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審決分類 審判 補正却下不服 特29条特許要件(新規)  A23D
管理番号 1165129
審判番号 補正2006-50021  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 補正却下不服の審決 
審判請求日 2006-11-07 
確定日 2007-09-27 
事件の表示 特願2006- 17013「ドコサヘキサエン酸およびドコサヘキサエン酸を含む化合物」において、平成18年2月24日付けでした手続補正に対してされた補正却下決定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.経緯
本願は、平成3年2月4日に出願された特願平3-504147号(パリ条約による優先権主張1990年2月13日 米国)の分割出願(特願平10-177561号)の分割出願(特願2003-2794号)の分割出願(特願2004-57293号)の分割出願(特願2005-9518号)を、さらに平成18年1月26日に特許法第44条第1項の規定により分割出願したものであって、その後、平成18年2月24日付けで特許請求の範囲について手続補正書(以下「本補正」という)が提出されたが、本補正は、平成18年8月3日付けで決定をもって却下された。

2.原決定の理由
補正の却下の決定の理由は、本補正後の請求項5、7、8、13、15及び16についてのものであるが、そのうち、本補正後の請求項7、8、15及び16についての理由は、以下のとおりである。
「補正後の請求項7,8,15および16に係る発明について
願書に最初に添付された明細書の段落[0027]には、「C.cohnii等の微生物の単細胞食用オイル抽出後のバイオマスは動物の飼料として使用できるがこれは約35?40%のタンパク質、8?10%の灰分、45?50%の炭水化物を含む。タンパク質含有率が高くDHA濃度も高いことから、バイオマスペースト全体を水産養殖(例、エビ,カキ,魚)飼料として使用できる」ことが記載されている。また同明細書の段落[0008]には、本オイルは、抽出後に、乳幼児用調合乳、ベビーフード、栄養補助食品および医薬品に使用できることが記載されている。
しかしながら、同明細書又は図面には、少なくとも20%のDHAを含有しながら少なくとも70%のトリグリセリドを含むオイルを農業飼料製品とすることは記載されておらず、かつ、農業飼料製品に関する発明と栄養補助食品や医薬品に係る発明とは、産業上の利用分野も異なるものであるから、上記オイルを農業飼料製品とすることが同明細書又は図面の記載からみて自明のこととも認められないので、この補正によって発明の構成に関する技術的事項は「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」でないものとなる。
……
したがって、この補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものと認められ、特許法第53条第1項の規定により、上記結論のとおり決定する。」

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、審判請求書において、概略、以下のように主張している。
(1)本願明細書[0027]には、微生物の単細胞食用オイル抽出後のバイオマスを動物の飼料として使用できること、あるいはこれを水産養殖飼料として使用できることが記載されている。
(2)本願明細書[0001]の技術分野の欄には、「本発明はドコサヘキサエン酸(DHA)を含有する食用単細胞オイル、また、本オイルを含有する製品に関するものである」ことが記載され、[0008]には、「本発明の一つの目的はDHA含有単細胞食用オイルを提供することである。」と記載され、オイルは、食用のオイル、これを含有する製品であることが記載されている。
(3)本願明細書[0030]には、「本発明は、本発明のDHA含有単細胞オイルを含む乳幼児用調合乳、ベビーフード、栄養補助食品等の食品も含む。」と記載され、必ずしも、乳幼児用調合乳、ベビーフード、栄養補助食品に限定されるべきものでもない。
(4)これらの技術分野、発明の目的や明細書の記載などの記載からみれば、本発明のオイルの用途として、乳幼児用調合乳、ベビーフード、栄養補助食品および医薬品のみならず、食用の製品の一つとして認識しうる動物の飼料として使用する態様が含まれることに関して、当該態様が明細書の要旨を変更するものであるとまではいえない。

4.当審の判断
(1)補正の内容
本補正の内容は、請求項7及び15を以下のとおりに補正することを含んでいる。
「【請求項7】
少なくとも20%のDHAを含有しながら少なくとも70%のトリグリセリドを含み、以下の段階を含む方法により製造される食用オイルを含む、農業飼料製品:
制限的な窒素源を有する栄養溶液を含む通気した発酵漕において渦鞭藻綱の微小藻類を培養し、栄養溶液1リットル当たりのバイオマスが少なくとも10グラムの細胞密度を達成するまで培養を継続する段階であって、
ここで、定常期は、前記微小藻類に栄養溶液1リットル当たり少なくとも1.5グラムの濃度の単細胞オイル産生を誘導するように、賦課がかけられている段階、
および
前記単細胞オイルを回収する段階。」(以下、「補正後請求項7」という。)
「【請求項15】
以下の段階を含む方法により製造される、農業飼料製品:
(a)ドコサヘキサエン酸(DHA)がオイルの少なくとも35重量%をなす食用単細胞オイルを得る段階であり、前記オイルがヘキサン抽出によって単細胞生物から直接得ることができる段階;
(b)回収したオイルに追加の加工工程を任意で実施する段階;及び
(c)段階(a)または(b)の前記オイルを農業飼料に加え、前記農業飼料製品を製造する段階。」(以下、「補正後請求項15」という。)

(2)本願の出願当初の明細書又は図面における記載
本願の出願当初の明細書又は図面において、農業飼料製品については、以下のような記載があるのみである。
(2-1)「混合後、バイオマスを濾過しオイルを含むへキサンから分離する。あるいは、湿性バイオマスペースト(固形分30?35%)をエタノール、イソプロパノールあるいはへキサン/イソプロパノール混合物等のより極性の高い溶媒で直接抽出できる。残澄バイオマス、すなわち C.cohnii等の微生物の単細胞食用オイル抽出後のバイオマスは動物の飼料として使用できるがこれは約35?40%のタンパク質、8?10%の灰分、45?50%の炭水化物を含む。タンパク質含有率が高くDHA濃度も高いことから、バイオマスペースト全体を水産養殖(例、エビ,カキ,魚)飼料として使用できる。」(【0027】)

また、「農業飼料製品」の発明の構成に欠くことができない事項として記載されている、補正後請求項7の「以下の段階を含む方法により製造される食用オイル」及び補正後請求項15の「ヘキサン抽出によって単細胞生物から直接得ることができる」「回収したオイル」の特定の用途については、本願の出願当初の明細書又は図面には、以下のような記載がある。
(2-2)「従って、本発明の1つの目的はDHA含有単細胞食用オイルを提供することである。本オイルは他の多不飽和脂肪酸(PUFA)を有意量、すなわち全脂肪酸量の約2%以上含まないことが好ましい。概して、本発明の目的は単細胞オイルを商品化可能な収率で産生することである。本オイルはここで「デザイナー」オイルとして特徴づけるが、抽出後に、乳幼児用調合乳、ベビーフード、栄養補助食品および医薬品に使用できる。」(【0008】)
(2-3)「本発明はDHA含有食用オイルを高水準で得る経済的な方法を提供する。加えて、本法は高細胞濃度の渦鞭毛虫の商品化用培養も可能にする。
本発明による方法で産生した食用オイルにはいやな味や魚臭がなく従来の供給源から得たDHA含有オイルによくみられる環境汚染物質も含まない。従って、本発明はさらに本発明のオイルを含有する食品も含む。」(【0011】)
(2-4)「本発明は、本発明のDHA含有単細胞オイルを含む乳幼児用調合乳、ベビーフード、栄養補助食品等の食品も含む。当該技術専門家はDHA含有乳幼児用調合乳が望ましいと認めてはきたが、従来技術の乳幼児用調合乳は魚油からとったDHAを含んでおり、それに付随するいやな味と特殊感覚器に印象を与える特性があった。さらに、乳幼児用調合乳に魚油を添加すると、抗凝血作用がありアラキドン酸生合成の減少におそらく関与しているオメガ-3-脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)も添加される。このような作用は乳幼児用調合乳やベビーフードに望ましくなく、ここで記述した単細胞オイルには有意な量のEPAは含まれていない。本発明の単細胞オイルを含有する乳幼児用調合乳等の食品には魚油の持つ不快な特殊感覚器に印象を与える特性がない。従って食品は乳幼児にも成人にもより容易に認容される。本発明の乳幼児用調合乳は0.05重量%のDHA含有単細胞オイルを含むことが好ましい。さらに固形分の多い本発明のベビーフードは、約0.5重量%のDHA含有単細胞オイルを含むことが好ましい。いずれの場合でも、オイルが少なくとも約35%のDHAを含むことが最も好ましい。」(【0030】)
(2-5)「本発明はDHA含有単細胞オイルを含む医薬品を含む。本製品は少なくとも約35%のDHAを含むことが好ましい。このような医薬品の例としては乳幼児や成人への完全非経口栄養(TPN)の供給に適したものがある。さらに、単細胞オイルを含有する栄養補助食品も含まれる。このような栄養補助食品は前記オイルをカプセルに入れたゼラチンカプセル形態で妊婦や授乳中の婦人に適することが好ましい。これは特に菜食主義者で食事から十分量のDHAを摂れないような女性に適する。」(【0031】)

(3)判断
上記記載事項(2-1)において、動物用飼料に用いるものとして記載されているのは、請求人も、上記主張3.(1)で認めているように、「微生物の単細胞食用オイル抽出後のバイオマス」である。このことは、上記記載事項(2-1)において、たんぱく質含有率が高いことを飼料に用いる理由として挙げていることからも明らかである。
しかも、この部分の記載をみた当業者であれば、このような使用は、目的の「微生物の単細胞食用オイル」を抽出した後の残渣を、動物用飼料として有効利用しようとするという意義を有するものであると自然に解することができ、目的のオイル自体は、ヒトが摂取する食品に用いるものであると理解するものというべきである。
そして、本願の出願当初の明細書又は図面のその他の部分の記載をみても、抽出した「微生物の単細胞食用オイル」を動物用飼料として使用することは記載されていない。
また、請求人が主張の根拠とする上記記載事項(2-4)における「乳幼児用調合乳、ベビーフード、栄養補助食品等の食品も含む」(【0030】)との記載における「等」は、その後に「の食品」と記載されていること、及び例示されている用途がヒトが摂取する食品のみであることから、あくまでも食品としての用途の範囲内のものを包含する意味であることは明らかである。
さらに、動物用飼料と食品とは、用途として歴然と区別されるものであり、食品として使用されることが記載されているからといって、それを動物用飼料として用いることが自明であるということはできない。

以上のとおりであるから、本願の出願当初の明細書又は図面には、補正後請求項7及び15において特定されている抽出した単細胞オイル自体を、動物用飼料として用いることは記載されておらず、また、この点が、その記載から自明な事項であるともいうこともできない。
すなわち、本補正は、請求項を変更することによって発明の構成に関する技術的事項を変更し、出願当初の当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものとする補正を含むものであるから、明細書の要旨を変更するものである。

5.むすび
以上のとおり、上記補正は明細書の要旨を変更するものであるから、これを平成5年改正前特許法第53条第1項の規定により却下すべきものとした原決定は妥当なものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-16 
結審通知日 2007-04-24 
審決日 2007-05-10 
出願番号 特願2006-17013(P2006-17013)
審決分類 P 1 7・ 1- Z (A23D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 光本 美奈子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 河野 直樹
鈴木 恵理子
発明の名称 ドコサヘキサエン酸およびドコサヘキサエン酸を含む化合物  
代理人 清水 初志  

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