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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1160334 |
審判番号 | 不服2005-4564 |
総通号数 | 92 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-03-16 |
確定日 | 2007-07-12 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第 32022号「ヒアルロン酸の測定方法及び測定用キット」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 5日出願公開、特開平 9-229930〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年2月20日の出願であって、その請求項1ないし14に係る発明は、明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次の通りである。 「CD44と検体中のヒアルロン酸とを反応させてCD44とヒアルロン酸との複合体を形成させる工程を含む、検体中のヒアルロン酸の測定方法。」 2.刊行物の記載 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前の平成6年6月1日に頒布された特公平6-41952号公報(以下、「刊行物1」という)には、次の事項が記載されている。 特許請求の範囲請求項1 「固相に固着されたヒアルロン酸結合性蛋白に検体ヒアルロン酸を含む試料を添加して該固着されたヒアルロン酸結合性蛋白と該検体ヒアルロン酸とを結合せしめ、次いで、これに標識物質で標識されたヒアルロン酸結合性蛋白を結合させて、「固相固着ヒアルロン酸結合性蛋白-高分子ヒアルロン酸-標識物質結合ヒアルロン酸結合性蛋白」からなるサンドイッチ状結合体を形成せしめ、該サンドイッチ状結合体中の標識物質を測定することにより、該検体ヒアルロン酸を定量とすることを特徴とする高分子ヒアルロン酸の測定方法。」 (2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前の平成6年3月22日に頒布された特開平6-78786号公報(以下、「刊行物2」という)には、次の事項が記載されている。 「例えばアルフォ[Aruffo]等によって、1990年6月29日発行のセル[Cell]第61巻,第1303頁?第1313頁に「CD44は細胞表面上の主要なヒアルロン酸レセプターである[CD44 Is thePrincipal Cell Surface Receptor forHyaluronate]」なる題名にて記載された方法によって作製されたラットLECAM-1-IgG融合蛋白質でもよい。」(明細書段落【0013】) 3.本願発明と刊行物1記載の発明との対比 刊行物1の特許請求の範囲請求項1に記載された「固相に固着されたヒアルロン酸結合性蛋白に検体ヒアルロン酸を含む試料を添加して該固着されたヒアルロン酸結合性蛋白と該検体ヒアルロン酸とを結合せしめ」ることと本願発明の「CD44と検体中のヒアルロン酸とを反応させてCD44とヒアルロン酸との複合体を形成させる」ことは、ともに、特定のタンパク質とヒアルロン酸とを反応させ、特定のタンパク質とヒアルロン酸との複合体を形成させる点で共通する。 また、刊行物1の特許請求の範囲請求項1に記載された「高分子ヒアルロン酸の測定方法」は、「検体ヒアルロン酸を含む試料」中の「検体ヒアルロン酸を定量」する方法であり、本願発明の「検体中のヒアルロン酸の測定方法」に相当する。 すると、本願発明と刊行物1の特許請求の範囲請求項1に記載された発明(以下「刊行物1記載の発明」という)は、次の点で一致する。 <一致点> 「特定のタンパク質と検体中のヒアルロン酸とを反応させて特定のタンパク質とヒアルロン酸との複合体を形成させる工程を含む、検体中のヒアルロン酸の測定方法。」である点。 一方で、両者は、次の点で相違する。 <相違点> 特定のタンパク質が、本願発明では「CD44」であるのに対して、刊行物1記載の発明では「ヒアルロン酸結合性蛋白」である点。 4.相違点についての判断 CD44がヒアルロン酸のレセプターであることは、刊行物2あるいは本願明細書においても引用されている論文「ARUFFO et al., Cell, Vol.61, p.1303-1313(1990)」や、その他の論文である「STAMENKOVIC et al., METHODS IN ENZYMOLOGY, Vol.245, p.195-216 (1994)」 等に開示されているように、従来周知の事項である。 一方、ヒアルロン酸を定量測定しようとする場合において、ヒアルロン酸のレセプターとして従来から知られているものについてまず吟味してみることは、当業者であれば当然行うことであり、実験等を繰り返し行って適当なレセプターを選択することは普通に行われている。またその際に、交差反応の可能性についても当然検討が加えられるものと認められ、交差反応の有無のみならず、交差反応の強さすなわち測定対象との反応と比較してどの程度のものであるかという反応の度合いについても検討して、総合的にヒアルロン酸の定量測定に適したものであるかどうかが決定されるものと認められる。 上記のような観点から、検体中のヒアルロン酸の測定にヒアルロン酸のレセプターとして周知のCD44を使用することについて検討すると、上記論文には、CD44がヒアルロン酸のレセプターであることの開示とともに、CD44-Rgと細胞表面上のヒアルロン酸との結合が低濃度(5μg/ml)のヒアルロン酸の存在下または高濃度(500μg/ml)のコンドロイチン4硫酸及び6硫酸の存在下においてブロックされることも記載されている(「Cell Vol.61,p.1303-1313(1990)」のSummary、第1304頁右欄30-46行及び第1306頁Figure 4の記載、「METHODS IN ENZYMOLOGY, Vol.245, p.195-216 (1994)」の第206頁FIG.3の記載を参照)が、このように測定対象に対する結合物質が測定対象以外の物質に対して交差反応を起こす場合であっても、測定対象以外の物質との交差反応が測定対象との反応に比べて格段に弱い場合は、測定対象を検出するための試薬としてこのような結合物質を使用する場合の阻害要因とはならないことは、当業者に知られているところである(例えば、特表平6-503645号公報第4頁右上欄21行-左下欄2行、特開平3-7597号公報第5頁右上欄3-11行、特開平2-138992号公報第2頁左下欄11行-右下欄第12行の記載を参照)。 (なお、本願発明においても、明細書の図8及び段落【0122】【0123】によれば、種々のグリコサミノグリカンを共存させた検体の吸光度の割合がグリコサミノグリカン無添加系に対して交差反応物質の種類によっては110%程度であっても、すなわち10%程度の交差反応があっても、「ヒアルロン酸以外のグリコサミノグリカンとの交差反応(結合性)はなく、ヒアルロン酸以外のグリコサミノグリカンの存在によってヒアルロン酸の測定は影響されないことがわかる。」として、弱い交差反応については無視されている。) したがって、刊行物1記載の発明において「ヒアルロン酸結合性蛋白」に代えてヒアルロン酸のレセプターとして周知のCD44を使用することは、当業者であれば容易に想到することができるものであると認められる。 そして本願発明においては、CD44をヒアルロン酸の測定に使用する際に交差反応を抑制するための何らかの創意工夫がなされているものとも認められず、上記のように検体中に存在する交差反応物質によっては10%程度の交差反応を含んだ測定値をもってヒアルロン酸の定量をするものであるから、その作用効果も刊行物の記載ならびにこの出願前周知の技術的事項から予測される範囲内のものである。 5.むすび したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-05-09 |
結審通知日 | 2007-05-15 |
審決日 | 2007-05-29 |
出願番号 | 特願平8-32022 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 加々美 一恵 |
特許庁審判長 |
鐘尾 みや子 |
特許庁審判官 |
秋月 美紀子 山村 祥子 |
発明の名称 | ヒアルロン酸の測定方法及び測定用キット |
代理人 | 遠山 勉 |
代理人 | 川口 嘉之 |
代理人 | 松倉 秀実 |