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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1158018
審判番号 不服2002-8990  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-20 
確定日 2007-05-22 
事件の表示 平成 7年特許願第515713号「腫瘍形成能抑制活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 6月 8日国際公開、WO95/15378、平成 9年11月11日国内公表、特表平 9-511125〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1994年11月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年12月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、その出願に係る発明は、平成13年12月12日付手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?19に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は次のとおりである。
「【請求項1】哺乳類のDNAメチルトランスフェラーゼをコードするmRNAまたは二本鎖DNAに相補的な、修飾された腫瘍形成能抑制アンチセンスオリゴヌクレオチド。」

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(Mol.Biol.of the Cell, Vol.4, Oct.1993, suppl. abstracts 193a, 1126)には、下記の事項が記載されている。
「この基本的な問題を解決するため、我々は、マウス副腎皮質ガン細胞株Y1においてDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子のレベルを直接調節することを計画した。Y1細胞はDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の5’から600bpをアンチセンス方向に発現するキメラ構築物により形質転換された。アンチセンス構築物を発現する細胞は、最隣接分子分析とHpall切断による結果、ゲノム全体のメチル化が全般的に減少することと同じように、MapI/HpaII分析によると、特定遺伝子において、DNAメチル化のパターンが変わることを示した。これらの細胞はまた、明確な形態学的変化を示し、軟寒天分析における生育によると足場非依存的に成長する能力を喪失した。形質転換されたクローンをLAF1同系マウスに注射したところ、コントロールベクター配列により形質転換された細胞と同様に、親の細胞株と比較して、腫瘍形成能力の大幅な減少をインビボで示した。」(1126の本文、3行?15行)

3.当審の判断
(1)対比
上記記載事項によると、引用例1には、マウス副腎皮質ガン細胞株Y1においてDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現レベルを調節することを目的として、DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の5’から600bpをアンチセンス方向に発現するキメラ構築物によりY1細胞を形質転換し、該構築物を発現するY1細胞は、LAF1同系マウスにおける腫瘍形成能力が大幅に減少していることが記載されている。
すなわち、引用例1は、キメラ構築物内の「DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の5’から600bp」であるDNAがY1細胞内でアンチセンス方向に発現すると、DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子から通常転写されるmRNAに対して相補的なRNAが転写され、これが標的であるDNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子から転写されたmRNAとハイブリダイズすることにより、該遺伝子の発現が抑制され、ゲノム全体のメチル化が減少し、結果として、Y1細胞の腫瘍形成能が減少したことを示すものであって、引用例1において、標的遺伝子のmRNAにハイブリダイズするアンチセンス核酸は、「DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の5’から600bp」であるDNAからアンチセンス方向に転写されたアンチセンスRNAである。

本願発明1と引用例1に記載された発明を対比すると、両者は、哺乳類のDNAメチルトランスフェラーゼをコードするmRNAに相補的な腫瘍形成能抑制アンチセンス核酸である点で一致し、以下の(i)及び(ii)の点で相違する。
(i)DNAメチルトランスフェラーゼをコードするmRNAにハイブリダイズするアンチセンス核酸が、本願発明1では、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」であるのに対し、引用例1に記載された発明では、「DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の5’から600bp」であるDNAからアンチセンス方向に転写されたアンチセンスRNAである点。
(ii)本願発明1では、アンチセンスオリゴヌクレオチドが修飾されているのに対し、引用例1に記載された発明では、特にそのようなことが特定されていない点。

(2)判断
相違点(i)について
本願優先日当時、ある遺伝子の発現を人工的に抑制する方法として、アンチセンスRNA法(ベクターで導入されたDNAが生体内で転写されたアンチセンスRNAが、標的遺伝子のmRNAに結合し、翻訳を阻害する方法)とアンチセンスDNA法(生体外から導入された15?30mer程度の長さのアンチセンスDNAが標的遺伝子のmRNAに直接結合し、翻訳を阻害する方法)が存在することは周知の事項であり、このうち、アンチセンスDNA法は、簡単にDNAの合成ができること、オリゴDNA自体に膜透過性があるから細胞内に容易に導入できるため、実験系も簡便であるといった利点があるため、アンチセンス法の中でも盛んに用いられるようになっていた(例えば、田中俊郎、遺伝子と遺伝子産物の導入6 アンチセンスオリゴによる遺伝子発現の調節、実験医学、別冊、1992,p.160-168、及び、川上純司ら、アンチセンスRNA・DNA PartI、Pharm.Tech.Japan, Vol.8,No.3, 1992, p.247-264)。
ここで、前述の引用例1における遺伝子発現の抑制は、ベクターで導入した「DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の5’から600bp」であるDNAからアンチセンス方向に転写されたアンチセンスRNAが、標的遺伝子のmRNAに結合するものであるから、いわゆる「アンチセンスRNA法」に相当するものである。

このような本願優先日当時の技術的状況を考慮すれば、引用例1に記載されたアンチセンスRNA法に代えて、ベクターの細胞内移入や、アンチセンスRNAの発現効率等の課題がなく、簡単に合成ができ、細胞移入も容易であって実験系も簡便なアンチセンスDNA法に用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製しようとすることは、当業者が容易に想起することである。
その際、引用例1に記載されたアンチセンスRNA法により遺伝子の発現を抑制することができた「DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の5’から600bp」であるDNAを基に、アンチセンスDNA法に用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。

相違点(ii)について
アンチセンスDNA法に用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドを安定化するために、DNAのリン酸基の酸素をイオウ残基に置換する等の修飾を施すことは、周知技術であることを考慮すれば(蛋白質核酸酵素,Vol.38, No.4,1993.3.1, p.753-765の特にp.761左欄「(3)安定性、ヌクレアーゼ耐性」の項、及び、田中俊郎、遺伝子と遺伝子産物の導入6 アンチセンスオリゴによる遺伝子発現の調節、実験医学、別冊、1992,p.160-168の特にp.162右欄2行?10行)、該アンチセンスオリゴヌクレオチドに、さらに安定化するための修飾を施すこともまた格別な困難性を有するものとも認められない。

そして、本願明細書において、実際に腫瘍細胞の生育が阻害されたことを確認したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号9?12のもののみであるが(実施例8)、本願発明1は、そのような効果が確認されたアンチセンスオリゴヌクレオチドに限定されておらず、本願発明1に含まれるすべてのオリゴヌクレオチドが格別の効果を奏するものとはいえない。

(3)請求人の主張
平成18年10月3日付回答書において、請求人は、特許法第29条第2項の拒絶理由に関し、引用例1に開示されている600bpの断片は、キメラ発現ベクターの一部であり、細胞中で発現することが必要であって、引用例1は、小さなDNA系オリゴヌクレオチド分子がDNAメチルトランスフェラーゼ及び腫瘍の生育を阻害するように設計でき、有効に作用することを開示するものではない旨主張している(II.(1))。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、遺伝子発現の抑制方法として、引用例1に記載されたアンチセンスRNA法の他に、アンチセンスDNA法はよく知られた技術であって、アンチセンスDNA法は、簡単にDNAの合成ができること、オリゴDNA自体に膜透過性があるから細胞内に容易に導入できるため、実験系も簡便であるといった利点があるため、アンチセンス法の中でも盛んに用いられるようになっている技術であることを考慮すれば、引用例1に記載された「DNAメチルトランスフェラーゼ遺伝子の5’から600bp」のDNAを基に、アンチセンスDNA法に用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(4)補正案について
平成18年11月1日付上申書において、請求人は、本願発明1の「オリゴヌクレオチド」を「6個から100個の単量体からなるオリゴヌクレオチド」と補正する特許請求の範囲の補正案を提示している。
しかしながら、本願発明1において、アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さを6?100個に限定したとしても、上記(2)に述べたと同様の理由により、原査定の理由は解消するものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、他の請求項に係る発明については判断するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-20 
結審通知日 2006-12-25 
審決日 2007-01-09 
出願番号 特願平7-515713
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 冨永 みどり
種村 慈樹
発明の名称 腫瘍形成能抑制活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 小川 信夫  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 小川 信夫  
代理人 村社 厚夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 今城 俊夫  
代理人 中村 稔  
代理人 中村 稔  
代理人 村社 厚夫  
代理人 竹内 英人  
代理人 大塚 文昭  
代理人 今城 俊夫  
代理人 竹内 英人  

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