• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1162034
審判番号 不服2005-17653  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-15 
確定日 2007-08-10 
事件の表示 特願2001- 34704「建築物の湿式外断熱壁施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月23日出願公開、特開2002-235386〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年2月9日の出願であって、平成17年8月4日付けで拒絶査定がなされたものであり、その請求項1?6に係る発明は、平成17年6月16日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その内の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「建築物の下地に自己消火性を有するフェノール系断熱材を配設した外側に、防水紙及び鉄網、若しくは防水紙付き鉄網を取付け、軽量セメントモルタルを塗着し、その表面又は内部に網材を押圧して埋設した後、仕上げ施工することを特徴とする建築物の湿式外断熱壁施工方法。」

2 引用文献
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭62-225653公報(以下、「引用文献1」という。)には、「建築用断熱構造」に関して、第1?2図とともに以下の記載がある。
(イ)「2.特許請求の範囲
(1)主柱および間柱または胴縁等の躯体上に石膏ボードと合成樹脂発泡体からなる広幅で大型の複合板を、石膏ボード面、あるいは合成樹脂発泡体の面を直接躯体に接触させて固着具で固定し、該複合板の外表面にモルタル壁を形成したことを特徴とする建築用断熱構造。」(第1ページ左下欄第4?10行)

(ロ)「3.発明の詳細な説明
本発明は建築物、構築物の外壁の断熱構造に関するものである。
建築物、例えば木造建築物において、居住性、省エネルギーの関係から建築物に外壁の断熱構造を施すことが主張されている。これは灯油が現在使用量の1/2、クーラー等の電気使用量が約1/3低減でき、また結露等により生起される種々の問題の除去もしくは居住性が大幅に改善される等の経済的、精神的利点があるためである。」(第1ページ左下欄第11?20行)

(ハ)「本発明はこのような欠点を除去するため防火性、耐火性、遮音性を有する石膏ボードと、高断熱性、防水性、低透湿性を有する合成樹脂発泡体とを一体に形成した複合板と、モルタル壁を組み合わせることにより、断熱性の大幅向上と施工性の高能率化と複合板による機械強度の強化と、防火性、遮音性を具備せしめた建築用断熱構造を提供する。
以下に図面を用いて本発明に係る建築用断熱構造の一実施例について詳細に説明する。第1図(a)、(b)は上記建築用断熱構造の横断面を示す説明図であり、1は主柱、2は間柱、3は内装下地板、4は複合板である。……」(第1ページ右下欄第19行?第2ページ左上欄第10行)

(ニ)「……合成樹脂発泡体5としては、……、フェノールフォーム、……を用いる。なお、防水シート7としてはアスファルトフェルト、ターフェルト、合成樹脂フィルム、ゴムシートおよびポリエチレンシート、クラフト紙に金属箔をラミネート等したシート状物である。8はモルタル壁で複合板4の外表面にラス材Rを配設し、セメントモルタル壁材を塗布したものである。なお、(a)図は複合板4の合成樹脂発泡体5を主柱1および間柱2に直接的に接触せしめた状態で釘Kを関して複合板4を主柱等に固着し、これの複合板4の石膏ボード6面にラス材Rを配設し、これにセメントモルタル壁材を塗布してモルタル壁8を形成した構造である。さらに(b)図は複合板4の石膏ボード6を主柱1、間柱2に直接接触させて釘着し、合成樹脂発泡体5面にラス材Rを張設し、その上にセメントモルタル壁材を塗布し、モルタル壁8を形成した構造である。なお、(a)、(b)図に示す構造の場合、複合板4として防水シート7を有するもの、あるいは図示しないが複合板4の外側面に防水シートを配設することが好ましいものである。」(第2ページ右上欄第2行?左下欄第9行)

(ホ)「上述したように本発明に係る建築用断熱構造は、……。さらに合成樹脂発泡体の断熱性、弾力性、低吸水性および低吸湿性をそのまま有した壁体となると共に、モルタル壁に亀裂、剥落が発生せず、しかも構成材の腐食が皆無となり、その上、すぐれた断熱性と結露防止機能を発揮する特徴がある。」(第3ページ左上欄第6?14行)

(ヘ)「4.図面の簡単な説明
第1図(a)、(b)は本発明に係る建築用断熱構造の一実施例を示す横断面図、……である。」(第3ページ左上欄第18行?右上欄第1行)

(ト)引用文献1の第1図(b)の「本発明に係る建築用断熱構造の一実施例を示す横断面図」(前記(ハ)(ヘ)より)を参照すると、合成樹脂発泡体5の外側面に防水シート7及びラス材Rが配設されている態様が示されている。

これら記載事項及び図面を参照すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
(引用発明1)
「主柱1および間柱2または胴縁等の躯体上に石膏ボード6とフェノールフォーム等の高断熱性を有する合成樹脂発泡体5からなる広幅で大型の複合板4を、石膏ボード6面を直接躯体に接触させて固着具で固定し、合成樹脂発泡体5面に防水シート7及びラス材Rを張設し、その上にセメントモルタル壁材を塗布し、モルタル壁8を形成した建築物の外壁の断熱構造の施工方法。」

また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-102720号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「建築物の外壁の施工方法」に関して、図1?図6とともに以下の記載がある。

(チ)「【請求項1】建築物の下地に防水シートを敷設してメタルラスを取り付け、軽量セメントモルタルを塗着し、その表面に網材を押圧して埋設した後、仕上げ施工することを特徴とする建築物の外壁の施工方法。」

3 対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ラス材R」は本願発明の「鉄網」に、引用発明1の「建築物の外壁の断熱構造の施工方法」は、「セメントモルタル壁材を塗布」する工程を含むことから、本願発明の「建築物の湿式断熱壁施工方法」に相当することは明らかである。
本願発明における「建築物の下地」について、本願明細書の記載を参酌すると、その段落【0022】には、「図1に示す軸組下地材の構造に、厚さ25mmのフェノール系断熱材を張り」と記載され、また、図面の図1には、フェノール系断熱材5が柱4及び間柱3に直接取り付けられている態様が示されていることから、引用発明1の「主柱1および間柱2または胴縁等の躯体」は、本願発明の「建築物の下地」に相当するということができる。
同様に、本願発明の「自己消火性を有するフェノール系断熱材」につき、本願明細書及び図面を参酌すると、その段落【0024】には、「フェノール系断熱材は、自己消火性を有しているので炎が直接接触するような場合においてもそれを消火することができる。」という記載がある。この記載によれば、「フェノール系断熱材」であれば「自己消火性を有している」ということができ、同じくフェノール系の素材によって成形されている引用発明1の「フェノールフォーム」を用いた高断熱性を有する合成樹脂発泡体についても、「自己消火性を有する」といえるから、本願発明の「自己消火性を有するフェノール系断熱材」に相当する。
また同様に、本願発明の「防水紙」につき、本願明細書及び図面を参酌すると、その段落【0012】には、「本発明に用いる防水紙、鉄網、防水紙付き鉄網としては、特にその形状構成や素材構成等について限定するものではない」という記載があるものの、本願明細書及び図面の全体を参照しても、「防水紙」の具体的な素材については明らかでない。
そこで、建築分野の用語辞典を参照すると、「建築大辞典 第2版〈普及版〉」(株式会社彰国社、1993年6月10日)の第1529ページには、「防水紙」について、「屋根,壁,床などの防水に用いる紙.アスファルトフェルト,アスファルト ルーフィング,ターポリン紙,タールフェルトなどがある.」と解説されている。他方、引用文献1には、「防水シート7」について、「防水シート7としてはアスファルトフェルト、ターフェルト、合成樹脂フィルム、ゴムシートおよびポリエチレンシート、クラフト紙に金属箔をラミネート等したシート状物である。」と記載されている(前記(ニ)参照)。そうすると、引用発明1の「防水シート7」は、本願発明の「防水紙」に相当するということができる。

以上のことから、本願発明と引用発明1とは、
「建築物の下地に自己消火性を有するフェノール系断熱材を配設した外側に、防水紙及び鉄網を取付け、セメントモルタルを塗着する建築物の湿式断熱壁施工方法。」で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明では、軽量セメントモルタルを塗着し、その表面又は内部に網材を押圧して埋設した後、仕上げ施工するものであるのに対して、引用発明1では、そのセメントモルタルが軽量セメントモルタルであるとは特定されておらず、当該セメントモルタルに網材を埋設する工程や仕上げ施工をする工程がない点。

[相違点2]
建築物の湿式断熱壁施工方法に関して、本願発明は、外断熱壁の施工方法であるのに対して、引用発明1は、このような外断熱壁の施工方法であるといえるかが明らかでない点。

4 判断
前記相違点1及び2について以下検討する。
[相違点1について]
引用文献2には、「建築物の下地に防水シートを敷設してメタルラスを取り付け、軽量セメントモルタルを塗着し、その表面に網材を押圧して埋設した後、仕上げ施工する建築物の外壁の施工方法。」が記載されている(前記(チ)参照)。してみると、このような外壁の施工方法を、これと同様の外壁の施工方法であるところの引用発明1に適用することにより、本願の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到しうるものである。

[相違点2について]
引用発明1の断熱壁は、主柱及び間柱等の躯体の室外側に、フェノール系断熱材が配設されるものであるといえる。
ところで、「外断熱」について、「建築大辞典 第2版〈普及版〉」(株式会社彰国社、1993年6月10日)を参照すると、第951ページに「断熱層を構造体の室外側に施工すること.」と、第130ページに「内断熱」について、「断熱層を構造体の室内側に施工すること.」とそれぞれ解説されている。そうすると、引用発明1の断熱壁は、外断熱壁であるといえるのであるから、本願発明と引用発明1とは、相違点2に係る構成において、実質的な構成上の差異があるものとは認めることができない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明1及び引用文献2に記載の事項から当業者が予測できる範囲のものであって、格別なものということができない。

なお、審判請求の理由に記載されている請求人の主張についても付言すると、以下のとおりである。
審判請求の理由の欄には、「本願の請求項1に係る発明(以下、本発明1という)と上記引用文献1とを比較しますと、本発明1が外断熱であるのに対し、引用文献1は内断熱であり、両発明は明らかに異なります。」、「外断熱と内断熱との違いを説明しますと、外断熱は、躯体であるコンクリートの外側に断熱材を配し、コンクリート躯体の全ての外側を断熱材ですっぽりと包む(覆う)構造であり、躯体を外部(外気)から保護する構造です。即ち外断熱とは、建築物の一部の壁体ばかりでなく、全ての壁体(窓部や玄関等は除きます)において躯体の外側に断熱材を配する構造です。」との記載がある。
これらの記載からみて、請求人は、本願発明の「外断熱」とは、「躯体であるコンクリートの外側に断熱材を配し、コンクリート躯体の全ての外側を断熱材ですっぽりと包む(覆う)構造であり、躯体を外部(外気)から保護する構造」、すなわち、「建築物の一部の壁体ばかりでなく、全ての壁体(窓部や玄関等は除く)において躯体の外側に断熱材を配する構造」である旨主張していると解される。
しかしながら、本願の請求項1には、建築物の躯体がコンクリート造であるとは限定されていないし、また、同請求項1には、外断熱について、「建築物の湿式外断熱壁施工方法」と記載されていることからして、「外断熱」が適用されるのは「壁」であり、「躯体の全ての外側」に対して「外断熱」が適用されるものとまでは解することができない。よって、本願発明が「コンクリート躯体の全ての外側を断熱材ですっぽりと包む(覆う)構造」である旨の請求人の主張は、本願請求項1の記載に基づくものとはいえないから、採用できないものと言わざるを得ない。
また、本願発明が「建築物の一部の壁体ばかりでなく、全ての壁体(窓部や玄関等は除く)において躯体の外側に断熱材を配する構造」である旨の主張については、同上請求項1の記載では、本願発明が専ら全ての壁に適用されるものであるかどうかが明らかではないし、仮に請求人が主張するように建築物の全ての壁に適用されるものであるとしても、引用発明1は、建築物の外壁の断熱に関する発明であるから、引用発明1において、断熱材を全ての壁体において躯体の外側に配することも、建築物の断熱性を高めるために当業者が当然に採用しうる事項であるということができる。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用文献2に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-28 
結審通知日 2007-06-05 
審決日 2007-06-20 
出願番号 特願2001-34704(P2001-34704)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 家田 政明  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 砂川 充
宮川 哲伸
発明の名称 建築物の湿式外断熱壁施工方法  
代理人 福田 武通  
代理人 福田 伸一  
代理人 福田 賢三  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ