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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L |
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管理番号 | 1163477 |
審判番号 | 不服2006-3011 |
総通号数 | 94 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-02-17 |
確定日 | 2007-08-31 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第311331号「麺の調理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年5月18日出願公開、特開平11-127803〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本件発明 本件出願は、平成9年10月27日の特許出願であって、その請求項1に係る発明は、平成19年4月23日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。) 「【請求項1】即席麺である乾燥麺としてうどん、ラーメン、あるいは蕎麦を収納した容器内に調理用水を注入し、その調理用水に浸漬した状態の麺を設定時間だけマイクロ波加熱する麺の調理方法において、 その麺に増粘安定剤としてアルギン酸が添加されていることを特徴とする麺の調理方法。」 2.引用刊行物記載事項 これに対して、当審における平成19年1月29日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本件出願日前に頒布された下記刊行物(1)乃至(2)(以下、「引用例1乃至2」という。)には、以下の事項が記載されている (1)特開平6-64号公報 (a)【請求項1】即席麺類の製造方法であって、下記の工程、すなわち、(1) 小麦粉もしくは小麦粉と澱粉を主成分とする原料粉、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩、アルカリ剤、必要に応じて食塩等を加えて、水とを混練し、弱酸性から弱アルカリ性のpHを呈する麺生地を混練・調製する工程、(2) 前記麺生地を麺線として、α化処理を施す工程、(3) 前記α化処理を施した麺線を酸液処理して、麺線pHを酸性域に調整する工程、ならびに、(4) 前記pH調整した麺線を乾燥する工程、を含むことを特徴とする即席麺類の製造方法。・・・」(【特許請求の範囲】 (b)【産業上の利用分野】本発明は、復元・喫食の際に、極めて生麺類の食感に近似した所謂『腰の強い』食感であり、しかも、優れた味覚を呈し、所謂『湯のび』が少ない、熱風乾燥麺、フライ麺、凍結乾燥麺などの即席麺類を製造する方法に関する。【従来の技術】従来、フライ麺や熱風乾燥麺、凍結乾燥麺などの即席麺類は、小麦粉、澱粉等の製麺原料を混練し、圧延、切出しを行って製麺し、これを蒸煮後、裁断し型詰して、油揚、熱風乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施し、乾燥麺塊を製造している。ところで、昨今の消費者は、その食生活において、簡便化志向、本格派志向がその流れとなっており、即席麺類についても、たとえば、熱湯を注ぐだけ又は短時間の沸騰水中での煮沸のみで調理、喫食でき、かつ、極めて生麺類の食感に近似した所謂『腰の強い』食感を有し、しかも、優れた味覚を呈し、『湯のび』が少ない即席麺類の開発が望まれている。(段落【0001】?【0003】、公報第2頁第1欄第30?47行) (c)かかる目的を達成するために、本発明者らが鋭意研究した結果、小麦粉、澱粉などの原料粉、かんすい等のアルカリ剤を含む原材料に、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を配合して、麺生地(麺線)のpHを中性ないし弱アルカリ性に調整し、その後、酸液処理を行うことにより、麺線のpHを酸性域に調整し、これによって、麺線中に酸不溶性のアルギン酸の網状組織を形成し、これを、フライ乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥などの適宜の乾燥処理を施すことによって、熱湯注加などによる復元の際にも、アルギン酸の網状組織の作用によって、麺の湯のびが少なく、かつ腰のある食感を付与できる麺が得られることを知見するに至り、本発明を完成するに到ったのである。(段落【0013】、公報第3頁第3欄第4?16行) (d) 最後に、この酸液処理が施された麺線は、乾燥処理工程を経て、即席麺製品となり、適宜、従来のような他の調味料、具材とともに、袋入り包装又はポリスチレンなどの容器に収納されて、包装即席麺又はカップ入り即席麺の商品形態を採ることができる。(段落【0030】、公報第4頁第5欄第28行?第6欄第2行) (e)【発明の効果】 本発明方法を用いることによって、熱風乾燥処理麺、フライ乾燥処理麺、凍結乾燥処理麺などの即席麺類でありながら、アルギン酸添加とpH調整により、従来の即席麺には見られない『腰』の強い独特の『粘りと歯ごたえ』を保持しつつ、しかも、より一層向上させ、さらに湯のびがしにくく、また、口当たり、味覚等が飛躍的に改善向上された即席麺類を製造することができるのである。(段落【0113】、公報第13頁第23欄第49行?第24欄第43行) (f)実施例1?13として即席中華麺が、実施例14として即席うどんが製造されている。 (2)特開平9-70272号公報 (g)【請求項1】ジグリセリンジ飽和脂肪酸エステルを含有することを特徴とする即席めん類。・・・【請求項5】即席めん類が、生めんをα化処理した後に、更に乾燥処理したものである請求項1?3の何れか1項記載の即席めん類。【請求項6】乾燥処理がフライ乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥及びマイクロウエーブ乾燥より選ばれる1種以上の処理である請求項5記載の即席めん類。・・・(【特許請求の範囲】) (h)【従来の技術】従来より知られている、フライ乾燥・ノンフライ乾燥・茹でめん・冷凍めんなどの製造工程中で予めα化処理した即席めん類は、調理の簡便性を追求したものであり、熱水あるいは電子レンジで短時間に調理することが可能である。しかしながら、簡便性を追求するあまり、腰がない・湯のびしやすいなど、生めんから茹でて調理する本格めんと比較して食感や品質において劣るのが通常である。従来、このような問題点を改良する技術としては、グルテンやその分解物を配合する方法、あるいは添加物のゲル化特性を利用して卵白・カードラン・アルギン酸塩(特開平6-64号公報)などを利用する等の方法が提案されている。しかしながら、前者においては、グルテン臭など添加物由来の風味を呈したり、本来の目的である即席性や簡便性が著しく損なわれるといった問題があった。また、後者に添加剤においても、効果の程度が不十分であるばかりか、本来のめんが有する食感とは異質のものとなる等の欠点があった。このような理由から、未だ市場に流通する即席めん類は上記の問題点を解決するまでには至っていない。」(段落【0002】) 3.対比・判断 本件発明は、即席麺である乾燥麺としてうどん、ラーメン、あるいは蕎麦を収納した容器内に調理用水を注入し、その調理用水に浸漬した状態の麺を設定時間だけマイクロ波加熱する麺の調理方法において、その麺に増粘安定剤としてアルギン酸を添加することにより、麺の食味、食感を向上でき、しかも調理条件の設定が容易な調理方法を提供できるものである。 これに対して、引用例1には、上記記載事項(a)乃至(f)によれば、「中華麺、うどん等の熱風乾燥処理麺、フライ乾燥処理麺、凍結乾燥処理麺などの即席麺類を収納した容器内に調理用熱湯を注入し、その調理用熱湯に浸漬した状態の麺を設定時間だけ加熱する麺の調理方法において、その麺にアルギン酸を添加して、従来の即席麺には見られない『腰』の強い独特の『粘りと歯ごたえ』を保持しつつ、しかも、より一層向上させ、さらに湯のびがしにくく、また、口当たり、味覚等が飛躍的に改善向上された即席麺類を製造すること」が記載されているといえる。(以下、「引用発明」という。) 本件発明と、引用発明とを対比すると、 両者は、「うどん、ラーメン等の即席麺である乾燥麺を収納した容器内に調理用水を注入し、その調理用水に浸漬した状態の麺を設定時間だけ加熱する麺の調理方法において、その麺に増粘安定剤としてアルギン酸が添加されている麺の調理方法。」である点で一致しており、 麺の加熱方法について、前者が、「マイクロ波加熱」であるのに対して、後者は調理用水として熱湯を使用する点、で相違している。 そこで、上記相違点について検討する。 引用例2に記載されたとおり、調理の簡便性を追求し、即席麺である乾燥麺類を熱水あるいは電子レンジで短時間に調理することは周知・慣用の技術である。(上記記載事項(h)参照。) そうすると、引用発明において、うどん、ラーメン等即席麺である乾燥麺の加熱手段として熱湯注加に代えて電子レンジ加熱を採用することは、周知手段の代替にすぎず、当業者が適宜なし得るところであり、それにより当業者が予期し得ない効果を奏するものでもない。 そして、本件発明の明細書記載の効果も、上記記載事項(e)等から当業者が予測しうる程度のものにすぎない。 審判請求人は、平成19年4月23日付け意見書において、「(1)調理用水に浸漬された状態でマイクロ波加熱される乾燥麺は、熱湯により加熱される乾燥麺よりも硬くなって食感が悪化すると考えることから、網状組織により麺を硬くするアルギン酸を、調理用水に浸漬された状態でマイクロ波加熱される乾燥麺に添加することはなく、刊行物1記載の引用発明に刊行物2記載の技術を適用する阻害要因が存在する、(2)表1?表3より、アルギン酸を添加してもしなくても、熱湯調理した場合は麺の硬さに殆ど差が生じないのに対し、電子レンジ調理した場合はアルギン酸を添加すると添加しない場合よりも破断強度が増加するという、従来技術からは全く予測できない作用効果を確認できる。」旨主張しているので検討する。 主張(1)について 引用発明も、引用例2記載の周知技術も、共に、腰があり、湯のびが少ない即席麺を製造する技術であるから、引用発明に引用例2に記載された周知技術を適用することに阻害要因があるとは到底いえない。 因みに、引用例2には、「添加物のゲル化特性を利用して卵白・カードラン・アルギン酸塩(特開平6-64号公報)などを利用する」と引用発明について言及されている。(上記記載事項(h)) 主張(2)について 請求人は、「表1?表3より電子レンジ調理した場合はアルギン酸を添加すると添加しない場合よりも破断強度が増加する」というが、表2によれば、試料2及び4は、アルギン酸を添加すると添加しない場合よりも破断強度が増加しているが、逆に試料1及び3は、アルギン酸を添加すると添加しない場合よりも破断強度が減少しており、この実験結果から本件発明が予期し得ない効果を奏するものとは到底いえない。(なお、請求人は、「アルギン酸を添加してもしなくても、熱湯調理した場合は麺の硬さに殆ど差が生じない」ともいうが、表1によれば、試料1は、アルギン酸を添加すると添加しない場合よりも破断強度が増加しているが、逆に試料2は、アルギン酸を添加すると添加しない場合よりも破断強度が減少している。) また、仮に、本件発明が請求人の主張するような効果を有するとしたとしても、それは、引用発明に引用例2に記載された周知技術を適用した結果もたらされたものであり、本件発明が容易に想到できたことが充分に論理付けられたのであるから、そのような効果は、進歩性の判断を左右しない。 したがって、本件発明は、上記刊行物1乃至2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4. むすび 以上のとおり、本件請求項1に係る発明は、当審で通知した上記拒絶理由通知に引用したその出願前に頒布された上記刊行物1乃至2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-05-17 |
結審通知日 | 2007-06-12 |
審決日 | 2007-06-25 |
出願番号 | 特願平9-311331 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A23L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村上 騎見高 |
特許庁審判長 |
河野 直樹 |
特許庁審判官 |
鵜飼 健 鈴木 恵理子 |
発明の名称 | 麺の調理方法 |
代理人 | 根本 進 |