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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1160459
審判番号 不服2005-1711  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-01 
確定日 2007-07-11 
事件の表示 特願2002- 85002「建築用シート、建築物及び建築方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 2日出願公開、特開2003-278285〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年3月26日の出願であって、優先権主張(優先日:平成13年9月7日)をしたものの当該優先権主張は無効とされ、平成16年12月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成17年2月1日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、平成17年2月1日付け及び平成17年2月9日付けで手続補正がなされた(前記平成17年2月9日付けの手続補正は、さらに平成17年4月4日付けで手続補正がなされた)ものである。

2.平成17年2月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年2月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「繊維状の合成樹脂を絡ませて通気性のある中空構造のコア材とし、前記コア材を耐圧強度の高い三次元配置で構成し、かつ、通気性のあるフィルターを含んで構成されることを特徴とする建築用シート。」と補正された。

上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「コア材」を、「通気性のある」コア材に限定したものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物に記載された事項
(2-1)これに対して、本願の出願の日前に頒布された刊行物である、実願昭62-87998号(実開昭63-200009号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には、「建築物の防水換気シート」に関し、図面の第1図?第8図とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「2.実用新案登録請求の範囲(1)建築物の外壁体もしくは屋根体の外部表面材と仕上材との間に介装され、該外壁体もしくは屋根体の防水性及び通風換気性能を確保する防水換気シートにして、シート本体の一面に凹凸形状の通気層形成部材が一体に取着されてなり、該通気層形成部材を前記シート本体と前記外部表面材との間に介在させる態様で前記外壁体もしくは屋根体に固着されるものにおいて、サッシ、出窓等の開口部直下に配設されるシートには、上端部近傍に水平方向への通気溝が形成されていることを特徴とする建築物の防水換気シート。」(第1ページ第4行?15行)

(イ)「透湿シート1は、・・・該透湿シート本体2の一面に、長手方向に断面波形状をなして連続する通気層形成手段3を一体に取着して構成されている。該透湿シート本体2と通気層形成部材3とは、本実施例では同一材質、即ち、両者とも木質パルプ繊維とビニロン、ポリエステル、ポリプロピレン等の合成繊維とを85:15?95:5の比率で混合したもの100重量部に対して、オレフィン系親水性パルプ状多分岐繊維を80?120重量部の割合で混合、抄造したものであり、防水性が高く、かつ、透湿性が大きいという特質を有するものである。」(第5ページ第4行?17行)

(ウ)「しかして、外壁体への取付にあたっては、・・・本実施例に係る外壁体5に・・・透湿シート1を・・・順次固定してゆく。・・・。なお、上記作業においては、第5図に示すように、断面波形状の通気層形成部材3の各波形を上下方向に一致させて、構造用合板6と透湿シート本体2の間に上下に連続した通気層10が連続形成されるようにする。しかる後に本実施例に係る外部仕上材としてのモルタル11を透湿シート本体2の外面に塗着して作業が完了する。」(第6ページ第6行?第7ページ第10行)

(エ)「上述した如く構成された本実施例においては、各透湿シート1により上下方向に連続形成された通気層10の上下端部を外部、もしくは床下、天井、屋根体等と連通させることにより、第4図中上方向の矢線で示すように各通気層10内で通風換気が有効に行なわれる。また、透湿シート1自体が上記の如く所定の防水性能を有するとともに透湿性に優れた特性を具備しているため、モルタル11からの水分は有効に遮断しうるとともに、外壁体5内部に滞留する湿気が合板6を介して排出された場合には、該湿気は通気層形成部材3を通過して通気層10内に入り、上記したと同様に外部等に排出しうる。」(第7ページ第17行?第8ページ第9行)

(オ)「次に第7図は本考案の他の実施例を示すものであり、本実施例は透湿シート1を屋根体の防水換気用に使用した例である。即ち、本実施例では・・・前記構造用合板14の外面に透湿シート1を固定し、その外面に屋根仕上材としての石綿セメント板15を組付けてなり、・・・。また屋根仕上材15としては石綿セメント板の他に、例えば鉄板、瓦等を使用することができる。」(第10ページ第4行?第11ページ第5行)

そして、上記記載事項(ア)?(オ)並びに図面に記載された内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明1)
「建築物の外壁体もしくは屋根体の外部表面材と仕上材との間に介装され、該外壁体もしくは屋根体の防水性及び通風換気性能を確保する防水換気シートであり、該防水換気シートは、透湿シート本体の一面に断面凹凸形状の通気層形成部材が一体に取着されてなり、該透湿シート本体と通気層形成部材とを、ともに木質パルプ繊維とビニロン、ポリエステル、ポリプロピレン等の合成繊維とを混合したものに対して、オレフィン系親水性パルプ状多分岐繊維を混合、抄造したもので、防水性が高く、かつ、透湿性が大きいという性質を有するものとし、該通気層形成部材を屋根体の防水換気用に使用する場合には、透湿シートの外面に屋根仕上材としての石綿セメント板、鉄板、瓦等を組付ける、建築物の防水換気シート。」

(2-2)また、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、実願昭62-87741号(実開昭63-197121号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には、「防風・通気シート」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「2.実用新案登録請求の範囲(1)幅方向に連続して形成した多数本の凹溝を有するアスファルトフェルトを基材とし、該基材の少なくとも一面に、通気性のある防水紙を貼着したことを特徴とする防風・通気シート。」(第1ページ第4行?8行)

(イ)「〔産業上の利用分野〕本考案は建築、構築物の通気外装下地を形成するのに有用な防風・通気シート(以下、単にシートという)に関する。」(第1ページ第10行?13行)

(ウ)「・・・第1図は上記シートαを示す斜視図であり、アスファルトフェルトをプレス加工により形成した基材1と、基材1の少なくとも一面に接着剤等を介して張設した通気性を持った防水紙2と必要により他の一面に張設した防水シート3とから構成したもので、・・・。」(第2ページ第13行?18行)

(エ)「2は通気性防水紙で厚さ0.13?0.18mm、商品名タイベック(デュポン社製)等の通気性繊維シートである。3は防水シートで基材と同様のアスファルトを用いるか、あるいは市販の不通気性のシートを用いることもできる。」(第3ページ第15行?20行)

そして、上記記載事項(ア)?(エ)並びに図面に記載された内容を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明2)
「幅方向に連続して形成した多数本の凹溝を有するアスファルトフェルトを基材とし、該基材の少なくとも一面に、通気性繊維シートである通気性防水紙を貼着し、他の一面に防水シートを張設した、建築、構築物の通気外装下地を形成するのに有用な防風・通気シート。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「断面凹凸形状の通気層形成部材」、「合成繊維」、「建築物の防水換気シート」は、本願補正発明の「三次元配置で構成し」た「コア材」、「繊維状の合成樹脂」、「建築用シート」にそれぞれ相当する。また、引用発明1の「抄造」は、本願補正発明の「絡ませて」に相当する。
してみれば、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「繊維状の合成樹脂を絡ませて中空構造のコア材とし、該コア材を三次元配置で構成した建築用シート。」

(相違点1)
本願補正発明では、建築用シートは通気性のあるフィルターを含んで構成されているのに対し、引用発明1では、そのような構成とはなっていない点。

(相違点2)
本願補正発明では、コア材は耐圧強度が高い構成であるのに対し、引用発明1ではその耐圧強度が定かではない点。

(相違点3)
本願補正発明では、コア材は通気性があるのに対し、引用発明1では、透湿性を有するものであるが通気性については定かでない点。

(4)当審の判断
上記の各相違点について検討する。

(相違点1について)
引用発明2の「多数本の凹溝」を有する「基材」、「通気性繊維シートである通気性防水紙」「建築、構築物の通気外装下地を形成するのに有用な防風・通気シート」は、本願補正発明の「三次元配置で構成し」た「コア材」、「通気性のあるフィルター」、「建築用シート」にそれぞれ相当するものであるといえる。
そして、引用発明1の「建築物の防水換気シート」と引用発明2の「建築、構築物の通気外装下地を形成するのに有用な防風・通気シート」は、ともに外装とその下の材料との間に介装され、換気を行うためのシートである点で共通していることから、引用発明1の「断面波形状の凹凸形状の通気層形成部材」に引用発明2の「通気性防水紙」を付加することは、当業者が容易に想到しうることである。

(相違点2について)
本願補正発明における「耐圧強度の高い」とは、どの程度の強度を指しているのか定かではないことから、本願明細書及び図面を参照すると、本願明細書の段落【0020】には、「また、図8は、建築物の屋根30の構造を示す概略図であり、・・・。建築用シート3bに含まれるコア材12は高い耐圧強度を有するため、直接化粧スレート葺き屋根材31-Aを張っても、その中空構造を保ち、通気のための空間(通気層)25を形成することができる。」と記載されている。してみれば、本願補正発明の「耐圧強度の高い」とは、直接化粧スレート葺き屋根材を張っても、その中空構造が保たれる程度を指しているものと解される。
一方、引用発明1の建築物の防水換気シートは、通気層形成部材を屋根体の防水換気用に使用する場合には、透湿シートの外面に屋根仕上材としての石綿セメント板、鉄板、瓦等を組付けるものであることから、引用発明1の建築物の防水換気シートが、本願明細書に記載される「スレート葺き屋根材」に相当する石綿セメント板に耐えられる耐圧強度を有していることは当業者にとって明らかなことである。してみれば、本願補正発明のコア材に相当する引用発明1の通気層形成部材が、本願補正発明と同様に「耐圧強度の高い」ものであることは明らかである。

(相違点3について)
引用発明1の通気層形成部材は、防水性が高く、かつ、透湿性が大きいという性質を有した部材であり、当該通気層形成部材が、水は透過させなくとも、湿気である「水蒸気」という「気体」を大きく透過させている部材であることは、当業者にとって明らかなことである。してみれば引用発明1が水蒸気という気体を通気する通気性を有していることは明らかである。
仮に引用発明1の通気層形成部材が通気性を有していないものであったとしても、外壁の内側に通気機能を持たせるために凹凸状に三次元配置される部材において、縦横方向に通気ができるようにするために、当該部材に通気性を持たせることが、例えば、実願昭62-180323号(実開平1-83805号)のマイクロフィルムにもみられるように従来周知であることを考慮すれば、引用発明1の凹凸形状を有する通気層形成部材において縦横方向の通気性ができるようにするために、当該部材に通気性をもたせることは、当業者が適宜なしうる程度のことといわざるを得ない。

そして、本願補正発明が奏する作用・効果を検討してみても、引用発明1及び2並びに周知の技術から、当業者が予測しうる範囲のものであって、格別なものとみることはできない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成17年2月9日付け手続補正書の【本願発明が特許されるべき理由】において、
「本願発明のコア材はそれ自体通気性を有するが、引用例1の通気層形成部材3は、それ自体は通気性を有しない点で大きく異なる。」と主張する。
しかし、引用発明1の通気層形成部材は、透湿性が大きいという性質を有した部材であり、湿気である「水蒸気」という「気体」を大きく透過させている部材であることが当業者にとって明らかであることから、引用発明1が水蒸気という気体を通気する通気性を有していることは明らかである。
仮に引用発明1の通気層形成部材が通気性を有していないものであったとしても、外壁の内側に通気機能を持たせるために凹凸状に三次元配置される部材において、縦横方向に通気ができるようにするために、当該部材に通気性を持たせることが、上記2.(4)(相違点3について)にて説示したととおり従来周知であることを考慮すれば、引用発明1の通気層形成部材において縦横方向の通気性ができるようにするために、当該部材に通気性をもたせることは、当業者が適宜なしうる程度のことといわざるを得ない。
また、審判請求人は、上記補正書において「本願のコア材は、・・・十分な通気性を有している。」とも主張する。
上記主張における「十分な」が、どの程度の通気性を指しているのか定かではないが、本願補正発明がコア材の通気性の程度を何ら示してはいないことからすれば、上記請求人の主張は、特許請求の範囲の請求項の記載に基づいた主張とはいえないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するものであり、同法159条第1項において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年2月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年6月7日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「繊維状の合成樹脂を絡ませて、耐圧強度の高い三次元配置で中空構造にしたコア材を含んで構成され、かつ、通気性のあるフィルターを含んで構成されることを特徴とする建築用シート。」
(1)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物に記載された事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.にて検討した本願補正発明における「コア材」について、「通気性のある」との限定を削除したものである。

そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに他に発明を特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-09 
結審通知日 2007-05-17 
審決日 2007-05-29 
出願番号 特願2002-85002(P2002-85002)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04B)
P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 聡志齋藤 智也  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 西田 秀彦
石井 哲
発明の名称 建築用シート、建築物及び建築方法  
代理人 奥山 雄毅  

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