ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
---|---|
管理番号 | 1163676 |
審判番号 | 不服2004-6978 |
総通号数 | 94 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-04-08 |
確定日 | 2007-09-06 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第204202号「階調画像の熱記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月25日出願公開、特開平 9- 52379〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成7年8月10日の出願であって、平成16年3月3日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年4月8日付けで本件審判請求をするとともに、同年5月10日付けで明細書についての手続補正(以下「第3補正」という。)がされたものである。 当審においてこれを審理した結果、第3補正を却下するとともに、平成19年1月23日付けで新たな拒絶の理由(以下「第1拒絶理由」という。)を通知したところ、請求人は同年4月2日付けで意見書及び手続補正書(この手続補正を「第4補正」という。)を提出した。 当審においてさらに審理した結果、平成19年4月19日付けで再度拒絶の理由(いわゆる最後の拒絶理由であり、以下「第2拒絶理由」という。)を通知したところ、請求人は同年6月22日付けで意見書及び手続補正書(この手続補正を「第5補正」という。)を提出した。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成19年6月22日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正目的違反 第5補正は、補正前(第4補正後)請求項1における「前記感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料を用い、」との記載を削除するものである(同旨の補正が段落【0015】にも施されている。)。 補正前の発明特定事項を削除することは、請求項削除(平成18年改正前特許法17条の2第4項1号)、特許請求の範囲の減縮(同項2号)、誤記の訂正(同項3号)又は明りようでない記載の釈明(同項4号)のいずれにも該当しない。 請求人は、「この補正は、拒絶理由通知書において審判官が指摘する「1.新規事項追加」及び「2.記載不備」に該当する部分を削除するものであり、この補正により、不明りょうな記載事項が全て解消されたものと思料する。」(平成19年6月22日付け意見書1頁29?31行)と主張しており、第5補正が明りようでない記載の釈明を目的とする旨主張しているものと解される。 しかし、明りようでない記載の釈明とは、補正前の明りようでない記載を明りような記載に改めることであって、補正前後の記載が実質的に同一内容・同一技術であることを前提とするものである。第2拒絶理由では、後記のとおり(第3 2(1)参照)特許法36条6項2号関係の不備も指摘したが、それは「放熱の時定数」の定義が不明確であることのみである。そうである以上、「放熱の時定数」を明確に定義することは、明りようでない記載の釈明に該当するけれども、それ以外の補正は該当しない。いわんや、平成19年4月2日付け意見書において、請求人は「この補正(審決注;第4補正で追加され、第5補正で削除された事項の趣旨である。)により、本願発明の感熱記録材料は、放熱の時定数が副走査方向に対する記録時間間隔よりも短い材料で構成されることにより、副走査方向に隣接して記録される画像が相互に温度の影響を受けた際に、一方の画像の他方の画像に対する温度低下率ΔTを5%以下とする条件を設定できることを明確にした。」(1頁下から6?3行)と述べており、第1拒絶理由を回避するために、意図的に追加された発明特定事項を削除することなど到底許されるものではない。 したがって、第5補正は平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反している。 2.新規事項追加 第5補正後の請求項1の記載は次のとおりである。 「発色剤、顕色剤および光熱変換剤を備えた感熱層を有し、前記光熱変換剤が供給される光エネルギを熱エネルギに変換し、前記熱エネルギにより流動性が付与された前記発色剤と前記顕色剤とが反応することで前記熱エネルギに応じた濃度で発色する感熱記録材料に対し、記録する画像の階調に応じレーザビームを変調して主走査する一方、前記感熱記録材料を前記レーザビームにより相対的に副走査して階調画像の記録を行う熱記録方法において、 記録された画像の直後から前記副走査の方向に画像が記録された位置温度に対する、 画像が記録されていない状態から前記副走査の方向に最初に画像が記録された位置の温度の温度低下率が5%以下となるように、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径d(前記レーザビームの最大出力値の1/e2となる範囲)と、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数f(Hz)との関係を、 d/D≦1.66+103.76・f-1.57として設定することを特徴とする階調画像の熱記録方法。」 ところで、第3補正前(第1拒絶理由通知時点)の請求項1の記載は、 「供給される光エネルギを熱エネルギに変換し、前記熱エネルギに応じた濃度で発色する感熱記録材料に対し、記録する画像の階調に応じレーザビームを変調して主走査する一方、前記感熱記録材料を前記レーザビームにより相対的に副走査して階調画像の記録を行う熱記録方法において、 前記副走査の方向の温度低下率の許容値を5%以下として、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係を、 d/D≦1.66+103.76・f-1.57として設定することを特徴とする階調画像の熱記録方法。」であって、これと第5補正後の請求項1を比較すると、感熱記録材料につき「発色剤、顕色剤および光熱変換剤を備えた感熱層を有」すること及び「前記熱エネルギにより流動性が付与された前記発色剤と前記顕色剤とが反応すること」の限定が加えられているが、それ以外は実質的に同一である。 そして、後記のとおり、第1拒絶理由では請求項1の記載が新規事項であることを指摘したが、それは第5補正後の請求項1にもそのまま当てはまる。すなわち、次のとおりである。 温度低下率の許容値を5%以下とした場合のものとして「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」との表式が、願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)の段落【0035】に記載があることは認める。 しかし、同段落の記載は、「副走査方向に対し直前に記録された画素が無い場合の温度分布a4、b4の温度分布a5、b5に対する温度低下率ΔTと、パラメータk(レーザビームLの副走査方向のビーム径d/副走査方向の画像の記録間隔D)との関係を、副走査周波数fをパラメータとして求めた」【図4】と、同図から横軸を副走査周波数f、縦軸をk’(=k-k0、ここでk=d/D)とした両対数グラフが右下がりの直線であることから、段落【0029】にあるように「k’=α・f-β」との関係式を求め、さらに「k’≦α・f-β」とした上で「d/D≦α・f-β+k0」と書き換え、具体的なデータからα、β及びk0を決定したものである。 すなわち、段落【0035】の式は、【図4】の実験データを根拠として割り出した表式であるといわなければならない。 ところで、当初明細書の「図8A、図9Aでは、副走査周波数により決まる副走査方向の記録時間間隔(この場合、5ms)が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて長いため、各主走査線の形成の際の相互の熱的影響は極めて少なく、温度分布a4の温度分布a5に対する温度低下率ΔTは2%で、濃度低下ΔDは0.1程度と小さい。これに対して、図8B、図9Bでは、副走査周波数により決まる副走査方向の記録時間間隔(この場合、約1ms)が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて短いため、各主走査線の形成の際の相互の熱的影響が極めて大きくなり、温度分布b4の温度分布b5に対する温度低下率ΔTは15%で、濃度低下ΔDも0.75程度と大きくなる。」(段落【0011】)との記載によれば、温度低下率ΔTは「感熱記録材料の放熱の時定数」や「各主走査線の形成の際の相互の熱的影響」によって定まるものであるから、感熱記録材料の熱容量、放熱係数、熱伝導率、光熱変換剤の量、レーザビームパワー、予熱をするかどうか及び予熱の際の予熱温度、周辺温度等に大きく依存すると解すべきであり、これら諸条件が異なった場合、温度低下率ΔTとパラメータkの関係が【図4】と定性的には類似した関係になる(それすら確実とまではいえない。)かもしれないが、定量的には異なる関係、異なるグラフになると解するべきである。 そうであれば、温度低下率ΔTとパラメータkの関係が【図4】と定性的に類似した関係になり、その結果「d/D≦k0+α・f-β」という表式になったとしても、ΔTが5%以下の場合の(k0,α,β)が、(1.66,103.76,1.57)になるべき理由は何もない。 他方、感熱記録材料の熱容量、放熱係数、熱伝導率、光熱変換剤の量、レーザビームパワー、予熱をするかどうか及び予熱の際の予熱温度、周辺温度等は第5補正後の請求項1には一切特定されておらず、これら諸条件を特定することなく、温度低下率が5%以下となるように「前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径d(前記レーザビームの最大出力値の1/e2となる範囲)と、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数f(Hz)との関係」を、「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」として定めることなど当初明細書には記載されていないし、自明の事項でもない。 したがって、第5補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。 [補正の却下の決定のむすび] 以上のとおり、第5補正は特許法17条の2第3項の規定及び平成18年改正前の同法17条の2第4項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての判断 第3補正及び第5補正が却下されたから、第4補正で補正された明細書及び図面に基づいて審理する。 1.特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲【請求項1】の記載は次のとおりである。 「発色剤、顕色剤および光熱変換剤を備えた感熱層を有し、前記光熱変換剤が供給される光エネルギを熱エネルギに変換し、前記熱エネルギにより流動性が付与された前記発色剤と前記顕色剤とが反応することで前記熱エネルギに応じた濃度で発色する感熱記録材料に対し、記録する画像の階調に応じレーザビームを変調して主走査する一方、前記感熱記録材料を前記レーザビームにより相対的に副走査して階調画像の記録を行う熱記録方法において、 前記感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料を用い、記録された画像の直後から前記副走査の方向に画像が記録された位置の温度に対する、画像が記録されていない状態から前記副走査の方向に最初に画像が記録された位置の温度の温度低下率が5%以下となるように、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径d(前記レーザビームの最大出力値の1/e2となる範囲)と、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数f(Hz)との関係を、 d/D≦1.66+103.76・f-1.57として設定することを特徴とする階調画像の熱記録方法。」 2.当審で通知した拒絶理由 (1)第2拒絶理由 第2拒絶理由は次の『』内のとおりのである。 『平成19年4月2日付け手続補正後の請求項1には、「前記感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料を用い、記録された画像の直後から前記副走査の方向に画像が記録された位置の温度に対する、画像が記録されていない状態から前記副走査の方向に最初に画像が記録された位置の温度の温度低下率が5%以下となるように、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径d(前記レーザビームの最大出力値の1/e2となる範囲)と、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数f(Hz)との関係を、 d/D≦1.66+103.76・f-1.57として設定する」と記載されている。 以下、この記載を中心に検討する。 1.新規事項追加 「感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料」と同視できる文言が、願書に最初に添付した明細書に記載されていることは認める(当初明細書の段落【0011】の「図8A、図9Aでは、副走査周波数により決まる副走査方向の記録時間間隔(この場合、5ms)が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて長いため、各主走査線の形成の際の相互の熱的影響は極めて少なく、温度分布a4の温度分布a5に対する温度低下率ΔTは2%で、濃度低下ΔDは0.1程度と小さい。」との記載がこれに該当。)。 しかし、上記記載は、副走査方向の記録時間間隔が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて長いため、各主走査線の形成の際の相互の熱的影響は極めて少なくなることを述べたものであって、副走査方向の記録時間間隔が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて長い場合には、特段の制御を行うまでもなく、温度低下率ΔT及び濃度低下ΔDが小さくなるという事実を述べたにすぎない。 かえって、当初明細書の段落【0011】には引き続いて「これに対して、図8B、図9Bでは、副走査周波数により決まる副走査方向の記録時間間隔(この場合、約1ms)が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて短いため、各主走査線の形成の際の相互の熱的影響が極めて大きくなり、温度分布b4の温度分布b5に対する温度低下率ΔTは15%で、濃度低下ΔDも0.75程度と大きくなる。」との記載があり、さらに「各画素の相互の熱的影響による濃度変動は、感熱記録材料の副走査方向に対して顕著に現れることになる。そして、前記濃度変動は、レーザビームの副走査周波数に依存することが図8A、図8B、図9A、図9Bの考察から了解される。また、前記濃度変動は、レーザビームの副走査方向のビーム径や画素の副走査方向の記録間隔にも依存している。従って、前記濃度低下ΔDを所望の範囲内とするため、各パラメータの設定には多大な時間を必要としていた。」(段落【0013】)との記載等によれば、「感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が」短い場合にも、「温度低下率が5%以下」となるように「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」との不等式を満たすように、ビーム径d、副走査の方向の画像の記録間隔D及び副走査の周波数f(Hz)の関係を設定していたとみるべきであり、「前記感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料を用い」る場合に限定することなど、当初明細書(添付図面を含む。)には記載されていないし、自明の事項でもない。 すなわち、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正がされている。 2.記載不備 以下に述べるとおり、本願明細書の記載は平成14年改正前特許法36条4項並びに同条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。 (1)平成19年4月2日付け手続補正により、段落【0015】は補正されたが、同段落の記載は請求項1と実質同文であるから、同段落の記載をもって、請求項1(及びそれを引用する請求項2)に係る発明が記載されているということはできない。 1.で述べたことを、明細書の記載要件の立場からみれば、請求項1,2に係る発明が発明の詳細な説明に記載されていないことにほかならない。 (2)請求項1(及びそれを引用する請求項2)は、「前記感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料を用い」、かつビーム径d、副走査の方向の画像の記録間隔D及び副走査の周波数f(Hz)の関係を温度低下率が5%以下となるように「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」として設定することを発明特定事項としている。 まず、「放熱の時定数」の定義が不明確である。同文言が当初明細書の段落【0011】に存在することは事実であるが、発明の詳細な説明においては、定性的な意味合いが明確であれば記載不備にはならないけれども、特許請求の範囲においては、記録時間間隔(こちらは明確である。)と比べて長いか短いかが特定されなければならないから、定性的な意味合いだけでは不十分であって、定量的定義も明確でなければならない。 (3)上記発明特定事項は、感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くない場合であっても、「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」の関係を満たさず、その結果温度低下率が5%超となることが、発明特定事項として成立する条件である。 しかし、放熱の時定数<副走査方向に対する記録時間間隔の場合、温度低下率が5%超となる場合があることなど、発明の詳細な説明(添付図面を含む)からは窺い知ることができない。 かえって、段落【0011】の上記記載によれば、1.で述べたように、副走査方向の記録時間間隔が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて長い場合には、温度低下率ΔTが小さい(5%以下)とされており、【図4】の実験結果によれば、d/D=4近傍でやっと温度低下率が5%程度になっている。ところで、dはビーム径、Dは副走査の方向の画像の記録間隔であるから、良好な画像を形成するためにd/Dには一定の制約があり、d/D=4程度にして画像形成をすることなどおよそ考えられない。そうすると、【図4】の実験結果からみても、放熱の時定数>副走査方向に対する記録時間間隔の場合、自然に温度低下率は5%以下となると解すべきであり、上記発明特定事項の技術的意義が理解できないと同時に、仮に放熱の時定数<副走査方向に対する記録時間間隔であっても、温度低下率が5%超となる場合があるのであれば、どのような場合なのか記載されていないから、発明の詳細な説明は請求項1,2に係る発明を実施可能な程度に記載したとはいえない。 3.進歩性 本願明細書の段落【0002】及び【0003】には従来技術として、いくつかの文献が示されており、請求項1,2に係る発明の技術的特徴は「前記感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料を用い、記録された画像の直後から前記副走査の方向に画像が記録された位置の温度に対する、画像が記録されていない状態から前記副走査の方向に最初に画像が記録された位置の温度の温度低下率が5%以下となるように、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径d(前記レーザビームの最大出力値の1/e2となる範囲)と、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数f(Hz)との関係を、 d/D≦1.66+103.76・f-1.57として設定する」ことにあり、それがこれら文献記載の発明との相違点となる。 しかし、2.で述べたとおり、放熱の時定数<副走査方向に対する記録時間間隔の場合には、温度低下率が5%以下となるものと解すべきであるから、実質的相違点は放熱の時定数<副走査方向に対する記録時間間隔とすることだけである。 放熱の時定数は記録材料で定まっているから、副走査方向に対する記録時間間隔を長くすれば、放熱の時定数<副走査方向に対する記録時間間隔との条件を満たす。そして、副走査方向に対する記録時間間隔を長くするとは、ゆっくり走査することであって、ゆっくり走査する方が、走査機構は安価であり、安定した走査を行えることは自明である。 そうである以上、副走査方向に対する記録時間間隔を長くし、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を採用することは当業者にとって想到容易である。すなわち、請求項1,2に係る発明は、段落【0002】及び【0003】記載の文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。』 (2)第1拒絶理由 第1拒絶理由は次の『』内のとおりのである。 『1.新規事項追加 請求項1には「前記副走査の方向の温度低下率の許容値を5%以下として、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係を、 d/D≦1.66+103.76・f-1.57として設定する」と、 請求項2には「前記副走査の方向の温度低下率の許容値を10%以下として、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係を、 d/D≦1.82+104.05・f-1.57として設定する」と、 及び請求項3には 「前記副走査の方向の温度低下率の許容値を15%以下として、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係を、 d/D≦1.98+104.25・f-1.57として設定する」とそれぞれ記載がある。 温度低下率の許容値を5%以下、10%以下及び15%以下とした場合のものとして「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」、「d/D≦1.82+104.05・f-1.57」及び「d/D≦1.98+104.25・f-1.57」との表式が、願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)の段落【0035】に記載があることは認める。 しかし、同段落の記載は、「副走査方向に対し直前に記録された画素が無い場合の温度分布a4、b4の温度分布a5、b5に対する温度低下率ΔTと、パラメータk(レーザビームLの副走査方向のビーム径d/副走査方向の画像の記録間隔D)との関係を、副走査周波数fをパラメータとして求めた」【図4】と、同図から横軸を副走査周波数f、縦軸をk’(=k-k0、ここでk=d/D)とした両対数グラフが右下がりの直線であることから、段落【0029】にあるように「k’=α・f-β」との関係式を求め、さらに「k’≦α・f-β」とした上で「d/D≦α・f-β+k0」と書き換え、具体的なデータからα、β及びk0を決定したものである。 すなわち、段落【0035】の式は、【図4】の実験データを根拠として割り出した表式であるといわなければならない。 ところで、当初明細書の「図8A、図9Aでは、副走査周波数により決まる副走査方向の記録時間間隔(この場合、5ms)が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて長いため、各主走査線の形成の際の相互の熱的影響は極めて少なく、温度分布a4の温度分布a5に対する温度低下率ΔTは2%で、濃度低下ΔDは0.1程度と小さい。これに対して、図8B、図9Bでは、副走査周波数により決まる副走査方向の記録時間間隔(この場合、約1ms)が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて短いため、各主走査線の形成の際の相互の熱的影響が極めて大きくなり、温度分布b4の温度分布b5に対する温度低下率ΔTは15%で、濃度低下ΔDも0.75程度と大きくなる。」(段落【0011】)との記載によれば、温度低下率ΔTは「感熱記録材料の放熱の時定数」や「各主走査線の形成の際の相互の熱的影響」によって定まるものであるから、感熱記録材料の熱容量、放熱係数、熱伝導率、光熱変換剤の量、レーザビームパワー、予熱をするかどうか及び予熱の際の予熱温度、周辺温度等に大きく依存すると解すべきであり、これら諸条件が異なった場合、温度低下率ΔTとパラメータkの関係が【図4】と定性的には類似した関係になる(それすら確実とまではいえない。)かもしれないが、定量的には異なる関係、異なるグラフになると解するべきである。 そうであれば、温度低下率ΔTとパラメータkの関係が【図4】と定性的に類似した関係になり、その結果「d/D≦k0+α・f-β」という表式になったとしても、ΔTが5%以下、10%以下及び15%以下の場合の(k0,α,β)が、それぞれ(1.66,103.76,1.57),(1.82,104.05,1.57)及び(1.98,104.25,1.57)になるべき理由は何もない。 他方、感熱記録材料の熱容量、放熱係数、熱伝導率、光熱変換剤の量、レーザビームパワー、予熱をするかどうか及び予熱の際の予熱温度、周辺温度等は請求項1?4には一切特定されておらず、これら諸条件を特定することなく、温度低下率の許容値を5%以下、10%以下及び15%以下とした場合の「前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係」を、それぞれ「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」、「d/D≦1.82+104.05・f-1.57」及び「d/D≦1.98+104.25・f-1.57」として定めることなど当初明細書には記載されていないし、自明の事項でもない。 したがって、本願においては、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正がされている。 2.記載不備 以下に述べるとおり、本願明細書の記載は平成14年改正前特許法36条4項並びに同条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。 (1)請求項1?4は「階調画像の熱記録方法」の発明とされており、その特徴とするところは、「前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係」を適宜不等式により定めたことにある。 ここで「副走査の周波数f」が関係式に表れることにつき、本願各発明における「副走査の周波数f」の位置づけが不明確である。 すなわち、「階調画像の熱記録方法」は熱記録装置を用いて記録する方法と解されるが、その熱記録装置が、「副走査の周波数f」を変更して使用できるような装置を意図し、「副走査の周波数f」に変更した場合に、常に上記不等式を満たすとの趣旨であるのか、熱記録装置の「副走査の周波数f」が固定の場合を含み、固定の「副走査の周波数f」に対して上記不等式を満たすことが条件なのか不明確である。後者であるとすると、次の問題もある。本願明細書には「例えば、図8Aおよび図8Bは、副走査周波数を200Hzおよび900Hz、副走査方向のレーザビームのビーム径を120μm、副走査方向の記録間隔を50μm、感熱記録材料の感度(γ特性)を5とした場合において、各主走査線の副走査方向に対する前記感熱記録材料上の温度分布a1?a7およびb1?b7を示したものである。・・・図9Aおよび図9Bは、夫々図8Aおよび図8Bの温度分布に対する場合の濃度を示す。」(段落【0010】)及び「図8A、図9Aでは、副走査周波数により決まる副走査方向の記録時間間隔(この場合、5ms)が感熱記録材料の放熱の時定数に比べて長いため、各主走査線の形成の際の相互の熱的影響は極めて少なく、温度分布a4の温度分布a5に対する温度低下率ΔTは2%・・・図8B、図9Bでは、・・・温度分布b4の温度分布b5に対する温度低下率ΔTは15%」(段落【0011】)との各記載があり、図8A及び図9Aが、従来技術とかけ離れた例であると解することは困難であって、図8A及び図9Aの温度低下率ΔTは2%であるから、明らかに請求項1?3の条件式を満たし、図8B及び図9Bであっても、温度低下率ΔTが15%であるから、ぎりぎり請求項3の条件式を満たすと解さざるを得ない。そうであれば、請求項1?4に係る発明が従来技術とどう違うのか全く理解できないことになる。 後者の場合にはさらに次の問題がある。すなわち、「副走査の周波数f」を変更した場合に、d/Dを変更する趣旨なのか、「副走査の周波数f」の最大値に対して、請求項1?3の不等式をを満たすような、固定のd/Dを採用する場合を含むかどうかが明確でない点である。d/Dが固定であれば、従来技術であっても、「副走査の周波数f」が小さい場合には不等式を満たす蓋然性が高く、「副走査の周波数f」を小さくして記録する熱記録方法が従来技術とどう違うのか全く理解できないことになる。 (2)1.で摘記した当初明細書の記載や図面は出願当初から補正されていない。 そうである以上、請求項1?4に係る発明は、補正後の発明の詳細な説明にも記載されていないというべきである。 (3)感熱記録材料の熱容量、放熱係数、熱伝導率、光熱変換剤の量、レーザビームパワー、予熱をするかどうか及び予熱の際の予熱温度、周辺温度等が本件補正後の特許請求の範囲に一切特定されていないことは、1.で述べたとおりであるが、これら諸条件は補正後の発明の詳細な説明にも記載されていない。 そして、「前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係を、d/D≦1.82+104.05・f-1.57として設定」、「前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係を、1.82+104.05・f-1.57として設定」又は「前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径dと、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数fとの関係を、1.98+104.25・f-1.57として設定」することことが「温度低下率の許容値を5%以下」、「温度低下率の許容値を10%以下」又は「温度低下率の許容値を15%以下」とすることに結びつくかどうかは、上記諸条件次第であるから、本願各発明を実施するに当たっては、上記諸条件を定めなければならない。 ところが、発明の詳細な説明は上記諸条件について一切記載していないのだから、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に、記載したことにはならない。 (4)(2)及び(3)で述べたことに加えて、「d/D≦α・f-β+k0」との一般式を含め、請求項1?3の条件式の信憑性にも疑義がある。 1.で述べたとおり、上記一般式は【図4】の実験データに基づき、横軸を副走査周波数f、縦軸をk’(=k-k0、ここでk=d/D)とした両対数グラフ(【図7】)を作図し、両対数グラフにおいて右下がり直線となることから得られた式である(両対数グラフで、右下がり直線の方程式がk’=α・f-βとなることは数学的事実であり、βは右下がり直線の勾配で定まる。)。 本願明細書には「温度低下率ΔTとパラメータk(=d/D)との間には、各副走査周波数fにおいて略線形な関係があり、かつ、特定のパラメータk(≒1.66)で副走査周波数fによらず同一の温度低下率ΔTとなっていることが了解される。」(段落【0027】)との記載があり、【図4】によれば、(k,ΔT)=(1.66,0)の点で、すべてのグラフ(直線)が交差していることが読み取れる(ただし、明細書にはΔT=0又はΔT≒0の明文記載はない。)。 他方、【図7】には、ΔT=5%,ΔT=10%及びΔT=15%に対する3つのグラフ(直線)が描かれており、3つの直線は平行である(平行との明文記載はないが、fのべきが一致している(すべて-1.27である。)から、平行である。)。 ところで、ΔT=5%に対するk0の値は1.66であり、これは【図4】において直線が交差する点のk値でもある。【図7】のΔT=5%に対するグラフは、【図4】において8個の直線から、ΔT=5%となる点のkを読み取り、それをk0だけシフトした上で縦軸に、読み取った各直線のfを横軸にプロットしたものである。k値をk0だけシフトするということは、【図4】において横軸をk0(=1.66)シフトすることである。そして、【図4】において横軸を1.66シフトすれば、直線は原点で交差することになるから、ΔT=10%又はΔT=15%に対する、k’(=k-1.66)の値は、それぞれΔT=5%の場合の2倍又は3倍になる。k’が2倍又は3倍になるということは、両対数グラフではk’で2又は3の対数分シフトすることであり、その結果ΔT=10%及びΔT=15%に対するグラフはΔT=5%に対するグラフと平行になる。そのことは【図7】とも一致している。 しかし、そうであれば、ΔT=10%及びΔT=15%に対するk0値は、ΔT=5%に対するそれと同じ1.66でなければならない。にもかかわらず、ΔT=10%及びΔT=15%に対するk0値はそれぞれ、1.82及び1.98であって1.66とは相当異なる。もとより、レーザビームで描画する場合には、k(=d/D)が小さすぎれば横方向の白スジが発生し、大きすぎれば隣接ラインが重なり黒スジの原因となるから、k値には一定の制約があり、無制限な値を採ることはできないことを考慮すれば、上記k0値の相違は到底無視できるような相違ではない。 k0値が異なるということは、【図7】作成に当たって、ΔTの値毎に、【図4】から異なるk0値を選択したということであり、【図7】の横軸の定義がΔTの値毎に異なるということである。しかし、そうであれば、【図4】からどのようにしてΔTの値毎のk0値を決定すればよいのか皆目見当がつかない。上記のとおり(k,ΔT)=(1.66,0)の点ですべての直線が交差するのであれば、その交点を基準(原点)にし、ΔT共通のk0値を採用すればよいし、仮に交点においてΔT≠0としても、その交点を原点とすれば、ΔT=10%又はΔT=15%に対するk’の値がΔT=5%の場合の2倍又は3倍との上記説示における「2倍又は3倍」がそれとは異なる数値になるだけだから、ΔT共通のk0値を採用して【図7】のような平行直線グラフを描けることには変わりがない。 k0を適宜に選んでも、【図7】のような直線になるのだとすると、k0の選び方は極めて恣意的であるいわざるを得ず、本願各発明が特許を受けるためには、k0を本願請求項1?3のように選んだ理由が明確であって、そのように選んだことによる作用効果が明細書において明らかにされていなければならないが、本願明細書は到底そのことを満たしていない。 そればかりか、【図4】において、kを大きくしたデータは直線から相当外れているから、「温度低下率ΔTとパラメータk(=d/D)との間には、各副走査周波数fにおいて略線形な関係があり」(段落【0027】)との記載の信用性も疑わしく、ひいては【図7】のような直線グラフになるのかどうかも疑わしい。』 3.第2拒絶理由の当否 記載不備及び新規事項追加については、第2拒絶理由に特につけ加えることはなく、第2拒絶理由で指摘したとおりである。すなわち、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正がされているとともに、本願明細書の記載は平成14年改正前特許法36条4項並びに同条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。 進歩性については次のとおりである。 本願明細書の段落【0003】に従来技術を示す文献として示された特開平5-24219号公報(以下「引用例」という。)には、「支持体上に実質的に無色の発色剤、顕色剤および光吸収色素を備え、画像データに基づいて供給される熱エネルギに応じて階調性を有した画像を形成することが可能な感熱記録材料に、光ビームで露光することによって該熱エネルギを供給して画像を記録するにあたり、 入力される画像データに基づいて光ビームの露光量を変更することを特徴とする感熱記録材料への光ビーム記録方法。」(【請求項1】)との発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。ここで、「光吸収色素」が本願発明の「光熱変換剤」に相当し、「供給される光エネルギを熱エネルギに変換」することは明らかである。また、引用発明において「入力される画像データに基づいて光ビームの露光量を変更する」以上、感熱記録材料は「前記発色剤と前記顕色剤とが反応することで前記熱エネルギに応じた濃度で発色する」ものであり、「記録する画像の階調に応じレーザビームを変調して主走査する一方、前記感熱記録材料を前記レーザビームにより相対的に副走査して階調画像の記録を行う熱記録方法」であることは技術常識に属する。 引用例には「熱エネルギにより流動性が付与」との文言記載はないが、同じく段落【0003】に従来技術を示す文献として示された特開平5-301447号公報に「本発明で使用する塩基性染料前駆体は特に限定されるものではないが、エレクトロンを供与して、或いは酸等のプロトンを受容して発色する性質を有するものであって、通常略無色で、ラクトン、ラクタム、サルトン、スピロピラン、エステル、アミド等の部分骨格を有し、顕色剤と接触してこれらの部分骨格が開環若しくは開裂する化合物が用いられる。具体的には、クリスタルバイオレットラクトン、ベンゾイルロイコメチレンブルー、マラカイトグリーンラクトン、ローダミンBラクタム、1,3,3-トリメチル-6’-エチル-8’-ブトキシインドリノベンゾスピロピラン等がある。」(段落【0016】)との記載があり、この記載と本願明細書の「塩基性染料前駆体は、エレクトロンを供与して、あるいは酸等のプロトンを受容して発色する性質を有するものであって、通常略無色で、ラクトン、ラクタム、サルトン、スピロピラン、エステル、アミド等の部分骨格を有し、顕色剤と接触してこれらの部分骨格が開環若しくは開裂する化合物が用いられる。具体的には、クリスタルバイオレットラクトン、ベンゾイルロイコメチレンブルー、マラカイトグリーンラクトン、ローダミンBラクタム、1,3,3-トリメチル-6’-エチル-8’-ブトキシインドリノベンゾスピロピラン等がある。」(段落【0005】)との記載を比較すれば、特開平5-301447号公報の発色剤(塩基性染料前駆体)と本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の発色剤に差はなく、「発色剤」が「熱エネルギにより流動性が付与され」る性質を有することは一般的事実と解すべきであるから、引用発明の発色剤も同性質を有すると推認できる。仮に、そのように推認できないとしても、特開平5-301447号公報記載の発色剤を用いれば「熱エネルギにより流動性が付与され」るのだから、そのような発色剤の相違があるとしても、軽微な設計事項にとどまり、実質的な相違点というほどのものではない。 そうすると、本願発明と引用発明とは、第2拒絶理由で認定したとおり、 「発色剤、顕色剤および光熱変換剤を備えた感熱層を有し、前記光熱変換剤が供給される光エネルギを熱エネルギに変換し、前記熱エネルギにより流動性が付与された前記発色剤と前記顕色剤とが反応することで前記熱エネルギに応じた濃度で発色する感熱記録材料に対し、記録する画像の階調に応じレーザビームを変調して主走査する一方、前記感熱記録材料を前記レーザビームにより相対的に副走査して階調画像の記録を行う熱記録方法。」である点で一致し、「前記感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料を用い、記録された画像の直後から前記副走査の方向に画像が記録された位置の温度に対する、画像が記録されていない状態から前記副走査の方向に最初に画像が記録された位置の温度の温度低下率が5%以下となるように、前記レーザビームの前記副走査の方向に対するビーム径d(前記レーザビームの最大出力値の1/e2となる範囲)と、前記副走査の方向の画像の記録間隔Dと、前記副走査の周波数f(Hz)との関係を、 d/D≦1.66+103.76・f-1.57として設定する」かどうかのみが相違点となる。 そして、この相違点に係る本願発明の発明特定事項を採用することが当業者にとって想到容易であることは、第2拒絶理由で説示したとおりである。 したがって、第2拒絶理由のとおり、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 4.第1拒絶理由の当否 第4補正により、「感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料」との限定が加わった。 そのため、上記限定下では常に「副走査の方向の温度低下率の許容値を5%以下」及び「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」との要件を自動的に満たす蓋然性が高まった。そうであれば、「副走査の方向の温度低下率の許容値を5%以下」及び「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」については、「感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料」である場合の性質を確認的に述べたにすぎない(その結果、新たな拒絶理由は生じるが)と解されるため、これら2つの記載事項には意味がなく、そのため第1拒絶理由で述べた新規事項追加及び記載不備の理由が妥当すると断定することができない。 第4 予備的判断 仮に第5補正を却下しない場合の判断を予備的にしておく。「第2[理由]2」で述べたように、第3補正前と第5補正後の請求項1は、感熱記録材料についての限定事項を除いては実質的に同一であり、他方第1拒絶理由は、感熱記録材料についての第5補正の限定とは直接関係しない。 すなわち、第5補正を却下しない場合には、第4補正による「感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料」との限定がなくなるから、「副走査の方向の温度低下率の許容値を5%以下」及び「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」との要件を満たすかどうかが問われることになる。 そして、「感熱記録材料の放熱の時定数に比べて、前記副走査の周波数で決まる画像の副走査方向に対する記録時間間隔が長くなる前記感熱記録材料」との限定がない場合には、特段つけ加えることなく第1拒絶理由はすべて妥当であり、その理由により本願は拒絶されなければならない。なお、第5補正後の特許請求の範囲には「d/D≦1.82+104.05・f-1.57」及び「d/D≦1.98+104.25・f-1.57」との表式はないけれども、これらの表式に信憑性がなければ、「d/D≦1.66+103.76・f-1.57」との表式にも信憑性がないことは明らかである。 第5 むすび 以上によれば、第5補正は却下されなければならず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正がされているとともに、明細書の記載は平成14年改正前の同法36条4項及び6項に規定する要件を満たしておらず、さらに請求項1に係る発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。そして、第5補正を却下しないとしても、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正がされているとともに、明細書の記載は平成14年改正前の同法36条4項及び6項に規定する要件を満たしていないから、いずれにせよ本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-07-03 |
結審通知日 | 2007-07-10 |
審決日 | 2007-07-23 |
出願番号 | 特願平7-204202 |
審決分類 |
P
1
8・
574-
WZ
(B41J)
P 1 8・ 536- WZ (B41J) P 1 8・ 537- WZ (B41J) P 1 8・ 55- WZ (B41J) P 1 8・ 561- WZ (B41J) P 1 8・ 121- WZ (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 尾崎 俊彦 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
島▲崎▼ 純一 長島 和子 |
発明の名称 | 階調画像の熱記録方法 |
代理人 | 田久保 泰夫 |
代理人 | 宮寺 利幸 |
代理人 | 鹿島 直樹 |
代理人 | 千葉 剛宏 |