ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23F |
---|---|
管理番号 | 1165563 |
審判番号 | 不服2005-15212 |
総通号数 | 95 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-08-08 |
確定日 | 2007-10-12 |
事件の表示 | 平成10年特許願第196776号「塩化第二鉄エッチング廃液の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月18日出願公開、特開2000- 17463〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成10年6月25日の出願であって、平成16年4月12日付で拒絶の理由が通知され、平成16年6月21日に意見書、補正書が提出された。その後、平成17年6月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年8月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成17年9月6日に補正書が提出されたものである。 II.本願発明 本願の請求項1乃至7に係る発明は、平成17年9月6日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至7記載された事項により特定されるとおりであるところ、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 塩化第一鉄、塩化第二鉄、鉄以外の不純物金属の塩化物及び塩酸を含み、塩化第一鉄の濃度が15重量%以下である、塩化第二鉄を主成分とする塩化第二鉄エッチング廃液を処理する方法において、 多孔質隔膜で陽極室と陰極室とに区画され、前記陽極室には、廃液がその一面側から他面側に抜けていくように多数の貫通孔を形成した陽極を設けると共に、前記陰極室には、 廃液がその一面側から他面側に抜けていくように多数の貫通孔を形成した陰極を設けた電解槽を用い、前記廃液を陽極室内に供給し、当該陽極室にて塩素イオンを酸化して塩素ガスを発生させると共に塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する工程と、 前記隔膜における陽極室側の液圧を陰極室側の液圧よりも大きくして廃液を前記隔膜を強制的に透過させて陰極室側に送り、塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元する工程と、を含むことを特徴とする塩化第二鉄エッチング廃液の処理方法。」 III.刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-72691号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 銅、ニッケル等の不純物金属イオンを含む塩化鉄水溶液中の第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元して還元塩化鉄水溶液とする還元工程・・・を有する第2鉄イオンを含む塩化鉄水溶液の処理方法であって、 前記還元工程が、前記塩化鉄水溶液を電気分解槽に供給して、供給した該塩化鉄水溶液中の第2鉄イオンを第1鉄イオンに陰極板で還元し、陽極板で発生する塩素ガスを捕集すると共に、前記電気分解槽から前記還元塩化鉄水溶液を抽出する電解処理により行われることを特徴とする第2鉄イオンを含む塩化鉄水溶液の処理方法。 ・・・ 【請求項3】 前記電気分解槽における電解電圧を0.7?4.5V、電流密度を2?40A/dm2 の範囲に制御することを特徴とする請求項1又は2記載の第2鉄イオンを含む塩化鉄水溶液の処理方法。」 (2)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はIC、LSI用のリードフレームやテレビのシャドウマスク等をエッチング加工する際に生じるエッチング廃液(塩化鉄水溶液)から不純物金属イオンを除去し、第1鉄イオン(Fe2+イオン)の濃度を所定のレベルに回復させることにより、前記エッチング廃液を再生する第2鉄イオン(Fe3+イオン)を含む塩化鉄水溶液の処理方法に関する。」 (3)「【0005】本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、エッチング廃液から銅、ニッケル等の不純物金属を除去すると共に、Fe3+イオンを所定の濃度に回復させて、エッチング液として再使用する際に、発生する余剰液を削減すると共に、エッチング廃液の処理に必要な鉄粉量の削減を図る等、処理にかかるコストを低下させることのできる第2鉄イオンを含む塩化鉄水溶液の処理方法を提供することを目的とする。」 (4)「【0011】電気分解装置11は図2に示すように、エッチング廃液30が供給される陽極板20(アノード)及び陰極板19(カソード)を保持する電気分解槽15と、陽極板20及び陰極板19に電解電圧を印加するための電源部16と、電気分解槽15の電流密度(D)、還元エッチング液31中の第2鉄イオン濃度(C)、陽極板20から発生する塩素ガス量等のデータが入力され、電解電圧(E)及びエッチング廃液30の供給流量(Q)等を制御するための制御部17とを有する。電気分解槽15は、陽極板20の周囲に配置された隔膜18によって陽極部20aと陰極部19aとに仕切られており、該陽極部20aの上部には陽極板20から発生する塩素ガスを捕集するための塩素ガス排出管23が設けられ、前記陰極部19aの下部にはエッチング廃液30を供給するための廃液供給管21と、上部には還元エッチング液31を抽出するための処理液抽出管22とが配置されている。また、前記エッチング廃液30の電気分解槽15への供給位置25、及び電気分解槽15で処理された還元エッチング液31の抽出位置26の組み合わせには、例えば図4及び図5に示すようなパターン(a)?(e)等が可能である。・・・」 (5)「【0012】・・・隔膜18は、陽極板20で発生する塩素ガスを陰極板19から遮断して、陰極板19における第1鉄イオンの酸化(FeCl2 +(1/2)Cl2 →FeCl3 )を阻止すると共に、塩素ガスを捕集する働きを有する。隔膜18に使用する材料には、電気抵抗が小さく、塩素ガスの回収における塩素ガスの遮断が良好で安価な材料が望ましい。具体的には濾布、イオン交換樹脂が適しており、ここでは厚みが約1mmである(株)泉製の濾布(パイレンフィラメントPF4000)を使用した。・・・」 (6)「【0015】・・・プリント配線板等のエッチング処理後のエッチング廃液30を廃液供給管21から電気分解槽15に供給して、エッチング廃液30中のFe3+イオンをFe2+イオンに還元して、還元エッチング液31とする操作を行う。なお、この還元操作は塩素ガスの回収と有効利用及び以降における鉄粉を用いる不純物金属の除去工程において、鉄粉がFe3+イオンにより酸化、溶出されて、結果的に鉄イオン(Fe2+イオン)濃度が著しく過剰となるのを防止するために行うものである。ここで、エッチング廃液30は、Fe3+イオン濃度及びFe2+イオン濃度がそれぞれ100?250g/リットル、5?70g/リットルであり、塩素イオン(Cl- )及びHClを含むと共に、不純物金属イオンであるニッケルイオン(Ni2+)、及び銅イオン(Cu2+)を含有した水溶液である。 【0016】このようなエッチング廃液30の電気分解槽15における陽極板20及び陰極板19での反応は下式で表される。 陽極:2Cl- →Cl2 ↑+2e-陰極:Fe3++e- →Fe2+即ち、陽極板20において塩素ガスが生成し、陰極板19ではFe3+イオンがFe2+イオンに還元される。・・・」 (7)「【0027】 【発明の効果】請求項1?7記載の第2鉄イオンを含む塩化鉄水溶液の処理方法においては、塩化鉄水溶液中の第2鉄イオン(Fe3+イオン)を第1鉄イオン(Fe2+イオン)に、陰極反応により還元するので、液中のトータルの鉄イオン濃度を増加させることなく、Fe3+イオンを還元することができる。従って、塩化鉄水溶液の再生処理に際して、Fe3+イオン濃度を所定濃度とするために、希釈液を使用して塩化鉄水溶液を増量させる必要がなく、液量を元のままに維持することができ、余剰液の処理に掛かるコストを削減できると共に、処理設備をコンパクトにすることが可能である。さらに、塩化鉄水溶液の再生処理における鉄粉使用量を削減できるので、処理コストを低減できる。・・・」 (8)図4には、電気分解装置における廃液の供給位置、処理液の抽出位置が示され、(d)には、電気分解装置が隔壁で陽極部と陰極部に区画され、陽極部、陰極部には各々陽極板、陰極板が設けられ、そして、廃液が陽極部に供給され、隔壁を透過し、処理液が陰極部から排出されることが示されている。 IV.当審の判断 1.刊行物1記載の発明 上記摘記事項(1)、(6)によれば、エッチング廃液は、塩化鉄水溶液に鉄以外の不純物金属として、ニッケル、銅を含有している。そして、不純物金属の陽イオンが塩素イオンと共に含まれていることから、不純物金属が塩化物として含まれている。 さらに、上記摘記事項(6)によれば、エッチング廃液の鉄イオンは、Fe3+イオン(第二鉄イオン)及びFe2+イオン(第一鉄イオン)として含まれていることから、エッチング廃液の塩化鉄は塩化第二鉄、塩化第一鉄として含まれている。さらに、Fe3+イオン濃度及びFe2+イオン濃度がそれぞれ100?250g/リットル、5?70g/リットルであることから、塩化第二鉄を主成分としている。 そこで、上記摘記事項(1)乃至(8)を総合すると、刊行物1には、 「塩化第一鉄、塩化第二鉄、鉄以外の不純物金属の塩化物及びHClを含み、第一鉄イオン濃度が5?70g/リットルである、塩化第二鉄を主成分とする塩化第二鉄エッチング廃液を処理する方法において、 濾布の隔膜で陽極部と陰極部とに区画され、前記陽極部には陽極板を設けると共に、前記陰極部には陰極板を設けた電気分解槽を用い、前記廃液を陽極室内に供給し、当該陽極室にて塩素イオンを酸化して塩素ガスを発生させる工程と、 陽極部側の廃液を前記隔膜を透過させて陰極部側に送り、塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元する工程と、を含む塩化第二鉄エッチング廃液の処理方法。」(以下、「刊行物1記載発明」という。) が記載されていると言える。 2.本願発明1と刊行物1記載発明との対比・判断 (1)刊行物1記載発明における第一鉄イオン濃度5?70g/リットルを、塩化第一鉄の濃度に換算すると、11.4?159.1g/リットルとなり、さらに重量%に換算すると、1.1?15.9重量%となる。したがって、エッチング廃液に含有される塩化第一鉄の濃度は、刊行物1記載発明と本願発明1では、1.1?15重量%の点で重複している。 (2)刊行物1記載発明の「HCl」、「陽極部」、「陰極部」、「陽極板」、「陰極板」、「電気分解槽」は、本願発明1の「塩酸」、「陽極室」、「陰極室」、「陽極」、「陰極」、「電解槽」にそれぞれ相当する。 (3)刊行物1記載発明の「濾布の隔壁」は、多数の孔があることは明かであるから、本願発明1における「多孔質隔膜」に相当する。 (4)刊行物1記載発明においては、塩化第一鉄を含有する廃液が、陽極部(本願発明1の「陽極室」に相当)から、隔壁を透過して陰極部(本願発明1の「陰極室」に相当)へ流れている。そして、陽極部においては酸化反応が生じることが自明であることから、塩素ガスが発生すると共に、塩化第一鉄が塩化第二鉄に酸化する反応も生じているものである。 以上のことから、本願発明1と刊行物1記載発明とは、「塩化第一鉄、塩化第二鉄、鉄以外の不純物金属の塩化物及び塩酸を含み、塩化第一鉄の濃度が1.1?15重量%以下である、塩化第二鉄を主成分とする塩化第二鉄エッチング廃液を処理する方法において、 多孔質隔膜で陽極室と陰極室とに区画され、前記陽極室には陽極を設けると共に、前記陰極室には陰極を設けた電解槽を用い、前記廃液を陽極室内に供給し、当該陽極室にて塩素イオンを酸化して塩素ガスを発生させると共に塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する工程と、 廃液を前記隔膜を透過させて陰極室側に送り、塩化第二鉄を塩化第一鉄に還元する工程と、を含む塩化第二鉄エッチング廃液の処理方法。」である点で一致し、下記の点で相違している。 相違点(イ):本願発明1では、廃液がその一面側から他面側に抜けていくように多数の貫通孔を形成した陽極及び陰極を用いるのに対し、刊行物1記載発明においては、陽極及び陰極に多数の貫通孔を形成するとは記載されていない点。 相違点(ロ):本願発明1においては、隔膜における陽極室側の液圧を陰極室側の液圧よりも大きくすることにより、廃液が隔膜を強制的に透過させるのに対し、刊行物1記載発明においては、廃液は隔膜を透過するものの、隔膜における陽極室側の液圧を陰極室側の液圧よりも大きくするとは記載されていない点。 以下、上記相違点について検討する。 相違点(イ)について: 液体を処理する電解槽において、電解の効率を高めること等を目的として、処理する液体がその一面側から他面側に抜けていくように電極に多数の貫通孔を形成することは、例えば下記周知例1乃至3に記載されているように、本願の出願前に周知の技術的事項である。 そして、電解の効率を高めることは、刊行物1記載発明においても当然の課題であることから、該周知の技術的事項を刊行物1記載発明に適用することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 周知例1:実願昭51-70984号(実開昭52-33648号)のマイクロフィルム(実用新案登録請求の範囲、第1頁11?12行、第5頁7?14行、第6頁1?11行、第1?4図、等参照) 周知例2:特開昭48-83043号公報(特許請求の範囲、第2頁左上欄6行?右上欄1行、第1図、等参照) 周知例3:特開平7-18473号公報(特許請求の範囲、【0008】?【0010】、【0022】、等参照) 相違点(ロ)について: 液体を処理する電解槽において、反応を一方向とするために、隔膜における陽極室側の液圧を陰極室側の液圧よりも大きくすることにより、廃液が隔膜を強制的に透過させることは、下記周知例4乃至5に記載されているように、本願出願前に周知の技術的事項である。 そして、刊行物1記載発明においても、陽極室側から陰極室側へ廃液が隔壁を透過するものであるから、より積極的に透過させるため、隔膜における陽極室側の液圧を陰極室側の液圧よりも大きくすることにより、廃液が隔膜を強制的に透過させることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 周知例4:特開平3-79784号公報(特許請求の範囲、第2頁右下欄下5行?第3頁左上欄15行、第1図「浄化電解槽」、等参照) 周知例5:特開平4-219194号公報(第7頁左上欄9行?左下欄2行、第9図、等参照(明示的に圧力差を設けるとは記載されていないが、下方向から上方向へ液体を一方向に流しており、圧力差が生じているものと認められる。)) そして、本願発明1によって奏される効果も、刊行物1及び上記周知例1?4の記載から予測できる程度のものにすぎず、格別顕著であるとは認められない。 また、本願発明1の作用効果について、請求人は審判請求書の請求の理由において、「本願発明は、構成要件ハとニを備えることによって電極近傍に液流れを発生させ、速やかに電極近傍に必要なイオンを供給し不必要なイオン及びガスを取り除くことで電流密度を高めるという格別な効果を得ることを可能にしたものである。」(平成17年10月20日付け手続補正書 第4頁14?17行)旨、主張する。 しかしながら、先の周知例1?3に記載されているように、電解の効率を高めるために電極に貫通孔を設け、処理する液体がその一面側から他面側に抜けていくようにすることは周知の事項であるから、電流密度が高まるという点についても、当業者が予測できる範囲のものにすぎない。 さらに、本願明細書においては、電流密度は20A/dm2 以上であることが望ましいとし、実施例1、2において、電流密度30A/dm2で電解しているが、刊行物1においても、電流密度を2?40A/dm2とすることが記載されていることからも、電流密度を高めるという効果が、格別顕著であるとは認められない。 従って、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、請求人は審判請求書の請求の理由において、 「2.拒絶査定の誤りについて 拒絶理由通知では、理由(1)として、請求項1、3、4、6に対して第29条第1項第3号に該当することが挙げられ、理由(2)として、請求項2、7-9に対して第29条第2項の規定に該当することが挙げられている。 一方拒絶査定の理由は、拒絶理由通知の(2)ということであるから、拒絶理由通知の(1)には該当しないことになる。してみれば、請求項1は、新規性があり、拒絶理由は解消されていることになる。・・・ 拒絶査定の備考欄を見る限り、請求項1に対して進歩性がないという判断がされているようであるが、もしそうであれば、再度拒絶理由をかける必要があると思われる。従ってこの拒絶査定は違法性があると思われる。」(平成17年10月20日付け手続補正書 第2頁9?19行)旨、主張する。 しかしながら、平成16年6月21日付の手続補正によって補正された請求項1は、陽極及び陰極に多数の貫通孔が形成されている点を発明特定事項とするものであり、当該点は出願時の請求項8、9に基づくものである。 そして、平成16年4月12日付けの拒絶理由通知においては、請求項8、9について、特許法第29条第2項を拒絶の理由として通知しているものであるから、上記、請求人の主張は採用することができない。 V.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-07-31 |
結審通知日 | 2007-08-07 |
審決日 | 2007-08-21 |
出願番号 | 特願平10-196776 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C23F)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 馳平 憲一、小柳 健悟 |
特許庁審判長 |
城所 宏 |
特許庁審判官 |
宮崎 園子 前田 仁志 |
発明の名称 | 塩化第二鉄エッチング廃液の処理方法 |
代理人 | 井上 俊夫 |