、表層域に発生したアオコなどの植物性プランクトンをこれらが生活するのに適さない低層域に移送することで増殖を抑制し、植物性プランクトンを減少させるようにした水質浄化装置を提供することを目的とする。」(段落【0012】、【0013】)
(4-オ)「また、底泥表層および低層域での好気性生物の活動を可能とし、水域の自浄作用を回復させることができる。」(段落【0034】)
(4-カ)「加えて、植物性プランクトンの多い表層水を取り込み、ポンプで加圧後、植物性プランクトンの活動に適さない低層部へ移送するので、底層部に送られた植物性プランクトンは死滅し、それらの異常増殖を抑制することができる。」(段落【0038】)

(イ)対比・判断
摘示事項(1-ア)には、「水中に、直立設置した揚水筒内に上昇水流を発生させ、この上昇水流を利用して固形物処理剤を付近の水中に拡散させることにより、前記揚水筒を中心とする水域の水を上下対流循環流動させる過程において、前記固形物処理剤を全水域に拡散させて固形物を処理する、浅水域における淨水方法」、及び該「固形物処理剤」は「凝集剤又は殺藻剤」であり、摘示事項(1-ア)及び(1-ウ)を併せてみると、「凝集剤及び殺藻剤」を併用することが記載されているといえる。また、処理対象の固形物は、摘示事項(1-ウ)及び(1-オ)からみて、「凝集剤」で「水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱」させ、「殺藻剤」で「浮遊藻類を死滅させ沈澱させる」ものであるといえる。ここで、「凝集剤及び殺藻剤」を併用する場合には、「殺藻剤で死滅した浮遊藻類」も処理すべき一種の「水中の浮遊固形物」であると解されるから、「凝集剤」は、「死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱」させる作用を有するといえる。
これらの記載を本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には「水中に、直立設置した揚水筒内に上昇水流を発生させ、この上昇水流を利用して凝集剤及び殺藻剤を付近の水中に拡散させることにより、前記揚水筒を中心とする水域の水を上下対流循環流動させる過程において、前記凝集剤及び殺藻剤を全水域に拡散させて、殺藻剤で浮遊藻類を死滅させ、凝集剤で、死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱させる、浅水域における淨水方法」の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、本願補正発明と引用1発明とを対比すると、後者の「浮遊藻類」、「殺藻剤」、「浮遊藻類を死滅」、「浅水域における淨水方法」は、それぞれ前者の「水中の藻などの水中生物」、「水中生物駆除剤」、「駆除」、「水浄化法」に相当する。また、引用1発明も揚水筒とそれに付属する装置を用いて上昇水流を発生させており、本願補正発明も「水流発生装置」で当然、水流を発生させているから、引用1発明における、「水中に、直立設置した揚水筒内に上昇水流を発生」させ、「揚水筒を中心とする水域の水を上下対流循環させる」ことは、本願補正発明の「水流発生装置」で水流を発生することに相当するといえる。
また、引用1発明における「凝集剤で、死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱させる」ことについてみると、本願補正発明は、「駆除した水中生物を凝集剤で凝集」するとしているが、対象とする水は「湖沼、池、貯水池」等であって引用1発明と共通しており、このような水に凝集剤を添加すれば、本願補正発明においても「駆除した水中生物」だけでなく、水中に存在する浮遊固形物も団粒化、沈澱するが、本願補正発明は「駆除した水中生物」のみに着目して発明特定事項とされていると解される。そうすると、引用1発明における「凝集剤で、死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱させる」ことは、本願補正発明における「駆除した水中生物を凝集剤で凝集」することに相当するといえる。
さらに、引用1発明は、摘示事項(1-オ)及び(1-キ)に記載されるとおり、「上下対流循環作用により、水中の溶存酸素量を増加」させて浄水するものであり、溶存酸素量を増加させると好気性微生物が活性化されて水中の有機物を分解して浄水が行われることは当業界において良く知られたことであるから、引用1発明も「好気性微生物で」「水を浄化する」ものであるといえる。
したがって、両者は「水中の藻などの水中生物を水中生物駆除剤を用いて駆除し、駆除した水中生物を凝集剤で凝集し、微生物で分解させて水を浄化させることからなる水浄化法において、水流発生装置で水流を発生させながら、好気性微生物で水を浄化する、水浄化法。」である点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点a;本願補正発明は、凝集剤で「凝集した水中生物を沈降剤で沈降」するのに対して、引用1発明は、凝集剤で「団粒化して沈澱させる」ものであって、沈降剤を用いていない点

相違点b;本願補正発明は、「凝集した水中生物」、「沈降した水中生物」を「好気性微生物」で分解させるものであり、「好気性微生物を凝集した水中生物1kgに対して10gから2,000gまでの範囲で使用」するのに対し、引用1発明は、好気性微生物を添加するものではく、かつ、好気性微生物は「水を浄化」するものである点

相違点c;本願補正発明は、水流発生装置で「表層水を底層部分に噴出させる」のに対し、引用1発明は、「上昇水流を発生させ」るものである点

相違点d;本願補正発明は、「水中生物駆除剤を凝集剤に対して10対1から1対1000までの範囲内の割合で使用」するのに対して、引用1発明は、「殺藻剤」と「凝集剤」の使用割合について特定していない点。

相違点aについて検討する。
摘示事項(3-ア)には、「凝集剤である硫酸アルミニウム、及び、炭酸カルシウムと珪素化合物からなる、アオコ等の浮遊物の沈降剤」が開示されており、摘示事項(3-イ)及び(3-ウ)からみて、前記沈降剤を構成する珪素化合物は、凝集物の沈降効果を高める「沈降剤」であるといえる。よって、引用文献3には、アオコ等の浮遊物の沈降剤として、凝集剤と沈降剤を含む剤が開示されているといえる。
そうすると、引用1発明において、凝集剤で、死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱させる際に、団粒化したものの沈降効果を高めるために、凝集剤に加えて沈降剤を用いることは当業者が容易に想到し得ることである。
相違点bについて検討する。
引用1発明において、「凝集剤で、死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱」させた沈殿物に含まれる、「死滅した浮遊藻類」は好気性微生物が分解し得る有機物であると解されるから、引用1発明においても、「上下対流循環作用により、水中の溶存酸素量を増加」することによって、好気性微生物は沈澱した「死滅した浮遊藻類」、すなわち「凝集して、沈澱した水中生物」を分解するといえる。
そして、摘示事項(2-ア)?(2-ウ)には、アオコ等を好気性及び嫌気性微生物の培養液と、糖蜜及びキトサンを添加して分解すること、及び浮遊しているアオコ等は、発酵分解によりまずバラバラの状態となり水中に沈み、さらに水中でも分解することが開示されており、バラバラの状態となって水中に沈んだアオコ等はいずれも微生物が分解し得る有機物であると解されるから、引用文献2には、水中の有機物を好気性及び嫌気性微生物を添加して分解することが示されているといえる。
そうすると、引用1発明において、水中の有機物であるといえる、沈澱した「死滅した浮遊藻類」の好気性微生物による分解を促進するために、やはり水中の有機物を分解する微生物を添加する引用文献2に記載された微生物のうち、好気性微生物を選択して添加することは当業者が容易に想到しうることである。
また、好気性微生物の使用量は、分解しようとする物質の量に応じて、適宜決定し得ることであると解されるから、特に、沈澱した藻類に着目して、該藻類の量に対する使用量として定めることは当業者が容易に想到し得ることであって、該使用量を「凝集した水中生物1kgに対して10gから2,000gまでの範囲」とすることは、当業者が適宜決定し得ることであって、技術的困難性があるとは認められない。
そして、発明の詳細な説明をみても、好気性微生物の使用量を「凝集した水中生物1kgに対して10gから2,000gまでの範囲」とすることによって、格別顕著な効果が奏されるとは認められない。
なお、溶存酸素を増加させつつ、好気性微生物を水中に添加することにより、水中の有機物及び水底に堆積したヘドロを分解する技術は、例えば、特開平6-63577号公報、特開平4-41806号公報にも開示されており、周知の技術といえる。
相違点cについて検討する。
引用文献4には、摘示事項(4-イ)及び(4-オ)によれば、「植物性プランクトンを多く含み、溶存酸素量の多い表層水を低層域に、急激に放出しないように供給し、底泥表層および低層域での好気性生物の活動を可能とし、水質を浄化する水質浄化装置」が開示されており、摘示事項(4-ウ)及び(4-エ)によれば、「溶存酸素量を増加させる水中撹拌装置として、従来の低層域の水を表層域へ移動する方向の水流を発生するものに比較して、表層水を低層域で急激に放出しないよう撹拌する装置は、表層のアオコ等の植物プランクトンに底層域の栄養塩類を与えず異常繁殖を防ぐ点で好ましい」旨が開示されているといえる。
そして、引用1発明は、揚水筒内に上昇水流を発生させるものであって、引用文献4に記載された装置とは発生する水流の方向が逆であるといえるが、揚水筒による揚水の対流循環は溶存酸素量を増大させるものであり、かつ、摘示事項(1-キ)に記載されるとおり、溶存酸素量の増大とともに「藻類の死滅」を目的としたものであるから、引用1発明において、揚水筒によって「上昇水流を発生させ」ることに代えて、やはり低層部の溶存酸素量を増加させ、かつ、表層の藻類の異常繁殖を防ぐという作用を有する、引用文献4に記載された「表層水を低層域に、急激に放出しないように供給」する装置を採用し、「表層水を低層部分に噴出させる」ことは当業者が容易に想到し得ることである。
なお、低層部の溶存酸素量を増大させる方法として、表層水を低層部分に噴出させることは、引用文献4以外にも、例えば、特開昭62-204898号公報、実願平1-17797号(実開平2-108799号)のマイクロフィルムに開示されるとおり、当業界において周知の技術である点にも留意されたい。
相違点dについて検討する。
引用1発明は、「殺藻剤」で浮遊藻類を死滅させ、「凝集剤」で死滅した浮遊藻類及び水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱させるものである。
そうすると、「殺藻剤」と「凝集剤」の使用割合を、死滅させようとする浮遊藻類の量、及び沈澱させようとする死滅した浮遊藻類及び水中の浮遊固形物の量、さらには使用する殺藻剤及び凝集剤の種類と組合せ等に応じて、好ましい値とすることは当業者が容易に想到し得ることであり、該使用割合を「10対1から1対1000までの範囲」とすることは当業者が適宜決定し得ることであって、技術的困難性があるとは認められない。
そして、発明の詳細な説明をみても、該使用割合を「10対1から1対1000までの範囲」とすることによって、格別顕著な効果が奏されるとは認められない。
そして、上記相違点a?dの発明特定事項を採用することによって奏される明細書に記載された本願補正発明1の効果をみても、格別顕著な効果であるとは認められない。
したがって、本願補正発明1は、発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-2-4.むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成18年9月28日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項5に係る発明は、願書に最初に添付した明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】ないし【請求項5】に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項2】 水中の藻などの水中生物を水中生物駆除剤を用いて駆除し、その駆除した水中生物を凝集剤で凝集し、その凝集した水中生物を微生物で分解させて水を浄化させることからなる水浄化法において、水中生物駆除剤を該凝集剤に対して10対1 から1 対1,000 までの範囲内の割合で使用し、また該微生物を凝集した水中生物1 kgに対して10gから2,000 gまでの範囲で使用することを特徴とする水浄化法。」

4.引用文献及び引用文献の記載
原審で引用した、特開平6-7768号公報(引用文献1)、原審で引用した、特開平7-116642号公報(引用文献2)には、上記「2-2-3.(ア)」で記載したとおりの事項が記載されている。

5.対比・判断
上記「2-2-3.(イ)」で述べたとおり、引用文献1には「水中に、直立設置した揚水筒内に上昇水流を発生させ、この上昇水流を利用して凝集剤及び殺藻剤を付近の水中に拡散させることにより、前記揚水筒を中心とする水域の水を上下対流循環流動させる過程において、前記凝集剤及び殺藻剤を全水域に拡散させて、殺藻剤で浮遊藻類を死滅させ、凝集剤で、死滅した浮遊藻類及び水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱させる、浅水域における淨水方法」の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されている。
ここで、本願発明と引用1発明とを対比すると、後者の「浮遊藻類」、「殺藻剤」、「浮遊藻類を死滅」、「浅水域における淨水方法」は、それぞれ前者の「水中の藻などの水中生物」、「水中生物駆除剤」、「駆除」、「水浄化法」に相当する。
また、引用1発明における「凝集剤で、死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱させる」ことについてみると、本願発明は、「駆除した水中生物を凝集剤で凝集」するとしているが、対象とする水は「湖沼、池、貯水池」等であって引用1発明と共通しており、このような水に凝集剤を添加すれば、本願発明においても「駆除した水中生物」だけでなく、水中に存在する浮遊固形物も団粒化、沈澱するが、「駆除した水中生物」のみに着目して発明特定事項とされていると解される。そうすると、引用1発明における「凝集剤で、死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱させる」ことは、本願発明における「駆除した水中生物を凝集剤で凝集」することに相当するといえる。
さらに、引用1発明は、摘示事項(1-オ)及び(1-キ)に記載されるとおり、「上下対流循環作用により、水中の溶存酸素量を増加」させて浄水するものであり、溶存酸素量を増加させると好気性微生物が活性化されて水中の有機物を分解して浄水が行われることは当業界において良く知られたことであるから、引用1発明も「微生物で」「水を浄化する」ものであるといえる。
したがって、両者は「水中の藻などの水中生物を水中生物駆除剤を用いて駆除し、駆除した水中生物を凝集剤で凝集し、微生物で分解させて水を浄化させることからなる水浄化法において、好気性微生物で水を浄化する、水浄化法。」である点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点e;本願発明は、水流について何ら特定していないのに対し、引用1発明は「水中に、直立設置した揚水筒内に上昇水流を発生させ、この上昇水流を利用して凝集剤及び殺藻剤を付近の水中に拡散させることにより、前記揚水筒を中心とする水域の水を上下対流循環流動させる」ものである点

相違点f;本願発明は、「凝集した水中生物」、「沈降した水中生物」を「微生物」で分解させるものであり、「微生物を凝集した水中生物1kgに対して10gから2,000gまでの範囲で使用」するのに対し、引用1発明は、微生物を添加するものではく、かつ「微生物で水を浄化」ものである点

相違点g;本願発明は、「水中生物駆除剤を凝集剤に対して10対1から1対1000までの範囲内の割合で使用」するのに対してするのに対し、引用1発明は、「殺藻剤」と「凝集剤」の使用割合について特定していない点。

上記相違点eについて検討する。
本願明細書の【請求項3】は、本願発明を引用したものであり、「水底に堆積している汚泥が水中に舞い上がらない程度に水中に水流を発生させ」ることを発明特定事項とするものであるから、本願発明は、該発明特定事項を包含し得るものといえる。
一方、引用1発明は、「水中に、直立設置した揚水筒内に上昇水流を発生させ、この上昇水流を利用して凝集剤及び殺藻剤を付近の水中に拡散させることにより、前記揚水筒を中心とする水域の水を上下対流循環流動させる」ものであるが、揚水筒により発生する水流は、引用1発明における「死滅した浮遊藻類を含む水中の浮遊固形物を団粒化して沈澱」させることを妨げるものではないと解されるから、「水底に堆積している汚泥が舞い上がらない程度」のものといえる。
そうすると、引用1発明において「水中に、直立設置した揚水筒内に上昇水流を発生させ、この上昇水流を利用して凝集剤及び殺藻剤を付近の水中に拡散させることにより、前記揚水筒を中心とする水域の水を上下対流循環流動させる」ことは、本願発明が包含し得る「水底に堆積している汚泥が水中に舞い上がらない程度に水中に水流を発生させ」ることに相当するから、この点は両者の実質的な相違点とはいえない。
次に相違点f及びgについてみると、両相違点は、上記「2-2-3.(イ)」で挙げた相違点b及びdと実質的に同じであるから、上述したとおり、本願発明は引用文献1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-14 
結審通知日 2007-03-20 
審決日 2007-04-03 
出願番号 特願平9-321643
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 575- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫛引 明佳中村 敬子岡田 三恵  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 増田 亮子
斉藤 信人
発明の名称 水浄化法及び水浄化システム  
代理人 内野 美洋  

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