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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B32B
管理番号 1162724
審判番号 訂正2005-39142  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-08-08 
確定日 2007-07-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3233576号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3233576号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許の手続の経緯
特許第3233576号(以下、「本件特許」という。)の手続の経緯は次のとおりである。
・特許出願 :平成 8年6月24日
・手続補正 :平成11年3月17日
・手続補正 :平成13年7月16日
・特許権の設定登録:平成13年9月21日
特許権者 :ダイワ精工株式会社
発明の名称:「釣り・スポーツ用具用部材」
特許番号 :特許第3233576号
請求項数 :6
・特許異議の申立て:特許異議申立人 伊藤雅史
(異議2002-71331号)
・取消理由通知(起案日) :平成15年7月17日
・訂正請求・特許異議意見書:平成15年9月16日
(特許請求の範囲の請求項5を削除し、請求項6の項数を繰り上げるとともに、その記載を訂正することを内容とする。)
・特許異議の決定(起案日):平成17年6月10日
特許異議の決定の主文:「訂正を認める。特許第3233576号の 請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」
・取消決定取消訴訟提起 :平成17年7月28日
(平成17年(行ケ)第10591号)
(知的財産高等裁判所に係属中)

2.本件審判の手続の経緯
本件審判事件の手続の経緯は次のとおりである。
・審判請求 :平成17年8月8日
・訂正拒絶理由通知:平成17年11月30日
・意見書 :平成18年1月4日
・審決(起案日):平成18年3月10日(以下、「1次審決」という。)
1次審決の主文:「本件審判の請求は、成り立たない。」
・1次審決取消訴訟提起:平成18年4月20日
(平成18年(行ケ)第10177号)
・判決言渡日 :平成18年12月20日
判決の主文:「特許庁が訂正2005-39142号事件について, 平成18年3月10日にした審決を取り消す。訴訟費用
は被告の負担とする。」
・手続補正指令(方式)(発送日):平成19年1月30日
・手続補正書(方式)(提出日) :平成19年2月28日
(審判請求書において訂正対象明細書としていた「特許第3233576号の明細書(平成15年9月16日付けで訂正した明細書」を「特許第3233576号の明細書(平成13年8月14日付けで発送された特許査定時の明細書」とすること及びそれに伴う補正を内容とする。)

第2 請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第3233576号の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるというものであって、平成17年8月8日の審判請求書及び平成19年2月28日の手続補正書(方式)によれば、本件審判の請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の訂正事項は、次のとおりのものである(注・特許請求の範囲についての訂正事項を先にして並べ替えて記載した。)。
(1) 訂正事項a
特許第3233576号明細書における特許請求の範囲の請求項1を
「特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており、前記本体部材の表面は研磨されて、前記強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管。」
と訂正する。

(2) 訂正事項b
請求項5を削除する。

(3) 訂正事項c
請求項5の削除に伴い、請求項6の「請求項1ないし5のいずれかの項に記載の竿管を用いた釣り竿。」とあるのを、「請求項1ないし4のいずれかの項に記載の竿管を用いた釣竿」とし、1項分繰り上げて、請求項5と訂正する。

(4) 訂正事項d
明細書の段落【0005】の記載を、
「すなわち、本発明は、特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材であって、前記本体部材の表面は研磨されて、前記強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管を提供する。」
と訂正する。

(5) 訂正事項e
明細書の段落【0019】の記載を、
「【発明の効果】
以上説明したように本発明は、特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部品を有する竿管であって、前記本体部品の表面は研磨されて、前記強化繊維が露出するとともに前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下であるので、軽量で、しかも優れた外観を有するものである。」
と訂正する。

第3 当審の判断
1.本件訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項a
訂正事項aに係る訂正は、訂正前の請求項1の「個々の強化繊維表面には平坦部が形成されている」における「強化繊維表面には」と「平坦部」の間に「窪み部および」という事項を追加して、強化繊維表面が「窪み部および平坦部」が形成された形状であることを規定するとともに、「形成されている」を「形成されており、表面粗さが5μm以下であること」として、表面粗さの規定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項aに係る訂正は、願書に添付した明細書の段落【0008】の「すなわち、研磨された面の強化繊維2には、微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている」及び段落【0007】の「このようにして、強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする」の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項aに係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(2) 訂正事項b
訂正事項bに係る訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項bに係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(3) 訂正事項c
訂正事項cに係る訂正は、訂正事項bに係る訂正に関連して、請求項6を繰り上げて請求項5とし、それに伴い引用する請求項を請求項1ないし4とするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項cに係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(4) 訂正事項d及びeについて
訂正事項d及びeに係る訂正は、発明の詳細な説明の記載を訂正後の請求項1の記載に整合させるものである。(1)で検討したように請求項1についての訂正事項aに係る訂正は適法なものであるから、訂正事項d及びeに係る訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項d及びeに係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

2.独立特許要件について
上記のとおり、訂正事項a?bに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、次いで、訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されている事項により特定される発明(以下、請求項1?5に係る発明を、それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」などという。)が独立して特許を受けることができるものかどうかについて検討する。
(1) 訂正後の請求項に係る発明
本件訂正発明1?5は、その特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものである(下線は訂正箇所を示す。)。



【請求項1】 特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており、前記本体部材の表面は研磨されて、前記強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管。
【請求項2】 前記本体部材の表面は、光輝性を示すことを特徴とする請求項1に記載の竿管。
【請求項3】 前記本体部材の表面は、鏡面研磨されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の竿管。
【請求項4】 前記本体部材の外側に、金属材料又はセラミック材料で構成されている厚さ1ミクロン以下の薄膜を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの項に記載の竿管。
【請求項5】 請求項1ないし4のいずれかの項に記載の竿管を用いた釣り竿。

(2) 特許異議の申立ての理由
上記「第1 手続の経緯」「1.」で示すとおり、本件特許について、特許異議の申立てがあったので、先ずその理由について検討する。
特許異議申立人は、その出願前頒布された刊行物である、
A.特開平 7-147868号公報
B.特開昭62- 9946号公報
C.特開平 7- 79669号公報
D.特開平 6- 8240号公報
(以下、それぞれの刊行物を「刊行物A」、「刊行物B」などという。)を提示し、
・理由1:請求項1、2、3、6に係る発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
・理由2:請求項1?6に係る発明は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
と主張している。
そこで、上記理由について検討する。

(3) 刊行物の記載事項
(3-1) 特開平7-147868号公報(刊行物A)
刊行物Aには、次の記載がある。
1a.「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された外側層を形成すると共に、加圧焼成時の緊締テープの緊締によって前記外側層表面に発生する凹凸表面の凸端部を除去して平坦状か傾斜状に形成して該凹凸の高さを低く形成し、かつ該外側層の周方向強化繊維の内、断面形状の欠けた強化繊維が殆ど存在しないことを特徴とする釣竿。」(特許請求の範囲【請求項1】)
1b.「このように緊締テープの巻回方向の相違によって樹脂領域16Aや樹脂溜り15の発生に相違が生じるのは、図3の場合は緊締テープと外側層16の強化繊維16Fとがほとんど平行で交差しないが、図4の場合には交差することに基ずくと考えられる。即ち、図4の場合には各強化繊維16Fが緊締テープによって押さえつけられ、図3の場合と比較して各強化繊維が均等に押圧力を受けて強化繊維の凹凸が生じ難いが、その分合成樹脂はその流動性から外側層16の外方向に押出されて移動するためと考えられる。」(段落【0013】)
1c.「従って、この凹凸を平滑化するために凹凸の凸端部を研削や研磨によって除去するが、図3の場合にライン16Lに沿って平滑化すべくこれを実施すると、凸端部16Dに存在する強化繊維16Fも除去しなければならず、研削することになる。こうして凸端部16Dを研削除去した状態を図5に示す。その結果、周方向強化繊維16Fが減少し、また研削された平坦面16Hには部分的に削られた強化繊維が多く存在してその補強効果が著しく低減する。」(段落【0014】)
1d.「これに反して図4の場合には、凹凸の凸端部はほぼ上記の樹脂領域16Aで占められており、従ってライン16Lに沿って凸端部を除去するには、研削でなくバフ等による研磨で可能である。これは凸端部が軟らかな合成樹脂の領域であるためであり、バフ等の研磨では樹脂領域16Aが殆ど除去されて既述の傾斜面16Cが現われる。また、ライン16Lに沿う研削によれば樹脂領域16Aの一部が削られて平坦状の面が形成される。何れの方法によっても図3の場合と比較すれば強化繊維16Fは殆ど削られることが無いため、外側層16の本来の補強作用が保持できる。
また、観点を変えれば、図3の場合のように強化繊維によって樹脂マトリックスが強化された凸端部16Dを研削するには、先細の長い竿管の全長に亘って行うため手数を要するが、図4に示す場合ではバフ研磨で済むため簡便で済む。また、これを研削によって行った場合も強化繊維の無い樹脂領域を研削するだけであるため短時間で済む。更に、緊締テープの傾斜角度を他の種々の値に設定して実験した結果、本発明構造の釣竿にするには、緊締テープの傾斜角度は7度以上に設定し、好ましくは15度以上に設定するとよいことが判った。」(段落【0015】?段落【0016】)
1e.「【図5】図3の竿管の表面を研削した状態の縦断面図」(4頁左欄【図面の簡単な説明】)
(3-2) 特開昭62-9946号公報(刊行物B)
刊行物Bには、次の記載がある。
2a.「炭素繊維強化プラスチックス製基礎パイプの外表面を研削加工した後、この研削面上に、樹脂含浸無撚り炭素繊維束を巻き付けてパイプの表面層となし、この表面層を加熱硬化後仕上げ研削することから成る炭素繊維強化プラスチックス製パイプの製造方法。」(【特許請求の範囲】)
2b.「この発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、樹脂の過剰研削を減らしてパイプ外表面の面粗度を高めることにある。」(2頁左上欄3?5行)
2c.「下地を研削加工してその上に樹脂含浸無撚り繊維束を巻き重ねると、パイプの表面側では堅い炭素繊維を同一円周上に緻密かつ平坦に配列できるため、仕上げ研削時に樹脂が必要以上に削り取られる心配がない。」(2頁右上欄2?6行)
2d.「得られた複合層のCFRPパイプ表面を研削加工して外径50.0mm、長さ800mmに仕上げ、外表面の粗さを測定したところ、その面粗度は0.8sと非常に円滑な状態を呈していた。」(2頁左下欄10?13行)
2e.「表面層の繊維が同一円周上に緻密かつ平坦に並び、従って、研削時の樹脂の過剰研削を防止でき、パイプの表面粗度を0.5?1s程度に迄高めることができる。」(2頁左下欄18行?右下欄1行)
(3-3) 特開平7-79669号公報(刊行物C)
刊行物Cには、次の記載がある。
「 物品本体の外側に表面を略鏡面状に平滑形成した合成樹脂被膜層を形成し、該合成樹脂被膜層の外側に金属を物理蒸着した薄い装飾層を形成し、該装飾層の外側に透明か半透明の保護層を形成したことを特徴とする物品。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(3-4) 特開平7-79669号公報(刊行物D)
刊行物Dには、次の記載がある。
「繊維強化プラスチックであって、最外層の補強用繊維又は繊維構造物が、金属又は金属化合物皮膜により被覆されたものであることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(4) 刊行物Aに記載された発明
刊行物Aは、その「請求項1」に記載されるとおりの「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された外側層を形成すると共に、加圧焼成時の緊締テープの緊締によって前記外側層表面に発生する凹凸表面の凸端部を除去して平坦状か傾斜状に形成して該凹凸の高さを低く形成し、かつ該外側層の周方向強化繊維の内、断面形状の欠けた強化繊維が殆ど存在しないことを特徴とする釣竿」(摘示1a。下線付加)の発明に関し記載するものであって、そこには、その発明の従来技術として、その凸端部を「研削や研磨によって除去するが、図3の場合にライン16Lに沿って平滑化すべくこれを実施すると、凸端部16Dに存在する強化繊維16Fも除去しなければならず、研削することになる」(摘示1c)ものであって、その「凸端部16Dを研削除去し・・・研削された平坦面16Hには部分的に削られた強化繊維が多く存在」(摘示1c)するものが、「図3の竿管の表面を研削した状態の縦断面図」(摘示1e)である【図5】と共に記載されている。
この【図5】と共に示された従来技術の竿管は、刊行物Aの請求項1に記載の発明が前提とするものであるから、請求項1に記載の発明の竿管と同様に「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層」とその外側に「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された外側層」を有する竿管であると認められる。そして、その「合成樹脂をマトリックスとし、・・・強化繊維によって強化された外側層」は、強化繊維に合成樹脂を含浸してなる繊維強化材ということができる。
すると、刊行物Aには、【図5】と共に示された従来技術として、
「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された強化繊維に合成樹脂を含浸してなる繊維強化材である外側層を形成すると共に、加圧焼成時の緊締テープの緊締によって前記外側層表面に発生する凹凸表面の凸端部を研削によって凸端部を研削除去し、研削された平坦面には部分的に削られた強化繊維が多く存在する竿管」
の発明(以下、「刊行物A発明」という。)が記載されているということができる。

(5) 理由1(刊行物Aに記載された発明に基づく新規性違反)について
本件訂正発明5は特許異議申立時の請求項6に係る発明に対応するから、理由1は、本件訂正発明1?3、5は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない、というものであるといえる。
(5-1) 本件訂正発明1について
(5-1-1) 本件訂正発明1と刊行物A発明との対比
本件訂正発明1と刊行物A発明とを対比すると、刊行物A発明の「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された強化繊維に合成樹脂を含浸してなる繊維強化材である外側層を形成」したものは竿管の「本体部材」といえ、その「繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維」、「繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維」は「特定方向に引き揃えた強化繊維」ということができる。すると、刊行物A発明の「合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が主として竿管の軸方向に配向された強化繊維によって強化された層の外側に、合成樹脂をマトリックスとし、繊維方向が竿管の周方向に配向された強化繊維によって強化された強化繊維に合成樹脂を含浸してなる繊維強化材である外側層を形成」したものは、本件訂正発明1の「特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材」に相当するということができる。また刊行物A発明の「加圧焼成時の緊締テープの緊締によって前記外側層表面に発生する凹凸表面の凸端部を研削によって凸端部を研削除去し」は、本体部材の少なくとも表面の一部を研削するのであるから、本件訂正発明1の「本体部材の表面は研磨され」に対応するといえ、刊行物A発明の「研削された平坦面には部分的に削られた強化繊維が多く存在」するものは、本件訂正発明1の「強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨され」たものに対応するといえる。
すると、本件訂正発明1と刊行物A発明とは、
「特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており、前記本体部材の表面は研磨乃至研削されて、前記強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨乃至研削された竿管」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。
(i) 本体部材の表面は、本件訂正発明1においては、「研磨」され、個々の強化繊維表面が、「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であるのに対し、刊行物A発明は、「研削」され、個々の強化繊維表面はそのような性状であるかは明らかではない点
(以下、「相違点(i)」という。)
(5-1-2) 相違点(i)について
刊行物A発明の本体部材の少なくとも表面の一部は露出する強化繊維自体が研削されたものであるといえ、その研削された個々の強化繊維の表面は、【図5】には平坦面であるように記載されている。
しかし、【図5】に個々の強化繊維の表面が平坦面であるように記載されているとしても、その平坦面が微視的にも「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であることまでは記載されているとはいえない。
そして、【図5】に示された平坦面は研削によって形成されるものであるが、少なくともバフ研磨ではない(摘示1d参照)としても、【図5】に示された平坦面がどのような研削方法や条件によったものであるかは明らかではない。研削手段や条件は多様であり、研削によって形成される表面の性状は、研削手段や条件によって異なると認められるところ、それらが明らかでない刊行物A発明における個々の強化繊維表面が、微視的にみて「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下である」ものであるということはできない。
その他、刊行物Aには刊行物A発明の平坦面が微視的にも「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であることを示す記載は見あたらない。また、刊行物A発明の個々の強化繊維表面がそのような表面性状のものであると認めるに足る技術常識もない。
すると、刊行物A発明の個々の強化繊維表面が「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下である」とすることはできない。
したがって、本件訂正発明1は、刊行物Aに記載された発明ということはできない。
(5-2) 本件訂正発明2?5について
本件訂正発明2、3、5、さらに加えて本件訂正発明4は、本件訂正発明1にさらなる発明特定事項を付加したものである。すると、上記のとおり本件訂正発明1が刊行物Aに記載された発明ということはできない以上、本件訂正発明2?5は、刊行物Aに記載された発明ということはできない。
(5-3) 小括
よって、本件訂正発明1?5は、刊行物Aに記載された発明ということはできない。

(6) 理由2(刊行物Aに記載された発明に基づく進歩性違反)について
理由2は、本件訂正発明1?5は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものであって、詳細には、本件訂正発明1?3は、刊行物A、Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正発明4、5は刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
(6-1) 本件訂正発明1について
(6-1-1) 相違点(i)について
相違点(i)の個々の強化繊維表面の微視的な性状に関連して、刊行物Bに、「樹脂含浸無撚り炭素繊維束を巻き付けてパイプの表面層となし、この表面層を加熱硬化後仕上げ研削する」(摘示2a)という記載がある。しかし、この「仕上げ研削」は「樹脂の過剰研削を減らしてパイプ外表面の面粗度を高める」(摘示2b)ためのものであって、「表面側では堅い炭素繊維を同一円周上に緻密かつ平坦に配列できるため、仕上げ研削時に樹脂が必要以上に削り取られる心配がない」(摘示2c)ような、また「樹脂の過剰研削を防止」(摘示2d)できるような研削であるが、「強化繊維が露出する」ような、さらに「露出する強化繊維自体も研磨され」ような研削であることまでは明らかにされていない。すると、研削の結果の表面性状について「外表面の粗さを測定したところ、その面粗度は0.8sと非常に円滑な状態」(摘示2d)のものが得られているとしても、それが研磨された個々の強化繊維表面の性状であるのか、樹脂表面の性状であるのかは明らかではない。すると、刊行物Bには、相違点(i)に係る、個々の強化繊維表面が、「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であることまでは記載されているということはできない(なお、刊行物C、Dは、本体の外側に層を設ける点についての公知技術として提出されたものであって、これらの刊行物にも、「強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨され」ること、まして「研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成」されていることについて、記載も示唆もされてはいない。)。
したがって、刊行物B?Dには、個々の強化繊維表面が、「窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下」であることが記載されているとはいえない。
さらに、仮に「仕上げ研削」をしたパイプがそのような表面性状であったとしても、刊行物Bの「仕上げ研削」の目的・効果は「樹脂の過剰研削を減らしてパイプ外表面の面粗度を高めること」にあるのであって、そのパイプが本件訂正発明1のような「優れた外観を有する」(段落【0002】など)ものであるとも、「装飾性が向上」(段落【0004】)したものであるとも、「入射する光を効率よく反射して光輝性を示す」(段落【0008】)ものであるなど装飾的に優れたものであることを記載も示唆もするものでもなく、さらに、刊行物A、C、D、その他技術常識からも、刊行物Bの「仕上げ研削」をしたパイプが装飾的に優れたものであることを示す記載も示唆もされるものではない。すると、刊行物Bの「仕上げ研削」をした表面性状を、このような装飾性の観点から、刊行物A発明に適用するという動機付けや契機はなく、さらにその他の観点からの動機付けや契機も認められない。
そして、本件訂正発明1はこのような表面性状とすることによって、「軽量で、しかも優れた外観を有する」(【発明の効果】)効果を奏するものであって、この効果は、刊行物A?D、その他技術常識から予期し得ないものである。
よって、本件訂正発明1は、刊行物Aに記載された発明及び刊行物B、さらに刊行物C、D、に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(6-1-2) その他の刊行物をそれぞれ主引用例とした場合について
その他の刊行物B(さらに刊行物C、D)の記載から発明をそれぞれ認定して本件訂正発明1と対比したとしても、少なくとも上記相違点(i)に係る「研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成」されていることは、刊行物A発明と対比したときと同様に、両者の相違点となる。そして、上記のとおり刊行物A?Dのいずれにも、この表面性状は記載も示唆もされていないし、また、その点によって装飾的に優れたものであることもを記載も示唆もされるものではない。
したがって、刊行物B、さらに刊行物C、D、いずれを主引用例としても、本件訂正発明1は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができないことは、明らかである。
(6-2) 本件訂正発明2?5について
本件訂正発明2?5は、本件訂正発明1にさらなる発明特定事項を付加したものであるから、本件訂正発明1が刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。
(6-3) 小括
よって、本件訂正発明1?5は、刊行物A?Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(7) 特許異議の決定及び1次審決の理由について
(7-1) 上記「第1 手続の経緯」「1.」で示すとおり、異議申立てにおいて本件特許の取消決定がされている。その理由の概要は、請求項1などにおける「研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されていること」は、平成13年7月16日の手続補正により補正されたものであるところ、この補正は、この出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められない、というものである。
また、本件訂正審判の1次審決の理由の概要も、訂正後の請求項1の「前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部及び平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下である」という発明特定事項は、平成13年7月16日付けの手続補正により補正された「前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」という補正事項に、「窪み部および」と「表面粗さが5μm以下である」という事項を付加したものであるが、「前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」とする補正は、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められないというものである。
(7-2) しかし、この「前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」とする補正が当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められることは、1次審決取消訴訟の判決が示すとおりである。
(7-2-1) すなわち、当初明細書には、次の記載がある。
「本発明の釣り・スポーツ用具用部材は、次のようにして製造することができる。例えば、部材本体1が引き揃えられたカーボン繊維にエポキシ樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグを巻回してなる竿管である場合、繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき、図1に示すように、強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。次いで、この部材本体1の表面上にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装、シゴキ塗装、印刷等の方法により被着し、強化繊維2が露出するように、この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。このようにして、強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする。」(段落【0007】)
「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面は、図3に示すような概略形状を有している。すなわち、研磨された面の強化繊維2には、微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは、1μm程度であるが、5μm以下であれば特に限定されない。なお、窪み部6の幅は、表面の平滑性を考慮すると、平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また、平坦部7においては、装飾性を考慮すると、部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。」(段落【0008】)
また、図面には、図1にその発明の釣り・スポーツ用具用部材の一実施形態が示され、図3にその発明の釣り・スポーツ用具用部材における表面状態が示されている。
(7-2-2) 上記(7-2-1)の記載によれば、図1には、繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨して、強化繊維2の表面がかなり粗い状態となった後に、部材本体1の表面上に合成樹脂4を被着した状態が示され、また、図3には、図1のラインAまで研磨して、「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」の概略形状が示されているということができる。そして、段落【0008】の「すなわち、研磨された面の強化繊維2には、微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは、1μm程度であるが、5μm以下であれば特に限定されない。なお、窪み部6の幅は、表面の平滑性を考慮すると、平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また、平坦部7においては、装飾性を考慮すると、部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。」との記載から、図3に記載された「平坦部7」が部材本体の表面の平坦部分を構成していると理解することができる。
そうであれば、図1のラインAまで研磨することにより、かなり粗い状態であった強化繊維2の表面が、微視的に見て窪み部6及び平坦部7が形成された状態になるのであって、図3はこの状態を示しているから、図面を参酌しつつ、明細書全体の記載をみるならば、当初明細書又は図面には、合成樹脂4の研磨の際に、ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体をも研磨することが記載されているということができる。
よって、「前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成され」とする補正が当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
(7-3) そして、他に平成13年7月16日の手続補正において、その手続補正を特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとすべき補正事項は見あたらない。

(8) 独立特許要件のまとめ
以上のとおり、上記各理由によっては、本件訂正発明1?5が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとすることはできず、他に本件訂正発明1?5が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由は見あたらない。
したがって、訂正事項a?bに係る訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
釣り・スポーツ用具用部材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材を有しており、前記本体部材の表面は研磨されて、前記強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管。
【請求項2】前記本体部材の表面は、光輝性を示すことを特徴とする請求項1に記載の竿管。
【請求項3】前記本体部材の表面は、鏡面研磨されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の竿管。
【請求項4】前記本体部材の外側に、金属材料又はセラミック材料で構成されている厚さ1ミクロン以下の薄膜を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの項に記載の竿管。
【請求項5】請求項1ないし4のいずれかの項に記載の竿管を用いた釣り竿。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、釣り用具用、またはゴルフ用具、スキー用具、テニス用具等のスポーツ用具用の部材に関する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】
釣り用具や、ゴルフ用具、スキー用具、テニス用具等のスポーツ用具については、その機能や特性を向上させると共に、軽量化を実現させる傾向にある。一方、上記釣り用具やスポーツ用具には、使用者の趣味に訴えるために、様々な装飾が施される。このため、これらの部材には、優れた外観を示すように、種々の塗装等が施される。近年、釣り用具やスポーツ用具の軽量化に伴い、部材重量における塗装層の割合が大きくなってきている。具体的には、釣り竿においては、竿管重量における塗装層の重量が5?10%以上を占める程度に上がってきている。このため、塗装層や装飾層は、上述した釣り用具やスポーツ用具の軽量化を妨げる大きな原因となっている。
【0003】
このように、優れた外観を有し、しかも軽量である釣り用具やスポーツ用具が望まれているが、その要求を充分に満足することはできていない。本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、軽量で、しかも優れた外観を有する釣り・スポーツ用具用部材を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、繊維強化プリプレグで構成される部材の表面の粗さに着目して鋭意研究を重ねた結果、強化繊維が露出した状態でしかも表面粗さが所定の値以下である場合に装飾性が向上することを見出し本発明をするに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部材であって、前記本体部材の表面は研磨されて、前記強化繊維が露出するとともに、前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下であることを特徴とする竿管を提供する。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して具体的に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の釣り・スポーツ用具用部材の一実施形態を示す断面図である。図中1は釣り・スポーツ用具用部材の部材本体を示す。部材本体1は、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維等の強化繊維2にエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル等の合成樹脂を含浸させた繊維強化プリプレグ(FRP)で構成されている。なお、部材本体1の形状・寸法には特に制限はない。
【0007】
本発明の釣り・スポーツ用具用部材は、次のようにして製造することができる。例えば、部材本体1が引き揃えられたカーボン繊維にエポキシ樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグを巻回してなる竿管である場合、繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき、図1に示すように、強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。次いで、この部材本体1の表面上にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装、シゴキ塗装、印刷等の方法により被着し、強化繊維2が露出するように、この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。このようにして、強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする。
【0008】
強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面は、図3に示すような概略形状を有している。すなわち、研磨された面の強化繊維2には、微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは、1μm程度であるが、5μm以下であれば特に限定されない。なお、窪み部6の幅は、表面の平滑性を考慮すると、平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また、平坦部7においては、装飾性を考慮すると、部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。
【0009】
なお、この場合、強化繊維2が露出するようにして合成樹脂4を研磨する方法としては、バフ研磨、その他の鏡面研磨等を挙げることができる。また、表面粗さは、通常の表面粗さ計等により測定することができる。
【0010】
このような強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面を有する本発明の釣り・スポーツ用具用部材においては、薄い被膜で高い密着性を発揮することができ、軽量化や耐久性の向上等に好適である。また、素材感を生かした外観を得ることができる。
(第2の実施形態)
図2は本発明の釣り・スポーツ用具用部材の他の実施形態を示す断面図である。図2中部材本体1としては、第1の実施形態において使用するものと同じものを用いることができる。
【0011】
部材本体1の表面は、バフ研磨、その他の鏡面研磨等の方法により研磨処理が施され、強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である。この表面上には、薄膜5が形成されている。なお、鏡面状に研磨した部材本体1は、その上に何も形成しなくても、素地を生かした優れた外観を得ることができるので、そのまま使用することができる。
【0012】
薄膜5を構成する材料としては、Cr,Ni,Ti,Al等の金属、TiO2,SiC等のセラミックス等を挙げることができる。例えば、薄膜5の材料として前記金属やセラミックスを用いることにより、部材全体に光輝性を付与することができ、前記材料からなる薄膜5により本体を隠蔽することができ、外観を向上させると共に、本体を紫外線から保護できる。また、薄膜5の厚さを数μm以下にすることにより、干渉色を得ることができる。なお、薄膜5は、前記材料からなる複数の層で構成しても良い。
【0013】
薄膜5を形成する方法としては、薄膜の厚さ等を考慮すると、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理的蒸着法、塗装法、メッキ法等を用いることができる。また、薄膜5の厚さとしては、軽量化を考慮すると、強化繊維径程度以下、具体的には5μm以下、特に1μm以下であることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、部材本体1の表面が強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面であるので、表面硬度が高く、剥離しにくく、耐久性や耐候性に優れる。
【0015】
また、部材本体1の表面が強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面であり、非常に高いレベルの平滑度を有するので、薄膜5の光輝性や色相が部材本体1の表面状態に影響されず、1μm以下レベルの薄い膜であっても目的とする外観を示すことができる。また、薄膜5は非常に薄いので、素地である部材本体1の感じを外観として現すことができる。
【0016】
図2においては、部材本体1上に直接薄膜5を形成した場合について説明しているが、本実施形態はこれに限定されず、部材本体1上に、シリコン酸化膜等の非電食層、金属層や合成樹脂からなるバインダー層等の中間層を介して薄膜2を形成した場合にも適用することができる。また、部材本体1上に直接または中間層を介して薄膜5を形成し、さらにその上にTiO,TiN等をイオンプレーティングにより被着してなる着色層、SiO等をイオンプレーティングにより被着してなる保護層、TiとSiのような少なくとも2つの元素をイオンプレーティングにより同時に被着してなる混合(化合)層等を形成しても良い。さらに、最外層に透明な金属、セラミックス、または合成樹脂等からなる保護層を形成しても良い。
【0017】
上記実施形態においては、釣り・スポーツ用具用部材の部材本体が平坦な表面形状を有する場合について説明しているが、本発明は、部材本体の表面形状(本発明でいう微視的な表面粗さではなく、巨視的な意味での表面形状を意味する)には限定されず、例えば、部材本体が繊維強化プリプレグを巻回してなる竿管である場合に、その表面の研磨処理後にできる目残りにおける角部(R形状)およびテープピッチの跡を有しているもの、前記竿管において、その表面の研磨処理後にできる目残りによる凹部を有しているもの、その他の特殊形状(段差部を有する形状、波形形状等)を有するものにも適用することができる。
【0018】
上記実施形態においては、釣り・スポーツ用具用部材の部材本体が、繊維強化プリプレグを巻回してなる竿管である場合について説明しているが、本発明はこれに限定されず、部材本体が他の釣り・スポーツ用具用部材である場合にも同様に適用することができる。
【0019】
【発明の効果】
以上説明したように本発明は、特定方向に引き揃えた強化繊維にマトリクス材料を含浸してなる繊維強化材で構成された本体部品を有する竿管であって、前記本体部品の表面は研磨されて、前記強化繊維が露出するとともに前記露出する強化繊維自体も研磨されて、前記研磨された個々の強化繊維表面には窪み部および平坦部が形成されており、表面粗さが5μm以下であるので、軽量で、しかも優れた外観を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の釣り・スポーツ用具用部材の一実施形態を示す断面図。
【図2】本発明の釣り・スポーツ用具用部材の他の実施形態を示す断面図。
【図3】本発明の釣り・スポーツ用具用部材における表面状態を示す拡大断面図。
【符号の説明】
1…繊維強化プリプレグ、2…強化繊維、3…マトリクス材料、4…合成樹脂、5…薄膜、6…窪み部、7…平坦部。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-02-22 
結審通知日 2007-06-19 
審決日 2006-03-10 
出願番号 特願平8-163112
審決分類 P 1 41・ 856- Y (B32B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 井上 彌一
鈴木 紀子
登録日 2001-09-21 
登録番号 特許第3233576号(P3233576)
発明の名称 釣り・スポーツ用具用部材  
代理人 水野 浩司  
代理人 青木 宏義  
代理人 青木 宏義  
代理人 中村 俊郎  
代理人 水野 浩司  
代理人 中村 俊郎  

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