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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680110 審決 特許
無効200680187 審決 特許
無効200680009 審決 特許
無効200680070 審決 特許
無効200680238 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01B
管理番号 1162735
審判番号 無効2006-80130  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-07-13 
確定日 2007-07-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3727545号発明「耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3727545号の請求項1乃至25に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成12年 2月22日 先の特許出願(特願2000-44841号)
平成13年 2月21日 本件特許に係る特許出願
(特願2001-45231号。
先の特許出願に基づく優先権主張を伴う。)
平成17年10月 7日 特許権の設定登録(特許第3727545号)
平成18年 7月13日 請求人 :特許無効審判請求書・
甲第1?16号証提出
平成18年 9月26日 被請求人:答弁書・訂正請求書・
乙第1?6号証・参考資料1?5提出
平成18年12月 5日 請求人 :口頭審理陳述要領書・
甲第17?37号証提出
被請求人:口頭審理陳述要領書・
口頭説明資料・参考資料6、7提出
平成18年12月19日 請求人 :上申書・甲第38?41号証提出
平成18年12月27日 被請求人:上申書・乙第7、8号証提出
平成19年 1月12日 参加申請
平成19年 2月 2日 請求人 :意見書提出
平成19年 2月20日(起案日) 参加許否の決定

第2 平成18年9月26日付け訂正請求について
1. 平成18年9月26日付け訂正請求
平成18年9月26日付け訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許明細書について下記a?jの訂正(以下それぞれの訂正を「訂正a」・・・という。)をしようとするものである。



a.特許請求の範囲、請求項26を削除する。
b.特許請求の範囲、請求項24の3行目の「請求項18」を『請求項22』と訂正する。
c.特許明細書段落[0001]4?5行の「さらに本発明は、前記樹脂組成物により形成された成形品にも関する。」を削除する。
d.特許明細書段落[0008]下から2行目の「成形品および」を削除する。
e.特許明細書段落[0009]5行目、7行目および10行目、段落[0011]8行目および10行目、段落[0016]下から2行目、段落[0017]5行目および8行目、段落[0018]1行目および3?4行目、段落[0023]末行、段落[0025]7行目および8行目、段落[0033]3行目、9行目および10行目ならびに段落[0040]5行目の「成形品」を『電線およびケーブル』と訂正する。
f.特許明細書段落[0022]4行目、段落[0043]5行目および段落[0078]末行の「および成型品」を削除する。
g.特許明細書段落[0029]1行目の「成形品」を『電線およびケーブルの被覆』と訂正する。
h.特許明細書段落[0032]1行目の「樹脂成形品」を『電線およびケーブル』と訂正する。
i.特許明細書段落[0036]1行目の「有機フォスファイト系酸化防止剤」を『有機ホスファイト系酸化防止剤』と訂正する。
j.特許明細書段落[0078]下から4行目の「および前記樹脂組成物より形成される成形品」を削除する。

2. 訂正a?jの訂正要件について
(1) 訂正aは、請求項26を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、訂正aは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正aは、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。
(2) 訂正bは、請求項24の引用する「請求項18」を「請求項22」と訂正するものである。請求項24は「紫外線吸収剤」及び「光安定化剤」を特定の物質に限定するものであるが、請求項18は「紫外線吸収剤」及び「光安定化剤」を特定事項とするものではない。そして、これらを特定事項とするのは請求項22(さらに、それを減縮したものである請求項23等)であるから、「請求項18」は「請求項22」の誤記と認められる。そして、訂正bは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。よって、訂正bは、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。
(3) 訂正c?h及び訂正jの各訂正は、訂正aに伴い特許明細書の発明の詳細な説明を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正c?h及び訂正jは、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。
(4) 訂正iは、特許明細書段落[0036]1行目の「有機フォスファイト系酸化防止剤」を「有機ホスファイト系酸化防止剤」と訂正するものであるが、表記を具体的物質名の表記にあわせるものであって、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると認められる。そして、訂正iは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。よって、訂正iは、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

3. 小括
以上のとおり、訂正a?jはいずれも特許法第134条の2に規定する要件を満たすものであるから、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認容されたから、本件特許に係る発明は、平成18年9月26日付け訂正請求書に添付した訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1乃至25に記載された以下のとおりのものと認める(以下、請求項1?25に係る発明を、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」・・・という。)
「【請求項1】
(a)合成樹脂100重量部に対し
(b)水酸化マグネシウム粒子10?500重量部
(c)酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤を0.01?10重量部を配合した樹脂組成物であって、
該水酸化マグネシウム粒子は下記(i)?(iv)の要件
(i)レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が10μm以下
(ii)BET法比表面積が20m2/g以下
(iii)Fe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して0.02重量%以下
(iv)水溶性アルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して0.05重量%以下
を満足する樹脂組成物により被覆された耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項2】
該樹脂組成物は、合成樹脂100重量部に対し、該水酸化マグネシウム粒子30?400重量部を配合した組成物である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項3】
該水酸化マグネシウム粒子は、鉄化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物、およびニッケル化合物の合計含有量が、金属に換算して0.02重量%以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項4】
該水酸化マグネシウム粒子は、鉄化合物およびマンガン化合物の含有量が合計で金属に換算して0.01重量%以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項5】
水酸化マグネシウム粒子は、レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が5μm以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項6】
水酸化マグネシウム粒子は、レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が0.5?2μmである請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項7】
該水酸化マグネシウム粒子は、BET法による比表面積が1?11m2/gである請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項8】
該水酸化マグネシウム粒子は、BET法による比表面積が3?8m2/gである、請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項9】
該水酸化マグネシウム粒子は、水溶性のアルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して、0.03重量%以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項10】
水酸化マグネシウム粒子は、水溶性のアルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して0.003重量%以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項11】
該水酸化マグネシウム粒子が、高級脂肪酸類、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル類、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤および多価アルコールの脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種の表面処理剤により、表面処理されている請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項12】
該合成樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項13】
該樹脂組成物は、合成樹脂100重量部に対し、酸化防止剤を0.1?5重量部配合した請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項14】
該酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、有機フォスファイト系酸化防止剤、有機チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項15】
該樹脂組成物は、それからの成形品(厚さ2.1mm)が、JIS K 7212 のギアーオーブン中、150℃での熱安定性試験において、熱分解せず白粉化に耐える日数が10日以上である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項16】
該樹脂組成物は、それからの成形品(厚さ2.1mm)が、JIS K 7212 のギアーオーブンで中、150℃での熱安定性試験において、熱分解せず白粉化に耐える日数が20日以上である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項17】
該樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212 のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において引張強度が熱安定性試験前の引張強度の60%以上を維持している請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項18】
該樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において、伸び率が、熱安定性試験前の伸び率の60%以上を維持している請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項19】
該樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212 のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において、アイゾット衝撃強度が熱安定性試験前のアイゾット衝撃強度の60%以上を維持している請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項20】
該樹脂組成物は、それからの成形品が、95℃48時間または70℃168時間イオン交換水中に浸漬した後の成形品の体積固有抵抗が1×1010Ω・cm以上である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項21】
該樹脂組成物は、それからの成形品が、95℃48時間または70℃168時間イオン交換水中に浸漬した後の成形品の体積固有抵抗が1×1013Ω・cm以上である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項22】
合成樹脂100重量部に対し、さらに(d)紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を0.01?10重量部配合した請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項23】
合成樹脂100重量部に対し、さらに(d)紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を0.1?5重量部配合した請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項24】
紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系の群から選ばれた少なくとも1種であり、光安定化剤がヒンダードアミン系のものである請求項22記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項25】
該樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS A 1410 の屋外暴露試験方法により1年間屋外暴露した場合、引張強度、伸び率およびアイゾット衝撃強度のいずれもが屋外暴露する前の60%以上を維持している請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。」

第4 審判請求人の主張する特許を無効とすべき理由の要点
審判請求人が提出した審判請求書、口頭審理陳述要領書、上申書、甲第1?41号証、その他によれば、審判請求人は、本件発明1?25は、甲第1?41号証に記載された事項に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明することができたものであって、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである、と主張すると認められる。
なお、本件訂正により請求項26が削除された結果、審判請求人が審判請求書において主張していた請求項26に係る特許の無効理由は、ないものとなった。

第5 被請求人の反論の要点
被請求人が提出した答弁書、口頭審理陳述要領書、上申書、乙第1?8号証、参考資料1?7、口頭説明資料、その他によれば、被請求人は、審判請求人の上記無効理由は理由がなく、本件発明1?25に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものではない、と主張すると認められる。

第6 主な刊行物の記載事項
1. 特開平11-181305号公報
特開平11-181305号公報(甲第1号証)には、以下に摘示する事項等が記載されている。
(1-a) 「このようにして表面処理された水酸化マグネシウム粒子および水酸化アルミニウム粒子を92重量部の耐衝撃グレードポリプロピレンと8重量部のEVA(VA含有量25%のEVA)と0.25重量部のイルガノックス1010(チバガイギー社製)と0.25重量部のDLTP(吉富製薬社製)と混合し2軸押出機で185℃で混練しコンパウレドペレットを得た。」(【0054】)
(1-b) 「表3」の「配合(a,bは表面処理品)重量部」が「比較例6」は「a:A-II 190」(【0059】)
(1-c) 「表1および表2に示す水酸化マグネシウム粒子・・・のうち・・・A-II・・・は、ステアリルリン酸エステルジエタノールアミン塩;(化学式略)のジエステル90%と(化学式略)のモノエステル10%の混合品をA-II・・・に対し2.5重量%を用いて80℃の温水中で表面処理した。表面処理後A-II・・・は十分に脱水し乾燥粉砕した。」(【0050】?【0051】)
(1-d) 「表1」の「A-II」欄の「表面処理前」の「平均2次粒子径(μm)」が「1.3μm」、「BET法比表面積(m2/g)」が「3.1m2/g」、「Na(%)」が「0.002」、「Fe(%)」が「0.006」、「Mn(%)」が「0.003」、「Cu(%)」が「0.0001以下」、「V(%)」が「0.0001以下」、「Co(%)」が「0.0001以下」、「Ni(%)」が「0.0001以下」、「Cr(%)」が「0.0001以下」であること(【0057】)
(1-e) 「表2」の「A-II」欄の「表面処理後」の「Na(%)」が「0.002」、「平均2次粒子径(μm)」が「1.4μm」、「BET法比表面積(m2/g)」が「3.0」であること(【0058】)
(1-f) 「表面処理後の粉体物性を表2に示す。ただしNa含有量、平均2次粒子径、BET法による比表面積、ブレーン法による比表面積、BET法による比表面積/ブレーン法による比表面積、Mg(OH)2含有量およびAl(OH)3含有量は表面処理前と後で分析値に変化があったので記載したが、それ以外の項目の分析値には表面処理前と後でほとんど変化がなかったので特に記載しなかった。」(【0053】)
(1-g) 「表3」の「難燃性UL94」、「熱安定性 日」、「耐酸性 級」、「耐水絶縁性 Ω・cm」、「降伏点引張強度 kgf/mm2」、「シルバーストリーク 級」は、「実施例2」欄がそれぞれ、「1/12インチVE V-0」、「30」、「1」、「5×1014」、「1.80」、「1」であり、「比較例6」欄が、それぞれ、「V-0」、「25」、「4」、「5×1014」、「1.78」、「1」であること。(【0059】)
(1-h) 「(1)BET法による比表面積;湯浅アイオニクス(株)の12検体全自動表面測定装置マルチソーブ-12で測定した。」(【0039】)
(1-i) 「(2)平均2次粒子径;Leed&Nortrup Instruments Company社のマイクロトラックを使用して測定した。」(【0040】)
(1-j) 「(3)ブレーン法による比表面積;JIS R 5201-1964により測定した。ただし空隙率は水酸化マグネシウム粒子の場合0.715、水酸化アルミニウム粒子の場合は0.783としてそれに相当する試料量を測定した。」(【0041】)
(1-k) 「(4)Fe、Mn、Cu、Co、Cr、V、Niの分析;ICP-MS法(Inductively Coupled Plasma-mas spectrometry)または原子吸光法により測定した。」(【0042】)
(1-l) 「(5)水溶性のナトリウム塩のNaの分析;水酸化マグネシウム粒子および水酸化アルミニウム粒子の試料10gを30℃のイオン交換水100ml中で96時間攪拌し溶出したナトリウムを原子吸光法により測定した。」(【0043】)
(1-m) 「(6)耐酸性試験;以下に示す表面白化の試験を耐酸性試験として評価した。厚さ1/8インチのUL94VE法用のテストピース1本を500mlのイオン交換水中に完全に浸漬し、炭酸ガスを水中に吹き込みながら24℃で48時間放置した後水中より取り出した。取り出されたサンプルの表面白化の程度を目視により下記の1?5級のランク付けをして評価した。
1級 全く表面白化現象なし
2級 かすかに表面白化現象あり
3級 少し表面白化現象あり
4級 かなり表面白化現象あり
5級 全面に著しく表面白化現象あり
3級以上が実用的な防白化性があることを意味し特に2級以上であることが望ましい。」(【0044】)
(1-n) 「(7)難燃性;UL94VE法、UL94HB法または酸素指数法(JIS K 7201)により測定した。」(【0045】)
(1-o) 「(8)降伏点引張強さ;JIS K 7113により測定した。ただしポリプロピレンは50mm/分、EVAは200mm/分の試験速度で測定した。」(【0046】)
(1-p) 「(9)熱安定性;ポリプロピレンはUL94VE法の厚さ1/12インチのテストピースを半分の長さにハサミで切断し、ギアオープン中に150℃で吊り下げて熱酸化劣化し粉化するまでの日数を調べた。」(【0047】)
(1-q) 「(10)耐水絶縁性;ポリプロピレンは4辺がハサミで切断された各辺が10cmの正方形で、厚さ2mmの直方体からなるテストピースを、95℃のイオン交換水中に48時間浸漬した後取り出して30℃のイオン交換水中に15分間浸漬した。その後テストピースを水中より取り出して紙タオルで表面の水分を拭き取り、23℃±2℃、50%RHの状態調節を15分間行った。このテストピースを同じ状態調節下で、タケダ理研工業(株)のTR8401を用いて体積固有抵抗を測定し、耐水絶縁性のデータを得た。ただしEVAのテストピースは70℃のイオン交換水に168時間浸漬した。その他はポリプロピレンと同じ条件で測定した。」(【0048】)
(1-r) 「(11)成形品表面のシルバーストリーク;日精樹脂工業(株)の射出形成機FS120S18ASEで厚さ2.1mm、直径50mmの円盤を射出成形した。この円盤に発生したシルバーストリークの程度を目視により下記の1?5級にランク付けした。3級以上が実用上問題のないシルバーストリークの発生の程度であり、特に2級以上であることが望ましい。
1級 全くシルバーストリークなし
2級 かすかにゲート付近にシルバーストリークあり
3級 少しシルバーストリークあり
4級 全面にかなりシルバーストリークあり
5級 全面に著しいシルバーストリークあり」(【0049】)
(1-s) 「本発明の難燃性樹脂組成物には、通常添加される各種の添加剤、補強剤、充填剤等を本発明の目的を害しない範囲で加えることができる。これらの一部を次に例示する。酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、金属不活性化剤、滑剤、着色剤、造核剤、発泡剤、脱臭剤、リトボン、木粉、ガラス繊維、繊維状水酸化マグネシウム、繊維状塩基性硫酸マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミナ、ガラス粉、グラファイト、炭化珪素、窒化珪素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭素繊維、グラファイト繊維、シリコンカーバイト繊維、ポリマーアロイ相溶化剤等の添加剤、充填剤、補強剤。」(【0036】。下線付与。)

2. 特開平10-237237号公報
特開平10-237237号公報(甲第2号証)には、以下に摘示する事項等が記載されている。
(2-a) 「下記の(A)80?99重量部と(B)20?1重量部の合計100重量部に対して、(C)50?200重量部を含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。(A)エチレンと炭素数2?10のαオレフィンとをシングルサイト触媒を用いて合成したポリオレフィンで次の条件を満たすもの(1)Mw/Mn≦2(2)密度0.91g/cm3以下(3)MI≦3g/10min(B)ポリオレフィン系樹脂に酸無水物を0.1?3重量%グラフト重合したポリオレフィン(C)次の条件を満たす水酸化マグネシウム(1)不定形の扁平粒子(2)平均粒径が2?6μm(3)表面処理材として脂肪酸またはリン酸エステルを使用」(請求項1:なお丸数字は()数字に改めて表記した。)
(2-b) 「請求項1?5のいずれかの樹脂組成物の被覆層を具えていることを特徴とする電線・ケーブル。」(請求項6)
(2-c) 「本発明の主目的は、CO2 による白化が抑制でき、機械的特性,難燃性および押し出し加工性に優れた難燃性樹脂組成物と、この組成物を用いた電線・ケーブルとを提供することにある。」(【0006】)

3. 特開平9-157512号公報(甲第3号証)
(3-a) 「(A)成分として、ポリカーボネート樹脂1?99重量%、(B)成分として、グラフト共重合体1?50重量%、(C)成分として、他の熱可塑性樹脂0?98重量%からなる樹脂成分100重量部に対して、(D)成分として、燐化合物1?50重量部、(E)成分として、フェノール樹脂1?50重量部、(F)成分として、蓚酸アニリド系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、シアヌレート系紫外線吸収剤及び酸化チタン系紫外線安定剤から選択される少なくとも1種を含む光安定剤0.01?15重量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。」(請求項1)
(3-b) 表1の「実施例」3?6は「ポリカーボネート樹脂」、「グラフト共重合体(1)」「熱可塑性樹脂(1)」、「熱可塑性樹脂(2)」からなる樹脂成分100重量部に対して、「光安定剤(2)」、「光安定剤(3)」、「光安定剤(4)」、「光安定剤(5)」各1.0重量部が配合された樹脂組成物である。(【0051】)
(3-c) 「(F)光安定剤・・・
光安定剤(2):ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤〔2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール〕
光安定剤(3):ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(2-ヒドロキシ4-メトキシベンゾフェノン)
光安定剤(4):サリチル酸系紫外線吸収剤(p-t-ブチルフェニルサリシレート)
光安定剤(5):シアヌレート系紫外線吸収剤(エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニル・アクリレート)・・・
光安定剤(7):ヒンダードアミン系紫外線安定剤〔ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート〕
」(【0054】)

第7 当審の判断
1. 特開平11-181305号公報に記載された発明
特開平11-181305号公報(甲第1号証。以下「甲1刊行物」という。なお、甲第2号証以下の各刊行物も同様に「甲2刊行物」・・・等という。)の摘示(1-g)に記載された「比較例6」は、「表面処理された水酸化マグネシウム粒子および水酸化アルミニウム粒子を92重量部の耐衝撃グレードポリプロピレンと8重量部のEVA(VA含有量25%のEVA)と0.25重量部のイルガノックス1010(チバガイギー社製)と0.25重量部のDLTP(吉富製薬社製)と混合し」(1-a)た樹脂組成物であって、その「水酸化マグネシウム粒子」が「A-II」(1-b)である樹脂組成物であると認められる。
そして、その「水酸化マグネシウム粒子」「A-II」であって「表面処理された」ものの物性は、「Leed&Nortrup Instruments Company社のマイクロトラックを使用して測定した」(1-i)「平均2次粒子径」が「1.4μm」(1-e)、「湯浅アイオニクス(株)の12検体全自動表面測定装置マルチソーブ-12で測定した」(1-h)「BET法比表面積」が「3.0m2/g」(1-e)、「ICP-MS法(Inductively Coupled Plasma-mas spectrometry)または原子吸光法により測定した」(1-k)重金属量(%)がFe0.006、Mn0.003、Cu0.0001以下、V0.0001以下、Co0.0001以下、Ni0.0001以下、Cr0.0001以下(1-d)、「水酸化マグネシウム粒子の試料10gを30℃のイオン交換水100ml中で96時間攪拌し溶出したナトリウムを原子吸光法により測定した」(1-l)Naの含有量が0.002%(1-e)、であると認められる。
すると、甲1刊行物に記載された「比較例6」の樹脂組成物は、本件発明1の記載ぶりに合わせて記載すると、
「表面処理された水酸化マグネシウム粒子A-II190重量を92重量部の耐衝撃グレードポリプロピレンと8重量部のEVA(VA含有量25%のEVA)と0.25重量部のイルガノックス1010(チバガイギー社製)と0.25重量部のDLTP(吉富製薬社製)と混合した樹脂組成物であって、
その表面処理された水酸化マグネシウム粒子A-IIは、
(i)Leed&Nortrup Instruments Company社のマイクロトラックを使用して測定された平均2次粒子径が1.4μm
(ii)BET法比表面積が3.0m2/g
(iii)ICP-MS法(Inductively Coupled Plasma-mas spectrometry)または原子吸光法により測定した重金属量(%)Fe0.006、Mn0.003、Cu0.0001以下、V0.0001以下、Co0.0001以下、Ni0.0001以下、Cr0.0001以下
(iv)水酸化マグネシウム粒子の試料10gを30℃のイオン交換水100ml中で96時間攪拌し溶出したナトリウムを原子吸光法により測定したNaの含有量が0.002%
である樹脂組成物」であると認められる(以下、この樹脂組成物の発明を「引用発明」という。)。

2.本件発明1について
(1) 本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、樹脂組成物組成に関し、引用発明の「耐衝撃グレードポリプロピレンと・・・EVA(VA含有量25%のEVA)」は合成樹脂であるから、本件発明1の「合成樹脂」に相当する。そして、引用発明の「イルガノックス1010(チバガイギー社製)」と「DLTP(吉富製薬社製)」は、甲14刊行物(「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品 改訂第二版」(株式会社 ラバーダイジェスト社 1993年10月30日発行)第76?137頁)の「5.老化防止剤,酸化防止剤,オゾン劣化防止剤」の項(第76?122頁)に、それぞれ「k.ヒンダート・フェノール系」(第100?105頁)の1つの「(6)」(第102頁)として、及び「(1)ジラウリル・チオジプロピオネート」(第111頁)として、それぞれ記載されているとおり、本件発明1の「酸化防止剤」に相当するものと認められ、したがって、引用発明の樹脂組成物の配合割合は、合成樹脂100重量部に対し、水酸化マグネシウム粒子190重量部、酸化防止剤0.5重量部であるといえる。
そして、表面処理された水酸化マグネシウム粒子A-IIの物性に関し、平均2次粒子径は、引用発明においては「Leed&Nortrup Instruments Company社のマイクロトラック」で測定されたものであるところ、この測定法は甲28刊行物(特開2000-16862号公報【0022】)等の記載からみて、本件発明1における「レーザー回折散乱法」に相当すると認められる。また、FeおよびMnの量は、引用発明においてはICP-MS法(Inductively Coupled Plasma-mas spectrometry)又は原子吸光法により測定された表面処理された水酸化マグネシウム粒子A-IIに含まれるFe及びMnの重量(%)であるところ、甲29刊行物(「プラズマイオン源質量分析」(第2刷 1995年12月30日 株式会社 学会出版センター 発行)9頁)等の記載によれば、本件発明1の「Fe化合物およびMn化合物の含有量の合計量を金属に換算」した重量(%)であると認められる。さらに、引用発明においては水溶性ナトリウム化合物の含有量の合計をナトリウムに換算した量のみが規定されるが、表面処理された水酸化マグネシウム粒子A-IIに含まれるアルカリ金属は主にナトリウムであって他のアルカリ金属は実質的に含まれていないと認められるから、引用発明の「水溶性ナトリウム化合物の含有量の合計をナトリウムに換算した量」は、本件発明1の「水溶性アルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算した量」に相当すると認められる。
すると、本件発明1と引用発明とは、
「(a)合成樹脂100重量部に対し
(b)水酸化マグネシウム粒子190重量部
(c)酸化防止剤を0.5重量部を配合した樹脂組成物であって、
該水酸化マグネシウム粒子は下記(i)?(iv)の要件
(i)レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が1.4μm
(ii)BET法比表面積が3.0m2/g
(iii)Fe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して0.009重量%
(iv)水溶性アルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して0.002重量%である樹脂組成物」
の点で一致し、以下の点Aで相違すると認められる。
A 本件発明1は、その「樹脂組成物により被覆された耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル」であるのに対して、引用発明は、樹脂組成物である点(以下「相違点A」という。)
(2) 相違点Aについて
ア. 引用発明の樹脂組成物の物性は、摘示(1-g)に示すとおりである。
すなわち、「難燃性」が「UL94VE法」(1-n)で「V-0」、「熱安定性」が厚さ1/12インチのUL94VE法テストピースのハサミ切断半分長のものをギアオーブン中に150℃で吊り下げ熱酸化劣化し粉化するまでの日数(1-p)で「25日」、「耐酸性」が1/8インチ厚UL94VE法用テストピース1本を500mlのイオン交換水中に完全に浸漬し、炭酸ガスを水中に吹き込みながら24℃で48時間放置した後水中より取り出したサンプルの表面白化の程度の目視によるランク付け(1-m)が「4」級、「耐水絶縁性」が4辺をハサミ切断した各辺10cm、厚さ2mmの直方体のテストピースを、95℃イオン交換水中48時間浸漬、取出し30℃イオン交換水中15分間浸漬後、取出して紙タオルで表面の水分を拭取り、23℃±2℃、50%RHの状態調節を15分間行ない、タケダ理研工業(株)のTR8401を用いて測定したときの体積固有抵抗(1-q)が「5×1014Ω・cm」、「降伏引張強度」がJIS K 7113により50mm/分の試験速度での測定値(1-o)が「1.78kgf/mm2」、「シルバーストリーク」が日精樹脂工業(株)の射出形成機FS120S18ASEで厚さ2.1mm、直径50mmの円盤を射出成形した円盤に発生したシルバーストリークの程度の目視によるランク付け(1-r)が「1」級であることが認められる。
そして、甲1刊行物は特定の水酸化マグネシウム粒子及び水酸化アルミニウム粒子を配合することにより「熱安定性、耐酸性、耐水絶縁性、機械強度」に優れた難燃性樹脂組成物(【0069】【発明の効果】等)とする発明に関し記載するものであるところ、甲1刊行物記載の請求項1に係る発明に包含される難燃性樹脂組成物と認められる「表3」(【0059】)の「実施例2」の樹脂組成物は、引用発明と同じ組成の耐衝撃グレードポリプロピレンとEVA(VA含有量25%のEVA)の樹脂であって、引用発明の水酸化マグネシウム粒子の半量が水酸化アルミニウムB-II粒子に置換された樹脂組成物であると認められる。
その「実施例2」の樹脂組成物の物性は、摘示(1-g)に示すとおりのもの、すなわち、測定法はそれぞれ引用発明の樹脂組成物の測定法と同じであるところの、「熱安定性」が「30日」、「耐酸性」が「1」級、「耐水絶縁性」が「5×1014Ω・cm」、「降伏引張強度」が「1.80kgf/mm2」、「シルバーストリーク」が「1」級であることが認められるが、これらの各物性値は、「実施例2」の樹脂組成物が甲1刊行物の請求項1に係る発明に包含される難燃性樹脂組成物であると認められることから、「熱安定性、耐酸性、耐水絶縁性、機械強度」に優れたと評価される値といえる。
引用発明と「実施例2」の樹脂組成物の物性値をみると、「熱安定性」、「耐水絶縁性」、及び「降伏引張強度」で表される機械強度及び「難燃性」の値は、引用発明と「実施例2」の樹脂組成物の値は同等と認められるから、引用発明の樹脂組成物も、「熱安定性、耐水絶縁性、機械強度」に優れた「難燃性」の樹脂組成物と評価できるものであるといえ、そして、「耐酸性」の値は、引用発明の値は「4」級(かなり表面白化現象あり)、実施例2のそれは「1」級(全く表面白化現象なし)であり、「3級以上が実用的な防白化性があることを意味し特に2級以上であることが望ましい」(1-m)のであるから、引用発明の樹脂組成物は、「耐酸性」には劣るものであると評価されるものであるといえる。
してみれば、甲1刊行物に接した当業者は、特定の水酸化マグネシウム粒子を含む難燃性樹脂組成物である引用発明の樹脂組成物は、特定の水酸化アルミニウムを含まない点で比較例の樹脂組成物であって「耐酸性」は両難燃剤を併用する「実施例2」の樹脂組成物には劣るものであるが、「熱安定性」、「耐水絶縁性」、「機械強度」においては「実施例2」の樹脂組成物と同程度に優れた樹脂組成物であると理解すると認められる。
イ. そして、水酸化マグネシウム粒子を難燃化剤とする難燃性樹脂組成物は本件優先日前周知の難燃性を要する用途に適用する樹脂組成物であり、電線及びケーブルの被覆はその用途の一つであることについては争いがないところ、この難燃性樹脂組成物の電線及びケーブルの被覆の用途は、本件優先権主張日前にその主たる用途の一つである、ということができることは、以下のとおりである。
たとえば、甲2刊行物は水酸化マグネシウム粒子を難燃化剤とする難燃性樹脂組成物の発明について記載するもの(2-a,c)であると認められるところ、その難燃性樹脂組成物の用途は電線及びケーブルの被覆である(2-b)ことが記載されており、また、甲8、9刊行物(特開平9-20841号公報、特開平11-286580号公報)には、水酸化マグネシウム粒子を難燃化剤とする難燃性樹脂組成物が「たとえば偏向ヨーク・・・などの電気、電子用機器部品や・・・自動車用部品並びに電線被覆材などの絶縁材料など」に好適に使用される(それぞれ【0037】、【0044】)と、その用途として電線の絶縁被覆が例示されており、とりわけ、本件優先日当時の技術水準を示すものと認められる乙7刊行物(「プラスチックス」第50巻第7号(1999年)第18?29頁「最近の難燃剤の開発動向」)には「水酸化マグネシウムは・・・ポリオレフィン,各種エンプラにも使われ,電線ケーブル,ハウジング用材料が主たる用途である」(第24頁左欄下から第3行?右欄第1行)と明記され、この「電線ケーブル」の用途とは、電線及びケーブルの被覆の用途であると認められる。
すると、本件優先権主張日当時、電線及びケーブルの被覆の用途は、水酸化マグネシウム粒子を難燃化剤とする難燃性樹脂組成物の主たる用途の一つあるといえ、この難燃性樹脂組成物の用途として当業者が容易に想到し得る用途の一つであるということができる。
ウ. 上記のとおり、引用発明の樹脂組成物に接した当業者にとって、この樹脂を上記アのとおりの「熱安定性」、「耐水絶縁性」、「機械強度」さらに「難燃性」において優れた物性を有している樹脂組成物と評価して、水酸化マグネシウム粒子を含む樹脂組成物の用途であって、その主たる用途の一つである電線及びケーブルの被覆へ適用することは容易に想到し得ること、すなわち、引用発明において相違点Aに係る本件発明の特定事項である「樹脂組成物により被覆された耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル」とすることは当業者にとって容易に想到し得ること、であると認められる。
エ. そして、本件発明1が相違点Aに係る発明特定事項によって、格別顕著な効果を奏するものとも認めることができないことは、以下のとおりである。
すなわち、本件発明1の電線及びケーブルが奏する「耐熱劣化性および耐水絶縁性に優れた電線およびケーブルが提供できる」(本件訂正明細書【0078】)という効果について本件訂正明細書の記載をみると、その耐熱劣化性や耐水絶縁性の評価は樹脂組成物についてされており、その樹脂組成物を被覆した電線及びケーブルについてされているわけではないことが認められる(【0045】、【0051】等)。
してみると、本件発明1の電線及びケーブルが奏するとされる上記「耐熱劣化性および耐水絶縁性に優れた」という効果は、本件発明1に係る樹脂組成物自体の奏する効果であると認められる。
他方、引用発明の樹脂組成物は、上記のとおりの耐熱劣化性および耐水絶縁性に優れたものであって、その程度は本件発明1に係る樹脂組成物自体と同等であると認められるものである。
すると、本件発明1の電線及びケーブルが奏する「耐熱劣化性および耐水絶縁性に優れた電線およびケーブルおよび成形品が提供できる」という上記効果は、引用発明の樹脂組成物の奏する効果と同等であると認められるから、引用発明から予期し得るものであって、格別顕著なものであるということはできない。
そして、本件訂正明細書検討しても、本件発明1が、その樹脂組成物自体とは別の、その樹脂組成物を被覆した電線及びケーブルとしたことによる顕著な作用効果を奏するものであることを認めるに足る記載や示唆は認められない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。
(4) 被請求人の主張について
ア.(ア) 被請求人は、引用発明の樹脂組成物の耐酸性は「4」すなわち「かなり表面白化現象あり」であり、実用的な防白化性がないから、酸性雨に曝されることを避け得ない電線やケーブルの被覆材として使用しようとすることは通常考えない。したがって、引用発明の樹脂組成物が実用的な防白化性がないことは、当業者が引用発明の樹脂組成物を電線及びケーブルの被覆のための樹脂組成物として適用することを阻害する旨主張する。
(イ) しかし、引用発明の樹脂組成物に接した当業者にとって、「熱安定性」、「耐水絶縁性」、「機械強度」さらに「難燃性」において優れた物性を有している樹脂組成物と評価して、これを水酸化マグネシウム粒子を含む樹脂組成物の用途であって、その主たる用途の一つである電線及びケーブルの被覆へ適用することを容易に想到し得ることは、前記(3)のとおりである。そして、電線及びケーブルの種類や使用態様は様々であって、「酸性雨に曝されることを避け得ない」ような使用態様のものばかりではなく、耐酸性をさほど要求されないような電線及びケーブルもあることを考慮すれば、耐酸性に劣ることが、直ちには引用発明の樹脂組成物を電線及びケーブルの被覆のための樹脂組成物として適用することの妨げとなるものではない。
(ウ) 付言するに、本件発明1の樹脂組成物は、引用発明の樹脂組成物と同等の特定の水酸化マグネシウム粒子を配合する樹脂組成物であるから、その「耐酸性」は「4」程度と劣るものであると認められる。
しかるに、そのような「耐酸性」が「4」程度と劣るものであると認められる樹脂組成物であるにもかかわらず、本件発明1はこの樹脂組成物を電線及びケーブルの被覆に用いるものである。
このことは、樹脂組成物の「耐酸性」の程度が「4」程度であることは、直ちには引用発明の樹脂組成物を電線及びケーブルの被覆のための樹脂組成物として適用することの妨げになるものではないことを、被請求人自らが認めているといえる。
(エ) 以上のとおり、被請求人の主張は、上記(3)の判断を左右するものではない。
イ.(ア) 被請求人は、引用発明の樹脂組成物の樹脂は、「耐衝撃グレードポリプロピレンと・・・EVA(VA含有量25%のEVA)」であるところ、耐衝撃グレードポリプロピレンは「曲げ弾性率が大きすぎ硬質であるため電線被覆に通常用いられない」(被請求人の陳述用要領書4頁)ものであるから、引用発明の樹脂(そして樹脂組成物)が「硬質」であることは、「柔軟」であることが要求される電線及びケーブルの被覆のための樹脂組成物として当業者が引用発明の樹脂組成物を適用することを阻害する旨主張する。
(イ) 本件発明1の樹脂は「合成樹脂」と規定されるものであるところ、引用発明の「耐衝撃グレードポリプロピレンと・・・EVA(VA含有量25%のEVA)」の樹脂も「合成樹脂」であって、本件発明1の「合成樹脂」に包含されるものであると認められる。本件発明1の「合成樹脂」と引用発明の樹脂が相違することを前提とする被請求人の主張は、前提において誤っており、採用することはできない。
(ウ) 仮に被請求人の主張が、本件発明1の「合成樹脂」は「柔軟」な「合成樹脂」に限られ、引用発明のような「硬質」の樹脂を含まないものであるとの解釈を前提とする主張と解しても、本件発明1の「合成樹脂」はそのような樹脂に限定して解されるものではないから、被請求人の主張は、前提において誤っており、採用することはできない。
すなわち、仮に本件発明1の「合成樹脂」の記載が不明確であって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する必要があるものであったとしても、そこには「本発明で使用する水酸化マグネシウム粒子が配合される合成樹脂は、通常、電線およびケーブルの被覆材料として使用される樹脂であればよく、その例としてはポリエチレン、ポリプロピレン・・・」等として多種の熱可塑性樹脂が例示され(【0026】)、そのうち好ましい例は、「水酸化マグネシウム粒子による難燃効果、熱劣化防止効果、耐水絶縁効果および機械的強度保持特性の優れたポリオレフィンまたはその共重合体」(【0027】)であること、さらに「熱硬化性樹脂および・・・合成ゴムを例示することができる。」(【0028】)との記載がみられるにすぎず、本件発明1の「合成樹脂」は「柔軟」な合成樹脂に限られ、引用発明のような「硬質」の樹脂を含まないものであるとの記載乃至示唆は認められない。
さらに、電線及びケーブルについての技術常識をみても、電線及びケーブルの種類は様々であり、「柔軟」なものばかりではないことが認められ(硬質の電線及びケーブルについては、例えば甲24刊行物(特開平1-130415号公報)等参照)、本件訂正明細書をみても、本件発明1に係る電線及びケーブルが「柔軟」なもの限られるとの記載も示唆も認められない。
以上のとおり、本件発明1の「合成樹脂」は「柔軟」なものに限られ引用発明のような「硬質」のものを含まないものであることを認めるに足る記載や示唆、技術常識を認めることはできない。
したがって、被請求人の上記主張が、本件発明1の「合成樹脂」は「柔軟」な「合成樹脂」に限られ、引用発明のような「硬質」の樹脂を含まないものであるとの解釈を前提とする主張と解しても、その前提が誤っており、採用することができない。
(エ) さらに加えて、仮に被請求人の主張するように、本件発明1の「合成樹脂」は「柔軟」な「合成樹脂」に限られ、引用発明のような「硬質」の樹脂を含まないものであるとしたとしても、引用発明の「耐衝撃グレードポリプロピレンと・・・EVA(VA含有量25%のEVA)」の樹脂を、「柔軟」な「合成樹脂」とすることは、以下のとおり当業者が容易になし得る技術事項であって、格別の創作力を要するものということはできないから、本件発明1は引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。
すなわち、引用発明の樹脂組成物に接した当業者にとって、この樹脂を「熱安定性」、「耐水絶縁性」、「機械強度」さらに「難燃性」において優れた物性を有しているものと評価して、水酸化マグネシウム粒子を含む樹脂組成物の用途であって、その主たる用途の一つである電線及びケーブルの被覆へ適用することを容易に想到し得ることは上記(2)のとおりであって、引用発明の樹脂組成物を電線及びケーブルの被覆の用途に適用するに際して、上記のとおり電線及びケーブルの種類やその使用態様は様々であって、電線及びケーブルに要求される物性も様々であるから、それらの要求に対応して被覆用の樹脂組成物を適宜改変等することは、当業者であれば通常の創作力の範囲内のことである。したがって、その要求される物性が引用発明の樹脂組成物を被覆したものよりも「柔軟」なものであるときには、より「柔軟」なものとなるように、例えば樹脂を「柔軟」な「合成樹脂」に改変する等の変更をすることは、当業者が容易になし得る技術事項であって、格別の創作力を要するものということはできない。
(オ) 以上のとおり、被請求人の主張は、採用することはできない。

3. 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の樹脂組成物における水酸化マグネシウム粒子の配合割合「10?500重量部」を、「30?400重量部」に限定するものである。
しかし、引用発明の樹脂組成物における水酸化マグネシウム粒子の配合割合は190重量部で「30?400重量部」の範囲内であるから、この点において本件発明2と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明2は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

4. 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の水酸化マグネシウム粒子の「Fe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して0.02重量%以下」を、「鉄化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物、およびニッケル化合物の合計含有量が、金属に換算して0.02重量%以下」にするものである。
しかし、引用発明の水酸化マグネシウム粒子は「Fe(%)」が「0.006」、「Mn(%)」が「0.003」、「Cu(%)」が「0.0001以下」、「V(%)」が「0.0001以下」、「Co(%)」が「0.0001以下」、「Ni(%)」が「0.0001以下」、「Cr(%)」が「0.0001以下」(1-d)であるから、これら上限値を加えても0.0095%である。したがって、「鉄化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物、およびニッケル化合物の合計含有量が、金属に換算して」は、0.0095%以下の量で「0.02重量%以下」であるから、この点において本件発明3と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

5. 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1の水酸化マグネシウム粒子の「Fe化合物およびMn化合物の含有量の合計量」が金属に換算して「0.02重量%以下」を、「0.01重量%以下」に限定するものである。
しかし、引用発明は、水酸化マグネシウム粒子のFe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して「Fe(%)」が「0.006」、「Mn(%)」が「0.003」、すなわち0.009重量%で「0.01重量%以下」であるから、この点において本件発明4と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明4は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

6. 本件発明5、6について
本件発明5は、本件発明1の水酸化マグネシウム粒子のレーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径「10μm以下」を、「5μm以下」に、本件発明6は、さらに「0.5?2μm」に限定するものである。
しかし、引用発明の水酸化マグネシウム粒子(表面処理後)の平均2次粒子径は「1.4μm」(1-e)で「0.5?2μm」の範囲内であるから、これらの点において本件発明5、6と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明5、6は、本件発明1と同様の理由により、それぞれ引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

7. 本件発明7、8について
本件発明7は、本件発明1の水酸化マグネシウム粒子のBET法による比表面積「20m2/g以下」を、「1?11m2/g」に、本件発明8は、さらに「3?8m2/g」に限定するものである。
引用発明の水酸化マグネシウム粒子(表面処理後)のBET法比表面積は「3.0m2/g」で「3?8m2/g」の範囲内であるから、これらの点において本件発明7、8と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明7、8は、本件発明1と同様の理由により、それぞれ引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

8. 本件発明9、10について
本件発明9は、本件発明1の水酸化マグネシウム粒子の水溶性のアルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して「0.05重量%以下」を、「0.03重量%以下」に、本件発明10は、さらに「0.003重量%以下」に限定するものである。
しかし、引用発明の水酸化マグネシウム粒子のNa含有量は0.002重量%(1-e)で「0.003重量%以下」であるから、これらの点において本件発明9、10と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明9、10は、本件発明1と同様の理由により、それぞれ引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

9. 本件発明11について
本件発明11は、本件発明1の水酸化マグネシウム粒子を「高級脂肪酸類、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル類、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤および多価アルコールの脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている」ものに限定するものである。
しかし、引用発明の水酸化マグネシウム粒子は「ステアリルリン酸エステルジエタノールアミン塩;(化学式略)のジエステル90%と(化学式略)のモノエステル10%の混合品」で処理されているもの(1-b)であるところ、この表面処理剤はリン酸エステル類であるから、この点において本件発明11と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明11は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

10. 本件発明12について
本件発明12は、本件発明1の「合成樹脂」を、「ポリオレフィン系樹脂」に限定するものである。
しかし、引用発明の「92重量部の耐衝撃グレードポリプロピレンと8重量部のEVA」の合成樹脂は、主成分である「ポリプロピレン」がポリオレフィンであって、ポリオレフィン系樹脂であるから、この点において本件発明12と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明12は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

11. 本件発明13について
本件発明13は、本件発明1の「酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤」の「0.01?10重量部配合」を「0.1?5重量部配合」に限定するものである。
しかし、引用発明の樹脂は、92重量部の耐衝撃グレードポリプロピレンと8重量部のEVAの合成樹脂100重量部に対し、「酸化防止剤0.5重量部」配合で「0.1?5重量部配合」の範囲内であるから、この点において本件発明13と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明13は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

12. 本件発明14について
本件発明14は、本件発明1の酸化防止剤を、「フェノール系酸化防止剤、有機フォスファイト系酸化防止剤、有機チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤の群から選ばれた少なくとも1種」に限定するものである。
しかし、引用発明の樹脂「イルガノックス1010(チバガイギー社製)」と「DLTP(吉富製薬社製)」は、上記2.(1)に記載したとおりのものであって、それぞれフェノール系酸化防止剤、有機チオエーテル系酸化防止剤の1種であるから、この点において本件発明14と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明14は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

13. 本件発明15、16について
本件発明15は、本件発明1の樹脂組成物について、「それからの成形品(厚さ2.1mm)が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃での熱安定性試験において、熱分解せず白粉化に耐える日数」が「10日以上」、本件発明16では「20日以上」であることを限定するものである。
しかし、引用発明の樹脂組成物からの成形品についての熱安定性試験(1-p)は上記試験と同じものであると認められ、その日数は「25日」(1-g)で「20日以上」であるから、これらの点において本件発明9、10と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明15、16は、本件発明1と同様の理由により、それぞれ引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

14. 本件発明17について
本件発明17は、本件発明1の樹脂組成物について、「それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において引張強度が熱安定性試験前の引張強度の60%以上を維持している」ものであることを限定するものである。
一方、引用発明の樹脂組成物からの成形品がこのような特性を有することは甲1刊行物に明記されてはいない。しかしながら、引用発明の樹脂組成物は、本件発明1の樹脂組成物と同じものであって同じ物性であると認められるから、この点において本件発明17と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明17は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

15. 本件発明18について
本件発明18は、本件発明1の樹脂組成物について、「それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において、伸び率が、熱安定性試験前の伸び率の60%以上を維持している」ものであることを限定するものである。
一方、引用発明の樹脂組成物からの成形品がかかる特性を有することは甲1刊行物に明記されてはいない。しかしながら、引用発明の樹脂組成物は、本件発明1の樹脂組成物と同じものであって同じ物性であると認められるから、この点において本件発明18と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明18は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

16. 本件発明19について
本件発明19は、本件発明1の樹脂組成物について、「それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において、アイゾット衝撃強度が熱安定性試験前のアイゾット衝撃強度の60%以上を維持している」ものであることを限定するものである。
一方、引用発明の樹脂組成物からの成形品がかかる特性を有することは甲1刊行物に明記されてはいない。しかしながら、引用発明の樹脂組成物は、本件発明1の樹脂組成物と同じものであって同じ物性であると認められるから、この点において本件発明19と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明19は、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

17. 本件発明20、21について
本件発明20は、本件発明1の樹脂組成物について、「それからの成形品が、95℃48時間または70℃168時間イオン交換水中に浸漬した後の成形品の体積固有抵抗」が「1×1010Ω・cm以上」、本件発明21は「1×1013Ω・cm以上」のものであることを限定するものである。
しかし、引用発明の樹脂組成物からの成形品についての95℃48時間イオン交換水中に浸漬した後(1-q)の成形品の体積固有抵抗値は5×1014Ω・cm(1-g)で、「1×1013Ω・cm以上」である。よって、これらの点において本件発明20、21と引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明20、21は、本件発明1と同様の理由により、それぞれ引用発明及び甲2刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

18. 本件発明22について
(1) 本件発明22と引用発明との対比
本件発明22は、本件発明1の樹脂組成物の合成樹脂100重量部に対し、さらに「(d)紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を0.01?10重量部配合する」ものである。
他方、引用発明の樹脂組成物には紫外線吸収剤も光安定化剤も配合されていない。
したがって、本件発明22と引用発明とは、相違点Aに加え、さらに以下の点Bで相違すると認められる。
B 本件発明22が樹脂組成物の「合成樹脂100重量部に対し、さらに紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を0.01?10重量部配合した」ものであるのに対し、引用発明は、紫外線吸収剤も光安定化剤も配合してはいない点(以下「相違点B」という。)
(2) 相違点Bについて
樹脂組成物において、さらに水酸化マグネシウム粒子等の難燃剤を配合した難燃性樹脂組成物において、必要に応じて紫外線吸収剤及び又は光安定剤を配合することは、本件優先権主張日前周知の技術事項である(たとえば、樹脂組成物一般については甲14刊行物「紫外線吸収剤,光安定剤」の項(第122?137頁)、又、水酸化マグネシウム粒子の難燃剤を配合した難燃性樹脂組成物については甲1刊行物の摘示(1-s)等参照)。引用発明の樹脂組成物を電線やケーブルの被覆に適用するに際して、特にその電線やケーブルの使用態様が紫外線及び又は光が当たる屋外等での使用であるとき、紫外線吸収剤及び又は光安定剤を配合することは当業者が容易になし得る技術事項であって、格別の創作力を要するものということはできない。
そして、本件発明22の紫外線吸収剤及び又は光安定剤の配合量である、合成樹脂100重量部に対して「0.01?10重量部配合」という範囲も、たとえば、甲3刊行物には、樹脂100重量部に対してベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、シアヌレート系のそれぞれの紫外線吸収剤を0.01?1.0重量部配合すること(3-a)、具体的には1.0重量部配合する例(3-b、c)が記載され、また、甲13刊行物(特開平10-324783号公報)には、樹脂100重量部に対して0.1?3重量部(【0024】)配合することが望ましいことが記載されているように、樹脂組成物への配合量として通常の範囲であって格別の範囲ではないと認められる。
また、本件発明22の相違点Bに係る発明特定事項の奏する効果と認められる「耐候性にも優れた電線およびケーブルが提供できる」(本件訂正明細書【0078】)という効果も予測し得る程度のものであって、格別であると認めることはできない。
(3) 小括
したがって、本件発明22は、引用発明及び甲2、3刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

19. 本件発明23について
本件発明23は、本件発明22における紫外線吸収剤及び又は光安定化剤「0.1?5重量部」配合を、「0.1?3重量部」配合に限定するものである。
しかし、その配合量の範囲は、上記のとおり格別の範囲ではないし、特にこの範囲において本件発明23が、格別の効果を奏するものであるとも認められない。
したがって、本件発明23は、引用発明及び甲2、3刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

20. 本件発明24について
本件発明24は、本件発明22における紫外線吸収剤を「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系の群から選ばれた少なくとも1種」、光安定化剤を「ヒンダードアミン系」のものに限定したものである。
しかしながら、たとえば、甲3刊行物に樹脂組成物に配合する紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系のものが、光安定化剤としてヒンダードアミン系のものが開示されている(3-b、c)とおり、樹脂組成物に配合する紫外線吸収剤として「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系」のもの、光安定化剤として「ヒンダードアミン系」のものは、本件優先日前周知・慣用のものに過ぎない。そして、本件発明24の特定の紫外線吸収剤、光安定化剤としたことにより、本件発明24が、格別の効果を奏するものであるとも認められない。
したがって、本件発明24は、引用発明及び甲2、3刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

21. 本件発明25について
本件発明25は、本件発明1の樹脂組成物について、「それからの成形品が、JIS A 1410の屋外暴露試験方法により1年間屋外暴露した場合、引張強度、伸び率およびアイゾット衝撃強度のいずれもが屋外暴露する前の60%以上を維持している」ものに限定するものである。
一方、引用発明の樹脂組成物からの成形品がかかる特性を有することは甲1刊行物に明記されてはいない。しかしながら、引用発明の樹脂組成物に周知慣用の紫外線吸収剤及び又は光安定剤を周知慣用の量範囲で添加したものとすることは当業者にとって容易想到なことであることは上記のとおりであるところ、その紫外線吸収剤及び又は光安定剤を周知の量範囲で添加した引用発明は、本件発明25と同程度の屋外暴露による引張強度、伸び率及びアイゾット衝撃強度を有するものであると認められるから、この点において本件発明と上記の引用発明とは相違するものではない。
したがって、本件発明25は、引用発明及び甲2、3刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に想到し得たものであると認められる。

第8 結び
以上のとおりであるから、本件発明1?25は、それぞれ引用発明及び甲2、3刊行物の記載その他の技術常識に基づき、当業者が容易に発明することができたものであって、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(a)合成樹脂100重量部に対し(b)水酸化マグネシウム粒子10?500重量部(c)酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤を0.01?10重量部を配合した樹脂組成物であって、該水酸化マグネシウム粒子は下記(i)?(iv)の要件
(i)レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が10μm以下
(ii)BET法比表面積が20m2/g以下
(iii)Fe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して0.02重量%以下
(iv)水溶性アルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して0.05重量%以下
を満足する樹脂組成物により被覆された耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項2】該樹脂組成物は、合成樹脂100重量部に対し、該水酸化マグネシウム粒子30?400重量部を配合した組成物である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項3】該水酸化マグネシウム粒子は、鉄化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物、およびニッケル化合物の合計含有量が、金属に換算して0.02重量%以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項4】該水酸化マグネシウム粒子は、鉄化合物およびマンガン化合物の含有量が合計で金属に換算して0.01重量%以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項5】水酸化マグネシウム粒子は、レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が5μm以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項6】水酸化マグネシウム粒子は、レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が0.5?2μmである請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項7】該水酸化マグネシウム粒子は、BET法による比表面積が1?11m2/gである請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項8】該水酸化マグネシウム粒子は、BET法による比表面積が3?8m2/gである、請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項9】該水酸化マグネシウム粒子は、水溶性のアルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して、0.03重量%以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項10】水酸化マグネシウム粒子は、水溶性のアルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して0.003重量%以下である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項11】該水酸化マグネシウム粒子が、高級脂肪酸類、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル類、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤および多価アルコールの脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種の表面処理剤により、表面処理されている請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項12】該合成樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項13】該樹脂組成物は、合成樹脂100重量部に対し、酸化防止剤を0.1?5重量部配合した請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項14】該酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、有機フォスファイト系酸化防止剤、有機チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項15】該樹脂組成物は、それからの成形品(厚さ2.1mm)が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃での熱安定性試験において、熱分解せず白粉化に耐える日数が10日以上である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項16】該樹脂組成物は、それからの成形品(厚さ2.1mm)が、JIS K 7212のギアーオーブンで中、150℃での熱安定性試験において、熱分解せず白粉化に耐える日数が20日以上である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項17】該樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において引張強度が熱安定性試験前の引張強度の60%以上を維持している請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項18】該樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において、伸び率が、熱安定性試験前の伸び率の60%以上を維持している請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項19】該樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、150℃10日間の熱安定性試験において、アイゾット衝撃強度が熱安定性試験前のアイゾット衝撃強度の60%以上を維持している請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項20】該樹脂組成物は、それからの成形品が、95℃48時間または70℃168時間イオン交換水中に浸漬した後の成形品の体積固有抵抗が1×1010Ω・cm以上である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項21】該樹脂組成物は、それからの成形品が、95℃48時間または70℃168時間イオン交換水中に浸漬した後の成形品の体積固有抵抗が1×1013Ω・cm以上である請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項22】合成樹脂100重量部に対し、さらに(d)紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を0.01?10重量部配合した請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項23】合成樹脂100重量部に対し、さらに(d)紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を0.1?5重量部配合した請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項24】紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系の群から選ばれた少なくとも1種であり、光安定化剤がヒンダードアミン系のものである請求項22記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【請求項25】該樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS A 1410の屋外暴露試験方法により1年間屋外暴露した場合、引張強度、伸び率およびアイゾット衝撃強度のいずれもが屋外暴露する前の60%以上を維持している請求項1記載の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃焼時にハロゲン系ガス等の有害ガスの発生がない、あるいは発生が少ない、耐熱劣化性、耐水絶縁性および耐候性に優れた難燃性の樹脂組成物により被覆された電線およびケーブルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
合成樹脂に対する難燃性の要求は、年々増加し、且つ厳しくなっている。このような難燃化の要求に応えるべく、従来有機ハロゲン化物と三酸化アンチモンとを併用する難燃剤が提案され、幅広く実施されてきた。しかし、この難燃剤は、成形加工時に一部分解してハロゲンガスを発生し、このため加工および成形機を腐食させる、作業者に対し毒性がある、樹脂およびゴムの耐熱性あるいは耐候性に対し悪影響を及ぼす、用済み後の成形品の燃焼時に有害ガスを含む多量の煙を発生する、ダイオキシンを発生する等の種々の問題を有していた。
【0003】
電線、ケーブル、自動車用ワイヤーハーネス、パソコン等電子機器のチューブ等の被覆材料についても、都市機能の高性能化、高機能化、高密度化により、高レベルの難燃性が要求されるようになってきた。
従来、電線、ケーブル、およびワイヤーハーネスやパソコン用電線のような熱収縮チューブ等の絶縁体やシース用被覆材料は、いずれも可燃性であり、火災時には電線、ケーブルの配線系を伝わって火災が拡大する例が多く、難燃性の電線、ケーブルへの要請が高まり、各種の研究がなされた。
【0004】
電気絶縁用として使用されてきたポリオレフィン、ハロゲン系樹脂の難燃化においても、ハロゲン含有化合物を難燃剤として配合する方法が一般に行われてきた。このような難燃性電気絶縁組成物は、火災時に不燃性のハロゲン系ガスを多量に発生させ、その結果、電線、ケーブル周囲にある燃焼継続に必要である’OH,’Oのようなラジカルを補足したり、電線ケーブルを炭化し、酸素を遮断し、燃焼を防止するもので、優れた難燃効果がある。しかしながらその時発生するハロゲン系ガスは人体に有害であり、さらに、ハロゲン系ガスが、空気中の水分と反応し、ハロゲン化水素酸となり機器等を腐食させ、環境汚染の原因にもなる。このような状況からポリオレフィンに金属水酸化物を配合することで人体に安全で腐食性ガスの発生が少ない難燃剤に対する要求が強まり、難燃性電気絶縁組成物を絶縁体とした電線・ケーブルについては特開平1-108235号公報および特開平5-247281号公報に提案された。
【0005】
また、ワイヤーハーネス電線のようなポリ塩化ビニルからなる絶縁材料を被覆した絶縁電線においても金属水酸化物を配合する方法が提案されている[特開平10-298380号公報参照]。
また電線以外のその他の成形品の難燃化についても様々な提案がなされてきた。水酸化物の中でも水酸化アルミニウムは脱水反応が約200℃から始まり、多くのポリマーでは加工温度で熱分解して、成形品を発泡させる。水酸化カルシウムの場合は、脱水温度が約450℃から始まり、約550℃で脱水が完了するため、ポリマーの燃焼温度より脱水温度が高くなって、その燃焼効果は、水酸化マグネシウムに比べるとかなり劣る。
【0006】
これら水酸化物の併用としては特開平11-181305号公報に水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムの併用が提案されているが、水酸化アルミニウムも使用されているため加工温度が200℃より低いものにしか適用できない、という欠点がある。
ポリマーの難燃剤としては、ポリマーの加工温度では脱水分解せず、ポリマーの燃焼温度と可及的に重なった温度で脱水することが必要で、そのような条件を満たすものとしては、実用上、水酸化マグネシウムに限られる。
【0007】
水酸化マグネシウムは脱水開始温度が約340℃であるため、ほとんどの樹脂に適用される。
水酸化マグネシウムは樹脂に配合して、難燃性を有する各種の成形品、特に難燃性絶縁電線・ケーブルとして適した性質を有しているが、最近の要求特性の増大とともに、なお解決すべき問題があることが判明した。
【0008】
すなわち、合成樹脂に水酸化マグネシウム粒子を配合し、UL-94難燃規格で、厚さ1/8インチから1/16インチでV-Oの基準に合格するためには、樹脂100重量部に対し、水酸化マグネシウム粒子を約150?250重量部配合する必要がある。このような比較的多量の水酸化マグネシウム粒子の配合は、成型時の加熱や使用時の加熱による成形品の劣化を促進し、成形品本来の物性、殊にアイゾット衝撃強度、伸び、引張強度などを低減させるという問題を生ずることになる。本発明は、基本的には上記問題を解決した水酸化マグネシウム粒子よりなる新しい優れた耐熱劣化性耐水絶縁性、耐熱劣化性耐水絶縁性耐候性に優れた難燃性の電線およびケーブル(自動車のワイヤーハーネスも含む)を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、工業的な意味において前記目的を達成するために、使用する水酸化マグネシウム粒子の純度および物性について研究を重ねた。その結果、水酸化マグネシウム粒子中の不純物としての特定金属化合物の量、平均2次粒子径の値および比表面積の値が、相互に樹脂の熱劣化性に影響を与えていることが判明し、これらをある特定値とすることにより優れた耐熱劣化性を有する電線およびケーブルとなりうることを見出し、本発明に到達した。
ただしその場合、該電線およびケーブルには一定量の酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤が添加されていなければならないことも発見した。つまりこれらの添加剤が添加されていなければ、いくら前記の該水酸化マグネシウム粒子を使用しても耐熱劣化性に優れた電線およびケーブルにはならないことも発見した。
【0010】
水酸化マグネシウム粒子は、その製造過程において、主としてその原料中に種々の不純物を含有しており、また、装置の腐食、摩擦などによる装置材料の混入による不純物があり、その不純物が水酸化マグネシウム粒子中に固溶体あるいは夾雑物として混入している。本発明者らの研究によれば、種々の不純物中、鉄化合物およびマンガン化合物が微量存在すると、それらが夾雑物としてばかりでなく、固溶体として含有されている場合でも、樹脂の熱劣化に影響を与えることが見出された。また水酸化マグネシウム粒子中の水溶性アルカリ金属塩が耐水絶縁性に影響を与えることも発見した。
【0011】
かくして本発明者らの研究によれば、不純物としての鉄化合物およびマンガン化合物および水溶性アルカリ金属塩を一定量以下含む高純度の水酸化マグネシウム粒子であって、かつ平均2次粒子径の値を10μm以下とし(すなわち、このことは殆どの粒子は2次凝集していない1次粒子であることを意味する)、さらに、比表面積の値を20m2/g以下の水酸化マグネシウム粒子の一定量と酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤の一定量を合成樹脂に配合することによって、機械的強度が優れ、熱劣化による物性低下が少なく、かつまた耐水絶縁性にも優れた難燃性を有する電線およびケーブルが得られることが判明した。
さらに、本発明者らの研究によれば該組成物にさらに紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を配合することにより、さらに耐候性にも優れた電線およびケーブルが得られることも判明した。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、(a)合成樹脂100重量部に対し(b)水酸化マグネシウム粒子10?500重量部(c)酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤を0.01?10重量部を配合した樹脂組成物であって、該水酸化マグネシウム粒子は下記(i)?(iv)の要件
(i)レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が10μm以下
(ii)BET法比表面積が20m2/g以下
(iii)Fe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して0.02重量%以下
(iv)水溶性アルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して0.05重量%以下
を満足する樹脂組成物により被覆された耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブルが提供される。
【0013】
さらに本発明によれば該樹脂組成物にさらに(d)紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を0.01?10重量部配合することにより、さらに耐候性にも優れた電線およびケーブルも提供される。
本発明によれば、該樹脂組成物の(b)の水酸化マグネシウム粒子が(iv)水溶性のアルカリ金属塩の含有量がアルカリ金属換算で0.05重量%以下のものを使用すると、耐水絶縁性に優れた絶縁電線およびケーブルが提供される。
【0014】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明で使用する水酸化マグネシウム粒子は、レーザー回折散乱法で測定された平均2次粒子径が10μm以下、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは0.5?2μmであり、2次凝集が殆どないか、あるいは少ないものである。また、水酸化マグネシウム粒子のBET法による比表面積は20m2/g以下、好ましくは1?11m2/g、さらに好ましくは3?8m2/gのものである。さらに、本発明で使用する水酸化マグネシウム粒子は、不純物として鉄化合物およびマンガン化合物の合計量が金属として換算(Fe+Mn)して0.02重量%以下、好ましくは0.01重量%以下、水溶性アルカリ金属塩がアルカリ金属(Na,K,Li)換算で0.05重量%以下、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.003重量%以下のものである。
【0015】
本発明で使用する水酸化マグネシウム粒子は、前記したように不純物として金属換算(Fe+Mn)の合計量が前記範囲であるが、さらに好ましいのは、コバルト化合物、クロム化合物、銅化合物、バナジウム化合物およびニッケル化合物の含有量も含めて重金属化合物の金属としての含有量が、前記範囲であることが望ましい。すなわち、水酸化マグネシウム粒子は、金属として(Fe+Mn+Co+Cr+Cu+V+Ni)合計含有量が0.02重量%以下、好ましくは0.01重量%以下であるのが好ましい。
【0016】
水酸化マグネシウム粒子中の鉄化合物およびマンガン化合物等重金属化合物の含有量が多いほど、樹脂組成物の熱安定性を著しく低下させる原因となり、水溶性アルカリ金属塩がアルカリ金属換算で0.05重量%より多く含まれると樹脂組成物の耐水絶縁性を著しく低下させる問題がある。しかし、水酸化マグネシウム粒子中の鉄化合物およびマンガン化合物の合計含有量が前記範囲を満足するのみで樹脂の熱安定性が優れ、樹脂の機械的強度が損なわれないというわけではなく、その上に、前記平均2次粒子径およびBET法比表面積がそれぞれ前記範囲を満足することが必要である。水酸化マグネシウム粒子の平均2次粒子径が大きくなるほど、樹脂との接触面が減り電線およびケーブルの熱安定性は良くなるが、機械的強度が低下したり、外観不良という問題が生じてくる。
【0017】
前記したように、水酸化マグネシウム粒子は、(i)平均2次粒子径、(ii)BET法比表面積、(iii)鉄化合物およびマンガン化合物の合計含有量(またはさらに他の重金属化合物の合計量)が前記範囲であれば、樹脂との相溶性、分散性、熱安定性、成形および加工性、成形品の外観、機械的強度および難燃性等の諸特性を全て満足する電線およびケーブルが得られる。
また該水酸化マグネシウム粒子は(iv)水溶性アルカリ金属塩の含有量がアルカリ金属換算で0.05重量%以下のものを使用すれば、耐水絶縁性にも優れた電線およびケーブルが得られる。
【0018】
ただしその場合、電線およびケーブルに高い耐水絶縁性を付与するためには、該水酸化マグネシウム粒子は予め次に示す表面処理剤で表面処理されているか、およびまたは樹脂その他の配合剤を混練する時に表面処理剤が一緒に添加されて混練され、電線およびケーブルになった最終段階においては水酸化マグネシウム粒子表面が各種表面処理剤によって、ほぼ単分子膜程度以上に被覆された状態となっていることが必要である。
【0019】
本発明で使用する水酸化マグネシウム粒子は、耐熱劣化性の難燃剤としてそのまま樹脂に配合して使用することができるが、表面処理剤で処理されたものも使用することができる。かかる表面処理剤としては、例えば高級脂肪酸、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、カップリング剤(シラン系、チタネート系、アルミニウム系)および多価アルコールと脂肪酸のエステル類からなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0020】
表面処理剤として好ましく用いられるものを例示すれば次のとおりである。ステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘン酸などの炭素数10以上の高級脂肪酸,高級脂肪酸塩;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩;ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エステル結合硫酸エステル塩、エステル結合スルホネート、アミド結合スルホン酸塩、エーテル結合スルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリールスルホン酸塩、エステル結合アルキルアリールスルホン酸塩、アミド結合アルキルアリールスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤類;オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等のモノまたはジエステルまたは両者の混合物であって、それらの酸型またはアルカリ金属塩またはアミン塩等のリン酸エステル類;γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-βアミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、等のシランカップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルフォスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス-(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等のチタネート系カップリング剤類;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤類、トリフェニルホスファイト、ジフェニル・トリデシルホスファイト、フェニル・ジトリデシルホスファイト、フェニル・イソデシルホスファイト、トリ・ノニルフェニルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル)-ジトリデシルホスファイト、トリラウリルチオホスファイト等、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等の多価アルコールと脂肪酸のエステル類。
【0021】
前記した表面処理剤を使用して、水酸化マグネシウム粒子の表面コーティング処理をするには、それ自体公知の湿式または乾式法により実施できる。例えば、湿式法としては、水酸化マグネシウムのスラリーに該表面処理剤を液状またはエマルジョン状で加え、約200℃以下の温度で機械的に十分混合すればよい。乾式法としては、水酸化マグネシウムの粉末をヘンシェルミキサー等の混合機により、十分攪拌下で表面処理剤を液状、エマルジョン状、固形状で加え、加熱または非加熱下に十分混合すればよい。表面処理剤の添加量は、適宜選択できるが、該水酸化マグネシウム粒子の重量に基づいて、約10重量%以下とするのが好ましい。またこの表面処理剤は水酸化マグネシウム粒子と合成樹脂の混練時に添加してもよい。
【0022】
ただしアルカリ金属塩の表面処理剤を混練時に合成樹脂に添加する場合は、水酸化マグネシウム粒子に対し、アルカリ金属換算で0.05重量%以下となるように注意して表面処理剤を添加することは必要なことである。そうしないと本発明の必須目的である耐水絶縁性を電線およびケーブルに付与できない。
表面処理をした水酸化マグネシウム粒子は、必要により、例えば水洗、脱水、造粒、乾燥、粉砕、分級などの手段を適宜選択して実施し、最終製品形態とすることができる。特に脱水および水洗は前記水溶性アルカリ金属塩の含有量を低減させるために十分に行うことは好ましいことである。
【0023】
水酸化マグネシウム粒子は耐酸性に弱点があるため、本発明では水酸化マグネシウム粒子表面をケイ素化合物、ホウ素化合物およびアルミニウム化合物の群から選ばれた少なくとも1種により耐酸性被覆され、必要に応じて付加的に前記高級脂肪酸類、チタネートカップリング剤、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、アルコールリン酸エステル類等の群から選ばれた少なくとも1種以上の表面処理剤で表面処理された水酸化マグネシウム粒子を用いることにより、耐酸性の高い電線およびケーブルを得ることができる。
【0024】
前記耐酸性被覆剤として、ケイ素化合物としては、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウムのようなケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、オルトケイ酸カリウムのようなケイ酸カリウム、水ガラス;ホウ素化合物としては、四ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム;アルミニウム化合物としてはオルトアルミン酸ナトリウム、メタアルミン酸ナトリウムのようなアルミン酸ナトリウム、オルトアルミン酸カリウム、メタアルミン酸カリウムのようなアルミン酸カリウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウムのような鉱酸のアルミニウム塩等が挙げられる。
【0025】
これらの耐酸性被覆剤は水酸化マグネシウム粒子に対し2重量%以下で被覆される。2重量%以上で被覆しても特に耐酸性が向上するわけでもなく、また湿式により表面処理した後の脱水濾別の作業性が悪化し問題であるので2重量%以下が好ましい。
本発明で使用する水酸化マグネシウム粒子は、樹脂100重量部に対し、10?500重量部、好ましくは30?400重量部、さらに好ましくは50?300重量部の割合で配合される。10重量部より少ない配合は電線およびケーブルの難燃性が不十分となる恐れがあり、500重量部を超える配合は電線およびケーブルの機械的強度が低下する恐れがある。
【0026】
本発明で使用する水酸化マグネシウム粒子が配合される合成樹脂は、通常、電線およびケーブルの被覆材料として使用される樹脂であればよく、その例としてはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1等の如き、C3?C12のα-オレフィンとエチレンとの共重合体、これらα-オレフィンとジエンとの共重合体類、エチレン-アクリレート共重合体、ポリスチレン、ABS樹脂、AAS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、エチレン/塩ビ共重合樹脂、エチレン酢ビコポリマー樹脂、エチレン-塩ビ-酢ビグラフト重合樹脂、塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩ビプロピレン共重合体、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、メタクリル樹脂、TPO(サーモポリオレフィン)、アイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂が例示できる。これらのうち、ハロゲンを実質的に含有しない樹脂であることが好ましい。
【0027】
これらの熱可塑性樹脂のうち好ましい例としては、水酸化マグネシウム粒子による難燃効果、熱劣化防止効果、耐水絶縁効果および機械的強度保持特性の優れたポリオレフィンまたはその共重合体であり、具体的には、ポリプロピレンホモポリマー、エチレンプロピレン共重合体のようなポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、EVA(エチレンビニルアセテート樹脂)、EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)、EMA(エチレンアクリル酸メチル共重合樹脂)、EAA(エチレンアクリル酸共重合樹脂)、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン系樹脂、およびブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1等のC3?C12のα-オレフィンとエチレンとの共重合体およびTPOである。
【0028】
さらに、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂およびEPM、EPDM、ブチルゴム、イソプレンゴム、SBR、NBR、クロロスルホン化ポリエチレン、NIR、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムを例示することができる。なお、本発明では、使用する合成樹脂は製造方法によって限定されるものではなく、例えばポリオレフィンの場合、重合触媒としては、メタロセン、チーグラー、チーグラーナッタ、フリーデルクラフト等いかなるものを用いて製造されたものでもよい。
【0029】
本発明の電線およびケーブルの被覆は、前記(a)合成樹脂および(b)水酸化マグネシウム粒子(c)酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤および必要に応じ(d)紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤より基本的に形成されるが、必要に応じさらに難燃助剤(e)を少量配合することができる。この難燃助剤(e)を配合することにより、(b)水酸化マグネシウム粒子の配合割合を少なくすることが出来るし、また難燃効果を増大することが出来る。
【0030】
難燃助剤(e)としては、赤リン、リン酸エステル、炭素粉末、シリコーン化合物あるいはこれらの混合物であることが好ましい。赤リンとしては、難燃剤用の通常の赤リンの他に、例えば熱硬化性樹脂、ポリオレフィン、カルボン酸重合体、酸化チタンあるいはチタンアルミ縮合物で表面被覆した赤リンが使用しうる。また、炭素粉末としては、カーボンブラック、活性炭あるいは黒鉛が挙げられ、このカーボンブラックとしては、オイルファーネス法、ガスファーネス法、チャンネル法、サーマル法またはアセチレン法のいずれの方法によって調整されたものでもよい。シリコーンとしては、シリコーン樹脂、シリコーングリース、シリコーンオイル、シリコーンゴムが使用しうる。
【0031】
難燃助剤(e)を配合する場合、その割合は、(a)合成樹脂および(b)水酸化マグネシウム粒子の合計重量に対して0.1?30重量部、好ましくは1?20重量部の範囲が適当である。本発明の樹脂組成物は、前記した割合で前記(a)合成樹脂および(b)水酸化マグネシウム粒子(c)成分および必要に応じ(d)成分、さらに必要に応じ(e)難燃助剤とを、それ自体公知の手段に従って混合すればよい。
【0032】
本発明の難燃性電線およびケーブルの機械的強度を向上させるためにはポリマーアロイ相溶化剤を配合しても良い。ポリマーアロイ相溶化剤の具体例としては、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン樹脂、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブタジエン樹脂、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性EPR、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、カルボキシル変性ポリエチレン、エポキシ変性ポリスチレン/PMMA、ポリスチレン-ポリイミド-ブロックコポリマー、ポリスチレン-ポリメクリル酸メチルブロックコポリマー、ポリスチレン-ポリエチレンブロックコポリマー、ポリスチレン-アクリル酸エチルグラフトコポリマー、ポリスチレン-ポリブタジエングラフトコポリマー、ポリプロピレン-エチレン-プロピレン-ジエングラフトコポリマー、ポリプロピレン-ポリアミドグラフトコポリマー、ポリアクリル酸エチル-ポリアミドグラフトコポリマー等が挙げられる。
【0033】
本発明は、(c)成分として酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤が合成樹脂に配合されるが、この(c)成分の合成樹脂への配合は、本発明の耐熱劣化性の電線およびケーブルを得るために必要不可欠なことである。換言すると、使用する水酸化マグネシウム粒子がいくら前記(b)の(i)?(iii)の3つの必須要件を満足していても、(c)成分の酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤を合成樹脂に配合しないと、本発明の耐熱劣化性に優れた電線およびケーブルは得られない。(c)成分の酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤の合成樹脂への配合量は、合成樹脂100重量部に対し、0.01?10重量部好ましくは0.1?5重量部である。0.01重量部以下であると電線およびケーブルに十分な耐熱劣化性を付与できない恐れがあり、10重量部以上であると電線およびケーブルの機械的強度を低下させる恐れがありまた経済的でもない。
【0034】
かかる酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、有機フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤などが利用できる。
【0035】
フェノール系酸化防止剤としては例えばペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、〕2,2’-メチレンビス〔6-(1-メチルシクロヘキシル)-p-クレゾール〕、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデンビス(2-t-ブチル-4-メチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’-チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジシクロヘキシル-4-メチルフェノール、2,6-ジイソプロピル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-t-アミル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-オクチル-4-n-プロピルフェノール、2,6-ジシクロヘキシル-4-n-オクチルフェノール、2-イソプロピル-4-メチル-6-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-2-エチル-6-t-オクチルフェノール、2-イソブチル-4-エチル-5-t-ヘキシルフェノール、2-シクロヘキシル-4-n-ブチル-6-イソプロピルフェノール、スチレン化混合クレゾール、d1-α-トコフェノール、t-ブチルヒドロキノン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-t-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス[(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、トリス(4-t-ブチル-2,6-ジメチル-3-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、2,2’-オキザミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-t-ブチル-4-メチル-6-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,2-ビス〔4-[2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナモイルオキシ)]エトキシフェニル〕プロパンおよびステアリル-β-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェノール)プロピオネートなどのβ-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0036】
有機ホスファイト系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルトリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、テトラトリデシル-4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)-ジホスファイト、4,4’-イソプロピリデンージフェノールアルキルホスファイト(ただし、アルキルは炭素数12?15程度)、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソオクチルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(2-t-ブチルフェノール)・ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ビフェニル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ホスファイト、水素化-4,4’-イソプロピリデンジフェノールポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)・ビス[4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール]・1,6-ヘキサンジオールホスファイト、ヘキサトリデシルー1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェノール)ジホスファイト、トリス[4,4’-イソプロピリデンビス(2-t-ブチルフェノール)]ホスファイト、トリス(1,3-ジステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-ホスファフェナンスレン-10-オキシド、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニル・4,4’-イソプロピリデンジフェノール・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトおよびフェニルビスフェノール-A-ペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0037】
有機チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、ジアルキルチオジプロピオネートおよびアルキルチオプロピオン酸の多価アルコールエステルを用いることができる。ただしチオエーテル系の酸化防止剤は、ヒンダードアミン系の光安定化剤と併用使用すると該光安定化剤の作用効果を損なう恐れがあるため該光安定化剤と併用使用するような使い方はできれば避けた方が良い。ここで使用されるジアルキルチオジプロピオネートとしては、炭素数6?24のアルキル基を有するジアルキルチオジプロピオネートが好ましく、またアルキルチオプロピオン酸の多価アルコールエステルとしては、炭素数4?24のアルキル基を有するアルキルチオプロピオン酸の多価アルコールエステルが好ましい。この場合に多価アルコールエステルを構成する多価アルコールの例としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートなどを挙げることができる。このようなジアルキルチオジプロピオネートとしては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネートおよびジステアリルチオジプロピオネートなどを挙げることができる。一方、アルキルチオプロピオン酸の多価アルコールエステルとしては、例えば、グリセリントリブチルチオプロピオネートグリセリントリオクチルチオプロピオネート、グリセリントリラウリルチオプロピオネート、グリセリントリステアリルチオプロピオネート、トリメチロールエタントリブチルチオプロピオネート、トリメチロールエタントリオクチルチオプロピオネート、トリメチロールエタントリラウリルチオプロピオネート、トリメチロールエタントリステアリルチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラブチルチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラオクチルチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトララウリルチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラステアリルチオプロピオネートなどを挙げることができる。
【0038】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス-(1,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、1,1’-(1,2-エタンジイル)ビス(3,3,5,5-テトラメチルピペラジノン)、(ミックスト2,2,6,6・テトラメチル-4-ピペリジル/トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、(ミックスト1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ミックスト〔2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル/β,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスビロ(5,5)ウンデカン]ジエチル〕-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ミックスト〔1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/β,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル〕-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン-2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物、ポリ[6-N-モルホリル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミド]、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと1,2-ジブロモエタンとの縮合物、[N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-2-メチル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]プロピオンアミドなどを挙げることができる。
【0039】
金属不活性化剤としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、トリルトリアゾールアミン塩、トリルトリアゾールカリウム塩、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、トリアジン系誘導体、トリルトリアゾール誘導体、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、酸アミン誘導体、MarkZS-81(アデカ・アーガス化学製)などを挙げることができる。
【0040】
本発明では耐候性が必要な用途において、さらに(d)成分として紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を合成樹脂100重量部に対し、0.01?10重量部好ましくは0.1?5重量部配合した耐候性にも優れた電線およびケーブルを提供することができる。(d)成分の配合量が0.01重量部以下であると十分な耐候性を付与できない恐れがあり、10重量部以上配合すると電線およびケーブルの機械的強度を低下する恐れがあり、また経済的でもない。紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系のものが使用できる。かかる紫外線吸収剤および光安定化剤としては、フェニルサリシレート、p-t-ブチルサリシレート、p-オクチルフェニルサリシレートなどのサリチル酸エステル系、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレートなどのシアノアクリレート系、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホンベンゾフェノントリヒドレート、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノンなどのべンゾフェノン系;2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]などのベンゾトリアゾール系;ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-4-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-ベンジル-7,7,9,9-テトラメチル-3-オキチル-1,2,3-トリアザスピロ[4,5]ウンデカン-2,4-ジオン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ジヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチルー4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-メタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-メタクリレートなどのヒンダードアミン系;酢酸アニリド誘導体、2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチルオキサリックアシッドビスアニリド、2-エトキシ-2-エチルオキサリックアシッドビスアニリド、2,4-ジ-t-ブチル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、1,3-ビス-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)-2-プロピルアクリレート、1,3-ビス-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)-2-プロピルメタクリレート、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、o-ベンゾイル安息香酸メチル、バリウム、リン含有の有機無機複合体、セミカルバゾン系光安定化剤、酸化亜鉛系紫外線安定化剤などを挙げることができ、これらの化合物の中から1種または2種以上用いることができる。
【0041】
本発明の耐熱劣化性および難燃性を有する樹脂組成物中には、上記成分以外にも本発明の目的を害さない範囲で慣用の他の添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、プロセスオイル、帯電防止剤、顔料、発泡剤、可塑剤、充填剤、補強剤、有機ハロゲン難燃剤、架橋剤、ワックス、抗菌剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、スリップ剤、防汚剤、防腐剤、保温剤、スコーチ防止剤、滑剤、造核剤、脱臭剤、防鼠剤、熱安定剤、硬化剤等を例示出来る。
【0042】
老化防止剤としては、例えばフェニルーα-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミンなどのナフチルアミン系;p-(p-トルエンスルホニルアミド)-ジフェニルアミン、4,4’-(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系;N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンなどのp-フェニレンジアミン系;芳香族アミンと脂肪族ケトンの縮合物、ブチルアルデヒド-アニリン縮合物などの上記以外のアミン系;フェニル-α-ナフチルアミンとジフェニル-p-フェニレンジアミンの混合品、フェニル-β-ナフチルアミンとジフェニル-p-フェニレンジアミンの混合品、フェニル-β-ナフチルアミンとp-イソプロポキシジフェニルアミンとジフェニル-p-フェニレンジアミンの混合品などのアミン混合品;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンなどのキノリン系;2,5-ジ-(t-アミル)ヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテルなどのヒドロキノン誘導体;1-オキシ-3-メチル-4-イソプロピルベンゼン、2,6-ジ-t-ブチルフェノールなどのモノフェノール系;2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、4,4’-メチレン-ビス-(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)、メチレン架橋した多価アルキルフェノール、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどのビス、トリス、ポリフェノール系;4,4’-チオビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4’-チオビス-(6-t-ブチル-o-クレゾール)などのチオビスフェノール類;1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノ-ル)などのヒンダ-ドフェノール系;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(混合モノ-およびジ-ノニルフェニル)ホスファイト、フェニルージイシデシルホスファイトなどの亜リン酸エステル系;ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス-(β-ラウリル-チオプロピオネート)、チオジプロピオン酸ジラウリル、β-アルキルチオエステルプロピオネート、含硫黄エステル系化合物、1,1’-チオビス(2-ナフトール)、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾールとフェノール縮合物の混合品、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、2-メルカプトメチルベンズイミダゾールの亜鉛塩、4-メルカプトメチルベンズイミダゾールの亜鉛塩、ジオクタデシルジスルフィド、モルホリン-N-オキシジエチレンジチオカルバメートとジベンゾチアジルジスルフィドの反応品、1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素、トリブチルチオ尿素、ビス[2-メチル-4-{3-n-アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}-5-t-ブチルフェニル]スルフィド、アンチゲンAS(住友化学製)、混合ラウリル・ステアリルチオジプロピオネート、環状アセタール、スミライザーAZ(住友化学製)、スミライザーMPS(住友化学製)、シリカゲル、オゾノック733(大内新興化学製)、アンテージBOUR(川口化学製)、アンテージBOP(川口化学製)、AD-51(堺化学製)、AD-400(堺化学製)、オゾノンEX(精工化学製)、オゾノンEX-3(精工化学製)などを挙げることができ、これらの化合物の中から1種または2種以上用いることができる。
【0043】
オゾン劣化防止剤としては、例えば置換p-フェニレンジアミン、置換ジヒドロキノリン、ジアリルオサゾン、置換チオウレア、マイクロクリスタリンワックスなどを挙げることができ、これらの化合物の中から1種または2種以上用いることができる。
本発明の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性電線およびケーブルは、その構造や製造方法が特に限定されるものではない。本発明の目的が達成される限り、いかなる構造や製造方法をも採用しうる。
【0044】
例えば電線およびケーブルは、耐熱劣化性や機械的強度等の性質に優れた前記の難燃性樹脂組成物を、絶縁部分およびまたはシース部分および/または外皮部分として導体(銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、光ファイバー等)に被覆して本発明の耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性電線およびケーブルが得られる。被覆時には化学架橋、放射線架橋、シラン架橋などの架橋が行なわれても良いが行われなくても良い。構造としては単心、多心あるいは丸型、平型等いかなるものであっても良い。
【0045】
本発明の電線およびケーブルに被覆される樹脂組成物は、それからの成形品を試験した場合、下記に示す試験法に基づいて一定以上の特性を有しているので、本発明の電線およびケーブルは熱安定性、耐水絶縁性および耐候性が優れている。
(1)樹脂組成物は、それからの成形品(厚さ2.1mm)が、JIS K 7212のギアーオーブン中、例えば150℃での熱安定性試験において、熱分解せず白粉化に耐える日数が10日以上好ましくは20日以上である。
(2)樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、例えば150℃10日間の熱安定性試験において引張強度が熱安定性試験前の引張強度の60%以上好ましくは80%以上を維持している。
(3)樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、例えば150℃10日間の熱安定性試験において、伸び率が、熱安定性試験前の伸び率の60%以上好ましくは80%以上を維持している。
(4)樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS K 7212のギアーオーブン中、例えば150℃10日間の熱安定性試験において、アイゾット衝撃強度が熱安定性試験前のアイゾット衝撃強度の60%以上好ましくは80%以上を維持している。
(5)樹脂組成物は、それからの成形品が、95℃48時間または70℃168時間イオン交換水中に浸漬した後の成形品の体積固有抵抗が1×1010Ω・cm以上好ましくは1×1013Ω・cm以上である。
(6)樹脂組成物は、それからの成形品が、JIS A 1410の屋外暴露試験方法により1年間屋外暴露した成形品の引張強度、伸び率、アイゾット衝撃強度のいずれもが屋外暴露する前の60%以上好ましくは80%以上を維持している。
【0046】
【実施例】
以下、実施例に基づき、本発明をより詳細に説明する。ただし、%はすべて重量%を意味する。
水酸化マグネシウム粒子の粒子性状の測定および樹脂組成物成形品の物性の測定は以下の方法で行なった。
【0047】
(1)水酸化マグネシウムの平均2次粒子径
MICROTRAC粒度分析計SPAタイプ[LEEDS &NORTHRUPINSTRUMENTS社製]を用いて測定決定する。試料粉末700mgを70mlの水に加えて、超音波(NISSEI社製、MODEL US-300、電流300μA)で3分間分散処理した後、その分散液の2-4mlを採って、250mlの脱気水を収容した上記粒度分析計の試料室に加え、分析計を作動させて8分間その懸濁液を循環した後、粒度分布を測定する。合計2回の測定を行ない、それぞれの測定について得られた50%累積2次粒子径の算術平均値を算出して、試料の平均2次粒子径とする。
【0048】
(2)水酸化マグネシウム粒子のBET法比表面積
液体窒素の吸着法により測定した。
(3)水酸化マグネシウム粒子のFe、Mnの合計含有量およびFe、Mn、Cu、V、Co、Ni、Crの重金属総合計含有量
ICP-MS法(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry)または原子吸光法により測定した。
(4)水酸化マグネシウム粒子の水溶性アルカリ金属化合物のアルカリ金属(Na、K、Li)の合計含有量の測定
水酸化マグネシウム粒子の試料10gを30℃のイオン交換水100ml中で96時間攪拌し溶出したアルカリ金属(Na、K、Liの合計量)を原子吸光法により測定した。
(5)成形品の引張強度、伸び率
JIS K 7113に準じて測定した。
(6)成形品の難燃性
UL 94 VE法に準じて測定した。
酸素指数はJIS K 7201に準じて測定した。
【0049】
(7)成形品のアイゾット衝撃強度
JIS K 7110に準じて行なった
(8)成形品の耐熱劣化性
JIS K 7212のギアーオーブンを用い150℃で下記の熱安定性試験を行ないその試験で成形品の耐熱劣化性を調べた。テストピースは2.1mmまたは3.2mmの厚さのものを使用した。
1.成形品が熱分解し粉化(主に白粉化)するまでの日数
2.150℃熱安定性試験10日後のアイゾット衝撃強度、引張強度、伸び率
(9)成形品の耐水絶縁性の試験
ポリプロピレンは4辺がハサミで切断された各辺が10cmの正方形で、厚さ2mmの直方体からなるテストピースを、95℃のイオン交換水中に48時間浸漬した後取り出して30℃のイオン交換水中に15分間浸漬した。その後テストピースを水中より取り出して紙タオルで表面の水分を拭き取り、23℃±2℃、50%RHの状態調節を15分間行なった。このテストピースを同じ状態調節下で、タケダ理研工業(株)のTR8401を用いて体積固有抵抗を測定し、耐水絶縁性のデータを得た。ただしEVAのテストピースは70℃のイオン交換水に168時間浸漬した。その他はポリプロピレンと同じ条件で測定した。
【0050】
(10)実施例で使用した酸化防止剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、光安定化剤の化合物名は以下の通り。
(i)イルガノックス 1010;ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕
(ii)イルガノックス 1076;オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(iii)イルガノックス 1098;N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンアマイド)
(iv)DLTP;ジ-ラウリル-チオ-ジ-プロピオネート
(v)イルガノックス MD 1024;N,N’-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン
(vi)チヌービン 320;2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール
(vii)チヌービン 622 LD;コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物
実施例1、2および比較例1?3(樹脂組成物の熱安定性および物性の評価)表1に示した各種水酸化マグネシウム粒子を使用し、下記配合組成でテストピースを作成した。
【0051】
150 重量部 水酸化マグネシウム粒子
100 重量部 ポリプロピレン(MFI2.6g/10分の耐衝撃グレード)
0.25 重量部 酸化防止剤(チバスペシャルケミカルズ社製 イルガノックス1010)
0.25 重量部 酸化防止剤(吉富製薬製 DLTP)
(i)テストピース作成法
ステアリン酸が水酸化マグネシウム粒子に対し2.6重量%吸着するように表面処理された各試料の水酸化マグネシウム粒子を、乾燥および粉砕後、樹脂(ポリプロピレン)および酸化防止剤とともに二軸押出機で230℃で混練し混和物を得、その混和物を再び120℃×2hrs乾燥を行ない、射出成型機で230℃で成形した。
二軸押出機:プラスチック光学研究所製 BT-30-S2-30-L
射出成型機:日精樹脂工業(株)製 FS 120S 18A SE
射出成型によって得られた各テストピースを、それぞれ下記のとおりとする。
テストピースA-I・・・試料A-Iの水酸化マグネシウム粒子配合品
テストピースA-II・・・試料A-IIの水酸化マグネシウム粒子配合品
テストピースB-1・・・試料B-Iの水酸化マグネシウム粒子配合品
テストピースB-II・・・試料B-IIの水酸化マグネシウム粒子配合品
テストピースB-III・・・試料B-IIIの水酸化マグネシウム粒子配合品
成形品の熱安定性、物性評価を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
なお、実施例1、2および比較例1?3のテストピースの水に浸漬する前(23℃±2℃、50±5%RHで96hrs状態調節)の体積固有抵抗はいずれも1×1016Ω・cm以上であった。
【0055】
実施例1、2および比較例1?3で使用した水酸化マグネシウム粒子の性状、および実施例1、2および比較例1?3の該水酸化マグネシウムを配合した樹脂成形品の評価結果から下記のことが立証できた。
(a)比較例2、3より、Fe、Mn等の重金属化合物の含有量の多い水酸化マグネシウム粒子充填樹脂成形品の耐熱劣化性は低い。
(b)比較例1より、水溶性アルカリ金属塩含有量の多い水酸化マグネシウム粒子充填樹脂成形品の耐水絶縁性は低い。
(c)実施例1および2より、耐熱劣化性および耐水絶縁性の両方の性質に優れた樹脂成形品を得るためには、水酸化マグネシウム粒子中にFe、Mn等の重金属化合物の含有量が少なく、かつ水溶性アルカリ金属塩の含有量が少ないことの両方の条件が必要である。
【0056】
比較例4
実施例1において水酸化マグネシウムを配合しなかったこと以外は実施例1と同じ方法によりテストピースを作成し、150℃での耐熱劣化性(粉化)の試験を行なった。試験の結果テストピースは加熱を始めてから約100日後に黄粉化した。難燃性(VL94VE1/8インチ)は規格外であった。
【0057】
比較例5
実施例1において酸化防止剤を何も添加しないことに変更した以外は実施例1と同じ方法によりテストピースを作成し150℃での耐熱劣化性(白粉化)の試験を行なった。試験の結果テストピースは加熱を始めてから3日後に白粉化した。
【0058】
実施例3、比較例6、7
実施例1における水酸化マグネシウム粒子の配合量(150重量部)を220重量部に変更し、新たに金属不活性化剤としてチバスペシャルケミカルズ社製のイルガノックス MD 1024をそれぞれ0.1重量部ずつ添加し、また水酸化マグネシウム粒子は実施例3ではA-III、比較例6はB-IV、比較例7はB-Vに変更した以外は実施例1と同様のテストを行なった。テストの結果を表3に示す。ただしA-III、B-IV、B-Vの粒子には4.5wt%のステアリン酸が吸着しているステアリン酸ソーダ処理品である。
なお、表3における重金属総含有量は、Fe+Mn+Cu+V+Co+Ni+Crである。
【0059】
実施例3においては、前記本願記載の(i)?(iv)の要件を全て満足する水酸化マグネシウム粒子が使用されたため、成形品は難燃性、耐熱劣化性、機械的強度、耐水絶縁性はいずれも高いレベルであり何の問題もなかった。
一方比較例6では、平均2次粒子径、Fe、Mn等の重金属含有量、水溶性アルカリ金属塩の合計含有量は本願記載の要件を満足するが、BET法比表面積が本願記載の要件を満足しない水酸化マグネシウム粒子が使用された。その結果比較例6の樹脂成形品の物性は、実施例3に比べると、機械的強度、耐熱劣化性、耐水絶縁性がはるかに低いレベルまたはかなり低いレベルであった。
【0060】
比較例7では、BET法比表面積、Fe、Mn等の重金属含有量、水溶性アルカリ金属塩の合計含有量は本願記載の要件を満足するが、平均2次粒子径が本願記載の要件を満足しない水酸化マグネシウム粒子が使用された。その結果、比較例7の樹脂成形品の物性は、実施例3に比べると機械的強度(耐熱劣化性試験前および後)がはるかに劣っていたし、耐水絶縁性はかなり劣っていた
【0061】
【表3】

【0062】
実施例4、5
実施例1における水酸化マグネシウム粒子を実施例4では下記A-IV粒子に、実施例5では下記A-V粒子に変更した以外は実施例1と同様のテストをした。
A-IV粒子は
ステアリルリン酸エステルジエタノールアミン塩
【0063】
【化1】

【0064】
のジエステル50%と
【0065】
【化2】

【0066】
のモノエステル50%の混合品を用い表面処理前のA-I粒子に対し3wt%で表面処理したものである。
A-V粒子は、水とトリエタノールアミン混合溶媒中で、表面処理前のA-I粒子が該粒子に対し3wt%のイソプロピルトリイソステアロイルチタネートにより表面処理されたものである。
上記のように表面処理されたA-IV粒子およびA-V粒子の粒子性状はA-I粒子における吸着物質が変わった程度でその他はA-I粒子の粒子性状とほぼ同等であった。A-IV粒子充填樹脂形成品の実施例4、A-V粒子充填樹脂成形品の物性は、実施例4で耐水絶縁性としての体積固有抵抗が、実施例1の4×1015Ω・cmから6×1015Ω・cmに向上している他はほぼ実施例1の物性と同等であった。
【0067】
実施例6、比較例8
下記の樹脂組成物を調整した。
100重量部 エチレン酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量30wt%)
150 〃 水酸化マグネシウム粒子A-IまたはB-III
1 〃 シランカップリング剤(日本ユニカ製 NUC A-172)
1 〃 DCP(ディ・クルミル・パーオキサイド)
1 〃 酸化防止剤(チバスペシャルケミカルズ社製イルガノックス1076)
この組成物を単混練押出機で120℃で混練し、それを圧縮成形機で120℃で5分予備成形後、220℃で10分架橋し2.1mmおよび3mmの板を得た。この板よりテストピースを作成し物性を測定した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
実施例7
下記(1)?(3)の樹脂組成物を調整し、実施例1と同様にテストピースを作成し、それぞれの難燃性を評価した。ただし、ナイロン6の場合、混練および射出成形は250℃で行なった。その結果、いずれのテストピースもUL94-VE1/16インチの難燃性はV-0であった。
(1)65重量% 水酸化マグネシウム粒子(A-I)
35重量% ナイロン6(比重1.14の射出成形グレード)
0.2重量% 酸化防止剤(チバスペシャルケミカルズ社製イルガノックス1098)
(2)68重量% 水酸化マグネシウム粒子(A-I)
32重量% 高密度ポリエチレン(MFI5.0g/10分の射出成形グレード)
0.1重量% 酸化防止剤(チバスペシャルケミカルズ社製イルガノックス1010)
0.1重量% 酸化防止剤(吉富製薬製 DLTP)
(3)20重量% 水酸化マグネシウム粒子(A-I)
7重量% 赤リン(燐化学工業製;1-バエクセル140)
5重量% カーボンブラック(オイルファーネス法 FEF)
63重量% ABS樹脂(MFI25g/10分の耐衝撃グレード)
5重量% ナイロン6(比重1.14の射出成形グレード)
0.2重量% 酸化防止剤(チバガイギー製イルガノックス1010)
【0070】
実施例8
下記組成物を調整し、オーブンロールで70℃で素練りを行ない、それを1日後に210℃で10分間加硫を行ない、厚さ1/8インチの板を得た。得られた板によりUL94-VE試験用の厚さ1/8インチのテストピースを作成した。このテストピースについて、UL94VEの試験を行なった。試験の結果、難燃性はV-1であった。
組成
100 重量部 EPDMゴム(エチレン/プロピレン比=50/50モル)
170 重量部 水酸化マグネシウム粒子(A-I)
3 重量部 ディ・クルミル・パーオキサイド
0.5 重量部 ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)
1 重量部 シランカップリング剤(日本ユニカ製 A-172)
1 重量部 ステアリン酸
1 重量部 イオウ
【0071】
実施例9
下記組成物を調整し、約30℃でニーダーで混練し、混練されたものを200℃で5分間硬化させ、厚さ1/8インチの板を得た。得られた板によりUL94-VE試験用の厚さ1/8インチのテストピースを作成した。このテストピースについて、UL94VEの試験を行なった。試験の結果、難燃性はV-0であった。
A-VI粒子は平均2次粒子径8μm、BET比表面積2m2/g、重金属総含有量0.001重量%、水溶性アルカリ金属塩のアルカリ金属換算総含有量0.003重量%、ガンマグリシロキシプロピルトリメトキシシラン1重量%で表面処理されたものである。
組成
100重量部 エポキシ樹脂(比重1.17)
100重量部 水酸化マグネシウム粒子(A-VI)
5重量部 赤リン(燐化学製 ノーバエクセル140)
1重量部 カーボンブラック(オイルファーネス法 FEF)
10重量部 硬化剤(チバスペシャルケミカルズ社製 HY951)
1重量部 ステアリン酸
0.2重量部 酸化防止剤(チバスペシャルケミカルズ社製イルガノックス1010)
【0072】
実施例10
心材が銅線または光ファイバーであるそれぞれに、実施例6の樹脂組成物を3mmの厚さで被覆し、JIS C 3005の難燃試験用の電線のテストピースを2種類作成した。このテストピースにつき、JIS C 3005の難燃試験を行なった。試験の結果はいずれも自消性(10秒以内で消炎)であった。
【0073】
実施例11
実施例3の樹脂組成物より縦11cm横19.5cm厚さ2mmのプレートを射出成形機により230℃で成形した。この成形品に対し、UL94垂直試験と同じ条件の炎をあらゆる角度から10秒間ずつ2度接炎したが、成形品はいずれも5秒以内に消炎した。
【0074】
実施例12
実施例1の樹脂組成物において、DLTPを添加しないで、酸化防止剤のイルガノックス1010を0.25重量部から0.5重量部に増量し、新たにチバスペシャルケミカルズ社製の紫外線吸収剤チヌービン320を0.25重量部、同社の光安定化剤チヌービン622LDを0.25重量部添加した樹脂組成物を230℃で混線し、得られた混和物を230℃で射出成形し、JIS K 7113の引張試験片とJIS K 7201のアイゾット衝撃試験片を得た。これらの試験片を1999年1月10日より1年間JIS A 1410の方法により屋外暴露した。1年間、暴露されたこの試験片につきJIS K 7113とJIS K 7201の試験を行ない、また成形品の表面を目視で観察した。試験の結果を表5に示す。
【0075】
比較例9
実施例12の組成物において、紫外線吸収剤と光安定化剤を添加しなかったこと以外は、実施例12と同じ樹脂組成物を実施例12と同じ方法により、混線、成形し、屋外暴露試験を行なった。試験の結果を表5に示す。
なお、この比較例9は実施例12に対する比較例である。
【0076】
【表5】

【0077】
ただし、表5において( )の中の数値および文字は屋外暴露試験後、そうでないものは屋外暴露試験前のテストピースによる試験結果である。
実施例12では、1年間屋外に暴露された成形品でも十分に実用性のある引張強度、伸び率、アイゾット衝撃強度、成形品表面外観を維持していた。
一方比較例9は、屋外暴露する前は実用性のある引張強度、伸び率、アイゾット衝撃強度、表面外観を有していたが、屋外暴露後はそれらの特徴が全く実用性のないレベルにまで低下していた。比較例9の表面外観は、屋外暴露試験を始めて、4ヶ月頃からヒビわれが起こり始め、1年後には全表面が白粉化していた。
【0078】
【発明の効果】
本発明によれば、
(a)合成樹脂100重量部に対し、
(b)(i)平均2次粒子径が10μm以下であり、
(ii)BET法比表面積が20m2/g以下であり、
(iii)Fe化合物およびMn化合物の含有量の合計量が金属に換算して0.02重量%以下であり、(iv)水溶性のアルカリ金属化合物の含有量の合計がアルカリ金属に換算して0.05重量%以下であることを特徴とする水酸化マグネシウム粒子を10?500重量部
(c)酸化防止剤およびまたは金属不活性化剤を0.01?10重量部配合した樹脂組成物から形成された耐熱劣化性および耐水絶縁性に優れた電線およびケーブルが提供できる。
さらに本発明によれば、該組成物に必要に応じさらに(d)紫外線吸収剤およびまたは光安定化剤を0.01?10重量部配合することにより、さらに耐候性にも優れた電線およびケーブルが提供できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-02-26 
結審通知日 2007-02-28 
審決日 2007-03-19 
出願番号 特願2001-45231(P2001-45231)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高木 康晴  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 吉水 純子
平塚 義三
登録日 2005-10-07 
登録番号 特許第3727545号(P3727545)
発明の名称 耐熱劣化性耐水絶縁性難燃性絶縁電線およびケーブル  
代理人 古橋 伸茂  
代理人 長沢 幸男  
代理人 大島 正孝  
代理人 小林 浩  
代理人 大島 正孝  
代理人 日野 真美  

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