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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01N
管理番号 1163746
審判番号 無効2005-80236  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-29 
確定日 2007-09-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第2132903号発明「検定法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2132903号の請求項1ないし23に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2132903号発明の請求項1ないし23に係る発明の出願は、昭和63年(1988年)4月26日(パリ条約に基づく優先権主張 1987年4月27日英国(GB)、1987年10月30日 英国(GB))に国際出願され、出願公告(特公平7-46107号)後、特許異議の申立てがなされ、特許請求の範囲について平成8年10月25日付けで補正がなされ、平成9年10月24日に特許権の設定登録がなされた。
これに対して、請求人は平成17年7月29日に本件無効審判を請求し、証拠として甲第1号証ないし甲第5号証を提出して、本件請求項1ないし23に係る発明の特許を無効とする、との審決を求め、また被請求人は平成17年10月14日付けで乙第1号証ないし乙第3号証とともに答弁書を提出して、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求めた。

II.当事者の主張の概要
1.請求人の請求の趣旨及び理由
請求人は、証拠方法として甲第1?5号証を提出して、次のような無効理由を主張している。

<無効理由>
本件特許の請求項1ないし23に係る発明は、甲第1?4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証 特開昭61-145459号公報
甲第2号証 特開昭61-142463号公報
甲第3号証 特開昭53-47894号公報
甲第4号証 特開昭60-53847号公報
甲第5号証 平成6年審判第7306号特許異議の決定書(7)写し

2.被請求人の答弁の趣旨及び理由主張
被請求人は、証拠方法として乙第1?3号証を提出して、本件発明は特許法第29条第2項の規定に該当せず、同法第123条第1項の規定に違背するものではない旨主張している。

<証拠方法>
乙第1号証 W.P.COLLINS教授による1994年1月17日付け鑑定書
乙第2号証 無効2002-35551号審決写し
乙第3号証 平成6年審判第7306号特許異議の決定謄本写し

III.当審の判断
1.本件発明
本件特許第2132903号の請求項1ないし23に係る発明は、出願公告後に補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求の範囲の請求項1ないし23に記載された次のとおりのものと認める。(以下、それぞれ「本件発明1」、・・・「本件発明23」という。)

「(1)不透湿性固体材料からなる中空ケーシング中に乾燥多孔質キャリヤを収容しており、前記多孔質キャリヤに液体試料が適用され得るように多孔質キャリヤはケーシングの外部と直接的または間接的に連通しており、湿潤状態において多孔質キャリヤ内部を自由に移動し得る、検体に対して特異結合性の標識付き試薬と、キャリヤ材料上の検出区域に永久的に固定化されており、従って湿潤状態でも移動しない、同検体に対して特異結合性の無標識試薬とを含んでおり、適用された液体試料が標識付き試薬を吸収した後に検出区域に浸透するように標識付き試薬と検出区域との位置関係が相互に空間的に分離して決定されており、さらに標識付き試薬が検出区域において結合された程度を観察できる手段を含む分析試験装置であって、標識が粒状の直接標識であって、液体試料が適用される前ケーシング内に乾燥状態で保存されていることを特徴とする前記分析試験装置。
(2)標識付き試薬は乾燥多孔質キャリヤの第一区域に含まれており、第一区域から空間的に区別される検出区域に無標識試薬が固定化されており、2つの区域が多孔質キャリヤに適用された液体試料が第一区域から検出区域に浸透するように配設されていることを特徴とする請求の範囲1に記載の装置。
(3)粒状の直接標識が染料ゾルまたは金属ゾルであることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の装置。
(4)粒状の直接標識が最大直径が約0.5μm以下の着色ラテックス粒子であることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の装置。
(5)ケーシングが不透明もしくは半透明の材料から構成されており、ケーシングに分析結果を観察するための開□部が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする請求の範囲1?4のいずれかに記載の装置。
(6)ケーシングがプラスチック材料から成形されていることを特徴とする請求の範囲1?5のいずれかに記載の装置。
(7)多孔質キャリヤが多孔質材料製ストリップもしくはシートからなることを特徴とする請求の範囲1?6のいずれかに記載の装置。
(8)多孔質キヤリヤが透明な不透湿性材料製層で裏打ちされた多孔質材料製ストリップもしくはシートからなり、前記透明層が湿気または試料の進入を防ぐために開口部に隣接してケーシングの内側に接触していることを特徴とする請求の範囲7に記載の装置。
(9)裏打ち材料が透明なプラスチック材料であることを特徴とする請求の範囲8に記載の装置。
(10)多孔質キャリヤ材料がニトロセルロースであることを特徴とする請求の範囲1?9のいずれかに記載の装置。
(11)ニトロセルロースが少なくとも1μmの孔径を有することを特徴とする請求の範囲10に記載の装置。
(12)孔径が5μm以上であることを特徴とする請求の範囲11に記載の装置。
(13)孔径が8?12μmであることを特徴とする請求の範囲12に記載の装置。
(14)多孔質キャリヤの検出区域の下流に、液体試料が検出区域を超えて浸透したことを示す対照区域が設けられており、対照区域もケーシングの外側から観察可能であることを特徴とする請求の範囲1?13のいずれかに記載の装置。
(15)多孔質キャリヤがその末端部に吸収性シンクを有するストリップであり、前記シンクが未結合の標識付き試薬を検出区域から洗い流し得る十分な吸収能力を有することを特徴とする請求の範囲1?14のいずれかに記載の装置。
(16)標識付き試薬が多孔質キャリヤに表面層として付与されていることを特徴とする請求の範囲1?15のいずれかに記載の装置。
(17)多孔質キャリヤの、標識付き試薬が付与されている領域が艶出し剤で予め処理されていることを特徴とする請求の範囲16に記載の装置。
(18)艶出し剤が糖であることを特徴とする請求の範囲17に記載の装置。
(19)検出区域の固定化試薬が該検出区域のキャリヤの厚さ全体に亘り含浸されていることを特徴とする請求の範囲1?18のいずれかに記載の装置。
(20)検体がhCGであることを特徴とする請求項1?19のいずれかに記載の装置。
(21)検体がLHであることを特徴とする請求の範囲1?19のいずれかに記載の装置。
(22)自由に移動し得る試薬が検体に対して特異結合性である代わりに、自由に移動し得る試薬が検体の存在下で競合反応に参加し得ることを特徴とする請求の範囲1?21に記載の装置。
(23)検体を含むと思われる水性液体試料を請求の範囲1?22のいずれかに記載の分析試験装置に接触させて、試料を毛細管作用により多孔質キャリヤ中を第1区域を介して検出区域に浸透させ且つ標識付き試薬を試料と共に第1区域から検出区域に移動させ、標識付き試薬が検出区域で結合されている程度を観察することにより試料中の検体の存在を決定することを特徴とする分析方法。」

2.甲第1号証ないし甲第4号証の記載事項
(1)甲第1号証(特開昭61-145459号公報)
甲第1号証には、次の事項が記載されている。

(1a)シート状分析デバイス(特許請求の範囲第1項)
「1)生物学的親和性結合特性を有する被分析物として液体中の成分の検出または測定をするための分析デバイスであって、相前後して配設されかつそれらの末端を介して相互に吸着的接触状態にある数個のシート状ゾーンからなり、デバイスの一方の末端に移動相適用ゾーン(MPAZ)、そしてもう一方の末端に吸着ゾーン(AZ)、ならびにその間に存在する他の吸着ゾーン(そこでは被分析物と生物学的親和性を有する相互作用をなしうる反応成分が、相互に空間的に分離されて存在するように配置されている)を含有しており、その際
a)反応成分が共有結合または吸着によるか、またはMPAZおよびAZ間およびAZと接触して存在するゾーン中の生物学的親和性を有する相互作用により固相ゾーン(SPZ)に固定されるか、またはデバイスにおいて生じる反応において共有結合または吸着によるか、または生物学的親和性を有する相互作用を介してSPZに固定された他の反応体に結合されており、
b)更なる標識反応成分(接合体)がMPAZとSPZとの間に未結合状態で位置し、そして
c)被分析物適用ゾーンがMPAZであるかまたはMPAZとAZの間のゾーンである
ようにしてなる、分析デバイス。」

(1b)直接に検出される蛍光団を標識として使用(特許請求の範囲第11項)
「11)標識剤が直接に検出または測定されるかまたはデバイス中に存在する試薬の添加後に検出または測定される蛍光団であるか、または直接にまたは更なる試薬の添加後に検出または測定される蛍光団が標識剤からデバイス中に存在する試薬の添加により形成される特許請求の範囲第8項記載の方法。」

(1c)すべての試薬成分を乾燥状態で含有するシート状分析デバイス(4頁左上欄13行?左下欄14行)
「本発明はすべての試薬成分を含有し、そして作用シーケンスに必要なすべての成分のみならず、作用シーケンス自体をも一体化された形で含み、そして被分析物の溶液をこの目的のために設計されたデバイスの作用領域と接触させそして被分析物を信号発生系を介して単一作用領域(固相ゾーン)で検出することにより生物学的親和性特性を有する被分析物を検出できるようにしたシート状診断デバイスに関する。
・・・できる。このデバイスはすべての反応成分および試薬を脱水された形で含む。
シート状診断デバイスは、水性溶液吸収能を有する材料の帯状片1枚または相前後して配置する数枚よりなる。それら帯状片は固体支持体に固定される。それらは特定の診断剤に必要な試薬成分を含有し、また従って作用セクターまたは作用領域となる。帯状片形状デバイスの一方の端に位置する作用セクター(溶媒適用ゾーン)は被分析物溶液と、後者に浸漬することにより、あるいは後者を塗布することにより接触させる。その溶液はすべての作用領域を通過移行する。帯状片を構成する支持体材料の吸収能により生じる液体の流れは、帯状片形状デバイスの他方の端で停止する。」

(1d)帯状片における作用領域(5頁左上欄3行?右上欄11行)
「個々の作用領域における溶媒分布は使用材料の吸着能および寸法に依存する。溶媒適用ゾーンは計量要素の機能を有しうる・・・・・。それは、試験要素の機能に必要とされる様々な試薬を乾燥状態で含有することができる。溶媒適用ゾーンは試薬要素の一方の端に位置し、そして単に溶液、例えば試料の溶液中に浸漬するかまたは水道水で短時間フラッシュするだけで所定量の液体で完全に飽和するところとなり、次いで後続のゾーンによりゆっくりとそして制御された形でその液体を放出する一片の布帛紙であってもよい。溶媒適用ゾーンは、デバイスの他方の端、すなわち吸収ゾーンの終端まで移動するのに充分な液体を吸収するような寸法を有する。溶媒適用ゾーンと吸収ゾーンとの間には、試験の実施のための反応成分が含まれ、そして試験実施のすべての反応段階が行われる作用領域が配設される。試験実施のための反応成分の一部を試料適用ゾーンに収納しておくこともできる。吸収ゾーンは、過剰の、および自由に動きうる試薬成分および信号発生系の反応生成物を吸収する機能を有する。」

(1e)帯状片の形の吸水性支持体(5頁右上欄12行?左下欄6行)
「各種作用領域の構成分としての1枚または2枚以上の帯状片の形の吸収性支持体は、選択に応じて、セルロース、セルロースの化学的誘導体、または多孔質もしくは繊維質構造および充分な親水性特性を有するプラスチック、または・・・天然物から構成されていてもよい。異なる材料から構成される帯状片の組合せを用いることもできる。適当な吸収性材料は個々の診断デバイスに対し設定された要件に基づいて選択される。」

(1f)標識付き試薬と標識(5頁右下欄4行?6頁左上欄3行)
「生物学的親和性を有する1つの結合パートナーは反応の進行過程で結合するようになるか、または、被分析物の検出のために設計された作用領域(固相ゾーン)の支持体材料にすでに結合している。それは固有結合パートナーとも呼ばれる。他の結合パートナー(1種または複数種)は支持体材料中に存在する。それらには標識を施す。
標識には様々な可能性が知られているが中でも酵素標識が好ましい。それは、色素原基質系または蛍光または化学発光を生じる基質系を必要とする。化学発光標識は、試薬の添加後にのみ測定される標識のもう一つの例である。化学発光それ自体または後者(基質系)により励起された蛍光のいずれかを測定することができる。大抵の場合に、蛍光標識は、試薬の添加を要せずして測れる。」

(1g)サンドイッチ式免疫検定(7頁右下欄8行?8頁左上欄5行)
「特異性の異なる2つの結合点が被分析物中に存在する場合には、サンドイッチ式免疫検定の原理に基づく、診断剤のいくつかの態様が考えられる。これらのうち2例について以下に説明する。
固相結合パートナーを固相作用領域の支持材料に共有結合によりまたは吸着により結合する場合、被結合と標識結合パートナーとで形成される二成分複合体は溶媒と共に固相作用領域中に移行しそしてそこで固相結合パートナーと反応して固相に結合した三成分複合体と形成するが、これは最初の結合パートナーの標識を通じて検出することができる。過剰の標識結合パートナーは溶媒により、次の作用領域中に除去される。」

(1h)様々な態様と総括表I、IIの説明(8頁左上欄15行?右上欄4行、及び総括表I、II)
「前述の態様、および免疫測定(immunometric)試験原理、間接的抗体検出の原理または免疫検定のELA(酵素標識抗原)原理に基づく別な態様を説明するために総括表IおよびIIは、作用領域中の剤の成分の分布、および反応完了後の固相複合体の組成(その量は試料中の被分析物の濃度の尺度である)を例示的に説明している。」という記載と共に、「総括表I:移動相の形の試料または予め希釈した試料を用いる試験アセンブリの例」と題する総括表Iにおいて、「試験アセンブリ」のゾーンIが「被分析物適用ゾーン」で、ゾーンIIには標識抗体1が未結合状態で位置していること、ゾーンVが「検出ゾーン」、すなわち「SPZ固相ゾーン」で、ゾーンVIが「吸収ゾーン」、すなわち「AZ吸着ゾーン」であることが図示されている。

(1i)実施例(9頁右下欄11行?11頁左上欄10行)
「実施例
組込まれた色素原基質系によるHCG検出のための完全に一体化された酵素-免疫化学的デバイス。
1.1.試薬
1.1.1.HCG-ペルオキシダーゼ接合体
・・・
1.2.デバイスの調製
シート状作用領域を次のように調製した。
移動相適用ゾーンは、Kalle 社製スポンジ布帛を20×6 mmの寸法に切断することにより調製した。・・それを水lmlあたりグルコース50mgおよびテトラメチルベンジジン塩酸塩0.75mgで含浸し、そして空気流中で乾燥した。
前記接合体、抗-HCG抗体およびグルコースオキシダーゼ(・・・)を均一の距離で、45×5mmMN1番紙(略)片に相前後して適用し、そして風乾した。
5×5mmの寸法の・・番紙片を常法により、固相ゾーンとしての抗-家兎IgG-抗体で被覆した。・・・
20×5mmの・・番紙片を吸収ゾーンとして用いた。それら4つの紙片を相前後して、0.5?1mmオーバーラップさせながら両側粘着テープ(略)によりプラスチックリボンに固定して幅5mmの試験帯状片を形成した。
1.3.試験の実施
各例について試験はインキュベーション媒質中のHCG希釈液200μlを布帛に適用することにより行った。
1.4.結果
試験要素のクロマト展開および自動的呈色は室温で15分後に完了し、そして評価は肉眼的に、あるいは反射計により行うことができた。」

(2)甲第2号証(特開昭61-142463号公報)
甲第2号証には、次の事項が記載されている。

(2a)クロマトグラフィー装置(特許請求の範囲)
「1.クロマトグラフィーの装置であって、
(イ)ハウジング、
(ロ)上記ハウジング内部に取りはずしのできないように収容された、吸収性材料から成るストリップ、
(ハ)上記ストリップを、
(1)ストリップの前後両面がハウジングの内壁に基本的に触れないように、また
(2)ストリップの毛管作用が実質的に変化することのないように、
上記ハウジング内部に支持収容するため、ハウジング内壁に付設された手段、
(ニ)上記ストリップの1部を液体媒質と接触可能とするため、ハウジングの基部の付け根に配設された手段、および
(ホ)上記ストリップを目視的に観察するため、このハウジング内に配設された手段
の組合わせを含んでいる装置。
・・・・・
5.吸収性材料からなるストリップが化学試験、測定または免疫測定実施用の試薬を含有している特許請求の範囲第1項記載の装置。
・・・・・」

(2b)発明の背景、測定法開発に際しての考慮事項(2頁右下欄15行?3頁左上欄2行)
「測定法を開発する場合、試薬類およびプロトコールの考案に関して、多くの考慮すべき事項がある。その1つは、測定者の熟練の問題である。測定を比較的不馴れなものに行なわせ、しかも妥当な定量結果を収め得ることを期待する場合が多い。比較的未熟な測定者の場合、複雑な装置を必要とせず、単純かつ迅速な試験による定量的測定を実施できることが特に望ましい。」

(2c)標識、信号発信系、免疫クロマトグラフ(4頁左下欄14行?右下欄17行)
「標識-標識とは、他の分子または支持体と結合(コンジュゲート)する任意の分子を言い、2つの分子が含まれているときは、便宜的に、いずれか1つの分子が標識となるように選ぶ。この発明では、標識は支持体と結合しているsbp要素であるか、または支持体またはsbp要素と結合している信号発信系の要素を表わす。
信号発信系-信号発信系は、少なくともその1成分がsbp要素と結合(コンジュゲート)している1またはそれ以上の成分を有することができる。信号発信系は、外部の装置、即ち標準的には目視計測によることが望ましい電磁放射線の測定によって検出できる測定可能な信号(シグナル)を発信する。ほとんどの場合、信号発信系は発色団および酵素であって、この場合、発色団としては、紫外部または可視部領域の光を吸収する色素、りん光体、蛍光体、化学発光体等が挙げられる。
免疫クロマトグラフ - 免疫クロマトグラフは、リガンドまたは受容体のいずれかである複数個のsbp要素を吸収性支持体領域に結合して有しており、支持体は、液体が被検物質および適当な場合には信号発信系の任意の要素を運び、この結合領域を横断して移動することを可能とするものである。」と記載されている。

(2d)クロマトグラフィー装置(5頁左上欄5行?15行、第1図)
「第1図に示したクロマトグラフィー装置20は、熱可塑性物質等によって都合よく作成することができるハウジング22を有する。該装置の寸法は、一般に長さ約10?14cm、横幅約8?12mm、奥行約4?6mmである。吸水性の材料から成るストリップ24をこのハウジング内に取りはずしできないように収容する。細片の長さと幅はハウジングの内壁の長さおよび横幅より僅かに短くする。吸水性物質から成るストリップは紙のストリップが好ましく、さらに免疫クロマトグラフが好ましい。」

(2e)クロマトグラフィー装置の底部及び背面の開口部(6頁右上欄末行?左下欄7行、第8図、第14図)
「また、このクロマトグラフィー装置は、ストリップ24の1部が液体媒質と接触できるよう、ハウジング22の底部付け根に取付けた手段を具備している。第14図において、ハウジング22は、その底部に開口部52を備えている。この開口部は2重の機能を有する。即ち、これはストリップ24を液体媒質と接触させ、また後壁28にある開口部53と共に装置からの排水を行なう。」

(2f)クロマトグラフィー装置の窓(6頁左下欄8行?15行、第2図)
「この発明のクロマトグラフィー装置は、さらにストリップ24を目視的に観察し得る手段をハウジング22内に具備する。添付図面で説明すれば、このような手段はハウジング22の前壁26にある窓(開口)54により提供される。窓54は、概してハウジング22の側壁と平行して開口している。」

(2g)窓の上部に設けられた開口部(6頁右下欄12行?7頁左上欄11行、第1図)
「ハウジング22の前壁26は、ストリップ24の上部を目視できる開口部58をその上部、すなわち遠位末端に備える。ストリップ24の上部において、開口部の丁度真下に常用される水溶性色素を含ませることができる。ストリップ24を移動して来た水性媒質が色素に接触し、開口部58を通して視界内へとこれを運ぶ。別法として、開口部58を通して見えるストリップ24の部分は、乾燥状態ではある色を、また湿潤状態では別の色を示すもの、例えば塩化コバルト、塩化銅等のような薬剤を含むことができる。別の態様として、ストリップ24の開口部58を通して見える部分にpH指示薬を含むことができる。pH指示薬には移動して来る媒質のpHによって乾燥時の色と異なる色を発色することができる。そのほか別法として、液体媒質と接触し、開口部58を通して見ることができる信号を生じる、例えば色素、色素の前駆物質、酵素、酵素基質等のような化学薬品をストリップ24の上部に含有することができる。」

(2h)免疫クロマトグラフとしての利用(7頁左上欄12行?右上欄末行)
「上述のようなこの発明の装置は、特にクロマトグラフィー段階を用いることによる化学試験の結果を測定するのに使用できる。この装置は特に被検物質を含有していることが考えられる試料中の被検物質量を定量的に測定する方法に適用できる。この好ましい利用では、ストリップ24は免疫クロマトグラフである。そのような免疫クロマトグラフの例および免疫クロマトグラフを使用する方法は米国特許第4168148号および同第4435504号に開示されており、その内容を引用して説明に代える。
既知のクロマトグラフィー法は、吸水性のストリップ、例えば固定した固体相と移動する液体相を含んでいる段階によって実施される。固定した固体相は多くの異なる溶液中に含まれる複数個の試薬と接触することができる。
sbp 要素が吸水性のストリップと非拡散状に結合している区域を「免疫吸着帯(イムノソルビング・ゾーン)と称する。試料の被検物質は溶媒と共に運ばれ、溶媒の先端がこの帯と交差する。被検物質は、支持体と結合している sbp要素と相同的なsbp要素であっても、またはこれと相補的(レシプロカル)なものであっても、sbp要素複合体の形成を介して支持体と結合する。信号発信系は、被検物質が結合している免疫吸着帯にある区域を、それが含まれていない区域から区分できる方法を提供するので、免疫クロマトグラフ上の予め定められた点からの距離は試料中の被検物質量の尺度となる。」

(2i)免疫クロマトグラフのストリップの材質、大きさ、構造等(10頁右上欄13行?左下欄13行)
「免疫クロマトグラフは、毛管現象によって液体が移動する吸収性の支持体、非拡散状にに結合しているsbp要素を含んでおり、また1またはそれ以上の信号発信系の要素を含むことができる。
ストリップとしては多くの吸収性の物質を使用することができ、これには天然および合成の重合体物質が含まれる。とりわけ、例えばフィルター用濾紙、クロマトグラフィー用濾紙等、紙を含めて繊維のようなセルロース様物質、ポリ塩化ビニル、架橋デキストラン・・・・・使用できる。
免疫クロマトグラフの吸収性保持体の厚さは・・・・・である。その構造は、密、やや密、中間、やや粗、および粗を含んで広く変化することができる。表面は滑らかさおよび粗さ、硬さおよび軟らかさを種々に組み合わせて広く変化することができる。」

(2j)免疫クロマトグラフの裏板(10頁左下欄14行?末行)
「免疫クロマトグラフは、マイラー(商品名:Myler)、ポリスチレン、ポリエチレン等のような反応性のない各種の支持体によって支持することができる。支持体は、免疫クロマトグラフの機械的一体性を高めるため、免疫クロマトグラフ、縁、またはその他の構造から離れた裏板として使用できる。」

(2k)免疫クロマトグラフの被覆(10頁右下欄1行?9行)
「免疫クロマトグラフは、好ましい特性を具備するため多くの物質で被覆することができる。被覆剤には蛋白質コーティング、多糖類コーティング、糖等が挙げられ、これらは特に支持体と結合(コンジュゲート)している物質の安定性を高めるために使用される。また、これらの化合物は、免疫クロマトグラフに結合するsbp要素または信号発信系の要素のような物質の結合性をよくするために使用できる。」

(2l)sbp要素および信号発信系の要素の支持体との結合(第11頁左上欄8行?16行)
「sbp要素および信号発信系の要素はともに、共有結合ではなく吸着によって多くの支持体と結合できる。これは、吸収性の支持体をsbp要素および/または信号発信系の要素を含有している溶液と接触させ、免疫クロマトグラフを溶液から回収し、免疫クロマトグラフを乾燥させることにより行なわれる。別法として、溶液は噴霧、塗布または均一性が得られるその他の方法を適用することができる。」

(3)甲第3号証(特開昭53-47894号公報)
甲第3号証には、次の事項が記載されている。

(3a)試験用具(特許請求の範囲第1項)
「1.(a)始端区画および終端区画を有すると共に、予め定められた位置に配置された試料受容区画を有し、かつ毛管現象によって展開液を移送することができる材料から構成される細片
および(b)該細片の少なくとも1つの予め定められた場所に包含されかつ上記展開液が上記始端区画から終端区画へ移動した時細片上の予め定められた測定位置に、上記試料受容区画に塗布された上記試料の特性の関数として検出可能な応答を出すための反応剤類からなることを特徴とする試料特性を測定するための試験用具。」

(3b)リガンド定量用試験用具(特許請求の範囲第22項)
「22.(a)始端区画および終端区画を有すると共に、予め定められた位置に配置された試料受容区画を有し、かつ毛管現象によって展開液を移送することができる材料から構成される細片、
(b)細片上の予め定められた位置に存する区画に包含されたりガンドもしくはその結合類縁体のラベル化されたものを含む予め定められた量の標識体
および(c)細片上の終端区画と1つの試料受容区画および該終端区画により近い標識体包含区画の間の予め定められた位置に存する区画に包含された一定量のリガンドに対する特異的結合対手 から成り;
上記試料受容区画、標識体包含区画および結合対手包含区画の細片上の相対的な位置が、液体試料中リガンド量の関数であるところの該標識体の測定可能な特性が、展開液が始端区画から終端区画へと移動した時に、細片上の予め定められた測定位置に現われるよう配置されていることを特徴とする液体試料中リガンド定量用試験用具。」

(3c)試験用具の一例(6頁右下欄5行?7頁左上欄7行、第1図、第2図)
「図を参照すると、第1図および第2図は、通常は水溶液であるところの選択された展開溶媒に対して吸収性を有する通常は吸収紙であるところの材料からなる細片11を含む試験用具10を示している。細片11は始端区画12および終端区画16を有する。試料受容区画13は、染料溶液によって付けられ乾燥されたスポット(斑点)のごとき適当な目印によって細片11上に表示される。細片11上の区画14および15には試料の個々の特性を測定するために選ばれた反応剤中の適当な構成成分が包含せしめられている。使用に際しては、試料を細片11の試料受容区画13に塗布配分し、始端区画12を展開液中に浸漬すると展開液は毛管現象によって細片11に沿って終端区画16に向って移動しはじめる。展開液としては塗布された試料および反応剤中成分が展開液が細片11を移動する時に適切に混合されるようなものを選択する。展開液の移動先端が終端区画16に到達すると、測定さるべき諸特性に関連した反応剤類の検出可能な応答が、例えば区画15のような細片11上の予め定められた測定位置に配列される。」

(3d)マスキング(7頁左上欄19行?右上欄6行)
「応答を細片そのままで、例えば区画15について測定する場合には、測定にかかる応答が測定位置すなわち区画15についてのみ得られるように細片の残りのすべての表面を覆う(マスクする)ことが有用なことである。測定される物理特性に関して不透過性であり区画15についてはその特性を解放するようなものをマスキング材として用いることができる。」

(3e)試験完了と指示薬類(7頁右上欄7行?14行)
「試験の完了を知らせるために展開液と接触して応答を出す指示薬類を終端区画16に包含させておくのが好ましい。始端区画12が浸漬される展開液の体積と、展開液の移動先端が終端区画16に到達した時に細片11に取り込まれる正確な体積とを等しくしておくことも好ましいことであり、それによって展開液の移動を適切な時期に自動的に終了させることができる。」

(3f)リガンド定量用試験用具の一例(7頁右上欄15行?左下欄16行、第1図、第2図)
「液体試料中のリガンドを測定するための本発明の試験用具の一例を挙げると、反応剤類は、リガンドおよびラベル化されたリガンドもしくはその結合類縁体を含む標識体に対する抗体又は他の結合蛋白のような特異的結合対手(binding partner)をはじめとする適当な結合試薬を含んでいる。予め定められた量の標識体および固定形をした特異的結合対手をそれぞれ区画14および15に包含させる。使用に際しては、展開液が細片11に沿って進むに従って、試料と標識体は混合され、運ばれて固定された結合対手(パートナー)と接触する。その時、標識体および試料中のリガンドは競争して結合対手(パートナー)と結合する。首尾よく結合対手に結合した標識体の部分は、区画15において固定される。展開液が終端区画16へ進むに従って、結合していない遊離した標識体は区画15から遠くまで運び去られることになる。次に、区画15に固定された標識体の量を適当な方法で測定し、試料中のリガンド量に関係づける。標識体としては放射性のリガンド又はその結合類縁体を用いることは特に有用なことである。」

(3g)細片(9頁右下欄7行?10頁左上欄2行)
「細片は、展開液に不溶性であって、毛管現象によって展開液を運ぶことができるものならどんな材料からも作ることができる。
代表的な細片は比較的可撓性のあるものであるが一方で使用に耐えるだけの湿潤強度を有している。もちろん、それは、展開液、試料および反応剤類の間の相互作用に悪い影響を与えない材質から作られるべきである。特に有用な細片用の材料は、展開液が通常は水性であるが故に、濾紙のごとき吸収性の紙であるが、各種のフェルト、布、ゲル、メンブラン(薄膜)および高分子をはじめとする天然又は合成の物質からできたフィルムを含む他の材料をも使用することができる。細片の長さおよび巾は広範囲に変化するが、細片の厚さは通常0.008インチ(0.2mm)から0.04インチ(1.0mm)の間にある。」

(3h)細片の支持部材(10頁左上欄3行?右上欄4行、第3図、第4図)
「細片は、機械的強度を持たせるために不活性の支持部材に固定するのが好ましい。通常は、細片および不活性の支持部材は両方の巾をほぼ等しくして、張り合わせる。支持部材の厚さは、それが作られる材料の剛性率に大きく左右される。材料としては例えば各種のビニル系プラスチックスをはじめとしてポリエステル、ポリカーボネート、メチルメタクリート樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびワックスをかけた厚紙が挙げられる。不活性支持部材の長さは、試験用具の目的とする形によって左右されるであろう。不活性支持部材は細片とほぼ同じ長さを有していてもよい(第3図および第4図に示されている。)し、あるいは又、・・・・・特に好ましい。」

(3i)測定できるリガンド(11頁左上欄8行?右上欄1行)
「結合試験に適用される本発明の試験用具は、特異的結合対手が存在するリガンドならいかなるリガンドをも測定することを目的とすることができる。リガンドは通常、特異的結合対手が生物的な系に存在するか、合成リガンドは通常ペプチド、蛋白質、炭水化物、糖蛋白、ステロイド、もしくは他の有機又は無機の分子又はイオンであって、特異的な結合対手が生物的な系に存在するか合成されうるものである。機能的な物質名で表わしたリガンドは通常、抗原およびそれに対する抗体;ハプテンおよびそれに対する抗体;およびホルモン、ビタミン、代謝物および薬剤ならびにそれらの受容体ならびに結合性物質からなる群から選ばれる。」

(4)甲第4号証(特開昭60-53847号公報)
甲第4号証には、次の事項が記載されている。

(4a)特異的結合対の構成員の存在を検出する方法(特許請求の範囲第1項)
「1.液体検定媒体中の特異的結合対の構成員(sbp構成員)の存在を検出する方法において、該特異的結合対はリガンド及び対応受容体(homologous receptor)から成り、特異的結合対の少なくとも1員が結合している粒子と、固体の吸水性部材と、該粒子又はsbp構成員に結合している少なくとも1種の標識を含む信号生成系が関与する方法であって、
前記吸水性部材が水性検定媒体と接触せしめられるとき、空気/液体界面に隣接した該吸水性部材上の区域に所定の寸法、範囲及び電荷の範囲内のみの粒子が濃縮する条件下に、水性検定媒体中で該試料及び該粒子の少なくとも1種及び標識されたsbp構成員を一緒にし、但し該試料がsbp構成員を有するに欠ける場合に粒子を加えるものとし、
該吸水性部材を該検定媒体と接触せしめ、該検定媒体は該区域を通り過ぎてウイツキングされ(wicked)、
該所定の寸法及び電荷の範囲内の粒子は該区域の小さな部位に濃縮し、そして
該信号生成系の結果として信号を検出し、該信号は該区域における標識の量に関係し、そして該区域中の標識の量は該試料中の該sbp構成員の量に関係していることを含む方法。」

(4b)粒子の濃縮、検出ゾーン(3頁左上欄9行?右上欄3行)
「本発明は、試料中のアナライトの存在又は不存在に関連して吸水性固体支持体上に、一般に約1mm巾より小さい1つの寸法を有する小さな部位における粒子の濃縮に基づいている。前記部位は点、直線状バンド又は曲線状バンド等であることができる。所定の部位における粒子の濃縮は部位における検出可能な信号を与えるのに使用することができる。試料は該部位における粒子の濃縮及び/又は検出可能な信号の生成に影響を与えることができる。検出可能な信号は検出ゾーンにおいて決定され、該検出ゾーンは濃縮部位であつてもなくてもよい。」

(4c)検定に含まれる粒子(3頁右上欄4行?左下欄6行)
「検定に含まれる粒子は試料中に存在することができ、試薬として加えることができ又はその場で形成することができる。粒子の性質は広範囲に変わることができ、天然に存在しているか又は合成のものであり、単一物質、数種の物質又は広範な物質の組合わせであることができる。天然に存在する粒子は核、・・・等を包含する。合成粒子は合成の又は天然に存在する物質、たとえば、金属コロイド又はポリスチレンポリアクリレートから製造されたラテツクス粒子又は・・アガロース等から製造することができる。・・・・・粒子の寸法は広範に変わり、一般に約0.05ミクロン乃至100ミクロン、より普通には約0.1ミクロン乃至75ミクロンの範囲にある。」

(4d)検出可能な信号と粒子(3頁左下欄11行?右下欄2行)
「濃縮部位における又は濃縮部位から離れたところで検出可能な信号を検出するための手段は粒子の固有の性質であつてもなくてもよい。粒子は検出を可能とする広範な物質、たとえば放射性核種(radionuclides)、染料、けい光物質(fluorescers)、酵素或いは、目視により観測可能であるかもしくは機器により検出可能な検出可能信号を与える他の便利な標識で標識化されていてもよい。」

(4e)粒子の寸法と濃縮(4頁右上欄下から2行?右下欄5行)
「水性媒体における条件の適当な選択により、空気-液体界面に粒子が全然集まらないか又は少量の粒子が集まり、その結果観測し得る部位は存在しないように、溶媒前面(solvent flow)をたどる(follow)のとは対照的に空気-液体界面に濃縮する粒子の寸法をモジュレートすることができる。
条件の選択は、寸法、電荷、極性又は粒子相互の反発、又は吸引に影響する他の性質に関して粒子の性質と共に変るであろう。濃縮された粒子部位を形成するために、特定の寸法の粒子間で又は異なった寸法の粒子間で区別をすることが望まれる。前者の状況においては、本方法は媒体中に存在する所定の寸法より大きい粒子を濃縮するのに役立つ。この状況においては、粒子はアナライトの存在の結果としての粒径分布の変化を受けない。後者の状況においては、アナライトの存在は、粒子の相互の結合をもたらし、この場合にもとの寸法の粒子は溶媒前面をたどるが、相互に結合している粒子は空気-液体界面において吸水性表面上に残存するであろう。故に、条件は、或る寸法より大きい粒子が空気液体界面に保持され、一方その寸法より小さい粒子は空気-液体界面から遠ざかるように移動するように選ばれるであろう。」

(4f)可視範囲で着色された粒子(8頁左下欄10行?末行)
「大抵の場合、本方法が粒子の添加を含む場合には、粒子に共有結合により又は非供有結合的に実質的に非可塑的に結合された特異的結合対の構成員(member)を有する粒子を上記キットは含むであろう。粒子の表面に結合し又は粒子内に分散した標識、特に、可視範囲で着色し又はけい光を発することができる染料も存在し得る。或る場合には粒子は酵素で標識されていてもよい。」

(4g)実験(8頁右下欄下から3行?9頁右上欄下から2行)
「下記実験において、種々の色及び寸法の多様なビーズが組合わされて、ビーズの寸法及びそれらの色に依存して種々の異なる色のバンド及びバンドにおけるビーズの組合わせの効果を達成することができることを示す。・・・下記表は使用されたビーズ、予期された色及び観測された色を示す。・・・表1・・・」

3.対比・判断
(1-1)本件発明1について
(イ)甲第1号証記載の発明
甲第1号証の特許請求の範囲第1項に記載されている分析デバイス(上記記載(1a)参照)は、水性溶液吸収能を有する支持体材料の帯状片からなるシート状診断デバイスであって(上記記載(1c)参照)、乾燥状態で保存されていることは明らかであり、該デバイスにおいて、生物学的親和性を有する1つの結合パートナーが被分析物の検出のために設計された作用領域(検出ゾーン)の支持体材料にすでに結合し、他の結合パートナーは標識を施されて支持体材料中に存在しており(上記記載(1f)参照)、サンドイッチ式免疫検定の場合は、被結合と標識結合パートナーとで形成される二成分複合体は溶媒と共に固相作用領域中に移行し、そこで固相結合パートナーと反応して三成分複合体を形成し、これが最初のパートナーの標識を通じて検出されるものであって(上記記載(1g)参照)、かつ、標識付き試薬と検出区域との位置関係が相互に空間的に分離して決定されていることは上記記載(1h)から明らかであるから、甲第1号証には、「液体試料が適用される前は乾燥状態である分析デバイスであって、水性溶液吸収能を有する支持体材料の帯状片内部を湿潤状態において自由に移動し得る、検体に対して特異結合性の標識付き試薬と、帯状片上の検出区域に永久的に固定化されており、従って湿潤状態でも移動しない、同検体に対して特異結合性の無標識試薬とを含んでおり、適用された液体試料が標識付き試薬を吸収した後に検出区域に浸透するように標識付き試薬と検出区域との位置関係が相互に空間的に分離して決定されており、さらに標識付き試薬が検出区域において結合された程度を観察できる分析デバイス」の発明が記載されている(以下、「甲第1号証記載の発明」という)。

(ロ)本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比
本件発明1と上記甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明における「水性溶液吸収能を有する支持体材料の帯状片」が、本件発明1における「多孔質キャリア」に相当することは明らかであるから、両者の一致点及び相違点は下記のとおりである。

(一致点)
「乾燥多孔質キャリアの湿潤状態において多孔質キャリヤ内部を自由に移動し得る、検体に対して特異結合性の標識付き試薬と、キャリヤ材料上の検出区域に永久的に固定化されており、従って湿潤状態でも移動しない、同検体に対して特異結合性の無標識試薬とを含んでおり、適用された液体試料が標識付き試薬を吸収した後に検出区域に浸透するように標識付き試薬と検出区域との位置関係が相互に空間的に分離して決定されており、さらに標識付き試薬が検出区域において結合された程度を観察できる手段を含む分析試験装置。」

(相違点1)
本件発明1においては、「不透湿性固体材料からなる中空ケーシング中に乾燥多孔質キャリヤを収容しており、前記多孔質キャリヤに液体試料が適用され得るように多孔質キャリヤはケーシングの外部と直接的または間接的に連通している」のに対し、甲第1号証記載の発明においては、乾燥多孔質キャリヤを中空ケーシングに収容することについては記載されていない点。

(相違点2)
本件発明1においては、「標識が粒状の直接標識であって、液体試料が適用される前ケーシング内に乾燥状態で保存されている」のに対し、甲第1号証記載の発明においては、標識として粒状の直接標識を使用し、液体試料が適用される前においてケーシング内に乾燥状態で保存することは記載されていない点。

(ハ)判断
上記相違点1について検討するに、甲第2号証には吸収性材料をハウジング内に収容した免疫測定実施用のクロマトグラフィー装置が記載されており(上記記載(2a)参照)、該ハウジングについては「熱可塑性物質等によって都合よく作成することができる」と記載され(上記記載(2d)参照)、また、該ハウジングの底部にはハウジング内のストリップと液体媒質を接触させるための開口部を設けることも記載されている(上記記載(2e)参照)。一方、甲第1号証記載の発明における帯状片も、「それら帯状片は固体支持体に固定される」との記載(上記記載(1c)参照)があることからみて、何らかの支持体に保持されていることは明らかであり、そのような支持体として甲第2号証に記載されるような、外部との連通口を有する熱可塑性物質等の不透湿固体材料からなる中空のハウジングを採用し、その内部に帯状片を保持するようになすこと、すなわち上記相違点1に挙げられた構成を採用することは、当業者であれば容易に想到できるものであり、またその効果も予測される範囲内のものである。

次に、上記相違点2について検討するに、甲第4号証には、液体検定媒体中の特異的結合対の構成員の存在を検出する方法において、吸水性部材と特異的結合対の一員が結合している粒子およびこれらに結合している標識からなる信号生成系が関与し、吸水性部材が水性検定媒体と接触せしめられると、水性検定媒体は空気/液体界面に隣接した吸水性部材上の区域をウィッキング(毛管作用による吸い上げ)により通り過ぎ、粒子は濃縮されて該区域で信号を発することを含む方法が記載されており(上記記載(4a)(4b)(4g)参照)、粒子はそれ自体が標識であってもよいことが記載されている(上記記載(4d)(4f)参照)。また、免疫検定において粒状の直接標識を用いることは、上記甲第4号証だけに限らず、例えば特開昭60-192261号公報、特開昭61-48764号公報、国際出願公開WO86/3839号パンフレット、特開昭61-76958号公報、特開昭55-15100号公報等に記載されているように、本件出願の優先日前に広く知られている。
そして甲第1号証には、「標識には、様々な可能性が知られているが中でも酵素標識が好ましい」として、酵素以外の標識を用いることも示唆されている(上記記載(1f)参照)ことから、甲第1号証記載の発明において、酵素標識に代えて同じように標識として周知であった粒状の直接標識の中から、甲第4号証に記載されているような、吸水性部材上で凝集して可視信号を発することのできるようなものを選択して使用することは、当業者であれば容易に想到できるものである。
またその際に、粒状の標識自体あるいはこれに結合した試薬成分を支持体上に乾燥状態で保存しておき、吸収性材料からなる帯状片中で媒体とともに毛管現象により移動可能となるように、粒子の大きさや吸収材料の気孔の大きさについて吟味して適当な範囲のものを選択することは、例えば甲第1号証に溶媒や試薬の移動を使用材料の吸着能や寸法によって制御することを示唆する記載(上記記載(1d)参照)や、試験要素の機能に必要とされる様々な試薬を乾燥状態で含有させるという記載(上記記載(1d)参照)があること、さらに甲第2号証に被検物質や信号発生系の要素を運び得る支持体を用いることを示唆する記載(上記記載(2c)参照)等があることからみて、当業者であれば容易になし得ることであると認められる。またその効果も、粒状の直接標識を単に採用しただけの効果に過ぎず、予測される範囲内のものである。
したがって、本件発明1は甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「標識付き試薬が乾燥多孔質キャリヤの第一区域に含まれており、第一区域から空間的に区別される検出区域に無標識試薬が固定化されており、2つの区域が多孔質キャリヤに適用された液体試料が第一区域から検出区域に浸透するように配設されている」ことを特定したものであるが、上記甲第1号証には、吸収性材料からなる帯状片において標識付き試薬の含まれるゾーンと無標識試薬が固定化されるゾーンが空間的に区別されており、液体試料が標識付き試薬の含まれるゾーンから無標識試薬が固定化されるゾーンへ浸透するように配設されている分析デバイスが記載されている(上記記載(1h)参照)ことから、本件発明2も本件発明1と同様に、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1または2において、「粒状の直接標識が染料ゾルまたは金属ゾルである」ことを特定するものであるが、上記甲第4号証には、粒状の直接標識として金属コロイドが例示されている(上記記載(4c)参照)ことから、従来から使用されていた粒状の直接標識の中から金属ゾルを選択することに格別の困難性があったものとは認められず、したがって、本件発明3も本件発明1、2と同様に、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1または2において、「粒状の直接標識が最大直径が約0.5μm以下の着色ラテックス粒子である」ことを特定するものであるが、上記甲第4号証には、粒状の直接標識としてラテックス粒子が例示され(上記記載(4c)参照)、また、実験において約0.5μm以下の寸法のビーズが用いられたことが記載されている(上記記載(4g)参照)ことから、従来から使用されていた粒状の直接標識の中から着色ラテックス粒子を選択し、さらに吸収性材料からなる帯状片内を移動できるような大きさのものを選択することに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明4も本件発明1、2と同様に、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1?4のいずれかにおいて、「ケーシングが不透明もしくは半透明の材料から構成されており、ケーシングに分析結果を観察するための開□部が少なくとも1つ設けられている」ことを特定するものであるが、上記甲第2号証には、ハウジングを熱可塑性物質等によって作成することが記載され(上記記載(2d)参照)、また、前壁に分析結果を観察するための開口部を設けること(このことから、上記ハウジングは少なくとも透明ではないことが明らかである)が記載されている(上記記載(2f)参照)ことから、ケーシングを不透明もしくは半透明の材料から構成し、かつ分析結果を観察するための開□部を設けることに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明5も本件発明1?4のいずれかと同様に、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-6)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1?5のいずれかにおいて、「ケーシングがプラスチック材料から成形されている」ことを特定したものであるが、上記甲第2号証には、ハウジングを熱可塑性物質等によって作成することが記載されている(上記記載(2d)参照)ことから、本件発明6も本件発明1?5のいずれかと同様に、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-7)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1?6のいずれかにおいて、「多孔質キャリヤが多孔質材料製ストリップもしくはシートからなる」ことを特定したものであるが、上記甲第1号証及び甲第2号証には、多孔質材料製ストリップもしくはシートが記載されている(上記記載(1e)(2d)(2i)参照)ことから、本件発明7も本件発明1?6のいずれかと同様に、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-8)本件発明8について
本件発明8は、本件発明7において、「多孔質キヤリヤが透明な不透湿性材料製層で裏打ちされた多孔質材料製ストリップもしくはシートからなり、前記透明層が湿気または試料の進入を防ぐために開口部に隣接してケーシングの内側に接触している」ことを特定したものであるが、甲第2号証には、免疫クロマトグラフを反応性のない各種の支持体(裏板)によって支持することが記載され(上記記載(2j)参照)、液体試料中のリガンドを測定するための試験用具の発明が記載されている上記甲第3号証には、多孔質キャリヤに相当する細片とプラスチック等の不活性の支持部材とを張り合わせることが記載されており(上記記載(3h)参照)、また、ケース内への湿気の進入を防ぐことや支持部材を透明材料とすることは常套手段に過ぎないから、多孔質キヤリヤを透明な不透湿性材料製層で裏打ちされた多孔質材料製ストリップとし、透明層を湿気の進入を防ぐために開口部に隣接してケーシングの内側に接触している構成とすることに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明8も本件発明7と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-9)本件発明9について
本件発明9は、本件発明8において、「裏打ち材料が透明なプラスチック材料である」ことを特定したものであるが、上記甲第2号証には、裏板の材料としてマイラー(ポリエステル)、ポリスチレン、ポリエチレン等の樹脂が記載され(上記記載(2j)参照)、上記甲第3号証には、支持部材の材料としてポリエステル、ポリカーボネート、メチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン等の樹脂が記載されている(上記記載(3h)参照)ことから、本件発明9も本件発明8と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-10)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1?9のいずれかにおいて、「多孔質キャリヤ材料がニトロセルロースである」ことを特定したものであるが、上記甲第1号証には、帯状片がセルロース、セルロースの化学的誘導体から構成されていることが記載され(上記記載(1e)参照)、上記甲第2号証には、ストリップとしてセルロース様物質が記載されている(上記記載(2i)参照)ことから、本件発明10も本件発明1?9のいずれかと同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(1-11)本件発明11について
本件発明11は、本件発明10において、「ニトロセルロースが少なくとも1μmの孔径を有する」ことを特定したものであるが、甲第1号証には、溶媒や試薬の移動を使用材料の吸着能や寸法によって制御することが示唆され(上記記載(1d)参照)、甲第2号証には、被検物質や信号発生系の要素を運び得る支持体を用いることが記載され(上記記載(2c)参照)、さらに、ストリップの構造が密から粗の範囲で選択できることが記載されている(上記記載(2i)参照)ことから、粒状の標識自体あるいはこれに結合した試薬成分が、媒体とともに吸収性材料からなる帯状片中で毛管現象により移動可能となるように吸収性材料からなる帯状片の孔径の大きさを適当な範囲に定めることに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明11も本件発明10と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(1-12)本件発明12について
本件発明12は、本件発明11において、「孔径が5μm以上である」ことを特定したものであるが、上記(1-11)で述べたのと同じ理由により、吸収性材料からなる帯状片の孔径の大きさを適当な範囲に定めることに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明12も本件発明11と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(1-13)本件発明13について
本件発明13は、本件発明12において、「孔径が8?12μm以上である」ことを特定したものであるが、上記(1-11)で述べたのと同じ理由により、吸収性材料からなる帯状片の孔径の大きさを適当な範囲に定めることに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明13も本件発明12と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(1-14)本件発明14について
本件発明14は、本件発明1?13のいずれかにおいて、「多孔質キャリヤの検出区域の下流に、液体試料が検出区域を超えて浸透したことを示す対照区域が設けられており、対照区域もケーシングの外側から観察可能である」ことを特定したものであるが、甲第2号証には、ストリップの上部末端に移動してきた水性媒質と接触して発色する色素を備え、この発色をハウジングの開口部を通して視認できることが記載され(上記記載(2g)参照)、また、甲第3号証にも、終端区画に試験の完了を知らせるための指示薬を包含させておくことが記載されている(上記記載(3e)参照)ことから、多孔質キャリヤの検出区域の下流に、液体試料が検出区域を超えて浸透したことを示す対照区域を設けて、これをケーシングの外側から観察可能とするような構成を採用することに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明11も本件発明10と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-15)本件発明15について
本件発明15は、本件発明1?14のいずれかにおいて、「多孔質キャリヤがその末端部に吸収性シンクを有するストリップであり、前記シンクが未結合の標識付き試薬を検出区域から洗い流し得る十分な吸収能力を有する」ことを特定したものであるが、上記甲第1号証には、帯状片の末端部に過剰の試薬成分及び信号発生系の反応生成物を吸収するための吸収ゾーンを有することが記載されている(上記記載(1d)(1h)参照)ことから、本件発明15も本件発明1?14のいずれかと同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-16)本件発明16について
本件発明16は、本件発明1?15のいずれかにおいて「標識付き試薬が多孔質キャリヤに表面層として付与されている」ことを特定したものであるが、上記甲第2号証には、信号発信系の要素を含有する溶液を吸収性支持体に噴霧または塗布することによりこれらを吸収性支持体へ結合させることが記載されている(上記記載(2l)参照)ことから、標識付き試薬を多孔質キャリヤに表面層として付与することに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明16も本件発明1?15のいずれかと同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-17)本件発明17について
本件発明17は、本件発明16において「多孔質キャリヤの、標識付き試薬が付与されている領域が艶出し剤で予め処理されている」ことを特定したものであるが、上記甲第2号証には、免疫クロマトグラフに結合する信号発信系の要素の結合性をよくするために糖等で被覆することが記載されている(上記記載(2k)参照)ことから、多孔質キャリヤの標識付き試薬が付与されている領域を艶出し剤で予め処理することに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明17も本件発明16と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-18)本件発明18について
本件発明18は、本件発明17において、「艶出し剤が糖である」ことを特定したものであるが、上記(1-17)で述べたのと同じ理由により、艶出し剤として糖を選択することに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明18も本件発明11と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(1-19)本件発明19について
本件発明19は、本件発明1?18のいずれかにおいて「検出区域の固定化試薬が該検出区域のキャリヤの厚さ全体に亘り含浸されている」ことを特定したものであるが、上記甲第2号証には、sbp要素を含有する溶液を吸収性支持体に接触または噴霧または塗布することにより、またはその他の方法によりsbp要素を吸収性支持体へ結合させることが記載されている(上記記載(2l)参照)ことから、検出区域の固定化試薬を該検出区域のキャリヤの厚さ全体に亘り含浸させることに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明19も本件発明1?18のいずれかと同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-20)本件発明20について
本件発明20は、本件発明1?19のいずれかにおいて、「検体がhCGである」ことを特定したものであるが、上記甲第1号証には、実施例としてHCG検出を行うことが記載されている(上記記載(1i)参照)ことから、本件発明20も本件発明1?19のいずれかと同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-21)本件発明21について
本件発明21は、本件発明1?19のいずれかにおいて「検体がLHである」ことを特定したものであるが、上記甲第3号証には、特異的結合対手が存在するリガンドならいかなるリガンドも測定できることが記載されている(上記記載(3i)参照)ことから、検体としてLHを選択することに格別の困難性があったものとは認められない。したがって、本件発明21も本件発明1?19のいずれかと同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-22)本件発明22について
本件発明22は、本件発明1?21のいずれかにおいて、「自由に移動し得る試薬が検体に対して特異結合性である代わりに、自由に移動し得る試薬が検体の存在下で競合反応に参加し得る」ことを特定したものであるが、上記甲第1号証には、免疫測定の試験原理として「拮抗的」であるものが記載されている(上記記載(1h)参照)ことから、本件発明22も本件発明1?21のいずれかと同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(1-23)本件発明23について
本件発明23は、「検体を含むと思われる水性液体試料を請求の範囲1?22のいずれかに記載の分析試験装置に接触させて、試料を毛細管作用により多孔質キャリヤ中を第1区域を介して検出区域に浸透させ且つ標識付き試薬を試料と共に第1区域から検出区域に移動させ、標識付き試薬が検出区域で結合されている程度を観察することにより試料中の検体の存在を決定する」ことを特定した分析方法に係るものであるが、上記(1-1)ないし(1-22)において述べたとおり、本件発明1ないし22の装置は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、それらを用いた分析方法の発明である本件発明23も上記(1-1)ないし(1-22)において述べたのと同様の理由により、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)無効理由に対する被請求人の反論について
(2-1)被請求人は、乙第1号証として提出した1994年1月17日付けW.P.Collins教授の鑑定書を引用して、本件発明の分析試験装置は当時画期的な発明として評価されていたと主張しており、該鑑定書には、「36.・・・試験は自蔵式であり、移動性試薬を粒状標識で標識し、ストリップに沿って移動し、検出ゾーンに固定されると使用者が直接読み取れるというアイデアは操作を真に「1段階」にした。標識はその自然状態にある時に裸眼で容易に見えるので「直接」である。粒状標識はこれまでこのように使用されてはいなかった。」という記述がある。
しかしながら、上述したように、本件発明の出願の優先日以前において、自蔵式で、標識された移動性試薬をストリップに沿って移動させ、検出ゾーンでその標識により検出するという分析装置はすでに存在しており、その際の標識として粒状の直接標識は使用されていなかったという記述だけでは、粒状の直接標識を採用することの困難性を証明することはできない。そして、上述したように、粒状の直接標識も当時すでに周知のものであったことから、上記の分析装置と粒状の直接標識とを組合せることにさほどの困難性は認められず、組合せの結果に付随してくる効果がたとえ顕著であったとしても、それは当業者であれば自ずと知ることができるものであるから、予測できない効果が得られたというものでもない。
したがって、上記乙第1号証の鑑定書に示された事項は、標識として粒状の直接標識を使用することが当時困難であったという根拠にはなり得ず、被請求人の上記主張は理由がない。

(2-2)被請求人は、乙第2号証として提出した無効2002-35551号審決において引用されている甲第2号証ないし甲第4号証は本件審判請求書における甲第1号証ないし甲第3号証とそれぞれ同じものであり、また、本件審判請求書における甲第4号証は上記審決において引用されている甲第5号証および甲第6号証に相当するものであるとして、上記審決の判断を援用し、本件審判請求書における甲第4号証は上記審決の結論にいささかも影響し得ないものであると主張している。
しかしながら、本件審判請求書における甲第4号証の記載内容と、上記審決において引用されている甲第5号証および甲第6号証の記載内容とは、粒状の直接標識を用いる点においては共通しているものの使用形態などその他についてはそれぞれ異なっており、本件審判請求書における甲第4号証の内容について全く言及されていない上記審決の判断を、本件審判請求書における甲第1号証ないし甲第3号証と甲第4号証との組合せについての判断に援用することは無意味であり、被請求人の上記主張は理由がない。

(2-3)被請求人は、乙第3号証として提出した平成6年審判第7306号特許異議の決定において引用されている甲第1号証ないし甲第3号証は本件審判請求書における甲第1号証、甲第2号証、および甲第4号証とそれぞれ同じものであり、また、本件審判請求書における甲第3号証は上記特許異議の決定の結論に全く影響を与えるものではないとして、上記特許異議の決定の判断を援用して反論とすると主張している。
しかしながら、本件審判請求書における甲第3号証は上記特許異議の決定の結論に影響を与えるものではないとしても、上記特許異議の決定においては甲第1号証ないし甲第3号証(本件審判請求書における甲第1号証、甲第2号証、および甲第4号証)の組合せについての実質的な判断がなされていないので、上記特許異議の決定における判断を本件審判請求書における甲第1号証ないし甲第3号証と甲第4号証との組合せについての判断に援用することは無意味であり、被請求人の上記主張は理由がない。

IV.むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし23に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-31 
結審通知日 2006-04-04 
審決日 2006-04-17 
出願番号 特願昭63-503518
審決分類 P 1 113・ 121- Z (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋月 美紀子  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 櫻井 仁
高橋 泰史
登録日 1997-10-24 
登録番号 特許第2132903号(P2132903)
発明の名称 検定法  
代理人 平野 一幸  
代理人 大崎 勝真  
代理人 川口 義雄  

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