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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B21B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B21B
管理番号 1159327
審判番号 不服2004-20673  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-07 
確定日 2007-06-15 
事件の表示 特願2000-376762「連続鋳造鋳片の直送圧延方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年6月25日出願公開、特開2002-178007〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年12月12日の出願であって、平成16年8月31日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年10月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年11月8日付で手続補正がなされたものである。その後、当審において前置審尋がなされたところ、請求人からは応答なく回答書の提出がなされなかったものである。

II.平成16年11月8日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年11月8日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のとおりに補正された。
「【請求項1】連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延するか、あるいは鋳片表面の低温部を加熱した後に熱間圧延して、質量%で、C:0.03?0.2%、Si:0.1?0.5%、Mn:0.5?2.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.06%以下を含有し、更に、Nb、V、B、Mo、Cr、Ni、Ni、Cuのうちの少なくとも1種を含有する厚鋼板を製造する連続鋳造鋳片の直送圧延方法であって、前記鋳片に化学成分組成としてTi、Mg、Ca、Ce、La、Ba、Liのうち1種又は2種以上を、これら元素の1種のみを添加する場合には、[%Ti]>1.5[%S]+3.4[%N]、[%Mg]>0.8[%S]、[%Ca]>1.3[%S]、[%Ce]>4.4[%S]、[%La]>4.3[%S]、[%Ba]>4.3[%S]、[%Li]>0.2[%S]の関係を満足するように含有させ、Tiを含まずに2種以上を添加する場合には、添加する元素の化学当量の和が溶鋼中のSの化学当量以上になるように含有させ、Tiを含んで2種以上を添加する場合には、添加する元素の化学当量の和が溶鋼中のSの化学当量とNの化学当量との和以上になるように含有させて鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させると共に、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保つことを特徴とする連続鋳造鋳片の直送圧延方法。」

上記補正は、補正前の請求項1、又は補正前の請求項1を引用する請求項3において、「厚鋼板の成分組成」、並びに「鋳片に添加する化学成分組成の添加方法」を具体的に限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例、及びその記載事項
原審の前置報告書に引用された、本願の出願前に国内で頒布された特開平9-176730号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)刊行物1(特開平9-176730号公報)
(1a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、橋梁、造船、圧力容器、低温用貯蔵容器、ラインパイプ、海洋構造物等の鋼構造物に使用される靱性に富んだ厚鋼板を、鋳造後再加熱することなく熱間圧延する製造方法に関するものである。
【0002】【従来の技術】近年、鋼材の製造に対して、生産性の向上およびコスト低減が強く求められている。このような要請に応えるべく、厚鋼板の製造に対しても、連続鋳造スラブを再加熱することなく鋳造後直ちに圧延を行う、いわゆる直送圧延が検討されている。」
(1b)「【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は、圧下比が小さくても、かつ制御圧延を行わなくても、靱性に優れた厚鋼板を高張力鋼板まで含めて、高い生産性を維持したまま直送圧延によって製造する方法を提供することを目的とする。」
(1c)「【0012】ここに、本発明は、つぎに示す合金組成、・・・圧延および冷却の条件を特徴とする厚鋼板の製造方法を要旨とする。
【0013】(1)重量%にて、C:0.01?0.25%、Si:0.6%以下、Mn:0.3?3%、O(酸素):0.001?0.007%、Ti:0.003?0.03%、Al:0.02%以下、B:0.003%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、Cu:2%以下、Ni:3%以下、Cr:1.5%以下、Mo:1.5%以下、Nb:0.25%以下、V:0.5%以下、Zr:0.02%以下、Ca:0.004%以下、Mg:0.004%以下、Hf:0.02%以下、Y:0.02%以下およびRE(希土類元素):0.02%以下を含み、残部はFeと不可避的不純物からなり、かつ凝固後の鋳片中に下記する条件1、2および3を満足する酸化物粒子が平均10個/mm2以上分散した鋳片にたいして、900℃以上で直送圧延を終了し、2?90℃/秒の冷却速度で500℃以下まで冷却することを特徴とする靱性に優れた厚鋼板の製造法(〔発明1〕とする)。」(なお、下線付き数字は、公報中○数字であるが、表記上下線付き数字とした。)
(1d)「【0049】Ti:Tiは酸化物粒子の構成元素として、また連続鋳造鋳片のひび割れ防止のために必要である。0.003%未満ではこれらの効果を得られないが、0.03%を超えると、AFまたは/およびフェライト核発生に効かないTi2O3を増やし、靱性を劣化させるので、0.003?0.03%とする。」
(1e)「【0062】Ca:Caは、Al等の添加に先だって溶鋼に添加することにより、A粒子および/またはB粒子の分散密度を高めることができる。また、過剰なSを硫化物として固定するきわめて強い作用が得られる。・・・添加しても0.004%以下とする。
・・・・・
【0066】RE(希土類元素):RE(希土類元素)は、Al等の添加に先だって溶鋼に添加することにより、A粒子および/またはB粒子の分散密度を高めることができる。また、Sを硫化物として固定するきわめて強力な作用も得られる。なお、希土類は、・・・各希土類元素Ce、Ndなどの分離したものを添加してもよい。これらの効果を得る場合には添加するが、0.02%を超えると靱性劣化をきたすので、添加する場合でも0.02%以下とする。」
(1f)表1、表2には、鋼例として、次の組成が記載されている。
C Si Mn P S Nb V N Ti Al
鋼1
0.081 0.15 1.35 0.009 0.0015 - 0.015 0.0025 0.015 0.001
鋼5
0.039 0.13 1.35 0.008 0.0008 0.011 - 0.0011 0.006 0.003
鋼18
0.036 0.15 1.19 0.010 0.0013 - 0.211 0.0011 0.013 0.004
鋼21
0.080 0.14 1.61 0.008 0.0019 0.015 - 0.0020 0.013 0.004
鋼22
0.033 0.25 1.42 0.009 0.0013 0.030 - 0.0016 0.013 0.003
(1g)表3、表4には、上記鋼例のものの熱間圧延開始温度、製品厚さが記載されている。
鋼 熱間圧延開始温度(℃) 製品厚さ(mm)
1 1250 50
5 1100 50
18 1100 50
21 1130 80
22 1230 130

3.当審の判断
3-1.刊行物1記載の発明
刊行物1には、上記摘記(1b)によれば、厚鋼板を、鋳造後再加熱することなく熱間圧延する製造方法に関し、又摘記(1b)によれば、厚鋼板を、高い生産性を維持したまま直送圧延によって製造する方法、摘記(1g)によれば、熱間圧延開始温度が1100?1250℃であることが記載されているから、連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延すること、更に、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保たれていることが記載されていることになる。
又刊行物1には、摘記(1c)によれば、鋼組成として重量%にて、C:0.01?0.25%、Si:0.6%以下、Mn:0.3?3%、O(酸素):0.001?0.007%、Ti:0.003?0.03%、Al:0.02%以下、B:0.003%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、Cu:2%以下、Ni:3%以下、Cr:1.5%以下、Mo:1.5%以下、Nb:0.25%以下、V:0.5%以下、Zr:0.02%以下、Ca:0.004%以下、Mg:0.004%以下、Hf:0.02%以下、Y:0.02%以下およびRE(希土類元素):0.02%以下を含み、残部はFeと不可避的不純物からなること、 摘記(1f)によれば、鋼組成として、C:0.033?0.081%、Si:0.13?0.25%、Mn:1.19?1.61%、Ti:0.006?0.015%、Al:0.001?0.004%、P:0.008?0.010%、S:0.0008?0.0019%、N:0.0011?0.0025%、Nb:0.011?0.030%、V:0.015?0.211%を含む実施例が記載されている。

そうすると、実施例を中心にして摘記(1a)?(1g)を総合すると、刊行物1には、「連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延する、質量%で、C:0.033?0.081%、Si:0.13?0.25%、Mn:1.19?1.61%、Ti:0.006?0.015%、Al:0.001?0.004%、B:0.003%以下、P:0.008?0.010%、S:0.0008?0.0019%、N:0.0011?0.0025%、Cu:2%以下、Ni:3%以下、Cr:1.5%以下、Mo:1.5%以下、Nb:0.011?0.030%、V:0.015?0.211%、Zr:0.02%以下、Ca:0.004%以下、Mg:0.004%以下を含み、残部はFeと不可避的不純物からなり、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保つ厚鋼板を製造する連続鋳造鋳片の直送圧延方法。」(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されているといえる。

3-2.対比・判断
本願補正発明と刊行物1記載発明とを、そのなかでも、本願補正発明において、鋳片に化学成分組成としてTiのみを1種添加する場合を、刊行物1記載発明と対比する。
刊行物1記載発明における鋼成分組成:C、Si、Mn、P、S、Alの含有量は、本願補正発明1のそれと含有量において重複しており、刊行物1記載発明においては、添加成分として、Ti:0.006?0.015%を含有するものであるから、
両者は、「連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延する、質量%で、C:0.033?0.081%、Si:0.13?0.25%、Mn:1.19?1.61%、P:0.008?0.010%、S:0.0008?0.0019%、Al:0.001?0.004%を含有し、更に、Nb、V、B、Mo、Cr、Ni、Cuのうち少なくとも1種を含有する厚鋼板を製造する連続鋳造鋳片の直送圧延方法であって、前記鋳片に化学成分組成としてTiを含有し、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保つ連続鋳造鋳片の直送圧延方法。」で一致し、次の点で一応相違している。

相違点1:本願補正発明は、鋳片に化学成分組成としてTiを添加する場合に、[%Ti]>1.5[%S]+3.4[%N]の関係を満足するように含有させ、鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させているのに対して、刊行物1記載発明では、Tiを0.006?0.015%含有するものの、該関係を満足するように含有させ、鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させているのかが明確でない点。

そこで、上記相違点1について検討する。
上記摘記(1f)の鋼例の化学成分組成において、刊行物1記載発明では、Sを0.0008?0.0019、Nを0.0011?0.0025含有するものであるが、Ti、S、Nの含有量を、本願補正発明1で規定する[%Ti]>1.5[%S]+3.4[%N]の関係を満足するか否かについて検討する。1.5[%S]+3.4[%N]を計算すると、
鋼 S N Ti 1.5[%S]+3.4[%N]
1 0.0015 0.0025 0.015 0.0108
5 0.0008 0.0011 0.006 0.0049
18 0.0013 0.0011 0.013 0.0057
21 0.0019 0.0020 0.013 0.0097
22 0.0013 0.0016 0.013 0.0074
となり、鋼1、5、18、21、22は、上記関係式を満足するTi含有量になっている。
又上記摘記(1d)には、Tiは連続鋳造鋳片のひび割れ防止のために必要であることが記載されている。そして、下記刊行物2の摘記(2c)、同刊行物3の摘記(3b)に記載されているとおり、Tiが硫化物を形成する成分であることは周知の事項である。
そうすると、刊行物1記載発明では、鋳片に化学成分組成としてTiを添加する場合に、[%Ti]>1.5[%S]+3.4[%N]の関係を満足するように含有しており、又鋳片の成分組成にTi、S、Nが含有している以上、鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成しているものであり、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

したがって、本願発補正明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
平成16年11月8日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成16年8月9日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延するか、あるいは鋳片表面の低温部を加熱した後に熱間圧延して厚鋼板を製造する連続鋳造鋳片の直送圧延方法において、前記鋳片に化学成分組成としてTi、Mg、Ca、Ce、La、Ba、Liのうち1種又は2種以上を含有させて鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させると共に、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保つことを特徴とする連続鋳造鋳片の直送圧延方法。」

1.引用例、及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭59-89723号公報(以下、「刊行物2」という。)、及び特開昭60-187625号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(2)刊行物2(特開昭59-89723号公報)
(2a)「(1)重量比にて、C:0.015%以下、S:0.030%以下、O:0.08%以下を含み、更に希土類元素、Ca、Ti、Mgのうちより選ばれた1種または2種以上を合計で0.002?0.040%含み残部がFeおよび不可避的不純物より成る溶鋼を連続鋳造にて鋳片とする工程と、前記鋳片を赤熱状態で引続いて熱間圧延する工程と、を有して成ることを特徴とする連続鋳造-直接熱延による加工用薄鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)
(2b)「この極低炭素鋼を使用して前記のCC-DR法で製造すると、従来の再加熱方式に比較して次の如き重大な欠点があることが明らかになつた。
A)機械的特性の面内異方性が大きい。面内異方性が大きいと絞り加工では耳の発生、他の加工においても不均一変形による割れ、しわ等が発生する。
B)混粒組織が発生する。粗大な結晶粒と微細なものが混在状態となり、プレス加工時の肌荒れ、壁割れ等の問題を生じる。
C)熱間圧延割れに起因して表面性状が劣化する。熱延時に圧延面および側面に割れを生じ易く、酸化物の巻込み等が生じ鋼板の表面性状を著しく劣化する。」(1頁右下欄16行?2頁左上欄10行)
(2c)「REM,Ca,Ti,Mg:
REM,Ca,Ti,Mgの微量添加が本発明において重要な点であつて、これらの元素の1種または2種以上を合計で0.002?0.040%の範囲添加することが、鋼板材質の面内異方性を小さくし、表面性状および粒組織の改善につながる。この理由は明確ではないが、次のことが考えられる。すなわち、REM,Ca,Ti,Mgはともに高温で酸化物、硫化物を形成する元素である。一方、C:0.015%以下の極低炭素鋼の鋳造時もしくはγ→α変態前の結晶粒組織および集合組織の特徴に関してはほとんど明らかになつていないが、上記のREM等の化合物の形成が連続熱延前の組織に変化を与えることは十分に予想される。」(2頁左下欄3?16行)
(2d)第1表には、供試材No.2として、S:0.006重量%、Ca:0.008重量%、供試材No.4として、S:0.003重量%、Mg:0.010重量%含有する鋼成分組成が記載され、第2表には、供試材No.2として、熱延板板厚3.8mm、供試材No.4として、熱延板板厚3.2mmとしたことが記載されている。

(3)刊行物3(特開昭60-187625号公報)
(3a)「C:0.01?0.10%、Si:0.70?1.0%、
Mn:1.8?3.0%、Al:0.005?0.10%
を含み、必要に応じてCa、Ti、Mgおよび希土類金属の1種または2種以上を50ppm以下添加した鋼の鋼片に対して、直送圧延による場合はそのまま、熱片の再加熱または冷片の再加熱の場合は表面温度1050℃以上の滞留時間が2時間以内となる再加熱を施したのち、熱間圧延と冷間圧延を順に行い、次いでH20.3?12%を含有する露点-60?-10℃の雰囲気中で均熱条件が700?880℃で20?120秒の連続焼鈍を行うことを特徴とする、2相組織を有する高張力冷延鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)
(3b)「また、Sは、0.02%より多くなると、MnS形成により成形性が劣化するので、0.02%以下とするのが好ましい。
なお、MnSの形成に基づく成形性劣化を防止するために、必要に応じてCa、Ti、Mgまたは希土類金属の1種または2種以上を添加してもよいが、その合計量が50ppmを越えると介在物が過剰となり、悪影響が出てくるので、これらを添加する場合には、合計で50ppm以下の量とする。」(2頁右下欄3?11行)
(3c)「実施例
第1表に示す化学組成の鋼種から連続鋳造法により幅950mm、厚さ250mmのスラブを得、これを本発明の方法にしたがって各種条件で処理して冷間圧延鋼板を製造した。具体的には、スラブを1直送圧延により、2直送圧延で復熱炉の使用により、または3冷スラブの再加熱処理を経て、熱間圧延機に送り、厚さ3.0mmのストリップを得た。」(3頁左下欄末行?右下欄7行)(なお、下線付き数字は、公報中○数字であるが、表記上下線付き数字とした。)
(3d)第1表には、鋼種1として、S:0.006重量%、Ca:31ppm、鋼種3として、S:0.002重量%、Mg:38ppm含有する鋼成分組成が記載されている。

2.当審の判断
2-1.刊行物2記載発明との対比
刊行物2には、上記摘記(2a)によれば、鋳片を赤熱状態で引続いて熱間圧延する工程を有して成る連続鋳造-直接熱延による加工用薄鋼板の製造方法が記載されているから、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保っているものである。
上記摘記(2c)によれば、Ca,Mgはともに高温で酸化物、硫化物を形成する元素であること、摘記(2d)によれば、供試材No.2では、Caを、供試材No.4では、Mgを添加しているから、鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させているものであり、上記摘記(2d)によれば、熱延板板厚3.8mmとしたことが記載されている。
そうすると、刊行物2には、「連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延する板厚3.8mmの鋼板を製造する連続鋳造鋳片の直送圧延方法において、前記鋳片に化学成分組成として、Mg、Caのうち1種を含有させて鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させると共に、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保つ連続鋳造鋳片の直送圧延方法。」(以下、「刊行物2記載発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願発明と刊行物2記載発明とを対比すると、両者は、「連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延する鋼板を製造する連続鋳造鋳片の直送圧延方法において、前記鋳片に化学成分組成としてMg、Caのうち1種を含有させて鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させると共に、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保つ連続鋳造鋳片の直送圧延方法。」で一致し、次の点で相違している。
相違点2:本願発明が熱間圧延して厚鋼板を製造するとしているのに対して、刊行物2記載発明では熱間圧延して板厚3.8mmの鋼板を製造するとしている点。

2-2.刊行物3記載発明との対比
刊行物3には、上記摘記(3a)によれば、直送圧延による場合はそのまま熱間圧延する鋼板の製造方法が記載されているから、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保っているものである。
上記摘記(3b)によれば、MnSの形成に基づく成形性劣化を防止するために、必要に応じてCa、Ti、Mgまたは希土類金属の1種または2種以上を添加することが記載され、摘記(3d)によれば、鋼種1では、Caを、鋼種3では、Mgを添加しているから、鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させているものであり、上記摘記(3c)によれば、熱間圧延により厚さ3.0mmとしたことが記載されている。
そうすると、刊行物3には、「連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延する板厚3.0mmの鋼板を製造する連続鋳造鋳片の直送圧延方法において、前記鋳片に化学成分組成として、Mg、Caのうち1種を含有させて鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させると共に、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保つ連続鋳造鋳片の直送圧延方法。」(以下、「刊行物3記載発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願発明と刊行物3記載発明とを対比すると、両者は、「連続鋳造機で鋳造された高温の鋳片を直接熱間圧延する鋼板を製造する連続鋳造鋳片の直送圧延方法において、前記鋳片に化学成分組成として、Mg、Caのうち1種を含有させて鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させると共に、連続鋳造機出側から熱間圧延開始まで鋳片表面温度をAr1以上に保つ連続鋳造鋳片の直送圧延方法。」で一致し、次の点で相違している。
相違点3:本願発明が熱間圧延して厚鋼板を製造するとしているのに対して、刊行物3記載発明では熱間圧延して板厚3.0mmの鋼板を製造するとしている点。

2-3.相違点2、3の検討
本願発明では「厚鋼板」と記載されているが、本願明細書段落【0017】には、「本発明における厚鋼板とは板厚が6mm以上の鋼板である。」としており、刊行物2記載発明での板厚3.8mm、刊行物3記載発明での板厚3.0mmと相違している。
そこで検討すると、本願発明が主題とする、鋳片の凝固前に溶鋼中で硫化物を生成させ脱硫させるのに、熱間圧延による板厚に応じて影響するとする合理的な根拠はなく、又板厚は得ようとする製品に応じて決め得る事項であるから、刊行物2、3記載発明での板厚を本願発明でいう厚さでの厚鋼板とすることは、当業者ならば適宜なし得ることである。
そして、本願発明における効果も刊行物2、3に記載された発明から予測し得る程度のものであって格別顕著なものとは認められない。
よって、本願発明は、刊行物2、又は3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物2又は刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-26 
結審通知日 2007-04-03 
審決日 2007-04-18 
出願番号 特願2000-376762(P2000-376762)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B21B)
P 1 8・ 121- Z (B21B)
P 1 8・ 113- Z (B21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小柳 健悟木村 孔一松本 要  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 前田 仁志
市川 裕司
発明の名称 連続鋳造鋳片の直送圧延方法  
代理人 落合 憲一郎  
代理人 中濱 泰光  
代理人 森 和弘  

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