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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない E04H
管理番号 1166512
審判番号 訂正2007-390036  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2007-03-23 
確定日 2007-10-22 
事件の表示 特許第2532820号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第2532820号発明についての出願は、平成6年3月28日に特許出願(平成5年7月20日 優先権主張(特願平5-179126))され、平成8年6月27日に設定登録がなされた。
その後の平成17年9月21日に、本件特許の請求項1ないし5に係る発明の特許について無効審判(無効2005-80272号)がなされたところ、特許庁審判合議体は、平成18年11月24日に「特許第2532820号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし、その謄本を当事者に送達した。
訂正審判請求人は、上記審決を不服として、平成18年12月25日に当該審決の取消訴訟を提起する(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)10546号)とともに、平成19年3月23日に本件訂正審判の請求(訂正2007-390036号)をした。
当審において、平成19年6月15日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、平成19年7月20日付けで意見書が提出され、さらに平成19年8月23日付けで上申書が提出された。

第2.請求の要旨及び訂正内容
本件訂正審判の請求(以下、「本件訂正」という。)の要旨は、本件特許の特許明細書を、本件訂正審判請求書に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正内容は、次の訂正事項A?Cに示すものである。

(1)訂正事項A:
特許請求の範囲の請求項1の第17行の「具備してなる」を、
「具備し、前記複数のコンテナは、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類が用意され、複数種類のコンテナの高さは、収容される図書の高さ寸法に応じてそれぞれ異なって設定され、複数種類のコンテナの短手方向の幅は、背表紙をコンテナ長手面に向けるように2列に並べて収容される図書の幅寸法に応じてそれぞれ異なって設定され、前記書庫の複数の棚領域は、それぞれが同一寸法の前記コンテナを専用に収容する形状に構成され、複数の棚領域のコンテナを収容する形状の高さおよび幅は、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ異なって設定されている」と訂正する。
(2)訂正事項B:
特許請求の範囲の請求項2および3を削除し、請求項4および5を繰り上げて新たな請求項2および3とし、新たな請求項2および3を請求項1に従属させる訂正をする。
(3)訂正事項C:
明細書の段落0011の記載を、
「【課題を解決するための手段】
この発明に係る図書保管管理装置は、図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫と、この書庫の各棚領域に収容されそれぞれが収容された棚領域に対応する寸法の複数の図書を収容する複数のコンテナと、この複数のコンテナの書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と、取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより、記憶手段の記憶内容に基づいて、該要求図書が収容されているコンテナを書庫から取り出してステーションに移送し、要求図書が取り出されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する取り出し制御手段と、返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより、該返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出してステーションに取り出し、返却図書が収容されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する返却制御手段とを備え、前記複数のコンテナは、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類が用意され、複数種類のコンテナの高さは、収容される図書の高さ寸法に応じてそれぞれ異なって設定され、複数種類のコンテナの短手方向の幅は、背表紙をコンテナ長手面に向けるように2列に並べて収容される図書の幅寸法に応じてそれぞれ異なって設定され、前記書庫の複数の棚領域は、それぞれが同一寸法の前記コンテナを専用に収容する形状に構成され、複数の棚領域のコンテナを収容する形状の高さおよび幅は、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ異なって設定されているようにしたものである。」と訂正する。

第3.当審の判断
1.訂正の目的、新規事項の有無及び拡張・変更について
上記訂正事項Aは、訂正前の請求項1に、訂正前の請求項2に記載されていた「前記複数のコンテナは、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類が用意され」との事項(以下、「訂正事項A1」という。)及び訂正前の請求項3に記載されていた「前記書庫の複数の棚領域は、それぞれが同一寸法の前記コンテナを専用に収容する形状に構成され」との事項(以下、「訂正事項A2」という。)に加えて、新たに「複数種類のコンテナの短手方向の幅は、背表紙をコンテナ長手面に向けるように2列に並べて収容される図書の幅寸法に応じてそれぞれ異なって設定され」との事項(以下、「訂正事項A3」という。)並びに「複数の棚領域のコンテナを収容する形状の高さおよび幅は、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ異なって設定されている」との事項(以下、「訂正事項A4」という。)を加え、限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項Bにおける請求項2、3の削除は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正前の請求項4、5を請求項2、3に繰り上げ、請求項1に従属させる訂正は、請求項2、3の削除に伴い項番を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
上記訂正事項Cは、訂正事項Aの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項Aのうち、訂正事項A1、A2は訂正前の請求項2、3の記載に基づくものであり、訂正事項A3は、本件特許明細書の段落【0040】、【0090】?【0092】の記載事項、並びに【図9】の(c)及び(d)、【図21】の図示内容に基づくものであり、また、訂正事項A4は、本件特許明細書の段落【0045】?【0050】、【0093】、【0113】の記載事項、並びに【図11】、【図12】、【図22】の図示内容に基づくものであるから、結局、訂正事項A?Cは、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものということができ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2.独立特許要件について
上記したように、訂正事項A、Bは特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件訂正による訂正後の請求項1ないし3に係る発明が特許出願の際、独立して特許を受けられるものであるか否かにつき、以下検討する。

(1)本件訂正発明
本件訂正発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されている事項により特定されるとおりの次のものである(以下順に、「本件訂正発明1」等という。)。
「【請求項1】
図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫と、
この書庫の各棚領域に収容されそれぞれが収容された棚領域に対応する寸法の複数の図書を収容する複数のコンテナと、
この複数のコンテナの前記書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と、
取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより、前記記憶手段の記憶内容に基づいて、該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに移送し、前記要求図書が取り出されたコンテナに対する前記記憶手段の記憶内容を更新する取り出し制御手段と、
返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより、該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに取り出し、前記返却図書が収容されたコンテナに対する前記記憶手段の記憶内容を更新する返却制御手段とを具備し、
前記複数のコンテナは、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類が用意され、複数種類のコンテナの高さは、収容される図書の高さ寸法に応じてそれぞれ異なって設定され、複数種類のコンテナの短手方向の幅は、背表紙をコンテナ長手面に向けるように2列に並べて収容される図書の幅寸法に応じてそれぞれ異なって設定され、
前記書庫の複数の棚領域は、それぞれが同一寸法の前記コンテナを専用に収容する形状に構成され、複数の棚領域のコンテナを収容する形状の高さおよび幅は、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ異なって設定されていることを特徴とする図書保管管理装置。
【請求項2】
前記書庫は複数の書棚を有し、各書棚それぞれが複数の棚領域に区分けされることを特徴とする請求項1記載の図書保管管理装置。
【請求項3】
前記書庫は複数の書棚を有し、各書棚単位で複数の棚領域に区分けされることを特徴とする請求項1記載の図書保管管理装置。」

(2)証拠
訂正審判請求人は、本件特許に対する公知文献らの証拠として、次のものを提出している(なお、審判請求書によれば、各甲号証の証拠番号は、知的財産高等裁判所・平成18年(行ケ)10546号事件の証拠と同じものである。)

甲第1号証の1:カリフォルニア州立大学オビアット図書館 第II期 プロジェクト仕様書に関する、1999年4月28日付けダグラス A デービスの公証付き陳述書、及びその訳文
甲第1号証の2:同陳述書に添付されたCONTRACTOR(請負業者)への通知、及び、その訳文
甲第1号証の3:同陳述書に添付されたプロジェクト仕様書及びその抄訳文
甲第2号証の1:カリフォルニア州立大学オビアット図書館 第II期 プロジェクト仕様書に関する、1999年4月29日付けジャック E ブルースの公証付き陳述書、及びその訳文
甲第2号証の3:同陳述書に添付されたプロジェクト仕様書
甲第3号証の1:カリフォルニア州立大学オビアット図書館 第II期 プロジェクト仕様書に関する、1999年4月26日付けケーニス A ロジャーソンの公証付き陳述書、及びその訳文
甲第3号証の2:同陳述書に添付されたCONTRACTOR(請負業者)への通知及びその訳文
甲第3号証の3:同陳述書に添付されたプロジェクト仕様書及びその抄訳文
甲第4号証:特開平5-151233号公報
甲第5号証:LIBRARY HI TEC、Consecutive Issue 20; Vol.5,No.4 Winter 1987年、表紙、目次、13?22頁掲載の論文のコピー、及びその抄訳文
甲第6号証:特許第2532820号公報(本件特許公報)
甲第7号証:特開平4-31963号公報
甲第8号証:特開平6-149831号公報
甲第9号証:特開昭52-149号公報
甲第10号証:特開平11-310308号公報
甲第11号証:特開平3-143804号公報
甲第12号証:特開平5-208706号公報

(3)証拠の記載事項
(a)甲第1号証の1?3
(a-1)甲第1号証の1は、図書館プロジェクトマネージャーであったダグラス A デービスの公証付き陳述書であり、同陳述書には、プロジェクト仕様書(甲第1号証の3ら)が1989年3月22日の時点で、いかなる公衆も同仕様書のコピーを入手することができたことが述べられている。

(a-2)甲第1号証の2は、上記陳述書に添付された、カリフォルニア州立大学管理者のCONTRACTOR(請負業者)への通知であって、該通知には、上記プロジェクト仕様書が1989年3月22日以降、所要の保証金を払った後、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校で入手することができることが、良好な状態で仕様書が返却された場合には保証金が大学から返却されることと併せて記載されている。

(a-3)甲第1号証の3には、「プロジェクト仕様書 カリフォルニア州立大学 オビアット図書館 第II期」(表紙[訳文1頁])との表題とともに、次の事項が記載されている(注:記載箇所については、原文のSECTION 11050中の頁/訳文頁で示す)。

「図書館設備 - 自動保管取り出しシステム(ASRS)」(1頁[訳文4頁2行])の見出しに続いて、
(イ)「パート1 一般」(1頁4行/訳文4頁4行)の章には、
「1.01 業務の内容」(1頁5行/訳文4頁6行)の項目中に、次の記載がある。
(1a)業務について
「A.含まれる業務
機器供給者は、
1.6基のミニロードスタッカクレーン。スタッカクレーンは、…容器挿入/引き出し機構を備えなければならない。…
2.棚の構造は、全部で13,260個の容器の収容位置を含む6通路分から構成される。…
5.仕切り、容器アドレス、及びセクターラベルを含む容器。…
7.6つのAS/RS通路端ワークステーション。…
9.コンピュータシステム、コントローラ、周辺機器、及びソフトウエアを含む、在庫チェック(インベントリ)コントロール、コンベヤコントロール、及び図書館コンピュータシステムとのインターフェイスを供給するためのASRSコントローラ。…
からなる、自動保管取り出しシステム(AS/RS)を設計、製作、据付するための、全ての必要なエンジニアリングサービス、労務、材料及び機器を供給しなければならない。」(1頁9行?2頁5行/訳文4頁9行?5頁17行)、

(1b)用語の定義について
「C.本章の用語の定義
1.本仕様書で文字「LCS」が用いられる場合は常に、LCSは「図書館コンピュータシステム」を意味すると理解されなければならない。
2.本仕様書で文字「ASRS」が用いられる場合は常に、ASRSは「自動保管取り出しシステム」を意味すると理解されなければならない。
3.本仕様書で文字「EAWS」が用いられる場合は常に、EAWSは「通路端ワークステーション」を意味すると理解されなければならない。」(3頁5?14行/訳文6頁10?19行)、

(ロ)「パート2 製品」(7頁1行/訳文8頁13行)の章には、
「2.02 ASRSシステムの一般的記載」(9頁1行/訳文11頁1行)の項目中に、次の記載がある。
(1c)図書の保管について
「A.AS/RSシステムのパラメータ

6.標準システム構成
a.6通路のミニロードシステム
b.仕切り間(bay)の数/通路:各仕切りの間は28インチ幅で33個
c.段の数:34段 段の高さ:容器の深さ+次の容器の底面まで最大1.0インチ
7.底面図で24インチ×48インチの容器(内側寸法)を用いる。
容器の要求数の分配は下記のようになる。
容器サイズ 要求個数
24インチ幅×48インチ長× 6.0インチ深さ 390
24インチ幅×48インチ長×10.0インチ深さ 7020
24インチ幅×48インチ長×12.0インチ深さ 5070
24インチ幅×48インチ長×15.0インチ深さ 390
24インチ幅×48インチ長×18.0インチ深さ 390
全容器数 13260

9.16インチ間隔で容器の幅方向を横断して設置される取り外し可能な鋼鉄製容器仕切り(深さ6.0インチの容器については12インチ間隔)
10.システムに保管される標準的なマテリアル:本、雑誌、印刷物…といった図書館マテリアル…
12.保管されるパートの数
形式 全個数 個数/容器 容器の高さ
1.本と雑誌 950,000 96 10インチ
64 12インチ
64 15インチ…
3.児童向図書 8,115 140 12及び
15インチ
4.テキスト 17,095 60 12インチ…」
(9頁1行?10頁18行/訳文11頁2行?12頁23行)、

(1d) 図書マテリアルの取り出し、返却のフローについて
「B.マテリアルフロー
1.…AS/RSアイテムの要求が、図書館コンピュータシステム(LCS)になされたとき、オーダー要求入力手順が、6つのAS/RSワークステーションの1つで開始される。
2.ワークステーションのオペレータは、要求されたアイテムを、自動的に取り出された容器から取り出し、もし、要求されたアイテムがランダムに保管される場合には、ASRSへ返却するアイテムをインプットする。
不変ロケーションアイテムは、それらが不変に割り当てられた容器へ返却されなければならない。
3.要求が入力されたときには、…アイテムのバーコードナンバー…といった情報を含んだスリップが作られる。このスリップに印刷された情報を用いて、オペレータはETV配送車上のコンテナの中に、取り出されたアイテムを入れ、この配送車を図書館内の様々な届け先へ送り出す。
4.通常の要求と返却オペレーションに加えて、LCSとASRSとの間のアイテムの移送が可能である。…
5.ASRSアイテムがサーキュレイションエリアで図書館へ返却されるとき、それらのアイテムは、AS/RSワークステーションへ返却するため、サイズのカテゴリーごとに(例えば、ランダム保管アイテム)…、手動で棚載用台車に事前に格納される。次に、アイテムは、要求が入力されたとき、…AS/RS保管容器に返却される。」(10頁21行?11頁16行/訳文13頁6行?14頁8行)、

(1e)図書アイテムの識別について
「C.AS/RSアイテムの識別
ASRSに保管される全てのアイテムは、各種レベルにおける識別手段として、下記を用いる。…
b.バーコードナンバー-バーコードナンバーは、下記のように、14桁の番号のキーフィールドである。
3 0700 1014742 0
3:ラベルタイプ
0700:図書館識別番号
1014742:連番
0:モジュラス10補完的チェック桁
1.このバーコードナンバーは、個々のアイテムを一意的に識別するため、LCSシステムによっても、ASRSシステムによっても両方に用いられる。このバーコードナンバーのラベルは、アイテムの内側カバー上に位置する…。
2.ソフトウエアは、モジュラス10補完的チェック桁を用いて。バーコードの読取を検証する。…
c.サイズ/通路コード-サイズコード、または通路コードが、各々のアイテムの上端にマークされる。ランダム保管アイテムは、サイズコード(例えば、A、B、またはC)を有し、一方不変ロケーションアイテムは、通路コード…を有する。サイズ/通路コードは、保管のためAS/RSへ返却する前に、図書館マテリアルを手動で事前仕分けするために用いられる。
d.バーコードの最後の2桁-サイズコード、または通路コードに加えて、アイテムバーコードの最後の2桁が、各々のアイテムの上端にマークされる。これらの2桁は、ASRSオペレータが、マテリアルを容器から出すオーダーをするのを容易にするために提供される。」(11頁38行?13頁14行/訳文14頁24行?17頁6行)、

(1f)容器の空き状態の情報、空き容器への割り当てについて
「D.フルの容器とフルのセクターの定義
1.この章では、保管及び取り出しアルゴリズムの中で用いられるフルの容器とフルのセクターの定義を提供する。
2.最も低いレベルの保管の階層は、セクターである。次に高い保管の階層は、容器である。例えば、複数のセクターが容器を構成する。
3.セクターは「フル」、「フルでない」、または「空」の3つの状態のうち、1つの状態をとることができる。
4.オペレータが、例えば、キーボードを打って、セクターがフルであると宣言したときは、ASRSは、このセクターが「フル」であると判断する。ランダムロケーション保管においては、オペレータによってセクターがフルであるとシステムに宣言されるまで、ASRSは、返却アイテムを、「フルではない」状態のセクターへ割り当てるようにする。…
7.容器の全てのセクターがフルであるとき、ASRSは、容器が「フル」であると判断する。この定義によれば、「部分的にフル」の容器は、少なくとも1つの「フルでない」または「空」のセクターを有し、「空」の容器は、容器のセクターが全て空になっている。
8.ランダムロケーション保管においては、ASRSによって、以下の優先規則が用いられる。
a.「フルでない」セクターは、「空」のセクターよりも高い優先順位を有する。
b.同じ容器の中の全ての「フルでない」セクターは、同等の優先順位を有する。
c.「部分的にフル」の容器は、「空」の容器よりも、高い優先順位を有する。
d.「空」のセクターの数が少ない「部分的にフル」の容器は、「空」のセクターの数が多い「部分的にフル」の容器よりも、高い優先順位を有する。
e.「空」のセクターの数が同じである「部分的にフル」の容器は、同等の優先順位を有する。
9.要求されたアイテムがセクターから取り出されたときには、いつでも、要求されたアイテムが取り出される前は、「フル」と宣言されていたとしても、システムは、代わりのランダム保管アイテムを、このセクターへ入れることを許容する。」(13頁15行?14頁16行/訳文17頁8行?18頁19行)、

同じく「2.03 ソフトウエアの仕様」(14頁20行/訳文18頁24行)の項目中に、次の記載がある。

(1g)システム構成を表す機能概要について
「A.コントロールシステムの所掌範囲」(14頁21行/訳文18頁25行)には、ASRSの機能性の概要と共にLCSに関して目的とするシステム構成を表す機能概要線図CSUN-1が記載されている(14頁31?35行、15頁/訳文19頁5?8行、20頁)

(1h)コンピュータシステム(LCS)のソフトウエアの機能について
「B.ソフトウエア
1.本章では、AS/RSコントロールシステム(ASRS)のための機能仕様を記載する。ASRSは、専用のコンピュータシステムであって、…その機能は、6つのAS/RSワークステーションにおけるオペレーションコントロール:つまり、オーダーの書き込みを要求、アイテムの返却、アイテムの移送、在庫チェック、及びセキュリティである。このシステムは、図書館のコンピュータシステム(LCS)とインターフェイスを取るようになっている。」(17頁7?32行/訳文22頁18?27行)、

(1i)図書の取り出しについて
「C.要求手順
… 1.オンライン公共アクセスカタログ(OLPAC)を用いる利用者は、貸し出しのため、ASRSにロケーションがあるアイテムを要求することができる。全てのASRSアイテム要求は、ASRSターミナルターミナルを通して要求される非LCSアイテムを除いて、LCSを通して生じる。LCSは、借り手のIDナンバーを入力させて、利用者の要求を確認する。…確認プロセスが完了すると、アイテム要求のトランザクションが、インターフェイスを介して、ASRSへ送信される。
2.オーダー入力手順
… a.LCS要求に対するAS/RSの応答
何れかのAS/RSに関して、確認された利用者のアイテム要求トランザクションを、インターフェイスを介して受け取ると、直ちに、AS/RSは、要求されたアイテムを伴う容器の取り出しを自動的に開始する。…
d.何れのAS/RSスーパーバイザーターミナルにおいても、容器のアドレス、…によって、要求を行うことが可能でなければならない。…
3.要求された容器の配送
… a.通路端ワークステーション(EAWS)において、中に入った1以上の要求アイテムを伴って容器が配送される。…
4.要求アイテムの選択
a.EAWSオペレータは、アイテムを識別するため、アイテムナンバーの最後の2桁(各アイテムの上端にマークされている)を用いて、アイテムを容器から取り出す。
… b.要求アイテムのバーコードが問題なくスキャンされたとき、…。そして、ASRSは、アイテム要求が満たされたというトランザクションを、インターフェイスを介して、LCSへ送信する。…
… d.ASRSは、光学的なスキャニングの代わりに、規定のアイテムのアイテムバーコードナンバーを、キーボードで入力することも許容する。…
5.ランダム保管アイテムの交換
… a.もし、要求アイテムが、ランダムに保管される(ランダムに保管されるアイテムは、上端にサイズコード、例えば、A、B、またはC、がマークされる。)場合には、ASRSは、通常AS/RS要求を満たすためにアイテムが取り除かれたごとに、AS/RSへ返却されるアイテムのインプット(2.03.D章)、または、AS/RS内への移送(2.03.E章)を予期する。
… b.オペレータが代替アドレスをインプットしない限り、ちょうどアイテムを取り除いた容器とセクターのアドレスが、保管されるアイテムに自動的に割り当てられる。
… c.オペレーターは、アイテムの割り当てなしに容器を保管ロケーションに返却することができる。」(17頁33行?20頁23行/訳文23頁10行?27頁5行)

(1j)図書の返却について
「D.マテリアル返却手順
1.EAWSにおける返却アイテムのスキャニング
… a.AS/RSへの返却は、アイテムの光学的スキャニングで開始され、…ランダムに保管されるアイテムは、サイズグループ(例えば、A,B,またはC)によって分類され、…サイズグループは、アイテムナンバーの最後の2桁と共に、アイテムの上端に記載される。
… b.同様なスキャニングによって、インターフェイスを介する、LCSへのアイテム返却トランザクションの送信が開始される。…
3.ランダムロケーションの割り当て
… a.インターフェイスを介したアイテム返却トランザクションの送信の開始と共に、同じスキャニング(2.03.D.1章)によって、現在、EAWSにある容器に対して、正しいサイズグループのランダムに保管されるアイテムを、アイテムがちょうど取り出された容器セクターに自動的に割り当てることを開始する。…
… c.オペレータがアイテムを挿入した後、ASRSは、オペレータにその容器をその保管ロケーションへ返却するように促す。…
… e.オペレータのオプションとして、容器が配送されたときに、アイテムを取り出さないで、アイテムをAS/RSへ返却することができる。この場合には、システムは、2.02.D章に記載された優先順位を用いて、収容スペースが利用可能な(フルではない)容器を取り出す。」(21頁5行?22頁27行/訳文28頁3行?29頁27行)。

(ハ)甲第1号証の3の原文58頁の次に、「カリフォルニア州立大学、ノースリッジAS/RS-オビアット図書館の典型的な通路端ワークステーション」の図面が記載され、該図には、書庫は、複数通路の書棚を有すること、各書棚は容器が縦に複数段に重ねて配置された区画が横に複数列配置されたものであること、各容器は、縦横3列に分割され9つのセクターを有すること、ワークカウンターには、端末装置が配置されること、返却図書収容用の棚載車が使用されることが示されている。

甲第1号証の3の上記記載から「図書館設備-自動保管取り出しシステム(ASRS)」は次のような構成を備えていると認められる。
ア.図書を収容する容器として、24インチ幅×48インチ長の底面を有し、高さの異なる5種類の容器を用いることが記載されていると共に、本、雑誌等複数の図書が、これらの高さの異なる容器に保管されること、複数の図書の内の「ランダム保管アイテム」と称する図書は、サイズコード(例えば、A、B、またはC)が記載され、返却の際にサイズコードにより仕分けすることが記載されている((1e)C.c.参照)ことから、ASRSにおいては、図書の寸法別に分類された図書に対応する寸法の複数種類の容器を用いているということができる。
イ.書庫に関して、「2.棚の構造は、全部で13,260個の容器の収容位置を含む6通路分から構成される。」((1a)A.2.参照)と記載されているから、「通路」は書棚の数を意味することは明らかであり、「b.仕切り間(bay)の数/通路:各仕切りの間は28インチ幅で33個」、「c.段の数:34段 段の高さ:容器の深さ+次の容器の底面まで最大1.0インチ」((1c)A.6.参照)と記載されているから、各通路は28インチ幅の33個の区画に分けられ、各区画は、容器を収容する段を有し、段の高さは、容器の深さ+次の容器の底面まで最大1.0インチとされているものであり、書庫は、容器の深さ別に分類された複数の段が複数の棚領域を構成しているということができる。そして、前記ア.で述べたように、容器は図書に対応する寸法の複数種類からなるから、結局、書庫は、図書に対応する寸法の複数の棚領域を有してしているといえる。
ウ.容器は「容器アドレス」を有し((1a)、(1i)参照)、アイテムは識別のための「バーコードナンバー」を有し((1e)参照)、アイテムが返却された際に、アイテムのバーコードナンバーは、空き容器のアドレスに割り当てられる((1e)5.b、(1f)D.4参照)ものであるから、ASRSは、容器と各容器に収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段を有していることといえる。
エ.図書アイテムが要求されると、ASRSは、要求されたアイテムを伴う容器の取り出しを自動的に開始するものであるから((1i)参照)、アイテム要求は、アイテムの識別情報をASRSに入力することにより行われているといえる。
オ.返却図書の返却制御手段に関して、ランダムロケーション保管においては、返却図書は、ワークステーションに図書がちょうど取り出された容器があればその容器セクターに自動的に割り当て、そうでない場合は、書庫から対応する容器を取り出してステーションに取り出すものであり((1j)参照)、容器取り出しには、空、部分的にフル、及び、フルの容器取り出しの優先規則がある((1f)参照)。

以上のことを考慮すると、甲第1号証の3には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫と、
この書庫の各棚領域に収容されそれぞれが収容された棚に対応する寸法の複数の図書を収容する複数の容器と、
この複数の容器アドレスと各容器に収容された複数の図書のバーコードナンバーとを対応させて記憶する記憶手段と、
取り出しが要求された図書の識別情報を入力することにより、該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してワークステーション(EAWS)に移送する取り出し制御手段と、
返却された図書のバーコードナンバーを入力することにより、図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを優先順位にしたがって前記書庫から前記ワークステーションに取り出し、ワークステーションに空きのあるコンテナがあれば、その寸法に対応する図書をコンテナに割り付け、前記返却図書を書庫に返却する返却制御手段とを具備し、
前記複数のコンテナは、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ高さが異なる複数種類が用意され、複数種類のコンテナの短手方向の幅は、一定の幅であって図書が3列収容できる幅に設定されている図書館設備-自動保管取り出しシステム(ASRS)。」

(b)甲第4号証
甲第4号証は、本件の優先日前に日本国内で頒布された刊行物であり、図面と共に次のことが記載されている。
(4a)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えば大型図書館等において多量の図書の貸し出し及び返却の管理を容易に行なえるようにした図書入出庫管理装置に関する。」、
(4b)「【0003】そこで、従来では、例えば特公昭61-4723号公報に示されるように、図書を1冊単位で規格化された大きさのケースに収容し、このケースを複数個コンテナに収容してコンテナ単位で自動入出庫させることが考えられている。このように、図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際にケースに入れることにより、ハンドリングやロケーションの管理が容易になり、個別にて搬送する際にも図書を保護することができる。この場合、各ケースには、バーコードが付されており、どのケースがどのコンテナに収容されているかが全て記憶されている。
【0004】そして、図書の取り出しが要求されると、その図書の入ったケースを収容するコンテナが書庫から自動出庫され、さらにそのコンテナから所望の図書の入ったケースが自動出庫される。すると、図書館員は、自動出庫されたケースから図書を取り出して利用者に渡し、ここに図書の貸し出しが行なわれる。
【0005】また、図書が返却された場合、図書館員は、返却された図書を元のケースに収容し、そのケースを任意の空きのあるコンテナに自動入庫させる。すると、コンテナの入庫時に、そのコンテナに収容された全てのケースのバーコードが読み取られ、ケースの位置(ロケーション)を示す記憶内容が更新されて、ここに図書の返却が行なわれる。
【0006】しかしながら、上記のような従来の入出庫管理システムでは、図書とケースとが1対1に対応しているので、図書が返却される毎に大量の空きケースの中からその図書を収容すべきケースを探さなければならず、作業が非能率的になるという問題が生じている。すなわち、図書の貸し出しには、館内貸し出し(当日貸し出し当日返却)と館外貸し出し(当日貸し出し後日返却)とがあり、貸し出し件数が多いと空ケースも相当数になる。このため、ケースと図書とが常に固定した対応関係にあると、図書が返却された場合その相当数のケースの中から返却された図書に対応するケースを探し出さなければならず作業の効率が悪くなるとともに、多量の空ケースを常時カウンター付近に保管する必要も生じる。」、
(4c)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、従来の入出庫管理システムでは、図書とケースとの対応関係を保持する必要があり、そのためにせっかく自動化を図りながらも、その利点を十分に活かしきれないという問題を有している。
【0009】そこで、この発明は上記事情を考慮してなされたもので、図書とケースとの対応関係を固定的なものとせずに、返却された図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ、貸し出し及び返却時の作業を容易化することができる極めて良好な図書入出庫管理装置を提供することを目的とする。」、
(4d)「【0010】
【課題を解決するための手段】この発明に係る図書入出庫管理装置は、識別情報の付された図書と、この図書を収容する識別情報の付された自動搬送用のケースと、このケースを複数収容し得る書庫と、この書庫に収容された図書に対する収容位置情報を含む図書情報を、図書に付された識別情報と該図書が収容されるケースに付された識別情報とを組み合わせた情報とともに記憶する記憶手段と、この記憶手段の記憶内容に基づいて書庫から出庫すべき図書の収容されたケースを自動的に取り出して出庫する自動搬出手段と、書庫に入庫すべき図書に付された識別情報と該図書を収容し得る任意のケースに付された識別情報とを読み取って、該図書に対する新たな図書情報を生成する生成手段と、この生成手段で生成された図書情報に基づいて書庫に入庫すべき図書の収容されたケースを自動的に書庫に入庫する自動搬入手段とを備えるようにしたものである。」、
(4e)「【0012】
【実施例】…図1は、この実施例で説明する図書入出庫管理システムの全体的な構成を示している。すなわち、図中11は例えば図書館の3階の書庫内に設置された書棚で、複数のコンテナ12,12,……が収容されている。これらコンテナ12,12,……には、それぞれ複数個のケース13,13,……が収容されている。各ケース13,13,……には、それぞれ1冊の図書が収容される。また、各ケース13,13,……は、規格化された一定の大きさのものが基準となっており、この基準の大きさに対して収納する図書の厚みによって幾種類かの厚みを有するものが用意されている。
【0013】ここで、上記書棚11の前面には、レール14に案内されて走行するスタッカークレーン15が設置されている。このスタッカークレーン15は、図書の出庫時に、書棚11からコンテナ12を取り出して出庫用ラックステーション16に移送するとともに、出庫用ラックステーション16に置かれたコンテナ12を、書棚11の元の位置に移送して入庫する動作を行なうものである。また、スタッカークレーン15は、図書の入庫時に、書棚11からコンテナ12を取り出して入庫用ラックステーション17に移送するとともに、入庫用ラックステーション17に置かれたコンテナ12を、書棚11の元の位置に移送して入庫する動作とを行なうものである。
【0014】これら出庫用及び入庫用ラックステーション16,17に沿って、エンドレスの搬送レール18が設置されている。この搬送レール18上には、複数のピッキング装置19,19,……が走行自在に支持されている。これらピッキング装置19,19,……は、出庫用ラックステーション16に設置されたコンテナ12から所望のケース13を取り出し、搬送レール18上を移動して2階向搬出口20及び1階向搬出口21のいずれかに移送する動作と、2階向搬入口22及び1階向搬入口23のいずれかに搬送されたケース13を、入庫用ラックステーション17に置かれたコンテナ12の空きスペースに収容する動作とを行なうものである。…
【0016】…1階向搬出口21に移送されたケース13は、図示しない垂直搬送機を介して図書館の1階に設置されたケース搬入口28に搬送され、搬送コンベア29を介してカウンターステーション30または1階ステーション31に移送される。そして、カウンターステーション30では、図書館員によってケース13から図書が取り出されて利用者への貸し出しに供され、1階ステーション31では、図書館員によってケース13から図書が取り出され利用者に渡されて閲覧に供される。この場合、空ケース13は、カウンターステーション30及び1階ステーション31にそれぞれ保管される。
【0017】また、返却された図書及び閲覧後の図書は、カウンターステーション30及び1階ステーション31で図書館員によってケース13に収容され、搬送コンベア29を介してケース搬出口32に移送された後、図示しない垂直搬送機を介して3階の1階向搬入口23に移送され、出庫と逆の過程によって書棚11へ返却される。」、
(4f)「【0018】図2は、上記出庫用ラックステーション16に運ばれたコンテナ12からピッキング装置19にケース13を取り出す状態を示している。すなわち、コンテナ12は、その図中前面及び上面の開放された略箱状に形成されており、それぞれ図書33を収容した複数のケース13,13,……が縦置きに配列されて収容されている。ここで、各ケース13,13,……は、図3に示すように、図中上面の開放された略箱状に形成されており、図書33を完全に覆うように形成されている。そして、各ケース13,13,……及び各図書33には、それぞれバーコード34,35が付されている。…」、
(4g)「【0020】ここで、図4は図1に示した図書入出庫管理システムの制御システムを示している。すなわち、図中39は中央処理装置で、例えばマイクロプロセッサ等を内蔵している。この中央処理装置39には、まず、バスライン40を介して、…ファイルアダプタ46を経て図書情報の記憶されたハードディスク47…が接続されている。
【0021】また、上記中央処理装置39には、…統括制御盤51…が接続されている。この統括制御盤51は、…前記スタッカークレーン15,ピッキング装置19,垂直搬送機及び搬送コンベア25,29等の動作を統括的に制御するもの…のである。」、
(4h)「【0026】上記のような構成となされた図書入出庫管理システムにおいて、以下、その動作を説明する。まず、図6は、図書33の貸し出し動作を説明するためのフローチャートである。すなわち、図書33の貸し出し動作は、利用者が貸し出しを要求する図書33を、カウンターステーション30の図書館員に伝えることから開始(ステップS1)される。すると、カウンターステーション30の図書館員は、ステップS2で、コンソール54を操作して要求された図書33のコードを入力する。
【0027】要求図書33のコードが入力されると、中央処理装置39は、ステップS3で、ハードディスク47に記憶された図書情報から要求図書33が書棚11に在庫しているか否か、つまり現在貸し出し中であるか否かを判別し、判別結果をディスプレイ55に表示する。…
【0028】…要求図書33が書棚11に在庫している(YES)場合には、中央処理装置39は、ステップS5で、統括制御盤51に要求図書33を書棚11から取り出すための搬出指令を発生する。すると、統括制御盤51の制御によって、…各スタッカークレーン15,ピッキング装置19,垂直搬送機65及び搬送コンベア25,29等が動作され、ステップS6で、要求図書33がケース13に収容された状態で書棚11からカウンターステーション30まで搬出されて、カウンターステーション30内に設定された搬入口から図書館員の手元に運ばれる。
【0029】そして、カウンターステーション30の図書館員は、ステップS7で、バーコードリーダ56により搬出されてきたケース13に付されたバーコード34を読み取る。すると、中央処理装置39は、ステップS8で、読み取られたバーコード34が要求図書33のコードに対応しているか否かを判別する。…
【0030】…読み取られたケース13のバーコード34が要求図書33のコードに対応していれば(YES)、図書館員は、ステップS11で、バーコードリーダ56により利用者の持つ利用者カードに付されたバーコードを読み取った後、ステップS12で、ケース13から図書33を取り出しバーコードリーダ56によりその図書33に付されたバーコード35を読み取る。すると、中央処理装置39は、ステップS13で、例えばハードディスク47内に設定された図書貸し出しリスト記憶領域に、利用者カードのバーコードデータと貸し出す図書33のバーコード35データとを登録するとともに、その図書33に対してハードディスク47内に記憶されているロケーションやケース13と図書33との対応コード等の図書情報を削除する。
【0031】その後、図書館員は、ステップS14で、図書33と利用者カードとを利用者に渡し、ステップS15で空ケース13を所定場所に保管して、ここに、貸し出し動作が終了(ステップS16)される。」、
(4i)「【0032】次に、図7は、図書33の返却動作を説明するためのフローチャートである。すなわち、図書33の返却動作は、利用者が返却する図書33と利用者カードとをカウンターステーション30に持ってくることから開始(ステップS17)される。すると、カウンターステーション30の図書館員は、ステップS18で、利用者の持ってきた図書33と利用者カードとを受け取り、ステップS19で、コンソール54を操作してその図書33のコードを入力する。このコード入力がなされると、中央処理装置39は、ハードディスク47内に設定された図書貸し出しリスト記憶領域から、その図書33の貸し出し登録を削除する。
【0033】そして、図書館員は、ステップS20で利用者カードを利用者に返却した後、ステップS21で、ケース保管場所から返却された図書33を収容するのに相応しい任意のケース13を選んで取り出し、バーコードリーダ56によりそのケース13に付されたバーコード34と図書33に付されたバーコード35とを読み取る。すると、中央処理装置39は、ステップS22で、ケース13から読み取ったバーコード34データと図書33から読み取ったバーコード35データとを組み合わせて、ハードディスク47に格納登録する。
【0034】次に、図書館員は、ステップS23で、図書33をケース13に収容しカウンターステーション30内に設定された搬出口にセットした後、ステップS24で、そのケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録する。すると、中央処理装置39は、ステップS25で、統括制御盤51にケース13を書棚11に返却するための格納指令を発生する。そして、統括制御盤51の制御によって、…各スタッカークレーン15,ピッキング装置19,垂直搬送機65及び搬送コンベア25,29等が動作されて、ステップS26で、図書33がケース13に収容された状態で所定のコンテナ12に入れられ書棚11に入庫され、ここに、返却動作が終了(ステップS27)される。」、
(4j)「【0042】次に、図10は、上記実施例の入出庫管理システムに付加して好適する、コンテナ12単位の入出庫管理システムを示している。すなわち、書棚74からスタッカークレーン75によって出庫されたコンテナ12は、出庫用ラックステーション76,搬送コンベア77,コンテナ搬出口78及び図示しない垂直搬送機を介した後、2階向コンテナ搬入口79及び搬送コンベア80を介して2階ステーション26に搬送されるとともに、1階向コンテナ搬入口81及び搬送コンベア82を介してカウンターステーション30または1階ステーション31に搬送される。
【0043】また、カウンターステーション30または1階ステーション31のコンテナ12は、搬送コンベア83を介して1階向コンテナ搬出口84に搬送され、2階ステーション26のコンテナ12は、搬送コンベア85を介して2階向コンテナ搬出口86に搬送される。そして、1階向コンテナ搬出口84または2階向コンテナ搬出口86に搬送されたコンテナ12は、図示しない垂直搬送機を介して3階のコンテナ搬入口87に移送され、搬送コンベア88を介して入庫用ラックステーション89に移送された後、スタッカークレーン75により書棚74に入庫される。」、
(4k)【図2】には、コンテナに図書が収容された状態が記載され、コンテナの短手方向の幅は、図書を背表紙をコンテナ長手面に向けるように向けて収納したケースを1列に並べて収容できる幅寸法とされていることが示されている。

したがって、上記記載事項、特に、前提となる従来技術を勘案すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「書棚11を有する書庫と、
書庫内に設置された書棚11に、厚さの異なるケース13に収容された複数の図書33を収容する複数のコンテナ12と、
この複数のコンテナ内の図書33の前記書庫内における格納ロケーションと、コンテナ12に収容された複数のケース13の識別情報であるバーコードのデータと、これと対応する複数の図書に付された識別情報であるバーコード35のデータとを対応させて記憶するハードディスク47と、
ハードディスク47に接続され、搬送装置の動作を統括制御する中央演算処理装置39と((4g)参照)、
貸し出しが要求された図書33のコードを入力することにより、前記ハードディスク47の記憶内容に基づいて、ケース13に収容された該要求図書33が収容されているコンテナ12を前記書庫から取り出し、コンテナ12から取り出したケース13((4h)、図2参照)、あるいはコンテナ12((4j)、図10参照)を、ステーションに自動的に移送し、
前記ハードディスク47に記憶していた、前記要求図書33に対する格納ロケーションやケース13と図書のバーコードデータとの対応情報等を削除する制御手段と、
図書館員が返却された図書33の厚さに対応する任意の空きケース13を選択し、図書に付された識別情報であるバーコード35と任意のケース13の識別情報であるバーコードをバーコードリーダで読み取ることにより、図書33に付されたバーコードデータとケース13のバーコードデータを組み合わせてハードディスク47に格納登録し、
該返却図書を収容したケース13の書棚11内における格納ロケーションをハードディスク47へ新たに登録することにより、登録された格納ロケーションのコンテナ12を入庫用ラックステーション又はカウンターステーションまで取り出し、ケース13に収容された返却図書を収容したコンテナ12を書棚11内における格納ロケーションに自動的に移送し、ケース13の格納ロケーションに対する位置を示す記憶内容を更新する手段とを具備する図書入出庫管理装置。」

(4)甲第1号証の3が、本件出願前に頒布された刊行物といえるか否かについて
上記甲第1号証の1及び甲第1号証の2によれば、甲第1号証の3のプロジェクト仕様書は、その原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供され、かつ、その複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される状況が整っていたということが推認でき、このような状況にあれば公衆からの要求をまってその都度原本から複写することができたということが推認できるから(最高裁、昭和53年(行ツ)第69号判決、昭和55年7月4日言渡参照)、甲第1号証の3は、少なくとも当該仕様書が州建築部に提出された日より以降の1989年3月22日に、いいかえれば、本件特許出願の優先日(1993年7月20日)前の時点で頒布された刊行物であったということができる。

(5)対比・判断
(5-1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲4発明とを対比する。
ア.甲4発明の「格納ロケーション」が本件訂正発明1の「収容位置」に相当し、以下、同様に、「図書に付された識別情報であるバーコード35」が「図書コード」に、「ハードディスク47」が「記憶手段」に、「貸し出し」が「取り出し」に、「図書入出庫管理装置」が「図書保管管理装置」に、それぞれ相当するといえる。
イ.甲4発明の書庫は書棚11を有し、当該書棚11が複数のコンテナを収容する棚領域を有することは明らかであるから、甲4発明の書庫と、本件訂正発明1の「図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫」とは、「棚領域を有する書庫」である点で共通する。
ウ.甲4発明のコンテナが、書庫からステーションまで移送される場合には、書庫の各書棚の棚領域に収容された複数の図書を、書庫からステーションまで移送に際して収容することは明らかである。
エ.甲4発明の「中央演算処理装置39」は、ハードディスクに接続され、搬送装置の動作を制御するものであるから、貸し出しが要求された図書を「取り出すための制御手段」と返却が要求された図書を「返却制御する手段」とを具備することも自明な事項である。
オ.甲4発明の「複数のコンテナ内の図書33の前記書庫内における格納ロケーションと、コンテナ12に収容された複数のケース13の識別情報であるバーコードのデータと、これと対応する複数の図書に付された識別情報であるバーコード35のデータを対応させて記憶するハードディスク47」と、本件訂正発明1の「複数のコンテナの前記書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段」とは、共に「書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段」である点で共通する。
カ.そうすると、甲4発明の「貸し出しが要求された図書33のコードを入力することにより、前記ハードディスク47の記憶内容に基づいて、ケース13に収容された要求図書33が収容されているコンテナ12を前記書庫から取り出してステーションに自動的に移送」することは、本件訂正発明1の「取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより、前記記憶手段の記憶内容に基づいて、該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに移送」することに相当する。
キ.甲4発明の「ハードディスク47に記憶していた、前記要求図書33に対する格納ロケーションやケース13と図書のバーコードデータとの対応情報等を削除する」点と、本件訂正発明1の「要求図書が取り出されたコンテナに対する前記記憶手段の記憶内容を更新する」点とは、共に「要求図書に関する記憶手段の記憶内容を更新する」点で共通するといえる。
ク.甲4発明の「図書に付された識別情報であるバーコード35と任意のケース13の識別情報であるバーコードをバーコードリーダで読み取ることにより、図書33に付されたバーコードデータとケース13のバーコードデータを組み合わせてハードディスク47に格納登録し、該返却図書を収容したケース13の書棚11内における格納ロケーションをハードディスク47へ新たに登録する」点と、本件訂正発明1の「返却が要求された図書の寸法情報を入力・・・、返却図書が収容されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」とは、共に「返却された図書の情報を入力することにより、返却図書に関する記憶手段の記憶内容を更新する」点で共通するといえる。
ケ.また、甲4発明の「返却図書を収容したケース13の書棚11内における格納ロケーションをハードディスク47へ新たに登録することにより、登録された格納ロケーションのコンテナ12をカウンターステーションに取り出し」と、本件訂正発明1の「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより、該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに取り出し」とは、「返却図書を収容する空きのあるコンテナを前記書庫から取り出してステーションに取り出す」点で共通するといえる。

そうすると、両者は、
「棚領域を有する書庫と、
この書庫の棚領域に収容されそれぞれが複数の図書を収容する複数のコンテナと、
書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と、
取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより、前記記憶手段の記憶内容に基づいて、該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに移送し、前記要求図書に関する前記記憶手段の記憶内容を更新する取り出し制御手段と、
返却された図書の情報を入力することにより、前記返却図書に関する前記記憶手段の記憶内容を更新するとともに、返却図書を収容する空きのあるコンテナを前記書庫から取り出してステーションに取り出す返却制御手段とを具備する図書保管管理装置。」である点で一致し、次の各点で相違する。

相違点1:書庫が有する棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナに関して、
本件訂正発明1は「図書の寸法別に分類された複数の棚領域」を有するものであり、「それぞれが収容された棚領域に対応する寸法の複数の図書を収容する複数のコンテナ」を採用しているのに対し、甲4発明は、このような図書の寸法別に分類された複数の棚領域や、棚領域に対応する寸法の図書を収容する複数のコンテナを用いていない点。

相違点2:書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段とに関して、
本件訂正発明1は、「コンテナの書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する」ものであり、要求図書の取り出し制御に際しては「要求図書が取り出されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」と共に、「返却図書が収容されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」ものであるのに対し、甲4発明は、「書庫内における格納ロケーションと、コンテナ12に収容された複数のケース13のコードと、これと対応する図書コードとを対応させて記憶する」ものであり、コンテナの書庫内における収容位置を記憶させるものであるか不明な点。

相違点3:返却制御手段に関して、
本件訂正発明1は、「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより、該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに取り出す」ものであるのに対し、甲4発明は、「格納ロケーションをハードディスク47へ登録することにより、登録された格納ロケーションのコンテナ12をカウンターステーションに取り出す」ものであり、図書の寸法情報の入力に基いて図書の寸法に対応する空きコンテナの取り出しをする制御手段を具備していない点。

相違点4:コンテナに関して
本件訂正発明1では、「収容される図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類が用意され、複数種類のコンテナの短手方向の幅は、背表紙をコンテナ長手面に向けるように2列に並べて収容される図書の幅寸法に応じてそれぞれ異なって設定され」るのに対し、甲4発明は高さ及び幅が一定のケースを収容するように設定されているものである点。

相違点5:書庫の棚領域に関して、
本件訂正発明1では、「それぞれが同一寸法のコンテナを専用に収容する形状に構成された複数の棚領域で構成され、複数の棚領域のコンテナを収容する形状の高さおよび幅は、収容される図書の寸法に応じてそれぞれ異なって設定されている」のに対し、甲4発明は、このような複数の棚領域を有していない点。

そこで、上記相違点1ないし5につき、以下検討する。
[相違点1について]
甲4発明は、図書を厚みが異なるが幅、高さを同じケースに収容するものであるから、ケースを収容するコンテナの寸法は同じ大きさのものとされていると認められる。ところで、甲第4号証には、図書をケースに収容する目的として「図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際にケースに入れることにより、ハンドリングやロケーションの管理が容易になり、個別にて搬送する際にも図書を保護することができる。」((4b)参照)と記載されている。
しかし、甲4発明において、貸し出し時、返却時にコンテナ12をカウンターステーションまで取り出す場合((4j)、図10参照)においては、図書はコンテナに収容された状態で保管、運搬されるのであるから、図書の収容に十分な大きさを有するコンテナに収容すれば特にケースを使用しなくとも図書が保護できることは当業者が容易に想到しうることである。
ここで、甲1発明をみると、甲1発明における、「図書館設備-自動保管取り出しシステム(ASRS)」、「容器」、「ワークステーション(EAWS)」は、それぞれ本件訂正発明1の「図書入出庫管理装置」、「コンテナ」、「ステーション」に相当するから、甲1発明は、図書入出庫管理装置として、棚領域を有する書庫と、この書庫の棚領域に収容されそれぞれが複数の図書を収容する複数のコンテナを有し、取り出しが要求された図書が収容されているコンテナを書庫からステーションに移送し、図書を返却する際は、空きのあるコンテナを前記ステーションに取り出し、前記返却図書をコンテナに収容して書庫に返却するシステムにおいて、寸法別に分類された図書を対応する寸法の複数種類のコンテナに収容するものであり、そのために図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫を採用したものである。
そうすると、甲4発明と甲1発明は、いずれも、図書をコンテナに収容して書棚に保管し、図書の貸し出し時、返却時にコンテナをステーションまで取り出すシステムである点で共通するから、甲4発明において、甲1発明を適用して、図書をケースに収容することなくコンテナに収容して保管運搬すること、コンテナとして、寸法別に分類された図書に対応する寸法の複数種類のコンテナを使用すること、そのコンテナを収容するために、図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

[相違点2について]
本件訂正発明1における図書の取り出し、返却時の「コンテナに対する前記記憶手段の記憶内容」について、本件特許明細書の段落【0051】には、どのコンテナも書棚における収容位置は固定されていることが記載され、同じく、段落【0056】には、図書コードとコンテナ固有のコンテナ番号とサブコンテナ固有のサブコンテナ番号とを組み合わせ、その組み合わせたデータをメモリ等に登録する旨が記載されていることから、上記「コンテナ番号」は、実質的に、コンテナの書庫内における収容位置を特定する情報であるということができ、本件訂正発明1の「コンテナに対する前記記憶手段の記憶内容」は、「特定のコンテナの書庫内における収容位置と、このコンテナに収容された図書の図書コードとを、それぞれ対応させて記憶した記憶手段の記憶内容」を意味するものと解することができる。
一方、甲1発明は、図書をケースに収容することなくコンテナに収容して保管運搬するものにおいて、取り出しが要求された図書が収容されているコンテナを書庫からステーションに移送し、図書を返却する際は、空きのあるコンテナを前記ステーションに取り出し、前記返却図書をコンテナに収容して書庫に返却するものであるから、要求図書が収容されているコンテナ、返却図書を収容可能な空きのあるコンテナが、書庫内の何処にあるかを示す収容位置の情報を記憶していることが必要であることは、当業者にとって自明な事項であるといえる。甲1発明は、さらに複数のコンテナの「容器アドレス」と各コンテナに収容された複数の図書のバーコードナンバーとを対応させて記憶する記憶手段を有するものであるから、結局、甲1発明は、「特定のコンテナの書庫内における収容位置と、このコンテナに収容された図書の図書コードとを、それぞれ対応させて記憶した記憶手段」を有しているといえる。
してみると、相違点2に係る本件訂正発明1の構成は、上記[相違点1について]で説示したところの、甲4発明に甲1発明を適用し、図書をケースに収容することなくコンテナに収容して保管運搬するに際して、同じく甲1発明に示された、コンテナの書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する手法を採用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点3について]
本件訂正発明1は、相違点3に係る構成により、互いに分類の異なる複数の図書が返却される場合に、1冊毎に別のコンテナを書庫から利用者カウンターにいちいち取り出す必要がなく、自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率を向上させる効果を有するものと認められる(本件訂正明細書の段落【0008】?【0010】)。
甲1発明は、図書入出庫管理装置において、複数のコンテナに収容される図書アイテムを固定せず、任意の空きコンテナに、そのコンテナの寸法に対応した図書を割り付けて保管し、そのコンテナの「容器アドレス」と収容される図書を識別するバーコードナンバーを対応させて記憶させ、返却が要求された図書の寸法に対応するコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫からステーションに取り出し、ステーションに図書アイテムの寸法にあった空きコンテナがあれば、返却図書をその任意の空きコンテナに収容するものであるから、返却作業の能率を向上させる効果を有しているものと認められる。
そして、甲4発明は、図書とケースの対応関係を固定化せず任意の空きケースに収容することで作業能率を向上させようとするものであるから、図書をコンテナに直接収納する場合にも作業能率を向上させるために、甲1発明を適用するに際し、返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から任意の空きのあるコンテナを書庫から取り出す制御手段をも採用することは、当業者が容易になしうることである。
ところで、甲1発明では、返却図書を収容する空きのあるコンテナの取り出しは、図書を識別するバーコードナンバーの入力により行われるもので、図書の寸法情報を入力することによるものではない。
しかし、図書の寸法に対応した空きコンテナを取り出す必要があるから、甲第1発明においてバーコードナンバーには、図書のサイズに関する情報が含まれていることは明らかであり、寸法情報を含む情報を入力することにより、図書の寸法に対応する寸法の空きのあるコンテナを書庫から取り出すことが示されているといえる。
そして、甲第1号証の3には、図書アイテムには、バーコードナンバーとは別にサイズコードが付与され、オペレーターが、サイズコードに基いて返却図書を寸法別のサイズグループに仕分けして棚載車に載置し、書庫からステーションに取り出された空きコンテナに、対応する寸法の返却図書を割り付けることが記載されており((1j)参照)、書庫から取り出す空きコンテナは図書の寸法に対応する寸法であればどれでもよいのであるから、図書を識別するバーコードナンバーに代えて、図書の寸法情報(サイズコード)を入力することにより、書庫から対応する寸法のコンテナを取り出すように構成することは当業者が容易に想到しうることである。

請求人は平成19年8月23日付け上申書において、甲1発明では同一のロケーションに保管される不変ロケーションアイテムと、ランダムなロケーションに保管されるランダムロケーションアイテムの両方があり、バーコードナンバーにより不変ロケーションアイテムとランダムロケーションアイテムを識別しているから、いずれのアイテムの容器を呼び出すかを判断する必要があり、容器の呼び出しのためにバーコードナンバーを取得することが不可欠である旨主張するが(同上申書4頁1行?5頁12行)、甲第1号証の3には、ランダムロケーションアイテムには「サイズコード」が、不変ロケーションアイテムには「通路コード」が付され、返却図書を返却する前に手動で事前に仕分けすることが記載されており((1e)C.c参照)、不変ロケーションアイテムとランダムロケーションアイテムは目視で区別できることは明らかであり、容器の呼び出しに、バーコードナンバーを取得することが不可欠であるとはいえない。

また、図書の寸法情報を入力することにより、空きコンテナを取り出すことによる効果について検討すると、請求人は、平成19年7月20日付け意見書において、返却の多い寸法図書の図書に対応するコンテナを事前に取り出しておくことが極めて容易となり、返却の作業能率が格段に向上する旨主張しているが(同意見書9頁6?14行)、このような効果は本件訂正明細書に何ら記載されていないし、甲第1号証の3に記載されているように、返却図書がステーションに届いてから図書の寸法に対応する容器を取り出し、同じ寸法の図書をまとめて返却する((1j)参照)方法に比べて、作業能率が格段に向上するとはいえない。
そして、図書の寸法情報を入力することにより、空きコンテナを取り出すとしても、図書をコンテナに割り当てる際には、改めて図書コードを入力することが必要であるから、入力作業が効率化されるともいえず、図書の寸法情報を入力することにより、空きコンテナを取り出すことにより格別の効果を奏するとは認められない。

[相違点4について]
甲第4号証の実施例には、図書を背表紙をコンテナ長手面に向けるように向けて立てて1列収容することが記載されている。
また、甲第1号証の3には、図書をコンテナに3列収容することが記載されており((1c)A.7及び9、(ハ)参照)、2列収容することはいずれにも記載されていないが、コンテナに図書を何列収容するかは、コンテナ内の図書の識別のしやすさ、運搬装置の大きさ等に応じて適宜決めうる程度のことであり、2列であれば両側から背表紙の題を容易に読むことができることも明らかであって、コンテナに背表紙をコンテナ長手面に向けるように2列に並べて収容させることは当業者が適宜設定しうることである。
また、図書館等の多量の図書を保管する場合に、無駄な空間を省き空間を有効利用しようとすることは周知の課題であり、従来から、例えば百科事典や図鑑等の大型図書用の幅、高さの大きな書棚と文庫本のような小さな図書用の幅、高さの小さな書棚を組み合わせて用いている。
そうすると、空間を有効利用しようとする周知の課題を解決するために、図書を背表紙をコンテナ長手面に向けるように収納するものにおいて、コンテナの高さ及び幅寸法を図書に対応する寸法とすることは、甲1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が適宜採用し得る設計的事項である。
したがって、本件訂正発明1の相違点4に係る構成は、甲4発明に甲1発明を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点5について]
甲1発明は、図書の寸法に応じてそれぞれ高さが異なる複数種類のコンテナを収容するための複数の棚領域を有するものである。また、甲第1号証の3では、コンテナの幅が24インチであるのに対し、書棚を28インチ幅の区画に仕切ることが記載され((1c)A.6.及び7.参照)、書棚の区画をコンテナの幅に対応させることも示されている。
そうすると、[相違点4について]で説示した、図書の高さだけでなく幅寸法を図書に対応する寸法とした複数種類のコンテナを使用するに際し、このようなコンテナ収容する書庫の棚を、それぞれが同一寸法のコンテナを専用に収容する区画幅と段の高さを有する複数の棚領域で構成することは、甲1発明を適用して当業者が容易に設計しうることである。

そして、本件訂正発明1の効果は、全体として甲4発明及び甲1発明から予測できるものである。
したがって、本件訂正発明1は、甲4発明及び甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5-2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用する発明であるから、本件訂正発明2と甲4発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致するとともに、上記相違点1ないし5に加えて、次の点で相違する。
相違点6:書庫が、本件訂正発明2が「書庫は複数の書棚を有し、各書棚それぞれが複数の棚領域に区分けされる」のに対し、甲4発明は書棚が複数あるか否か不明であり、かつ書棚が複数の棚領域に区分けされていない点。

相違点1ないし5については、本件訂正発明1についてで検討したとおりである。
[相違点6について]
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用する発明であるから、本件訂正発明2の複数の棚領域は、それぞれコンテナに対応して幅及び高さが異なるものであり複数の書棚のそれぞれに、幅及び高さが異なる棚領域が形成されたものである。
そして、多量の図書を収容するために書庫内に複数の書棚を配置することは、甲1発明に示されるように常套手段であり、このような複数の書棚を有する書庫に、高さ及び幅の異なる複数の棚領域を形成するにあたり、「各書棚それぞれが複数の棚領域に区分けされる」ように構成することは、当業者が適宜採用し得た設計的事項であるといえる。
また、本件訂正発明2の効果は、全体として甲4発明及び甲1発明から予測できるものである。
したがって、本件訂正発明2は、甲4発明及び甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5-3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は本件訂正発明1を引用する発明であるから、本件訂正発明3と甲4発明とを対比すると、両者は上記一致点で一致するとともに、上記相違点1ないし5に加えて、次の点で相違する。
相違点7:本件訂正発明3が「書庫は複数の書棚を有し、各書棚単位で複数の棚領域に区分けされる」のに対し、甲4発明はこのような限定のない点。

相違点1ないし5については、本件訂正発明1についてで検討したとおりである。
[相違点7について]
本件訂正発明3は本件訂正発明1を引用する発明であるから、本件訂正発明3の複数の棚領域は、それぞれコンテナに対応して、幅及び高さが異なるものであり、複数の書棚が、互いに幅及び高さが異なる棚領域が形成されたものである。
そして、書庫内に複数の書棚を配置することは、[相違点6について]で述べたように常套手段であり、このような複数の書棚を有する書庫に、高さ及び幅の異なる複数の棚領域を形成するにあたり、「各書棚単位で複数の棚領域に区分けされる」ように構成することも、当業者が適宜採用し得る設計的事項であるといえる。
また、本件訂正発明3の効果は、全体として甲4発明及び甲1発明から予測できるものである。
したがって、本件訂正発明3は、甲4発明及び甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本件訂正発明1ないし3は、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証及び甲第1号証の3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、これを認めることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-27 
結審通知日 2007-08-30 
審決日 2007-09-11 
出願番号 特願平6-57208
審決分類 P 1 41・ 121- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊波 猛  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮川 哲伸
石井 哲
登録日 1996-06-27 
登録番号 特許第2532820号(P2532820)
発明の名称 図書保管管理装置  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 哲  

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