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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B |
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管理番号 | 1165190 |
審判番号 | 不服2005-25121 |
総通号数 | 95 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-12-27 |
確定日 | 2007-10-04 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第 89343号「横型往復動圧縮機のピストン」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月20日出願公開、特開平10-281066〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成9年4月8日の出願であって、平成17年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、平成18年1月19日に明細書についての補正がなされたものである。 2.平成18年1月19日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] (1)本件補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし3のうち、請求項1については、 「外周面にピストンリング溝が周設されると共に、このピストンリング溝にピストンリングが装着されてなり、往復動方向の少なくとも一端側の外周面にライダーリング溝が周設されると共に、このライダーリング溝に少なくとも1つ以上で、内径と外径とが同心で厚さが同じである部材からなるライダーリングが装着されてなる横型往復動圧縮機のピストンにおいて、前記ライダーリング溝の底円の中心をピストンの径方向の中心から予め定めた距離だけ下方に偏心させたことを特徴とする横型往復動圧縮機のピストン。」 と補正された。 上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ピストン」が「外周面にピストンリング溝が周設されると共に、このピストンリング溝にピストンリングが装着され」たものであると限定し、また、「ライダーリング」を構成する部材が「内径と外径とが同心で厚さが同じである」ものと限定するものであるから、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用発明 (ア)原査定の拒絶の理由に引用された実公平1-12028号公報(以下「引用例1」という。)には、「横型往復動機関におけるピストン」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。 ・「第1図は本考案の一例を示すもので、横形のシリンダ1内を水平矢印方向に往復動するピストン2の外周に、上部に比して下部の肉厚が大きなライダーリング3を取付ける。図中4は前記ピストン2の外周に設けてピストン2とシリンダ1内面との間のシールを行うピストンリング、5はピストンロツド、6はピストン締付ナツトを示す。 第2,3図は前記ライダーリング3の詳細例を示すもので、ライダーリング3は、外周に対して内径が上側に適宜偏心した偏肉形状を有しており、ピストン2の外周に形成された均一深さの取付溝7(第1図)内に嵌込まれ、且つ上端の最肉薄部に形成された切除部8に嵌合する位置決め金具9を固定ボルト10によつてピストン2に固定することにより、前記ライダーリング3がピストン2の周方に回転できないように支持されている。」(2欄3?19行) ・第1図には、ピストン2の外周面にピストンリング4を装着する溝が周設され、この溝にピストンリング4が装着されているものが示されている。また、ピストン2の往復動方向の両端側の外周面にライダーリング3の取付溝7を周設することが示されている。 ・第1図及び第2図には、ピストン2がその往復動方向からみて円形であることが示されているから、最初に摘記した引用箇所の「ピストン2の外周に形成された均一深さの取付溝7」という記載を併せてみると、取付溝の底円の中心がピストンの径方向の中心と同心であることが実質的に示されている。 ・第2図及び第4図には、少なくとも1つ以上の部材で構成されたライダーリング3が示されている。 これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例1には、 「外周面にピストンリングを装着する溝が周設されると共に、この溝にピストンリングが装着されてなり、往復動方向の両端側の外周面にライダーリングの取付溝が周設されると共に、この取付溝に少なくとも1つ以上の部材からなり、外周に対して内径が上側に適宜偏心した偏肉形状を有するライダーリングが装着されてなる横型往復動機関のピストンにおいて、前記取付溝の底円の中心をピストンの径方向の中心と同心にした横型往復動機関のピストン。」という発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定することができる。 (イ)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願平2-1004号(実開平3-92546号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、「ピストンリングの取付構造」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。 ・「第1図乃至第3図に第1の実施例を示す。第1図は2サイクルエンジンのシリンダブロック1を横断して示した図であり、シリンダ2の内壁面には排気ポート3が開口し、シリンダ2内部にはピストン4が往復動可能に収容されている。ピストン4の周囲でヘッド部近傍にはリング溝5が形成され、これにピストンリング6が外周部を張出した状態で嵌合されている。 リング溝5は第2図に示すように、外周円と内周円の各中心O1とO2は互いに偏心している。一方、ピストンリング6は第3図に示すように、内周円と外周円が同心円状をなし半径方向の幅が全周で均一なノーマル状のリングであり、その一部に分断された割溝7が形成されている。」(明細書4ページ5?18行) ・「また、リング溝5が偏心していることにより、ピストンリング6はピストン4に対して偏心取付けされることになり、」(明細書5ページ3?5行) ・「第4図乃至第6図は第2の実施例を示す。・・・(中略)・・・。 本実施例では第5図に示すように、リング溝5が内周円並びに外周円共に同心円のノーマルなものであるのに対し、ピストンリング6は第6図に示すように、内周円13と外周円14の各中心がO3とO4と互いに偏心したものになっており、最小幅部15の反対側に割溝7が設けられ、この近傍が最大幅部16となっている。このピストンリング6をリング溝5に取付けた場合、第4図に示すように、ピストンリング6の張出し最小部8が生じる。そこで、この張出し最小部8を排気ポート3に対面するように配設し、割溝7をピン9により回り止めすれば、前実施例と全く同様の効果が得られる。」(明細書6ページ15行?7ページ13行) (3)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ピストンリングを装着する溝」は本願補正発明の「ピストンリング溝」に相当し、また、引用発明の「ライダーリングの取付溝」は本願補正発明の「ライダーリング溝」に相当する。 そして、引用発明の「横型往復動機関」は、ピストンを用いた機関として圧縮機が周知であることから、本願補正発明の「横型往復動圧縮機」に相当するといえる。 また、ライダーリング溝の周設位置に関し、引用発明の「両端側」は、本願補正発明の「少なくとも一端側」という用語の概念に含まれるものである。 さらに、本願補正発明と引用発明とは、ピストンとライダーリングとの関係において「ピストンの径方向の中心に対してライダーリングの外径中心を下方に偏心」させている概念で共通する。 よって、両者は、 「外周面にピストンリング溝が周設されると共に、このピストンリング溝にピストンリングが装着されてなり、往復動方向の少なくとも一端側の外周面にライダーリング溝が周設されると共に、このライダーリング溝に少なくとも1つ以上の部材からなるライダーリングが装着されてなる横型往復動圧縮機のピストンにおいて、ピストンの径方向の中心に対してライダーリングの外径中心を下方に偏心させた横型往復動圧縮機のピストン。」の点で一致し、以下の点で相違している。 ・相違点 ピストンの径方向の中心に対してライダーリングの外径中心を下方に偏心させるために、本願補正発明では「内径と外径とが同心で厚さが同じである部材」からなるライダーリングを採用すると共に「ライダーリング溝の底円の中心をピストンの径方向の中心から予め定めた距離だけ下方に偏心させた」のに対し、引用発明では「外周に対して内径が上側に適宜偏心した偏肉形状を有する」ライダーリングを採用すると共に「ライダーリングの取付溝(ライダーリング溝)の底円の中心をピストンの径方向の中心と同心にした」点。 (4)相違点についての判断 引用例2の記載事項からは、ピストンの径方向の中心に対してリングの外径中心を偏心させる手法、すなわちピストンに対してリングを偏心させて装着する手法として、2通りの手法が本願出願前に公知であったことが読み取れる。かかる引用例2には、2サイクルエンジン(「往復動機関」に相当)のピストンのピストンリングについてではあるものの、リング形状の部材のピストンへの2つの装着手法が記載されており、その一つは、内径と外径とが同心で厚さが同じである部材からなるリングを採用すると共にリング溝の底円の中心をピストンの径方向の中心から所定距離だけ偏心させるもの(以下「第1手法」という。)であり、もう一つは、内径と外径とが偏心することで厚さが箇所によって異なる部材からなるリングを採用すると共にリング溝の底円の中心はピストンの径方向の中心と同心とするものである。 そして、引用発明と引用例2に記載されたものとはいずれも往復動機関のピストンの構造に関するものであるから、引用例2に記載されたかかる両手法に接した当業者にとって、引用発明におけるピストンの径方向の中心に対してライダーリングの外径中心を下方に偏心させる際にも、両手法のうちのどちらかを採用して該偏心を実現することは適宜選択し設定する事項に過ぎない。また、かかる両手法のどちらかをピストンに対するライダーリングの偏心装着については適用できないとする理由も見当たらない。 よって、引用発明において引用例2の記載事項のうち上記第1手法を採用することによって相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び引用例2の記載事項から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明については、引用発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。 3.本願発明について 平成18年1月19日付けの手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「往復動方向の少なくとも一端側の外周面にライダーリング溝が周設されると共に、このライダーリング溝に少なくとも1つ以上の部材からなるライダーリングが装着されてなる横型往復動圧縮機のピストンにおいて、前記ライダーリング溝の底円の中心をピストンの径方向の中心から予め定めた距離だけ下方に偏心させたことを特徴とする横型往復動圧縮機のピストン。」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、「ピストン」が「外周面にピストンリング溝が周設されると共に、このピストンリング溝にピストンリングが装着され」たものであるとの限定を省き、また、「ライダーリング」を構成する部材が「内径と外径とが同心で厚さが同じである」ものとの限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用例2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用例2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明については、引用発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-08-02 |
結審通知日 | 2007-08-07 |
審決日 | 2007-08-20 |
出願番号 | 特願平9-89343 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F04B)
P 1 8・ 575- Z (F04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川口 真一 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
本庄 亮太郎 渋谷 善弘 |
発明の名称 | 横型往復動圧縮機のピストン |
代理人 | 梶 良之 |