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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1161285
審判番号 不服2003-9485  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-26 
確定日 2007-07-18 
事件の表示 平成 9年特許願第502096号「抗メチオニンおよび抗ホモシステイン化学療法におけるメチオニナーゼの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年12月19日国際公開、WO96/40284、平成14年 9月17日国内公表、特表2002-531050〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成8年6月7日(パリ条約による優先権主張1995年6月7日、米国、及び1996年5月3日、米国)に国際出願されたものであって、平成15年2月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月25日付で願書に添付した明細書について手続補正がなされたものである。

第2.平成15年6月25日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成15年6月25日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?4は、新たな請求項1?4に補正された。
(1)特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。
「ポリマーと結合した純粋でエンドトキシンを含まないメチオニナーゼ(methioninase)からなる、酵素的に活性な改変されたメチオニナーゼであって、安定で、イン・ビボでのメチオニン枯渇に効果的であり、そして実質的に非免疫原性である該改変メチオニダーゼ。」

上記補正は、補正前の請求項1である「ポリマーと結合したメチオニナーゼ(methioninase)からなる、酵素的に活性な改変されたメチオニナーゼ」を引用する、補正前の請求項4に係る発明、すなわち、「ポリマーと結合したエンドトキシンを実質的に含まないメチオニナーゼ(methioninase)からなる、酵素的に活性な改変されたメチオニナーゼ」に記載された、発明を特定するために必要な事項である「ポリマーと結合したメチオニナーゼからなる、酵素的に活性な改変されたメチオニナーゼ」について、「エンドトキシンを実質的に含まない」を「純粋でエンドトキシンを含まない」とし、かつ、「安定で、イン・ビボでのメチオニン枯渇に効果的であり、そして実質的に非免疫原性である」との限定を付加するものであり、当該補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえるから、請求項1についてのみみれば、この補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する(なお、上記請求項中「メチオニダーゼ」は「メチオニナーゼ」の誤記と認められる。)。

(2)特許請求の範囲の請求項2は、次のとおりに補正された。
「結合が安定となるようにポリマーと結合したメチオニナーゼであって、メチオニナーゼがもとの酵素活性の少なくとも20%を維持し、かつその結合がポリマーのメチオニナーゼに対する割合10から120を使用することによって生じる該メチオニナーゼ。」

上記補正は、補正前の請求項1に記載された、発明を特定するために必要な事項である「酵素的に活性な改変されたメチオニナーゼ」について、「結合が安定となるようにポリマーと結合したメチオニナーゼであって、メチオニナーゼがもとの酵素活性の少なくとも20%を維持」するものである旨、また、「結合」について、「ポリマーのメチオニナーゼに対する割合10から120を使用することによって生じる」ものである旨限定を付加するものであり、当該補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえるから、請求項2についてのみみれば、この補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)補正後の請求項3,4は、先行する請求項に係る発明について、補正前の請求項2,3と同様の技術的限定を加えるものである。そして、これらの補正により、補正前後で請求項の数は変わらない。
しかしながら、本件補正により、請求項1乃至4は、一見すると、増項補正には当たらないものの、補正後の請求項3は、補正後の請求項1及び請求項2に係る、互いに引用形式にない2つの発明を引用するものである。これは、補正後の請求項4についても同様である。これに対して、補正後の請求項3及び請求項4に対応する、補正前の請求項2及び請求項3においては、請求項1という単一の発明概念に属する発明のみを引用していたものである。してみれば、補正後の請求項3及び請求項4は、(i)本来であれば、補正後の請求項1及び請求項2それぞれに対して分割して項をたてるべきものであって、実質的に請求項数を増加したものであるか、あるいは、(ii)択一的要素を付加したものである、といえる。
そもそも、特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」は、その括弧書きで「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。」と規定しているから、同号にいう「特許請求の範囲の減縮」は、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請されるというべきであって、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
そうであってみれば、補正後の請求項3及び請求項4は、上述のとおり、2つの独立請求項に係る発明を引用するものであり、本来ならば項を分けて増項すべきものであるか、または択一的要素を付加したものであるといえるから、補正前の請求項2及び請求項3との一対一又はこれに準ずるような対応関係になく、同号にいう「特許請求の範囲の減縮」には該当しないというべきである。また、当該補正は、「誤記の訂正」にも「明瞭でない記載の釈明」にも該当しない。

(4)そうすると、請求項3及び4に関する上記補正は、特許法第17条の2第4項に掲げるいずれの事項をも目的とするものとは認められない。

2.本件補正は上述のとおり特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるが、更に、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮に該当するものであるとした場合であっても、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、以下に述べるとおり、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであって、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものである。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上述のとおりの「ポリマーと結合した純粋でエンドトキシンを含まないメチオニナーゼ(methioninase)からなる、酵素的に活性な改変されたメチオニナーゼであって、安定で、イン・ビボでのメチオニン枯渇に効果的であり、そして実質的に非免疫原性である該改変メチオニダーゼ。」である。

(2)本件優先日前に頒布された刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、「Anticancer Research, Vol.13, p.1465-1468, 1993」(以下、「引用例1」という。)には、「マウスにおける、メチオニナーゼによる血清メチオニンの枯渇」と題して以下の事項が記載されている。
(2-1)「メチオニン依存性は、ヒト癌細胞セルラインならびに新鮮なヒト腫瘍検体において見出される腫瘍特異的な代謝異常であり、増殖要求のためにメチオニンをホモシステインで置き換えることができる正常細胞と異なり、メチオニン依存性腫瘍は、メチオニンが奪われると増殖を停止する。我々は、これまでに、安定で、エンドトキシンを含まないメチオニナーゼをシュードモナスプチダから精製した。我々はこのレポートにおいて、純粋なメチオニナーゼが、正常マウス及びヌードマウスにおける血清メチオニンレベルを、1時間以内に、60μMから、約5μMに低減させることができることを示す。またその半減期は注射後約100分であることから、メチオニン依存性腫瘍に対する抗腫瘍剤の良い候補であるように思われる。」(第1465頁アブストラクト)

また、原査定の拒絶の理由に引用された、「Leukemia Research, Vol.15, No.6, p.525-530, 1991」(以下、「引用例2」という。)には、「造血器腫瘍の二人の患者における、モノメトキシポリエチレングリコールにコンジュゲートしたL-アスパラギナーゼ(PEG2-ASP)の高い効果について」と題して以下の事項が記載されている。
(2-2)「造血器腫瘍の患者二人に対して、モノメトキシポリエチレングリコールをコンジュゲートした、エシェリヒア・コリ由来のL-アスパラギナーゼ(PEG2-ASP)での治療に成功した。PEG2-ASPは、抗原性と免疫原性を欠如し、触媒活性を保持するものであって、動物実験モデルにおいてクリアランスが遅いものである。・・・再発時に、PEG2-ASPの100?200IU/dayの静脈内注入のみで、過敏症反応や、他の重篤な副反応なしに、2ヶ月後には完全に寛解した。驚くべきことに彼は週1回のPEG2-ASPの注入によって一年以上も完全に寛解した状態であった。・・・それゆえ、PEG2-ASPはL-ASPを治療に用いる際の制限を克服する、非常に有効な抗腫瘍剤である。」(第525頁アブストラクト)
(2-3)「L-ASPは腹腔内注射後、速やかに血中から消失するため、アスパラギン依存性白血病の寛解のためには、毎日ないしは頻繁に投与する必要がある。L-ASPの急性リンパ性白血病の治療における臨床上最適な用量は、6000から12000IU/m2で、毎日ないしは週に3回の投与とされている。たった週1回、100IUの用量のPEG2-ASPの投与で、一週間血中のアスパラギンを除去するために十分であるという今回の発見から判断すると、PEG2-ASPの酵素活性は、L-ASPの酵素活性に比し、数百倍強いといえる。」(第529頁左欄下2行?右欄第10行)
(2-4)「L-ASPを繰り返し投与することは、非常にしばしば免疫学的な副作用をもたらし、L-ASPをさらに治療的に投与することを妨げるものであった。V.L.Landらは、L-ASPにさらされた患者の73%もが、エシェリヒア・コリ由来のL-アスパラギナーゼに対して過敏症反応を示し、これらの患者の約24%もまたエルウィニア由来のアスパラギナーゼに対して過敏症反応を示した。・・・これに対して、PEG2-ASPは、抗原性及び免疫原性を失っているが、酵素活性を保持しているので、過敏症反応や他の重篤な副反応なしに、大半の患者に対して、繰り返し投与することができた。」(第529頁右欄下10行?第530頁左欄第5行)

また、原査定の拒絶の理由に引用された、「J.Biochem., Vol.117, p.1120-1125, 1995」(以下、「引用例3」という。)には、「シュードモナスプチダ由来のL-メチオニンγ-リアーゼ遺伝子の構造解析」と題して、以下の事項が記載されている。
(2-5)「シュードモナスプチダ由来のL-メチオニンγ-リアーゼをコードする遺伝子がクローニングされ、この酵素の一次構造もヌクレオチド配列から推定された。」(第1120頁アブストラクト第1?2行)
(2-6)Fig.2.,「L-メチオニンγ-リアーゼ遺伝子の核酸配列と推定アミノ酸配列」(第1122頁Fig.2.)
(2-7)「これらの観察は、反応性の116位のシステイン及び他のシステイン残基が、酵素反応メカニズムに直接的には関与しないことを示唆するものである。我々は、116位のシステインが、L-メチオニナーゼγリアーゼの触媒ポケットを形成する1つの残基であると信じる。」(第1124頁右欄第15?20行)

さらに、原査定において参考文献として提示された、「Am. J. Hosp. Pharm. Vol.51, 1994」(以下、「参考文献1」という。)には、「ペプチド及び蛋白質の送達のためのポリマー」と題して以下の事項が記載されている。
(2-8)「蛋白質をPEGにカップリングさせることによる理論上の利点は、半減期が長くなること(このことは、臨床上最も大きな利点であろう)、免疫原性が減少すること、抗原性が減少すること、蛋白質分解に対して抵抗性が増すこと、及び、溶解性が向上することである。PEGストランドは、立体障害を引き起こすことにより蛋白質を保護するようである。この立体障害は、治療用蛋白質を異物としてさせないよう、免疫システムを混乱させる。PEGはまた、蛋白質を分解するような、細胞関連レセプター、及び酵素をブロックする。その結果、蛋白質の半減期が長くなる。PEGが、蛋白質に加える増加の重みもまた、糸球体濾過におけるクリアランスを減じることによって、半減期を長くする。PEGのストランドは、蛋白質の周りに殻を形成し、蛋白質分解による不活性化から保護し、溶解性を向上させる。PEGにカップリングさせた蛋白質は、生物学的活性が、ネイティブのものに比較して低いが、この効果は、長い半減期によって相殺される。
PEGは、様々な分子量を有するものである。1000?6000の分子量のものは糸球体濾過により容易に排泄される。1900と5000の二種のPEGがしばしば用いられる。治療用蛋白質は、PEGエレメントにカップリングすることにより修飾され得る様々な場所を有する。最終生成物の特徴は、修飾された場所の数に依存するが、最終生成物を特徴づける最も重要なファクターは、もとの蛋白質分子が有する特徴である。」(第211頁左欄下3行?右欄第26行)
(2-9)「化学的なプロセスは、蛋白質のリジン残基のアミノ基に共有結合的に結合することのできる、反応性基を有する活性化されたPEG分子を形成する」(第211頁右欄下6?3行)
(2-10)「40以上の蛋白質が、PEGにカップリングされた。5種のPEG-蛋白質が現在臨床研究中である。これらのものに用いられる蛋白質は、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、L-アスパラギナーゼ、スーパーオキシドデスムターゼ、及びウリカーゼである。臨床研究中である生成物がTable 1に列挙されている。」(第212頁左欄第5?10行,及びTable 1)
(2-11)「PEG-アデノシンデアミナーゼ、すなわちpegademase bovine(Adagen)はFDAにより認可されている唯一のPEG-蛋白質複合体である。」(第212頁左欄第11?13行)
(2-12)「研究者は、PEGによる修飾が、抗原性に加えて免疫原性を減じることを結論づけた。」(第213頁左欄第30?32行)
(2-13)「pegademase bovineは・・・半減期は、3日から6日以上で、同一の子供についても変動した。」(第214頁第40?47行)
(2-14)「アスパラギナーゼは、短い半減期を有し、高い頻度でアレルギー反応を発生する。・・・もとのアスパラギナーゼのヒトにおける半減期は、20時間であるのに対し、PEGアスパラギナーゼのそれは357時間である。・・・患者におけるPEGアスパラギナーゼのフェーズIIの試験において、1,14,及び28日後において免疫反応は生じなかった。」(第214頁第15行?下9行)
(2-15)「もとのスーパーオキシドデスムターゼの半減期は、10?40分である。PEGとの結合は、半減期を顕著に延長した(Table 3.参照)。・・36名の健常者に対して、薬物の濃度を上げる実験を行ったが、副作用はなかった。」,Table3.(第215頁左欄第51?56行,Table 3.)
(2-16)「もとのカタラーゼの半減期はたった2時間であったが、PEGを付加することにより、50時間に延長された。」(第215頁右欄第26?29行)

(3)対比
上記摘記事項(2-1)に示されるとおり、引用例1には、「これまでに、安定で、エンドトキシンを含まないメチオニナーゼをシュードモナスプチダから精製した」こと、及び「純粋なメチオニナーゼが、正常マウス及びヌードマウスにおける血清メチオニンレベルを、1時間以内に、60μMから、約5μMに低減させることができること」が記載されており、「血清メチオニンレベルを、1時間以内に、60μMから5μMに低減させることができること」は、本願補正発明における「酵素的に活性で、イン・ビボでのメチオニン枯渇に効果的であ」ることを意味することは当業者の技術常識から明らかであるから、引用例には、「純粋でエンドトキシンを含まない、酵素的に活性で、イン・ビボでのメチオニン枯渇に効果的であるメチオニナーゼ(methioninase)。」が記載されているといえる(以下、「引用発明」という。)。
本願補正発明と、引用発明とを対比すると、両者は、「純粋でエンドトキシンを含まない、酵素的に活性で、イン・ビボでのメチオニン枯渇に効果的であるメチオニナーゼ(methioninase)。」である点で一致し、本願補正発明においては、ポリマーと結合した改変されたメチオニナーゼであって、安定で、実質的に非免疫原性であるのに対し、引用発明においてはポリマーと結合しておらず、安定で、実質的に非免疫原性なものとはいえない点で相違する(以下、相違点という。)。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用例2には、腫瘍患者の治療において、L-ASPを用いるに際して、摘記事項(2-4)に示されるとおり、免疫学的な副作用を防止し、繰り返しの投与を可能にするという、本願補正発明と共通する目的で、摘記事項(2-2)に示されるように、L-ASPをモノメトキシポリエチレングリコールに結合させることにより、酵素活性を保持したまま、抗原性と免疫原性を失わせることが記載されている。引用例2には、さらに、摘記事項(2-3)に示されるように、週1回のPEG2-ASPの投与により、一週間血中のアスパラギンを消失させることができることが記載されており、ASPがPEGと結合することにより、安定であることが示されている。
そして、医薬の免疫原性の低減及び安定化は、本願優先日前医薬の分野において周知の技術的課題であるから、引用発明において、メチオニナーゼについて、抗原性及び免疫原性を消失させ、体内で安定なものとするため、PEGと結合させることは、引用例2の記載に基いて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、その効果も当業者の予測を超えるものとは認められない。
審判請求人は審判請求書において、以下の点を主張している。
(i)タンパク質の構造は、タンパク質毎に異なるものであり、特に酵素についてはその立体構造により酵素活性が決まるものであるから、酵素にPEGを反応させた場合に、特に、酵素の三次元構造がゆがめられ、活性化部位が破壊されるかもしれないことが予想され、ポリマーにカップリングさせることにより酵素を改変させた形で酵素活性が維持できるか否かは完全に予測不可能であること、特に、使用される官能基は、代表的にはポリマーへの結合に関係するものであるから、タンパク質の三次元の立体配座をゆがめ、かかる配座によって形成される活性部位を破壊する可能性が高いことを主張している。
しかしながら、拒絶査定において参考文献として挙げられらた上記参考文献1の摘記事項(2-8)にも示されるように、あるタンパク質の免疫原性を低下させ、より安定に活性を維持させることを目的として、ポリエチレングリコールと結合させることは、本願出願前よく知られており、摘記事項(2-10)に示されるように、40以上もの蛋白質に対して行われている。そして、酵素についても4種の酵素について、臨床研究がなされていることが記載されるように、これらの酵素においては程度の差こそあれ活性が保持されているものである。
してみれば、引用例1におけるメチオニナーゼについても、酵素活性が維持されることを期待して、ポリエチレングリコールと結合させることに特段の阻害要因は存在しないといえる。
(ii)審判請求人は、さらに、本願発明のメチオニナーゼの三次元構造の立体配座や活性部位とPEGとがどのように結合するかを知ることなしに、本願発明の成功は保証されていない。すなわち、本願発明の成功の予測は全く立たない旨主張する。
しかしながら、引用例3の摘記事項(2-5)に示されるように、シュードモナスプチダ由来のL-メチオニナーゼγ-リアーゼ、すなわち、本願で具体的に用いられているメチオニナーゼと同じメチオニナーゼのアミノ酸配列は推定されており、さらには(2-7)に示されるように、メチオニナーゼの触媒ポケット、すなわち、活性部位についても、116位のシステインが関与するのではないかという示唆もされていること、また、参考文献1の摘記事項(2-9)に示されるように、ポリエチレングリコールが、蛋白質と結合する際に、リジン残基と結合することが本願優先権主張日前知られていたことから、メチオニナーゼの活性部位やPEGとの結合様式が全く知られていなかったとはいえず、むしろ、PEGの結合が活性部位に及ぼす影響について予測する手がかりはあったといえる。さらに、引用例3の摘記事項(2-5)のメチオニナーゼの一次配列を見ても、活性部位に関与する116位のシステインの近傍には、リジン残基が存在しないことから、PEGを結合しても活性部位が破壊される可能性が高いとは言い難く、PEG化によっても活性を保持している他の酵素と同様に、活性が保持される可能性があると予測することが自然である。
(iii)さらに、審判請求人は、平成15年10月1日付け上申書において、メチオニナーゼ:PEG=1:60の場合について、血漿半減期についてのデータを提出し、PEG化されていないメチオニナーゼの半減期が2.5時間であったものが、150時間まで延長され、これは全く予期しない結果であった旨主張している。
しかしながら、上記効果は、メチオニナーゼとPEGの比率を特定のものとする等の特定の場合における効果であり、本願補正発明が一般に奏する効果とはいえない上、引用例2の上記摘記事項(2-3)、及び、参考文献1の(2-11)乃至(2-16)に示されるように、他の酵素においても、PEG化することによって一様に半減期が延長されていることから、上記のメチオニナーゼに特定割合のPEG化を行った場合の効果も当業者の予測を超えるものであったとは言えない。
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項に違反し、あるいは、同第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
(1)本願発明
平成15年6月25日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明」)という。)は、平成15年1月14日付手続補正書により補正された本願明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものであると認められる。
「ポリマーと結合したメチオニナーゼ(methioninase)からなる、酵素的に活性な改変されたメチオニナーゼ。」

(2)本件優先日前に頒布された刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「第2の2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記「第2の2.」で検討した本願補正発明から、「メチオニナーゼ」の限定事項である、「純粋でエンドトキシンを含まない」ものであり、かつ、「安定で、イン・ビボでのメチオニン枯渇に効果的であり、そして実質的に非免疫原性である」点が除かれた、その上位概念にあたるものである。
そうすると、本願発明は本願補正発明をその態様として包含するものであるところ、本願補正発明は、前記「第2の2.(4)」に記載したとおり、引用例1?3に記載の発明及び参考文献1に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明を包含する本願発明も、これと同様の理由により、引用例1?3に記載の発明及び参考文献1に示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-19 
結審通知日 2007-01-23 
審決日 2007-03-06 
出願番号 特願平9-502096
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 572- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯室 里美光本 美奈子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 八原 由美子
鵜飼 健
発明の名称 抗メチオニンおよび抗ホモシステイン化学療法におけるメチオニナーゼの使用  
代理人 大屋 憲一  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  

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