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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1163741
審判番号 不服2006-22489  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-05 
確定日 2007-09-06 
事件の表示 特願2002-284195「有機エレクトロルミネッセンス表示装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月15日出願公開、特開2004-119304〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年9月27日を出願日とする出願であって、平成18年8月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月5日に拒絶査定不服の審判が請求され、その後、当審からの平成19年3月29日付けの拒絶理由通知に対して同年6月4日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年6月4日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「異なる色の複数の画素を構成する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、前記複数の画素は、同じ色の画素が列方向に沿って並びかつ異なる色の画素が行方向に沿って、色ごとに異なる幅を有して周期的に並ぶようにマトリクス状に配列されると共に、
各有機エレクトロルミネッセンス素子に供給する電流を各有機エレクトロルミネッセンス素子毎に設けられたTFTによって制御する有機エレクトロルミネッセンス表示装置であって、
各有機エレクトロルミネッセンス素子は、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層、発光層、電子輸送層及びフッ化リチウム層をこの順に含み、
前記ホール注入電極は、前記複数の画素の領域内に夫々形成されており、
前記行方向に沿って隣接する前記画素間において、夫々の画素を構成する前記有機エレクトロルミネッセンス素子における前記ホール注入電極間には当該素子間を分離する絶縁性の分離領域が設けられ、
前記ホール輸送層は、複数の前記ホール注入電極及び前記分離領域を覆うように、前記複数の画素を含む全体の領域に形成され、
前記発光層及び電子輸送層は、前記列方向にあっては当該方向に配列された複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子における前記ホール輸送層上に形成され、且つ前記行方向にあっては隣接する前記画素間において、隣接する前記発光層間の境界及び隣接する前記電子輸送層間の境界が前記分離領域上に位置するように前記ホール輸送層上に設けられ、
前記フッ化リチウム層及び前記電子注入電極は、前記複数の画素を構成する複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子における電子輸送層上を含む全体の領域に形成されることにより、前記行方向に隣接する画素間に設けられた前記分離領域上において、前記ホール輸送層と前記フッ化リチウム層とが接触していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」

3.引用例
(1)これに対して、当審からの平成19年3月29日付けの拒絶理由通知(以下、「本件拒絶理由通知」という。)に引用された、特開平11-214157号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機ELパネルに関し、特に各色ごとに独立して異なる波長の光を発光する多色発光有機ELパネルおよびその製造方法に関する。

(イ)【0004】ところで、一般的な従来のパネル構造では、RGB3色各有機発光層を蒸着により形成する際に、有機発光層および電子輸送層を発光部より少し大きい程度に形成していたため、色の異なる画素間(スペース部10)に有機発光層が存在しない隙間が生じていた。この表面に陰極材料を蒸着すると、図7に示すように各画素間のスペース部の隙間にも陰極が成膜されるため、スペース部10で陰極-陽極の距離が短くなり、この部分で電界集中が起きたり、不均一電界が生じる。そのため、パネルをドットマトリックス構造としたとき、画素のリーク電流やショートがランダムに発生しやすいという問題があった。また、電界集中のために駆動時のジュール熱による発熱の偏りが生じて、パネル内で偏った輝度劣化やダークスポットが発生することがあった。

(ウ)また、図7には以下の図面が記載されている。


同図からは、ア)RGBの画素が行方向に周期的に配列されていること、イ)各画素は、ITO電極2と、正孔注入輸送層と、有機発光層4と、電子輸送層6と、Al:Li層と、Al層と、がこの順で積層されていること(以下、これを「積層体」という。)、ウ)ITO電極2は複数の画素ごとに形成されていること、エ)正孔注入輸送層は、複数のITO電極2を覆うように、複数の画素を含む全体の領域に形成されていること、オ)Al層7及びAl:Li層は前記複数の画素における電子輸送層6上を含む全体の領域に形成されていること、を読みとることができる。

なお、ここで、同図における紙面の左右方向を「行方向」、紙面の表裏方向を「列方向」と定義した。また、同図において、正孔注入輸送層の引出線によって指示される部位が「2ITO電極」となっているが、正しくは、「2ITO電極」と「4有機発光層」との間の層を指示するものと認められる。

(2)これらの記載より、引用例1には、
「RGB3色の複数の画素からなるカラー有機ELパネルにおいて、
前記複数の画素はRGBの画素が行方向に周期的に配列され、
各画素は、ITO電極2と、正孔注入輸送層と、有機発光層4と、電子輸送層6と、Al:Li層と、Al層と、がこの順で形成された積層体からなり、
前記ITO電極2は複数の画素ごとに形成され、
前記行方向に沿って隣接するITO電極2の間には前記正孔注入輸送層が形成され、
前記正孔注入輸送層は、複数のITO電極2を覆うように、前記複数の画素を含む全体の領域に形成され、
前記有機発光層4及び電子輸送層6は前記正孔注入輸送層上に形成され、
前記Al層7及びAl:Li層は前記複数の画素における電子輸送層6上を含む全体の領域に形成された、
カラー有機ELパネル。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

4.対比
(1)本願発明を、下記のとおり、構成要件ごとに分説する。
ア.異なる色の複数の画素を構成する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、前記複数の画素は、同じ色の画素が列方向に沿って並びかつ異なる色の画素が行方向に沿って、色ごとに異なる幅を有して周期的に並ぶようにマトリクス状に配列されると共に、
各有機エレクトロルミネッセンス素子に供給する電流を各有機エレクトロルミネッセンス素子毎に設けられたTFTによって制御する有機エレクトロルミネッセンス表示装置であって、
イ.各有機エレクトロルミネッセンス素子は、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層、発光層、電子輸送層及びフッ化リチウム層をこの順に含み、
ウ.前記ホール注入電極は、前記複数の画素の領域内に夫々形成されており、
エ.前記行方向に沿って隣接する前記画素間において、夫々の画素を構成する前記有機エレクトロルミネッセンス素子における前記ホール注入電極間には当該素子間を分離する絶縁性の分離領域が設けられ、
オ.前記ホール輸送層は、複数の前記ホール注入電極及び前記分離領域を覆うように、前記複数の画素を含む全体の領域に形成され、
カ.前記発光層及び電子輸送層は、前記列方向にあっては当該方向に配列された複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子における前記ホール輸送層上に形成され、且つ前記行方向にあっては隣接する前記画素間において、隣接する前記発光層間の境界及び隣接する前記電子輸送層間の境界が前記分離領域上に位置するように前記ホール輸送層上に設けられ、
キ.前記フッ化リチウム層及び前記電子注入電極は、前記複数の画素を構成する複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子における電子輸送層上を含む全体の領域に形成されることにより、前記行方向に隣接する画素間に設けられた前記分離領域上において、前記ホール輸送層と前記フッ化リチウム層とが接触している
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。

(2)そして、本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)構成要件アについて
引用発明の「カラー有機ELパネル」は本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス表示装置」に相当し、また、引用発明の「RGB3色」は本願発明の「異なる色」に相当する。
引用発明の「各画素」は、ITO電極2と、正孔注入輸送層と、有機発光層4と、電子輸送層6と、Al:Li層と、Al層と、がこの順で形成された積層体からなり、有機発光層4によって発光するものである。一方、本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、「ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層、発光層、電子輸送層及びフッ化リチウム層をこの順に含」むものである(構成要件イより)。してみると、引用発明の「各画素」は、本願発明と同様に、有機エレクトロルミネッセンス素子によって構成されていることは明らかである。
してみると、構成要件アについて、本願発明と引用発明とは、「異なる色の複数の画素を構成する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置」の点、及び、「前記複数の画素は異なる色の画素が行方向に沿って周期的に並ぶように配列され」ている点では一致する。
しかし、複数の画素が本願発明では、「同じ色の画素が列方向に沿って並び」かつ「異なる色の画素が色ごとに異なる幅を有して並ぶように」、「マトリクス状に配列され」ているのに対して、引用発明では、複数の画素の列方向の配列が記載されておらず、また、画素が色ごとに異なる幅を有しているかも記載されていない点([相違点1])、さらに、本願発明では「各有機エレクトロルミネッセンス素子に供給する電流を各有機エレクトロルミネッセンス素子毎に設けられたTFTによって制御する」のに対して、引用発明では積層体がどのように駆動されるかが記載されていない点([相違点2])において相違する。

(イ)構成要件イについて
引用発明の「ITO電極2」、「正孔注入輸送層」、「有機発光層4」、「電子輸送層6」は、それぞれ、本願発明の「ホール注入電極」、「ホール輸送層」、「発光層」、「電子輸送層」に相当する。
また、引用発明の「Al層」は、電子を注入する作用のある陰極として用いられているのは明らかであることから、本願発明の「電子注入電極」に相当する。
してみると、構成要件イについて、本願発明と引用発明とは、「各有機エレクトロルミネッセンス素子は、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層、発光層、電子輸送層をこの順に含」んでいる点では一致するが、電子注入電極と電子輸送層の間に、本願発明では「フッ化リチウム層」が設けられているのに対して、引用発明では「Al:Li層」が設けられている点において相違する([相違点3])。

(ウ)構成要件ウについて
本願発明と引用発明とは、「前記ホール注入電極は、前記複数の画素に夫々形成されて」いる点では一致するが、本願発明のホール注入電極が、前記複数の画素の「領域内に」形成されているのに対して、本願発明のホール注入電極に相当する引用発明のITO電極2は、前記画素の「領域内に」形成されているかは明確でない点において相違する([相違点4])。

(エ)構成要件エについて
前記行方向に沿って隣接する前記画素間において、夫々の画素を構成する前記有機エレクトロルミネッセンス素子における前記ホール注入電極間に、本願発明では「当該素子間を分離する絶縁性の分離領域が設けられている」のに対して、引用発明では「前記正孔注入輸送層が形成されている」点で、相違する([相違点5])。

(オ)構成要件オについて
本願発明と引用発明とは、「前記ホール輸送層は、前記複数の画素を含む全体の領域に形成され」いる点では一致するが、本願発明のホール輸送層が、「複数のホール注入電極及び分離領域も覆うように形成され」るものであるのに対して、本願発明のホール輸送層に相当する引用発明の正孔注入輸送層は「複数のITO電極2を覆うように形成され」る点において相違する([相違点6])。

(カ)構成要件カについて
引用発明において、有機発光層4及び電子輸送層6は、列方向にあっても、積層体、すなわち、本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」における正孔注入輸送層上に形成されていることは明らかである。
してみると、構成要件カについて、本願発明と引用発明とは、「前記発光層及び電子輸送層は、前記列方向にあっては当該方向に配列された複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子における前記ホール輸送層上に形成され、且つ前記行方向にあっては前記ホール輸送層上に設けられ」ている点では一致するが、行方向において、本願発明の発光層及び電子輸送層は、「隣接する前記発光層間の境界及び隣接する前記電子輸送層間の境界が前記分離領域上に位置するように」に設けられるものであるのに対して、引用発明の隣接する有機発光層4の間の境界、及び、引用発明の隣接する電子輸送層6の間の境界は、隣接するITO電極2間における正孔注入輸送層上に設けられている点において相違する([相違点7])。

(キ)構成要件キについて
前記複数の画素を構成する複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子における電子輸送層上を含む全体の領域に、本願発明では、フッ化リチウム層及び電子注入電極が形成されることにより、行方向に隣接する画素間に設けられた分離領域上において、ホール輸送層と前記フッ化リチウム層とが接触しているのに対して、引用発明では、Al:Li層とAl層が形成されることにより、前記行方向に隣接する画素間において、正孔注入輸送層と前記Al:Li層とが接触し、かつ、前記接触が、本願発明では分離領域上であるのに対して、引用発明では、隣接するITO電極2間における正孔注入輸送層上である点において相違する([相違点8])。

(3)以上をまとめると、本願発明と引用発明とは、
「異なる色の複数の画素を構成する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備え、前記複数の画素は、異なる色の画素が行方向に沿って周期的に並ぶように配列された有機エレクトロルミネッセンス表示装置であって、
各有機エレクトロルミネッセンス素子は、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層、発光層、電子輸送層をこの順に含み、
前記ホール注入電極は、前記複数の画素に夫々形成されており、
前記ホール輸送層は、前記複数の画素を含む全体の領域に形成され、
前記発光層及び電子輸送層は、前記列方向にあっては当該方向に配列された複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子における前記ホール輸送層上に形成され、且つ前記行方向にあっては前記ホール輸送層上に設けられたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」
である点では一致するが、以下の点において相違している。

[相違点1]本願発明の複数の画素は、「同じ色の画素が列方向に沿って並び」かつ「異なる色の画素が行方向に沿って、色ごとに異なる幅を有して並ぶように」、「マトリクス状に配列され」ているのに対して、引用発明では複数の画素の列方向の配列が記載されておらず、また、画素が色ごとに異なる幅を有しているかも記載されていない点、

[相違点2]本願発明では「各有機エレクトロルミネッセンス素子に供給する電流を各有機エレクトロルミネッセンス素子毎に設けられたTFTによって制御する」のに対して、引用発明では積層体がどのように駆動されるかが記載されていない点、

[相違点3]電子注入電極と電子輸送層の間に、本願発明では「フッ化リチウム層」が設けられているのに対して、引用発明では「Al:Li層」が設けられている点、

[相違点4]本願発明のホール注入電極は、複数の画素の「領域内に」形成されているのに対して、引用発明のITO電極2は、画素の「領域内に」形成されているかは明確でない点、

[相違点5]行方向に沿って隣接する画素間において、夫々の画素を構成する有機エレクトロルミネッセンス素子におけるホール注入電極間に、本願発明では「当該素子間を分離する絶縁性の分離領域が設けられ」ているのに対して、引用発明では「正孔注入輸送層が形成されている」点、

[相違点6]本願発明では、ホール輸送層が複数のホール注入電極及び分離領域を覆うように形成されるのに対して、引用発明では、本願発明のホール輸送層に相当する正孔注入輸送層は複数のITO電極2を覆うように形成される点、

[相違点7]ホール輸送層上に設けられる発光層及び電子輸送層について、行方向にあっては隣接する画素間において、本願発明は、「隣接する前記発光層間の境界及び隣接する前記電子輸送層間の境界が前記分離領域上に位置するように」に設けられるものであるのに対して、引用発明は、隣接する有機発光層4の間の境界、及び、隣接する電子輸送層6の間の境界は、隣接するITO電極2間における正孔注入輸送層上に設けられている点、

[相違点8]複数の画素を構成する複数の有機エレクトロルミネッセンス素子における電子輸送層上を含む全体の領域に、本願発明では、フッ化リチウム層及び電子注入電極が形成されることにより、行方向に隣接する画素間に設けられた分離領域上において、ホール輸送層と前記フッ化リチウム層とが接触しているのに対して、引用発明では、Al:Li層とAl層が形成されることにより、行方向に隣接する画素間の上において、正孔注入輸送層と前記Al:Li層とが接触し、かつ、前記接触が、本願発明では分離領域上であるのに対して、引用発明では、隣接するITO電極2間における正孔注入輸送層上である点。

5.判断
上記相違点について検討する。
(1)[相違点1]について
引用発明では、列方向の画素の配列が記載されていないものの、引用発明もカラー有機ELパネル、すなわち、表示装置であることから、画素は、列方向にも形成され、マトリクス状に配列されていることは自明である。そして、カラー有機ELパネルにおける画素のマトリクス状配列として、例えば、本件拒絶理由通知に引用された特開2002-175878号公報(以下、「引用例2」という。)の図1、特開2001-290441号公報(以下、「周知例1」という。)の図1に図示されているように、列方向に沿って同じ色の画素を並べたものは周知である。
また、カラー有機ELパネルにおいて、行方向に沿って、色ごとに異なる幅で画素を形成することも、周知例1の図1に図示されているように、周知の事項である。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は当業者であれば容易に想到できたといえる。

(2)[相違点2]について
引用例1には、積層体の駆動手段が明示されていないため、引用発明は、本願発明のようなTFTを用いたいわゆるアクティブマトリクス型の有機ELパネルであるか、いわゆるパッシブマトリクス型の有機ELパネルであるかは不明である。
しかしながら、有機ELパネルでは、パッシブマトリクス型及びアクティブマトリクス型のいずれも周知慣用のタイプであり、してみれば、引用発明の有機ELパネルを、TFTを用いたアクティブマトリクス型で構成し、有機エレクトロルミネッセンス素子に供給する電流を各有機エレクトロルミネッセンス素子毎に設けられたTFTによって制御する構成とすることは、当業者であれば容易に想到できたといえる。

(3)[相違点3]について
引用発明の「Al:Li層」も、本願発明のフッ化リチウム層と同様に、電子を注入する層として機能することは明らかである。そして、有機EL表示装置において、陰極(本願発明の「電子注入電極」)として、例えば、Alを用い、また、Al陰極と電子輸送層との間に、電子注入層として、フッ化リチウムを設けることは、例えば、引用例2の【0054】から【0055】、本件拒絶理由通知に引用された特開2000-100557号公報(以下、「引用例3」という。)の【0023】、特開2000-327664号公報(以下、「周知例2」という。)の【0011】に記載されているように、周知の技術であると認められる。
してみれば、引用発明の「Al:Li層」に代えて、フッ化リチウム層を設けることは、当業者であれば容易に想到できたといえる。

(4)[相違点4]について
陽極であるホール注入電極を各画素の領域内に形成することは、例えば、引用例2の【図5】に図示されているように、TFTを用いたアクティブマトリクス型の有機ELパネルでは常套手段である。
したがって、上記(2)に示したとおり、引用発明の有機ELパネルをTFTを用いたアクティブマトリクス型で構成することが容易に想到できる以上、相違点4に係る本願発明の構成も当然容易に想到できたといえる。

(5)[相違点5]について
隣接する画素間において、陽極であるホール注入電極の間に有機エレクトロルミネッセンス素子を分離する絶縁性の分離部材を設けることは、例えば、引用例2の【0053】、【図6】(b)に記載されているように、TFTを用いたアクティブマトリクス型の有機ELパネルでは常套手段である。
したがって、上記(2)に示したとおり、引用発明の有機ELパネルをTFTを用いたアクティブマトリクス型で構成することが容易に想到できる以上、相違点5に係る本願発明の構成も当然容易に想到できたといえる。

(6)[相違点6]について
上記(5)に示したとおり、隣接する画素間において、陽極であるホール注入電極を分離する絶縁性の分離部材を設けることは、TFTを用いたアクティブマトリクス型の有機ELパネルでは常套手段であり、引用発明においてこのような常套手段を採用した場合、正孔注入輸送層が絶縁性の分離部材も覆う構造となることは明らかである。
したがって、上記(5)と同様の理由により、相違点6に係る本願発明の構成も当然容易に想到できたといえる。

(7)[相違点7]について
上記(6)と同様に、上記(5)に示したとおり、隣接する画素間において、陽極であるホール注入電極を分離する絶縁性の分離部材を設けることは、TFTを用いたアクティブマトリクス型の有機ELパネルでは常套手段であり、引用発明においてこのような常套手段を採用した場合、隣接する有機発光層間の境界、及び、隣接する電子輸送層間の境界が、絶縁性の分離部材上に位置することも明らかである。
したがって、相違点7に係る本願発明の構成も、上記(5)と同様の理由により、当然容易に想到できたといえる。

(8)[相違点8]について
上記(3)に示したとおり、電子注入電極と電子輸送層との間にフッ化リチウム層を設けることは周知の技術であり、また、上記(5)に示したとおり、隣接する画素間に陽極であるホール注入電極を分離する絶縁性の分離部材を設けることは、TFTを用いたアクティブマトリクス型の有機ELパネルでは常套手段である。
そして、引用発明に前記周知技術及び常套手段を採用した場合、ホール輸送層と接触するのがフッ化リチウム層であり、また、絶縁性の分離部材上において両者が接触することは明らかである。
したがって、相違点8に係る本願発明の構成は、上記周知技術及び常套手段に基づいて当業者であれば容易に想到できたといえる。

(9)なお、請求人は、平成19年6月4日付けの意見書において、上記[相違点2]に関連して、引用発明はパッシブマトリクス型の有機EL装置であり、パッシブマトリクス型の有機EL装置では本願発明の課題がないことから、引用発明は本願発明の進歩性を否定する根拠とはなり得ない旨を主張している。
しかし、本願発明の課題は、マスクを用いて有機材料層を蒸着する際の、マスクの位置ずれ、ないし、シャドウイングを防止することにあると認められ(本願明細書【0009】から【0011】)、同様の課題はマスクを用いて各有機層を成膜することを前提とする引用発明においても存在することも明らかであることから、前記主張には理由がない。

(10)また、上記意見書においては、本願発明では、(ア)電子注入層としてフッ化リチウム層を採用し、かつ、隣接する画素間に絶縁性の分離領域を形成したことにより、また、(イ)画素が色ごとに異なる幅を有しているのに対し、リチウムイオン拡散を前記分離領域に局在させたことにより、リチウムイオンのTFTへの拡散を抑制することができた旨を主張している。
しかし、前記のような作用効果は、仮に実際に認められたとしても、それらに関する記載は本願明細書には一切ないことから、本願発明の進歩性を検討する際に参酌されるものではない(「特許・実用新案審査基準 第II部第2章 新規性進歩性 2.5(3)の意見書等で主張された効果の参酌」の欄を参照)。

(11)そうすると、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者であれば容易に想到できたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-29 
結審通知日 2007-07-03 
審決日 2007-07-23 
出願番号 特願2002-284195(P2002-284195)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一越河 勉  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 濱田 聖司
森口 良子
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス表示装置およびその製造方法  
代理人 ▲角▼谷 浩  

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