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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1158424
審判番号 不服2004-2143  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-02-05 
確定日 2007-05-31 
事件の表示 平成11年特許願第137869号「燃料電池スタック」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月30日出願公開、特開2000-331691〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年5月18日の出願であって、平成15年6月17日付けで拒絶理由が通知され、同年8月21日に手続補正がされ、同年12月22日付けで拒絶査定がされ、平成16年2月5日に拒絶査定に対する審判請求がされ、その後、当審において、平成19年1月11日付けで拒絶理由が通知され、同年3月8日に手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成19年3月8日の手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下に示したとおりのものである。

本願発明1:「電解質をアノード側電極とカソード側電極で挟んで構成される単位燃料電池セルを、複数の平板状セパレータを介して複数個積層した燃料電池スタックであって、
複数の前記セパレータを貫通して、少なくとも燃料ガス、酸化剤ガスまたは冷却媒体のいずれか1つを含む流体が流通される流体用連通路が設けられており、
前記セパレータの平面状面内には、前記流体を供給するための流路が形成されるとともに、
該セパレータには、前記流体が前記流体用連通路から前記流路に直角状に導入される部位、または前記流路から前記流体用連通路に直角状に導出される部位の少なくとも一方に対応して、該流体の流れ方向に湾曲する流れガイド部が設けられることを特徴とする燃料電池スタック。」

第3 拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

特開平4-289672号公報(以下、「刊行物1」という。)
特開平8-45520号公報(以下、「刊行物2」という。)

第4 刊行物の記載事項
原査定において引用された刊行物1の主な記載事項は、次のとおりである。

(1)刊行物1:特開平4-289672号公報
(1a)「【産業上の利用分野】本発明は、セパレータの板厚を増加することなくガスケツトによるガス通路の横断面積縮小化を防止するようにした燃料電池に関する。」(段落【0001】)
(1b)「・・・このようなガス通路の横断面積が縮小すると、ガス流れの抵抗が大きくなるため燃料ガスや空気の供給量が減少し、燃料電池の発電性能が低下するという問題がある。」(段落【0003】)
(1c)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、セパレータの板厚を大きくして装置を大型化するようなことなく、ガスケツト変形によるガス供給路の横断面積縮小を解消し、常に良好な電池性能を維持するようにした燃料電池を提供することにある。」(段落【0005】)
(1d)「【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明は、複数枚を積層配置したセパレータ相互の間に単セル本体とその周囲を囲むガスケツトとを挟み込み、前記セパレータの表裏両面にそれぞれ複数本の平行溝からなるガス通路を設けた燃料電池において、前記複数本のガス通路の溝深さを、前記ガスケツトに対面する周縁部通路が前記単セル本体に対面する中央部通路よりも深くなるように形成し、かつ該周縁部通路に対応するセパレータの反対側の面にはガス通路を存在させない構成にしたことを特徴とするものである。」(段落【0006】)
(1e)「・・・図1は多数枚のセパレータが積層されたスタツクのうち、隣接し合う2枚のセパレータ2,2の周縁部近傍だけを断面にして示し、また図2は図1のII-II矢視から見たセパレータ2の片面を示し、図4は図1のIV-IV矢視から見た同じセパレータ2の反対側の面を示す。
図1に示すように、単セル本体1は陽極板11と陰極板12との間にリン酸等の電解液を含浸させたマトリツクス層13を挟んで構成され、2枚のセパレータ2,2の間の中間部に挟まれている。」(段落【0008】?【0009】)
(1f)「セパレータ2には、四辺のうちの互いに対向する二つの両縁部に空気供給用のマニホルド孔5,5を設けられ、また他方の互いに対向する二つの両縁部に水素供給用のマニホルド孔6,6を設けられている。また、セパレータ2の片面には、図2,3に示すように、両縁部の空気供給用マニホルド孔5,5の間を貫通するように複数本の平行溝からなるガス通路21が設けられ、かつこれら複数本のガス通路21の相互を連通するようにに3本の連通溝23が横切っている。また、複数本のガス通路21の両外側に電解液貯留溝7,7が設けられている。」(段落【0010】)
(1g)「一方、上記セパレータ2の反対側の面には、図4,5に示すように、他方の両縁部の水素供給用マニホルド孔6,6の間を貫通するように複数本の平行溝からなるガス通路22が設けられ、かつこれら複数本のガス通路22の相互を連通するようにに3本の連通溝24が横切っている。このガス通路22は、上述した他面側の空気供給用ガス通路21とは互いに直交する関係になっている。」(段落【0011】)
(1h)「セパレータ2の表裏両面に設けられた空気供給用ガス通路21と水素供給用ガス通路22とは、それぞれ長手方向において単セル本体1に対面する中央部通路21m,22mとガスケツト3に対面する周縁部通路21e,22eとで溝深さが異なっており、後者の周縁部通路21e,22eの方が深くなっている。しかも、この深溝にした周縁部通路21e,22eが存在する部分に対応するセパレータの反対側の面の部分には、他方のガス通路22,21が存在しないように構成されている。(図3,図5参照)上述した構成からなる燃料電池では、ガスケツト3は2枚のセパレータ2,2に強圧されて、その一部がガス通路21,22の周縁部通路21e,22e内に膨出するが、この周縁部通路21e,22eが深溝になっているため、ガス通路横断面積を電池性能の低下をもたらすほどに縮小させることはない。また、この周縁部通路21e,22eが存在する部分のセパレータの反対面には他側のガス通路が存在しないようにしているため、セパレータの板厚を大きくすることなく上記深溝を形成することができるから、スタツクの高さを大きく大型にすることはない。」(段落【0012】)
(1i)「【発明の効果】上述したように本発明の燃料電池によると、ガス通路のうちガスケツトと対面する周縁部通路だけを深溝にしたので、ガスケツトの変形によって一部がガス通路内に膨出しても電池性能の維持に必要なガス通路横断面積を確保することができる。しかも、深溝にした周縁部通路のセパレータの反対側の面にはガス通路を存在させないようにしたため、セパレータの板厚を増大しなくても上記深溝を設けることができ、それによって装置の大型化を招くことはない。」(段落【0013】)
(1j)図1に、水素がマニホルド孔6からガス通路22に直角状に導入されること、その導入される部位であるガス通路22の周辺部通路22eが深溝になっていることが示されている。

第5 当審の判断
1. 刊行物1発明
刊行物1には、「セパレータの板厚を増加することなくガスケツトによるガス通路の横断面積縮小化を防止するようにした燃料電池に関」し(1a)、単セル本体1は、「陽極板11と陰極板12との間にリン酸等の電解液を含浸させたマトリツクス層13を挟んで構成され、2枚のセパレータ2,2の間の中間部に挟まれている」(1e)ものであって、「多数枚のセパレータが積層されたスタツク」(1e)となっている燃料電池スタックが記載されている。
また、そのセパレータ2には、「四辺のうちの互いに対向する二つの両縁部に空気供給用のマニホルド孔5,5を設けられ、また他方の互いに対向する二つの両縁部に水素供給用のマニホルド孔6,6を設けられ」(1f)、セパレータ2の片面には、「両縁部の空気供給用マニホルド孔5,5の間を貫通するように複数本の平行溝からなるガス通路21が設けられ」(1f)、セパレータ2の反対側の面には、「他方の両縁部の水素供給用マニホルド孔6,6の間を貫通するように複数本の平行溝からなるガス通路22が設けられ」(1g)、「セパレータ2の表裏両面に設けられた空気供給用ガス通路21と水素供給用ガス通路22とは、それぞれ長手方向において単セル本体1に対面する中央部通路21m,22mとガスケツト3に対面する周縁部通路21e,22eとで溝深さが異なっており、後者の周縁部通路21e,22eの方が深くなっている。」(1h)ことが記載されている。 さらに、刊行物1の図1には、水素がマニホルド孔6からガス通路22に直角状に導入されること、その導入される部位であるガス通路22の周辺部通路22eが深溝になっていることが示されている。
刊行物1のこれらの記載から把握される事項を、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、「電解液を含浸させたマトリツクス層13を陽極板11と陰極板12で挟んで構成される単セル本体1を、複数のセパレータ2を介して複数個積層した燃料電池スタックであって、複数の前記セパレータ2を貫通して、空気供給用のマニホルド孔5、水素供給用のマニホルド孔6が設けられており、前記セパレータ2の平面状面内には、空気または水素を供給するためのガス通路21、22が形成されるとともに、該セパレータ2には、前記空気または前記水素が前記マニホルド孔5、6から前記ガス通路21、22に直角状に導入される部位である、前記ガス通路21、22の周辺部通路21e、22eを深溝にし、前記空気または前記水素のガス通路の横断面積縮小を解消した燃料電池スタック」という発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。
2. 対比・判断
(1) 対比
本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「陽極板11」、「陰極板12」、「単セル本体1」、「空気」、「水素」、「空気供給用のマニホルド孔5、水素供給用のマニホルド孔6」、「ガス通路21、22」、「周辺部通路21e、22e」は、それぞれ本願発明1の「カソード側電極」、「アノード側電極」、「単位燃料電池セル」、「酸化剤ガス」、「燃料ガス」、「流体用連通路」、「流路」、「流体が流体用連通路から流路に直角状に導入される部位」に相当する。また、刊行物1発明の「電解液を含浸させたマトリツクス層13」は、本願発明1の「電解質」に対応し、刊行物1発明の「前記空気または前記水素が前記マニホルド孔5、6から前記ガス通路21、22に直角状に導入される部位である、前記ガス通路21、22の周辺部通路21e、22eを深溝にし、前記ガス通路の横断面積縮小を解消した」ことは、本願発明1の「前記流体が前記流体用連通路から前記流路に直角状に導入される部位に対応して、該流体の流れ方向に湾曲する流れガイド部が設けられること」に対応する。
そうしてみると、両者は、「電解質を含む層をアノード側電極とカソード側電極で挟んで構成される単位燃料電池セルを、複数の平板状セパレータを介して複数個積層した燃料電池スタックであって、複数の前記セパレータを貫通して、少なくとも燃料ガス、酸化剤ガスを含む流体が流通される流体用連通路が設けられており、前記セパレータの平面状面内には、前記流体を供給するための流路が形成された燃料電池スタック。」である点で一致し、次の点で相違している。
(2) 相違点
ア 本願発明1は、「電解質」を用いているものであるのに対し、刊行物1発明は、「電解液を含浸させたマトリツクス層」を用いているものである点(以下、「相違点ア」という。)
イ 流体が流体用連通路から流路に直角状に導入される部位に対応して、本願発明1は、「流体の流れ方向に湾曲する流れガイド部」が設けられるのに対し、刊行物1発明は、「ガス通路21、22の周辺部通路21e、22eを深溝にし、ガス通路の横断面積縮小を解消」している点(以下、「相違点イ」という。)
(3) 判断
上記相違点ア及び相違点イについて検討する。
(i) 相違点アについて
刊行物1発明は、燃料電池として電解質層が「電解液を含浸させたマトリツクス層」を用いたタイプの燃料電池であるが、燃料電池として「電解液を含浸させたマトリツクス層」を用いたものも「電解質」を用いたものも、周知のものであるから、刊行物1発明の「電解液を含浸させたマトリツクス層」を用いたタイプの燃料電池を上記相違点アに係る電解質のタイプのものとすることは、当業者であれば適宜なし得ることといえる。
(ii) 相違点イについて
刊行物1発明が、「ガス通路21、22の周辺部通路21e、22e」を深溝にするのは、「ガス通路の横断面積が縮小すると、ガス流れの抵抗が大きくなるため燃料ガスや空気の供給量が減少し、燃料電池の発電性能が低下する」(1b)ため、すなわち、流体がマニホルド孔5、6からガス通路21、22に直角状に導入される部位におけるガス流れの抵抗を小さくして流体がスムーズに流れるようにするため、といえる。
そして、ガス流れの抵抗を小さくして流体がスムーズに流れるようするために、例えば、直角の流路から流れ方向に湾曲する流路にすることは、周知慣用の技術といえる(例えば、刊行物2の【0016】、【図11】にも示されている)。
そうであれば、ガス流れの抵抗を小さくしてガス通路21、22へ流体がスムースに流れるようにすることを課題とする刊行物1発明において、「ガス通路21、22の周辺部通路21e、22e」を深溝にすることに代えて、又は加えて、流体がマニホルド孔5、6からガス通路21、22に直角状に導入される部位における流体がよりスムーズに流れるように、流れ方向に湾曲する流路形状、すなわち「流体の流れ方向に湾曲する流れガイド部」とすることは、当業者であれば容易に想到することができたといえる。
したがって、刊行物1発明において、相違点イに係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到することができたといえる。
(4) 小括
したがって、本願発明1は、刊行物1発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-28 
結審通知日 2007-04-03 
審決日 2007-04-16 
出願番号 特願平11-137869
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 寛之  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 高木 康晴
平塚 義三
発明の名称 燃料電池スタック  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 佐藤 辰彦  

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