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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680029 審決 特許
無効200680092 審決 特許
無効200680280 審決 特許
無効200680168 審決 特許
無効2009800065 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61F
管理番号 1159936
審判番号 無効2006-80032  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-03-01 
確定日 2007-06-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第2854294号発明「再生セルロースステープルファイバーから成る吸収性製品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2854294号の請求項1ないし6に係る発明についての出願は、昭和63年 7月29日(優先権主張 1987年 7月30日 英国)に出願した特願昭63-188540号の一部を平成9年5月28日に新たな特許出願としたもので、平成10年11月20日にその特許権の設定登録がされたものである。
その後、特許無効審判請求人 オーミケンシ株式会社(以下、「請求人」という。)から特許無効の審判請求がされ、審判請求書を送達し、期間を指定して答弁を求めたところ、特許権者である ケルハイム ファイバーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング(以下、「被請求人」という。)から平成18年6月23日付けで答弁書が提出され、請求人から平成19年2月2日付けで弁駁書が提出されたものである。

II.本件発明
本件特許の請求項1乃至6に係る発明(以下、「本件特許発明1乃至6」という。」は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された次のとおりのものといえる。
「【請求項1】 デシテックス表示で0.5から5の範囲の太さと少くとも3本のリムを有する複リム断面を具備した複数の中実のステープルファイバーであって、前記リムの長さ対幅の寸法比が2:1から10:1の範囲にあり、且つ前記複数のステープルファイバーの全てが実質的に同じ断面形状を有すると共に、集団繊維として測定した液体吸収性が高い標準ビスコース製中実再生セルロースステープルファイバーから成る吸収性製品。
【請求項2】 得られることになるステープルファイバーの断面形状に類似した形状を有する複リム形状の押出孔を経て、標準ビスコースを再生浴に押出して、セルロースフィラメントを再生し、引続いて該セルロースフィラメントを延伸し、得られたフィラメントを切断してステープルファイバーにし、その後洗滌・乾燥することによって製造される、デシテックス表示で0.5から5の範囲の太さと少くとも3本のリムを有する複リム断面を具備した複数の中実のステープルファイバーから成り、前記リムの長さ対幅の寸法比が2:1から10:1の範囲にあり、且つ前記複数のステープルファイバーの全てが実質的に同じ断面形状を有することを特徴とする請求項1記載の吸収性製品。
【請求項3】 前記ステープルファイバーが実質的に120°の角度で相互に配置された3本のリムを有することを特徴とする請求項1又は2記載の吸収性製品。
【請求項4】 前記ステープルファイバーの太さがデシテックス表示で1.5から4の範囲であることを特徴とする請求項1又は3迄の何れか1項に記載の吸収性製品。
【請求項5】 前記ステープルファイバーのそれぞれのリムの長さ対幅の寸法比が2:1から7:1の範囲であることを特徴とする請求項1から4迄の何れか1項に記載の吸収性製品。
【請求項6】 前記吸収性製品がタンポンであることを特徴とする請求項1から5迄の何れか1項に記載の吸収性製品。」

III.請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
請求人の主張は、甲第2ないし5号証を提出して、本件特許の請求項1ないし6に係る発明は甲第2号証ないし甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

〈証拠方法〉
甲第1号証:特許第2854294号公報(本件特許公報)
甲第2号証:特開昭61-113812号公報
甲第3号証:繊維便覧(424?429頁)(昭和43年11月30日丸善株式会社発行)
甲第4号証:特公昭61-38696号公報
甲第5号証:実験報告書(平成18年1月25日,井上修)

また、平成19年2月2日付けで弁駁書に添付して下記の参考資料1乃至5を提出している。
参考資料1:「繊維便覧」丸善株式会社、昭和43年11月30日発行、
480?481頁
参考資料2:「化繊ハンドブック1985」、日本化学繊維協会、
1984年11月発行、300?301頁
参考資料3:「試験証明書」財団法人日本化学繊維検査協会大阪事業所
平成18年11月21日付
参考資料4:「図説 繊維の形態」、株式会社朝倉書店、
1983年8月1日発行、170?173頁
参考資料5:米国特許第4129679号明細書

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
本件特許の請求項1ないし6に記載の発明は、甲第2ないし4号証記載の発明から当業者が容易に発明できたものではない。

IV.当審の判断
1,甲2ないし4号証の記載事項
[甲第2号証の記載事項]
a:「単糸の断面は3つまたは4つの耳朶を有し、各耳朶がフィラメントの断面中心に対しておおむね対称に位置し、各耳朶の長さと幅の比が2:1?6:1であるビスコースレーヨンマルチフィラメント」(特許請求の範囲)

b:「使用する紡糸口金は、長さと幅の比が2:1?6:1である3個又は4個の分岐したスリット辺を有するオリフィス孔を備えた紡糸口金を用いる(2頁右下欄20行目?3頁左上欄3行目)

c:「本発明フィラメントを得るために用いるビスコース紡糸原液は、従来常法により調整されたものが好適に使用でき、特に限定すべき事項ではない。また紡糸条件、即ち紡糸浴組成、浴温、紡糸速度等は従来公知の条件がそのまま適用できる」(3頁左上欄9行目?13行目)

d:「紡糸口金を経由して紡浴酸の充満された凝固浴で再生され、フィラメントを形成して二つのデゴットロール間で延伸されファンネルを通り、ポットモーターにより高速回転されるポット内こ遠心力を利用して撚りかけながらケーク状に巻き取られる。ケーク状に一旦巻き取られたフィラメントは通常の精練、脱水を行った後、張力下において乾燥させる」(3頁左上欄16行目?同頁右上欄4行目)

e:「もし高度に清浄化されたビスコースによりスリット幅のより小さい孔からフィラメントを生成させる時にこの要件は満たされる真に価値あるフィラメント糸を提供することができる」(3頁右下欄13行目?16行目)

f:「ビスコース セルロース重合度 310」(4頁左上欄5行目)

g:「通常のビスコース組成物を下記の紡糸条件により4個の耳朶を有するオリフィス孔18孔からなる紡糸口金によりフィラメント糸を一般的な遠心式紡糸法によって得た」(3頁右下欄17行目?4頁左上欄1行目)

h:「複数個の耳朶又は足を有する断面形状、例えば亜鈴型、卍型、H型、T型、Y型、+型、工型、多角形状に変形されたもの」(1頁右欄6行目?8行目)

i:「ビスコース法によるレーヨンフイラメントは、フイラメント形成過程においては都合よく紡糸口金オリフィス孔の形状と近似したフイラメントが得られる、それ故、例えばY型オリフィス孔で紡糸すれば孔形状とほぼ同じ断面形状を有するいわゆるトリローパルフイラメントが得られる。」(1頁右欄10?15行)

j:「本発明フィラメントは各耳朶が単糸断面中心に対して、ほぼ対称に展開しており、一つのマルチフィラメント及び織編物のような構造化された集合体中に拡大された空間を造成し、嵩の著しい増大を達成する。」(2頁左上欄16?20行)

k:「本発明フィラメントでは嵩が増加するだけでなく、対称に耳朶が拡がり折れ曲ることがないので、編物または織物となった時、繊維表面からの光反射に関する見苦しい光沢を減少する効果がある。」(3頁右下欄4?7行)

以上の事項から、甲第2号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
少くとも3本の耳朶を有する複数の中実のビスコースレーヨンマルチフィラメントであって、前記耳朶の長さ対幅の寸法比が2:1から6:1の範囲にあり、且つ前記複数のビスコースレーヨンマルチフィラメントの全てが実質的に同じ断面形状を有する嵩高性ビスコースレーヨンマルチフィラメント。

[甲第3号証の記載事項]
l:「現在一般に使用されているレーヨン糸は、30Dから300Dが普通である。また単糸デニールは5d,2.5dが普通で、特殊なものとして10dあるいは1.5dなどの糸も作られている」(427頁12?15行)
[甲第4号証の記載事項]
m:「レーヨン繊維を圧縮成形して吸収体としたタンポンにおいて、吸収体を構成するレーヨン繊維が次の要件を備えていることを特徴とするタンポン。(A)乾強度が4.0g/デニール以上(B)湿強度が3.0g/デニール以上(C)5%伸張時の湿強度が1.0g/デニール以上(D)0.5g/デニール荷重時の伸長度が3.0%以下」(特許請求の範囲、請求項1)

n:「本発明の吸収体を構成する繊維は上記(A)?(D)の繊維特性を満足するものであればいかなるものでもよいが平均重合度450以上の高重合度人造繊維が好ましく特にポリノジックレーヨンが好ましい」」(3頁6欄15?19行)

o:「又、繊維断面の形状も吸収性能に影響を及ぼし、特に凹部を有するものが吸収性能が更に向上するので好ましい」(3頁6欄19?21行)

p:「第2表より断面形状がL型とかY型のような凹部を有していると吸収性能が更に向上することがわかる」(4頁8欄26?28行)

q:「タンポン吸収体素材を選択する時乾強度、湿強度、5%伸長時の湿潤強度、0.5g/d荷重時の湿伸度の物性に着目し、本発明の物性値の範囲内に制御することが有効である。」(3頁5欄14?17行)

2.対比(本件特許発明1について)
甲第2号証に記載された発明の「耳朶」は、本件特許発明1の「リム」に対応し、甲第2号証に記載された発明の「ビスコースレーヨン」は、本件特許発明1の「標準ビスコース製再生セルロース」に対応するから、
本件特許発明1と甲第2号証に記載されたものとを対比すると、両者は
「少くとも3本のリムを有する複リム断面を具備した複数の中実繊維であって、前記リムの長さ対幅の寸法比が2:1から10:1の範囲にあり、且つ前記複数の繊維の全てが実質的に同じ断面形状を有する標準ビスコース製中実再生セルロース繊維。」である点で一致し、以下の各点で相違している。

相違点1:本件特許発明1では、繊維の太さがデシテックス表示で0.5から5の範囲の太さであるのに対し、甲第2号証記載の発明では、繊維の好ましい太さに関しては特に記載はない点

相違点2:本件特許発明1では、繊維がステープルファイバーであるのに対し、甲第2号証記載の発明では、フィラメントである点。

相違点3:本件特許発明1では、集団繊維として測定した液体吸収性が高いのに対し、甲第2号証記載の発明では、液体吸収性については記載がない点。
相違点4:本件特許発明1は、吸収性製品であるのに対し、甲第2号証記載の発明では、吸収性製品に用いることは記載されていない点。

3.判断(本件特許発明1について)
まず、相違点3及び4について検討する。
[相違点3について]
本件特許発明1では、集団繊維として測定した液体吸収性が高いものであるが、甲第2号証記載の発明では、嵩高性に優れていることについては記載されているが、液体吸収性については記載がなされていない。
この点に関し、請求人は甲第4号証を提出して、「繊維断面の形状も吸収性能に影響を及ぼし、特に凹部を有するものが吸収性能が更に向上するので好ましい」(記載事項o)及び「断面形状がL型とかY型のような凹部を有していると吸収性能が更に向上することがわかる」(記載事項p)という記載から、甲第2号証に記載の嵩高性ビスコースレーヨンフイラメントも液体吸収性の高いことは明らかである旨、主張している。
さらに、請求人は甲第5号証として実験報告書を提出して、「吸水性については、繊維断面が丸形でもY形のいずれにおいても普通レーヨンとポリノジックレーヨンとでは、その吸水性においては実質的な差異は見られなかった。」と結論づけている。
たしかに、繊維の断面形状がL型とかY型のような凹部を有していると凹部を有していないものに比して吸収性能が向上するということは、一般的な知見としていえるものであるとしても、甲第2号証に記載されたビスコースレーヨンフイラメントは、記載事項j及びkから明らかなように、編物あるいは織物として利用する際に嵩を増大させることを目的として発明されたものであって、このビスコースレーヨンフイラメントは液体吸収性に関しては特段考慮されているものではない。
してみれば、甲第2号証に記載されているフィラメントが何らかの液体吸収性を有するとしても、それは本件特許発明1に係る物品であるタンポンのような吸収性製品として適切に用いることができる程度までの液体吸収性を有するものとは認められない。

[相違点4について]
甲第4号証には、「レーヨン繊維を圧縮成形して吸収体としたタンポン」(記載事項m)及び「断面形状がL型とかY型のような凹部を有していると吸収性能が更に向上することがわかる」(記載事項p)という記載があり、レーヨン、すなわち再生セルロースから製造される人造繊維を吸収体としたタンポンにおいて、繊維の断面形状がL型とかY型のような凹部を有していると吸収性能が更に向上することが、開示されている。
しかし、甲第4号証の発明は、記載事項qから明らかなように、乾強度や湿強度等の物性に着目して吸収性能を改善したものであって、繊維の断面形状については、記載事項oあるいはpのように一般的知見を述べるにとどまっているものである。
してみれば、甲第4号証の記載を考慮しても、甲第2号証に記載の嵩高性ビスコースレーヨンフイラメントは、そもそも吸収性製品に用いることを意図していないのであるから、その嵩高性ビスコースレーヨンフイラメントをタンポンのような吸収性製品に用いることが当業者が容易に想到し得たものとは認められないし、また、甲第4号証の記載のタンポンにおいて、そのレーヨン繊維の断面形状を本件特許発明1のような断面形状にすることが当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

以上のとおりであるから、相違点1の「繊維の太さがデシテックス表示で0.5から5の範囲の太さである点」及び相違点2の「繊維がステープルファイバーである点」、これら自体が請求人が主張するように、甲第2号証あるいは甲第3号証により公知の事項であるとしても、本件特許発明1は、液体吸収性が高い標準ビスコース製中実再生セルロースステープルファイバーから成る吸収性製品を得ることを目的として、ステープルファイバーの太さを限定し、特定の断面形状としたものであるから、液体吸収性が高い吸収性製品を得るという目的と関連しない技術事項が開示されているにすぎない甲第2号証あるいは3号証の記載から、本件特許発明1における相違点1及び2の点が当業者にとって容易であるものとはいえない。

また、請求人が提出した参考資料1乃至5の記載を考慮しても、各相違点について、当業者が容易になし得たものとすることはできない。

よって、本件特許発明1は甲第2乃至5号証及び参考資料1乃至5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.判断(本件特許発明2乃至6について)
本件特許発明2乃至6は、本件特許発明1の構成をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

V.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許1乃至6を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-20 
結審通知日 2007-04-26 
審決日 2007-05-08 
出願番号 特願平9-153051
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐野 整博  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 豊永 茂弘
田中 玲子
登録日 1998-11-20 
登録番号 特許第2854294号(P2854294)
発明の名称 再生セルロースステープルファイバーから成る吸収性製品  
代理人 浅井 賢治  
代理人 小川 信夫  
代理人 平山 孝二  
代理人 箱田 篤  
代理人 河野 哲  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 山崎 一夫  
代理人 河井 将次  

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