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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A45D
管理番号 1163740
審判番号 不服2006-20193  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-11 
確定日 2007-09-06 
事件の表示 特願2002- 69496号「化粧品塗布用ブラシ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月22日出願公開、特開2002-306239号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成4年4月13日(パリ条約による優先権主張1991年4月16日、フランス)に出願した特願平4-118483号の一部を平成14年3月14日に新たな特許出願としたものであって、平成18年6月1日付けで拒絶査定がなされ、平成18年9月11日に拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに、平成18年10月10日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年10月10日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認められる。
「ブラシの心(5)を形成する針金から成る少なくとも2つのらせん状の分枝(3),(4)の各一巻き内に押込んだ複数本の剛毛(2)を備え、これ等の剛毛を実質的に半径方向に配置した、化粧品を塗布するブラシ、とくにマスカラをまつげに、又は毛染め剤を毛髪に塗布する、化粧品塗布用ブラシにおいて、前記剛毛(2)がエラストマー質材料で作られ、前記剛毛(2)が、10/100ないし35/100mmの直径を持ち、前記剛毛の直径が、前記らせん状の分枝の各1巻き内で変形させられていることを特徴とする、化粧品塗布用ブラシ。」

3.引用刊行物記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-164308号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、第1図?第15図と共に、次の事項が記載されている。
a.「本発明は、化粧品を施すブラシ、ことに心に取付けられこの心の軸線方向に対し横方向に向けた多数条の剛毛を備えマスカラをまつげに又は毛染剤を毛髪に施すブラシに関する。」(第2頁右上欄第15行?第18行)
b.「一般にブラシの心はらせん形によりあわせた針金から成る2条の分枝により形成してある。剛毛はこれ等のよりあわせた分枝により形成した各巻き目に締付けてある。」(第2頁右上欄第20行?左下欄第3行)
c.「本ブラシは比較的太い直径一般に10/100mm(0.10mm)ないし30/100mm(0.30mm)の直径を持つ剛毛を備えるのがよい。」(第2頁右下欄第10行?第12行)
d.「本ブラシは、乾燥時には異なるが各剛毛を化粧品で湿めらせるときは同じになる硬さを持つ混合の剛毛を備えている。たとえばナイロン6で24/100mm(0.24mm)の直径を持つ中実横断面の円筒形剛毛と、ナイロン11で17/100mm(0.17mm)の直径を持つ蹄鉄形横断面の剛毛と、ナイロン6.0で17/100mm(0.17mm)の直径を持つ十字形横断面の剛毛とから成る混合剛毛を設けることができる。本ブラシの剛毛は、動物の毛又はたとえばナイロン又はポリエステルから形成した合成の毛でよい。天然の毛から成る剛毛を合成繊維と混合して使つてもよい。」(第3頁左上欄第2行?第14行)
e.上記記載事項a.ないしd.から、2条の分枝により形成した各巻き目には複数本の剛毛が締め付けてあることは明らかなことである。
上記記載事項a.ないしd.及び明らかな事項e.を総合すると、引用刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「ブラシの心を形成する針金から成るらせん形によりあわせた2条の分枝の各巻き目に締付けた複数本の剛毛を備え、前記剛毛を心の軸線方向に対して横方向に向けており、マスカラをまつげに又は毛染剤を毛髪に施すための化粧品を施すブラシにおいて、ナイロン、ポリエステル等から成る剛毛を備え、前記剛毛が、10/100ないし30/100mmの直径を持つ化粧品を施すブラシ。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された実願平1-72691号(実開平3-11835号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物2」という。)には、第1図?第3図と共に、次の事項が記載されている。
f.「把持部(1)と、この把持部(1)から一体的に延びるブラシ毛取付部(2)と、このブラシ毛取付部(2)に設けられたブラシ毛植立領域(3)と、このブラシ毛植立領域(3)から一体的に植立するブラシ毛(4)を備え、少なくとも上記ブラシ毛植立領域(3)およびブラシ毛(4)が、下記の(A)成分と(B)成分を主成分とする樹脂組成物の一体成形体で構成されていることを特徴とするダメージヘア用ブラシ。
(A)シリコーン高分子ポリマー
(B)ポリエステルエラストマー等の熱可塑性樹脂」(実用新案登録請求の範囲)
g.「このダメージヘア用ブラシは、把持部(1)、ブラシ毛取付部(2)、ブラシ毛植立領域(3)およびブラシ毛(4)からなる全体が、(A)シリコーン高分子ポリマーと(B)ポリエステルエラストマー[東レデュポン(株)「ハイトレル(当審注:登録商標)」]とで構成されており、一体成形により製造される。この場合、この製造原料としては、上記(A)成分を上記部分の分子骨格内に誘導する原料として、シリコーン高分子ポリマー50重量%(以下「%」と略す)とポリエステルエラストマー50%からなるシリコーンペレットを用い、また(B)成分の誘導原料として、ポリエステルエラストマーのみからなるペレットを用い、両者をシリコーンペレット6%、ポリエステルエラストマーペレット94%の割合で配合したものが用いられる。」(明細書第5頁第16行?第6頁第10行)
h.「この実施例では、中央一列のブラシ毛(4a)が他のブラシ毛(4)よりも長さが短く設定され、それによって形成される凹部内に、フォーム状整髪料を溜めるようになっている。」(明細書第7頁第14?17行)
上記g.の記載事項から、ブラシ毛の主たる成分はポリエステルエラストマーであると認められるから、上記記載事項f.ないしh.を総合すると、引用刊行物2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「ポリエステルエラストマーを主たる成分とするブラシ毛を備えた、フォーム状整髪料を溜める部分を設けたダメージヘア用ブラシ。」

4.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、その作用・機能からみて後者における「らせん形によりあわせた2条の分枝」は前者における「少なくとも2つのらせん状の分枝」に相当し、以下同様に「各巻き目に締付けた」は「各一巻き内に押込んだ」に、「心の軸線方向に対して横方向に向けており」は「実質的に半径方向に配置した」に、「マスカラをまつげに又は毛染剤を毛髪に施すための」は「マスカラをまつげに、又は毛染め剤を毛髪に塗布する」に、そして「化粧品を施すブラシ」は「化粧品塗布用ブラシ」にそれぞれ相当する。
してみれば、両者は
「ブラシの心を形成する針金から成る少なくとも2つのらせん状の分枝の各一巻き内に押込んだ複数本の剛毛を備え、これ等の剛毛を実質的に半径方向に配置した、化粧品を塗布するブラシ、とくにマスカラをまつげに、又は毛染め剤を毛髪に塗布する、化粧品塗布用ブラシにおいて、前記剛毛が、10/100ないし35/100mmの直径を持つ化粧品塗布用ブラシ。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点:本願発明では、剛毛がエラストマー質材料で作られ、前記剛毛の直径が、らせん状の分枝の各1巻内で変形させられているのに対し、引用発明1では、剛毛がナイロン、ポリエステル等で作られており、剛毛の直径がらせん状の分枝の各1巻内で変形させられているか否かが明確でない点

5.当審の判断
引用発明2は、フォーム状整髪料を溜める部分を設けているブラシであるから、引用発明1とは毛髪に化粧品塗布用のブラシである点で共通するものであり、本願明細書中段落【0012】及び【0013】の記載から、ポリエステルエラストマーはエラストマー質材料に当たり、そのポリエステルエラストマーを主成分とする引用発明2のブラシ毛も、エラストマー質材料からなる剛毛であるといえる。そして、引用発明2の剛毛の材料を引用発明1の剛毛の材料として採用することを阻害する理由も特に見当たらないから、引用発明1の剛毛の材料として、引用発明2のエラストマー質材料からなるものを採用することは当業者であれば容易に想到し得ることである。
また、引用発明1のナイロン、ポリエステル等の材料で作られている剛毛はらせん状の分枝の各一巻きの内に、多数本の剛毛が抜けない程度に締め付けられているのであるから、摩擦力だけでなく、剛毛の断面形状がある程度変形していることは想起し得ることであり、まして、ナイロン、ポリエステル等よりも柔らかい引用発明2の剛毛の材料を採用した場合には、らせん状の分枝の締め付けによって剛毛の直径が当然変形していると考える方が自然である。
したがって、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは引用発明1及び引用発明2に基いて当業者であれば容易になし得ることであるといえる。

なお、請求人は、引用発明2の剛毛は、ブラシ毛植立領域から一体的にブラシ毛が植立したものであり、各別の繊維の形ではないので、引用発明2の剛毛をらせん状の分枝の各1巻内に押込むことは不可能である旨主張(平成18年11月28日付け手続補正書(方式)第3頁第29?42行参照)しているが、ポリエステルエラストマーやポリウレタンといったエラストマー質材料を繊維状に形成することは従来より周知の事項(実願昭62-194167号(実開平1-97731号)のマイクロフィルム、実願昭58-170126号(実願昭60-83337号)のマイクロフィルム、特開平3-137281号公報等参照)であり、引用発明2の剛毛の材料を引用発明1の剛毛の材料として採用する際に、らせん状の分枝の各1巻内に押込むことができるような繊維状の形状とする程度のことは採用するにあたって当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
さらに、請求人は、エラストマー質材料の使用により得られる技術的効果について、旋回効果を減少させる効果及びぬぐい手段を通過させるための牽引力を減少させる効果を有する旨主張(平成18年11月28日付け手続補正書(方式)第4頁第15?第5頁第12行参照)している。
しかし、本願発明のエラストマー質材料からなる剛毛は、本願発明を引用する請求項3に係る発明からも明らかなように、全部の剛毛がエラストマー質材料のみからなるものに限定されているわけではなく、ポリアミド又はポリエステル等の材料を混合したものを含むものであり、その混合の割合も特定されていないものである。そして、エラストマー質材料の混合割合がどの程度であればそのような旋回効果を減少させる効果があるのかを示す具体的なデータ等も示されていない。この旋回効果を減少させる効果については、本願の発明の詳細な説明の段落【0009】の記載を参酌すると、剛毛の直径の変形によって得られる効果であるとも考えられる。しかし、剛毛の直径の変形は上述したように、引用発明1のナイロン、ポリエステル等の材料からなる剛毛においても想起し得るものであるから、程度の差はあっても、ナイロン、ポリエステル等の材料からなる剛毛においても旋回効果を減少させる効果は起こり得るものであるといえ、まして、上述したように、ナイロン、ポリエステル等よりも柔らかい引用発明2の剛毛の材料を採用した場合には、らせん状の分枝の締め付けによって剛毛の直径が当然変形していると考える方が自然であるから、剛毛の材料として引用発明2の剛毛の材料を採用した場合には当然得られる効果にすぎないといえる。
また、ぬぐい手段を通過させるための牽引力を減少させるという効果が、剛毛をナイロンより柔らかいエラストマー質材料とすることにより生じることは当業者が予測し得る程度のことであり、この効果も格別なものとはいえない。
よって、請求人の主張は何れも採用することができない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-19 
結審通知日 2007-03-27 
審決日 2007-04-09 
出願番号 特願2002-69496(P2002-69496)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A45D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 洋一  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 芦原 康裕
一色 貞好
発明の名称 化粧品塗布用ブラシ  
代理人 真田 雄造  
代理人 中島 宣彦  

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