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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41N
管理番号 1158776
異議申立番号 異議2003-73383  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2007-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-24 
確定日 2007-05-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3468757号「フレキソ印刷用嵩上げ部材及び感光性刷版巻装方法」の請求項1ないし15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3468757号の請求項1ないし13に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願 平成13年5月28日
特許権設定登録 平成15年9月5日
特許異議申立1(申立人:明和ゴム工業株式会社、全請求項対象)
平成15年12月24日
特許異議申立2(申立人:旭化成ケミカルズ株式会社、全請求項対象)
平成15年12月26日
特許異議申立2に係る申立書の手続補正書
平成16年5月12日
取消理由通知 平成16年11月1日付け
訂正請求 平成17年1月11日
特許異議意見書 平成17年1月11日
審尋(申立人:明和ゴム工業株式会社に対して)
平成17年1月28日
審尋(申立人:旭化成ケミカルズ株式会社に対して)
平成17年1月28日
回答書(申立人:明和ゴム工業株式会社)
平成17年3月8日
回答書(申立人:旭化成ケミカルズ株式会社)
平成17年3月10日

第2 訂正の適否
1.訂正の内容(訂正箇所にはアンダーラインを付している。)
[訂正A:特許請求の範囲に係る訂正]
a-1 特許請求の範囲の訂正前請求項1を訂正後の請求項1として、その記載
「フレキソ印刷において感光性刷版の嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
磁石部と、
シート状を呈するクッション部と、を有することを特徴とするフレキソ印刷用嵩上げ部材。」を、
「フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と、
シート状を呈するクッション部と、を有し、 該磁石部と該クッション部とが隣接して並設されていることを特徴とするフレキソ印刷用嵩上げ部材。」と訂正する。

a-2 特許請求の範囲の訂正前の請求項2、3を削除するとともに、
特許請求の範囲の訂正前の請求項4を訂正後の請求項2として、その記載「請求項1又は2又は3に記載の」を「請求項1に記載の」と訂正し、
同訂正前の請求項5を訂正後の請求項3とし、その記載「請求項1又は2又は3又は4に記載の」を「請求項1又は2に記載の」と訂正する。

a-3 特許請求の範囲の訂正前の請求項6を訂正後の請求項4として、その記載
「フレキソ印刷において感光性刷版の嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
シート状部材により形成されたシート状部と、
該シート状部の一方の面に固着された磁石部と、
該シート状部の該一方の面に該磁石部に隣接して固着されたクッション部であって、シート状を呈するクッション部と、を有することを特徴とするフレキソ印刷用嵩上げ部材。」を、
「フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
シート状部材により形成されたシート状部と、
該シート状部の一方の面に固着された磁石部で、該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と、
該シート状部の該一方の面に該磁石部に隣接して固着されたクッション部であって、シート状を呈するクッション部と、を有することを特徴とするフレキソ印刷用嵩上げ部材。」と訂正する。

a-4 特許請求の範囲の訂正前の請求項7を訂正後の請求項5として、その記載「請求項5又は6に記載の」を「請求項3又は4に記載の」と訂正し、
同訂正前の請求項8を訂正後の請求項6として、その記載「請求項6又は7に記載の」を「請求項4又は5に記載の」と訂正し、
同訂正前の請求項9を訂正後の請求項7として、その記載「請求項6又は7又は8に記載の」を「請求項4又は5又は6に記載の」と訂正し、
同訂正前の請求項10を訂正後の請求項8として、その記載「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9に記載の」を「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7に記載の」と訂正し、
同訂正前の請求項11を訂正後の請求項9として、その記載「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10に記載の」を「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8に記載の」と訂正し、
同訂正前の請求項12を訂正後の請求項10として、その記載「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10に記載の」を「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8に記載の」と訂正し、
同訂正前の請求項13を訂正後の請求項11として、その記載「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は11又は12に記載の」を「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10に記載の」と訂正し、
同訂正前の請求項14を訂正後の請求項12として、その記載「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は11又は12に記載の」を「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10に記載の」と訂正する。

a-5 特許請求の範囲の訂正前の請求項15を訂正後の請求項13として、その記載
「フレキソ印刷において感光性刷版をシリンダに巻装する感光性刷版巻装方法であって、
請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は11又は12又は13又は14に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材における磁石部をシリンダに接着させることにより、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダに取り付ける取付け工程と、
シリンダに取り付けられたフレキソ印刷用嵩上げ部材の上に、感光性刷版を有する印刷シートを積層させて、該フレキソ印刷用嵩上げ部材を介して該印刷シートをシリンダに巻装させる巻装工程と、を有することを特徴とする感光性刷版巻装方法。」を、
「フレキソ印刷において感光性刷版をシリンダに巻装する感光性刷版巻装方法であって、
請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は11又は12に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材における磁石部をシリンダの外周面に磁力により接着させることにより、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダに取り付ける取付け工程と、
シリンダに取り付けられたフレキソ印刷用嵩上げ部材の上に、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートを積層させるとともに、該掛止するための部材を印刷シリンダに掛止させることにより、該フレキソ印刷用嵩上げ部材を介して該印刷シートをシリンダに巻装させる巻装工程と、を有することを特徴とする感光性刷版巻装方法。」と訂正する。

[訂正B:発明の詳細な説明に係る訂正]
b-1 前記a-1の訂正に伴い、段落【0010】【課題を解決するための手段】において「第1には」として引用される請求項記載を、訂正後の請求項1の記載に整合させるべく訂正する。

b-2 前記a-2の訂正前の請求項2、3を削除し、訂正前の請求項4、5を訂正後の請求項2、3と訂正したことに伴い、段落【0012】及び【0013】を削除するとともに、段落【0014】、【0015】において引用される訂正前の請求項4、5の記載を訂正後の請求項2、3の記載に整合させるべく訂正する。

b-3 前記a-3の訂正に伴い、段落【0016】、【0017】において「第6」として引用される訂正前の請求項6の記載を、訂正後の請求項4の記載に整合させるべく訂正する。

b-4 前記a-4の訂正に伴い、段落【0018】?【0022】において引用される訂正前の請求項7?14の記載と、同じく引用される訂正前の請求項1?12の記載を、訂正後の請求項5?12の記載に整合させるべく訂正する。

b-5 前記a-5の訂正に伴い、段落【0023】において「第15」として引用される訂正前の請求項15の記載を、訂正後の請求項13の記載に整合させるべく訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・
変更の存否
[訂正Aについて]
訂正a-1について:
「フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材」とした点については、本件特許明細書の段落【0035】?【0040】、【0045】?【0055】及び図7?図11等に明確に記載されている。
また、「該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部」の点については、図7を参照する本件特許明細書の段落【0045】或いは段落【0056】に記載されている。
そして、「磁石部とクッション部とが隣接して並設されている」の点については、図1(a)、(b)、図2、図3を参照する本件特許明細書の段落【0029】、【0030】における実施例記載に係る「クッション部20は、その側方の端部が磁石部10の側方の端部と接する」及び「上記磁石部10と上記クッション部20を並設した」、特に、図1(a)を参照する段落【0031】における「隣接した状態で並設して配設し」の記載に照らして、これらの段落で説明される実施例に係る磁石部とクッション部とを隣接した状態で並設して配設することを根拠としたものと解される。
なお、訂正後の「該磁石部と該クッション部が隣接して」いる点は、訂正前の請求項1を引用していた訂正前の請求項3における「上記磁石部と上記クッション部とが隣接して配設されている」の点に、更に「並設されている」ことを特定したものとも解し得る。
してみれば、当該訂正a-1は、訂正前の請求項1或いは請求項3を対象として、本件特許明細書の実施例記載を根拠とした特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、当該訂正a-1は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正a-2について:
訂正前の請求項2、3が削除されると訂正前の請求項4、5は訂正前の請求項1を引用するもののみとなるが、当該訂正前の請求項1は前記訂正a-1により減縮されて訂正後の請求項1となっている。
すると、訂正後の請求項2、3とする訂正は、結果として訂正前の請求項4、5を対象とする特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、当該訂正a-2は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正a-3について:
「フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材」とした点については、本件特許明細書の段落【0035】?【0040】、【0045】?【0055】及び図7?図11等に明確に記載されている。
また、「該シート状部の一方の面に固着された磁石部で、該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と」の点については、図7を参照する本件特許明細書の段落【0045】或いは段落【0056】に記載されている。
してみれば、当該訂正a-3は、本件特許明細書に記載された実施例記載を根拠とする特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、当該訂正a-3は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正a-4について:
訂正後の請求項5?12は、前記訂正a-2により訂正前の請求項2、3が削除されたことで番号が繰り上げられたものの、請求項の引用関係について変更されるところはない。
しかしながら、訂正前の請求項7?14のすべてが引用する訂正前の請求項6は前記訂正a-3により減縮されて訂正後の請求項4となっているので、訂正後の請求項5?12とする訂正は、結果として訂正前の請求項7?14を対象とする特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、当該訂正a-4は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正a-5について:
「磁石部をシリンダの外周面に磁力により接着させる」の点については、図7を参照する本件特許明細書の段落【0045】或いは段落【0056】に記載されている。
また、「感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートを積層させるとともに、該掛止するための部材を印刷シリンダに掛止させることにより」の点については、図7?10を参照する本件特許明細書の段落【0045】?【0049】に記載されている。
してみれば、当該訂正a-5は、本件特許明細書に記載された実施例記載を根拠とする特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、当該訂正a-5は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

[訂正Bについて]
訂正b-1について:
前記a-1の訂正に伴い、段落【0010】【課題を解決するための手段】において「第1には」として引用される請求項記載を、訂正後の請求項1の記載に整合させるものであるから、当該訂正b-1は、誤記の訂正或いは明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正b-1は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正b-2について:
前記a-2の訂正前の請求項2、3を削除し、訂正前の請求項4、5を訂正後の請求項2、3と訂正したことに伴い、段落【0012】及び【0013】を削除するとともに、段落【0014】、【0015】において引用される訂正前の請求項4、5の記載を訂正後の請求項2、3の記載に整合させるものであるから、当該訂正b-2は、誤記の訂正或いは明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正b-2は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正b-3について:
前記a-3の訂正に伴い、段落【0016】、【0017】において「第6」として引用される訂正前の請求項6の記載を、訂正後の請求項4の記載に整合させるものであるから、当該訂正b-3は、誤記の訂正或いは明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正b-3は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正b-4について:
前記a-4の訂正に伴い、段落【0018】?【0022】において引用される訂正前の請求項7?14の記載と、同じく引用される訂正前の請求項1?12の記載を、訂正後の請求項5?12の記載に整合させるものであるから、当該訂正b-4は、誤記の訂正或いは明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正b-4は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正b-5について:
前記a-5の訂正に伴い、段落【0023】において「第15」として引用される訂正前の請求項15の記載を、訂正後の請求項13の記載に整合させるものであるから、当該訂正b-5は、誤記の訂正或いは明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正b-5は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

[まとめ]
以上のとおりであるから、上記各訂正は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮或いは誤記の訂正若しくは明りょうでない記載の釈明を目的として訂正をすることを求めるものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.特許異議の申立ての概要
1-1 異議申立人:明和ゴム工業株式会社による申し立て
異議申立人:明和ゴム工業株式会社は、以下の証拠を提出すると共に、以下の取消理由を主張している。
甲1:ロジャース社「R/bak」製品カタログその1(1997年3月版、
#12-003)
甲2:ロジャース社「R/bak」製品カタログその2(1997年3月版、
#12-022)
甲3:加工技術研究会編、フレキソ印刷機材総覧(昭和57年度)249頁
甲4:日本フレキソ技術協会翻訳・発行、新版「フレキソ印刷の理論と
実際」166頁
甲5:実開平7-27843号公報
甲6:特開昭55-95575号公報
甲7:特開昭62-261440号公報

[取消理由1:特許法第36条違反]
本件請求項1に係る発明及びそれを引用する本件請求項2?5及び10?15に係る発明は、特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができないものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

[取消理由2:特許法第29条2項違反]
本件請求項1?15に係る発明は、いずれも甲1?甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

1-2 異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社による申し立て
異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社は、以下の証拠を提出するとともに、以下の取消理由を主張している。
甲1:「FLEXO」、Vol.11,No.10(1986年)、目次頁、26?29頁
甲2の1:ロジャース社(Rogers Corporation)
製品カタログ「R/bak(登録商標)SS&SF刷版装着説明書」
(1997年3月に米国で印刷、頒布、#12-003 3/97)
甲2の2:ロジャース社(Rogers Corporation)
製品カタログ「R/bak(登録商標)段ボール印刷用クッション
装着材の入手可能な製品と注文法」
(2000年1月に米国で印刷、頒布、Publication No.12-032)
甲2の3:ロジャース社(Rogers Corporation)
製品カタログ「R/bak(登録商標)圧縮可能な刷版装着システム
印刷品質の改善と利潤の増加」
(1993年9月に米国で印刷、頒布、Printed in U.S.A. 6333-093
-2.5A)
甲2の4:ロジャース ジャパン インク 支社長 杉田康典の頒布
証明書
甲3:社団法人日本印刷学会編「印刷工学便覧」
昭和58年5月1日、技報堂出版株式会社発行、
表紙、16?17頁(目次)、736?737頁、奥付
甲4:「増補版 印刷事典」、社団法人日本印刷学会編
昭和62年6月30日、財団法人印刷局朝陽会発行、
表紙、302頁、奥付
甲5:米国特許第5103729号明細書
甲6:「FLEXO」、Vol.10,No.9(1985年)、目次頁、32、34、37、
38頁
甲7:「新版フレキソ印刷の理論と実際」
昭和60年3月28日初版(翻訳)、日本フレキソ技術協会発行、
表紙、164?167頁、奥付

[取消理由3:特許法第29条1項3号或いは2項違反]
本件請求項1?4に係る発明は、いずれも甲1、甲2の3或いは甲6に記載された発明と実質的に同一であり、本件請求項5?9に係る発明は、いずれも甲2の3或いは甲6に記載された発明と実質的に同一であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、
また、
本件請求項3に係る発明は、甲1、甲2の1、甲2の3及び甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項4に係る発明は、甲1、甲2の3及び甲6に記載された発明及び甲3或いは甲4記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項5に係る発明は、甲2の1に記載された発明及び甲1、甲2の3、甲3或いは甲4記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項6?10に係る発明は、甲2の1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項11、12に係る発明は、甲1、甲2の1、甲2の3、甲3、甲4及び甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項13、14に係る発明は、甲1、甲2の1?3、甲3、甲4及び甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件請求項15に係る発明は、甲1、甲2の3、甲3、甲4、甲5及び甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、いずれも特許法第29条第2項の規定に該当し、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2.本件発明
本件特許3468757号の請求項1?13に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1?13」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?13に記載されたとおりの以下のものである。

【請求項1】 フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と、
シート状を呈するクッション部と、
を有し、 該磁石部と該クッション部とが隣接して並設されていることを特徴とするフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項2】 上記磁石部と上記クッション部とが、可撓性を有することを特徴とする請求項1に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項3】 上記フレキソ印刷用嵩上げ部材が、さらに、
上記磁石部の上面と、上記クッション部の上面とを被覆するシート状部で、シート状部材により形成されたシート状部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項4】 フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
シート状部材により形成されたシート状部と、
該シート状部の一方の面に固着された磁石部で、該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と、
該シート状部の該一方の面に該磁石部に隣接して固着されたクッション部であって、シート状を呈するクッション部と、
を有することを特徴とするフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項5】 上記シート状部が、フィルム部材により形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項6】 上記クッション部と上記シート状部とが可撓性を有することを特徴とする請求項4又は5に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項7】 上記磁石部が可撓性を有することを特徴とする請求項4又は5又は6に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項8】 上記クッション部が、連発泡の素材により形成されていることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項9】 上記磁石部の厚みと、上記クッション部の厚みとが略同一であることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項10】 上記磁石部の厚みが、上記クッション部の厚みよりも薄く形成されていることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項11】 フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みが、3.5mm?4.5mmであることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項12】 フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みが、4.0mmであることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項13】 フレキソ印刷において感光性刷版をシリンダに巻装する感光性刷版巻装方法であって、
請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は11又は12に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材における磁石部をシリンダの外周面に磁力により接着させることにより、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダに取り付ける取付け工程と、
シリンダに取り付けられたフレキソ印刷用嵩上げ部材の上に、感光性刷版と、外観構成刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートを積層させるとともに、該掛止するための部材を印刷シリンダに掛止させることにより、該フレキソ印刷用嵩上げ部材を介して該印刷シートをシリンダに巻装させる巻装工程と、
を有することを特徴とする感光性刷版巻装方法。

3.甲号各証の記載事項
当審が平成16年11月1日付けで通知した取消しの理由に引用した異議申立人:明和ゴム工業株式会社及び異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲号各証には、以下の記載事項が認められる。

3-1 異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲号各証
1)異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1
”R/bak”なる製品についての使用形態の説明がなされている。
そして、当該甲1には、製造会社である”ROGERS”社について、
”Rogers Corporation, High Performance Elastomers Division, PORON Materials Unit, 245 Woodstock Road, P.O. Box 158, East Woodstock, CT 06244-0158, U.S.A., Tel.860 928-3622, FAX 860 928-7843”なる記載がなされている。
当該記載は、同申立人が提出する甲1のみならず、異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の1?甲2の3においても同様な表記がなされており(但し、甲2の3においては、他のカタログでは”CT”とされる州名が”Connecticut”と記載されている。)、これらカタログが、”ROGERS”社の製品である”R/bak”に係るカタログであることを把握できる。
また、異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1は、コピー提出であり三つ折り形態か否か不明であるも、異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の2とカタログ番号「#12-003」及び版についていずれも「1998年3月版」であることからして、同様の形態をなすものと認定し得る。
よって、当該甲1は三つ折りにされた形態であるが、記載頁を指摘する便宜上、その折り畳んだ形態で一番上を1頁、その裏を6頁とし、1頁目を右側から開いたときに現れる右側を2頁、さらにその2頁目を開いて、3つ折り形態を全部開いた際に、左側を3頁、中央を4頁、そして右側を5頁とする。
そして、2頁には、「R/bakを用いた圧縮し得る刷版装着システムの本質は、優れたエネルギー吸収と弾性を呈する気泡構造を備える、進歩した発泡ウレタンである。それは、フレキソ印刷の刷版に対して圧力減少材及び衝撃吸収材として機能する。」(”The heart of the R/bak compressible plate mounting system is an advanced microcellular urethane with an open cell construction that offers exceptional energy absorption and resiliency. It acts as a pressure reducer and shock absorber for flexographic printing plates.”)と記載されている。
また、3?5頁には、”R/bak”なる製品が、ポリエステル(PE)ベース上に設けられたポリウレタンフォーム(PU)のシート状部材であることが示されると共に、これを用いる際の工程が1?8を付して以下のように説明されている。
工程1:”R/bak SS ”と”R/bak SF ”が0.010”のポリエステルベースの上にポリウレタン(PU)のクッション表面を有するものであることの外観図が示される。
工程2:ポリエステル(PE)ベース上に設けられたポリウレタンフォーム(PU)を直線端部に沿って切ること。
工程3:ポリエステル(PE)ベースからポリウレタンフォーム(PU)を剥がすこと。
工程4:ポリエステル(PE)ベース一端部において、ポリウレタンフォーム(PU)側にリード(lead)が接着テープ、縫い付けにより取り付けられること。
工程5:ポリエステル(PE)ベース他端部には、グロメット、プラスチックタブ、テープなどのトレーラー(trailer)が取り付けられること。
工程6:印刷シリンダー上に”R/bak”を装着し、接着テープを空気を含まないようにポリエステル(PE)ベース上に貼り、剥離紙を剥がすこと。
工程7:接着テープ上に空気を含まないように刷版を貼付けること。
工程8:下地から発生する溶媒や洗浄剤を防ぐためには、ダイシール剤やホットメタル接着剤を塗布することを勧めること。

してみると、当該甲1からは、
「フレキソ印刷において、刷版と該刷版を固着するためのポリエステルベースと、シート状を呈するポリウレタンからなるクッション部を有し、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材(リード或いはトレーラー)とが取り付けられるフレキソ印刷用圧力減少材及び衝撃吸収材。」(以下、「引用発明1」という。)
を把握することができる。

2)異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲2
当該甲2には、「通常のフレキソグラフィと薄板フレキソグラフィ」(Conventional Flexography vs Thin Plate Flexography)と題した図面が示されており、ここには、加圧シリンダー(Impression Cylinder)と対峙する印刷シリンダー(Plate Cylinder)の上に厚い印刷板を装着する場合と、”R/bak”と共に薄い印刷板(Thin Plate)を装着する場合とを比較した記載がされている。

3)異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲3
「ロジャース社 R/bakプレートシステム」と題され、R/bakバッキング材が、精度の良い多孔性ポリウレタンでできていること、当該R/bakにはHighモデュール(高密度)とLowモデュール(低密度)の2種類があり、いづれもポリエステルベースで裏打ちがされていること、各種の厚みが準備されていることが記載されている。
また、当該R/bakバッキング材の用途と使用例について、
「(イ)感光性樹脂板(ベース剥離タイプ)の裏打ち用、(ロ)段ボール印刷機の版胴のバッキングシート用として利用できる。」と記載されている。

4)異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲4
166頁には、
「6.マグネチックプレート貼込みシステム
柔軟性をもったゴム状永久磁性材料を使用するシステムである。この材料は数種類の方法で使われる。
1)鋳造時に磁性材料をゴム版と同時に加硫する
2)ゴム版を製造した後で接着剤で磁性材料と貼合する
3)磁性材料を貼込み材の固定側の端に付ける
貼込みが速いのとムラ取り時間が短いのがこの方法の大きな特長である。」
と記載がされている。

5)異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲5
1頁目の【構成】には、
「感光性樹脂よりなるフレキソ版5を鋼製の版胴6に装着し固定させるフレキソ版の固定構造において、マグネットシート2の一方の面2aに、可撓性を有する樹脂フィルムを積層して樹脂層3を形成した固定シート1を具備し、前記樹脂層3の表面3aに両面粘着テープ7を介して前記フレキソ版5を固着させ、フレキソ版5を前記固定シート1を介し固定シート1の基材2の磁力にして版胴6に吸着させ固定させる。なお、前記樹脂層3の表面3aには碁盤割線4が印刷されている。」
と記載されている。

6)異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲6
1頁左欄13行?2頁左上欄1行「従来の印刷装置は印版を印胴ロール周面に巻付装置(締付装置)によって直接張着するものであったので印胴ロールを高速回転させて印刷を行なうと、その高速回転によってゴム又は軟質樹脂製印版の弾性は限界を超えて剛体化し、次のような欠点があるのが実状であった。即ちその一つは被印刷物が段ボールシートの場合剛体化した印版の印刷圧により段繰り山を押しつぶし、段ボールシートの強度を低下させ同シートで箱等を形成した際には積上強度等を低下させ商品価値を下げる。その二つ目は剛体化した印版と押えロールとの間を段ボールが通過する際、・・・印刷ずれやかすれ等が生じ、・・・商品価値を著しく低下させ全く商品とならない場合もある。その三つ目は被印刷物が上記段ボールシートに限らずクラフト紙等の原紙でも高速印刷を行うと・・・所定位置への印刷が困難となる。以上のような欠点のために印刷速度を高めることができす生産性が悪かった。この為、段ボール或は紙袋業界ではこれを解決することが強く望まれていた。」

2頁左上欄3?7行「本発明を図面に示す実施例について説明すると、本発明は印版1と印胴ロール2との間にクッション層3を介在したことを特徴とする印刷装置であって、印版1はゴム製、合成樹脂製等のものであり凸型印版、凹型印版のいずれでも良い。」

これらの記載には、印刷装置に使用される版がゴム又は軟質樹脂製のものであって、段ボールへの印刷に用いられることが指摘されている。このように、ゴムや感光性樹脂でできた柔軟な版を使用し、当該版を用いて用紙に直接印刷することで、段ボールなどの表面が凸凹なものに印刷できることは、フレキソ印刷の特徴としてよく知られていることに照らして、当該甲6に記載されている印刷装置は、フレキソ印刷に係るものであることが把握できる。

2頁左上欄8行?右上欄13行「印版1は凹型印版であって同印版1をテフロンシート4間に接着し、同テフロンシート4の両端に印胴ロール装着バー5、5を設けるものである(テフロンシートに限らず非伸張性かつ水洗等可能なシートであれば良い)。クッション層3はスポンジ(1mm厚)等のシート状のもので形成されるものであって、スポンジシート3をテフロンシート等の非伸張性プラスチックシート6面に接着するものである。そして同スポンジシート3の上面と上記テフロンシート4の下面とを第6図に示すように面接して粘着テープ7等によって貼合一体とするものである。印胴ロール2には上記装着バー5、5を嵌合する溝8、8’が軸線方向に形成し、一方の溝8’は同ロール2に内設した回転可能な締付用溝とするものである。そして上記第6図に示されるような印版1とスポンジシート3との重合物をロール2周面に張着するものであり、その要領は次の通りである。即ち装着バー5を印胴ロール2の溝8に嵌合し(第7図)、同ロール2を矢印a方向に回転してスポンジシート3を接着したプラスチックシート6をロール面に巻回し(第8図)、他方のバー5を溝8’に嵌合して同溝8’を矢印b方向に回動して(第9図)スポンジシート3および印版1をロール2周面に張設し、印版1と印胴ロール2との間にクッション層3を形成するものである(第9図)。」

2頁右上欄13?20行「尚第10図に示すものは上述と同様の要領で印胴ロール2の周面に部分的に印版1を取付け張着した他の実施例を示すものである。またクッション層3の形成は上述の他にスポンジ等のクッション材を印胴ロール2に先に張着した後第2図に示す装着バー付の印版1を取付けてもよいし、或は印胴ロール2自体にクッション層3を直接設けても良い。」

2頁右上欄20行?左下欄6行「そして第6図に示すものによってクッション層3を形成した場合、又はプラスチックシート6を用いずにクッション層3を形成する場合でも第2図に示すテフロン等のシート4を用いた印版1を使用すると同シート4の防水性によりスポンジ等のクッション材にインキが浸透することがない。」

前記記載から、当該甲6には、印版と印胴ロールとの間にクッション層を形成させるための部材として、プラスチックシート6に接着されたスポンジシート3をテフロンシート4に粘着テープ7等によって接着したものが開示され、当該テフロンシート4の端部には装着バー5が設けられること、そして、第2図を参照すれば、印版1がテフロンシート4の上に接着されることが開示されている。
そして、当該クッション層を印胴ロールに装着する手順として、テフロンシート4の一方端の装着バー5を印胴ロール2の溝8に嵌合し印胴ロール面に巻回し、他方端の装着バー5を溝8’に嵌合して当該溝8’を回動させることでスポンジシート3を張設すること、が開示されている。
また、クッション層3を先に印胴ロール2に張着した後に、装着バー付の印版1を取り付けてもよいことが示唆されている。

してみれば、当該甲6からは、
「フレキソ印刷装置において、印版1と、該印版1を接着するためのテフロンシート4と、印胴ロール2の外周面に装着するための装着バー5、5と、クッション層3を形成するスポンジシートとからなり、印版1とスポンジシートとを印胴ロール2に装着する方法であって、
スポンジシート3を印胴ロールに予め装着する工程と、
印胴ロール2に取り付けられたスポンジシート3の上に、印版1と、該印版1を接着するためのテフロンシート4と、印胴ロール2に掛止するための装着バー5とを有する重合物を積層して構成するとともに、該装着バー5を印胴ロール2に掛止させる(詳細には、印胴ロール2の溝8、8’に嵌合させる)ことにより、スポンジシート3を介して前記重合物を印胴ロールに巻装させる巻装工程と、
を有する印版巻装方法。」(以下、「引用発明2」という。)
を把握することができる。

7)異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲7
1頁特許請求の範囲「1.輪転印刷機の版板またはゴムブランケットを支持する胴紙製または厚紙製の中間層の端部を、・・・磁気シートストリップ(7,8,23,24,33)によって胴みぞ(5,17,28)の金属部分へ接触保持されている・・・輪転印刷機の胴へ中間層を固定するための装置。
3.・・・片面で作用する磁気シートストリップ(33)によって胴みぞ(28)の金属部分(34)へ接触保持されている、特許請求の範囲第1項記載の装置。」
4頁には、磁気シートストリップ7,8,23,24,33が前記中間層の端部に設けられたものについての装着状況を示すFig.1?Fig.3が示されている。

3-2 異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲号各証
1)異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の1
(異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1と同じカタログである。)

2)異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の2
2000年2月1日現在における入手可能な段ボール印刷用”R/bak”製品のラインナップがそれらの寸法と共にリストされている。

3)異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の3
当該カタログには、”R/bak S”について、「このポリエステル補強タイプのR/bak製品は、刷版の担体とクッション材の両方の役割を有する。機械的なまたは磁石による装着具は、通常の方法で容易に取り付けることができる。」と記載されている。

4)異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の4
ロジャースジャパンインク支社長:杉田康典から、旭化成ケミカルズ株式会社に宛てた証明書である。
そして、ロジャースジャパンインクが、米国ロジャースコーポレーション(本社コネチカット州)の100%出資の日本支社であること、ロジャースコーポレーションの”R/bak”(商標)に関するカタログ(甲2の1?甲2の3)について、
1.甲2の1:「R/bak(R) SSSF Plate Mounting Instructions」の裏面中央下段の印刷された記号「Publication #:12-003 3/97 Printed in U.S.A.」は、1997年3月に米国内で印刷され頒布されたこと
2.甲2の2:「R/bak(R) Corrugated Cushon Mounting Materials Product Availability and Order Policies」の右下段に印刷された記号「Publication No.12-032 Printed in U.S.A.」は、2000年1月に米国内で印刷され頒布されたこと
3.甲2の3「R/bak(R) Compressible Plate Mounting System... IMPROVES PRINT QUALITY and INCREASES YOUR PROFITS」の裏面に印刷された記号「Printed in U.S.A. 6333-093-2.5A」は、1993年9月に米国内で印刷され頒布されたこと、と記載されており、いずれのカタログも米国内で印刷され頒布されたことを証明すると記載されている。

5)異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲3
736?737頁には、
「3.8.3 フレキソ印刷用周辺機材
他版式に比べて印刷品質が劣るフレキソ印刷が最近急速に品質アップしたのは,このフレキソ印刷に使われる周辺機材の開発が貢献しているので主なものを列記しておく.
a.各種バッキング剤
プレートシリンダ上にゴム版あるいはフレキソ用樹脂版を装着するのに通常両面接着テープなどの方法をとっているが,この際,バッキング材の選択いかんによって最終印刷物の仕上りに大きな影響が出てくる.版厚精度の不足,被印刷体への多様性,印刷スピードの高速化によるプレートシリンダ回転の偏心等を補正,あるいは版材のクッション性,印刷作業性アップから極薄材料層の中に密閉された気泡の入ったバッキング材が普及している.一つはポリウレタンのクッション性を利用して樹脂版の下層に貼り合せて網点,細字のシャープさを出すステッキーバック,もう一つはゴム材に磁性材料を混ぜ合せたマグネテックバッキング材で版材のシリンダ取付け時間の大幅短縮,置き版の簡便さなどに利用されている。」
と記載されている。

6)異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲4
302頁には、
「バッキング材 --材 backing material
フレキソ印刷用の刷版と組み合せて,版胴に貼込みするための材料。一般には両面接着テープが多く用いられる。そのほか,刷版の版厚むらを吸収して画線の太りやマージナルゾーンを少なくしたり,被印刷物の凹凸を吸収するために,多孔質の物または発泡体層とを組合せてクッション性を与えるため使用されるものもある。また,磁性シートを組み合せて使用する場合もある。」
と記載されている。

7)異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲7
166頁には、以下の記載がある。
「5.キャリアシートに貼込んだ版
シリンダーに版を固定するためのキャリアシートには数種類の方法がある。一つはポリエステルのスリーブである。これはシリンダーの表面の穴から空気を引くことによって,シリンダーにスライドさせたスリーブを減圧圧着する方法である。もう一つの方法は金属,ナイロン,ポリエステルなどのさまざまな材料でできたキャリアシートに版を貼込む方法である(写真6-13参照)。キャリアシートは,シリンダーに設けられた特別のクランプによってシリンダーに取付ける。保存はキャリアシートに版を取付けたままつり下げておく。これによって,再使用の時,位置合わせおよび取付けが楽である。
6.マグネチックプレート貼込みシステム
柔軟性をもったゴム状永久磁性材料を使用するシステムである。この材料は数種類の方法で使われる。
1)鋳造時に磁性材料をゴム版と同時に加硫する
2)ゴム版を製版した後で接着剤で磁性材料と貼合する
3)磁性材料を貼込み材の固定側の端に付ける
貼込みが速いのとムラ取り時間が短いのがこの方法の大きな特長である。」

4.対比・判断
4-1 本件発明1について
(1) [本件発明1]と[引用発明1]との対比
異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲6の記載を参照するに、印刷装置が開示されている。
そして、ここでは、印刷装置において、刷版(当該甲6の「印版」が相当する。)と、該刷版を固着するためのフィルム部材(「テフロンシート」が相当)と、印刷用の印刷シリンダ(「印胴ロール」)に掛止するための部材(「装着バー」が相当)とを有する印刷シートの形態を用いることが開示されている。
してみると、印刷装置において、「刷版と、該刷版を固着するためのフィルム部材と、印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シート」の構成は、一般的なものと解される。
また、異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲5及び甲6、そして、異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲3の前記各記載を参照するに、フレキソ印刷において、フレキソ印刷用の刷版と組み合せて,版胴に貼込みするための材料はバッキング材と呼称され、刷版の版厚むらの吸収、被印刷物の凹凸を吸収、多孔質の物または発泡体層とを組合せてクッション性を与える等の機能が期待される部材であることが把握できる。
してみると、異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1(異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の1と同じ)に記載される引用発明1における「フレキソ印刷用圧力減少材及び衝撃吸収材」が、前記バッキング材に相当することは明らかである。
更に、異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲2には、前記甲1に記載されると同じ”R/bak”に関して、これを用いると薄い印刷版を装着する場合に、厚い印刷版を装着する場合と同様の厚みが得られることを示唆する記載がなされている。

他方、本件特許明細書段落【0009】、【0010】、【0062】及び【0063】には、以下の記載がある。
【0009】「そこで、本発明は、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、該印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となるフレキソ印刷用嵩上げ部材を提供することを目的とする。」
【0010】「【課題を解決するための手段】
本発明は上記問題点を解決するために創作されたものであって、第1には、フレキソ印刷において感光性刷版の嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、磁石部と、シート状を呈するクッション部と、を有することを特徴とする。」
【0062】「【発明の効果】
本発明に基づくフレキソ印刷用嵩上げ部材によれば、感光性刷版を有する印刷シートを嵩上げすることができるので、フレキソ印刷用嵩上げ部材を所定の厚み(特に、厚さ4mm)とすることにより、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、本発明のフレキソ印刷用嵩上げ部材は、シリンダから簡単に取り外せるので、印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となる。また、上記クッション部と印刷シートとをシリンダに徐々に巻き付けていくことにより、上記フレキソ印刷用嵩上げ部材とシリンダとの間の空気及びフレキソ印刷用嵩上げ部材と印刷シートとの間の空気は徐々に押し出されるので、空気が残留することにより不均一な印圧となって印刷性が低下してしまうということがない。そのため、高い印刷性の確保を図ることも可能になる。」
【0063】「また、特に、シート状部を有する場合には、印刷インク等がクッション部に付着するおそれを小さくでき、汚れ防止になる。」
これらの記載を参酌するに、本件特許明細書における「本発明」がフレキソ印刷において高い印刷性を確保すべく、不均一な印圧で印刷性が低下することを防止すべく、クッション性をも与えることを期待されている部材であり、「本発明は、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、該印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となるフレキソ印刷用嵩上げ部材を提供することを目的とする。」と記載されているように、当初予定されている厚みの刷版よりも厚さの薄い印刷刷版をも容易に用いることができることを目的とした故に、「嵩上げ部材」と呼称されるものの、良好な印刷性を担保すべく用いられる点において、バッキング材と呼び得るものと認められる。

してみるに、引用発明1における「フレキソ印刷用圧力減少材及び衝撃吸収材」は、本件発明1における「フレキソ印刷用嵩上げ部材」に相当するものといえる。

したがって、本件発明1と引用発明1とを対比した場合、以下の点で一致し、相違している。

一致点:「フレキソ印刷において、刷版と、該刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
シート状を呈するクッション部を有するフレキソ印刷用嵩上げ部材。」
である点。

相違点1:本件発明1では、刷版が感光性刷版と記載されるのに対して、
引用発明1では、感光性刷版を含むのか定かでない点。

相違点2:本件発明1では、「該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部」が特定されているのに対し、
引用発明1では、印刷シリンダにクッション部を取り付けるための部材(リード或いはトレーラー)が取り付けられるものの、もともと当該部材を有しているものとはいえない点。

相違点3:本件発明1では、「該磁石部と該クッション部とが隣接して並設されている」との特定があるのに対し、
引用発明1では、このような構成を有していない点。

(2) 相違点に係る判断
相違点1は、引用発明1がフレキソ印刷用であることは明らかなるも、これにおける刷版が直ちに感光性刷版を含むとまではいえない点にある。
しかしながら、版を構成するに際して感光性樹脂に露光せしめて画線を形成することで版を構成することは、フレキソ印刷技術においては慣用されることである(異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が参考資料として提出している「新版 フレキソ印刷の理論と実際」16頁における「刷版」の説明にも、この点記載されている。)。
したがって、相違点1は実質的な相違点を形成するものとはいえない。

次に相違点2について検討する。
引用発明1を認定した異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1によれば、クッション部を形成するポリウレタン(PU)を切除した後に、ポリエステル(PE)ベース一端部にリード(lead)が取り付けられると共に、同ポリエステル(PE)ベースの他端にはグロメット、プラスチックタブ、テープなどのトレーラー(trailer)が取り付けられ、これらを用いて、当該R/bakなる製品は印刷シリンダに装着されることとされる。
してみれば、少なくとも、前記リード(lead)及びトレーラー(trailer)が取り付けられた時点、すなわち、印刷シリンダーに装着直前のR/bakは印刷シリンダに掛止するための部材(リード或いはトレーラー)を有するものともいい得ることとなる。
他方、当該異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1には、前記取付部材として磁石を用いることの記載はない。

しかし、異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲7を参照するに、当該5.の記載からは、シリンダーに版を固定する際に、版を貼込んで固定するキャリアシートにナイロン、ポリエステルなどの材料を採用していることが把握できる。
そして、6.の記載からは、マグネチックプレートを用いた貼込みが、貼込みが速く、装着する際にムラ取り時間が短い利点を有していることが把握できると共に、1)?3)の3つの態様が対比的に挙げられている。
よって、これら1)?3)には、異なる態様が記載されているものと解される。
ここで、1)の態様は、ゴム版自体に磁性材料を同時に加硫されるものであるから、磁石部分とクッション部分とを識別することは困難である。
次に、2)の態様は、ゴム版を製版した後に、磁性材料が接着貼合されるものであるから、磁石部分とクッション部分とを識別することは可能であるものの、あくまでも積層されたものであるから、ゴム版の端部に磁石部を有するものではない。
これらに対し、3)の態様は、「磁性材料を貼込み材の固定側の端に付ける」と表現されることからして、いわばシート状の貼込み材に磁性材料からなる別部材が、その端部に付ける構成が示されていると解される。
すると、フレキソ印刷用刷版を印刷シリンダに装着する際に、版自体に磁力を与える構成、版に磁力を有する磁性シートを積層接着する構成以外に、磁性材料から成る別部材をゴム版を貼込んだシート状の貼込み材の端部に取り付ける構成が知られていることが把握できる。
そして、異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲7には、フレキソ印刷用との明記はないものの、刷版を支持するための中間層を胴に装着する際に、中間層の端部に積層した磁気シートストリップで装着を行うことが開示されており、本件発明1と同様に磁力をもって胴、すなわち印刷シリンダに中間層を装着することが、従来から用いられていることが把握できる。
してみれば、磁石部材を用いて中間層を印刷シリンダに装着する際に、磁性材料から成る別部材をゴム版を貼り込んだシート状の貼込み部材の端部に取り付ける構成を参考にして、磁石部材を中間層端部に配する構成を採用することを着想するのは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

本件発明1においては、「該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部」と記載され、磁石部の付着する先を印刷シリンダの外周面と特定しているが、前記異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲7に記載のように、磁性シートの場合であるものの付着する箇所として印刷シリンダ外周面を選択することが既に知られている以上、当該磁石部を用いた際に、これらと同様に、印刷シリンダ外周面を選択することは、当業者であれば容易に選択し得ることである。

したがって、相違点2に係る「該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部」を嵩上げ部材を印刷シリンダの外周面に掛止するための部材として採用することは、当業者であれば容易に想到し得る程度の事項である。

次に、残る相違点3について検討する。
異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1の「工程5」に記載された「トレーラー」を参照するに、「グロメット(Grommet)」、「プラスチックタブ(Plastic Tab)」、「テープ(Tape)」のそれぞれが、ポリエステル(PE)ベースのいずれの面に取り付けされるかは異なっており、採用した手段により適宜選択されていることが窺える。
ここで、磁石部を設ける際に、その磁石としての特性を考慮すれば、吸着する印刷シリンダ面に近いほど、吸着力を発揮し得ることは技術常識である。
他方、同じく異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲6においては、印版(刷版に相当)と印胴ロール(印刷シリンダに相当)との間にクッション層を形成するに際して、インクがクッション層に浸透することを防ぐべく、テフロンシート4をクッション層の上面に位置させる装着方法が開示されており、このようなインク浸透防止策が従来知られていたことが窺える。
この点、本件特許明細書の段落【0059】において、実施例に係る記載ではあるものの、ポリエステルフィルム30を上面としてクッション部20のインク等による汚れを防止する使用方法が説明されている。
してみれば、磁石部の吸着力が良好に発揮し得るように、磁石部とクッション部とがともに印刷シリンダ側に対峙するように両者を位置させることは、当業者が適宜採用し得た程度のことといわざるを得ない。
また、本件発明1においては、磁石部とクッション部とが嵩上げ部材としていかなる手段をもって一体化しているかの明記はないものの、少なくとも、実施例記載されるようにポリエステルフィルム30に両者を接着することで一体化することを想定した場合、磁石部10とクッション部20とがポリエステルフィルム30の異なる面側に存在したとすると、ポリエステルフィルム30は両者間(【図2】における点線部位)で斜め或いは角度をなすこととなり、結果として、印刷シリンダと嵩上げ部材との間に隙間を生じることとなる。
すると、印刷時において、この隙間の前後で嵩上げ部材が印刷シリンダとの間で接離する状況を生じるであろうことが容易に推察されるのであり、磁石部10とクッション部20とをポリエステルフィルム30の同じ面に位置させることを想起するのは自然な発想といえる。
また、ポリエステルフィルム30の同じ面に位置させることを想定する場合、磁石部10とクッション部20との間に間隔をあけたとすれば、その間隔分だけクッション層の有効な面の長さを失うことになるとともに、当該箇所においてポリエステルフィルム30の下面に空間を生じ、当該ポリエステルフィルム30には巻き付け方向の張力以外に上下方向の力が加わり得ることからして、通常に取り付けを行う際には、磁石部10とクッション部20との間を接した状態になすことが、これまた自然な発想といえる。
してみれば、磁石部10とクッション部20との両者の間を接するように、すなわち「隣接して並設」させるように配置することは、当業者であれば自然に選択する構成を表したに過ぎないことである。

なお、本件発明1においては、磁石部とクッション部の両者の厚み関係を特定しておらず、本件請求項9、10記載において、はじめてこれが特定されていることからすれば、本件発明1では、磁石部厚みがクッション部厚みを超える場合も、文表現上包含しているものと解される。
してみると、本件発明1に関する相違点3に係る「該磁石部と該クッション部とが隣接して並設されている」との特定により奏する効果は、本件特許明細書段落【0056】に記載されるところの、嵩上げ部材を容易に印刷シリンダR10に着脱自在であるとするものと解されるも、これは磁力による取付手段を採用したことにより既に得られているものであるから、当該特定は前記のように当業者が適宜選択し得る事項を表したに過ぎないものである。

よって、本件発明1は、引用発明1と前記甲号証に記載の事項から当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-2 本件発明2について
(1) [本件発明2]と[引用発明1]との対比
本件発明2は、本件請求項1を引用して、これに更に特定を加えたものである。
そして、前記「4-1 本件発明1について」で指摘した一致点、相違点1?3に加えて、以下の点において相違する。

相違点4:本件発明2においては、上記磁石部と上記クッション部とが、可撓性を有すること、と特定されているのに対し、
引用発明1においては、クッション部が可撓性を有するものの、可撓性を有する磁石部を有するものではない点。

(2) 相違点に係る判断
嵩上げ部材が装着される印刷シリンダの外周面が曲面をなしていることは明らかである。
そして、異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲4及び甲5にも記載されているように、印刷シリンダに版を貼り込むに際して、磁性材料を含めて可撓性を与えることは従来から行われていることである。
してみれば、相違点4に係る、磁石部を構成するに際して、これに可撓性を与えることは、当業者が適宜選択し得た程度の事項であり、本件発明2は、引用発明1と前記甲号証に記載の事項から当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-3 本件発明3について
(1) [本件発明3]と[引用発明1]との対比
本件発明3は、本件請求項1又は請求項2を引用して、これに更に特定を加えたものである。
そして、前記「4-1 本件発明1について」で指摘した一致点、相違点1?3若しくは「4-2 本件発明2について」で指摘した相違点4に加えて、以下の点において相違する。

相違点5:本件発明3においては、
「上記フレキソ印刷用嵩上げ部材が、さらに、
上記磁石部の上面と、上記クッション部の上面とを被覆するシート状部で、シート状部材により形成されたシート状部を有すること」
と特定されているのに対し、
引用発明1においては、クッション部を被覆するシート状部をなすといえるポリエステルベースは存在するものの、磁石部を有していないので、前記特定を有しない点。

(2) 相違点に係る判断
前記「4-1 本件発明1について」の相違点2,3で検討したように、引用発明1の嵩上げ部材に印刷シリンダへの取付手段として磁石部を使用する場合に、シート状部に対してクッション部と共に磁石部を配する際、隣接して並設するように配設することは、当業者であれば自然に選択する構成を表したに過ぎない。
してみれば、相違点5に係る構成とすることは、当業者が適宜選択し得た程度の事項であり、本件発明3は、引用発明1と前記甲号証に記載の事項から当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-4 本件発明4について
(1) [本件発明4]と[引用発明1]との対比
前記「4-1 本件発明1について」で既に検討したように、引用発明1における「フレキソ印刷用圧力減少材及び衝撃吸収材」は、本件発明4における「フレキソ印刷用嵩上げ部材」に相当するものといえる。
そして、引用発明1の「ポリエステルベース」、「シート状を呈するポリウレタンからなるクッション部」が、本件発明4の「シート状部材により形成されたシート状部」、「該シート状部の該一方の面に固着されたクッション部」に相当することは明らかである。

したがって、本件発明4と引用発明1とを対比した場合、以下の点で一致し、相違している(前記で記載した相違点と同じものには同一番号を付した。)。

一致点:「フレキソ印刷において、刷版と、該刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材を有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
シート状部材により形成されたシート状部と、
該シート状部の一方の面に固着されたクッション部であって、シート状を呈するクッション部
を有するフレキソ印刷用嵩上げ部材。」
である点。

相違点1:本件発明4では、刷版が感光性刷版と記載されるのに対して、
引用発明1では、感光性刷版を含むのか定かでない点。

相違点2:本件発明4では、「該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部」が特定されているのに対し、
引用発明1では、印刷シリンダにクッションを取り付けるための部材(リード或いはトレーラー)が取り付けられるものの、もともと当該部材を有しているものとはいえない点。

相違点6:本件発明4では、「磁石部」について「該シート状部の一方の面に固着された磁石部」との特定がされるとともに、「クッション部」について「該シート状部の該一方の面に該磁石部に隣接して固着されたクッション部」との特定があるのに対し、
引用発明1では、このような構成を有していない点。

(2) 相違点に係る判断
「4-1 本件発明1について」で既に検討した理由により、相違点1は本件発明4と引用発明1との実質的な相違点を形成するものでなく、また、相違点2については、当業者であれば容易に想到し得る程度の事項である。

次に、相違点6について検討する。
前記相違点6に係る本件発明4の特定は、まとめるに、「シート状部材により形成されたシート状部」の一方の面に「磁石部」と「クッション部」とが隣接して固着されていること特定するものである。
しかし、既に前記「4-1 本件発明1について」の相違点2及び3において検討した理由により、本件発明4の「シート状部材により形成されたシート状部」に相当する引用発明1の「ポリエステルベース」の面に接着、すなわち固着された本件発明4の「該シート状部の該一方の面に固着されたクッション部」に相当する「シート状を呈するポリウレタンからなるクッション部」から成る構成に、印刷シリンダに掛止するための部材として磁石を配するに際して、クッション部に隣接させて固着することは、当業者が適宜採用し得た程度のことである。
よって、本件発明4は、引用発明1と前記甲号証に記載の事項から当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-5 本件発明5について
(1) [本件発明5]と[引用発明1]との対比
本件発明5は、本件請求項3又は4を引用して、これに更に特定を加えたものである。
そして、前記「4-1 本件発明1について」?「4-4 本件発明4について」で指摘した一致点、相違点1?6に加えて、以下の点において相違する。
相違点7:本件発明5においては、「上記シート状部が、フィルム部材により形成されている」と特定されているのに対し、
引用発明1においては、シート状部に相当するポリエステルベースを有するものの、これをフィルム部材としていない点。

(2) 相違点に係る判断
フィルムとは、広辞苑によれば「薄皮。薄膜。」を指す表現である。
これに対して、引用発明1のポリエステルベースは、0.010”の厚みをなすことが、異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1に明記があり、フィルム部材と呼び得るものであり、当該相違点7は実質的な相違点を形成するものとはいえない。
よって、本件発明5は、前記本件発明3、4と同様の理由で当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-6 本件発明6について
(1) [本件発明6]と[引用発明1]との対比
本件発明6は、本件請求項4又は5を引用して、これに更に特定を加えたものである。
そして、前記「4-1 本件発明1について」?「4-5 本件発明5について」で指摘した一致点、相違点1?7に加えて、以下の点において相違する。

相違点8:本件発明6においては、「上記クッション部と上記シート状部とが可撓性を有する」と特定されているのに対し、
引用発明1においては、これらクッション部に相当するポリウレタンフォームのシート状部材と、シート状部に相当するポリエステルベースを有するものの、これらが可撓性を有するものとの明記はされていない点。

(2) 相違点に係る判断
引用発明1のクッション部及びシート状部は、外周面が曲面をなす印刷シリンダに掛止されるものであり、当然に可撓性を備えるものといえることから、当該相違点8は実質的な相違点を形成するものとはいえない。
よって、本件発明6は、前記本件発明4、5と同様の理由で当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-7 本件発明7について
(1) [本件発明7]と[引用発明1]との対比・判断
本件発明7は、本件請求項4、5又は6を引用して、これに更に「上記磁石部が可撓性を有する」なる特定を加えたものである。
しかしながら、既に前記「4-2 本件発明2について」で検討したように、嵩上げ部材を印刷シリンダに掛止するための部材として磁石を採用するに際して、これに可撓性を与えることは、当業者が適宜採用し得た事項である。
よって、本件発明7は、前記本件発明4、5又は6と同様の理由で当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-8 本件発明8について
(1) [本件発明8]と[引用発明1]との対比・判断
本件発明8は、本件請求項1?7を引用して、これに更に「上記クッション部が、連発泡の素材により形成されている」なる特定を加えたものである。
しかしながら、引用発明1を認定した異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲1には、クッション部に相当するポリウレタンフォームのシート状部材であることが明記されており、前記特定の「連発泡の素材」であることが明らかである。
よって、本件発明8は、前記本件発明1?7と同様の理由で当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-9 本件発明9について
(1) [本件発明9]と[引用発明1]との対比
本件発明9は、本件請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8を引用して、これに更に「上記磁石部の厚みと、上記クッション部の厚みとが略同一である」なる特定を加えたものである。
ここで、本件明細書添付図面【図6】に明らかなように、印刷シリンダR10は加圧シリンダR1aと所定間隙をもって対峙しており(【0051】参照)、刷版はこの間隙を通過する際に所定印圧を加えられて印刷が実行されるのであり、良好な印刷結果を期待する上で印圧をどの程度とするかが重要である。
してみれば、磁石部の厚みとクッション部の厚みとを略同一としておけば、当該磁石部による前記印圧への影響を排除し得ることは自明なことであって、このような厚み関係を与えることは設計事項に属するのであり、本件発明9は前記本件発明1?8と同様に容易に発明をすることができたものである。

4-10 本件発明10について
(1) [本件発明10]と[引用発明1]との対比
本件発明10は、本件請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8を引用して、これに更に「上記磁石部の厚みが、上記クッション部の厚みよりも薄く形成されている」なる特定を加えたものである。
しかし、前記「4-9 本件発明9について」で指摘したように、磁石部の厚みを好適なものとなすことは設計事項に属するものであり、しかも、印刷を実行すると、クッション層がその特性上から当初よりも薄くなることは自明であることからして、磁石部をクッション層よりも薄くすることは当業者であれば、容易になし得る程度のことである。
よって、本件発明10は前記本件発明1?8と同様に容易に発明をすることができたものである。

4-11 本件発明11について
(1) [本件発明11]と[引用発明1]との対比
本件発明11は、本件請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10を引用して、これに更に「フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みが、3.5mm?4.5mmである」なる特定を加えたものである。
しかしながら、異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の2には、引用発明1を認定した「シート状部材により形成されたシート状部」と「シート状を呈するクッション部」とを有する嵩上げ部材である”R/bak”に各種寸法のものがラインアップされており、”SF”なるタイプには3.05mm、3.56mm及び4.06mmのものの存在が明記されており、当該厚みは用途の要請に応じて適宜の寸法として準備されるものであることからして、本件発明11に係る前記特定は格別なものとはいえない。
したがって、本件発明11は、前記本件発明1?10と同様の理由によって当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-12 本件発明12について
(1) [本件発明12]と[引用発明1]との対比
本件発明12は、本件請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10を引用して、これに更に「フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みが、4.0mmである」なる特定を加えたものである。
しかしながら、前記異議申立人:旭化成ケミカルズ株式会社が提出した甲2の2に示されているように、嵩上げ部材である”R/bak”の”SF”なるタイプに4.06mmのものが存在しているように、当該厚みは用途の要請に応じて適宜の寸法として準備されるものであることからして、本件発明12に係る前記特定は格別なものとはいえない。
したがって、本件発明12は、前記本件発明1?10と同様の理由によって当業者が容易に発明をすることのできたものである。

4-13 本件発明13について
(1) [本件発明13]と[引用発明2]との対比
「4-1 本件発明1について」で指摘したように、フレキソ印刷は、印刷方法の一つであり、引用発明2における印刷はこれを当然に包含するものであるから、引用発明2においてフレキソ印刷を対象とした場合を想定することが可能である。
そして、同じく指摘したように、異議申立人:明和ゴム工業株式会社が提出した甲6の記載からみて、印刷において、「刷版と、該刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シート」の構成は、一般的なものである。
よって、引用発明2における「印版1」、「印胴ロール2」、「印版を接着するためのテフロンシート4」及び「印胴ロール2に掛止するための装着バー5」は、本件発明13における「刷版」、「シリンダ」、「刷版を固着するためのフィルム部材」及び「印刷シリンダに掛止するための部材」に相当することは明らかである。
また、引用発明2における「スポンジシート3」は、嵩上げを行うものとの記載はないものの、良好な印刷結果を得るべく刷版(「印版」)を含めた重合物と共に所定厚さとなすものであるから、本件発明13の「嵩上げ部材」に相当する部材として認識し得る。
してみれば、本件発明13と引用発明2とは、以下の点で一致し、相違している(前記で記載した相違点と同じものには同一番号を付した。)。

一致点:「フレキソ印刷において、刷版をシリンダに巻装する刷版巻装方法であって、
フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダに取り付ける取付け工程と、
シリンダに取り付けられたフレキソ印刷用嵩上げ部材の上に、刷版と、該刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートを積層させるとともに、該掛止するための部材を印刷シリンダに掛止させることにより、該フレキソ印刷用嵩上げ部材を介して該印刷シートをシリンダに巻装させる巻装工程と
を有する刷版巻装方法。」
である点。

相違点1:本件発明13では、刷版が感光性刷版と記載されるのに対して、
引用発明2では、感光性刷版を含むのか定かでない点。

相違点9:本件発明13では、「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は11又は12に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材における磁石部をシリンダの外周面に磁力により接着させることにより、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダに取り付ける」と特定されるのに対し、
引用発明2では嵩上げ部材(スポンジシート3)を、いかなる手段をもって印刷シリンダに装着するかが明らかでない点。

(2) 相違点に係る判断
相違点1については、既に「4-1 本件発明1について」の相違点1で検討したように、フレキソ印刷技術において、版を構成するに際して感光性樹脂に露光せしめて画線を形成することで版を構成することは慣用されており、当該相違点1が実質的な相違点を形成するものとはいえない。

相違点9は、本件発明13において「請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は11又は12に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材」を用いることが特定され、これらの嵩上げ部材には、磁石部が設けられていることに基づく相違である。
しかしながら、既に「4-1 本件発明1について」の相違点2及び3で検討したように、嵩上げ部材を印刷シリンダに磁力により着脱自在となすこと、そして、シリンダの外周面に接着(吸着)させることは、当業者であれば適宜採用し得た程度のことである。
したがって、本件発明13は、引用発明2と前記甲号証に記載の事項から当業者が容易に発明をすることのできたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?本件発明13は、上記甲号各証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?本件発明13についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フレキソ印刷用嵩上げ部材及び感光性刷版巻装方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と、
シート状を呈するクッション部と、
を有し、
該磁石部と該クッション部とが隣接して並設されていることを特徴とするフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項2】上記磁石部と上記クッション部とが、可撓性を有することを特徴とする請求項1に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項3】上記フレキソ印刷用嵩上げ部材が、さらに、
上記磁石部の上面と、上記クッション部の上面とを被覆するシート状部で、シート状部材により形成されたシート状部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項4】フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、
シート状部材により形成されたシート状部と、
該シート状部の一方の面に固着された磁石部で、該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と、
該シート状部の該一方の面に該磁石部に隣接して固着されたクッション部であって、シート状を呈するクッション部と、
を有することを特徴とするフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項5】上記シート状部が、フィルム部材により形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項6】上記クッション部と上記シート状部とが可撓性を有することを特徴とする請求項4又は5に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項7】上記磁石部が可撓性を有することを特徴とする請求項4又は5又は6に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項8】上記クッション部が、連発泡の素材により形成されていることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項9】上記磁石部の厚みと、上記クッション部の厚みとが略同一であることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項10】上記磁石部の厚みが、上記クッション部の厚みよりも薄く形成されていることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項11】フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みが、3.5mm?4.5mmであることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項12】フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みが、4.0mmであることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材。
【請求項13】フレキソ印刷において感光性刷版をシリンダに巻装する感光性刷版巻装方法であって、
請求項1又は2又は3又は4又は5又は6又は7又は8又は9又は10又は11又は12に記載のフレキソ印刷用嵩上げ部材における磁石部をシリンダの外周面に磁力により接着させることにより、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダに取り付ける取付け工程と、
シリンダに取り付けられたフレキソ印刷用嵩上げ部材の上に、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートを積層させるとともに、該掛止するための部材を印刷シリンダに掛止させることにより、該フレキソ印刷用嵩上げ部材を介して該印刷シートをシリンダに巻装させる巻装工程と、
を有することを特徴とする感光性刷版巻装方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フレキソ印刷用版材に関するものであり、特に、感光性樹脂製の刷版(感光性刷版)を輪転機の印刷シリンダに展着するときの下地となるフレキソ印刷用嵩上げ部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、印刷されない部分が印刷される面より落ち込んでいる凸版印刷の分野に属するフレキソ印刷(「フレキシブル印刷」ともいう)が行われている。このフレキソ印刷においては、安価で簡略な製造工程によって製造可能である利点があるため、感光性樹脂製の刷版(以下感光性刷版という)が主に用いられている。
【0003】
また、上記フレキソ印刷においては、段ボール材のように表面が粗いとともに波状の中芯を有しているため印刷時の印圧が不均一となってしまうような印刷物に対しても良好な印刷性を得るために、上記感光性刷版の厚みを7mm程度の厚さにしているのが一般的である。つまり、厚さ約7mmの感光性刷版を使用している。そのため、印刷機における印刷シリンダと加圧シリンダの間隔も、該厚さ約7mmの感光性刷版に対応して設定されているのが現状である。例えば、印刷シリンダと加圧シリンダの間隔は、7mmの幅に印刷物の厚みを考慮した厚みを加算した値となっている。
【0004】
また、印刷シリンダと加圧シリンダの径(直径)についても、印刷シリンダに上記厚さ約7mmの感光性刷版を巻き付けることにより同じ径になるようになっている。つまり、印刷機においては、印刷シリンダと同軸に設けられた歯車と、加圧シリンダと同軸に設けられた歯車とを噛合させることにより、印刷シリンダの回転力を加圧シリンダに伝達して印刷シリンダと加圧シリンダとが互いに回転するようにしており、印刷シリンダに感光性刷版を巻き付けることにより、該感光性刷版を含めた印刷シリンダの径と、加圧シリンダの径とを同じにすることにより、円滑な回転動作となるようにしている。つまり、印刷シリンダ自体の径は、加圧シリンダの径に比べて感光性刷版の厚みの2倍の厚みだけ小さくしたものとなっている。
【0005】
一方、軽量化による作業性(特に、運搬における作業性)の改善や、感光性刷版自体の破損防止や、省資源、さらには、産廃への少ない影響等を考慮して、3mm程度の厚さに形成された感光性刷版、つまり、厚さ約3mmの感光性刷版が存在するが、上記のように、印刷機における印刷シリンダと加圧シリンダの径は、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定されているので、厚さ約3mmの感光性刷版をそのまま利用することはできない。そこで、ゴム材等からなるクッション材を印刷シリンダに接着剤で接着して巻き付けて固定し、その上から、該厚さ約3mmの感光性刷版を巻き付けるようにしていた。
【0006】
なお、上記の感光性刷版は、合成ゴム等の板状の感光性樹脂により形成され、現在では、塩素系溶剤や石油系溶剤により製版されているのが一般的である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のようにクッション材を接着剤を用いて上記印刷シリンダの表面に巻装して固定させた場合では、クッション材を容易に剥がすことはできないため、その印刷機を厚さ約7mmの感光性刷版に適用することはできなくなる。
【0008】
また、上記のように、現在では、感光性刷版の現像には塩素系溶剤や石油系溶剤が用いられているが、将来仮に水系溶剤に取って代わった場合には、厚さ約3mmの感光性刷版に対応可能とする必要性が益々大きくなる。つまり、塩素系溶剤や石油系溶剤が規制されることにより、フレキソ印刷の分野においても水系溶剤を用いる感光性刷版が普及することが考えられるが、該水系溶剤を用いる感光性刷版は厚さ3mm以上とするのがもともと困難であり、その一方で、厚さ約7mmの感光性刷版が存在することからすると、厚さ約7mmの感光性刷版と厚さ約3mmの感光性刷版とを併用可能とする必要性が大きくなる。
【0009】
そこで、本発明は、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、該印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となるフレキソ印刷用嵩上げ部材を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記問題点を解決するために創作されたものであって、第1には、フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と、シート状を呈するクッション部と、を有し、該磁石部と該クッション部とが隣接して並設されていることを特徴とする。
【0011】
この第1の構成においては、磁石部が設けられているので、感光性刷版を有する印刷シート(印版ともいう)をシリンダに巻装する際に、この磁石部をシリンダに接着させた上で、このフレキソ印刷用嵩上げ部材の上から、該印刷シートを巻き付けていく。これにより、印刷シートを嵩上げすることができるので、フレキソ印刷用嵩上げ部材を所定の厚みとすることにより、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、本発明のフレキソ印刷用嵩上げ部材は、シリンダから簡単に取り外せるので、印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となる。また、上記クッション部と印刷シートとをシリンダに徐々に巻き付けていくことにより、上記フレキソ印刷用嵩上げ部材とシリンダとの間の空気及びフレキソ印刷用嵩上げ部材と印刷シートとの間の空気は徐々に押し出されるので、空気が残留することにより不均一な印圧となって印刷性が低下してしまうということがない。そのため、高い印刷性の確保を図ることも可能になる。
【0012】
【0013】
【0014】
また、第2には、上記第1の構成において、上記磁石部と上記クッション部とが、可撓性を有することを特徴とする。よって、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダにぴったり隙間なく固定させることが可能となる。
【0015】
また、第3には、上記第1又は第2の構成において、上記フレキソ印刷用嵩上げ部材が、さらに、上記磁石部の上面と、上記クッション部の上面とを被覆するシート状部で、シート状部材により形成されたシート状部を有することを特徴とする。よって、磁石部が設けられている側の面をシリンダに向けてシリンダにフレキソ印刷用嵩上げ部材を取り付けて使用することにより、感光性刷版を有する印刷シートが接する側の面には、該シート状部があるので、印刷インク等がクッション部に付着するおそれを小さくすることが可能となる。
【0016】
また、第4には、フレキソ印刷において、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートの嵩上げ部材として用いるフレキソ印刷用嵩上げ部材であって、シート状部材により形成されたシート状部と、該シート状部の一方の面に固着された磁石部で、該印刷シリンダの外周面に磁力により着脱自在な磁石部と、該シート状部の該一方の面に該磁石部に隣接して固着されたクッション部であって、シート状を呈するクッション部と、を有することを特徴とする。
【0017】
この第4の構成においては、磁石部が設けられているので、感光性刷版を有する印刷シート(印版ともいう)をシリンダに巻装する際に、この磁石部をシリンダに接着させた上で、このフレキソ印刷用嵩上げ部材の上から、印刷シートを巻き付けていく。これにより、感光性刷版を嵩上げすることができるので、フレキソ印刷用嵩上げ部材を所定の厚みとすることにより、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、本発明のフレキソ印刷用嵩上げ部材は、シリンダから簡単に取り外せるので、印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となる。また、上記シート状部が設けられているので、磁石部が設けられている側の面をシリンダに向けてシリンダにフレキソ印刷用嵩上げ部材を取り付けて使用することにより、印刷シートが接する側の面には、該シート状部があるので、印刷インク等がクッション部に付着するおそれを小さくすることが可能となる。また、上記クッション部と印刷シートとをシリンダに徐々に巻き付けていくことにより、上記フレキソ印刷用嵩上げ部材とシリンダとの間の空気及びフレキソ印刷用嵩上げ部材と印刷シートとの間の空気は徐々に押し出されるので、空気が残留することにより不均一な印圧となって印刷性が低下してしまうということがない。そのため、高い印刷性の確保を図ることも可能になる。
【0018】
また、第5には、上記第3又は第4の構成において、上記シート状部が、フィルム部材により形成されていることを特徴とする。
【0019】
また、第6には、上記第4又は第5の構成において、上記クッション部と上記シート状部とが可撓性を有することを特徴とする。また、第7には、上記第4から第6までのいずれかの構成において、上記磁石部が可撓性を有することを特徴とする。この第6及び第7の構成によれば、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダにぴったり隙間なく固定させることが可能となる。
【0020】
また、第8には、上記第1から第7までのいずれかの構成において、上記クッション部が、連発泡の素材により形成されていることを特徴とする。これにより、クッション部とシリンダとの間に空気が残留したままになるおそれが少なく、クッション部内にも空気が残留することがなく、よって、均一な印圧を得ることができ、良好な印刷品質を得ることができる。
【0021】
また、第9には、上記第1から第8までのいずれかの構成において、上記磁石部の厚みと、上記クッション部の厚みとが略同一であることを特徴とする。また、第10には、上記第1から第8までのいずれかの構成において、上記磁石部の厚みが、上記クッション部の厚みよりも薄く形成されていることを特徴とする。
【0022】
また、第11には、上記第1から第10までのいずれかの構成において、フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みが、3.5mm?4.5mmであることを特徴とする。また、第12には、上記第1から第10までのいずれかの構成において、フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みが、4.0mmであることを特徴とする。特に、フレキソ印刷用嵩上げ部材全体の厚みを4.0mmとすることにより、厚さ約3mmの感光性刷版の嵩上げに好適に用いることが可能となる。
【0023】
また、第13には、フレキソ印刷において感光性刷版(特に、感光性刷版を有する印刷シート)をシリンダに巻装する感光性刷版巻装方法(印刷シート巻装方法としてもよい)であって、上記第1から第12までのいずれかの構成のフレキソ印刷用嵩上げ部材における磁石部をシリンダの外周面に磁力により接着させることにより、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダに取り付ける取付け工程と、
シリンダに取り付けられたフレキソ印刷用嵩上げ部材の上に、感光性刷版と、該感光性刷版を固着するためのフィルム部材と、フレキソ印刷用の印刷シリンダに掛止するための部材とを有する印刷シートを積層させるとともに、該掛止するための部材を印刷シリンダに掛止させることにより、該フレキソ印刷用嵩上げ部材を介して該印刷シートをシリンダに巻装させる巻装工程と、を有することを特徴とする。つまり、上記第1から第12までのいずれかの構成のフレキソ印刷用嵩上げ部材における磁石部をシリンダに接着させて、フレキソ印刷用嵩上げ部材をシリンダに取り付けることにより、感光性刷版を嵩上げする。
【0024】
これにより、感光性刷版を嵩上げすることができるので、フレキソ印刷用嵩上げ部材を所定の厚みとすることにより、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、本発明のフレキソ印刷用嵩上げ部材は、シリンダから簡単に取り外せるので、印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態としての実施例を図面を利用して説明する。本発明に基づくフレキソ印刷用嵩上げ部材としての下地シート1は、図1(a)、(b)、図2、図3に示されるように、磁石部10と、クッション部20と、ポリエステルフィルム(シート状部)30とを有している。そして、上記下地シート1は、後述するように印刷シート2を輪転機R1の印刷シリンダR10に巻装する場合の下地材として機能する。なお、図面における断面図は一部厚み方向に強調して描かれている。例えば、図1(a)においては、図面を見やすくするために厚み方向に強調して描かれている。また、図2、図3においては、下地シート1が長手方向(図1(b)では、X方向)に長く形成されているので、一部破断して描かれている。
【0026】
上記磁石部10は、磁性粉を含有することによって磁性を有している塩ビ磁石シートによって形成されており、柔軟性、可撓性を有したものとなっている。そのため、円筒状の後述する印刷シリンダR10(図6等参照)の表面に容易に巻装することが可能なものとなっている。そして、所定の幅、所定の長さを呈し、略直方体形状のシート状に成形されている。この磁石部10の平面形状は、具体的には、長方形状となっている。また、この磁石部10の厚みについては後述する。
【0027】
また、上記クッション部20は、シート状を呈し、柔軟性、可撓性を有したものとなっている。そして、上記磁石部10と略同じ幅(好適には同じ幅)、所定の長さを呈し、略直方体形状のシート状に形成されている。このクッション部20の平面形状は、具体的には、長方形状となっている。このクッション部20の長さ、具体的には、図1(b)におけるX方向の長さは、磁石部10よりも長く形成されている。また、クッション部20の厚みYa(図1参照)は、上記磁石部10の厚みと略同一となっていて、約3.812mm(好適には、丁度3.812mm)であるが、実際には、使用時にクッション部20の厚みが若干薄くなることを考慮して、磁石部10の厚みをクッション部20の厚みよりも若干薄くするのが好ましい。つまり、印刷時に、被印刷物が印刷シリンダと加圧シリンダの間を通過する際に、クッション部20も若干へこみ、そのへこみ量は一般に磁石部10よりも大きいことから、磁石部10の厚みをクッション部20の厚みよりも若干薄くしておく。つまり、クッション部20の厚みYaを3.812mmとした場合には、磁石部10の厚みを3.812mmよりも若干薄くしておく。厚みの差としては、100分の1mm単位の程度としておく。例えば、後述するように、印刷シート2の厚み、つまり、感光性刷版40とフィルム部材50の合計厚みを3.028mmとした場合には、印刷シート2と下地シート1の合計の厚みが7mmを越えるので、磁石部10の部分については丁度7mmとなるように、磁石部10の厚みを3.812-0.028=3.784mmとすることが考えられる。なお、磁石部10の厚みを3.784mmにする場合に、これに合わせてクッション部20の厚みについても3.784mmとすることも考えられる。
【0028】
なお、クッション部20の厚みを約3.812mmとする場合に、磁石部10の厚みをクッション部20の厚みと同一とし、約3.812mm(好適には、丁度3.812mm)としてもよい。
【0029】
このクッション部20は、ゴム、ウレタンフォーム等の素材によって形成されたスポンジ体であり、また、このクッション部20は、連発泡の素材、つまり、連発泡体により形成されている。このように、上記クッション部20が連発泡の素材により形成されていることから、好適に空気を排気しえるものであるとともに、圧縮残留歪が小さく寸法安定性に優れたものとなっている。このクッション部20は、その側方の端部が磁石部10の側方の端部と接するように配置されている。
【0030】
また、上記ポリエステルフィルム30は、シート状を呈し、ポリエステル材によって形成されており、上記磁石部10と上記クッション部20を並設したときの表面形状と略同一な外形寸法に成形されるとともに、ポリエステルフィルム30の厚さYbは約0.188mm(好適には、丁度0.188mm)となっている。つまり、ポリエステルフィルム30はシート状部材により形成され、その平面形状は、方形状(具体的には、長方形状)を呈している。
【0031】
そして、そのように形成された上記磁石部10と上記クッション部20を、図1(a)に示すように、隣接した状態で並設して配設し、その上部側に上記ポリエステルフィルム30を被覆して、接着剤にて全面塗布して一体化し、上記下地シート1とする。つまり、磁石部10とポリエステルフィルム30とは全面塗布により接着剤で接着され、また、クッション部20とポリエステルフィルム30とについても、全面塗布により接着剤で接着されている。
【0032】
上記磁石部10と、クッション部20と、ポリエステルフィルム30の各厚みは上記のようになっているので、上記下地シート1の全体の厚さYcは、図1に示すように、4mm(3.812+0.188)となる。特に、クッション部20とポリエステルフィルム30の厚みの合計が4mmとなる。上記下地シート1の全体の厚さYcを4mmとするのは、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定されている印刷機の輪転機において、厚さ約3mmの感光性刷版40を有する印刷シート2(後述)をセッティングできるようにするためである。
【0033】
なお、下地シート1は、全体としては、シート状を呈し、その平面形状は略方形状(具体的には、長方形状)を呈している。また、下地シート1の巻き付け方向(図1(b)ではX方向)の長さは、使用する印刷シリンダの大きさによって定められ、また、該巻き付け方向と直角の方向(図1(b)ではY方向)の長さは、使用する印刷シート2の大きさによって定められる。
【0034】
このように形成された上記下地シート1においては、上記磁石部10と、上記クッション部20と、上記ポリエステルフィルム30とが全て柔軟性及び可撓性を有したものであるため、図3に示すように、折曲自在で十分に柔軟性及び可撓性を有したものとなる。そのため、後述するように輪転機の円筒状の印刷シリンダの表面に容易に巻装することが可能となっている。
【0035】
次に、印刷シート(印版ともいう)2について説明する。印刷シート2は、図4(a)、(b)に示すように、感光性刷版40と、フィルム部材50と、一対のバー52とを有している。この印刷シート2は、いわゆる厚さ約3mmの感光性刷版を用いたものである。
【0036】
ここで、上記感光性刷版40は、感光性樹脂であるいわゆるエラスロン樹脂(商品名:東京応化工業社製)によって従来と同様な製版工程である露光、未露光部カット、現像、乾燥、後処理などの工程を経て、所定の形状のレリーフ面を有するとともに、柔軟性及び可撓性を有した刷版となっている。また、上記感光性刷版40の厚さYd(図4参照)は、2.84mmに設定されている。つまり、これが厚さ約3mmの感光性刷版である。
【0037】
また、上記フィルム部材50は、透明のシート状を呈し、ポリエステル材によって形成されており、平面形状が方形状に形成されている。なお、このフィルム部材50の大きさとしては、上記下地シート1の全面を被覆可能となるように形成されている。つまり、上記フィルム部材50の幅及び長さがともに上記下地シート1よりも若干大きく形成されている。また、このフィルム部材50の厚さYeは、0.188mmとなっている。これにより、感光性刷版40とフィルム部材50との合計厚みは、3.028mmとなる。なお、このフィルム部材50は、透明でなくてもよい。
【0038】
また、バー52は、断面四角形状の棒状に形成されていて、その長さは、フィルム部材50の幅、つまり、フィルム部材50の巻き付け方向とは直角方向の幅と略同一になっている。このバー52は、上記フィルム部材50の後述する印刷シリンダへの巻き付け方向となる側の両端部に、フィルム部材50の端部に沿って接着剤によって取り付けられている。なお、該バー52は軽量な樹脂材等で形成するのが好ましい。
【0039】
そして、上記フィルム部材50の表面に所定のレリーフ面が形成された上記感光性刷版40を1個、或いは複数個配設して、上記フィルム部材50と上記感光性刷版40とを図示略の両面テープ及び接着剤によって固着して、上記印刷シート2を形成する。
【0040】
このように形成された上記印刷シート2は、上記感光性刷版40と上記フィルム部材50がともに柔軟性及び可撓性を有したものであるため、図5に示すように、折曲自在で十分に柔軟性及び可撓性を有したものとなる。そのため、後述するように輪転機の円筒状の印刷シリンダの表面に容易に巻装することが可能となっている。
【0041】
次に、本実施例の使用状態を説明する。本実施例の下地シート1は、フレキソ印刷において、感光性刷版を印刷シリンダに巻装する際に、下地として用いる。つまり、感光性刷版の嵩上げ部材として用いる。
【0042】
図6は本実施例に使用する印刷機における輪転機R1を示す斜視図である。上記輪転機R1は印刷シリンダ(版胴)R10と、加圧シリンダ(圧胴)R1aとを有している。上記印刷シリンダR10は、略円筒状を呈しており、クロムメッキが施された外周面部に巻込み軸R20及び複数の掛止溝R30が、上記印刷シリンダR10の軸直方向に向けて形成されている。
【0043】
上記巻込み軸R20は、図6及び図7に示すように、丸棒状に形成されており、この巻込み軸R20には、全長に渡って掛止溝R22が形成されている。そして、上記印刷シリンダR10の軸直方向に形成された溝部内に配設されているガイドステーR24内に回転自在に挿通されている。また、上記巻込み軸R20には、図示略のラチェット機構が係合されており、該ラチェット機構の作用時には正回転(例えば、左回転)は許容されるが、逆回転(例えば、右回転)はロックされるようになされている。なお、上記ラチェット機構の解除時には上記巻込み軸R20の回転はフリーとなる。
【0044】
上記掛止溝R30は、上記印刷シート2の上記バー52を嵌め込むことによって上記バー52を掛止することが可能になされている。そして、上記巻込み軸R20及び複数の掛止溝R30を用いて、上記印刷シリンダR10の外周面に印刷シート2が巻装される。
【0045】
上記下地シート1と、印刷シート2の具体的な装着方法について説明すると、図7に示すように、まず、上記印刷シリンダR10の外周面に上記下地シート1の磁石部10を、上記印刷シリンダR10の軸直方向と一致させて上記磁石部10の磁力によって貼付する。磁石部10を貼付する位置は、掛止溝R30から若干離れた位置が好ましい。これが、上記取付け工程に当たる。
【0046】
続いて、図7に示すように、上述した方法によって上記感光性刷版40が貼付された上記印刷シート2の一側の上記バー52を、所定の位置の上記掛止溝R30に嵌め込んで掛止する。その状態では、下地シート1と印刷シート2とは、図7に示すように、垂下した状態となっている。
【0047】
そして、徐々に上記下地シート1及び上記印刷シート2を図8に示すように上記印刷シリンダ(シリンダ)R10に巻き付けていく。つまり、印刷シート2を下地シート1に上に巻き付けていく。これが上記巻装工程に当たる。
【0048】
すると、上記下地シート1と印刷シリンダR10との間の空気及び下地シート1と印刷シート2との間の空気は徐々に押し出されるので、それらの間に空気が残留することがない。特に、上記クッション部20は、上記のようなウレタンフォームによって形成されているため、下地シート1を徐々に印刷シリンダR10に巻き付けていくことにより、徐々にクッション部20と印刷シリンダR10間にある空気を押し出すことができ、また、クッション部20内の空気も排出され、これにより、好適に空気を排気しえるものである。そのため、上記感光性刷版40の下方に空気が入り込まないため、印刷時において上記感光性刷版40が不均一な印圧となってしまうことがない。また、上記クッション部20の材質がウレタンフォームであるため、圧縮残留歪が小さく寸法安定性に優れたものとなるため、高いレベルで印刷性の確保を図ることも可能になる。
【0049】
そして、上記下地シート1及び上記印刷シート2を図8に示すように上記印刷シリンダR10に巻き付けていき、図9に示すように他側の上記バー52を上記巻込み軸R20の掛止溝R22に嵌め込む。そして、その状態から上記巻込み軸R20を図10に示すようにスパナなどによって正回転(例えば、右回転)させ、上記バー52を上記巻込み軸R20に巻き込んでいき上記下地シート1を引き込んで締め込む。そのため、上記印刷シリンダR10の外周面に上記下地シート1及び上記印刷シート2が、ぴったりと隙間やたわみが生じることなく張り付くことになる。
【0050】
この場合に、図11に示すように、上記感光性刷版40が配設された部位における上記下地シート1と上記印刷シート2との合計の厚さYt(図11参照)は、上述した上記下地シート1の厚さYc(4mm)+上記感光性刷版40の厚さYd(2.84mm)+上記フィルム部材50の厚さYe(0.188mm)である。従って、上記感光性刷版40が配設された部位における上記下地シート1と上記印刷シート2との合計の厚さYtは7.028mmとなる。
【0051】
なお、上記加圧シリンダR1aは、上記印刷シリンダR10と略同一な外形寸法の略円筒状になされており、外周面部にはクロムメッキが施されている。また、該加圧シリンダR1aは、上記印刷シリンダR10の上部側に間隔調節が可能な状態で略平行に配設される。この場合の上記加圧シリンダR1aと上記印刷シリンダR10との間隔は、該約7mmの厚さの感光性刷版に対応して設定されている。つまり、該間隔は、7mmの幅に印刷物の厚みを考慮した厚みを加算した値となっている。
【0052】
そして、上記加圧シリンダR1aと上記印刷シリンダR10とを、図示略の駆動装置によって所定のスピードで回転駆動させる。この場合に、図12に示すように、はす歯歯車R40とはす歯歯車R50とが噛み合うことによって上記加圧シリンダR1aと上記印刷シリンダR10とは互いに回転が伝達され合うとともに、上記加圧シリンダR1aと上記印刷シリンダR10とは、常時逆方向に回転することになる。
【0053】
なお、印刷シリンダR10と加圧シリンダR1aの径については、厚さ約7mmの感光性刷版を印刷シリンダR10に巻き付けることにより、該感光性刷版を含めた径と加圧シリンダR1aの径とが同じになるように設定されているので、厚さ約3mmの感光性刷版を下地シート1により嵩上げすることにより、下地シート1と厚さ約3mmの感光性刷版を含めた印刷シリンダR10の径と、加圧シリンダR1aの径とが同じになり、円滑に回転することが可能となる。
【0054】
そのため、上記加圧シリンダR1aと上記印刷シリンダR10との間隙に段ボール材などの印刷物を挿通することによって印刷物が引き込まれて、上記印刷シリンダR10の感光性刷版40と印刷物の表面が圧接し、上記感光性刷版40から印刷物に速乾性インクが転写されて印刷物に印刷が施される。
【0055】
この場合に、上記感光性刷版40が配設された部位における上記下地シート1と上記印刷シート2との合計の厚さYtは7.028mmであり、通常の厚さ約7mmの感光性刷版に比べて若干厚みがあるが、使用していくことによりクッション部20の厚みが若干小さくなることを勘案すると、この程度の厚さが好適であるといえる。
【0056】
以上述べたように、本実施例の下地シート1によれば、上記磁石部10とクッション部20とが同一層上に並設して形成されているため、上記磁石部10によって上記印刷シリンダR10に容易に装着できるので、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定されている輪転機R1に対して、厚さ約3mmの感光性刷版を容易に使用でき、また、該厚さ約3mmの感光性刷版を使用した後に厚さ約7mmの感光性刷版を使用する場合には、磁石部10で接着している下地シート1を印刷シリンダR10から剥がせばよいので、厚さ約7mmの感光性刷版と厚さ約3mmの感光性刷版との併用が容易となる。また、下地シート1は、約4mmの厚みに形成されているので、厚さ約3mmの感光性刷版の場合でも嵩上げをすることにより、厚さ約7mmの感光性刷版用の設定となっている印刷機にも適用することが可能となる。特に、将来仮に水系溶剤を用いる感光性刷版が普及した場合でも、本実施例の下地シート1により嵩上げすることにより、対応することが可能となる。
【0057】
また、特に、厚さ約3mmの感光性刷版を使用する場合には、軽量化を図ることができて、該軽量化により作業性を改善させることができる。軽量化の実際の度合いとしては、厚さ約7mmの感光性刷版に比べて約2分の1程度の重量となる。また、厚さ約3mmの感光性刷版は、厚さ約7mmの感光性刷版に比べて厚さが薄いために破損しにくく、また、感光性刷版に使用する樹脂の量も少なくて済むので、省資源となる。また、廃棄する場合に、産業廃棄物の量も少なくできるので、厚さ約7mmの感光性刷版を用いる場合に比べて有効である。
【0058】
また、上記のように、クッション部20自体が連発泡の素材により形成されており、下地シート1を徐々に印刷シリンダR10に巻き付けていくことにより、クッション部20と印刷シリンダR10との間に空気が残留したままになるおそれが少なく、また、クッション部20自体が連発泡の素材により形成されているので、クッション部20内にも空気が残留することがなく、よって、印刷時に不均一な印圧となり、細かい文字が印刷できないなどの印刷性の低下を招いてしまうということがない。そのため、高い印刷性の確保を図ることが可能になる。
【0059】
また、本実施例の下地シート1には、ポリエステルフィルム30が設けられているので、特に、クッション部20がインク等によって汚れることがない。すなわち、下地シート1の平面の全面には、ポリエステルフィルム30が設けられていて、下地シート1を印刷シリンダR10へ貼付した際には、クッション部20が印刷シリンダR10側にあるので、クッション部20がポリエステルフィルム30によりカバーされた状態となり、印刷インクが下地シート1に付着しても、該ポリエステルフィルム30により保護されて、クッション部20や磁石部10が汚れることがない。
【0060】
また、上記感光性刷版40がエラスロン樹脂によって形成され、また、上記クッション部20がウレタンフォームによって形成されているため、2重の弾性材による高い弾性力を得ることができる。従って、高度な印刷性を有したものとなり、絵模様等の高い印刷精度が要求されるような場合であってもきれいに印刷することが可能になる。
【0061】
なお、本発明は、本実施例の構成のみに限定されるものではなく、多様な態様が可能である。例えば、各部材の材質や大きさなどは、印刷物の特徴やインクの種類などに応じて適宜選定されるものである。
【0062】
【発明の効果】
本発明に基づくフレキソ印刷用嵩上げ部材によれば、感光性刷版を有する印刷シートを嵩上げすることができるので、フレキソ印刷用嵩上げ部材を所定の厚み(特に、厚さ4mm)とすることにより、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、本発明のフレキソ印刷用嵩上げ部材は、シリンダから簡単に取り外せるので、印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となる。また、上記クッション部と印刷シートとをシリンダに徐々に巻き付けていくことにより、上記フレキソ印刷用嵩上げ部材とシリンダとの間の空気及びフレキソ印刷用嵩上げ部材と印刷シートとの間の空気は徐々に押し出されるので、空気が残留することにより不均一な印圧となって印刷性が低下してしまうということがない。そのため、高い印刷性の確保を図ることも可能になる。
【0063】
また、特に、シート状部を有する場合には、印刷インク等がクッション部に付着するおそれを小さくでき、汚れ防止になる。
【0064】
また、本発明に基づく感光性刷版巻装方法によれば、感光性刷版を嵩上げすることができるので、フレキソ印刷用嵩上げ部材を所定の厚みとすることにより、厚さ約7mmの感光性刷版用に設定された印刷機にも厚さ約3mmの感光性刷版を容易に用いることができ、また、本発明のフレキソ印刷用嵩上げ部材は、シリンダから簡単に取り外せるので、印刷機において、厚さ約7mmの感光性刷版との併用も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の実施例に基づく下地シートの構成を示す図であり、(a)はその要部断面図であり、(b)はその要部平面図である。
【図2】
本発明の実施例に基づく下地シートを示す斜視図である。
【図3】
下地シートの折曲状態を示す説明図である。
【図4】
印刷シートを示す図であり、(a)はその要部断面図であり、(b)はその要部平面図である。
【図5】
本発明の実施例に基づく印刷シートを示す斜視図である。
【図6】
フレキソ印刷用輪転機の構成を示す斜視図である。
【図7】
印刷シリンダに下地シート及び印刷シートを巻き付ける際の状態を示す説明図である。
【図8】
印刷シリンダに下地シート及び印刷シートを巻き付ける際の状態を示す説明図である。
【図9】
印刷シリンダに下地シート及び印刷シートを巻き付ける際の状態を示す説明図である。
【図10】
印刷シリンダに下地シート及び印刷シートを巻き付ける際の状態を示す説明図である。
【図11】
印刷シートと下地シートとが密着した状態を示す断面図である。
【図12】
印刷シリンダに感光性刷版を貼付した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
1 下地シート
2 印刷シート
10 磁石部
20 クッション部
30 ポリエステルフィルム
40 感光性刷版
50 フィルム部材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-01-19 
出願番号 特願2001-159730(P2001-159730)
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B41N)
P 1 651・ 537- ZA (B41N)
最終処分 取消  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 靖子
國田 正久
登録日 2003-09-05 
登録番号 特許第3468757号(P3468757)
権利者 東京応化工業株式会社
発明の名称 フレキソ印刷用嵩上げ部材及び感光性刷版巻装方法  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 長屋 直樹  
代理人 酒井 正己  
代理人 長屋 文雄  
代理人 小松 純  
代理人 長屋 文雄  
代理人 滝田 清暉  
代理人 長屋 直樹  

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