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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1159921
審判番号 不服2003-23583  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-04 
確定日 2007-06-27 
事件の表示 平成10年特許願第506395号「光力学的処置のための走査光源を使用した照射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月29日国際公開、WO98/03224号、平成12年11月28日国内公表、特表2000-515779号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年6月18日(パリ条約による優先権主張1996年7月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年8月29日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成同年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、平成18年5月22日付け(発送日:成18年5月23日)で当審による拒絶理由(特許法第29条第2項及び同法第29条第1項柱書き違反)が通知され、請求人より、同年11月22日付けで、特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記平成18年11月22日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「生体の生物学的物質内に含有されている細胞を均一に照射するための装置であって、
与えられた軸に沿って実質的に一定の放射を生成するための放射生成デバイスと;
前記生体生物学的物質が配置される長尺支持構造と;
前記放射生成デバイスを、前記支持構造に対して、全体的に一定速度で、前記与えられた軸に対して所定の角度をなす長尺経路に沿って、往復移動させるためのモータ付き機構と;
前記生体生物学的物質に到達する放射エネルギー量を検出して測定するために、前記長尺経路に沿って配置されて、前記放射生成デバイスからの放射エネルギーに対して曝される放射センサ構成と;
該放射センサ構成、前記放射生成デバイス、および、前記モータ付き機構に対して接続されるとともに、前記放射エネルギーの測定量を受け取り、該測定量の時間的な積算値が所定値に到達した時には、前記放射生成デバイスおよび前記モータ付き機構の機能を停止させるための制御回路と;
を具備することを特徴とする照射装置。」

また、本願の請求項11に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は上記補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「生体の生物学的物質内に含有されている細胞を均一に照射するための方法であって、
放射生成デバイスによって、与えられた軸に沿って実質的に一定の放射を生成し;
前記放射生成デバイスを、実質的に一定速度で、前記与えられた軸に対して所定の角度をなす長尺経路に沿って、往復移動させ;
前記放射生成デバイスが往復移動する際に、該放射生成デバイスから放射エネルギーを受け取るように、前記長尺支持構造上に前記生物学的物質を配置し;
前記往復移動する前記放射生成デバイスが通過するたびに、該往復移動する放射生成デバイスからの放射エネルギーに曝されるようにして静止式放射センサ手段を設置し;
該静止式放射センサ手段によって、前記生体生物学的物質に到達する放射エネルギー量を検出して測定し;
前記測定した放射エネルギー量の時間的な積算値が所定値に到達した時には、前記放射生成デバイスを機能停止させるとともに、前記放射生成デバイスの往復を停止させることを特徴とする方法。」

第3 当審による拒絶の理由の1(特許法第29条第2項:容易性)について
1.引用例に記載された発明
当審による拒絶の理由に引用された引用例である、特開平1-185268号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の記載がなされている。
(ア)「上記のように構成された電子治療手段において、寝台上の生体における患部をレントゲンその他の方法によりあらかじめ確認し、かつ位置決めした部位に合わせてマイクロ波発信手段を一定の速度にて往復動させつつあらかじめ設定されたマイクロ波照射量および照射時間等のカリキユラムにもとづいて治療を開始する。」(第2ページ右下欄第15行?第3ページ左上欄第1行)

(イ)「以下において本発明の具体的実施例を第1図および第2図に示した治療装置を参照しつつ説明すると、2は寝台、7は寝台2の長さ方向に沿ってその上方に載置されるところの断面が凹型をした防護枠を示す。
寝台2はマイクロ波の通過を阻害しない材質のシートおよび構造からなり、床面より適当な高さの箱型をした基台1上に載置されるとともに、その下面であって上記した基台1の内方には寝台2の長さ方向に沿って往復動が自在に構成されたところの寝台上面部に向けてマイクロ波を照射することができるマイクロ波発信装置3が内蔵されており、しかもこのマイクロ波発信装置3には寝台2の上面に向けてマイクロ波を照射できるマイクロ波発信管が挿入されている。
上記マイクロ波発信装置3,9において照射されるマイクロ波の照射量についてはその往復走行速度如何にも関係するが、生体内部にやけどを生じない程度の範囲に設定する必要があり、寝台2の上面に対するマイクロ波照射量とマイクロ波発信装置3,9の走行速度との関係で生体に危険をおよぼす程度の値にあらかじめ設定した値に達した場合には電源を自動的に遮断するセンサーを内装すると一層好ましい。」(第3ページ左上欄第13行?同ページ右上欄第16行)

(ウ)「さらに上記したマイクロ波発信装置3は既知の駆動機構、すなわちたとえば寝台2の長さ方向に沿って平行に取りつけられた2本のレール上を無端状のチェーンおよび該チェーンを駆動する減速機を介したモーター駆動手段等により寝台2の長さ方向に自在に往復動させることができ」(第3ページ左下欄第11?16行)

(エ)「治療に際しては着衣のまま生体内の骨格組織に至る深部にまで均等な温熱加療を施すことができる。」(第5ページ左上欄第5?7行)

(オ)第1図には、寝台2が長尺状の構造であり、該長尺状の軸に対して略直角に、長尺状のマイクロ波発信手段3が配置されていることが図示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「寝台2上の生体における患部をレントゲンその他の方法によりあらかじめ確認し、かつ位置決めした部位に合わせてマイクロ波発信手段を一定の速度にて往復動させつつあらかじめ設定されたマイクロ波照射量および照射時間等のカリキユラムにもとづいて治療を行う治療装置において、
寝台2は長尺状であり、床面より適当な高さの箱型をした基台1上に載置されるとともに、
上記基台1の内方にはマイクロ波発信装置3が内蔵されており、
該マイクロ波発信装置3は、寝台2の長さ方向に沿って平行に取りつけられた2本のレール上を無端状のチェーンおよび該チェーンを駆動する減速機を介したモーター駆動手段等により寝台2の長さ方向に自在に往復動され、
上記マイクロ波発信装置において照射されるマイクロ波の照射量が、寝台2の上面に対するマイクロ波照射量とマイクロ波発信装置の走行速度との関係で、生体に危険をおよぼす程度の値にあらかじめ設定した値に達した場合には、電源を自動的に遮断するセンサーを内装する治療装置。」

2.対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比すると、その技術的意義、機能及び構成等からみて、後者の「治療装置」は、前者の「照射装置」に相当し、同様に、「生体における患部」は「生物学的物質内に含有されている細胞」に、「モーター駆動手段」は「モータ付き機構」にそれぞれ相当し、後者の「寝台2」は、「長尺状」であり、その上に生体を配置するためのものであるから、前者の「生物学的物質が配置される長尺支持構造」に相当し、同様のことから、後者の「寝台2の長さ方向」は、前者の「長尺経路」に相当するといえる。
後者の「マイクロ波」と前者の「放射エネルギー」はともに「照射エネルギー」の点で共通するから、後者の「マイクロ波発信装置3」と前者の「放射生成デバイス」は、ともに「照射エネルギー発生手段」という点で共通し、後者の「センサー」と前者の「放射センサ構成」は、「照射エネルギー検知手段」の点で共通するといえる。
そして、後者の「治療装置」は、「生体内の骨格組織に至る深部にまで均等な温熱加療を施すことができる」(上記記載事項(エ))のであるから、「生体の生物学的物質内に含有されている細胞を均一に照射するため」のものであるといえる。また、後者の「マイクロ波発信装置3」は、長尺状(上記引用例に図示された事項(オ))であるから、「与えられた軸に沿って放射を生成する」ためのものであるといえ、後者の「モーター駆動手段」は、上記マイクロ波発信装置3を「一定の速度にて往復動」させ、「寝台2の長さ方向に自在に往復動」させるのであり、該マイクロ波発信装置3は寝台2に対して略直角状に配置されている(上記引用例に図示された事項(オ))のであるから、「放射生成デバイスを、前記支持構造に対して、全体的に一定速度で、前記与えられた軸に対して所定の角度をなす長尺経路(寝台の長さ方向)に沿って、往復移動させるため」のものといえる。
さらに、引用発明の「センサー」は、「マイクロ波発信装置において照射されるマイクロ波の照射量が、寝台2の上面に対するマイクロ波照射量とマイクロ波発信装置の走行速度との関係で、生体に危険をおよぼす程度の値にあらかじめ設定した値に達した場合には、電源を自動的に遮断する」のであるから、少なくとも「照射エネルギー発生手段からの照射エネルギーに対して曝され」、「生体生物学的物質に到達する照射エネルギー量を検出して測定」するものであることは明らかである。
そして、本願発明1の「該放射センサ構成、前記放射生成デバイス、および、前記モータ付き機構に対して接続されるとともに、前記放射エネルギーの測定量を受け取り、該測定量の時間的な積算値が所定値に到達した時には、前記放射生成デバイスおよび前記モータ付き機構の機能を停止させる」ことと、引用発明の「マイクロ波発信装置において照射されるマイクロ波の照射量が、寝台2の上面に対するマイクロ波照射量とマイクロ波発信装置の走行速度との関係で、生体に危険をおよぼす程度の値にあらかじめ設定した値に達した場合には、電源を自動的に遮断する」こととは、「照射エネルギー量が所定の値に到達した時には、前記照射エネルギー発生手段および前記モータ付き機構の機能を停止させる」ということにおいて共通するから、引用発明は、「照射エネルギーが所定の値に到達した時には、前記照射エネルギー発生手段および前記モータ付き機構の機能を停止させる制御回路」を備えているということができる。

そうすると、両者の一致点を、本願発明1の用語を用いて表すと次のとおりである。
〔一致点〕
「生体の生物学的物質内に含有されている細胞を均一に照射するための装置であって、
与えられた軸に沿って放射を生成するための照射エネルギー発生手段と;
前記生体生物学的物質が配置される長尺支持構造と;
前記照射エネルギー発生手段を、前記支持構造に対して、全体的に一定速度で、前記与えられた軸に対して所定の角度をなす長尺経路に沿って、往復移動させるためのモータ付き機構と;
前記生体生物学的物質に到達する照射エネルギー量を検出して測定するために、前記長尺経路に沿って配置されて、前記照射エネルギー発生手段からの照射エネルギーに対して曝される照射エネルギー検知手段と;
照射エネルギー量が所定の値に到達した時には、前記照射エネルギー発生手段および前記モータ付き機構の機能を停止させる制御回路と;
を具備する照射装置。」

そして相違点は以下のとおりである。
〔相違点1〕
本願発明は、照射エネルギーが「放射エネルギー」であって、照射エネルギー発生手段が「放射生成デバイス」であり、照射エネルギー検知手段が「放射センサ構成」であるのに対し、引用発明は照射エネルギーが「マイクロ波」であって、照射エネルギー発生手段が「マイクロ波発信装置3」であり、照射エネルギー検知手段がマイクロ波を検知する「センサー」である点。
〔相違点2〕
「照射エネルギー発生手段」に関し、本願発明は「与えられた軸に沿って実質的に一定の放射を生成する」のに対し、引用発明は、「与えられた軸に沿って放射を生成する」ものの、軸に沿って「実質的に一定」の放射を生成するのか否かは明らかでない点。
〔相違点3〕
「放射センサ構成」の配置に関し、本願発明1は「長尺経路に沿って配置」されるのに対し、引用発明はそのように配置されているのか否か不明な点。
〔相違点4〕
本願発明1の制御回路は、「該放射センサ構成、前記放射生成デバイス、および、前記モータ付き機構に対して接続されるとともに、前記放射エネルギーの測定量を受け取り、該測定量の時間的な積算値が所定値に到達した時には、前記放射生成デバイスおよび前記モータ付き機構の機能を停止させる」のに対し、引用発明の制御回路は、「マイクロ波発信装置において照射されるマイクロ波の照射量が、寝台2の上面に対するマイクロ波照射量とマイクロ波発信装置の走行速度との関係で、生体に危険をおよぼす程度の値にあらかじめ設定した値に達した場合には、電源を自動的に遮断する」ものである点。

上記相違点1について検討する。
生物学的物質を照射エネルギーで照射するための装置において、照射エネルギーとして「放射エネルギー」を用いることは、例えば国際公開第96/07451号パンフレット、国際公開第95/05214号パンフレット、特開平7-144026号公報、及び特開昭61-288872号公報等に記載の如く、本願出願前に周知であり、適宜採用し得たものである。そして、照射エネルギー発生手段として「放射生成デバイス」を用いること、及び照射エネルギー検知手段として「放射センサ構成」を用いることも、上述のとおり、照射エネルギーとして周知の「放射エネルギー」を用いたことに伴い、当業者が適宜なし得たものである。

上記相違点2について検討する。
引用発明の照射エネルギー発生手段(マイクロ波発生装置)は、長尺状の構造であり、「全体的に一定速度で、前記与えられた軸に対して所定の角度をなす長尺経路に沿って、往復移動」して、「生体内の骨格組織に至る深部にまで均等な温熱加療を施す」(上記記載事項(エ))ことからみて、該照射エネルギー発生手段(マイクロ波発生装置)の長手方向、すなわち本願発明でいうところの「与えられた軸」に沿って、「実質的に一定」の放射を生成することは、当業者が適宜なし得る程度の事項にすぎない。

上記相違点3について検討する。
引用発明の電子治療手段は、寝台上の生体に対してマイクロ波を発信するために、マイクロ波発信手段を「寝台2の長さ方向に自在に往復動させ」、「マイクロ波の照射量が、寝台2の上面に対するマイクロ波照射量とマイクロ波発信装置の走行速度との関係で、生体に危険をおよぼす程度の値にあらかじめ設定した値に達した場合には、電源を自動的に遮断する」目的でセンサーを設けているものであるから、該センサーを、「長尺経路(寝台の長さ方向)に沿って配置」することが、寝台2の長尺状の構造や、検出精度の向上の観点からみて合理的であることは当業者にとって自明である。
したがって、本願発明1の上記相違点3に係る発明特定事項は、何ら特別なものとはいえず、当業者が適宜なし得たものにすぎない。

次に、上記相違点4について検討する。
放射エネルギーの量の時間的な積算値が所定値に到達したことを検知して、装置を停止することは、当該技術分野において周知(特開平3-118082号公報3ページ左下欄2?5行、特公平7-27077号公報2ページ右欄29行?3ページ左欄9行参照)である。しかも、引用発明は、電源を自動的に遮断するタイミングとして、「マイクロ波の照射量とマイクロ波発信装置の走行速度との関係」及び「生体に危険をおよぼす程度」を考慮すべきことを示唆している。そうすると、引用発明に周知技術を適用して、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものである。
上記相違点1ないし4を総合しても、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術から、当業者が予測し得る程度のものであって格別のものではない。
よって、本願発明1は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易になし得たものである。

3.容易性の判断のむすび
本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 当審による拒絶の理由の2(特許法第29条第1項柱書き違反)について
本願発明2の「生体の生物学的物質」とは、明細書全体の記載からみても、人体を含むことは明らかである。
そして、本願発明2は、「放射生成デバイスによって、・・・放射を生成し、前記放射生成デバイスを・・・往復移動させ・・・生物学的物質を配置し・・・放射センサ手段を設置し・・・放射エネルギー量を検出して測定し・・・放射生成デバイスの往復を停止させる」という一連の各工程により「生体の生物学的物質内に含有されている細胞を均一に照射する」のであるから、人体を治療する方法であることは明らかである。
また、本願発明2の「長尺支持構造上に生物学的物質を配置」する工程は、医師等が行う行為そのものであり、そのような工程を含む方法は、機器自体に備わる機能を方法として表現したものではないから、本願発明2は、医療機器の「作動方法」とはいえない。
よって、本願発明2は、「産業上利用することができる発明」に該当しないから、特許法第29条第1項柱書きに規定する発明とは認められない。

第5 むすび
以上のことから、本願発明1は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本願発明2は「産業上利用することができる発明」に該当しないから、特許法第29条第1項柱書きに規定する発明とは認められず、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-24 
結審通知日 2007-01-30 
審決日 2007-02-13 
出願番号 特願平10-506395
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 英隆松永 謙一  
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 稲村 正義
和泉 等
発明の名称 光力学的処置のための走査光源を使用した照射装置  
代理人 志賀 正武  

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