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審決分類 |
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06Q 審判 査定不服 6項4号請求の範囲の記載形式不備 特許、登録しない。 G06Q 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q |
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管理番号 | 1166539 |
審判番号 | 不服2004-14000 |
総通号数 | 96 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-07-06 |
確定日 | 2007-10-26 |
事件の表示 | 特願2001-240030「インターネットを使ったタクシー利用および運行上における相互情報の提供及び相互利用システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月21日出願公開、特開2003- 50949〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成13年8月8日の出願であって、平成16年5月13日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年7月6日付で拒絶査定に対する審判請求がされたものである。 2.本願発明について 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。 「タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間、利用者同士間、業務車同士間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して利用者におけるサービスの比較選択のための情報、利用者間の共同利用情報、計画運行利用のための情報、以上等に関してインターネットを使い情報提供を行うに関しての技術。」 3.原審の拒絶の理由について 拒絶査定の理由となった平成16年1月26日付の拒絶理由は以下のとおりである。 [理由1] この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。 (中略) [理由2] この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (中略) [理由3] この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 (中略) [理由4] この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1 ・引用例1-4 ・備考 例えば、引用例1,2に記載されるように、タクシーの空き情報等をユーザに提示するために用いられるコンピュータシステムは周知である。 また、例えば、引用例3に記載されるように、相乗り(「共同利用」)のための情報を提示することや、引用例4に記載されるように、タクシー相互間でも通信可能な技術も周知である。 該システム等において、具体的に構成する際にインターネットを用いる構成とすることは当業者であれば容易になし得る事項である。 引 用 文 献 等 一 覧 1.道路運送事業におけるITSの活用方策に関する調査研究会」の報告書について,物流情報,財団法人物流技術センター,1997年 6月 1日,第44巻第6号,P.25-29 2.EC研究会,全図解 iモードビジネスの全て,株式会社あさ出版,2000年 8月 4日,P.175-178 3.特開2000-90397号公報 4.無線通信の業務利用の現状,mobaile media magazine,株式会社シーメディア,1999年 4月13日,第7巻第5号,P.25-29」 4.審判請求人の主張の概要 審判請求書における審判請求人の主張の概要は以下のとおりである。 (a) 「本願発明の特徴はインターネットのホームページを利用し、タクシーの利用者の登録情報(利用場所、行き先など)とタクシーの登録情報(会社名、車両番号、現在の待機場所等など)をWEBサーバー等のインターネット利用環境におけるコンピューター等に基礎データとして記録し、利用者間のタクシーの共同利用、タクシー利用における利用者へのタクシー情報、タクシーの運転者側への効率的運行のための利用者情報および他のタクシー車両情報などをインターネット通し、相互に利用提示することを目的として、先に記した基礎情報データをもとにコンピューターにてデータ処理しインターネットのホームページで提示利用可能とすることに関した発明である。」 (b) 「[理由1]について、本願記述のなかで 【名称】 及び 【請求項】 において、また 【発明の実施の形態】 にても「インターネットを使い…」、「インターネットのホームページで…」とあるようにインターネットの一般的な利用環境であるコンピューター及び通信機器を利用することは容易に推察できる。また 【発明の実施の形態】 にて「WEBサーバー上で検索・処理し…」とあるように、上記の基礎データを処理するにおいてコンピューターを動作させるプログラム等が存在することも容易に推察できることは当然である。これらはインターネット利用環境において一般的に普及した事実であり、これらを人為的な取り決め、人為的に行うとするのは一般的にきわめて不自然である。(以下略)」 (c) 「[理由2]について、上記の[理由1]についてと同様に本願記述中に「インターネットを使い…」、「インターネットのホームページで…」とあるようにインターネットの一般的な利用環境であるコンピューター及び通信機器を利用することは容易に推察できる。[理由2]の記述に本願記述の「インターネットを使い情報提供を行う…」の記述に対し「…人の行う方法、若しくは処理が記載されている。」と判断することは、インターネットの一般的な利用環境ではコンピューター及び通信機器を利用することの一般概念からは不自然な判断であると考える。また、インターネットに接続されたコンピューター等によって構成されソフトプログラム等で処理されることと推察することは当然のことと考える。(以下略)」 (d) 「[理由3]について、上記の[理由2]についてと同様に、本願記述からはインターネットを利用し、インターネットを利用できるものならば誰でも利用できるコンピューターを利用する環境を想定した記述てあることは容易に推察できると考える。また本願に記述中のWEBサーバーは、一般的な汎用コンピューターをもって構成し得ることはインターネット技術において明らかである。また一般的な汎用コンピューターにおいては、演算処理装置、記憶領域または装置、データ記録部分、入力部または機器、出力部または機器、これらを結ぶインターフェース等によって構成されることは周知である。以上のことは、システムの構成においては、本願においてインターネットを使う前提から、一般的な汎用コンピューターに代表される機器によって構成しえることは明らかであり、それをもって本願の機能をはたすことは一般的なコンピューター技術から明らかである。また本願の機能において如何に処理するかについては、いわばそのプログラムの処理過程にいつては、本願記述中に「…WEBサーバ上で検索・処理し…」「…WEBサーバー上に登録され…」とあるように、”検索・処理”は演算処理装置の基本機能のデータ間の比較(同一性、大小など)および加減乗除などの基本機能、”登録”は記録装置への記録に該当し記述されており、その記述をもって本願の機能が実現されることは明らかである。本願機能はプログラム処理過程において、演算処理装置や記録装置などのコンピューター基本機能を利用しそれを動作する単純な機能動作プログラムによって処理し得ることは周知のコンピューター技術をもってして本願の機能を実現しえることは容易に推察でき、その構成において汎用コンピューターを越えて、特異に設計された電子回路機器などが構成要素に必要ないのは明らかである。またデータ処理においても、記録されたデータを直接比較して利用者の要求する情報を返すことは実現できることは明らかであり、データを特異なプログラム処理によって特に加工しなければ処理できないなどの過程がないことは明らかでる。もし、特別な電子回路機器や特別プログラムによるなデータ処理を得てはじめて、利用者に情報を掲示が実現可能ならばそれは本願記述内に機器構成やプログラム処理過程を明記することは必要だと考えるが、本願ではそうではない。(以下略)」 (e) 「[理由4]において引用例1(P26)、2(P178)はその記述に、両とも同様にIT技術によって利用者に空き情報等のタクシーの情報を提示する旨が掲載されているが、この情報はタクシー側から提供され、コンピューター等に登録された情報を利用者の必要に応じて提供することが、この記述から推察される。このことは利用者がタクシー側によって登録された情報のみを提供するものであり、この記述からそれ以上を推察するものはない。コンピューター等に記録された情報の処理されるソフトプログラム処理過程からは利用者の要求によって、登録された直接のデータから要求に対比し検索し情報を得るものであり、利用者が得る情報は登録された情報そのもの以上に得るものではないことが分る。対し本願においては利用者およびタクシー側によって登録された情報そのもの提示のみならず、本願の 【0009】 計画的運行のための情報掲示、とそれに付随した 【図3】 中の各地域ごとの利用者状況掲示イメージ図や利用者予測掲示イメージ図で示すように、登録データから2次的に派生する、登録されたデータ量や登録された時間データなど直接的な登録データ以外にも取り扱うことが要求される。ソフトプログラムの処理過程からみると、要求とそれに一致する直接データの検索のみならず、地域ごとの利用者分布を掲示するには地域ごとのデータの分類やその数量のカウントする計量処理、過去データからどれほどの利用者が発生するかの予測掲示には過去データの登録時間ごとのデータ分類など、引用例から推察されるソフトプログラム処理過程の比較においても、直接的データ以外に取り扱うデータ性質などの相違からも本願と引用例とでは大きく異なる。このことは、単純にタクシーの情報を提供することとは異なり、相乗り等の共同利用およびタクシー利用の情報を同装置内で行うにおいて特異な情報であると考える。またこのことは共同利用するにおいて、例にその地域でタクシーは多いが利用者が少ないと共同利用が成り立たないなど、利用者が本発明をもって情報を得る際に、より有効な効果を得るに必要な条件であり、必要な情報である。共同利用という条件において引用例の単純な登録情報を掲示するという記述をもって、当業者であれば容易になし得て、同様の効果を得る事項でないことは容易に推察される。(以下略)」 5.当審の判断 5.1.特許法第36条第6項第2号(原査定の[理由2])について 特許法第2条によると、特許法上の発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定義されている。 また、特許要件に関する審査の対象となる発明は、特許請求の範囲の各請求項から把握される発明、すなわち、「請求項に係る発明」である。 この請求項に係る発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、請求項に係る発明が一定の目的を達成できる具体的なものでなければならない。 さらに、特許法第36条第6項第2号に「特許を受けようとする発明が明確であること」と規定されていることから、請求項に係る発明は、技術的思想の創作として、一定の目的を達成できる具体的なものを把握できる程度に、技術的に明確でなければならない。 また、請求項に係る発明は、「物」の発明、又は、「方法」の発明のいずれに該当するか、請求項の記載から把握される必要がある。 よって、以下に、前記本願発明が前記要件を満たすものであるかについて検討する。 (a) 請求項1の末尾が「技術」では本願発明が「物」の発明か「方法」の発明か明確でない。さらに、請求項1の記載全体を参酌しても、当該「技術」が、「物」の発明、「方法」の発明のいずれに該当するか、把握することができない。 よって、本願発明は明確でない。 (b) 請求項1には「物」の構成に関する記載がないから、「物」の発明でないことはあきらかであるので、以下、本願発明を「方法」の発明と仮定して検討する。 本願発明は「インターネットを使い情報提供を行うに関しての技術」であるところ、本願発明において、「情報提供を行う」主体が何であるか明示されていない。このため、技術常識を勘案すると、本願発明は、行為主体が人間である場合、すなわち、人間が、「相互情報」を利用してインターネットを使い「利用者におけるサービスの比較選択のための情報」等の情報に関して情報提供を行う場合、及び、行為主体がコンピュータである場合、すなわち、コンピュータが「相互情報」を利用して情報処理を行い、インターネットを使い「利用者におけるサービスの比較選択のための情報」等の情報に関して情報提供を行う場合の両者を含むものと解するのが相当である。そして、両者はそれぞれ技術的、特に情報処理技術の観点からは、異なる概念を形成するものと認める。 よって、本願発明は、異なる概念を一の請求項に含んでいるために、本願発明を明確に把握することができない。 (c) 本願発明は、どのような情報を利用し、さらに、どのような情報をインターネットを使い情報提供するかについて、その概要は記載されていると認める。 しかしながら、「タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間、利用者同士間、業務車同士間での相互情報」を、「利用して」、「利用者におけるサービスの比較選択のための情報、利用者間の共同利用情報、計画運行利用のための情報、以上等」を提供するに当たり、どのような技術を用いているものであるか、請求項1の記載からは不明であり、具体的なものを把握できない。 特に、前記(b)で検討した、行為主体がコンピュータであるとした場合、請求項の記載から、技術的思想の創作として、一定の目的を達成できる具体的なものを把握するためには、「相互情報」をどのように「利用し」て情報処理を行い、「利用者におけるサービスの比較選択のための情報、利用者間の共同利用情報、計画運行利用のための情報」等の情報を得るものであるのか、記載がなければならないところ、請求項1には、そのような情報処理について全く記載がないため、出願時の技術常識を参酌しても、技術的思想の創作として、一定の目的を達成できる具体的なものを把握することができない。 よって、本願発明は、技術的思想の創作として、一定の目的を達成できる具体的なものを把握できる程度に、技術的に明確とはいえない。 5.2.特許法第29条第1項柱書き(原査定の[理由1])について 特許法第29条第1項柱書きには「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と規定されているところ、特許法上の発明は、同法第2条において、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定義されている。 さらに、「請求項に係る発明が、自然法則以外の法則(例えば、経済法則)、人為的な取決め(例えば、ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動に当たるとき、あるいはこれらのみを利用しているとき(例えば、ビジネスを行う方法それ自体)は、その発明は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない。」(特許・実用新案審査基準 第II部 第1章 産業上利用することができる発明)とされている。 また、コンピュータソフトウェア関連発明においては、「ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」場合、当該ソフトウェアは「自然法則を利用した技術的思想の創作」である。」(特許・実用新案審査基準 第VII部 特定技術分野の審査基準 第1章 コンピュータ・ソフトウェア関連発明)とされている。 以上を踏まえ、本願発明が、この特許法上の「発明」に該当するか、以下に検討する。 5.1.(b)で検討したとおり、本願発明は、行為主体が、人間である場合、及び、コンピュータである場合の両者を含むものである。 ここで、前者の場合、本願発明は、人間がコンピュータやインターネットを単に道具として用いて、情報提供をするものと解されるから、情報提供を行う際の人為的取決めを規定したものといえる。 してみれば、本願発明は人為的な取決めそのものであり、自然法則を利用したものとはいえず、特許法上の「発明」に該当しない。 したがって、本願発明は、特許法第29条第1項柱書きの要件を満たさない。 なお、請求人は、審判請求書において、本願発明の特徴は、「基礎データをもとにコンピュータにてデータ処理しインターネットのホームページで提示利用可能にすることに関した発明」(4.の摘記事項(a))であって、人為的な取決めではない旨(4.の摘記事項(b))主張している。しかしながら、前記検討したとおり、請求項に係る発明は、その請求項の記載に基づき把握されるものであるところ、請求項1には情報提供を行う主体は何ら記載されていないのであるから、本願発明は、「情報提供を行う」主体が人間であるものを含むものである。してみれば、前記検討した通りであるから、請求人の前記主張は、請求項の記載に基づかないものと言わざるを得ない。 さらに、仮に、本願発明における行為主体がコンピュータであり、本願発明がコンピュータソフトウェア関連発明であるとしても、請求項1には、単に「インターネットを使い」との記載があるのみで、「情報提供を行う」ための具体的な情報処理は全く開示されておらず、ハードウェア資源についても具体的な記載が全くないことから、本願発明は、「ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」とは到底言うことができない。 よって、仮に、本願発明における行為主体がコンピュータであると解した場合であっても、本願発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」には該当せず、特許法上の発明に該当しない。 5.3.特許法第36条第4項(原査定の[理由3])について 特許法第36条第4項には「発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」と規定されている。この規定による要件を一般に、「実施可能要件」という。 さらに、この実施可能要件違反の例として、「発明の詳細な説明の記載において、請求項に係る発明の機能を実現するハードウェアあるいはソフトウェアが機能ブロック図又は概略フローチャートで説明されており、その機能ブロック図又はフローチャートによる説明だけでは、どのようにハードウェアあるいはソフトウェアが構成されているのか不明確である結果、請求項に係る発明が実施できない場合。」(特許・実用新案審査基準 第VII部 特定技術分野の審査基準 第1章 コンピュータ・ソフトウェア関連発明)があるとされている。 以上の事項を前提として、本願発明について検討する。 本願発明は、 「タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間、利用者同士間、業務車同士間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して」 「利用者におけるサービスの比較選択のための情報」 「利用者間の共同利用情報」 「計画運行利用のための情報」 「以上等に関してインターネットを使い情報提供を行うに関しての技術。」 と、分節して考えることができ、さらに、これを場合分けして考えた場合、 (a)タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間、利用者同士間、業務車同士間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して「利用者におけるサービスの比較選択のための情報」に関してインターネットを使い情報提供を行うに関しての技術。 (b)タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間、利用者同士間、業務車同士間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して「利用者間の共同利用情報」に関してインターネットを使い情報提供を行うに関しての技術。 (c)タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間、利用者同士間、業務車同士間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して「計画運行利用のための情報」に関してインターネットを使い情報提供を行うに関しての技術。 の3つの場合があることが理解される。 ここで、(a)に関しては段落【0006】,【0007】に、(b)に関しては段落【0006】,【0008】に、(c)に関しては段落【0006】,【0009】に、それぞれ対応する記載が認められる。 まず、(a)について検討する。Webサーバー上にデータを登録し、前記登録されたデータをウェブブラウザ等を介して検索・掲示することは、周知技術であることを前提に、段落【0006】,【0007】を検討すると、当業者が前記(a)を実施するためには、データ構造の概要、データの登録手順において用いられる具体的技術(ウェブブラウザから、どのようにデータを取得し、サーバ側で、どのような形式で登録するか等)、検索において用いられる具体的技術(検索エンジン又は検索アルゴリズムの概要等)に関する情報が必要である。しかしながら、そのような前記(a)を実施するのに必要な情報は、前記段落には記載されていない。特に、段落【0006】では、「インターネットのホームページ上での業務車の登録」の後に、「インターネットのホームページ上での業務車の運行地域での配車待機の申出」を行うものと推察されるが、その場合、どのように、登録された業務車のデータと、配車待機の申出がされた業務車のデータを紐付け等の管理を行うものであるか、前記周知技術及び技術常識を勘案しても、全く不明である。 よって、段落【0006】,【0007】の記載は、本願発明の(a)の場合を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載したものとは言えない。 次に(b)について、検討する。段落【0008】で引用する図2において、「HPでの成約登録」、及び、「HPでの成約確認」等の処理が記載されているが、このような処理を行うためには、前記周知技術及びその外の技術常識を適用するだけでは足りず、何らかの特別な情報処理が必要であると認められる。しかしながら、それをどのように行うかは、発明の詳細な説明及び図面には記載も示唆もない。 よって、段落【0006】,【0008】の記載は、本願発明の(b)の場合を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載したものとは言えない。 次に(c)について、検討する。段落【0009】に「また過去の利用データからの利用数の実績から利用予測がWEBサーバー上で処理され掲示される。」との記載があるが、具体的な利用予測技術については、段落【0009】及び同段落中で引用する図3には記載されておらず、また、タクシー利用者の利用予測に関する技術が、特に発明の詳細な説明に記載するまでもなく、当業者にとって自明であるとの証拠も発見しない。 よって、段落【0006】,【0009】の記載は、本願発明の(c)の場合を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載したものとは言えない。 また、発明の詳細な説明のほかの部分も、本願発明の(a)-(c)の場合を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 以上のことから、発明の詳細な説明の記載は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載したものとは言えない。 5.4.特許法第29条第2項(原査定の[理由4])について 5.2.で検討したとおり、本願発明は、特許法上の発明に該当しないが、仮に特許法上の発明であると仮定した場合、以下の事項を指摘することができる。 また、5.1.で検討したとおり、請求項1の記載は明確でないため、必ずしも本願発明は明確に把握できるものではないが、少なくとも、本願発明に対し、以下の事項は指摘することができる。 (1)引用例 [引用例1] 原審の拒絶の理由で引用された、「道路運送事業におけるITSの活用方策に関する調査研究会」の報告書について,物流情報,財団法人物流技術センター,1997年6月1日,第44巻第6号,pp.25-29には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (a) 「1.調査の目的 近年、高度情報通信技術等を用いて、人と道路と車両とを情報でネットワーク化することにより一体のシステムとして構築する高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)への取組みが積極的に進められている。ITSとは、ナビゲーションシステムの高度化、安全運転の支援、公共交通の支援、商用車の効率化等により、交通事故、渋滞等の自動車交通に係る諸問題の解決を目指すものであり、欧米においては、自動車交通政策上の中心的なプロジェクトとして積極的な取組みがなされている。我が国においても、平成7年2月に、高度情報通信社会推進本部が策定した「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」の中でITSの推進が盛り込まれており、平成8年7月には、「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」が策定され、ITSが目標とする機能、開発・展開に関わる基本的な考え方が今後20年間の長期ビジョンとして取りまとめられたところである。 このうち、バス、タクシー及びトラックの道路運送事業においては、ITSの導入により、運行の円滑化、輸送の効率化、利用者への情報提供の充実化、運行管理の高度化等を実現することが期待されている。 このため、運輸省では、平成8年度において、川嶋弘尚慶応義塾大学教授を委員長とする標記研究会を開催し、道路運送事業におけるITSの活用方策について調査研究を行ったものである。」(第25ページ左欄第1行-同ページ右欄第2行) (b) 「(2)タクシー ・今後タクシーサービスが多様化する中で、サービスを利用者が合理的に選択できる手段が必要である。このような手段の一例として、家庭のパソコンや携帯情報端末のディスプレイ上に、複数の事業者の空車タクシー車両が表示され、利用者がその中からニーズに合致したものを選択し予約するといった新たなタクシー利用方法など、新たな情報通信技術を活用したタクシーサービスを念頭に置きながら、利用者への情報提供方法について検討していく必要がある。 ・また、タクシーサービスの多様化の中で、事業者は、配車の迅速化、運行管理の効率化等によりタクシーサービスのより一層の向上が求められる。今後は、タクシー事業者においても、新たな情報通信技術を活用した利用者サービスも視野に入れながら、配車業務や運行管理のあり方、利用者サービス等の新しいシステムを検討していく必要があると考えられる。」(第25ページ右欄第28行-第26ページ左欄第20行) 摘記事項(a)より、ITSはネットワークを用いた情報通信システムであることが理解されるところ、摘記事項(b)の「家庭のパソコンや携帯情報端末のディスプレイ上に、複数の事業者の空車タクシー車両が表示され、利用者がその中からニーズに合致したものを選択し予約するといった新たなタクシー利用方法など、新たな情報通信技術を活用したタクシーサービスを念頭に置きながら、利用者への情報提供方法について検討していく必要がある。」との記載及び第28ページの図より、引用例1には、「利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報」を各種情報端末にネットワークを介し提示することが記載されていると認める。さらに、第28ページの図では、タクシーを検索の上、比較し、選択し、予約することが記載されている。 してみれば、引用例1には、「タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して利用者におけるサービスの比較選択のための情報に関してネットワークを使い情報提供を行うに関しての技術」 の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されている。 [引用例2] 原審の拒絶の理由で引用された、特開2000-90397号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (c) 「【請求項1】 相乗り提供者によって入力された複数の相乗り情報を記憶する手段であって、この相乗り情報は少なくとも日時、行き先、連絡先及び経路または経由地の情報からなり、 相乗り希望者によって指示された日、行き先、経路または経由地の検索情報に基づいて、この記憶された複数の相乗り情報の中から所望の相乗り情報を検索して出力する手段と、 この検索結果に基づいて、相乗りの合意が成立した場合、この合意結果に応じた処理を行う手段とを備えたことを特徴とする乗り物相乗り装置。」 (d) 「【0046】また、本発明はインターネットシステムまたはコンピュータなどにおいて実施され得る。上記各図の回路の機能はソフトウエア(フローチャート)によって実施されても良いし、上記各図のフローチャートの機能はハードウェア(回路)によって実施されてもよい。各請求項記載の発明は、当該発明をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムを記憶した媒体、コンピュータプログラムの通信装置(方法)、乗り物相乗り装置(方法)としても実現可能である。」 以上より、引用例2には、「相乗り提供者、相乗り希望者間での情報を利用して、相乗りの情報をインターネットを使い提供する技術」(以下「引用例2記載技術」という。)が記載されている。 [引用例3] 原審の拒絶の理由で引用された、無線通信の業務利用の現状,mobaile media magazine,株式会社シーメディア,1999年 4月13日,第7巻第5号pp.25-29には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (e) 「2.関東自動車無線協会 (タクシー無線) (中略) C.MCA方式利用の集中基地方式(図3) 現在、様々な業種で利用されているが、タクシー専用のチャンネルを設けて、共同利用の基地局を中心に、各会社の指令局とタクシー、タクシー相互間で通信できる。首都圏では、業務用無線の周波数帯が満杯なので、新規参入の企業が採用している。電波の届くエリアは直径60km。 大都市圏は集中基地方式で恒常的な満杯状態にあるため、データ通信が可能でも現状は音声だけの利用に限定している。従って周波数に余裕のある地方部の方が、データ通信を使った配車業務の効率化やサービス向上が普及している。データ送信装置を装備したタクシーは、全国で約9万2,000台で、無線搭載車の43%を占める。これに使われているのが「AVM(車両位置等自動表示)システム」である。アナログ無線に対応するサインポストを使いデータを交換する。送受信の方法によって、次の5方式がある。 1)分散送信システム(図4) 設置されたサインポストから発信されるデータを、タクシーが通過時に受信、そのデータを定期的にタクシーから配車センターへ送信し、位置を確認するシステム。 2)分散受信システム タクシーから分散している受信所(都内では数力所)ヘデータを発信し、受信所は受信したデータを有線で配車センターへ送信し、位置を確認するシステム。 3) GPS測位システム GPSデータを定期的に配車センターへ送信し、位置を把握するシステム。 4)半自動システム タクシーの端末から現在地のボタンを押し、現所在地の地区番号を配車センターへ送信し、位置を把握。 5)IDシステム タクシーの動態(位置等)、識別(回送、空車、休憩等)信号等のデータをボタン操作により送信し、センタ-で把握。 今後、デジタル化によって、データ利用が進展するは確実だ。例えば配車の情報を、車両に設置したモニターに表示された文字で確認することで、音声での聞き間違い等のミスが防止できた等の効果が報告されている。しかし、乗務員が不慣れな場合等、配車位置を目標物まできめ細かく指示するには音声利用が適している。つまりすべての情報がデータに置き換わるのではなく、“適材適所”で両立するわけだ。すべてをデータに頼ると、乗務員の操作が複雑になって、安全運転の弊害にもなりかねない。」(第26ページ左欄第3行-同ページ右欄第29行) よって、引用例3には、「タクシー相互間で通信する技術」(以下「引用例3記載技術」という。)が記載されている。 (2)対比 そこで、本願発明と引用例1発明とを比較する。 引用例1発明の「タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して利用者におけるサービスの比較選択のための情報に関してネットワークを使い情報提供を行うに関しての技術。」との点と、本願発明の「タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間、利用者同士間、業務車同士間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して利用者におけるサービスの比較選択のための情報、利用者間の共同利用情報、計画運行利用のための情報、以上等に関してインターネットを使い情報提供を行うに関しての技術。」とでは、「タクシーを利用するにおいて利用者とタクシー業務車間での相互情報(利用者のニーズや発生状況などの利用状況およびタクシーの運行状況などの情報)を利用して利用者におけるサービスの比較選択のための情報に関してネットワークを使い情報提供を行うに関しての技術。」との点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 「タクシーを利用するにおいて」の「相互情報」として、本願発明では、「利用者とタクシー業務車間、利用者同士間、業務車同士間での相互情報」の3種類の情報を用いるのに対し、引用例1発明では、「利用者とタクシー業務車間」の情報のみを用いる点。 [相違点2] ネットワークを使い情報提供を行う際に、提供対象となる情報が、本願発明では、「利用者におけるサービスの比較選択のための情報、利用者間の共同利用情報、計画運行利用のための情報、以上等」であるのに対し、引用例1発明では、「利用者におけるサービスの比較選択のための情報」のみである点。 [相違点3] 本願発明では、「インターネットを使い情報提供を行う」のに対し、引用例1発明では、どのようなネットワークを使い情報提供を行うのか、記載されていない点。 (3)判断 前記相違点について検討する。 [相違点1及び2について] まず、引用例1の摘記事項(b)には、「今後は、タクシー事業者においても、新たな情報通信技術を活用した利用者サービスも視野に入れながら、配車業務や運行管理のあり方、利用者サービス等の新しいシステムを検討していく必要があると考えられる。」との記載があることから、引用例1発明には、タクシーの利用者サービスや、運行管理等に関して、第28ページの図に記載されたサービスにとどまらず、さらに機能を付加しえるものといえる。また、ITSの基本概念が、単にタクシーからの情報にとどまらず、道路情報や、ユーザから得られる情報など、各種情報を総合的に利用するものであることは、周知である。 ここで、引用例2には、「相乗り提供者、相乗り希望者間での情報を利用して、相乗りの情報をインターネットを使い提供する技術」(引用例2記載技術)が記載されており、引用例2には、引用例2記載技術をタクシーに適用することは明示されていないが、引用例2記載技術をタクシーに適用できることは、当業者にとって明らかである。また、相乗り提供者及び相乗り希望者は、共に「利用者」であり、「相乗り」は「共同利用」の一種である。 してみれば、引用例1発明において、さらに、「タクシーを利用するにおいて」の「相互情報」として、「利用者同士間」の相互情報を採用すること、及び、提供対象となる情報として、「利用者間の共同利用情報」を採用することは、格別の阻害要因もなく、当業者が容易に想到することができた事項である。 次に、引用例3には「タクシー相互間で通信する技術」(引用例3記載技術)が記載されていることから、引用例1発明において、さらに、「タクシーを利用するにおいて」の「相互情報」として、「業務車同士間」の相互情報を採用することは、格別の阻害要因もなく、当業者が容易に想到することができた事項である。 次に、引用例1の摘記事項(b)には「今後は、タクシー事業者においても、新たな情報通信技術を活用した利用者サービスも視野に入れながら、配車業務や運行管理のあり方、利用者サービス等の新しいシステムを検討していく必要がある」と記載されていることから、ITSにより得られた情報を基に、「計画運行利用のための情報」を提供することが示唆されているといえる。よって、引用例1発明において、提供対象となる情報として、「計画運行利用のための情報」を採用することは、格別の阻害要因もなく、当業者が容易に想到することができた事項である。 以上より、本願発明の相違点1及び2に係る事項は、いずれも、引用例1発明及び引用例2,3記載技術に基づき、当業者が容易に想到することができた事項である。 [相違点3について] 情報提供を行うためのネットワークとして、インターネットは周知であるから、本願発明の相違点3に係る事項は、引用例1発明及び前記周知技術に基づき、当業者が容易に想到することができた事項である。 以上の検討によれば、相違点1-3は、いずれも引用例1に記載された発明、引用例2,3に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できた事項である。 また、相違点1-3を全体としてみた場合でも、引用例1に記載された発明、引用例2,3に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたと判断せざるを得ない。 そして、本願発明の作用効果も、引用例1に記載された発明、引用例2,3に記載された技術及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 なお、請求項に係る発明の把握にあたっては、特段の事情のない限り、請求項の記載に基づいてされるべきであるところ、審判請求書における[理由]4に関する請求人の主張は、本願発明を発明の詳細な説明に記載のない事項にまで限定的に解釈した上で、各引用例との相違を主張するものであり、また、各引用例を組合せることの可否について何ら主張を行っていないことから、採用することができない。 6.むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第2号、同法第29条第1項柱書き、同法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 また、仮に、本願の請求項1に係る発明が、特許法第36条第6項第2号、同法第29条第1項柱書きの要件を満たしているとしても、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明、引用例2,3に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-07-17 |
結審通知日 | 2007-08-07 |
審決日 | 2007-08-20 |
出願番号 | 特願2001-240030(P2001-240030) |
審決分類 |
P
1
8・
538-
Z
(G06Q)
P 1 8・ 537- Z (G06Q) P 1 8・ 1- Z (G06Q) P 1 8・ 121- Z (G06Q) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 青柳 光代 |
特許庁審判長 |
赤穂 隆雄 |
特許庁審判官 |
岩間 直純 森次 顕 |
発明の名称 | インターネットを使ったタクシー利用および運行上における相互情報の提供及び相互利用システム |