• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680255 審決 特許
無効2010800045 審決 特許
無効200680154 審決 特許
無効200680126 審決 特許
無効2007800062 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  C23C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C23C
管理番号 1162725
審判番号 無効2006-80136  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-07-28 
確定日 2007-07-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3698163号発明「ハフニウム含有膜形成材料及び該材料から作製されたハフニウム含有薄膜の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3698163号の請求項1?10に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許3698163号の請求項1?10に係る発明は、平成16年7月8日(優先権主張平成15年9月19日、平成16年1月21日、平成16年3月29日)に特許出願され、平成17年7月15日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、株式会社高純度化学研究所(以下、「請求人」という。)から平成18年7月28日付けで請求項1?10に係る発明の特許について、無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
答弁書: 平成18年10月20日
訂正請求書: 平成18年10月20日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成19年 1月25日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成19年 1月25日
口頭審理: 平成19年 1月25日
上申書(被請求人): 平成19年 2月 8日
上申書(請求人): 平成19年 2月20日

II.訂正請求の適否
1.訂正事項
平成18年10月20日付けの訂正請求は、本件明細書及び特許請求の範囲の記載を、その訂正請求書に添付した全文訂正明細書に記載される次のとおりに訂正することを求めるものである。
(a)【特許請求の範囲】の【請求項4】の「但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基である。」を、「但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く。」と訂正する。
(b)【特許請求の範囲】の【請求項5】の「有機ハフニウム化合物がHf[O(n-C4H9)]4、Hf[O(t-C4H9)]4又はHf[O(s-C4H9)]4である請求項4記載のハフニウム含有膜形成材料。但し、n-C4H9はノルマルブチル基、t-C4H9はターシャリーブチル基、s-C4H9はセカンダリーブチル基である。」を、「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmであり、前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である。」と訂正する。
(c)明細書の段落【0013】の「但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基である。」を、「但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く。」と訂正する。
(d)明細書の段落【0014】の「請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明であって、有機ハフニウム化合物がHf[O(n-C4H9)]4(以下、Hf(OnBu)4という。)、Hf[O(t-C4H9)]4(以下、Hf(OtBu)4という。)又はHf[O(s-C4H9)]4(以下、Hf(OsBu)4という。)であるハフニウム含有膜形成材料である。但し、n-C4H9はノルマルブチル基、t-C4H9はターシャリーブチル基、s-C4H9はセカンダリーブチル基である。」を、「請求項5に係る発明は、ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmであり、前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である。」と訂正する。
(e)明細書の段落【0025】の「但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基である。R3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。このうち、ゲート酸化膜として有用なHf(OnBu)4、Hf(OtBu)4又はHf(OsBu)4が好適である。ジルコニウム含有量を上記範囲以下にまで低減したHf(OR3)4は低温成膜でき、かつ再現性が向上する。」を、「但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く。R3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。このうち、ゲート酸化膜として有用なHf(OnBu)4、Hf(OtBu)4又はHf(OsBu)4が好適である。ジルコニウム含有量を上記範囲以下にまで低減したHf(OR3)4は低温成膜でき、かつ再現性が向上する。また、有機ハフニウム化合物がHf(OtBu)4の場合、形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmである。」と訂正する。
(f)明細書の段落【0031】の「この工程では例えば約100℃、約3.99kPa(30Torr)の条件で減圧蒸留精製を1回又は2回以上行うことにより、大部分のLiClを除去することができる。」を、「この工程では減圧蒸留精製を1回又は2回以上行うことにより、大部分のLiClを除去することができる。」と訂正する。
(g)明細書の段落【0048】の「この工程では例えば約100℃、約3.99kPa(30Torr)の条件で減圧蒸留精製を1回又は2回以上行うことにより、大部分のLiClを除去することができる。」を、「この工程では減圧蒸留精製を1回又は2回以上行うことにより、大部分のLiClを除去することができる。」と訂正する。
(h)明細書の段落【0066】の「次に粗生成物を室温に戻した後、100℃、3.99kPa(30Torr)で減圧蒸留精製を行うことによりHf(Et2N)4の精製物を得た。」を、「次に粗生成物を室温に戻した後、減圧蒸留精製を行うことによりHf(Et2N)4の精製物を得た。」と訂正する。
(i)明細書の段落【0073】の「次に、得られた粗生成物を室温に戻した後、粗生成物を約100℃、約3.99kPa(30Torr)の減圧状態で蒸留させてHf(Et2N)4の精製物を得た。」を、「次に、得られた粗生成物を室温に戻した後、減圧状態で蒸留させてHf(Et2N)4の精製物を得た。」と訂正する。
(j)明細書の段落【0081】の「続いて、得られた粗生成物を室温に戻した後、粗生成物を約100℃、約3.99kPa(30Torr)の減圧状態で蒸留させてHf(Me2N)4の精製物を得た。」を、「続いて、得られた粗生成物を室温に戻した後、粗生成物を減圧状態で蒸留させてHf(Me2N)4の精製物を得た。」と訂正する。
(k)明細書の段落【0083】の「次に得られた粗生成物を室温に戻した後、100℃、3.99kPa(30Torr)で減圧蒸留精製を行うことによりHf(Me2N)4の精製物を得た。」を、「次に得られた粗生成物を室温に戻した後、減圧蒸留精製を行うことによりHf(Me2N)4の精製物を得た。」と訂正する。

2.訂正要件の判断
(1)訂正目的の適否
上記訂正(a)は、Hf(OR3)4で示される有機ハフニウム化合物のR3について、R3が炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であることから、ターシャリーブチル基を除いたものに限定するものであり、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正(b)は、有機ハフニウム化合物がHf[O(n-C4H9)]4、Hf[O(t-C4H9)]4又はHf[O(s-C4H9)]4であることから、Hf[O(t-C4H9)]4であることに限定し、さらに、有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であることから、50?100ppmであることに限定するものであるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正(c)?(e)は、訂正(a)及び(b)により特許請求の範囲を訂正したことにより明細書の対応する記載を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記訂正(f)は、四塩化ハフニウム(HfCl4)とアミノリチウム((C2H5)2NLi又は(CH3)2NLi)とを反応させて得られた有機ハフニウム化合物(Hf[(C2H5)2N]4又はHf[(CH3)2N]4)の粗精製物からLiClを除去するための減圧蒸留精製の条件を削除する訂正である。四塩化ハフニウムとアミノリチウムとを反応させて有機ハフニウム化合物(Hf[(C2H5)2N]4又はHf[(CH3)2N]4)を合成する方法は、トランスメタレーション法として一般的に知られた合成方法であり、得られた粗精製物にHf[(C2H5)2N]4又はHf[(CH3)2N]4が含まれているといえる。そして、減圧蒸留精製の条件は、粗精製物に含まれている化合物の物性に基づいて決められることは、技術常識といえる。してみると、Hf[(C2H5)2N]4又はHf[(CH3)2N]4の沸点や蒸気圧を考慮すると、Hf[(C2H5)2N]4又はHf[(CH3)2N]4の粗精製物からLiClを除去するための減圧蒸留精製を、約100℃、約3.99kPa(30Torr)の条件で実施できないことは、当業者にとって明らかなことといえ、明細書の段落【0031】の「この工程では例えば約100℃、約3.99kPa(30Torr)の条件で減圧蒸留精製を1回又は2回以上行うことにより、大部分のLiClを除去することができる。」との記載は、明りょうでない記載といえる。したがって、訂正(f)の減圧蒸留精製の条件を削除する訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記訂正(g)?(k)も、有機ハフニウム化合物(Hf[(C2H5)2N]4又はHf[(CH3)2N]4)の粗精製物からLiClを除去するための減圧蒸留精製の条件を削除する訂正であり、上記訂正(f)と同様に、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(2)新規事項の追加の有無
上記訂正(a)により限定された事項は、ターシャリーブチル基を除外するものであり、ターシャリーブチル基を除外した後のハフニウム含有膜形成材料は、本件明細書の「有機ハフニウム化合物の一般式は、次の式(2)で示される化合物が好適である。 Hf(OR3)4・・・(2) 但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基である。R3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。このうち、ゲート酸化膜として有用なHf(OnBu)4、Hf(OtBu)4又はHf(OsBu)4が好適である。」(段落【0023】?段落【0025】)との記載から自明なこととして導き出せるものである。
上記訂正(b)により限定された事項は、本件明細書の「形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量は50?100ppmが特に好ましい。」(段落【0020】)及び「得られたHf(OtBu)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、650ppm、200ppm、100ppm、50ppm及び20ppmの含有量であった。これらのHf(OtBu)4をハフニウム含有膜形成材料とした。」(段落【0092】)との記載から自明なこととして導き出せるものである。
上記訂正(c)?(e)は、訂正(a)及び(b)により特許請求の範囲を訂正したことにより明細書の対応する記載を訂正するものであり、訂正(a)及び(b)と同様に、本件明細書の記載から自明なこととして導き出せるものである。
上記訂正(f)?(k)の減圧蒸留精製の条件を削除する訂正は、上記(1)で記載したとおり、技術常識を考慮すれば、本件明細書の記載から自明なこととして導き出せるものである。
(3)拡張・変更の存否
上記訂正(a)?(k)は、特許請求の範囲を減縮し、又は発明の詳細な説明の記載の明りょうでない記載を是正するだけのものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでない。

3.訂正の結論
以上のとおり、上記訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書き、同条第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
本件明細書及び特許請求の範囲についての上記訂正請求は、上記「II」で記載したとおり認められたものであり(訂正された本件明細書を「本件訂正明細書」という。)、訂正後の請求項1?10に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明10」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】ハフニウム原子と窒素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。
【請求項2】有機ハフニウム化合物の一般式が次の式(1)で示される請求項1記載のハフニウム含有膜形成材料。
【化1】Hf(R1R2N)4 ・・・(1)
但し、R1、R2は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、R1とR2は互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項3】有機ハフニウム化合物がHf[(C2H5)2N]4、Hf[(CH3)2N]4又はHf[(CH3)(C2H5)N]4である請求項2記載のハフニウム含有膜形成材料。
【請求項4】ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であり、前記有機ハフニウム化合物の一般式が次の式(2)で示されることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。
【化2】Hf(OR3)4 ・・・(2)
但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く。
【請求項5】ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmであり、前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である。
【請求項6】形成材料中に含まれるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量が各1ppm以下である請求項1ないし5いずれか1項に記載のハフニウム含有膜形成材料。
【請求項7】形成材料中に含まれる鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の合計含有量が0.1ppm?0.8ppmの範囲にある請求項1ないし6いずれか1項に記載のハフニウム含有膜形成材料。
【請求項8】有機ハフニウム化合物の他にシリコン原子と窒素原子との結合を有する有機シリコン化合物を更に含む請求項1ないし7いずれか1項に記載のハフニウム含有膜形成材料。
【請求項9】請求項1ないし8いずれか1項に記載の形成材料を溶媒に溶解したことを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。
【請求項10】請求項1ないし9いずれか1項に記載の形成材料を用いて有機金属化学気相成長法によりハフニウム含有薄膜を作製することを特徴とするハフニウム含有薄膜の製造方法。

IV.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、本件訂正発明1?10についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として、無効審判請求、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び上申書において、下記「2」に示した証拠を提出して、次に示す無効理由1及び2を主張している。無効理由1、2について、これまでの主張を整理すると、
(1)無効理由1
本件訂正発明1?10は、甲第1号証?甲第11号証からみて、以下に述べるとおり、実施の客観的な裏付けを欠くものであり、明細書に記載された発明の作用効果を奏し得ず、未完成発明であるから、特許法第29条第1項柱書に規定する「発明」に該当せず、特許を受けることができないものである。
ア.TG曲線の比較を容易にするために、減量曲線と、急激な減量終点(クリーク点)付近で形成される緩やかな勾配直線との交点の温度を意味する減量終点温度Te、及びこの交点におけるTG値をTGeと定義する。そして、本件特許明細書の段落【0067】に記載された測定条件と同1条件で行った熱重量分析測定試験である甲第1号証に示した試験結果から明らかなように、Hf(Et2N)4中のZr含有量が1500ppm程度以下であれば、Zr含有量の差によるTe及びTGeの差はほとんど認められない。また、甲第1号証と本件特許の図4のTG曲線のTeとを比較すると、本件特許の図4に記載されたTG曲線のデータのうち、少なくとも実施例2、4及び比較例1、2については、甲第1号証記載の試験データと全く相違するものである。したがって、請求項1に係るハフニウム原子と窒素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料によって、ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制する根拠はない。(審判請求書第6頁24行?第8頁12行、第14頁6?14行)。
イ.甲第1号証に示した熱重量分析測定は、Hf(Et2N)4やHf(Me2N)4のアミド化合物が水分だけでなく空気中の酸素とも瞬時に反応するため、この影響を極力避けるために、グローブボックス型TG-DTA機を用いて測定した。流量は、このグローブボックス型TG-DTA機において最も安定で再現性の高いTG曲線が得られるように設定したものであり、また、流量によりTG曲線に及ぼす影響もほとんどない。さらに、秤量や熱重量分析時の誤差を小さくして再現性のあるデータを得るために15?20mg程度のサンプル量が必要であることは、当業者にとっては常識である。したがって、甲第1号証の試験内容及び結果は信頼性があるものである。(口頭陳述要領書第5頁4行?第7頁4行)
ウ.請求人は、本件特許の図4のTG曲線と甲第1号証のTG曲線が異なる曲線であることを主張しているのでなく、本件特許の図4に示されている各TG曲線が、同一の装置で、同一の条件で測定したのであるならば、1000ppm程度以下におけるZr含有量の差によって、TG曲線に大きな違いが生じることはないことである。(口頭審理陳述要領書第7頁5?13行)
エ.本件明細書の段落【0067】の記載、平成19年1月19日の口頭審理における被請求人の陳述及び平成19年2月8日付被請求人上申書の記載に基づく測定条件において、Hf(Et2N)4の熱重量分析測定試験を行った(甲第14号証)。測定装置は被請求人上申書に記載されているマックサイエンス社製2000S型と同仕様であるマックサイエンス社製2000型を用いた。測定雰囲気は、被請求人上申書の記載、及び口頭審理における発明者斎篤氏の陳述に従い酸素割合10%のアルゴンガスと酸素ガスの混合ガスとした。サンプル量は、被請求人上申書の記載、及び口頭審理における発明者斎篤氏の陳述に従い、約4mgとした。甲第14号証におけるZr含有量が72?1500ppmのHf(Et2N)4のTG曲線は、本件特許図4のTG曲線とは、全く異なる挙動を示すものとなった。(上申書第2頁4行?第4頁2行)
オ.本件特許の図4のTG曲線が、本件明細書の段落【0067】の記載、口頭審理における被請求人の陳述及び被請求人上申書の記載に基づく測定条件で得られたものであれば、少なくとも、実施例2、4におけるサンプルは、酸素と反応せず低温で気化しやすい化合物であることになり、Hf(Et2N)4と異なる化合物であることになる。(上申書第4頁3?11行)
カ.本件明細書の段落【0067】に記載されているとおり、本件特許の図4は、揮発性の比較のための根拠となされている。揮発性を示すTG曲線とは、アルゴン等の不活性ガス中で測定されたものを示すことは、当業者にとって常識であるが、平成19年2月8日付被請求人上申書によれば、図4はアルゴンガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気で測定されたTG曲線であり、これを揮発性を示す根拠としていることは理解できない。(上申書第5頁2?11行)
キ.Hf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、Hf(OiBu)4は、構造、物性、会合度がZr(OR)4に似ていることから、甲第9号証及び甲第10号証のZr(OR)4の蒸気圧から、その蒸気圧は、200℃/0.1Torr程度と認められる。そうすると、本願特許明細書段落【0093】に記載された70℃、2Torrという条件で気化させることは不可能であり、Hf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、Hf(OiBu)4により、薄膜を成膜することは困難である。したがって、本件特許明細書の段落【0095】?段落【0097】の表7?10に記載された成膜時間あたりの膜厚、段差被覆性も、組成自体が誤って特定されている実施例22?36及び比較例7?21のHf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、Hf(OiBu)4を用いて得られた薄膜についての評価結果であり、正当な評価結果であるとは認められない。してみると、請求項4に係るハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料によって、ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制する、成膜速度が向上する、段差被覆性に優れるとの根拠はない。(審判請求書第15頁7行?21行、第16頁22行?第17頁3行)
ク.Zr(OR)4の蒸気圧/温度データから、Hf(OR)4の蒸気圧/温度データを推定することは、決して乱暴な論理ではない。甲第9号証のTable.3.9にHf(OR)4の蒸気圧/温度のデータが、また、同Table.3.7に、これらに相応するZr(OR)4の蒸気圧/温度のデータが、下記のように記載されている。
Hf(OEt)4 沸点 180-200℃/0.1Torr
Zr(OEt)4 沸点 180℃/0.1Torr
Hf(OiPr)4 沸点 170℃/0.35Torr
Zr(OiPr)4 沸点 160℃/0.1Torr
Hf(OtBu)4 沸点 90℃/6.5Torr
Zr(OtBu)4 沸点 89℃/5.0Torr
上記データの対比から明らかなように、Hf(OR)4とZr(OR)4の沸点/圧力は近い値を示す。したがって、Hf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、及びHf(OiBu)4は、第1級アルコキシル基を有するものであり、構造、物性及び会合度がZr(OEt)4、Zr(OnBu)4及びZr(OnPr)4と似ていると推定することは、当業者にとって妥当な論理である。(口頭審理陳述要領書第10頁2?18行)

(2)無効理由2
本件訂正発明4、5は、以下に述べるとおり、その出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証、及び甲第13号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
ア.甲第12号証には、Zr含有量が500ppm未満であるHf(OtBu)4が記載され、甲第13号証には、MOCVD材料として、Zr含有量が500ppm未満であるHf(OtBu)4が記載されており、甲第13、14号証には、本件訂正発明4、5が記載されいる。(審判請求書第17頁12行?第18頁1行)
イ.Zr含有量が50?100ppmの範囲内のHf(OtBu)4を用いて成膜した場合に、『基板との密着性が向上する』ことは、実施例において何等示されておらず、その数値範囲限定に臨界的意義を見出すことができない。Zr含有量が50?100ppmの範囲内であっても、甲第13、14号証に記載されている『Zr<500ppm』の範囲内であることに変わりはない。(口頭審理陳述要領書第11頁12?20行)

2.証拠の記載事項
(1)甲第1号証(試験報告書「Hf(NEt2)4及びZr(NEt2)4の熱重量分析測定試験」)
なお、ここで、原文で例えば1、2などの数字を○囲いした記述は、その代用として「<1>」、「<2>」などと記載する。
(a)「(1)Hf(NEt2)4(Lot No.K060301)<1>合成 ハフニウム金属Hfを塩素Cl2で塩素化し、Zr含有量320ppmの塩化ハフニウムHfCl4を得た。一方、n-ブチルリチウム(nBuLi)ヘキサン溶液とジエチルアミンHNEt2とを反応させ、ジエチルアミノリチウムLiNEt2を得た。得られたHfCl4と4LiNEt2とを反応させ、減圧単蒸留し、Zr含有量150ppmのHf(NEt2)4442gを得た。これを、金網たわし状の充填物を入れた耐熱ガラス製の精密蒸留塔で塔頂圧力0.5Torrで精留し、塔頂温度105?108℃の主留分277gを得、これを試料(Lot No.K060301)とした。<2>同定 得られた試料について、元素分析、CHN分析、Cl分析、1H-NMRにより、化合物の同定を行った。・・・CHN分析、1H-NMRは、株式会社住化分析センター(SCAS)に分析依頼をした。・・・元素分析は、・・・ICP-AES(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS1700R)にて定量分析することにより行った。Cl分析は、三菱化学製燃焼式トータル塩素分析計TS-03にて行った。元素分析の結果、Hf:38.2%(計算値38.22%)であった。また、CHN分析の結果、C:39.2%(計算値41.2%)、H:8.2%(計算値8.63%)、N:11.5%(計算値12.0%)であった。・・・Cl分析の結果、Cl:31ppmであった。・・・1H-NMRスペクトルから・・・エチル基を有していることが判明した。以上の分析結果から、Lot No.K060301の試料はHf(NEt2)4であると同定される。<3>不純物金属元素分析 Zrについて、IPC-AES分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS1700R)にて定量分析した。・・・Zr含有量は、ICP-APS分析の結果、72ppmであり(以下、この分析値を用いる。)、資料3における分析結果においては、62ppmであった。」(第1頁第3行?第2頁第17行)
(b)「(2)Zr(NEt2)4(Lot No.631201)<1>合成 n-ブチルリチウム(nBuLi)ヘキサン溶液とジエチルアミンHNEt2とを反応させ、ジエチルアミノリチウムLiNEt2を得た。得られたZrCl4と4LiNEt2とを反応させ、圧力約1Torrで単蒸留し、Zr(NEt2)4210gを得、これを試料(Lot No.631201)とした。<2>同定 得られた試料について、上記(1)<2>と同様に、元素分析、CHN分析、Cl分析、1H-NMRにより、化合物の同定を行った。・・・以上の分析結果から、Lot No.631201の試料は、Zr(NEt2)4であると同定される。」(第2頁第18行?第3頁第11行)
(c)「(3)Hf(NEt2)4(Lot No.Y040621)<1>合成 Zr含有量1500ppmのHfCl4を用い、上記(1)<1>と同様の反応を行い、圧力約1Torrでの単蒸留により、Hf(NEt2)4569gを得た。これを精製することなく、試料(Lot No.Y040621)とした。<2>同定 元素分析の結果、Hf:36.7%(計算値38.22%)であった。したがって、合成方法が上記(1)<1>と同様であることと併せて、Lot No.Y040621の試料は、Hf(NEt2)4であると同定される。<3>不純物金属元素分析 上記(2)<3>と同様にして、定量分析した。その結果を下記表1に示す。」(第3頁第19行?第4頁第2行)
(d)表1には、上記摘示事項(c)に関して、Hf(NEt2)4(Lot No.Y040621)のZr含有量が1400ppmであることが記載されている。
(e)「(4)Hf(NEt2)4(Lot No.K060306) 上記において合成したHf(NEt2)4(Lot No.K060301)試料29.0338gに、Zr(NEt2)4試料(Lot No.631201)0.1848gを添加し、混合したものをHf(NEt2)4(Lot No.K060306)とした。Zr含有量について、上記(1)<3>と同様に、ICP-APS分析した結果、1500ppm(理論値1588ppm)であった。」(第4頁第3?8行)
(f)「2.熱重量分析測定 ブルッカー社製グローブボックス型TG-DTA機にて熱重量分析を行った。以下、Teとは、減量曲線と、急激な減量終点(クニーク点)付近で形成される緩やかな勾配直線との交点の温度を意味する。また、この交点におけるTG値をTGeとする。(1)測定条件によるTeの測定誤差 Zr含有量72ppmのHf(NEt2)4試料(Lot No.K060301)を用いて、各種測定条件がTe及びTGe値に及ぼす影響を調べた。これらの測定結果を図1?8に示し、これらから求めたTe及びTGe値を下記表2に示す。<1>ガス流量 図1?3及び表2に示した結果から、ガス流量300?1000cc/minの場合、Teの温度差は3℃であり、TGe値はいずれも3%であるため、ガス流量500cc/minで測定した場合、ガス流量による影響はないと推定される。<3>サンプル量 図2、4、5及び表2に示した結果から、Teは、サンプル量が多い方ほど、1mgにつき約1℃高くなることが認められた。このことから、サンプル量20mg±2mgでのTeの測定誤差は4℃以内となると推定される。」(第4頁第9行?第5頁第7行)
(g)「(2)各試料の熱重量分析測定結果 昇温速度10℃/min、サンプル量約20mg、ガス流量500cc/minで、Zr含有量72ppmのHf(NEt2)4試料(Lot No.K060301)について測定した結果は、図2、7、8に示したとおりである。同1条件で、Zr含有量1500ppmのHf(NEt2)4試料(Lot No.K060306)について測定した結果を図9?11に、Zr含有量1400ppmのHf(NEt2)4試料(Lot No.Y040621)について測定した結果を図12?14に示した。また、同1条件で、Zr(NEt2)4試料(Lot No.631201)について測定した結果を図15?17に示した。・・・また、上記12点の試料についてTG曲線を重ねたものを図18に示す。・・・(3)結論 表2から、Zr含有量の異なるHf(NEt2)4またはZr(NEt2)4についてのTe及びTGe測定値をまとめて表3に示す。・・・表3に示したように、Zr含有量が72ppm、1500ppm、1400ppmのHf(NEt2)4の各試料のTeは、234?239℃であり、Zr含有量による差は、高々5℃であり、また、Zr(NEt2)4試料とZr含有量1500ppmのHf(NEt2)4試料とのTeの差は、高々8℃であった。また、TGeは、Hf(NEt2)4試料のいずれも3?4%であり、Zr含有量による差はなく、また、Zr(NEt2)4試料のTGeは7%であり、Hf(NEt2)4との大差はなかった。・・・以上より、Hf(NEt2)4中のZr含有量が1000ppm程度(Zr(NEt2)4換算で1000×379.75/91.224=4160ppm)以下であれば、Zr含有量の差によるTe及びTGeの差はほとんど認められない。」(第5頁第22行?第7頁末行)
(h)図2、7、8には、Zr含有量72ppmのHf(NEt2)4試料(Lot No.K060301)のTG曲線が、図9?11には、Zr含有量1500ppmのHf(NEt2)4試料(Lot No.K060306)のTG曲線が、図12?14には、Zr含有量1400ppmのHf(NEt2)4試料(Lot No.Y040621)のTG曲線が、図15?17には、Zr(NEt2)4試料(Lot No.631201)のTG曲線が、それぞれ記載され、そして、図18には、これら12点の試料のTG曲線を重ねた図が記載されている。
(i)図2、7?11には「20℃から400℃までのTG(%)」が示され、「TG(%)の下限値」として「それぞれ-96.63%、-97.03%、-96.81%、-96.58%、-96.46%、-96.91%」と記載され、図18にはそれぞれの重ねたTG曲線から「ほぼTG曲線が同じ曲線を描き、下限値も-96?97%のほぼ同じ値を示していること」が窺える。
(j)図2、7?17のコメント欄には、「Ar500sccm」と記載されている。

(2)甲第2号証(Epichem社のホームページ(http://www.epichem.com/oxides_nitrides/products/details/hafniumtetradiethylaminde.html、2006年2月6日))
(a)「Tetrakis(diethylamido)hafnium・・・Vapour pressure 0.1 Torr at 120℃」(当審訳:Hf(Et2N)4・・・120℃の蒸気圧は0.1torr)
(b)上記化合物に関して、「Evaporation Behaviour Thermogravimetric Analysis」(当審訳:熱重量分析の蒸発動作)についての図が示されている。

(3)甲第3号証(試験報告書「Hf(Et2N)4及びHf(Me2N)4の蒸気圧測定試験」)には、Hf(Et2N)4及びHf(Me2N)4の蒸気圧に関して次の事項が記載されている。
(a)「3.測定結果 (試料1)Hf(Et2N)4:105?108℃/0.5torr、(試料2)Hf(Me2N)4:55℃/0.7torr」(第2頁第19?21行)

(4)甲第4号証(Hideaki MACHIDA et al., “Vapor pressure of Hf and Si precursors for HfxSi1-xO2 deposition evaluated by a saturated gas technique”, JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS PART 1, 2004, Vol.43, p.966-967)
(a)「Table II Clausius-Clapeyron equation for each precursor」(当審訳「表2 各前駆体のクラジウス-クラペイロン式」、第967頁)には、「Hf(NEt2)4 log p = 9.86 - 3,881 / T」と記載されいる。

(5)甲第5号証(Dennis M. HAUSMANN et al., “Atomic layer deposition of hafnium and zirconium oxides using metal amide precursors”, CHEMISTRY OF MATERIALS, 2002, Vol.14, No.10, p.4350-4358)
(a)「Table 5. Results of Vapor-Pressure Measurements for Each Precursor Fit to the Clausius-Clapeyron Equation」(当審訳「表5 クラジウス-クラペイロン式に適合する各前駆体の蒸気圧測定の結果」、第4358頁)には、「Hf(NMe2)4」の「temp(0.1Torr)(℃)」が「48」、及び「Hf(NEt2)4」の「temp(0.1Torr)(℃)」が「96」であることが示されている。

(6)甲第6号証(Aldrich社の製品カタログ(2005-2006),p.2238)
(a)「Tetrakis(diethylamido)hafnium(IV)」欄に、「bp....130℃/0.01mmHg」と記載されている。

(7)甲第7号証(G. CHANDRA et al., “Amido-derivatives of Metals and Metalloids. Part VI. Reactions of Titanium(IV), Zirconium(IV), and Hafnium(IV) Amides with Protic Compounds”, JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY A, 1968, p.1940-1945)
(a)「Tetrakis(dimethylamido)hafnium(IV) (15.1g., 38.4%), b.p. 54-56°/0.03mm.」(第1968頁右欄第43?45行)
(b)「Tetrakis(diethylamido)hafnium as a colourless liquid (40.0g., 70.9%), b.p. 117°/0.04mm.」(第1968頁右欄第49?50行)

(8)甲第8号証(安原三紀子他,「HfO2、HfSiO4用ALD材料Hf[N(CH3)2]4の物性」,第49回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2002年3月,882頁)
(a)図には「Hf(NMe2)4のクラウジウス-クラペイロンプロット」が示され、その横に「Log10 P = - 3377 / T + 9.99 P:Torr, T:K」であることが記載されている。

(9)甲第9号証(D.C.BRADLEY et al., “Metal Alkoxides”, ACADEMIC PRESS, 1978, p.60-72)
(a)「Table 3.7. BOILING POINTS AND MOLECULAR COMPLEXITIES OF TITANIUM AND ZIRCONIUM TETRAALKOXIDES」(当審訳「表3.7 チタン及びジルコニウムのテトラアルコキシドの沸点と分子複雑性」、第63頁)には、Zr(OR)4の「Boiling Point(℃/mm)」が示され、Rが「C2H5」の場合は「180/0.1」、Rが「CH3CH2CH2CH2」の場合は「243/0.1」、Rが「(CH3)2CH」の場合は「160/0.1」、Rが「(CH3)3C」の場合は「89/5.0」であることが記載されている。
(b)「Table 3.9. THERMODYNAMIC PROPERTIES AND MOLECULAR COMPLEXITIES OF TITANIUM, ZIRCONIUM AND HAFNIUM ALKOXIDES」(当審訳「表3.9 チタン、ジルコニウム及びハフニウムのアルコキシドの熱力学特性と分子複雑性」、第68頁)には、「M(OR)4」の「B.P.(℃/mm)」が示され、「Zr(OBut)4」は「89.1/5.0」、「Hf(OEt)4」は「180-200/0.1」、「Hf(OPri)4」は「170/0.35」、「Hf(OBut)4」は「90/6.5」と記載されている。

(10)甲第10号証(D. C. BRADLEY et al., “Structural Chemistry of the Alkoxides. Part IV. Normal Alkoxides of Silicon, Titanium, and Zirconium”, JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY, 1953, p.2025-2030)
(a)「Table 1」(第2026頁)には、「Zircominum alkoxide」の「B.P./0.1mm.」が示され、「alcohol」が「Propanol」の場合には、「208」であることが記載されている。

(11)甲第11号証(D. C. BRADLEY et al., “Vapour Pressures of Metal Alkoxides. Part III. Hafnium Tetra-t-butoxide and -t-pentyloxide”, JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY, 1959, p.3773-3776)
(a)「TABLE 1. Hafnium tetra-t-butoxide.」(第3774頁)には、「Temp.(°K)」が「343.3」のときの「P(mm.)」が「1.83」であることが記載されている。

(12)甲第12号証(「株式会社高純度化学研究所2003年版総合カタログ」,新装第3版,株式会社高純度化学研究所発行,平成15年5月1日,X頁,199頁)
(a)「39.Hf Hafniumハフニウム・・・materials for CVD」(第X頁第17?19行)
(b)「ここで記載された試薬は、試験研究用試薬です。・・・Hf(O-t-C4H9)4テトラ-t-ブトキシハフニウム・・・Typical impurities (分析例)・・・Zr<500ppm」(第199頁第17?20行)

(13)甲第13号証(「(株)高純度化学研究所の高・強誘電体薄膜用MO-CVD材料2002年度版」,(株)高純度化学研究所発行,2002年,1頁,4頁,14頁)
(a)「目次 (株)高純度化学研究所のMOCVD材料[一覧] 2 ・・・ 化合物の不純物分析結果の一例 14」(第1頁)
(b)第4頁には、摘示事項(a)の「(株)高純度化学研究所のMOCVD材料[一覧]」が示されており、その中に「Hf(OtBu)4 Hafniumu tetra(t-butoxide) テトラターシャリーブトキシハフニウム」と記載されている。
(c)第14頁には、摘示事項(a)の「化合物の不純物分析結果の一例」が示されており、その中に「Hf(OtBu)4・・・(Zr<500)」と記載されている。

(14)甲第14号証(試験報告書「Hf(NEt2)4の熱重量分析測定試験」)
(a)「1.測定装置 マックサイエンス社製TG-DTA2000」(第1頁第2行)
(b)「2.測定条件 ガス雰囲気:Ar90%+O210%の混合ガス・・・ ガス流量:100cc/min サンプル量:4?5mg 昇温速度:10℃/min」(第1頁第3?8行)
(c)「3.測定試料 甲第1号証における熱重量分析測定試験で用いたものと同様の以下の3種を用意した。試料1:Zr含有量72ppmのHf(NEt2)4(Lot No.K060301)、試料2:Zr含有量1500ppmのHf(NEt2)4(Lot No.K060306)、試料3:Zr含有量1400ppmのHf(NEt2)4試料(Lot No.Y040621)」(第1頁第9?14行)
(d)「5.結論 図1?4及び図5に示したように、得られたTG曲線はいずれも、本件特許図4に示されているTG曲線とは、挙動が大きく異なるものであり、スムーズな減量曲線は得られなかった。また、Zr含有量が72?1500ppmのHf(NEt2)4では、400℃においても、減量は42?49%であり、50%以上の(減量残分)不揮発成分が生じており、この点については、Zr含有量による差は見られなかった。」(第2頁第1?7行)
(e)図1?5には、「20℃から500℃までTG(%)」が示され、図1、2には、Zr含有量72ppmのHf(NEt2)4試料のTG曲線が、図3には、Zr含有量1500ppmのHf(NEt2)4試料のTG曲線が、図4には、Zr含有量1400ppmのHf(NEt2)4試料のTG曲線が、それぞれ記載され、そして、図5には、これら4点の試料のTG曲線を重ねた図が記載されている。
(f)第2頁表1には、図1?4から求めた400℃での減量が示されており、Zr含有量72ppmの試料では、48.9%、44.2%、Zr含有量1500ppmの試料では、42.7%、Zr含有量1400ppm試料では、47.0%となることが示されている。

V.被請求人の反論と証拠方法
1.被請求人の反論
被請求人は、請求人の主張に対して、乙第1?3号証及び参考資料を提示し、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び上申書を整理すると、無効理由について、本件訂正発明1?10は、未完成発明でなく、特許法第29条第1項柱書の規定に該当せず、また、本件訂正発明4、5は、甲第12号証及び甲第13号証に記載された発明と同一でなく、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、特許要件を具備したものであると反論し、主に次の点を主張している。
(1)無効理由1に対する反論
ア.甲第1号証の熱重量分析測定は、本件特許明細書の段落【0067】に記載された測定条件を満たす条件で行われているが、これ以外の条件については、当業者が行う一般的な熱重量分析と比べると、測定に使用した熱重量分析装置、ガス流量及びサンプル量が極めて特殊な条件で行われている。したがって、本件特許の図4のTG曲線と、請求人が甲第1号証で測定したTG曲線とが、異なる曲線となることは必然の帰結である。(答弁書第5頁第27行?第9頁第21行)
イ.本件特許の権利範囲内の試料と、権利範囲外の試料を用い、不純物として含まれるジルコニウム元素の含有量の違いが熱分解特性にどのような影響を与えているかを示す熱分析結果報告書を提出する。この熱分析結果報告書の図2は測定結果を示すTG曲線である。酸素雰囲気下では、不活性ガス雰囲気下と異なり、測定後100℃までの低温域であっても、TG曲線が大きく変化していることが判る。(口頭審理陳述要領書第1頁下から2行?第2頁8行)
ウ.本件特許図4のTG曲線を得るための測定装置は、マックサイエンス社製2000S型である。また、その測定条件は、測定雰囲気をアルゴンガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気とし、測定サンプルは、サンプルパンに図り取った量が3?8mgの範囲内であった。また、本件特許明細書段落【0067】にあるとおり、測定の昇温速度は10℃/分、測定温度は室温?500℃である。(上申書第1頁下から5行?第2頁8行)
エ.本件特許の図4に示す5つのTG曲線は、酸素とアルゴンの混合ガス条件で測定した熱重量変化の曲線であり、図4は、気化安定性と熱分解特性の両者を含んだデータである。実施例2、4のTG曲線では、150℃まで熱分解を生じることなく、蒸発し尽くしており、気化開始温度から気化終了温度まで極めて単純な曲線であり、気化安定性に極めて優れていることを示している。(上申書第2頁11?29行)
オ.請求項1?3、6?10に係るハフニウム原子と窒素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料において、成膜速度の向上を妨げるジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制することができ、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上するとの効果は、本件明細書の表2、表4、表6の測定データによりその裏付けがなされている。(答弁書第12頁3?17行)
カ.Hf(OR)4の蒸気圧/温度データを、全くの別物質であるZr(OR)4のデータを基にして推定するのは、極めて乱暴な理論であり、このような請求人の論法は、到底認められるのではない。そして、本件明細書の段落【0095】?段落【0097】の表7?9に記載された成膜時間あたりの膜厚、段差被覆性は、正当な評価結果である。(答弁書第13頁22行?第14頁24行)
キ.請求項4?10に係るハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料において、成膜速度の向上を妨げるジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制することができ、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上するとの効果は、本件明細書の段落【0096】の表8などの測定データによりその裏付けがなされている。(答弁書第14頁25?第15頁8行)

(2)無効理由2に対する反論
ア.本件訂正発明4は、甲第12号証及び甲第13号証に開示された内容を含むものでないため、新規性を有する。(答弁書第16頁15?16行)
イ.本件訂正発明5は、一見すると、甲第12号証及び甲第13号証に開示された内容を含むように感じるが、単にジルコニウム含有量を低減したような発明でなく、『基材との密着性が向上する』という優れた効果を奏するために、ジルコニウム元素の含有量を50?100ppmの範囲内となるように調整した、数値限定発明である。(答弁書第16頁第17?21行参照)

2.乙第1号証?乙第3号証、及び参考資料の記載事項
(1)乙第1号証(日本規格協会編集,「JISハンドブック26プラスチックI試験」,第1版,財団法人日本規格協会発行,2005年1月31日,611?613頁)
(a)プラスチックの熱重量測定方法の条件として、「(2)流入ガスの流量を毎分50?100mlに調整する。」(第612頁第2行)ことが記載されている。

(2)乙第2号証(「熱重量分析における、熱重量分析測定装置によるTG曲線の相違」)
(a)Pb(dpm)4をサンプルとし、異なる装置A及び装置Bを用いて得られたTG曲線が示され、そして、Fig4からは、装置AによるTG曲線の終了温度と、装置BによるTG曲線の終了温度が異なること、及び、装置Aによるロット1?3のTG曲線の終了温度がほぼ同一であることがみてとれる。

(3)乙第3号証(「熱重量分析における、同一種類の測定サンプルの測定毎の違いによるTG曲線の相違」)
(a)Hf(OtBu)4をサンプルとし、装置Bを用いて得られたTG曲線が示されている。

(4)参考資料(熱分析結果報告書「ハフニウムアミノ錯体(ジエチルアミノ錯体)熱分析結果に関する報告」)
ハフニウムアミノ錯体(ジエチルアミノ錯体)熱分析に関し、次の事項が記載されている。なお、例えば「<1>」、「<2>」とは、原文で数字を○囲いした記述の代用としたものである。
(a)「2.2 分析条件 <1>分析装置PerkinElmer社製Pyrcsl TGA <2>分析試料重量3mg <3>測定雰囲気は酸素として、測定中の酸素流量は100ccmとする。<4>測定温度領域は室温から100℃とし、昇温速度は10℃毎分とする。」(第2頁下から14?10行)
(b)「Zr濃度が650ppm以下(350ppmおよび650ppm)では、減量が比較的緩やかに進行しているのに対して、Zr濃度5000ppmの場合は初期から急激な減量が進行し、50℃近傍での顕著な減量が観察される。この減量はハフニウムアミノ錯体の分解反応に起因すると推定され、Zr濃度が高いサンプルの熱的安定性は、Zr濃度が650ppm以下のサンプルと比較して低いことを示している。」(第2頁下から1行?第3頁4行)
(c)図2には、摘示事項(a)、(b)に関連し、ハフニウムアミノ錯体(ジエチルアミノ錯体)の熱分析結果が示されており、Zr含有量が5000ppm、650ppm、350ppmの各サンプルのTG曲線は、100℃までの低温域であっても、TG曲線が大きく変化していることが窺える。

VI.当審の判断
1.無効理由1について
1-1.本件訂正発明1について
(一)本件訂正発明1は、「ハフニウム原子と窒素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料」であって、「前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であること」(以下、「構成x」という。)を特徴としたものであるが、この構成xに関して、本件訂正明細書には、次の事項が記載されている。
ア.[発明が解決しようとする課題]
ア-1.「上記Hf(OtBu)4や上記特許文献1に示されたHf(DPM)4、上記特許文献2に示されたM[N(C2H5)2]4には、これらの化合物の組成には含まれていないが、この化合物を合成する反応の際には、ジルコニウム元素が不純物として必ず含まれてしまう問題があった。それはジルコニウム元素がハフニウム元素とその化学構造や挙動が極めて類似しているためであり、容易に除去することができないことに起因する。不可避不純物としてジルコニウム元素がハフニウム含有膜形成材料中に含まれると、揮発性が悪く、成膜速度が低下したり、形成したハフニウム含有薄膜の段差被覆性を低下させる原因となっていた。」(段落【0004】)
ア-2.「本発明の目的は、気化安定性に優れ、高い成膜速度を有するハフニウム含有膜形成材料を提供することにある。本発明の別の目的は、良好な段差被覆性を有するハフニウム含有薄膜の製造方法を提供することにある。」(段落【0005】)
イ.[課題を解決するための手段]
イ-1.「・・・請求項1に係る発明では、従来より不可避化合物として少なくとも1000ppm程度含まれ、成膜速度の向上を妨げるジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制することができるため、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上する。」(段落【0006】)
ウ.[発明の効果]
ウ-1.「本発明のハフニウム含有膜形成材料では、従来より不可避化合物として少なくとも1000ppm程度含まれ、成膜速度の向上を妨げるジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制することができるため、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上する。本発明のハフニウム含有膜形成材料を用いて作製されたハフニウム含有薄膜は、段差被覆性に優れる。本発明のハフニウム含有薄膜の製造方法では、段差被覆性に優れたハフニウム含有薄膜が得られる。」(段落【0019】)
エ.[実施例]
エ-1.「<実施例1>ジルコニウム元素が1000ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムと、トルエンをそれぞれ用意し、トルエンに四塩化ハフニウムを懸濁させて懸濁液を調製した。また、3-クロロ-ヘキサフルオロアセチルアセトンと3-クロロ-2,4-ペンタンジオンをそれぞれ用意し、これらの化合物を重量比で1:10の割合となるように混合し、更に、この混合物をジエチルエーテルを溶媒として、全割合の80%が溶媒となるように希釈して希釈液を調製した。懸濁液と希釈液を混合して四塩化ハフニウム反応液とした。次に、金属リチウム又は金属ナトリウム、金属カリウム等のアルカリ金属にトルエンを溶媒として加え、50℃に加熱して反応させ、得られた上澄み反応液を四塩化ハフニウム反応液に、氷冷下でゆっくり滴下した。続いて上済み反応液を滴下した四塩化ハフニウム反応液をろ過して沈殿物を除去し、得られたろ液に0.1N希塩酸を冷却しながらゆっくり添加した。希塩酸添加によって沈殿した白色の固体を素早くろ別し、更に、油相と水相とに分離した。更に、分離した水相にリグロインを添加して水相中の成分を抽出し、この抽出操作を10回繰返した。最後に無水硫酸ナトリウムを抽出液に添加して24時間放置乾燥した。次に、リグロイン抽出液に波長365nm程度のUV内部照射を約1時間行い、UV照射した抽出液にジエチルアミンを4倍モル等量加え、更にUV照射を約2時間行い、アミンとハフニウムとを反応させた。このようにしてHf(Et2N)4を得た。Hf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS(UV-Visible Spectroscopy)吸収スペクトル法により測定したところ500ppmであった。このZr含有量500ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。」(段落【0062】?段落【0063】)
エ-2.「<実施例2>リグロイン抽出を15回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ100ppmであった。このZr含有量100ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例3>リグロイン抽出を18回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ50ppmであった。このZr含有量50ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例4>リグロイン抽出を22回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ10ppmであった。このZr含有量10ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。・・・」(段落【0064】)
エ-3.「<比較例1>先ずn-ブチルリチウムとジエチルアミンからジエチルアミノリチウムを合成した。次いで、金属含有化合物としてジルコニウム元素が20000ppm以上含まれているHfCl4を用い、このHfCl4に対して4倍モル量のジエチルアミノリチウムを加え、この溶液を氷冷して30分間反応させることにより粗生成物を得た。次に粗生成物を室温に戻した後、減圧蒸留精製を行うことによりHf(Et2N)4の精製物を得た。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ1000ppmを越える含有量であった。このZr含有量1000ppmを越えるHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例2>リグロイン抽出を5回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ700ppmであった。このZr含有量700ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。」(段落【0066】)
エ-4.「<比較評価1>実施例1、2及び4、比較例1及び2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を熱重量測定した。測定条件としては昇温速度を10℃/分、測定温度を室温?500℃とした。得られたTG曲線を図4にそれぞれ示す。図4より明らかなように、有機ハフニウム化合物に含まれるZr含有量の多寡が有機ハフニウム化合物の揮発性に大きな影響を与えていることが判る。比較例1及び2では、十分な揮発が行われておらず、比較例1では25重量%が、比較例2では12重量%が黒色残渣として残った。これに対して実施例1、2及び4では、高い揮発性を有しており、Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる結果となった。」(段落【0067】)
エ-5.【図4】には、実施例1、2及び4、比較例1及び2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を熱重量測定して得られたTG曲線が示されている。
エ-6.「<比較評価2>実施例1?7及び比較例1、2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験を行った。先ず、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板を図5に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を200℃、気化温度を140℃、圧力を約266Pa(2Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を100ccmとした。次に、キャリアガスとしてArガスを用い、溶液原料を0.05cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。(1)成膜時間あたりの膜厚試験 成膜を終えた基板上の酸化ハフニウム薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。(2)段差被覆性試験 成膜を終えた基板上の酸化ハフニウム薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。段差被覆性とは図6に示される溝等の段差のある基板61に薄膜62を成膜したときのa/bの数値で表現される。a/bが1.0であれば、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されているため、段差被覆性は良好であるといえる。逆にa/bが1.0未満の数値であれば、基板の平坦部分よりも溝の奥の方が成膜度合いが大きく、a/bが1.0を越える数値であれば、溝の奥まで成膜し難く、それぞれ段差被覆性は悪いとされる。」(段落【0068】)
エ-7.【表1】及び【表2】には、実施例1?7及び比較例1、2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料に含まれる各不純物含有量、得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果が示されている。
エ-8.「表1及び表2より明らかなように、比較例1及び2のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、この比較例1及び2のハフニウム含有膜形成材料を用いて溝部を有する基板上にゲート酸化膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。これに対して実施例1?7のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、比較例1及び2のハフニウム含有膜形成材料を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、また成膜時間あたりの膜厚が均等になっており、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。」(段落【0072】)
エ-9.【表3】及び【表4】には、実施例8?14及び比較例3、4でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料に含まれる各不純物含有量、得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果が示されている。また、【表5】及び【表6】には、実施例15?21及び比較例5、6でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料に含まれる各不純物含有量、得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果が示されている。
(二)上記記載ア?ウによれば、本件訂正発明1の構成xは、「不可避不純物としてジルコニウム元素がハフニウム含有膜形成材料中に含まれると、揮発性が悪く、成膜速度が低下したり、形成したハフニウム含有薄膜の段差被覆性を低下させる原因となっていた」ことから、「従来より不可避化合物として1000ppm程度含まれ」ていた「ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより」、「気化特性、熱分解特性を抑制することができる」、「ハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上する」、及び「ハフニウム含有膜形成材料を用いて作製されたハフニウム含有膜は、段差被覆性に優れる」との効果を達成したものであると理解でき、このことを実施例によって裏付けしようとするものである。
そこで、裏付けとなる実施例について詳細に検討する。
まず、実施例の「比較評価1」についてみてみると、記載エ-4によれば、「実施例1、2及び4、比較例1及び2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料」を、「昇温速度を10℃/分、測定温度を室温?500℃」とした測定条件で熱重量測定し、TG曲線(図4)が得られ、「有機ハフニウム化合物に含まれるZr含有量の多寡が有機ハフニウム化合物の揮発性に大きな影響を与えていること」、「比較例1及び2では、十分な揮発が行われておらず、比較例1では25重量%が、比較例2では12重量%が黒色残渣として残った」、「これに対して実施例1、2及び4では、高い揮発性を有しており、Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる結果となった」として、Zr含有量と揮発性を関連づけており、このことが気化安定性に繋がり、成膜速度や段差被覆性の原因となることから、このZr含有量と揮発性の関連が、本件訂正発明1の裏付けのベースをなすものといえる。
確かに、図4のTG曲線を見る限り、Zr含有量と揮発性の関連は上記記載したとおり、黒色残渣量から「Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる」ことが窺える。
(三)しかしながら、請求人が、「ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制する根拠はない」(IV.1(1)ア)と主張していることから、本件訂正発明1の上記裏付けのベースとなる図4のTG曲線が、その根拠と成りうるかどうかについて、詳しくみることとする。
はじめに、熱重量測定の雰囲気ガスは、その測定結果を左右するものであるから、本件訂正明細書の熱重量測定の雰囲気ガスについてみると、本件訂正明細書にはどのような雰囲気下で実施されたかについて記載されていない。しかしながら、本件訂正発明1のハフニウム含有膜形成材料は、CVD原料として図5に記載されたMOCVD装置の気化器で気化させ、気化されたハフニウム含有膜形成材料をアルゴンキャリアガスにより成膜室へ導入し、成膜室で別途導入された酸素ガスと反応させてハフニウム含有膜とするものであり、そして、CVD原料の揮発性について調べようとすると、CVD原料の揮発の程度が重要となる気化器での揮発性を調べることが普通であり、本件訂正明細書の記載全体をみてもこれを否定する根拠はないから、本件訂正明細書の熱重量測定は、気化器と同じアルゴンガス雰囲気で行われているといえる。
そこで、本件の熱重量測定がアルゴンガス雰囲気中で行われたとして、請求人が提示した甲第1号証と比較してみる。
まず、甲第1号証の摘示事項(a)、(b)、(e)によれば、Lot No.K060301の試料及びLot No.K060306の試料は、元素分析、CHN分析、Cl分析、1H-NMRにより、Hf(NEt2)4であることが同定され、ICP-APS分析の結果、前者のZr含有量は72ppmであり、後者は1500ppmのであるといえる。さらに、摘示事項(f)?(j)によれば、これら試料について、ブルッカー社製グローブボックス型TG-DTA機を用いて、昇温速度10℃/min、測定温度20℃?400℃、サンプル量約20mg、ガス流量500cc/minの条件で、Ar雰囲気下で熱重量分析測定を行うことが示されているといえ、その結果が、TG曲線として、図2、7、8(Lot No.K060301の試料)、図9?11(Lot No.K060306の試料)、図18に記載され、摘示事項(i)によれば、図2、7?11、18から「TG曲線はほぼ同じ曲線を描き、TG(%)の下限値も各試料でほぼ同じ値(-96?97%)を示している」ことが窺える。
そして、このTG(%)の下限値が上記した本件訂正明細書の黒色残渣量に相当するとみることができるから、本件訂正発明1の上記裏付けのベースとなる図4のTG曲線と甲第1号証のTG曲線は、Zr含有量により黒色残渣量が、前者では変化しているが後者では変わらないという点で明らかに相違した結果となっている。なお、この点は、請求人が「無効理由1」の「ア」で主張するとおりである。
この点に対して、被請求人は、答弁書において、「甲第1号証の熱重量分析測定は、本件特許明細書に記載された測定条件を満たす条件で行われているが、これ以外の条件については、一般的な熱重量分析と比べると、測定に使用した熱重量分析装置、ガス流量及びサンプル量が極めて特殊な条件で行われているから、本件特許の図4のTG曲線と、請求人が甲第1号証で測定したTG曲線とが、異なる曲線となることは必然の帰結である。」(V.1(1)ア)と反論している。
一方、請求人は、これに対し「Hf(Et2N)4は、水分や空気中の酸素とも瞬時に反応するため、この影響を極力避けるために、グローブボックス型TG-DTA機を用いて測定したのである。流量は、このグローブボックス型TG-DTA機において最も安定で再現性の高いTG曲線が得られるように設定したものであり、また、流量によりTG曲線に及ぼす影響もほとんどない。さらに、秤量や熱重量分析時の誤差を小さくして再現性のあるデータを得るために15?20mg程度のサンプル量が必要であることは、当業者にとっては常識である。したがって、甲第1号証の試験内容及び結果は信頼性があるものであ」り、「請求人は、本件特許の図4のTG曲線と甲第1号証のTG曲線が異なる曲線であることを主張しているのでなく、本件特許の図4に示されている各TG曲線が、同一の装置で、同一の条件で測定したのであるならば、1000ppm程度以下におけるZr含有量の差によって、TG曲線に大きな違いが生じることはないことである。」(IV.1(1)イ、ウ)と主張している。
これら双方の主張をみても、甲第1号証の熱重量測定の条件が極めて特殊な条件であるとまではいえないし、また、熱重量測定において、一定条件で得られた複数のTG曲線から読み取れる定性的な傾向は、別の一定条件で得られた複数のTG曲線から読み取れる定性的な傾向と異なるものではないから、本件特許の図4のTG曲線と甲第1号証のTG曲線から読み取れる黒色残渣量の定性的な傾向の違いを、熱重量分析装置、ガス流量及びサンプル量が異なることとする被請求人の主張を認めることはできない。
そうすると、アルゴンガス雰囲気で測定された甲第1号証の結果からみて、本件特許の図4のTG曲線に基づく「Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる」という結果は信憑性に欠けるものといわざると得ない。
(四)ところが、被請求人は答弁書で本件特許の熱重量測定の雰囲気ガスについて何等主張しなかったにも関わらず、口頭審理陳述要領書では、「酸素雰囲気下」(V.1(1)イ)とし、さらに口頭審理及び上申書において「アルゴンガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気」(V.1(1)ウ)であると主張を転じ、そして、「本件特許の図4のTG曲線」が、「マックサイエンス社製2000S型で、アルゴンガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気、測定サンプル量が3?8mg、昇温速度10℃/分、測定温度は室温?500℃」(V.1(1)ウ)の条件で測定されたものであると主張してる。
これら主張については、本件訂正明細書に先に述べたとおり、昇温速度及び測定温度以外の条件について何ら記載がないので、その根拠が定かではないことはもちろんであるが、仮に、「図4のTG曲線」が、被請求人の主張する条件で測定されたものとして以下検討すると、
「本件明細書の記載、口頭審理における被請求人の陳述及び被請求人上申書の記載に基づく測定条件で測定したHf(Et2N)4の熱重量分析測定試験」(IV.1(1)エ)の結果として請求人から提出された甲第14号証の摘示事項(c)によれば、甲第1号証における熱重量分析測定試験で用いたZr含有量が72ppm、1500ppm、1400ppmのHf(NEt2)4試料についての熱重量分析測定が示され、この熱重量分析測定は、摘示事項(a)、(b)、(e)によると、マックサイエンス社製TG-DTA2000を用いて、昇温速度10℃/min、測定温度20℃?500℃、サンプル量4?5mg、Ar90%とO210%の混合ガス流量100cc/minで測定したものといえ、摘示事項(d)、(f)によれば、これら熱重量分析測定の結果から、Zr含有量が72?1500ppmのHf(NEt2)4の試料は、スムーズな減量曲線は得られず、また、「400℃での減量」が42.7?48.9%であり、Zr含有量による減量の差はみられないといえる。
そして、この甲第14号証の「400℃の減量」は、本件訂正明細書の黒色残渣量に相当するとみることができるから、Zr含有量が72?1500ppmのHf(NEt2)4の試料は、Zr含有量により黒色残渣量に差は生じないということとなり、本件特許の図4のTG曲線とは、明らかに相違した結果となっている。なお、この結果は、請求人の「無効理由1」の「エ」の主張のとおりである。
してみると、甲第14号証を見る限り、仮に本件特許の図4のTG曲線が被請求人の主張する測定条件で測定されたものとしても、この図4のTG曲線に基づく「Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる」という結果の信憑性があるとはいえない。
(五)さらにいえば、本件訂正明細書の熱重量測定の測定試料は、上記記載エ-1?エ-4のとおり、実施例1、2、4及び比較例2のハフニウム含有膜形成材料が、「市販の四塩化ハフニウムをトルエンに懸濁させて懸濁液とし、この懸濁液と、3-クロロ-ヘキサフルオロアセチルアセトンと3-クロロ-2,4-ペンタンジオンのジエチルエーテル希釈液とを混合して四塩化ハフニウム反応液とし、この四塩化ハフニウム反応液にアルカリ金属トルエン反応液を滴下した後ろ過し、ろ液に希塩酸を添加して得られた白色固体をろ別し、この白色固体の水相からリグロインで成分を抽出し、このリグロイン抽出液にUV照射、ジエチルアミン添加、UV照射を行い、アミンとハフニウムとを反応させる」ことによって得られた「Hf(Et2N)4」である。また、比較例1のハフニウム含有膜形成材料が、「n-ブチルリチウムとジエチルアミンからジエチルアミノリチウムを合成し、HfCl4に対してジエチルアミノリチウムを加えて反応させ、減圧蒸留精製を行う」ことにより得られた「Hf(Et2N)4」である。そして、これら実施例1、2及び4、比較例1及び2によって得られたいずれのHf(Et2N)4についても、同定はなされていない。
また、被請求人の「本件特許の図4に示す5つのTG曲線は、酸素とアルゴンの混合ガス条件で測定した熱重量変化の曲線であり、図4は、気化安定性と熱分解特性の両者を含んだデータである。実施例2、4のTG曲線では、150℃まで熱分解を生じることなく、蒸発し尽くしており、気化開始温度から気化終了温度まで極めて単純な曲線であり、気化安定性に極めて優れていることを示している。」(V.1(1)エ)との主張によると、実施例2、4の測定試料は、150℃まで酸素とアルゴンの混合ガス条件で熱分解しないこととなる。そうすると、Hf(Et2N)4等のアミド化合物が、水分や酸素と極めて反応しやすい化合物であることは技術常識であるといえるから、この実施例2、4の測定試料は、Hf(Et2N)4と異なる化合物であるといえる。なお、この点は、請求人が「無効理由1」の「オ」で主張しているところでもある。
してみると、実施例1、2、4及び比較例1、2の測定試料であるハフニウム含有膜形成材料は、同定されていないことを勘案すれば、Hf(Et2N)4と異なる化合物であるとも解釈され、このような異なる化合物に基づく図4のTG曲線は、そもそもHf(Et2N)4の揮発性に関する根拠とはなり得ないことは明らかである。
(六)以上に述べたとおり、 本件特許の図4のTG曲線に基づく「Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる」との結果は信憑性に欠けるものであり、本件特許の図4のTG曲線は、「ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより」、「気化特性、熱分解特性を抑制する」との根拠になり得ない。
(七)そして、本件訂正明細書には、この熱重量測定の結果を受けて、記載エ-6?エ-9のとおり、実施例1?21、比較例1?6で得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて行った成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果(表2,表4、表6)が示されている。
しかしながら、 本件特許の図4のTG曲線に基づく「Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる」との結果は信憑性に欠けるものといわざるを得ないから、成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果についても信憑性がないものといわざるを得ない。
なお、被請求人は「成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果」により、「ジルコニウム含有量」と「気化特性、熱分解特性を抑制することができ、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上するとの効果」の関係が裏付けられていると主張している(V.1(1)オ)が、上述したとおり、この結果に対する信憑性が十分なものでないから、被請求人の主張は採用できない。
(八)以上のとおり、本件訂正発明1の「ハフニウム原子と窒素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料」であって、「ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより」、「気化特性、熱分解特性を抑制することができる」、「成膜速度が向上する」、及び「段差被覆性に優れる」との効果を達成する根拠は、本件訂正明細書には記載も示唆もなされていない。
したがって、本件訂正発明1は、実施の客観的な裏付けを欠くものであり、発明が未完成であるから、特許法第29条第1項柱書きの「発明」に該当せず、特許を受けることができない。

1-2.本件訂正発明2、3、6?10について
本件訂正発明2、3、6?10は、いずれも直接に、或いは間接的に本件訂正発明1を引用するものである。そして、上記「1-1」で検討したとおり、本件訂正発明1は、実施の客観的な裏付けを欠くものであり、発明が未完成であるから、本件訂正発明2、3、6?10も、発明が未完成であるといえ、特許法第29条第1項柱書きの「発明」に該当せず、特許を受けることができない。

1-3.本件訂正発明4について
(一)本件訂正発明4は、「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料」であり、「前記有機ハフニウム化合物の一般式」が「Hf(OR3)4」、「但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く」で示されるハフニウム含有膜形成材料であって、本件訂正発明1と同様に、構成x(「前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下」であること)を特徴としたものである。そして、この構成xに関して、本件訂正明細書には、次の事項が記載されている。
ア.[発明の解決しようとする課題]は、本件訂正発明1と同様に、上記「1-1(一)ア」に記載したとおりである。
イ.[課題を解決するための手段]
イ-1.「請求項4に係る発明は、ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であり、・・・」(段落【0011】?段落【0013】)
ウ.[発明の効果]は、本件訂正発明1と同様に、上記「1-1(一)ウ」に記載したとおりである。
エ.[実施例]
エ-1.「<実施例22?26>先ず、ハフニウム含有化合物としてジルコニウム元素が1000ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムと、無水エーテルをそれぞれ用意し、無水エーテルに四塩化ハフニウムを懸濁させて懸濁液を調製した。また、焼結した1mmφ球状活性炭及び電解研磨、過酸化水素裏面処理したジルコニウム片をそれぞれ用意した。次いで、懸濁液に焼結した活性炭を加えて室温で24時間攪拌した。次に、焼結した活性炭を含む懸濁液中にジルコニウム片を入れて、更に懸濁液に波長264nm程度のUV光による光照射を約5分間行い、光反応を起こさせた。UV光照射後は、懸濁液から焼結した活性炭及びジルコニウム片をろ別し、残った懸濁液を濃縮してエーテル成分を取除き、更に0.2μmのポーラスフィルタで精密ろ過して四塩化ハフニウムの精製物を得た。更に、精製した四塩化ハフニウムにn-ブチルリチウム及びn-ブタノールを化学量論比に従い、テトラヒドロフラン中で反応させることにより、Hf(OnBu)4を得た。また、UV光照射時間を30分間、2時間、3時間及び4時間としてHf(OnBu)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OnBu)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、650ppm、200ppm、100ppm、50ppm及び20ppmの含有量であった。これらのHf(OnBu)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例7?11>UV光照射時間を1分間、40秒、30秒、20秒及び10秒とした以外は、実施例22と同様にしてHf(OnBu)4をそれぞれ製造した。・・・700ppm、1000ppm、1500ppm、2000ppm及び2000ppmを越える含有量であった。・・・」(段落【0089】)
エ-2.「<実施例27?31>n-ブチルリチウムの代わりにn-プロピルリチウムを用いた以外は、実施例22?26と同様にしてHf(OnPr)4をそれぞれ製造した。・・・650ppm、200ppm、100ppm、50ppm及び20ppmの含有量であった。・・・
<比較例12?16>UV光照射時間を1分間、40秒、30秒、20秒及び10秒とした以外は、実施例27と同様にしてHf(OnPr)4をそれぞれ製造した。・・・700ppm、1000ppm、1500ppm、2000ppm及び2000ppmを越える含有量であった。・・・」(段落【0090】)
エ-3.「<実施例32?36>n-ブチルリチウムの代わりにi-ブチルリチウムを用いた以外は、実施例22?26と同様にしてHf(OiBu)4をそれぞれ製造した。・・・650ppm、200ppm、100ppm、50ppm及び20ppmの含有量であった。・・・
<比較例17?21>UV光照射時間を1分間、40秒、30秒、20秒及び10秒とした以外は、実施例32と同様にしてHf(OiBu)4をそれぞれ製造した。・・・700ppm、1000ppm、1500ppm、2000ppm及び2000ppmを越える含有量であった。・・・」(段落【0091】)
エ-4.「<比較評価5>実施例22?41及び比較例7?26でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験を行った。先ず、基板として基板表面にPt(厚さ20nm)/SiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板を図5に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を700℃、気化温度を70℃、圧力を約266Pa(2Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を1000ccmとした。次に、キャリアガスとしてArガスを用い、溶液原料を0.1cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。(1)成膜時間あたりの膜厚試験 成膜を終えた基板上の酸化ハフニウム薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。(2)段差被覆性試験 成膜を終えた基板上の酸化ハフニウム薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。段差被覆性とは図6に示される溝等の段差のある基板61に薄膜62を成膜したときのa/bの数値で表現される。a/bが1.0であれば、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されているため、段差被覆性は良好であるといえる。逆にa/bが1.0未満の数値であれば、基板の平坦部分よりも溝の奥の方が成膜度合いが大きく、a/bが1.0を越える数値であれば、溝の奥まで成膜し難く、それぞれ段差被覆性は悪いとされる。」(段落【0094】)
エ-5.【表7】には、実施例22?26及び比較例7?11でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果が示されている。
エ-6.【表8】には、実施例27?31及び比較例12?16でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果が示されている。
エ-7.【表9】には、実施例32?36及び比較例17?21でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果が示されている。
エ-8.「表7?表10より明らかなように、比較例7?26のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、この比較例7?26のハフニウム含有膜形成材料を用いて溝部を有する基板上にゲート酸化膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。これに対して実施例22?41のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、比較例7?26のハフニウム含有膜形成材料を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、また成膜時間あたりの膜厚が均等になっており、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。」(段落【0099】)
(二)上記記載ア?ウによれば、本件訂正発明4の構成xは、本件訂正発明1と同様に、「ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより」、「気化特性、熱分解特性を抑制することができる」、「ハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上する」、及び「ハフニウム含有膜形成材料を用いて作製されたハフニウム含有膜は、段差被覆性に優れる」との効果を達成したものであると理解でき、このことを実施例によって裏付けしようとするものである。
そこで、裏付けとなる実施例について詳細に検討すると、
本件訂正発明4については、本件訂正発明1のように、その裏付けのベースとなる、Zr含有量と揮発性の関連を示す熱重量測定は実施されていない。したがって、本件訂正発明4において、「ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより」、「気化安定性に優れ、成膜速度が向上」し、「段差被覆性に優れる」との効果を達成する根拠として、本件訂正明細書の熱重量分析の結果が参酌されているといえる。
そして、この熱重量分析の結果を受けて、記載エ-4?記載エ-8のとおり、実施例22?36及び比較例7?21でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果が示されている。
そうすると、上記「1-1」で示したように、本件特許の図4のTG曲線に基づく「Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる」との結果は信憑性に欠けるものといわざるを得ないから、本件訂正発明4の成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果についても信憑性がないものといわざるを得ない。
(三)また、この成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果に関して、請求人は「本願特許明細書に記載された条件で気化させることは不可能であり、Hf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、Hf(OiBu)4により、薄膜を成膜することは困難である」(IV.1(1)キ)と主張していることから、この点についてみてみると、
まず、膜厚試験及び段差被覆性試験のために行われる成膜方法は、本件訂正明細書の上記記載エ-4のとおり、「表面にPt/SiO2膜を形成したシリコン基板をMOCVD装置の成膜室に設置し、基板温度を700℃、気化温度を70℃、圧力を約266Pa(2Torr)にそれぞれ設定し、O2ガスの分圧を1000ccmとし、Arキャリアガスを用いて、溶液原料を供給」するものである。そして、この記載によれば、図5で示されたMOCVD装置の気化室での気化条件は、気化温度が70℃であり、圧力が約266Pa(2Torr)であるといえる。
そして、実施例22?41及び比較例7?26でそれぞれ得られたHf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、Hf(OiBu)4が上記気化条件で気化できるかどうかについては、これら化合物の蒸気圧は、請求人の提出した甲号証、並びに被請求人の提出した乙号証及び参考資料に示されていないので、直ちに判断することはできない。
しかしながら、請求人は、この蒸気圧について、「Hf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、Hf(OiBu)4は、構造、物性、会合度がZr(OR)4に似ていることから、甲第9号証及び甲第10号証のZr(OR)4の蒸気圧から、その蒸気圧は、200℃/0.1Torr程度と認められる」(IV.1(1)キ)と主張している。
この点に対して、被請求人は、「Hf(OR)4の蒸気圧/温度データを、全くの別物質であるZr(OR)4のデータを基にして推定するのは、極めて乱暴な理論であり、このような請求人の論法は、到底認められるのではない。」(V.1(1)カ)と反論している。
一方、請求人は、これに対し、甲第9号証に記載されたHf(OEt)4、Zr(OEt)4、Hf(OiPr)4、Zr(OiPr)4、Hf(OtBu)4、Zr(OtBu)4の蒸気圧/温度のデータの対比し、「Hf(OR)4とZr(OR)4の沸点/圧力は近い値を示してあり、Hf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、及びHf(OiBu)4は、第1級アルコキシル基を有するものであり、構造、物資及び会合度がZr(OEt)4、Zr(OnBu)4及びZr(OnPr)4と似ていると推定することは、当業者にとって妥当な論理である。」と主張している。(IV.1(1)ク)
これら双方の主張をみると、甲第9号証の摘示事項(a)及び(b)のHf(OEt)4、Zr(OEt)4、Hf(OiPr)4、Zr(OiPr)4、Hf(OtBu)4、Zr(OtBu)4の蒸気圧/温度のデータの対比から、Hf(OR)4とZr(OR)4の沸点/圧力は近い値を示すといえ、さらに、本件訂正明細書の段落【0004】に「ジルコニウム元素がハフニウム元素とその化学構造や挙動が極めて類似している」と記載されていることからみて、Hf(OR)4の蒸気圧/温度データは、Zr(OR)4のデータを基にして推定できるといえる。そして、甲第9号証に記載されているとおり、Zr(OnBu)4の沸点は243℃/0.1torrであり、また、甲第10号証に記載されているとおり、Zr(OnPr)4の沸点は208℃/0.1torrであることから、構造、物性、会合度が類似するHf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、Hf(OiBu)4の沸点も200℃/0.1torr程度と予測される。
してみると、実施例22?41及び比較例7?26でそれぞれ得られたHf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、Hf(OiBu)4が、気化温度が70℃、圧力が約266Pa(2Torr)の気化条件で十分気化するとはいえず、実施例32?36及び比較例17?21でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果は、Hf(OnBu)4、Hf(OnPr)4、及びHf(OiBu)4を用いて、ジルコニウム元素の含有量を変化させることにより得られた成膜の結果とはいえない。
したがって、本件訂正発明4の成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果は信憑性がないものである。
なお、被請求人は「成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果」により、「ジルコニウム含有量」と「気化特性、熱分解特性を抑制することができ、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上するとの効果」の関係が裏付けられていると主張している(V.1(1)キ)が、上述したとおり、この結果に対する信憑性が十分なものでないから、被請求人の主張は採用できない。
(四)以上のとおり、本件訂正発明4の「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料」であって、「ジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより」、「気化特性、熱分解特性を抑制することができる」、「成膜速度が向上する」、及び「段差被覆性に優れる」との効果を達成する根拠は、本件訂正明細書には記載も示唆もなされていない。
したがって、本件訂正発明4は、実施の客観的な裏付けを欠くものであり、発明が未完成であるから、特許法第29条第1項柱書きの「発明」に該当せず、特許を受けることができない。

1-4.本件訂正発明5について
(一)本件訂正発明5は、「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料」であり、「前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)4」、「但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である」で示されるハフニウム含有膜形成材料であって、「前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppm」であること」(以下、「構成y」という)を特徴としたものである。
(二)そして、本件訂正発明4と同じように、本件訂正明細書の記載によれば、本件訂正発明5の構成yは、「ジルコニウム元素の含有量を50?100ppm以下に規定することにより」、「気化特性、熱分解特性を抑制することができる」、「ハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上する」、及び「ハフニウム含有膜形成材料を用いて作製されたハフニウム含有膜は、段差被覆性に優れる」との効果を達成したものであると理解でき、このことを実施例によって裏付けしようとするものである。
(三)そこで、裏付けとなる実施例について詳細に検討すると、
本件訂正発明5については、本件訂正発明4と同じように、その裏付けのベースとなる、Zr含有量と揮発性の関連を示す熱重量測定は実施されていない。したがって、本件訂正発明5においても、「ジルコニウム元素の含有量を50?100ppm以下に規定することにより」、「気化安定性に優れ、成膜速度が向上」し、「段差被覆性に優れる」との効果を達成する根拠として、本件訂正明細書の熱重量分析の結果が参酌されているといえる。
そして、この熱重量分析の結果を受けて、実施例37?41及び比較例22?26でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果が示されている。
そうすると、上記「1-1」で示したように、本件特許の図4のTG曲線に基づく「Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる」との結果は信憑性に欠けるものといわざるを得ないから、本件訂正発明5の成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験の結果についても信憑性がないものといわざるを得ない。
(四)以上のとおり、本件訂正発明5の「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料」であって、「ジルコニウム元素の含有量を50?100ppmに規定することにより」、「気化特性、熱分解特性を抑制することができる」、「成膜速度が向上する」、及び「段差被覆性に優れる」との効果を達成する根拠は、本件訂正明細書には記載も示唆もなされていない。
したがって、本件訂正発明5は、実施の客観的な裏付けを欠くものであり、発明が未完成であるから、特許法第29条第1項柱書きの「発明」に該当せず、特許を受けることができない。

1-5.本件訂正発明6?10について
本件訂正発明6?10は、いずれも直接に、或いは間接的に本件訂正発明4、又は5を引用するものである。そして、上記「1-3」及び「1-4」で検討したとおり、本件訂正発明4、及び5は、実施の客観的な裏付けを欠くものであり、発明が未完成であるから、本件訂正発明6?10も、発明が未完成であるといえ、特許法第29条第1項柱書きの「発明」に該当せず、特許を受けることができない。

2.無効理由2について
2-1.本件訂正発明4について
(一)本件訂正発明4は、上記「III」に記載されたとおり、「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であり、前記有機ハフニウム化合物の一般式が次の式(2)で示されることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。Hf(OR3)4・・・(2)但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く。」である。
(二)これに対して、甲第12号証には、摘示事項(a)によれば、ハフニウムのCVD用材料が示されているといえ、このハフニウムのCVD用材料として、摘示事項(b)によれば、Zr不純物量が500ppm未満のHf(O-t-C4H9)4が示されているといえる。これら摘示事項を整理すると、甲第12号証には、「Zr不純物量が500ppm未満のHf(O-t-C4H9)4からなるCVD用材料」の発明(以下、「甲12発明」という。)が記載されている。
また、甲第13号証には、提示事項(a)によれば、MOCVD材料として、Hf(OtBu)4が記載されているといえ、このHf(OtBu)4について、記載事項(b)によれば、Zr不純物量が500ppm未満であるといえる。これら摘示事項を整理すると、甲第13号証には、「Zr不純物量が500ppm未満のHf(OtBu)4からなるMOCVD材料」の発明(以下、「甲13発明」という。)が記載されている。
(四)本件訂正発明4と、甲12発明又は甲13発明とを対比すると、本願訂正発明4は、甲12発明及び甲13発明の有機ハフニウム化合物であるHf(OtBu)4を除いていることから、本願訂正発明4と甲12発明又は甲13発明とを同一であるとすることはできない。
(五)以上のとおり、本件訂正発明4は、甲第12号証又は甲第13号証に記載された発明と同一とはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。

2-2.本件訂正発明5について
(一)本件訂正発明5は、上記「III」に記載されたとおり、「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmであり、前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である。」である。
(二)本件訂正発明5と甲12発明とを対比すると、甲12発明の「Hf(O-t-C4」は、テトラターシャリーブトキシハフニウムを示すものであるから、本件訂正発明5の「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物」であり、「t-C4H9はターシャリーブチル基」である「Hf[O(t-C4H9)]4」に相当する。また、甲12発明の「CVD用材料」は、CVD膜を形成するための材料であるから、本件訂正発明5の「ハフニウム含有膜形成材料」に相当する。さらに、本件訂正発明5、及び甲12発明のジルコニウム元素の含有量は、50?100ppmの範囲で重複している。
したがって、本件訂正発明5と甲12発明とは、「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmであり、前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である。」で一致し、本件訂正発明5は、甲第12号証に記載された発明といえる。
(三)本件訂正発明5と甲13発明とを対比すると、甲13発明の「Hf(OtBu)4」は、テトラターシャリーブトキシハフニウムを示すものであるから、本件訂正発明5の「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物」であって、「前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4」、「但し、t-C4H9はターシャリーブチル基」であることに相当する。また、甲13発明の「MOCVD材料」は、CVD膜を形成するための材料であるから、本件訂正発明5の「ハフニウム含有膜形成材料」に相当する。さらに、本件訂正発明5、及び甲13発明のジルコニウム元素の含有量は、50?100ppmの範囲で重複している。
したがって、本件訂正発明5と甲13発明とは、「ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmであり、前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である。」で一致し、本件訂正発明5は、甲第13号証に記載された発明といえる。
(四)ところで、Zr含有量の数値範囲について、被請求人は「単にジルコニウム含有量を低減したような発明でなく、『基材との密着性が向上する』という優れた効果を奏するために、ジルコニウム元素の含有量を50?100ppmの範囲内となるように調整した」(V.1(2)イ)と主張し、これに対して、請求人は「Zr含有量が50?100ppmの範囲内のHf(OtBu)4を用いて成膜した場合に、『基板との密着性が向上する』ことは、実施例において何等示されておらず、その数値範囲限定に臨界的意義を見出すことができない」(IV.1(2)イ)と主張している。
そこで、この数値範囲についてみてみると、本件訂正明細書の段落【0020】には「ジルコニウム元素の含有量を50?100ppmの範囲内とすることで、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜するとより基材との密着性が向上する。」と記載されているが、この記載を具体的に裏付ける実施例等は何等記載されてない。したがって、本件訂正発明5を数値限定発明とみることはできない。
(五)以上のとおり、本件訂正発明5は、甲第12号証または甲第13号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

VII.結び
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1?10に係る発明は、実施の客観的な裏付けを欠くものであり、発明が未完成であるから、特許法第29条第1項柱書きの「発明」に該当せず、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
また、本件訂正後の請求項5に係る発明は、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証及び甲第13号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ハフニウム含有膜形成材料及び該材料から作製されたハフニウム含有薄膜の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、常誘電体薄膜、光学薄膜、触媒薄膜、固体電解質薄膜等として有用なハフニウム含有薄膜を作製するための原料として好適なハフニウム含有膜形成材料及び該材料から作製されたハフニウム含有薄膜の製造方法に関する。更に詳しくは、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、以下、MOCVD法という。)にてSi-O-Hf薄膜、HfO2薄膜等のハフニウム含有薄膜を作製するための原料として好適なハフニウム含有膜形成材料及び該材料から作製されたハフニウム含有薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高誘電体ゲート絶縁膜としてシリコン酸化膜が使用されているが、近年LSIの高集積化に伴って、シリコン酸化膜の薄膜化が進んでいる。膜厚が100nm以下の薄さとなった薄膜にはトンネル電流が流れて絶縁効果が低下してしまうため、シリコン酸化膜でのこれ以上の薄膜化は限界となっている。
そのためシリコン酸化膜に代わるゲート絶縁膜が要望されており、候補としてハフニウム含有薄膜、具体的にはHfO2やHfO2-SiO2等が注目されている。これら薄膜の製造方法としては、スパッタリング、イオンプレーティング、塗布熱分解、ゾルゲル等のMODが挙げられるが、組成制御性、段差被覆性に優れること、半導体製造プロセスとの整合性等からMOCVD法が最適な薄膜製造プロセスとして検討されている。
ハフニウム含有薄膜を成膜するための材料としては、ターシャリーブトキシハフニウム(以下、Hf(OtBu)4という。)や、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン残基(以下、DPMという。)が配位したテトラキスジピバロイルメタネートハフニウム(以下、Hf(DPM)4という。)が検討されている。しかし、Hf(OtBu)4は低温で成膜できるが再現性が悪く、Hf(DPM)4は安定性はあるが成膜温度が高いという欠点があった。
【0003】
このような上記問題点を解決する方策として、不活性ガス雰囲気下、精製・脱水した有機溶媒中に精製塩化ハフニウムと精製ジピバロイルメタンを入れ、加熱還流して直接反応せしめた後冷却し、析出して得られる粗結晶を再結晶によって十分精製することを特徴とするHf(DPM)4が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。上記方法を用いて精製することにより金属不純物含有量が0.01wt.ppm以下であり、純度が99.99999wt.%以上の高純度ハフニウム錯体が得られる。
また、MOCVD法によりHf含有薄膜を成膜する方法として、成膜室内に、少なくとも1種若しくは複数種のM[N(C2H5)2]4(但し、Mは金属(Siを含む)元素)にて表される有機物原料を導入し、CVD法にて、金属(合金を含む)膜、若しくは、金属化合物膜を堆積し、堆積後に堆積中の温度よりも高い温度にて熱処理を行う成膜方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。上記成膜方法により、半導体装置や電子装置の成膜面に凹凸があっても、金属及びその化合物を制御性と均一性良く堆積することができるようにして、良好な性能を持つ半導体装置や電子装置を製造できる。
【特許文献1】特開2002-249455号公報(請求項1、段落[0018])
【特許文献2】特開2002-167672号公報(請求項1、段落[0005])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に示された高純度原料を用いて成膜することにより良好なハフニウム含有薄膜を得ることができるが、Hf(DPM)4を原料として用いていることから、依然として成膜温度が高いという欠点は残ってしまい、加熱によって生じる基板への影響を無視できない。
また、上記Hf(OtBu)4や上記特許文献1に示されたHf(DPM)4、上記特許文献2に示されたM[N(C2H5)2]4には、これらの化合物の組成には含まれていないが、この化合物を合成する反応の際には、ジルコニウム元素が不純物として必ず含まれてしまう問題があった。それはジルコニウム元素がハフニウム元素とその化学構造や挙動が極めて類似しているためであり、容易に除去することができないことに起因する。不可避不純物としてジルコニウム元素がハフニウム含有膜形成材料中に含まれると、揮発性が悪く、成膜速度が低下したり、形成したハフニウム含有薄膜の段差被覆性を低下させる原因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、気化安定性に優れ、高い成膜速度を有するハフニウム含有膜形成材料を提供することにある。
本発明の別の目的は、良好な段差被覆性を有するハフニウム含有薄膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、ハフニウム原子と窒素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料である。
請求項1に係る発明では、従来より不可避化合物として少なくとも1000ppm程度含まれ、成膜速度の向上を妨げるジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制することができるため、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上する。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、有機ハフニウム化合物の一般式が次の式(1)で示されるハフニウム含有膜形成材料である。
【0008】
【化3】
Hf(R1R2N)4 ……(1)
【0009】
但し、R1、R2は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、R1とR2は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明であって、有機ハフニウム化合物がHf[(C2H5)2N]4(以下、Hf(Et2N)4という。)、Hf[(CH3)2N]4(以下、Hf(Me2N)4という。)又はHf[(CH3)(C2H5)N]4(以下、Hf(MeEtN)4という。)であるハフニウム含有膜形成材料である。
請求項3に係る発明では、有機ハフニウム化合物としてHf(Et2N)4、Hf(Me2N)4又はHf(MeEtN)4を用いることで、ゲート酸化膜として有用な酸化ハフニウム薄膜を容易に形成することができる。
【0011】
請求項4に係る発明は、ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であり、有機ハフニウム化合物の一般式が次の式(2)で示されることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料である。
【0012】
【化4】
Hf(OR3)4 ……(2)
【0013】
但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く。
【0014】
請求項5に係る発明は、ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmであり、有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料である。
但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5いずれか1項に係る発明であって、形成材料中に含まれるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量が各1ppm以下であるハフニウム含有膜形成材料である。
請求項6に係る発明では、ゲート絶縁膜中を容易に移動し、MOS-LSI界面特性の劣化の原因となるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量を各1ppm以下に規定することで、高純度のハフニウム含有薄膜が得られる。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6いずれか1項に係る発明であって、形成材料中に含まれる鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の合計含有量が0.1ppm?0.8ppmの範囲にあるハフニウム含有膜形成材料である。
請求項7に係る発明では、界面接合部のトラブルの原因となる鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の合計含有量を0.1ppm?0.8ppmの範囲内に規定することで、高純度のハフニウム含有薄膜が得られる。
【0017】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし7いずれか1項に係る発明であって、有機ハフニウム化合物の他にシリコン原子と窒素原子との結合を有する有機シリコン化合物を更に含むハフニウム含有膜形成材料である。
請求項8に係る発明では、有機シリコン化合物を更に含むことで、Si-O-Hf薄膜のような薄膜を形成できる。
【0018】
請求項9に係る発明は、請求項1ないし8いずれか1項に記載の形成材料を溶媒に溶解したことを特徴とするハフニウム含有膜形成材料である。
請求項10に係る発明は、請求項1ないし9いずれか1項に記載の形成材料を用いてMOCVD法によりハフニウム含有薄膜を作製することを特徴とするハフニウム含有薄膜の製造方法である。
請求項10に係る発明では、上記記載のハフニウム含有膜形成材料を用いてMOCVD法によりハフニウム含有薄膜を作製することで段差被覆性に優れたハフニウム含有薄膜が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のハフニウム含有膜形成材料では、従来より不可避化合物として少なくとも1000ppm程度含まれ、成膜速度の向上を妨げるジルコニウム元素の含有量を650ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制することができるため、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上する。本発明のハフニウム含有膜形成材料を用いて作製されたハフニウム含有薄膜は、段差被覆性に優れる。本発明のハフニウム含有薄膜の製造方法では、段差被覆性に優れたハフニウム含有薄膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明のハフニウム含有膜形成材料は、有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料の改良である。その特徴ある構成は、形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であるところにある。成膜速度の向上を妨げるジルコニウム元素の含有量を650ppm以下、好ましくは500ppm以下に規定することにより、気化特性、熱分解特性を抑制することができるため、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると気化安定性に優れ、成膜速度が向上する。形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量は50?100ppmが特に好ましい。ジルコニウム元素の含有量を50?100ppmの範囲内とすることで、このハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜するとより基材との密着性が向上する。形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50ppm未満ではハフニウム含有膜形成時に種形成し難くなる。有機ハフニウム化合物は、ハフニウム原子と窒素原子との結合を有する化合物が好ましい。具体的には、有機ハフニウム化合物の一般式は、次の式(1)で示される化合物が好適である。
【0021】
【化5】
Hf(R1R2N)4 ……(1)
【0022】
上記式(1)のR1、R2は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、R1とR2は互いに同一でも異なっていてもよい。R1、R2のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。このうち、ゲート酸化膜として有用なHf(Et2N)4、Hf(Me2N)4又はHf(MeEtN)4が好適である。
【0023】
また、有機ハフニウム化合物は、ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する化合物が好ましい。具体的には、有機ハフニウム化合物の一般式は、次の式(2)で示される化合物が好適である。
【0024】
【化6】
Hf(OR3)4 ……(2)
【0025】
但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く。R3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。このうち、ゲート酸化膜として有用なHf(OnBu)4、Hf(OtBu)4又はHf(OsBu)4が好適である。ジルコニウム含有量を上記範囲以下にまで低減したHf(OR3)4は低温成膜でき、かつ再現性が向上する。また、有機ハフニウム化合物がHf(OtBu)4の場合、形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmである。
【0026】
本発明のハフニウム含有膜形成材料であるZr含有量を650ppm以下に規定した有機ハフニウム化合物を製造する第1の方法を、Hf(Et2N)4を一例として説明する。
先ず図1に示すように、n-ブチルリチウムにジエチルアミンを反応させることにより、アミノリチウムを得る(工程10)。次の式(3)にn-ブチルリチウムとジエチルアミンとの反応式を示す。
【0027】
【化7】

【0028】
次いでハフニウム含有化合物に、このハフニウム含有化合物の価数倍のモル量のアミノリチウムを反応させて有機ハフニウム化合物の粗生成物を得る(工程12)。ハフニウム含有化合物としては、四塩化ハフニウム(HfCl4)、ハロゲン化ハフニウム、ハフニウムジエチルアミド、窒素含有ハフニウム等が挙げられる。この工程12における反応は約30分程度、氷冷下に維持することで反応が促進する。次の式(4)にハフニウム含有化合物としてHfCl4を、アミノリチウムとして(C2H5)2NLiを用いた場合の反応式を示す。なお、式(4)中のHf[(C2H5)2N]4はHf(Et2N)4と同一の化合物である。
【0029】
【化8】

【0030】
ハフニウム含有化合物がHfCl4であって、アミノリチウムが(CH3)2NLiであるとHf(Me2N)4が、アミノリチウムが(C2H5)2NLiであるとHf(Et2N)4の粗生成物がそれぞれ得られる。
【0031】
次に、得られた粗生成物を室温に戻した後、粗生成物を減圧状態で蒸留させて化合物の精製物を得る(工程13)。この工程では減圧蒸留精製を1回又は2回以上行うことにより、大部分のLiClを除去することができる。工程13を経て得られた精製物には、不可避不純物としてジルコニウム元素が700?1000ppm程度含まれ、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素が2?10ppm程度含まれ、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素が合計含有量で10?50ppm程度含まれる。上記範囲内の割合で不可避不純物としてジルコニウム元素がハフニウム含有膜形成材料中に含まれると、揮発性が悪く、成膜速度が低下したり、形成したハフニウム含有薄膜の段差被覆性を低下させる原因となっていた。また、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量が各々上記範囲内の割合でハフニウム含有膜形成材料中に含まれると、このハフニウム含有膜形成材料を用いてゲート絶縁膜を作製した場合、ゲート絶縁膜中をアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素が容易に移動し、MOS-LSI界面特性の劣化の原因となる原因となっていた。更に、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の合計含有量が上記範囲内の割合でハフニウム含有膜形成材料中に含まれると、このハフニウム含有膜形成材料を用いてゲート絶縁膜を作製した場合、上記金属元素が界面接合部のトラブルの原因となっていた。
【0032】
本発明のハフニウム含有膜形成材料の製造方法の特徴ある構成は、フラッシュクロマトグラフィー法を用いて有機ハフニウム化合物中に含まれる不純物を取除く不純物除去工程14とを含むところにある。この不純物除去工程14を施すことにより、気化安定性に優れ、高い成膜速度を有するハフニウム含有膜形成材料を得ることができる。不純物除去工程14では有機ハフニウム化合物中より取除くことができる不純物としてはジルコニウムが挙げられる。有機ハフニウム化合物中より取除く不純物としては、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素が挙げられる。有機ハフニウム化合物中より取除く不純物としては、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素又はニッケル元素が挙げられる。
【0033】
この不純物除去工程14では、図3に示すようなフラッシュクロマトグラフィー装置20により行われる。この装置20は耐圧のカラム21と、このカラム21下部に設けられた排出口21aに三角フラスコ23の中央の開口部23aが接続されて構成される。カラム21には直径10cm?20cm、高さ30cm?50cmのガラス製耐圧カラムが選択される。カラム21の上方には上蓋21bが設けられ、この上蓋21bの頂部にはガス導入口21cが設けられる。先ず、キレート剤を担持させた充填剤を耐圧のカラム21内部に充填してカラム内部に充填層22を形成する。
【0034】
キレート剤としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EDTA二ナトリウム水和物、EDTA三ナトリウム水和物、EDTA四ナトリウム水和物、EDTA二カリウム水和物、EDTA三カリウム水和物、EDTA二アンモニウム水和物、BAPTA(ビス(アミノフェニル)エチレングリコール四酢酸四カリウム水和物)、ビシン、CyDTA(シクロヘキサンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、EDDP(エチレンジアミン二プロピオン酸二塩酸塩)、EDTA-OH(ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸)、GEDTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)、HIDA(ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)、IDA(イミノ二酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、NTPO(ニトリロトリスメチレンホスホン酸三ナトリウム塩)、TPEN(テトラキス(ピリジルメチル)エチレンジアミン)、TTHA(トリエチレンテトラミン六酢酸)、BFA(トリフルオロフェニルブタンジオン)、DPM(テトラメチルヘプタンジオン)、HFA(ヘキサフルオロペンタンジオン)、TOPO(トリオクチルフォスフィンオキサイド)、TTA(トリフルオロチエニルブタンジオン)等が挙げられる。
【0035】
カラム充填剤は、キレート剤を担持することが可能な粒子であれば特に限定されないが、例えば、平均粒子径が0.3μm?0.5μm、粒度分布幅d90/d10が0.8?1.2のSiO2粒子、Al2O3粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子及びHfO2粒子からなる群より選ばれた1種又は2種以上が好ましい。特に好ましいカラム充填剤としては、平均粒子径が0.4μm?0.45μm、粒度分布幅d90/d10が0.90?1.0のAl2O3粒子が挙げられる。具体的にはキレート剤を担持させた充填剤を500g?1000g充填することでカラム内部に充填層22を形成する。三角フラスコ23は、残りの開口部の一方23bよりArガスがフラスコ内部に注入され、残りの開口部の他方23cより排出することで三角フラスコ23の内部を不活性雰囲気に保持している。
【0036】
このような構成を有する装置20のカラム21の上蓋21bを開けて、充填層22の上部より工程13で得られた有機ハフニウム化合物の精製物を注入する。精製物の注入量は充填層22の容積により変動するが、例示すれば、直径15cm?20cm、高さ40cm?45cmのカラムに高さ15cm?20cmの充填層22が形成されている場合、精製物を200ml?300ml注入することが好ましい。
例えば、充填層22を形成するキレート剤としてEDTAを用いた場合、Hf(Et2N)4を充填層22に注入すると、次の式(5)に示す反応によりHf(Et2N)4中のHf元素がEDTA中のカルボキシル基に吸着する。なお、式(5)では、Hf元素が吸着したEDTAの一部分のみを表記した。
【0037】
【化9】

【0038】
次にカラム21の上蓋21bを閉じて、上蓋21b頂部のガス導入口21cよりカラム内部へ所定の流量で加圧ガスを供給する。この加圧ガスにより精製物は充填層22内を通過する。精製物が充填層22を通過する際に精製物中に含まれる不純物は充填剤に吸着される。加圧ガスにはArガスが使用される。この加圧ガスのガス圧は1kg?2kgに規定され、カラム流速が空間速度(SV値)で2?4cm/minとなるように、充填層22内に精製物を通過させる。
充填層22への通過によって不純物として含まれるジルコニウムは、次の式(6)に示すように、EDTA中のカルボキシル基に吸着したHf元素と入れ代わって、キレート剤であるEDTAにトラップされる。EDTAから離れたHf元素はHf(Et2N)4を形成する。このような反応を経て、Hf(Et2N)4中のZrが取除かれる。
【0039】
【化10】

【0040】
この不純物除去工程14により精製物からジルコニウム元素が取除かれる。また、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素が取除かれる。更に、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素又はニッケル元素が取除かれる。この不純物除去工程14によりジルコニウム元素や、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素、ニッケル元素が取除かれるのは、金属の配位効果による。このようにして得られた有機ハフニウム化合物中に含まれるジルコニウム含有量は650ppm以下になる。上記工程を経ることにより、ジルコニウム含有量を650ppm以下に規定したHf(Et2N)4を含む本発明のハフニウム含有膜形成材料が得られる。また、有機ハフニウム化合物中に含まれるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量は各1ppm以下となる。更に、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の合計含有量は0.1ppm?0.8ppmの範囲となる。
【0041】
本発明のハフニウム含有膜形成材料であるZr含有量を650ppm以下に規定した有機ハフニウム化合物を製造する第2の方法を、Hf(Me2N)4を一例として説明する。
先ず図2に示すように、n-ブチルリチウムにジメチルアミンを反応させることにより、アミノリチウムを得る(工程10)。次の式(7)にn-ブチルリチウムとジメチルアミンとの反応式を示す。
【0042】
【化11】

【0043】
次いでフラッシュクロマトグラフィー法を用いてハフニウム含有化合物中に含まれる不純物を取除く(工程11)。ハフニウム含有化合物としては、四塩化ハフニウム(HfCl4)、ハロゲン化ハフニウム、ハフニウムジエチルアミド、窒素含有ハフニウム等が挙げられる。この不純物除去工程11では有機ハフニウム化合物中より取除くことができる不純物としてはジルコニウムが挙げられる。有機ハフニウム化合物中より取除く不純物としては、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素が挙げられる。有機ハフニウム化合物中より取除く不純物としては、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素又はニッケル元素が挙げられる。
この不純物除去工程11では、図3に示すようなフラッシュクロマトグラフィー装置20と同様の構造を有する装置により行われる。先ず、ハフニウム含有化合物を耐圧のカラム21に充填してカラム21内部に充填層22を形成する。本発明で用いるハフニウム含有化合物は粉末であるため、カラム内に充填層22が形成される。
【0044】
次いで、充填層22の上部より一定量のキレート剤を一定時間注入する。キレート剤は第1の方法で挙げたキレート剤と同様の種類でよい。このキレート剤注入により充填層22内にキレート剤を通過させて、充填層22を形成するハフニウム含有化合物中に含まれる不純物をキレート剤に吸着させる。カラム21内にキレート剤を注入した後は、自然流下により充填層22内にキレート剤を通過させる。
次に、充填層22を形成するハフニウム含有化合物をカラム内部から取出し、取出したハフニウム含有化合物を溶媒で洗浄する。キレート剤を充填層22内に通過させた後は、カラム21下部に設けられた排出口21aを閉じ、カラム内部をバキューム等の手法によってハフニウム含有化合物をカラム内部から取出す。取出したハフニウム含有化合物をヘキサンやトルエン等の溶媒で洗浄する。洗浄により、ハフニウム含有化合物中のジルコニウム元素等の不純物が溶媒に溶出し、ハフニウム含有化合物から離れる。
【0045】
続いてハフニウム含有化合物をろ過することにより、ハフニウム含有化合物中に含まれるジルコニウム含有量を650ppm以下にまで低減することができる。また、ハフニウム含有化合物中に含まれるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量は各1ppm以下となる。更に、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の合計含有量は0.1ppm?0.8ppmの範囲となる。
【0046】
次に、不純物を取除いたハフニウム含有化合物に、このハフニウム含有化合物の価数倍のモル量のアミノリチウムを反応させて有機ハフニウム化合物の粗生成物を得る(工程12)。この工程12における反応は約30分程度、氷冷下に維持することで反応が促進する。次の式(8)にハフニウム含有化合物としてHfCl4を、アミノリチウムとして(CH3)2NLiを用いた場合の反応式を示す。なお、式(8)中のHf[(CH3)2N]4はHf(Me2N)4と同一の化合物である。
【0047】
【化12】

【0048】
次に、得られた粗生成物を室温に戻した後、粗生成物を減圧状態で蒸留させて化合物の精製物を得る(工程13)。この工程では減圧蒸留精製を1回又は2回以上行うことにより、大部分のLiClを除去することができる。このようにして得られた有機ハフニウム化合物中に含まれるジルコニウム含有量は650ppm以下になる。また、ハフニウム含有化合物中に含まれるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量は各1ppm以下となる。更に、鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の合計含有量は0.1ppm?0.8ppmの範囲となる。上記工程を経ることにより、ジルコニウム含有量を650ppm以下に規定したHf(Me2N)4を含む本発明のハフニウム含有膜形成材料が得られる。
【0049】
また、本発明のハフニウム含有膜形成材料を得るための別の製造方法を説明する。
先ず、市販の四塩化ハフニウムを用意する。この市販されている四塩化ハフニウムにはジルコニウム元素が700ppm?1000ppm以上含まれており、このジルコニウム元素を減少させることは非常に難しいとされている。次いで、溶媒としてトルエンを用意し、このトルエンに市販の四塩化ハフニウムを懸濁させて懸濁液を調製する。また、3-クロロ-ヘキサフルオロアセチルアセトンと3-クロロ-2,4-ペンタンジオンをそれぞれ用意する。これらの化合物を重量比で1:10の割合となるように混合し、更に、この混合物をジエチルエーテルを溶媒として、全割合の80%が溶媒となるように希釈して希釈液を調製する。それぞれ得られた懸濁液と希釈液を混合して四塩化ハフニウム反応液とする。
次に、金属リチウム又は金属ナトリウム、金属カリウム等のアルカリ金属にトルエンを溶媒として加え、50℃に加熱して反応させる。反応により得られた上澄み反応液を四塩化ハフニウム反応液に、氷冷下でゆっくり滴下する。上済み反応液を滴下した四塩化ハフニウム反応液をろ過して沈殿物を除去する。ろ過によって得られたろ液に0.1N希塩酸を冷却しながらゆっくり添加する。希塩酸添加によって沈殿した白色の固体を素早くろ別し、更に、油相と水相とに分離する。ろ別した白色の固体にはジルコニウムが含まれる。
【0050】
更に、分離した水相にリグロインを添加して水相中の成分を抽出する。この抽出操作を少なくとも10回以上繰返す。最後に無水硫酸ナトリウムを抽出液に添加して24時間放置乾燥する。このようにしてジルコニウム成分の除去を化学的抽出により行う。
次に、リグロイン抽出液に波長365nm程度のUV内部照射を約1時間行う。このUV照射には超高圧水銀灯を用いる。UV照射した抽出液にジエチルアミンを4倍モル等量加え、更にUV照射を約2時間行う。ここでは、前駆体で作製したキレート化合物のジケトン吸収による光開裂反応を利用してアミノ結合を新たに起こさせてアミンとハフニウムとを反応させている。光開裂反応の終了はUV吸収分光法のスペクトル解析をトレースしながら行い、ジケトン前駆体の吸収(310nm、チャージトランスファー遷移帯)が消失し、新たにハフニウムアミン化合物の吸収帯(380?400nm、d-d遷移)が現れるまで行う。約2時間の内部照射合成となる。上記方法をより精度よく行う(溶媒抽出頻度、溶媒選定等)ことで、得られるHf(Et2N)4に含有するZr含有量を650ppm以下にまで低減でき、かつ光反応で目的物を合成することができる。
なお、上記製造方法では、希釈液として3-クロロ-ヘキサフルオロアセチルアセトンと3-クロロ-2,4-ペンタンジオンを用いたが、類似の塩化物キレート誘導体を用いて希釈液を調製してもよい。
【0051】
また、本発明のハフニウム含有膜形成材料を得るための更に別の製造方法を説明する。
先ず、ハフニウム含有化合物としてジルコニウム元素が1000ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムと、有機溶媒として無水エーテルをそれぞれ用意し、この無水エーテルに四塩化ハフニウムを懸濁させて懸濁液を調製する。また、焼結した球状活性炭及び電解研磨、過酸化水素裏面処理したジルコニウム片をそれぞれ用意する。焼結した活性炭を使用することでハフニウム含有化合物の加水分解等が抑制される。ジルコニウム片は電解研磨、過酸化水素裏面処理を施すことで表面が活性化されるため、後に続く光反応が促進する。次いで、懸濁液に焼結した球状活性炭を加えて室温で攪拌する。攪拌時間は18?24時間が好ましい。次に、活性炭を含む懸濁液中にジルコニウム片を入れて、更に懸濁液に可視光又は紫外線による光照射を行い、光反応を起こさせる。波長域は271?450nmが好ましい。光照射時間は懸濁液中に入れるジルコニウム片の大きさやその表面積、表面処理の状態等によって前後するが、光照射時間が長ければ長いほどハフニウム含有化合物中のジルコニウム含有量を低減できる。光照射時間は5分間?4時間である。好ましい光照射時間は、30分間?1時間である。光照射後は、懸濁液から焼結した活性炭及びジルコニウム片をろ別し、残った懸濁液を濃縮してエーテル成分を取除き、更に目の細かいポーラスフィルタ等で精密ろ過して四塩化ハフニウムの精製物を得る。更に、この精製した四塩化ハフニウムにアルキルリチウム及びアルコールを化学量論比に従って、テトラヒドロフランのような有機溶媒中で反応させることにより、ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物が得られる。このようにして得られたジルコニウム含有量を低減したハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料は、低温成膜でき、かつ再現性に優れる。
【0052】
また、形成材料中に含まれるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量を、各1ppm以下に規定することが好ましい。ゲート絶縁膜中を容易に移動し、MOS-LSI界面特性の劣化の原因となるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量を各1ppm以下に規定することで、高純度のハフニウム含有薄膜が得られる。更に、形成材料中に含まれる鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の各含有量を0.1ppm?0.8ppmの範囲内に規定することが好ましい。界面接合部のトラブルの原因となる鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の各含有量を上記範囲内に規定することで、高純度のハフニウム含有薄膜が得られる。
【0053】
本発明のハフニウム含有膜形成材料には、有機ハフニウム化合物の他にシリコン原子と窒素原子との結合を有する有機シリコン化合物を更に含むことで、Si-O-Hf薄膜のような薄膜を形成できる。この場合、有機シリコン化合物と有機ハフニウム化合物との配合割合は、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で2:1?10:1となるように配合される。好ましい重量比は8:1である。重量比が2:1未満、重量比が10:1を越える場合、それぞれ所望とする組成のSi-O-Hf薄膜が得られない。
【0054】
好適な有機シリコン化合物の一般式は、次の式(9)で示される。
【0055】
【化13】
(R4R5N)nSiH(4-n) ……(9)
【0056】
上記式(9)のR4、R5は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、R4とR5は互いに同一でも異なっていてもよく、nは1?4の整数である。R4、R5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。上記一般式(9)で示される有機シリコン化合物としては、(Et2N)4Si、(Et2N)3SiH、(Et2N)2SiH2、(Me2N)4Si、(Me2N)3SiH及び(Me2N)2SiH2が挙げられる。
【0057】
また、有機シリコン化合物は、次の式(10)で示される化合物としてもよい。
【0058】
【化14】
(R6R7N)pR8(4-p)Si-Si(R9R10N)qR11(4-q)
……(10)
【0059】
上記式(10)のR6、R7、R9又はR10は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、R6とR7、R9とR10は互いに同一でも異なっていてもよく、R8及びR11は水素又は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、p及びqは1?4の整数である。R6、R7、R9又はR10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。R8及びR11のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。上記一般式(10)で示される有機シリコン化合物としては、[(Et2N)2HSi-]2、[(Et2N)2MeSi-]2、[(Me2N)2HSi-]2及び[(Me2N)2MeSi-]2が挙げられる。
【0060】
また、本発明のハフニウム含有膜形成材料では、前述した形成材料を所定の割合で溶媒に溶解して溶液としてもよい。溶媒としては、炭素数6?10の炭化水素系化合物及び炭素数2?6のアミン系化合物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。炭素数6?10の炭化水素系化合物としては、ヘキサン、オクタン、デカンが挙げられ、炭素数2?6のアミン系化合物としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミンが挙げられる。
【0061】
本発明のハフニウム含有薄膜は、前述した本発明のハフニウム含有膜形成材料を用いて化学蒸着法により作製する。本発明のハフニウム含有膜形成材料を用い、MOCVD法により酸化ハフニウム薄膜を形成する方法を説明する。
図5に示すように、MOCVD装置は、成膜室30と蒸気発生装置31を備える。成膜室30の内部にはヒータ32が設けられ、ヒータ32上には基板33が保持される。この成膜室30の内部は圧力センサー34、コールドトラップ35及びニードルバルブ36を備える配管37により真空引きされる。成膜室30にはニードルバルブ56、ガス流量調節装置54を介してO2ガス導入管57が接続される。蒸気発生装置31には、本発明のハフニウム含有膜形成材料を原料として貯留する原料容器38が備えられる。本実施の形態では、ハフニウム含有膜形成材料として、Zr含有量を650ppm以下に規定した有機ハフニウム化合物を含む形成材料を溶媒に溶解した形成材料を用いる。原料容器38にはガス流量調節装置39を介して加圧用不活性ガス導入管41が接続され、また原料容器38には供給管42が接続される。供給管42にはニードルバルブ43及び流量調節装置44が設けられ、供給管42は気化室46に接続される。気化室46にはニードルバルブ51、ガス流量調節装置48を介してキャリアガス導入管49が接続される。気化室46は更に配管47により成膜室30に接続される。また気化室46には、ガスドレイン52及びドレイン53がそれぞれ接続される。
この装置では、加圧用不活性ガスが導入管41から原料容器38内に導入され、原料容器38に貯蔵されている原料液を供給管42により気化室46に搬送する。気化室46で気化されて蒸気となった有機ハフニウム化合物は、更にキャリアガス導入管49から気化室46へ導入されたキャリアガスにより配管47を経て成膜室30内に供給される。成膜室30内において、有機ハフニウム化合物の蒸気を熱分解させ、O2ガス導入管57より導入されたO2ガスと反応させることにより、生成した酸化ハフニウムを加熱された基板33上に堆積させて酸化ハフニウム薄膜を形成する。加圧用不活性ガス、キャリアガスには、アルゴン、ヘリウム、窒素等が挙げられる。
このように気化安定性に優れ、高い成膜速度を有する本発明のハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜すると、従来のハフニウム含有膜形成材料よりも高い成膜速度での成膜が可能となり、得られたハフニウム含有薄膜は、良好な段差被覆性を有する。
【実施例】
【0062】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
ジルコニウム元素が1000ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムと、トルエンをそれぞれ用意し、トルエンに四塩化ハフニウムを懸濁させて懸濁液を調製した。また、3-クロロ-ヘキサフルオロアセチルアセトンと3-クロロ-2,4-ペンタンジオンをそれぞれ用意し、これらの化合物を重量比で1:10の割合となるように混合し、更に、この混合物をジエチルエーテルを溶媒として、全割合の80%が溶媒となるように希釈して希釈液を調製した。懸濁液と希釈液を混合して四塩化ハフニウム反応液とした。
次に、金属リチウム又は金属ナトリウム、金属カリウム等のアルカリ金属にトルエンを溶媒として加え、50℃に加熱して反応させ、得られた上澄み反応液を四塩化ハフニウム反応液に、氷冷下でゆっくり滴下した。続いて上済み反応液を滴下した四塩化ハフニウム反応液をろ過して沈殿物を除去し、得られたろ液に0.1N希塩酸を冷却しながらゆっくり添加した。希塩酸添加によって沈殿した白色の固体を素早くろ別し、更に、油相と水相とに分離した。
【0063】
更に、分離した水相にリグロインを添加して水相中の成分を抽出し、この抽出操作を10回繰返した。最後に無水硫酸ナトリウムを抽出液に添加して24時間放置乾燥した。
次に、リグロイン抽出液に波長365nm程度のUV内部照射を約1時間行い、UV照射した抽出液にジエチルアミンを4倍モル等量加え、更にUV照射を約2時間行い、アミンとハフニウムとを反応させた。このようにしてHf(Et2N)4を得た。Hf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS(UV-Visible Spectroscopy)吸収スペクトル法により測定したところ500ppmであった。このZr含有量500ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0064】
<実施例2>
リグロイン抽出を15回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ100ppmであった。このZr含有量100ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例3>
リグロイン抽出を18回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ50ppmであった。このZr含有量50ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例4>
リグロイン抽出を22回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ10ppmであった。このZr含有量10ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例5>
リグロイン抽出を30回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ5ppmであった。このZr含有量5ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例6>
リグロイン抽出を35回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ5ppm未満であった。このZr含有量5ppm未満のHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0065】
<実施例7>
ジルコニウム元素が1500ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムを用いた以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を得た。このHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS(UV-Visible Spectroscopy)吸収スペクトル法により測定したところ650ppmであった。このZr含有量650ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0066】
<比較例1>
先ずn-ブチルリチウムとジエチルアミンからジエチルアミノリチウムを合成した。次いで、金属含有化合物としてジルコニウム元素が20000ppm以上含まれているHfCl4を用い、このHfCl4に対して4倍モル量のジエチルアミノリチウムを加え、この溶液を氷冷して30分間反応させることにより粗生成物を得た。次に粗生成物を室温に戻した後、減圧蒸留精製を行うことによりHf(Et2N)4の精製物を得た。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ1000ppmを越える含有量であった。このZr含有量1000ppmを越えるHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例2>
リグロイン抽出を5回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。得られたHf(Et2N)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ700ppmであった。このZr含有量700ppmのHf(Et2N)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0067】
<比較評価1>
実施例1、2及び4、比較例1及び2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を熱重量測定した。測定条件としては昇温速度を10℃/分、測定温度を室温?500℃とした。得られたTG曲線を図4にそれぞれ示す。
図4より明らかなように、有機ハフニウム化合物に含まれるZr含有量の多寡が有機ハフニウム化合物の揮発性に大きな影響を与えていることが判る。比較例1及び2では、十分な揮発が行われておらず、比較例1では25重量%が、比較例2では12重量%が黒色残渣として残った。これに対して実施例1、2及び4では、高い揮発性を有しており、Zrの含有が少なければ少ないほど、揮発性に優れる結果となった。
【0068】
<比較評価2>
実施例1?7及び比較例1,2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験を行った。
先ず、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板を図5に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を200℃、気化温度を140℃、圧力を約266Pa(2Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を100ccmとした。次に、キャリアガスとしてArガスを用い、溶液原料を0.05cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
(1)成膜時間あたりの膜厚試験
成膜を終えた基板上の酸化ハフニウム薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。
(2)段差被覆性試験
成膜を終えた基板上の酸化ハフニウム薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。段差被覆性とは図6に示される溝等の段差のある基板61に薄膜62を成膜したときのa/bの数値で表現される。a/bが1.0であれば、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されているため、段差被覆性は良好であるといえる。逆にa/bが1.0未満の数値であれば、基板の平坦部分よりも溝の奥の方が成膜度合いが大きく、a/bが1.0を越える数値であれば、溝の奥まで成膜し難く、それぞれ段差被覆性は悪いとされる。
【0069】
<評価>
実施例1?7及び比較例1,2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料に含まれる各不純物含有量、得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1及び表2より明らかなように、比較例1及び2のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、この比較例1及び2のハフニウム含有膜形成材料を用いて溝部を有する基板上にゲート酸化膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。これに対して実施例1?7のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、比較例1及び2のハフニウム含有膜形成材料を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、また成膜時間あたりの膜厚が均等になっており、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。
【0073】
<実施例8>
先ず、n-ブチルリチウムとジエチルアミンからジエチルアミノリチウムを合成した。次いで、ハフニウム含有化合物としてジルコニウム元素が1000ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムを用意し、この四塩化ハフニウムに対して4倍モル量のジエチルアミノリチウムを加え、この溶液を約30分程度、氷冷下に維持することで反応を促進させてHf(Et2N)4の粗生成物を得た。次に、得られた粗生成物を室温に戻した後、粗生成物を減圧状態で蒸留させてHf(Et2N)4の精製物を得た。
続いて、図3に示すフラッシュクロマトグラフィー装置20の耐圧のカラム21内部にキレート剤を担持させた充填剤を800g充填してカラム内部に充填層22を形成した。キレート剤にはアセチルアセトンを、充填剤には平均粒子径が0.5μm、粒度分布幅d90/d10が0.8のアルミナ粒子をそれぞれ用いた。三角フラスコ23は、開口部の一方23bよりArガスをフラスコ内部に注入し、開口部の他方23cより排出することで三角フラスコ23の内部を不活性雰囲気に保持した。カラム21の上蓋21bを開けて、充填層22の上部よりHf(Et2N)4の精製物を注入した。次にカラム21の上蓋21bを閉じて、ガス導入口21cよりカラム流速が空間速度(SV値)で2?4cm/minとなるような流量でArガスをカラム内部へ供給することにより精製物を充填層22内に通過させた。充填層22を通過した精製物はカラム21下部に設けられた排出口21aを通って三角フラスコ23に集められた。
次に、有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、三角フラスコ23に集められたHf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で5:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ500ppmであった。このZr含有量が500ppmのHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0074】
<実施例9>
キレート剤にジピバロイルメタンを用いた以外は実施例8と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、Hf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で3:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ100ppmであった。このZr含有量が100ppmのHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例10>
キレート剤にEDTAを用いた以外は実施例8と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、Hf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で2:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ50ppmであった。このZr含有量が50ppmのHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例11>
キレート剤にヘキサフルオロアセチルアセトンを用いた以外は実施例8と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、Hf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で1:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ10ppmであった。このZr含有量が10ppmのHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例12>
キレート剤にTOPOを用いた以外は実施例8と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、Hf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で4:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ5ppmであった。このZr含有量が5ppmのHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例13>
キレート剤にDTPAを用いた以外は実施例8と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、Hf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で1:3の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ5ppm未満であった。このZr含有量が5ppm未満のHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例14>
キレート剤にIDAを用いた以外は実施例8と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、Hf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で1:5の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ650ppmであった。このZr含有量が650ppmのHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0075】
<比較例3>
比較例1と同様にしてHf(Et2N)4の精製物を得た。有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、Hf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で2:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ1000ppmを越える含有量であった。このZr含有量が1000ppmを越えるHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例4>
リグロイン抽出を5回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Et2N)4を製造した。次に、有機シリコン化合物として(Me2N)4Siを用意し、Hf(Et2N)4と(Me2N)4Siとをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で3:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ700ppmであった。このZr含有量が700ppmのHf(Et2N)4及び(Me2N)4Siをそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0076】
<比較評価3>
実施例8?14及び比較例3,4でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験を行った。
先ず、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板を図5に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を200℃、気化温度を140℃、圧力を約266Pa(2Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を100ccmとした。次に、キャリアガスとしてArガスを用い、溶液原料を0.05cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
(1)成膜時間あたりの膜厚試験
成膜を終えた基板上のSi-O-Hf薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。
(2)段差被覆性試験
成膜を終えた基板上のSi-O-Hf薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。
【0077】
<評価>
実施例8?14及び比較例3,4でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料に含まれる各不純物含有量、得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果を表3及び表4にそれぞれ示す。
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
表3及び表4より明らかなように、比較例3及び4のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、この比較例3及び4のハフニウム含有膜形成材料を用いて溝部を有する基板上にゲート酸化膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。これに対して実施例8?14のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、比較例3及び4のハフニウム含有膜形成材料を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、また成膜時間あたりの膜厚が均等になっており、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。
【0081】
<実施例15>
n-ブチルリチウムにジメチルアミンを反応させることにより、アミノリチウムを得た。次いで、ハフニウム含有化合物としてジルコニウム元素が1000ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムを用意した。この四塩化ハフニウムに以下の不純物除去工程を施した。先ず、図3に示すフラッシュクロマトグラフィー装置20の耐圧のカラム21内部に四塩化ハフニウムを500g充填してカラム21内部に充填層22を形成した。次いで、充填層22の上部より一定量のキレート剤を一定時間注入した。キレート剤にはアセチルアセトンを用いた。カラム21内にキレート剤を注入した後は、自然流下により充填層22内にキレート剤を通過させた。次に、キレート剤を充填層22内に通過させた後は、カラム21下部に設けられた排出口21aを閉じ、バキューム等の手法によって四塩化ハフニウムをカラム内部から取出した。取出した四塩化ハフニウムをヘキサンで洗浄した。続いて四塩化ハフニウムをろ過することにより、四塩化ハフニウム中に含まれる不純物を取除いた。
次に、不純物を取除いた四塩化ハフニウムに、このハフニウム含有化合物の価数倍のモル量のアミノリチウムを添加して、約30分程度、氷冷下に維持することで反応を促進させてHf(Me2N)4の粗生成物を得た。続いて、得られた粗生成物を室温に戻した後、粗生成物を減圧状態で蒸留させてHf(Me2N)4の精製物を得た。
次に、有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、精製したHf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で1:3の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ500ppmであった。このZr含有量が500ppmのHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0082】
<実施例16>
キレート剤にジピバロイルメタンを用いた以外は実施例15と同様にしてHf(Me2N)4を製造した。有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、Hf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で3:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ100ppmであった。このZr含有量が100ppmのHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例17>
キレート剤にEDTAを用いた以外は実施例15と同様にしてHf(Me2N)4を製造した。有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、Hf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で2:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ50ppmであった。このZr含有量が50ppmのHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例18>
キレート剤にヘキサフルオロアセチルアセトンを用いた以外は実施例15と同様にしてHf(Me2N)4を製造した。有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、Hf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で1:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ10ppmであった。このZr含有量が10ppmのHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例19>
キレート剤にTOPOを用いた以外は実施例15と同様にしてHf(Me2N)4を製造した。有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、Hf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で4:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ5ppmであった。このZr含有量が5ppmのHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例20>
キレート剤にDTPAを用いた以外は実施例15と同様にしてHf(Me2N)4を製造した。有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、Hf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で1:3の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ5ppm未満であった。このZr含有量が5ppm未満のHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<実施例21>
キレート剤にIDAを用いた以外は実施例15と同様にしてHf(Me2N)4を製造した。有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、Hf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で1:5の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ650ppmであった。このZr含有量が650ppmのHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0083】
<比較例5>
先ず、n-ブチルリチウムとジメチルアミンからジメチルアミノリチウムを合成した。次いで、ハフニウム含有化合物としてジルコニウム元素が1000ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムを用意し、この四塩化ハフニウムに対して4倍モル量のジメチルアミノリチウムを加え、この溶液を約30分程度、氷冷下に維持することで反応を促進させてHf(Me2N)4の粗生成物を得た。次に得られた粗生成物を室温に戻した後、減圧蒸留精製を行うことによりHf(Me2N)4の精製物を得た。
次に、有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、Hf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で3:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ1000ppmを越える含有量であった。このZr含有量が1000ppmを越えるHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例6>
ジエチルアミンの代わりにジメチルアミンを用い、リグロイン抽出を5回繰返した以外は実施例1と同様にしてHf(Me2N)4を製造した。次に、有機シリコン化合物として[(Me2N)2MeSi-]2を用意し、Hf(Me2N)4と[(Me2N)2MeSi-]2とをこれらの配合割合が、重量比(有機シリコン化合物:有機ハフニウム化合物)で3:1の割合となるように配合して混合物を調製した。混合物に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ700ppmであった。このZr含有量が700ppmのHf(Me2N)4及び[(Me2N)2MeSi-]2をそれぞれ含む混合物をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0084】
<比較評価4>
実施例15?21及び比較例5,6でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験を行った。
先ず、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板を図5に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を200℃、気化温度を140℃、圧力を約266Pa(2Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を100ccmとした。次に、キャリアガスとしてArガスを用い、溶液原料を0.05cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
(1)成膜時間あたりの膜厚試験
成膜を終えた基板上のSi-O-Hf薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。
(2)段差被覆性試験
成膜を終えた基板上のSi-O-Hf薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。
【0085】
<評価>
実施例15?21及び比較例5,6でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料に含まれる各不純物含有量、得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果を表5及び表6にそれぞれ示す。
【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

【0088】
表5及び表6より明らかなように、比較例5及び6のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、この比較例5及び6のハフニウム含有膜形成材料を用いて溝部を有する基板上にゲート酸化膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。これに対して実施例15?21のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、比較例5及び6のハフニウム含有膜形成材料を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、また成膜時間あたりの膜厚が均等になっており、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。
【0089】
<実施例22?26>
先ず、ハフニウム含有化合物としてジルコニウム元素が1000ppm以上含まれている市販の四塩化ハフニウムと、無水エーテルをそれぞれ用意し、無水エーテルに四塩化ハフニウムを懸濁させて懸濁液を調製した。また、焼結した1mmφ球状活性炭及び電解研磨、過酸化水素裏面処理したジルコニウム片をそれぞれ用意した。次いで、懸濁液に焼結した活性炭を加えて室温で24時間攪拌した。次に、焼結した活性炭を含む懸濁液中にジルコニウム片を入れて、更に懸濁液に波長264nm程度のUV光による光照射を約5分間行い、光反応を起こさせた。UV光照射後は、懸濁液から焼結した活性炭及びジルコニウム片をろ別し、残った懸濁液を濃縮してエーテル成分を取除き、更に0.2μmのポーラスフィルタで精密ろ過して四塩化ハフニウムの精製物を得た。更に、精製した四塩化ハフニウムにn-ブチルリチウム及びn-ブタノールを化学量論比に従い、テトラヒドロフラン中で反応させることにより、Hf(OnBu)4を得た。また、UV光照射時間を30分間、2時間、3時間及び4時間としてHf(OnBu)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OnBu)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、650ppm、200ppm、100ppm、50ppm及び20ppmの含有量であった。これらのHf(OnBu)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例7?11>
UV光照射時間を1分間、40秒、30秒、20秒及び10秒とした以外は、実施例22と同様にしてHf(OnBu)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OnBu)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、700ppm、1000ppm、1500ppm、2000ppm及び2000ppmを越える含有量であった。これらのHf(OnBu)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0090】
<実施例27?31>
n-ブチルリチウムの代わりにn-プロピルリチウムを用いた以外は、実施例22?26と同様にしてHf(OnPr)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OnPr)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、650ppm、200ppm、100ppm、50ppm及び20ppmの含有量であった。これらのHf(OnPr)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例12?16>
UV光照射時間を1分間、40秒、30秒、20秒及び10秒とした以外は、実施例27と同様にしてHf(OnPr)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OnPr)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、700ppm、1000ppm、1500ppm、2000ppm及び2000ppmを越える含有量であった。これらのHf(OnPr)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0091】
<実施例32?36>
n-ブチルリチウムの代わりにi-ブチルリチウムを用いた以外は、実施例22?26と同様にしてHf(OiBu)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OiBu)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、650ppm、200ppm、100ppm、50ppm及び20ppmの含有量であった。これらのHf(OiBu)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例17?21>
UV光照射時間を1分間、40秒、30秒、20秒及び10秒とした以外は、実施例32と同様にしてHf(OiBu)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OiBu)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、700ppm、1000ppm、1500ppm、2000ppm及び2000ppmを越える含有量であった。これらのHf(OiBu)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0092】
<実施例37?41>
n-ブチルリチウムの代わりにt-ブチルリチウムを用いた以外は、実施例22?26と同様にしてHf(OtBu)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OtBu)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、650ppm、200ppm、100ppm、50ppm及び20ppmの含有量であった。これらのHf(OtBu)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
<比較例22?26>
UV光照射時間を1分間、40秒、30秒、20秒及び10秒とした以外は、実施例37と同様にしてHf(OtBu)4をそれぞれ製造した。得られたHf(OtBu)4に含まれるZrの含有量をUV-VIS吸収スペクトル法により測定したところ、700ppm、1000ppm、1500ppm、2000ppm及び2000ppmを越える含有量であった。これらのHf(OtBu)4をハフニウム含有膜形成材料とした。
【0093】
<比較評価5>
実施例22?41及び比較例7?26でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料を用いて成膜時間当たりの膜厚試験及び段差被覆性試験を行った。
先ず、基板として基板表面にPt(厚さ20nm)/SiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、基板を図5に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を700℃、気化温度を70℃、圧力を約266Pa(2Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を1000ccmとした。次に、キャリアガスとしてArガスを用い、溶液原料を0.1cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
(1)成膜時間あたりの膜厚試験
成膜を終えた基板上の酸化ハフニウム薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。
(2)段差被覆性試験
成膜を終えた基板上の酸化ハフニウム薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。段差被覆性とは図6に示される溝等の段差のある基板61に薄膜62を成膜したときのa/bの数値で表現される。a/bが1.0であれば、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されているため、段差被覆性は良好であるといえる。逆にa/bが1.0未満の数値であれば、基板の平坦部分よりも溝の奥の方が成膜度合いが大きく、a/bが1.0を越える数値であれば、溝の奥まで成膜し難く、それぞれ段差被覆性は悪いとされる。
【0094】
<評価>
実施例22?26及び比較例7?11でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料の結果を表7に、実施例27?31及び比較例12?16でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料の結果を表8に、実施例32?36及び比較例17?21でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料の結果を表9に、実施例37?41及び比較例22?26でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料の結果を表10にそれぞれ示す。
【0095】
【表7】

【0096】
【表8】

【0097】
【表9】

【0098】
【表10】

【0099】
表7?表10より明らかなように、比較例7?26のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、時間が進んでも膜厚が厚くならず、成膜の安定性が悪いことが判る。また段差被覆性も非常に悪い結果となっており、この比較例7?26のハフニウム含有膜形成材料を用いて溝部を有する基板上にゲート酸化膜を形成した場合、ボイドを生じるおそれがある。これに対して実施例22?41のハフニウム含有膜形成材料を用いて得られた薄膜は、比較例7?26のハフニウム含有膜形成材料を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、また成膜時間あたりの膜厚が均等になっており、成膜安定性が高い結果が得られた。更に、段差被覆性も1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明のハフニウム含有膜形成材料の第1の製造方法を示すフロー図。
【図2】本発明のハフニウム含有膜形成材料の第2の製造方法を示すフロー図。
【図3】フラッシュクロマトグラフィー法を用いた装置の概略図。
【図4】実施例1、2及び4、比較例1及び2でそれぞれ得られたハフニウム含有膜形成材料のTG曲線を示す図。
【図5】MOCVD装置の概略図。
【図6】MOCVD法により成膜したときの段差被覆率の求め方を説明するための基板断面図。
【符号の説明】
【0101】
10 アミノリチウムを生成する工程
11 ハフニウム含有化合物中に含まれる不純物を除去する工程
12 有機ハフニウム化合物の粗生成物を得る工程
13 減圧蒸留工程
14 有機ハフニウム化合物中に含まれる不純物を除去する工程
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハフニウム原子と窒素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、
前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。
【請求項2】
有機ハフニウム化合物の一般式が次の式(1)で示される請求項1記載のハフニウム含有膜形成材料。
【化1】
Hf(R1R2N)4 ……(1)
但し、R1、R2は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であり、R1とR2は互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項3】
有機ハフニウム化合物がHf[(C2H5)2N]4、Hf[(CH3)2N]4又はHf[(CH3)(C2H5)N]4である請求項2記載のハフニウム含有膜形成材料。
【請求項4】
ハフニウム原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、
前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が650ppm以下であり、
前記有機ハフニウム化合物の一般式が次の式(2)で示されることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。
【化2】
Hf(OR3)4 ……(2)
但し、R3は炭素数1?4の直鎖又は分岐状アルキル基であって、ターシャリーブチル基を除く。
【請求項5】
ハフニウム、原子と酸素原子との結合を有する有機ハフニウム化合物を含むハフニウム含有膜形成材料であって、
前記形成材料中に含まれるジルコニウム元素の含有量が50?100ppmであり、
前記有機ハフニウム化合物がHf[O(t-C4H9)]4であることを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。
但し、t-C4H9はターシャリーブチル基である。
【請求項6】
形成材料中に含まれるアルカリ金属元素の含有量及びアルカリ土類金属元素の含有量が各1ppm以下である請求項1ないし5いずれか1項に記載のハフニウム含有膜形成材料。
【請求項7】
形成材料中に含まれる鉄元素、亜鉛元素、チタン元素、アルミニウム元素、クロム元素及びニッケル元素の合計含有量が0.1ppm?0.8ppmの範囲にある請求項1ないし6いずれか1項に記載のハフニウム含有膜形成材料。
【請求項8】
有機ハフニウム化合物の他にシリコン原子と窒素原子との結合を有する有機シリコン化合物を更に含む請求項1ないし7いずれか1項に記載のハフニウム含有膜形成材料。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか1項に記載の形成材料を溶媒に溶解したことを特徴とするハフニウム含有膜形成材料。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1項に記載の形成材料を用いて有機金属化学気相成長法によりハフニウム含有薄膜を作製することを特徴とするハフニウム含有薄膜の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-05-02 
結審通知日 2007-05-09 
審決日 2007-05-22 
出願番号 特願2004-202195(P2004-202195)
審決分類 P 1 113・ 1- ZA (C23C)
P 1 113・ 113- ZA (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 則充  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 大黒 浩之
宮澤 尚之
登録日 2005-07-15 
登録番号 特許第3698163号(P3698163)
発明の名称 ハフニウム含有膜形成材料及び該材料から作製されたハフニウム含有薄膜の製造方法  
代理人 木下 茂  
代理人 石村 理恵  
代理人 須田 正義  
代理人 須田 正義  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ