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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1162066
審判番号 不服2004-23497  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-17 
確定日 2007-08-08 
事件の表示 特願2001- 37020「レンチヌラ・エドデスの栽培方法およびシイタケ子実体」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月27日出願公開、特開2002-238350〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年2月14日の出願であって、平成16年9月24日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年11月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.平成16年11月17日付手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の結論]
平成16年11月17日付手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本補正は、特許請求の範囲を、
「【請求項1】
レンチヌラ・エドデス(Lentinula edodes)を原基形成後、温度25?34℃の条件下に培養して、エリタデニン含量の多い子実体を形成させること
を特徴とするレンチヌラ・エドデス(Lentinula edodes)の栽培方法。
【請求項2】
菌傘部にエリタデニンを390mg/100gDW以上含有すること
を特徴とするシイタケ子実体。」
から、
「【請求項1】
レンチヌラ・エドデス(Lentinula edodes)を原基形成後、温度25?34℃の条件下に培養して、エリタデニン含量が390mg/100gDW以上の子実体を形成させること
を特徴とするレンチヌラ・エドデス(Lentinula edodes)の栽培方法。
【請求項2】
前記温度条件が28?34℃であること
を特徴とする請求項1記載のレンチヌラ・エドデス(Lentinula edodes)の栽培方法。
【請求項3】
菌傘部にエリタデニンを390mg/100gDW以上含有すること
を特徴とするシイタケ子実体。」
と補正しようとするものである。
(2)補正の適否の判断
上記補正は、特許請求の範囲に記載された発明の数を、補正前の請求項1及び2に記載された2つの発明から、「【請求項2】 前記温度条件が28?34℃であることを特徴とする請求項1記載のレンチヌラ・エドデス(Lentinula edodes)の栽培方法。」という請求項2に係る発明を新たに追加して、請求項1?3に記載された3つの発明としようとするものであり、この補正は、特許法第17条の2第3項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである(平成17年(行ケ)第10192号 知財高裁 平成17年4月25日判決言い渡し 判決参照)。

3.本願発明について
平成16年11月17日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は平成16年8月31日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項2に係る発明(以下、請求項2に係る発明を「本願発明」という)は、以下のとおりのものである。
「菌傘部にエリタデニンを390mg/100gDW以上含有すること
を特徴とするシイタケ子実体。」

4.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された本願出願前に頒布されている、豊増哲朗,食品産業センター技術研究報告.No.26, pp.41-45 (2000) (以下、「引用例1」という。)には、「シイタケの機能性成分の品種間差異および紫外線照射によるビタミンD2含量の強化」に関して、以下の記載がある。
(イ)「1.緒言
・・・そのため需要拡大の一環として消費者ニーズに対応した品種開発として機能性成分の強化が求められている。シイタケの機能性成分としてはコレステロール低下作用を示すエリタデニン1),抗腫瘍活性を示す多糖体β-グルカン2),微量栄養素としてのビタミンD2が多く含まれていることはよく知られている。・・・しかし,これらの成分の含量に関する報告は少なく,機能性成分の強化を目指した成分育種に関しては皆無である。そのため,本事業はシイタケの機能性成分の含量を強化するための基礎的知見を得るため,エリタデニンとβ-グルカン含量の品種間差異について調べた結果を報告する。・・・」(41頁左欄1?18行)
(ロ)「2.実験方法
2.1 供試試料
(財)日本きのこ研究所で保管しているシイタケ菌株のなかから栽培品種および野生種合計33菌株を選び原木と菌床培地を用いて栽培した。栽培試験は(財)日本きのこ研究所・・・で行った。菌床培地(培地重量約1kg)はブナの木粉に栄養源としてコーンブランを25%(w/w)の割合で混合し,水分65%に調整して滅菌した培地にシイタケ菌を接種し、22-23℃で90日間培養した。その後,温度17℃,相対湿度90%の発生室に移動してシイタケ事実体を発生させた。原木栽培は平成6年春に種駒を接種したほだ木を用いて平成7年7月と11月の2回に分けて浸水発生させた。発生したシイタケ子実体は菌柄を除き,菌傘部凍結乾燥して粉末にした。粉末は分析に用いるまで-20℃で保存した。」(41頁左欄21行?右欄3行)
(ハ)「2.4子実体成分の定量
(1)エリタデニン
シイタケ子実体を1品種・系統につき5個選び,その凍結乾燥粉末を混合しエリタデニンの定量に用いた。粉末200mgを精秤し,150倍量の冷5%過塩素酸で抽出し,遠心後の上清液をKOHでpH2.0に調整し,再び遠心してその上清液を活性炭カラムに吸着させた。1.4%アンモニア含有50%エチルアルコールで溶出させ真空下で濃縮乾固した。5mM臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム,20mMリン酸カリウム含有2%アセトニトリルに溶解し,Inertsil ODS-2カラムを装着したHPLC(日立655型)により測定した。流速1.0ml/分,検出波長は260nmであった。定量は1品種・系統につき2点行った。」(41頁右欄24行?42頁左欄3行)
(ニ)「3.実験結果
3.1シイタケのエリタデニン含量およびβ-グルカン含量
シイタケ33品種・系統(国内栽培種24,外国栽培種4,野生種5)を原木と菌床で栽培し,収穫した子実体のエリタデニンおよびβ-グルカン含量を測定した。HPLCによるエリタデニン抽出画分のクロマトグラフを図1に示し,表1にエリタデニンとβ-グルカン含量の平均値,範囲,変動係数および分散比を示した。供試したシイタケのエリタデニン含量は100g(乾燥重量)あたり7mgから310mg/100gの範囲にあり,同1条件下で栽培した菌床シイタケでは7-192mgまで変異し,品種間差異は明らかであった。今回供試したシイタケの野生種のなかにエリタデニン含量が極めて少ない系統(7mg/100g乾燥重量)が見出された。・・・菌床シイタケは一定温度(17℃)の空調下で栽培されたが,原木シイタケは自然環境下で栽培して収穫されたものである。そこで,高温時期(7月)と低温時期(11月)に発生した原木シイタケでの含量を比較した結果,エリタデニンは7月の高温時期方が,β-グルカンはその反対に11月の低温時期の方が高い含量を示し,その差異は1%水準で有意であった。しかし,同一品種でも栽培方法(原木栽培と菌床栽培)による含量の差異はエリタデニンとβ-グルカンのいずれの場合も明らかでなかった。
品種改良で高含量系統を早期に選抜するには,子実体と培養菌糸での含量を明らかにする必要がある。そのため,液体培養して得られた菌糸体のβ-グルカン含量と子実体のそれとの相関を調べたが,相関関係は認められなかった。エリタデニンについては培養菌糸では検出できなかった。」(42頁左欄30行?43頁左欄18行)
(ホ)「4.考察
シイタケのエリタデニンやβ-グルカンは,それぞれコレステロール低下作用1),抗腫瘍活性2)をもつ機能性成分として知られている。しかし,エリタデニンについては乾シイタケの銘柄間6)で,β-グルカンについては食物繊維の構成成分としてキノコの種間で比較した報告7)はあるが,シイタケの品種・系統間で含量を調べた報告はない。機能性成分の強化を目指した品種改良にはこれらの含量の品種間差異に関する基礎的知見が必要である。そのため,シイタケを原木および菌床培地で栽培して含量を調査した。その結果,エリタデニンとβ-グルカン含量は同1条件下で栽培されたシイタケの品種間で差異があることが明らかになった。シイタケ野生種のなかにエリタデニン含量の極めて低い系統(7mg/100g乾燥重量)が見いだされたことは,含量のような量的形質の遺伝的解析を今後進める上で貴重な遺伝情報が得られた。青柳ら6)は乾シイタケの種々の銘柄間でエリタデニンの含量を比較した結果,50.7-92.7mg%で銘柄による差異はなかったとしている。原木栽培した生シイタケのエリタデニン含量はその値より高かったが,それはエリタデニン含量の低い菌柄を除いた菌傘部の含量を測定したことによると考えられる。また,乾シイタケ銘柄での差異が明確でなかったのは,同一銘柄でも種々の品種や異なった環境下で生育したシイタケが混合されており,その結果,含量が大きく変動したものと推測された。
シイタケは周年栽培されており,原木シイタケでは同一品種でも発生時期(7月と11月)による含量の変動がみられ,今後は温度など環境因子や生育段階が含量に及ぼす影響を調べる必要がある。また,エリタデニンについては培養菌糸の段階では検出できなかった。このことから早期に高含量品種を選抜する簡便な選抜法の確立が今後の課題として残された。」(43頁右欄11行?44頁左欄22行)
(ヘ)「5.要約
シイタケの33品種・系統を原木と金床で栽培し,収穫した子実体(菌傘)のエリタデニンおよびβ-グルカン含量を調査した。その結果,エリタデニン含量は原木シイタケで60-310mg/100g乾燥重量で・・・いずれの場合も品種間差異は0.1%水準で有意であった。エリタデニンとβ-グルカン含量の原木と菌床の栽培方法による違いは明らかでなかったが,子実体発生時の温度によって影響を受けエリタデニンは高温で,β-グルカンは低温の方が多くなる傾向がみられた。」(44頁右欄17行?45頁左欄5行)
これら(イ)?(ヘ)の記載を参照すると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「菌傘部にエリタデニンを310mg/100g乾燥重量含有するシイタケ子実体。」(以下、「引用発明」という。)

5.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「菌傘部にエリタデニンを含有するシイタケ子実体。」である点で一致し、次の点で相違している。
[相違点]
菌傘部のエリタデニンの含有量が、本願発明では、390mg/100gDW以上であるのに対して、引用発明では、310mg/100g乾燥重量である点。

6.判断
[相違点について]
引用例1には、エリタデニンがコレステロール低下作用を示すこと、このような機能性成分強化を強化を目指した品種改良が示唆されている(上記3.(イ)、(ニ)参照)。
そして、引用例1には、菌傘部のエリタデニンの含有量が310mg/100g乾燥重量であるものが存在することが明記され、更に、エリタデニン含量について、「高温時期(7月)と低温時期(11月)に発生した原木シイタケでの含量を比較した結果,エリタデニンは7月の高温時期方が高い含量を示す」こと(上記3.(ニ)参照)、および「子実体発生時の温度によって影響を受けエリタデニンは高温で多くなる傾向がみられた」こと(上記3.(ヘ)参照)が明記されている。
そうすると、引用発明において、シイタケの機能性成分の1つであるエリタデニンの含量を効率的により強化しようとした場合、シイタケ33品種・系統の中で、エリタデニン含量が最も多い値である菌傘部のエリタデニンの含有量が310mg/100g乾燥重量の品種・系統のものを選択するとともに、
引用例1に開示されている「子実体発生時の温度によって影響を受けエリタデニンは高温で多くなる傾向がみられた」(上記3.(ヘ)参照)といった事項に従って、
菌傘部のエリタデニンの含有量が310mg/100g乾燥重量の品種・系統のものを、子実体発生時の温度を高温にした環境下、例えば7月の気温に相当する25℃以上の温度で栽培する、あるいは、このような環境下で栽培したものの中から、よりエリタデニンの含有量の高い個体・系統を選抜することを累代にわたって繰り返すなど、品種改良の際に用いられる一般的な手法に従って栽培することによって、
菌傘部のエリタデニンの含有量が310mg/100gDW以上となるような子実体を作出することは、当業者が容易に想到し得たものであるということができる。
そして、本願発明のように、菌傘部のエリタデニンの含有量が390mg/100gDW以上となるような子実体を作出する点についても、既に説示したとおり引用発明の子実体が、310mg/100gDWであること、および引用例1にエリタデニンの含有量が子実体発生時の温度が高ければ多くなることがことが明記されていることなどを鑑みれば、格別困難なものであるとは認めることはできない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-24 
結審通知日 2007-05-22 
審決日 2007-06-04 
出願番号 特願2001-37020(P2001-37020)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A01G)
P 1 8・ 121- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子高堀 栄二  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 宮川 哲伸
山口 由木
発明の名称 レンチヌラ・エドデスの栽培方法およびシイタケ子実体  
代理人 幸田 全弘  
代理人 幸田 全弘  
代理人 幸田 全弘  

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