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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B08B
管理番号 1163212
審判番号 不服2004-13514  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-30 
確定日 2007-08-24 
事件の表示 特願2000-358253号「基体の表面を処理するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月28日出願公開、特開2001-232317号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年11月24日(パリ条約による優先権主張1999年11月26日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成16年4月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その請求項10に係る発明は、平成15年9月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項10に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「所定の間隔をおいて配置された、放電ランプとしての少なくとも1つのUV照射器によるUV照射によって、有機物または無機物から成る基体の表面を処理するための装置であって、前記UV照射器は、ガス充填された縦長の放電室を有しており、該放電室の壁は誘電体によって形成されていて、該誘電体の放電室とは反対側の面に少なくとも1つの電極が設けられている形式のものにおいて、
少なくとも1つのUV照射器(4)が照射ユニット(5)に配置されており、基体(1,1´)に対して相対的に照射ユニット(5)が並進運動するために少なくとも1つの摺動エレメントが設けられていることを特徴とする、基体の表面を処理するための装置。」
(「電極が設けられている形式のもにおいて」は、「電極が設けられている形式のものにおいて」の誤記とみて、前記のように認定した。)

2.引用例
これに対して、原審における拒絶の理由で引用した、特開平9-22889号公報(以下、「引用例1」という。)には、「基板処理装置」に関して以下の事項が図面とともに記載されている。

(1)「【請求項1】所定量の紫外線エネルギーを基板に与える基板処理装置であって、基板を支持する支持手段と、
前記支持手段に支持された基板に対向して配置され、当該基板に向けて紫外線を出射する紫外線ランプと、
前記支持手段と前記紫外線ランプとを相対移動させることにより前記基板の前記紫外線ランプに対する距離を変化させる駆動手段と、
前記駆動手段を制御して、前記紫外線ランプからの紫外線が実質的に到達する紫外線到達領域内に基板を位置決めし、前記所定量の紫外線エネルギーが当該基板に与えられると、前記駆動手段を駆動させて当該基板を前記紫外線到達領域の外に退避させる制御手段と、を備えたことを特徴とする基板処理装置。
(中略)
【請求項3】前記紫外線ランプが誘電体バリア放電ランプである請求項2記載の基板処理装置。」(【特許請求の範囲】)
(2)「【産業上の利用分野】この発明は、半導体製造装置や液晶製造装置などにおいて、半導体ウエハ,液晶用基板や各種ワークなどの被処理物(以下、「基板」と総称する)に対し紫外線を照射してオゾンを発生させ、基板表面上の有機物を分解させたり、基板表面を親水化させて後段の洗浄工程における水洗効果を高めたりするために使用される基板処理装置に関する。」(段落【0001】)
(3)「この種の基板処理装置は、具体的には、基板を支持するチャックの上方位置に低圧水銀ランプを配設しており、チャックに搭載された基板表面に低圧水銀ランプからの紫外線を、装置のタクトタイムに等しい所定時間t1(図7)だけ照射することにより、適量の紫外線エネルギー(図7の斜線部分R1 の面積に相当)を基板に与えるように構成されている。」(段落【0002】)
(4)「【発明が解決しようとする課題】ところで、従来の基板処理装置では、低圧水銀ランプと基板との距離は一定に保たれており、しかも低圧水銀ランプの出力は、定常的な点灯状態では短期的にはほぼ一定である。したがって、基板処理工程のタクトが変化して基板処理装置内に基板が載置される時間が長くなると、基板に作用する紫外線エネルギーが必要以上に多くなってしまう。例えば、タクトタイムが時間t1から時間t2(>t1)になると、斜線部分R2 の面積に相当する量の紫外線エネルギーが過剰に基板に与えられてしまう。その結果、基板が白濁してしまうなどのダメージを受けることがある。
これを解消するためには、基板に必要量の紫外線エネルギーが与えられた時点(時間t1)で低圧水銀ランプを消灯させることが考えられるが、低圧水銀ランプは一旦消灯されると、図8に示すように、次に低圧水銀ランプを時刻T3で点灯させてからランプ出力が100%に達し、定常状態で安定するまでに長時間Δtを要する。そのため、低圧水銀ランプの点灯・消灯により処理工程全体のタクトが長くなったり、処理が不安定になるという欠点がある。……(中略)……
この発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、紫外線ランプを消灯させることなく、適量の紫外線エネルギーを基板に与えることができる基板処理装置を提供することを目的とする。」(段落【0003】?【0005】)
(5)「【実施例】図1はこの発明にかかる基板処理装置の一実施例を示す平面図であり、図2はこの実施例の断面図である。この基板処理装置では、図2に示すように、基板ボックス1には、複数の支持ピン2bが昇降自在に設けられている。この支持ピン2bは基板ボックス1外に設けられたステージ2aの上面から上方向に突設され、これら複数の支持ピン2bとステージ2aとでステージ部2を構成しており、複数の支持ピン2bにより基板3を支持している。このように、この実施例では、ステージ部2が支持手段として機能する。
このステージ部2にはステージ昇降機構21が連結されてステージ昇降部22からの指令に応じて昇降駆動されて、基板3を昇降方向(上下方向)に位置決めする。」(段落【0012】?【0013】)
(6)「そして、この開口4とほぼ同一サイズの開口5を底面部に有するランプボックス6が、両開口4,5が対向するようにして、基板ボックス1の上に配置されている。また、この開口5を塞ぐように、ランプボックス6内に石英板7が配置され、ランプボックス6側でランプ空間SPLが形成されるとともに、基板ボックス1側で基板処理空間SPTが形成される。さらに、この石英板7の上方位置に8本の誘電体バリア放電ランプ9が一列に整列配置されている。したがって、ランプ電源10から電力が送電されると、電源中継ボックス11を介して誘電体バリア放電ランプ9に与えられて誘電体バリア放電ランプ9が点灯する。この誘電体バリア放電ランプ9はエキシマ発光を利用して紫外線を出射するもので、これにより、誘電体バリア放電ランプ9からの紫外線が石英板7を介して支持ピン2bに支持された基板3側に向けて出射される。」(段落【0015】)
(7)「一方、基板ボックス1側では、上記のように基板ボックス1と石英板7とで基板処理空間SPTが形成されており、空気雰囲気で誘電体バリア放電ランプ9からの紫外線が基板3に向けて照射されて所定の基板処理を行うことができるようになっている。この基板処理空間SPTには、排気システムや排気ポンプなどの排気手段(図示省略)が接続されており、基板処理空間SPTで発生するオゾンや基板処理に生じたガスなどを排出可能となっている。また、この基板処理空間SPT内では、図1に示すように、基板3と干渉しない位置に照度計15が配置されて石英板7を介して基板3側に照射される紫外線を受光し、基板3への紫外線照度を測定する。この照度計15は照度調整部16と電気的に接続され、照度計15により測定された照度が照度調整部16に与えられる。」(段落【0017】)
(8)「この照度調整部16では、照度計15から与えられた照度の変化に基づきステージ部2の昇降タイミングを求める。」(段落【0018】)
(9)「この照度調整部16は装置全体を制御する制御部17と電気的に接続されており、上記のようにして求められた昇降タイミングに関する信号が制御部17に与えられる。そして、この信号を受けて制御部17は、ステージ昇降部22に指令を与えて後述するタイミングでステージ部2を昇降させる。また、制御部17は誘電体バリア放電ランプ9の点灯・消灯を切り替える切替手段として機能するランプ電源調整部18を介してランプ電源10から誘電体バリア放電ランプ9への電力供給を制御し、誘電体バリア放電ランプ9のON・OFFを制御する。
次に、上記のように構成された基板処理装置の動作について図3を参照しながら説明する。
まず、装置の起動時に、制御部17からの指令に応じてランプ電源10から誘電体バリア放電ランプ9に電力が供給されて誘電体バリア放電ランプ9が点灯する。この実施例では、このように紫外線ランプとして誘電体バリア放電ランプ9を用いているので、誘電体バリア放電ランプ9から出射される紫外線の中心波長は172nmであり、しかも基板3の周辺の雰囲気は空気であるため、誘電体バリア放電ランプ9からの紫外線が実質的に到達する紫外線到達領域URは、図3に示すように、石英板7から下方向に長さDの範囲に限られる。その理由について図4を参照しながら説明する。」(段落【0019】?【0021】)
(10)「図3に戻って基板処理装置の動作の説明を続ける。この実施例では、予めステージ部2を降下させて紫外線到達領域URから退避させておき(同図(a))、処理すべき基板3を基板搬入搬出口19(図1)を介して基板処理空間SPT内に搬入し、支持ピン2b上に載置した後、制御部17からの処理開始指令に応じてステージ昇降部22がステージ昇降機構21を駆動してステージ部2を上昇させて基板3を紫外線到達領域UR内に位置決めする(同図(b))。これにより、誘電体バリア放電ランプ9からの紫外線が基板3に照射されて基板処理が実行される。
そして、一定時間(照射時間t1)が経過して基板3に必要量の紫外線エネルギーが与えられた時点で、制御部17からステージ昇降部22に指令が与えれ、これに応じてステージ昇降部22がステージ昇降機構21を駆動してステージ部2を降下させて基板3を紫外線到達領域URの外に退避する(同図(a))。これにより、基板3に紫外線が届かなくなり、誘電体バリア放電ランプ9を消灯したのと同様の効果が得られる。」(段落【0023】?【0024】)
(11)「以上のように、この実施例によれば、ステージ部2を上昇させて基板3を紫外線到達領域UR内に位置決めし、基板3に紫外線を照射する一方、適当な時間が経過すると、ステージ部2を降下させて基板3を紫外線到達領域URから退避させているので、誘電体バリア放電ランプ9を消灯させることなく、所定量の紫外線エネルギーを基板3に与えることができる。もちろん、タクトタイムが変化したとしても、基板3への紫外線エネルギーが所定量となった時点でステージ部2を降下させて基板3を紫外線到達領域URから退避させるので、タクトタイムの変化にかかわらず基板3に与えられる紫外線エネルギーを所定量に調整することができる。」(段落【0026】)
(12)「さらに、上記実施例では、8本の誘電体バリア放電ランプ9により基板3に紫外線を照射するようにしているが、誘電体バリア放電ランプ9の本数は任意であり、1本あるいは複数であってもよい。」(段落【0033】)
(13)【図2】には、ランプボックス6の上方に、所定の間隔をおいて配置された複数本の誘電体バリア放電ランプ9が配置され、ランプボックス6の下方に石英板7が配置されていることが図示されている。また、ランプボックス6の開口5に対向して基板ボックス1が配置され、基板ボックス1には、ステージ昇降機構21に支持された、基板3が上方に配置されていることが図示されている。

上記記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

「所定の間隔をおいて配置された、複数本の誘電体バリア放電ランプによる紫外線の出射によって、半導体ウエハ、液晶用基板や各種ワークなどの被処理物である基板の表面を処理するための装置であって、複数本の誘電体バリア放電ランプがランプボックスに配置されており、前記基板を支持する手段と前記誘電体バリア放電ランプとを相対移動させる駆動手段とを備えた基板の表面を処理するための装置。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「複数本の誘電体バリア放電ランプ」は、その作用、機能、構造からみて、前者の「放電ランプとしての少なくとも1つのUV照射器」、「少なくとも1つのUV照射器(4)」に相当し、以下同様に、後者の「紫外線の出射」は、前者の「UV照射」に、後者の「半導体ウエハ、液晶用基板や各種ワークなどの被処理物である基板」は前者の「有機物または無機物から成る基体」に、後者の「ランプボックス」は前者の「照射ユニット(5)」にそれぞれ相当する。
また、後者の「駆動手段」と、前者の「摺動エレメント」とは、ともに基体(基板)とUV照射器(4)(誘電体バリア放電ランプ)を相対的移動させる移動手段である点で共通する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は
「所定の間隔をおいて配置された、放電ランプとしての少なくとも1つのUV照射器によるUV照射によって、有機物または無機物から成る基体の表面を処理するための装置であって、
少なくとも1つのUV照射器が照射ユニットに配置されており、基体とUV照射器とを相対的移動させる移動手段が設けられている、基体の表面を処理するための装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。
<相違点1>
基体に向けUV(紫外線)を照射するUV照射器に関し、前者では、ガス充填された縦長の放電室を有しており、該放電室の壁は誘電体によって形成されていて、該誘電体の放電室とは反対側の面に少なくとも1つの電極が設けられている形式のものであるのに対し、後者では、誘電体バリア放電ランプであるが、その詳細は不明である点。

<相違点2>
基体とUV照射器とを相対的移動させる移動手段に関し、前者では、基体に対して相対的に照射ユニットが並進運動するために少なくとも1つの摺動エレメントが設けられているのに対し、後者では、基板(基体)を支持する手段と誘電体バリア放電ランプ(UV照射器)とを相対移動させる駆動手段である点。

4.判断
上記相違点について検討する。

<相違点1>について
紫外線を放射する誘電体バリア放電ランプは、石英ガラス板のような光透過性の誘電体2枚を対向して設けて放電空間を形成し、その放電空間に稀ガス等を充填し、2枚の誘電体の放電空間に対向していない面に電極を設ける形式のものが、従来周知の技術(例えば、特開平6-181056号公報、特開平2-7353号公報、特開平7-169444号公報を参照)であるので、引用発明の誘電体バリア放電ランプに、該周知技術を適用して相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2>について
液晶表示ディスプレイ基板等に、紫外線を照射して処理を行う装置において、紫外線ランプの照射ユニットと基体とを相対的に移動させるために、照射ユニットを基体側に対して移動させることは、従来周知の技術(例えば、特開平9-219356号公報(段落【0047】),特開平11-214291号公報(段落【0066】)を参照)であるから、これを引用発明に適用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の上記相違点1,2に係る発明特定事項とすることによる効果も格別なものではない。

5.むすび
以上のことから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
 
審理終結日 2007-03-26 
結審通知日 2007-03-28 
審決日 2007-04-10 
出願番号 特願2000-358253(P2000-358253)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 栗山 卓也  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 増沢 誠一
芦原 康裕
発明の名称 基体の表面を処理するための方法および装置  
代理人 山崎 利臣  
代理人 ラインハルト・アインゼル  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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